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0005 第一の犠牲

 な、なんだ、今の機械音のような甲高い声は……(ソラ)から聞こえてきたのか?


「ワタシの言葉をキけええええええええええエエエエエエエェェェッ!」


 機械音声のような声が真っ白な空間全体に、響くように聞こえてくる。


 やっぱり上の方からだ。


 でも、何も見えない。


 白い上空には何一つ異物などみえない。


 音の詳細な出所はどこだ?


 どうなってんだ。


「ヨゥシィィィ! ミンナァァァ上をミテいますネェェェ! でハァ、ハジめマァァァス! こちらをおおおオォォ、ご覧クダさアアアァァァァァァイ!」


 突如、半透明の巨大なフルスクリーンのようなものがブオンと上空に現れた。


 そして、それがどんどん大きく広がるように何十メートルと真っ白な空を覆って大きくなっていく。


 すげぇ……どうなってんだよあれ。


 巨大スクリーンをよくみると、どうやら数十の画面がテレビゲームの対戦時みたいに分かれて何かを映し出しているようだ。


 ……あれは街か?


 それぞれの映像に、異なった街や村らしき風景と空を仰ぎ見ているたくさんの人々がいるのが確認できる。


「目を逸らさずニィィ、よーくご覧クダさいネェェェ! でハァァァァァァ、サイセェェェェェェィィィ!」


 その機械音の言葉を合図に、目をよく凝らそうとした刹那。


「──なっ!?」


 俺の脳内には「後悔」という二文字が浮かび上がってきていた。


 みなければよかった、と。


 そう思えるほどの映像(モノ)が……そこには流れ始めていた。


「な、なんだよあれ……」


 誰に問うでもなく、俺はそう言葉を漏らした。


 巨大なスクリーンには、おぞましい映像の数々が……どれも数百人規模の人が死ぬ瞬間が映し出されていた。


 それも、誰も彼も人々の肉体が大きく風船のように膨らみ……そして破裂して肉片が飛び散っているシーンを。


 何十にも分割された、その画面(えいぞう)のどれもが、その瞬間を鮮明に映し出していた。


 ……何度も切り替わりながら。


「本物……なのか」


 まさか、俺の世界の出来事なのか……。


「本物だよ。あれは、恐らく敗北者たちの世界だろうね」


 俺のすぐ(よこ)へと近づき、メガネの位置を正しながら彼は悟りきったような顔で映像を見続けている。


「は……」


 ──敗北者ってなんだよ。


 そう言おうとしたのに、この緊迫とした雰囲気に呑まれて思うように言葉が出なかった。


 どうやら、身体は正直なようだ。


 全身から震えにも似た、微かな揺れが生じている。


 怖いんだ、きっと。


 俺の(かんじょう)は不思議と冷静になっていても、俺の身体(カラダ)はこれでもかとビビっているんだ。


 恐らく……さきほどのデスゲームという不吉な言葉と今のこの状況で、やっと身体が理解したんだ。


 俺の非現実的物語は楽しいものなんかじゃないと、この不気味な流れは、彼等の想像する先へと繋がっているのだと。


 なのに……なんで、俺の(あたま)は未だにこんなにも冷静なんだ、くそっ。


 いっそ、恐怖心で泣き喚いていてくれた方が楽だ。


 これじゃあまるで、俺の心はこれから先の地獄をも受け入れてる準備が既に出来ているみたいじゃないか。


 違う、こんなの俺じゃない。


 そもそもだ……どうやって、人の身体が破裂したんだよ。


 いきなり身体が膨らんで破裂してたぞ。


 本当に本物なのか、あの映像は。


 ありえるのかよ、何百人もの人が一瞬であんな風に……。


「うぅぇぇっ」


 そんなことを考えていると、俺の体が反応してしまったのか、真下の真っ白な地面に向けて大量の逆流した胃液を口からゴボゴボと吐き出してしまった。


 固形物は見当たらず、透明な唾液のようなものが一面に散らばっている。

 

 うぅぁぁっ……最悪な気分だ……。


「もう止めてぇぇぇぇぇぇ!」


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」


 映像を観ていた若そうな女の人たちから、悲鳴にも似た声が飛び始めてきた。


 そりゃあそうだ、こんなの見せられてしまったら、普通の反応はそれだ。


「ウルしえええエェェェェェッ!! ダマれえええエェェェェェッ!!!」


 瞬間。


 <パァン! パァン! パァン!>、という甲高い破裂音が耳に響いた。


 さきほど悲鳴を上げていた人たちの方から出てきた音だ。


 まさか……。


「きゃあ!?」


「なっ!?」


「ひぇっ!?」


「うっ……」


「イ、イヤッ……」


 いたるところから怯えたような、恐怖にも似たような声が続出する。


 中には体勢を崩して、倒れる者も。


 ぅ……嘘だろ。


 先程いた「叫んでいた若そうな女性たち」の姿は消え、代わりにそこには、多量の血の池が3つほど現れていた。


 それは、白い床に赤いシミを付けるようにじわじわと広がり、真っ赤な水溜まりを大きくしている。


 原型すら留めていないほどにめちゃくちゃで、あちこちに臓物のようなものを散らしながら……。


「ワタシはとてもデリケートなのデス。いいですカ? もし次、ウルサいヒトがいた場合……全員、イマのように肉体をバクハツさせますからネッ☆」


 いったい、なにが……なにがどうなってんだよ。


「アナタ達の代わりハァァァ! イクらでもイるのデスカラァァァァァァ!!」


 わけわからねぇよ……。


「ウふフッ! ウふフフフッ! ウふフフフフフフフフフッ☆」


 わけわかんねぇんだよちくしょう……。


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