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12・テンプレのアレは使えない

 畑はある程度開墾出来た、そもそも、ここは街が衰退した事で放棄された耕作地だったそうで、毎年夏には村の安全のためにとある程度草刈りを行っていたらしい。


 わざわざ草刈りなんてと思うだろうが、ここはカルヤラみたいな人里ではない。森を切り開いた草原にポツンと取り残されたような村があるだけだ。


 人が少ないこうしたところには獣が寄ってきやすい。畑や村に動物が来て食料を食い荒らされてはたまらない。キツネや鹿ならまだ追い払う術もあるが、オオカミやクマみたいなのがやってきたらどうしようもない。


 そう言う事を減らす意味でもひらけた土地を作るのは重要とのことだった。そして、草は刈り取って重ねておけば肥料にもなるという。腐葉土みたいなものだろうか?

 そうやって自然に還るのを抑えていたおかげで、こうして簡単に農地が増やせるのだからありがたい。


 元が農地であったから耕しやすいというのもあるだろう。ただ、困ったこともある。


 股鍬やトンガで深く掘れるようになったのだが、土塊も大きくなった。とにかく面積を広げるために後回しにしていたのだが、さすがに拳大の土塊がゴロゴロしているところで作物を育てる訳にはいかない。

 今更だが、この世界に魔法はない。どこかにはあるのかもしれないが、少なくともカルヤラには魔法使いはいない。だから、魔法で耕作チートなんて技は使えない。


 まあ、そんなことはわかってた。だからこそ山の民のところへ股鍬の制作依頼へと向かう事にしたわけだ。


 が、鍬だけでは足りなかった。今更言っても仕方がない。際さえあれば開墾出来て、すぐにでも種まきが出来ると思ったが、大きな間違いだった。


「この土塊はどうやって崩せばいい?」


 土塊がゴロゴロしている畑を前に、農民に尋ねてみた。


「これですね。これを曳いて歩けば細かくできます」


 総木製馬鍬だよ!


「これ?」


「はい、アーエスと言います。この歯で土塊を砕いて行きます」


 馬鍬、棒から歯が出てるやつな。千歯扱きに似ているが、使い方は違う。歯を地面に押し付けて引っ張るんだ。そうすると、あら不思議、引っ掻いたように土塊が細かくなっていくじゃないですか。いや、引っ掻いてるんだけどね。


「三人曳きのもあります」


 三列くらい歯が並んだやつね。いわゆる方形ハローだね。つうか、それって普通は馬に曳かせるんじゃないの?ポニーじゃ無理があるけどさ。


 テンプレ農業チートって言えば、第一段階は畜耕!

 しかし、その気配すらありゃしないんだよ、この村は。それは良い、来たその日に分かってたし。


 そもそも、いきなり村の人口が倍増しちゃったもんだから、住むところに困ってるくらいだ。

 今更言うのもなんだが、俺たちが今住んでるのは、廃墟の中でまともに残ってた建物を補強して使ってる。

 なんせ、とにかく畑を広げないと秋以降の食い物なかったからな。カルヤラとナンションナーの間には一応、交易船が行き交ってはいるが、昔みたいな頻度ではない。離島の商店よろしく、とにかく貯め込めるモノはため込んでおかないと、次の船がいつ来るかすら分からん。

 旧来の人数であれば、東の山の民との海上交易で食糧確保が出来ていたそうだが、急に倍増したからと言って、購入量を倍に出来るわけではない。

 この村、一応、漁師も居るから、動物性たんぱく質は問題はない。が、穀物は問題がある訳だ。目の前海だし、川も大きいから魚は豊富にいる。スローライフにピッタリだね!今更だが。


 ただ、それだけではやっていけないからこそ、こうして開拓してるわけだが、どこの運動部だよ、この抵抗しかない重労働は・・・


 何組かに別れて馬鍬を曳いた。二日くらいかけて何とか畑の土は細かくできた。これでピヤパを播くことが出来る。


 もう一つ大きな誤算があるんだ。王宮で資料を見ていた時には気が付かなかったが、ピヤパの実って、アマム、つまり米だか麦っぽい穀物に比べて、かなり粒が小さい。実物見て驚いたよ。

 俺の予定では、千歯扱き使ってヒャッハー脱穀というテンプレ農業チートを思い描いていたんだが、脆くも崩れ去った。

 そもそも、千歯扱き使うのって、叩いて簡単に実が落ちない穀物にはいいが、叩いて簡単に実が落ちるピヤパには無駄でしかないんだよな。穂を網に叩きつけたら実が落ちる。簡易な選別も兼ねて脱穀できてしまうから、千歯扱きの出番はゼロだった。



「さて、これをどう播けばいいんだ?」


 資料を読んで、栽培適期は把握している、しかし、栽培方法を知っている訳ではない。


「この棒で線を一直線に引いて、その窪みに撒いて行きます。撒いた後から足で土をかぶせながら軽く踏み固めて行けば出来上がりです」


 なるほど、馬鍬をかなり歯抜けにした道具を使って、まずは線を引く、等間隔に並んだ窪みに撒いて、土をかぶせて踏み固めていく。フムフム。いや、シャレではない。


 これ、工芸品を作る山の民に頼めば播種機が作れそうやね。まずは手押し、さすがにポニーに曳かせるのは酷だから、馬が入手できれば馬に曳かせる播種機なんかも作ればいいかもしれん。


 何だか、妄想だけは膨らむね!腰が痛い・・・


 俺が担当していた畑以外にも馬鍬掛けをやって、ピヤパを播いて。そんなことをしていたら十日があっという間に過ぎていた。そろそろ股鍬もってきてくれると思うんだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 備中で起こした土塊は 鍬を回転させて付け根の部分で叩いて砕くんだよ 猪もこの部分で頭を殴って倒すんだよ
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