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0006 集団転移

「皆さーン? ナゼ、怯えているのデスカー? これはタダのゲェェェム、なのデスヨォー☆」


「──ただのゲームだと?」


 しまった……俺の悪い癖がこんなときに。


 思ったことを何でもすぐ反射的に口に出してしまう癖が、こんなときにまで出てくるなんて。


 くそっ、なんで治らないんだよコレ。


 心療内科の先生に言われた通り、できるだけ心の中で言葉を垂れ流すように訓練してたら自然と症状は収まるようになってくるんじゃなかったのかよ。


 いい加減収まってくれよ、この症状。


 なんの為にわざわざ心の声をこんなに気持ち悪いくらい脳内で垂れ流していると思っているんだ。


 こういう大事なときに症状が出ないようにするためだろうが……。


 ……あぁ最悪だ。なにやってんだよ俺のバカ……。


「おヤァ? アナタは……ウフフフッ。これはこれは、ウフフフフフッ」


 俺の口に溜まっていた生唾が、これでもかと喉の奥へと流れるように飲み込まれていく。


 頭は冴えていても身体はこれでもかとガチガチに緊張していた──確定されたであろう死という名の”悲惨な数秒先の未来”により……。


「そうですヨォ? これはタダのゲームデス……。「前にデスが付くネェェェッ!!」」


 声のトーンが、機械音のような音声が一気に高く上がった。


 明らかに俺に向けて、俺を威圧するかのような声音だ。


 その声を聞いた瞬間、全身から凄まじい鳥肌がビクッと立つような感覚に襲われるほどの。


 本能が警告している……やはり……数秒先オレは……。


「ヤレヤレー。しょうがないデスネェェ。どうやラ、そのキオクもない者もいるようなのデ。アラタめテ、ご説明しましょうカ」


 も、戻った……声のトーンが戻った。


 お、俺の杞憂だったのか。


 話に割り込んだから、さっきの人たちみたいに俺も殺されるのかと思っていたが……ど、どうやら助かったようだ。


「いいですカァ? 一回しか言いませんからネェ? よォォク、その耳の穴をかっぽじってワタシの言葉を聞いてクダさいヨォー」


 不気味な機械声だ。


 まるで、サバイバルホラー物の映画やアニメに出てきそうな音声である。


 夢じゃないんだよな……これ。

 

「アァーーーアァーーー。コホン……イマァァァからァァァ! アナタ達にハァァァ! デェェェス……ゲエエエエエエムをしてもらいマアアアアアアスッ!!」


 これでもかと大きな声で叫ぶ機械音。


 まるで、これから楽しい事が始まるかのような、そんな盛り上げ声で。


 おっさんの言う通り、本当にこれからデスゲームが始まるようだ……。


 ははっ……現実逃避していたのは、どうやら俺だったらしい。


 もう、わけわからんな……。


「イイデスカァァァ!? ココニィィィィ!」


 デスゲーム……直接手を下す殺し合い系だろうか。


「ァァァァァァァァアアアアアアナタたち100の民が呼ばれたのワァァァァァァッ!!」


 それとも直接手は下さず、先に進むための限られた椅子を取れなかった者がどんどん脱落していく、生き残った者が間接的に人を殺していく方のデスゲームだろうか……。


「アナタたちノォォォォォォッ!」


 はたまた、誰一人欠けることなくみんなでクリアできるような軽いデスゲームか。


「それぞれノォォォォォォッ!」


 最後のだったらいいんだが……それはないか。


 あんな映像や殺害をみせられてはな……。


「ンンンンンンンンンッッ!」


 そうだな……。


 覚悟を決めるか……覚悟を。


 わけのわからない状況だしな……もう、なんかどうでもよくなってきた。


「ッセェェェェェェカイを救う為ナノデェェェェェスゥゥゥゥゥゥ!!」


 は……?


 今……なんつった?


 世界を……救う為?


「アナタたちハァァァッ! ジブンの住むセカイの代表者なのデース! 選ばれし者たちなのデース! 誇らしいデスヨネッ? さぁヨロコんでくだサイッ! さぁさぁ一緒にワラいましょウゥゥゥー! アハハハハハハッ! アハハハハハハッ! アッハハハハハハッ!」


 奇妙な笑い声が空間一帯に響く。


 が、その声に誰一人続いて笑ってはいない。


 地上にいる俺たちの周りには、相変わらず重く冷たい無音(くうき)がただただ流れているだけだった。


「アレレェェ? ダーレも笑いませんネェ?」


 代表者だと。


 それって……つまり俺は地球の代表者とでも言いたいのか。


 なんだよそれ。


 俺には優れた能力なんて何一つない、むしろ50m走でクラス最下位を記録したことが何度もあるような、そんな平凡な人間だぞ。


 少なくとも、こんな意味不明な出来事に選ばれるような特異な人間じゃない。


 なんで俺なんだよ。


 そもそも世界を救う為ってどういうことだよ。


 意味わからねぇよ。


「ウレしくないのデスカァァァ? セカイの代表者なのデスヨォ? セカイジュウの者たちのイノチが、アナタ1人にカカっているのデスヨォォ? とっても誇らしク、ヨロコばしいことだとオモいますけどネェー」


 ……なんだよそれ。


 どういう意味だよ。


 俺以外にも地球の奴等全員の命もかかってんのか?


「まぁ、いいでしょウ。ハナシを戻しますネ。アナタたちハ、それぞれのセカイの命運をセオっていル、いわばユウシャ? のようなモノなのデスョ」


 勇者だ?


 ふざけんなよ。


 こんな理不尽な目に合う勇者なんて、アニメや漫画・小説・ゲームにもそうそういねーだろうが。(※たくさんいます)


「デスかラァ! ユウシャのアナタたちハァー! なんとしても生き延びてクダさいネェー! ユウシャなのデスかラァァ!  繰り返しまスガ、アナタたちはなのデスかラァァァ!!」


 英雄側……?


「英雄側?」


 俺の心の声と全く同じ言葉が、どこからか聞こえてきた。


 誰かが、この機械音に疑問を投げかけたようだ。


 俺もそこが引っ掛かった。


 英雄側とはどういう意味だ?


「アッ……。トウゼンッ! ユウシャが死んでしまえバァ、そのユウシャの住む世界はゲェェム・オォォバァァーーー。デェェェエスッ!」


 俺たちの疑問の声をまるでなかったかのようにスルーしやがった。


 どういうつもりだよ。


 っつうか、「アッ」って言ってたよなコイツ。


 後ろに「ヤベ言っちゃった」って言葉が追随されてきそうなトーンで言ってたよな。


 英雄側ってどういう意味だよマジで、おいこら。


「当たり前デスよネェ? ユウシャという存在がナニかをクリアせずに途中で死ねバ、セカイが救われないのは常なのデスかラ。創作物だってBADEND(悲惨な結末)はダイタイそうでしょウ?」


 ここが創作物だったらホントよかったのにな……。


「なのデッ! アナタが死ねバ、アナタの住むセカイのヒトたちをすぐにでも殺しにイきマァァァス! サキホドの映像やここで起きたデキゴトのように、イッシュンで「ボカンッ!」しにイきマァァァス! お掃除しマァァァスゥゥゥゥゥゥ!」


「──はっ!?」


 死ぬって……も、もし俺が死んだら罰として地球の皆も道連れに殺すってことかよ。


 嘘だろ……ち、地球の奴らはこのこと知ってんのか。


 いいのかよ俺で、俺が代表者で。


 やべえだろ。


 わけわかんねぇって。


 やべえ、やべえってマジで。


 責任重大じゃねぇーかよ。


 何がなんなのかさっぱり頭の中で整理できてねーぞこれ。


 この理解できない状況といい、マジで何がどうなってんだよ。


 意味わからねぇよ。


「あぁ、そうでしタ。いくら映像をミせたところで、未だに「これは夢だ! 夢に違いない!」とオモい込んで現実逃避しているヒトもいるでしょうカラ、シゲキを与える為にもイってみましょうカ? サキホド、ここでワタクシに殺されたヒトのセカイにデモォー!」


 さきほど殺された人の世界って……ま、まさか。


「ちょうどよかったデスヨー。実は最初カラ、この為に一人か二人は犠牲にナッてもらうつもりデシタからネー。さぁーテ。3人のウチのどれにしようカナァー。うーン……これにしようカナット! えイッ!」」


 こいつ……。


「サァー! 匂いをよくカンじて下さいネェー!」


 その言葉をいい放った瞬間。


 目の前の景色が一気に変わった。


 白い空間が一瞬で……俺の瞼が瞬きするよりも速く、視界から消えた。


 上空にあったはずの巨大スクリーンまでもが。


 そして……その代わりに別の景色が、俺の周りに突如現れていた。


 数秒前まで白い空間だったはずなのに。


 いや、これは景色が現れたんじゃない。


 多分、俺たちがアイツの力かなんかによって瞬間移動でもさせられて……ここに現れたんだ。


 アイツの言う、3人のうちの誰かの世界に。


「くっ……」


 上空からの太陽光やアスファルトの地面が、俺の冷めた身体に熱を与えてくる。


 俺の五感をこれでもかと刺激してくる。


 額から汗が吹き出してきそうなほどの暑さが……俺の全身を襲ってくる。


「ご覧クダさぁーィ! ここは<NO.048>のセカイデース! サキホド、ワタシに殺されたヒトのセカイデェース!」


 目の前に広がるのは、大都会の一角を想像させてくるような、そんな近未来な風景だった。


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