1・負け組を終えて、更なる負け組へ
思い付いたので書いてみただけ、完結?何それ、おいしいの?
そんな見切り発車ですよ、ええ。
目が覚めると知らない天井だった。
正直、そんなありきたりな言葉しか浮かんでこない。
ここはどこ?
どうやら寝かされている事は分かったけれど、周りに居るのはよく分からない撮影のエキストラか何かだろうか。何やらゴテゴテした服装のデップリしたオッサンや髭が異常に立派なオッサンらがこちらを覗き込んでいる。
「おお!王子、目が覚めましたか!」
脂ぎった顔をしたオッサンがデカい声でそう言った。王子って誰?
何が何やら理解できないが、日本語ではないその言葉がなぜだか理解できてしまった。
「殿下がお目覚めになられたぞ!」
外へ駆け出して行ったらしい人物が廊下でそんな事を叫んでいる。
「お加減はいかがですか?」
いかにも医者といった感じのオッサンがそう聞いて来るが上手く言葉が出ない。どうやらのどがカラカラらしい。
「誰か、水を」
医者がそのことに気が付いて水を持ってこさせる。
「どうぞ」
俺は医者に起こされ、その水を飲んだらようやく言葉が出るようになった。
「ありがとう」
当たり障りなくそうとだけ答えて周囲を見回してみる。
本当にどこだろうか?
「まだ頭を打った影響が出ているのかもしれません。しばらくは安静になさってください」
医者はそういうと人垣の中へと下がった。俺の周囲には脂ぎったオッサンや髭面、どう見ても癖の悪そうな細身の怪しい男などが取り囲んでいる。
「では、王子、もうしばらくお休みください」
脂ぎったオッサンがそう言って皆へ退出を促すと、ぞろぞろとそれに続いて退出していく。
ドアが閉められたことを確認して、自分の体を見てみるのだが、どうにも記憶が一致しない。
俺は日本人で、もうすぐ40になるはずなんだが、その手はどう見ても若かった。鏡が無いので顔は分からないが、間違いないだろう。この体は別人だ。
そうして記憶を手繰ろうとすると、日本人ではない記憶がどんどん溢れてきた。
どうやらカルラヤ王国の第三王子らしい。一瞬、勝ち組かと思ったが、記憶によると王位継承をめぐって内戦が勃発、第二王子派と争っているところらしい。そして、つい先日、数の上では優勢である第三王子派を第二王子派が奇襲し、その混乱のさなかに俺は流れ弾ならぬ流れ石によって気を失い、今に至るらしい。
さて、日本人としての記憶はと言うと、どうやらそれも同時に保持されてはいるらしい。日本人としての最後の記憶は、珍しく大雪が降った日の帰宅途中で途切れている。何が起きたのかはよくわからない。
日本に後悔はたくさん残してきた気はするが、出世コースなどというものにはそもそも縁がなく、そういえば学生時代からずっと負け組だったような気がする。せめてもの慰めにとよく異世界転生ものラノベを読んでいた気がするが、自分が転生したらしい今の状況は、全くうれしくない。神輿に担ぎ上げられた当の本人が倒れてどこかに担ぎ込まれたとあっては、きっと軍勢も撤退しているとみて良いだろう。転生ものだと転生者は勝ち組に居るはずだが、どうやら俺は間抜けな王子の立ち位置に居るらしい。それが分かってより一層、前世、日本人以上の負け組になっている事が実感できる。
王制時代の権力争いの負け組って、待っているのは死じゃないのか?戦死ならまだいい、下手に最後まで生き残った方が怖いよなぁ~
しかし、はいそうですかと死にたくはないし、これからどうすりゃいいの?