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102・冬が来たので今年も乾麺を作ることにした

 とうとう本格的な冬がやってきた。


 ナンションナーの冬と言えば乾麺作りだ。ここの乾麺は他と違う品質の物が出来、保存性も高い。ただし、それが作れるのは氷が昼も溶けないような真冬のみだ。


 そのため、そこに合わせて製粉作業を終わらせる。外の気温が氷点下で推移するためだろう。倉庫に保管している粉類が変質することもないし、虫が湧いたりネズミが寄り付くという事も殆ど無い。


 ただ、生産量が途方もなく増加した事で人手が足りないのと燃料が足りなくなった。


 人手が足りないのは昨年から懸案だったので製麺機を製作することは出来ているらしい。ルヤンペだけに頼らずとも、山の民やナンガデッキョンナーの鍛冶師たちも色々なモノが作れるようになっている。製麺機はその最たる例だろう。


 だが、大きな問題があった。


 現段階では蒸気機関やモーターの様なものが存在しないので、動力と言えば水車という事になるが、真冬に水車は使えない。用水路自体が凍り付いているし、仮に水が流れたとしても水車は冷気で凍って使えなくなることだろう。

 残念ながら、皆の努力は無駄になってしまった。


 が、それを無駄にしないように考えた末、ポニーを使う事にした。


 まずは、水車同様に籠を作って中へポニーを入れて歩かせようとしたのだが、そんなものがうまく行くはずもなかった。

 ポニーだけを籠に入れても、ポニーの気分次第になるので、機械を動かす動力にはならない。では、人間が一緒に入ればどうかとなったが、馬では無くポニーだ。まさか、乗る訳にもいかず、子供に任せるような仕事でもないということで、ボツになった。


 という事で、今度はサトウキビ搾り機のように機械の周囲をポニーが回る様にしてはどうかと考えたが、そもそも、そうすると、機械の構造から考え直さないといけないし、屋内に機械を置く事が出来ない。衛生面ウンヌンなどという前世な価値観などここにはないが、そもそも、製麺所という小さな小屋にポニーが回る半径数メートルという空間を作る余地が存在しなかった。


 結果、水力や畜力を用いた機械製麺は冬場は諦めるしかない。


 外で水分を含んだ生地を捏ねたり延ばしたり出来るのであれば苦労はしていない。そんな事をすれば途中で堅くなって使い物にならないから、火を焚いて室温をあげた製麺所で麺に仕上げているんだ。


 そんなわけで、やはりと言うか、呆れるケッコナにため息をつかれながら、試作が失敗してスゴスゴと片付けをする羽目になった。


「人が手で回せる程度の小さな延ばし機とネジに沿って動く麺切り機程度で我慢するしかないな」


 一部、現実的な人たちが当初提案していた穏当な機械を採用するのは仕方のない事だ。ナンションナーで、まるで前世の様な大型機械が動く製麺工場を夢見たが、やはり無理だったらしい。


 結局、手で延ばす事からパスタを作るような手回しローラーに替わり、手打ちうどんを切るようなまな板にラセン棒に沿って動く麺切り包丁が付いた麺切り台が小屋に並ぶことになった。ホントはもっとこう、より自動化した姿を夢見たんだが・・・・・・


 こうして製麺作業の拡大で石炭(いしすみ)の需要はうなぎのぼりになっている。薪や炭では足りないし、辺境から泥炭をもって来るよりも、すぐそこに石炭があるんだから使わない手はない。


 だが、あまりに量が多くなったのでその輸送に手間取るようになったのは誤算だった。


 当初は牛による輸送を考えていたのだが、輸送量から考えて無理があった。冬場は遊んでいるポニー車という案は誰も提案しないし考えもしなかった。


 雪が積もる縁辺の地で誰が冬にポニー車を使おうと思う?雪が深いわけではないが、雪かきをしてもまともに走れる路面ではない。なんせ、圧雪して路面はガタガタ、轍や足跡に車輪をとられてまともに走れたもんじゃないのは誰もが知っている。

 そこで、ソリという話になった。なんとも面白そうなのでそれに賛成したかったのだが、山の民の鍛冶師が違う提案をして来た。


「鉱山の車を使えばいいだろう。アレなら小馬でも人でも荷を運んでいけるぞ」


 そう誇らしげに言う。


 鉱山の車というのはいわば馬車鉄道の事だ。当初は採掘場内での荷運びに提案したのだが、あれよあれよと鍛冶師や鉱夫達が改良してしまい、あっという間に手押しトロッコが完成してしまった。

 そして、この夏にはとうとう線路をナンガデッキョンナーまで延長している。

 すでに昨年の冬に稼働していたもんだから冬への対策も出来ており、今も稼働中だ。


「だが、急に敷くのは無理がないか?」


 俺がそう言ったのだが、鍛冶師や鉱夫はニヤリと笑った。


「冬のうちには提案するつもりだったが、すでに測量は済ませてある。人手さえあれば資材もあるからここまで線路を敷くのは問題ない。小馬に曳かせるのもだ」


 そんなこんなでナンガデッキョンナーや鉱山関係の手隙の者で線路をナンションナーまで敷く事を了承した。


 さすがに蒸気機関はないが、馬車鉄道ならぬポニー車鉄道が走ることになる。俺自身は鉱山用にとしか考えて無かったが、すでに人員輸送も考えているらしく、俺の手を離れて縁辺の近代化が歩み出している事に驚いた。


 だが、俺は知らなかった。その鉄道はあくまで冬の間だけしか使えないことを。


 

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