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11・使ってみたがどうもしっくりこない

 持ち帰ったトンガを使ってみた。


 しかし何だろう、あまり掘れない。重いだけでイマイチ使えない。ただ、総鉄製なのでこれまでより負担は大きいが使いやすくなってはいる。


「こいつは刃が内に向きすぎてますね」


 指導してくれている人がそんな事を言ってきた。なるほど、やはり、この農具は山間地用らしい。

 あまり掘れはしないが、無いよりはましだった。


 数日そんなことをしていたら早くも山の民がやってきた。


「トンガはどうだ?」


 リーダー格のオッサンがそう聞いてきたので事情を説明してみた。


「そんな事だろうと思ったさ、いくつか試し打ちしたのを持ってきた、どれがいいか使ってみろ、持って帰ったトンガも打ち直してやる」


 そう言われて股鍬を数本差し出された。それは全て間隔や角度が違っていた。


 一本ずつ試してみる。


 一本目


「これは角度が内向きだな、刃が逃げる感じだ」


 二本目


「角度は良いが、間隔が狭すぎるな、これなら股にしなくていい」


 三本目


「重い、刺さらない・・・」


 四本目


「幅が広いが使い勝手は良いかもしれない」


 五本目

「うん、これこれ」


 六本目

「あ~、角度が・・・」


 という訳で、五本目だろう。他の人にも試してもらったが二、四、五のいずれかだった。


「どれにするか、僕の意見に関係なく、まず、皆の意見を聞こう」


 集まった農民や移住者に意見を聞くと、二、五が良いらしいという移住者と、四を推す農民に別れた。


「四なら幅があっていい、これくらいが振りごたえがある」


 という農民の声だった。


「いや、五の方が使いやすいし、二でも良いかもしれない。四は一度に大量の土を上げるのが大変」


 完全にこれまでの仕事の差が出ていた。


「そうか、二、四、五だな、女子供用に二を少しと農民用に四、僕ら用に五で良いだろう」


 皆の意見はもっともだった。規格品を売っている訳ではないので、注文すればそれを作ってくれる。そこですべての種類を一通り揃えることにした。山の民にとっても特に問題はないらしい。


「それで、トンガは・・・」


 そう言ってトンガを見て


「よし、この程度なら簡易の鍛冶場でどうにかなる、ちょっと待ってな」


 そう言って、持ってきた荷車から何やら下ろして作業をやっている。しばらくすると小型の鍛冶場の出来上がりだった。


 そして、簡易の鍛冶場を使って使用中だったトンガ十二本の角度を調整してくれた。


「使ってみろ」


 そういうので早速振ってみると、かなり使いやすくなっていた。


「これなら良い」


「そうか、使っている奴はそのまま使えばいい、使ってない奴は持って帰って、このミツバと交換してやる。その三本も角度は分かっているからそのまま使え、一と六も角度を揃えてやる」


 そう言って、未使用のトンガを回収していくという。さらに


「この間言っていた焼き石の件だが、どうやら焼いて使っているやつが居るそうだ、何でも、使える石とそうでないのがあるそうだから、アピオの植え付けの時にそいつも連れてくるから、石採り場を見せてやってくれ」


 なんと、コークス技術を考案している人がいたらしい。流石山の民、やることが違うな。


「ところで、この股鍬の色が変なのはなんだ?」


 四の鍬が少し変な色をしている、そして、少々軽かった。


「気づいたか、それは焼き石を焼いた石炭・・を使って取り出した鉄で作っている。普通の鉄より硬くてなかなか難しかったが、使いやすいだろう?どうやら、炭を使うよりも焼き石を焼いた方が高温にできるそうでな、青銅みたいに鉄に他のモノを混ぜることが出来るんだそうだ。混ぜ物次第じゃ、普通の鉄より硬くてしかも丈夫になるんだとよ。普通の鉄は硬くしたら脆さが出るんだがな」


 要するに合金鋼か。普通は炭素鋼しか作れていないはずだから、コークス使って何やら凄い事やってるのが居たんだな。しかし・・・


「それなら、なぜ郷でその凄い鉄が広まっていないんだ?」


「それだがな、うちの郷では焼き石は採れない。焼き石があるのは森の民との境界に近い所でな、そんなところでわざわざ鍛冶をやるバカは少ししか居ねぇ、炭を作るのにも連中と喧嘩になるんだ、矢じりを作ってやってるってぇのに、連中ときたら・・・」


「まあ、そんな訳でよ、そこで焼き石を使えねぇかとあれこれやってた奴が居たわけよ。少々変わりモンでな、ここで苦労せずに焼き石が採れると言ったら、使えるか見に来るというんだ」


 あまり関わり合いたくはないらしい様子だが、コークス作れる人がいるならそれも良いかもしれない。


「そうなのか、ここの焼き石が使えるなら、今度からは炭と共に持って行くようにしよう」


「それは、あいつ次第だ。今後の話は連れてきてからにする方がお互いのためだ」


 そう言って彼らは帰って行った。


 さて、打ち直してもらったトンガと、新たに加わった股鍬を使って畑を耕してみたが、うん、使いやすくなった。ただ、深く掘れるのでその分、土塊が大きくなってしまう。鍬を入れて掘り起こして大きな土塊を鍬の背や頭で崩しはするのだが、時間を取られるのでまずは耕すことに集中することにした。


 総金属製農具が十七本増えただけだが、それでも能率はかなり上がった。 すでに一部でピヤパを撒き始めている。十日もすれば彼らがやってくるだろう。

 すでに、木炭組は新たな木炭を焼き始めている。さあ、ナンションナーの石炭はコークスとして使えるのだろうか?



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