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10・何かが違う

 宴もたけなわ、オッサンが酒を飲んでいい気分になっているところを狙って疑問に思っていたことをぶつけてみた。


「山の民は髭を生やしたり、髪を伸ばしたりしないのか?」


 ほろ酔いのオッサンはニコニコ答えてくれた。


「ハァ?髭を生やす?草原族じゃ髭の立派さで地位が決まるのかもしれんが、ウデの良しあしが至上の俺たちには邪魔でしかない。鍛冶や焼き物に髭が必要か?邪魔で仕方ねぇ」


 そうキッパリ言い切った。


「髪を伸ばすのだってそうだ、仕事の邪魔になるから伸ばしたりしねぇよ。戦士の中には西の国の戦士を真似て髪を伸ばして馬の尻尾みたいに結ってるやつもいるが、ああいうのは例外だ」


 そう言って全否定である。


 そうか、武士みたいな髪型ってのはいるのか。そういえば、門番も短いポニテ風だったな。男の髪型なんか意識してなかったが、そう言えばそうだった。

 

 そんな、異世界なのに、ドワーフっぽいのに、ファンタジーのドワーフと違う部分がある山の民についていくつかの話を聞けた。

 物語でよくある様に、山の民にも男女の別はあまりないらしい。鍛冶も男女関係なくやるし、焼き物や炭焼きもやってるそうだ。戦士にも居るんだとか。オッサンの娘が一人戦士をやってるそうだ。オッサンみたいなガタイと顔なんだろうか?それでポニテとか勘弁してほしいな。


「そう言やあ、お前さん、領主なんだろう?剣はいらねぇのか?それとも槍か?何だったら作ってやるぞ。髪飾りはさすがに無理だがな。ワッハハハハ」


 そう言って笑いだした。


「僕は男なので。それに、剣や槍はナンションナーでは必要ない。その分、鍬を増やしてくれるとありがたい」


「わかったわかった」


 オッサンは未だ愉快そうにしている。


 


 翌日、そのまま帰るのではなく、まず、アピオを見せてもらうことにした。栽培場所や栽培方法も気になる。


 そうして連れていかれたのは日当たりの良い斜面だった。ここで転んだら崖下まで止まりそうにないほどの傾斜がある。


「この畑でアピオを育てているのか」


 案内役は昨日のオッサン、もとい族長ではなく、農業担当の人だった。身長130cmに届かない程度の小柄な女性。見た目は大人びた小学生って感じかな。ただ、可愛いよりも綺麗がふさわしい。なにせ、年齢は間違いなく成人だしな。


「そうです。下に流れた土をサラエで上へかき上げる様に移動させて土壌を保ち、薄くなった部分はトンガで地盤を砕いて新たな土壌を作っていきます」


 ちょうど作業中だという畑を案内してもらいながら説明を受ける。俺たちから見たら子供みたいな身長しかないが、体格は良い人たちがせっせと働いている。説明している女性も顔は綺麗なんだが、格闘系のスポーツ選手を思わせる体つき。正直、簡単に投げ飛ばされそうで内心びくついている。

 そんな人々がサラエで土を上へと移動させたり、トンガを振り上げて耕している。俺たちがやっている開墾っておままごとレベルじゃないのか?と心配になる重労働が行われているんだが、俺たちは平地でやっているから苦労が少ないという事を改めて認識できた。そもそも、こんな斜面でだったら畑を作ろうとも思わなかったろうけど。



「これが、アピオです」


 そう言って見せられたのは、根の一部が膨れて小粒な芋になっているだけだった。俺の知る芋とは違った。芋というよりレンコンに見える。芋というとデコボコした表面を思い浮かべるのだが、こいつはツルっとしている。しかし、中に空洞が無いことは昨日食べたので知っている。なんだか不思議な感覚だ。


「これを植えて適度に水やりすると、芽が出てきます。ツルの伸びが旺盛なので添え木をしてツルをどんどん伸ばしてやると根も成長するのでたくさんアピオが収穫出来ます」


 そう言って栽培方法も説明してくれる。少量分けてもらったので村へ帰って植えてみようと思う。味も悪くなかったし、肥料もたいして必要ないらしいので育てるのに苦労は少なそうだ。しかも、連作障害もないらしい。輪作がどうしたとか二圃や三圃式とかいうめんどくさい事をやる必要が無いのは助かる。


「ただし、生命力が強いので、アピオの後に他の作物を植える場合は気を付けてください。アピオが生えてきて作物を覆いつくしてしまう事があります」


 とんだ生命力だ。そりゃあ、こんな斜面でも育つわけだ。栽培には気を付けよう。連作や輪作をやろうという時にアピオが生えて邪魔をされたんじゃ困る。


 他に食事に出ていた野菜や豆類も見せてもらったが、一部はナンションナーでは育てられていないものだった。カルヤラよりも気候が似通ったここの野菜や豆なら畑で育つかもしれない。農業指導に来てもらうか、村からこちらへ研修に出しても良いかもしれない。


「そうですね。栽培法を指導するというなら、積み荷を運ぶ荷車と共に人を向かわせて、教えて回ることは出来るでしょう。常駐となると、余裕が無いので出来ても一人か二人といったところでしょう」


 指導に山を下りる事は可能だそうだが、村からの研修はやんわり断られた。やはり、この斜面での労働は俺たち平地の人間では無理と判断されたらしい。

 

 こうして農場見学を終えた俺たちは、族長のオッサンに挨拶と発注した股鍬やツルハシの納期について調整したのち、帰路につくこととなった。



「注文の鍬とトンガみたいなやつはアピオの植え付け頃に持って行く。それまではこのトンガで頑張ってくれ」


 そう言って二十本ていどのトンガをポニー車へ積んで帰路についた。 

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