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僕と私の世界事情  作者: Hollyhock
4/4

一つの世界で違う暮らしをする二人の話

今回、微エロを含みます。本当に微々たるものですが、苦手な方、ご容赦下さい。

 一、


 雨が降っている。風の季節にも雨は降る。強い風に吹かれ、窓に叩きつけられた雨粒は形を失って、跡を残す。雲は低く、厚く垂れ込めていて、心を不安にさせる。しかし、不安は天気のせいではなく、自分の先行きに対するものだ。

 私は今、この国の次期国王様の別邸に居る。とても綺麗なお屋敷だ。次期国王様はとても優しい。何も心配はいらないと言ってくれた。私の信じられないような話を聞き、信じて、全てを任せて欲しいと言って下さった。

 嬉しかった。それなのに、心は空虚だった。

 もう、ここへ連れて来られて3日。私は整えられた服と部屋でなに不自由なく不幸せに暮らしている。毎日の食事はとても美味しくて、味気ない。数日間、彼らと過ごす毎日は危険でも楽しかった。ドキドキしたり、喧嘩をしたり、悩んだり。彼らに会いたい。

 ここにいて何もやることがないわけじゃない。男の子としての記憶しかない私は、女の子としてのマナーを教えてもらいながら、優雅な1日を過ごしている。詩の朗読、挨拶の仕方からダンスまで。殿下は何を考えているのだろう。私をレディにしても、私は日本へ帰るのに。

 今日も午前中はあの怖い先生に怒られながら、過ごすのかと思うと憂鬱だ。指摘がすごく細かい。歩くときに爪先を高く上げないとか、肩が丸まっているとか、指先がだらしないとか、そんなところ誰が見るんだろうと思えることも指摘されてしまう。あの先生、私の事嫌いなんだ。

「ミク様、お時間でございます。」

 相変わらずライラはよそよそしい。歳も同じくらいなのに、女同士なのに、あのいろいろとイタズラをしたり、秘密基地で遊んだりはなんだったのかしら。あのライラと同一人物に思えない。

「わかりました。ありがとう。」

 つい、私も素っ気なく答えてしまう。

 ここには私と冗談を言い合って普通に話せる相手がいない。

 まるでお人形のように着せ替えられ、ひたすら振る舞いを注意される。

「本日はこちらのお部屋でございます。」

 ライラに案内されながら、部屋に入るといかにもキツそうな女の先生が立っている。私の天敵だ。

 ギクシャクしながら部屋に入り、軽く両足を広げ、右足を少し後ろに下げながら、左手でドレスを少し持ち上げ、右手を胸に当てお辞儀をする。頭を下げる角度と、首を曲げない事と、ドレスを持つ手の指先と……あーーーーもう無理!

「ごきげんよう、お嬢様。それではお人形のようです。まるでなってない。人ならば、もう少し流れるように動いてくださいまし。それに、足を少し下げるとき、グラグラと動いてしまうのはみっともないですわ。あと右手を胸に当てる前に誰に礼を示すのか分からないではありませんか。きちんと相手の方を意識して礼を示してくださいまし。やり直しです。」

「…はい。」

 自分のダメさを自覚させられる。泣きそう。そんなにたくさんのこと同時に意識出来ないわよ!ここで何やってんのかしら私。


 午後はダンス。ダンスは楽しい。ダンスと言っても、学校でやる創作ダンスやヒップホップとは違って、男の人と踊る。これはハーディ君が6歳くらいからやっているから、少し分かる。解るだけで、出来ないけど。男の人のステップの左右を逆に、前進と後退を逆にするだけ。マナーの時間よりずっといい。

 ダンス先生は少し気難しそうな姿勢のめちゃくちゃいいおじさん。でも、不思議な事にそのおじさんと踊ると自然に体が動いた。さらに不思議な事に、肩が丸まっているとか、指先を伸ばしてとかマナーの時と同じようなことばかり注意されてしまう。そんなに姿勢悪いのかしら。

「ミク様、固くならずもう少し膝を緩やかにしてみて下さい。膝を緩めても、体は落とさないように。」

「はい。」

 でも、ダンスは上手くなるのが分かる。先生に言われた事を一生懸命直せば、先生ともっと踊れるようになるのが楽しい。…これも、帰ったら必要のないスキルだけどね。

 お茶の時間には少しだけボルス殿下とお話が出来る。お忙しい方なので、本当に少しの時間。

 習ったお辞儀で出迎えて、ボルス様に着席を促されるまで待つ。女の子は勝手に自分から動いてはいけない。

「ミク、頑張っているようだね。まだ異世界と繋がる方法は分からない。もう少し長く居ることになってしまいそうだ。」

「いえ、ありがとうございます。」

 お茶を入れてもらっている間、待つ。

「そうだ、私と共に来て欲しい。これより3日のち、湖畔の王城にてパーティーがあってね。妻と娘たちを紹介しよう。」

 パーティー?そんなの無理だわ!挨拶ができない私は行ったところで笑い者になるだけよ。

「私なんかがそんなパーティーだなんて、ボルス様に恥をかかせてしまいます。それに奥様やお嬢様になんてお話をすればいいのか…。」

「大丈夫だ。話はしてある。心配することはないさ。」

 心配しないわけがない。そんな場所行ったことも見たことも無い。いや、見たことはある。ハーディ君の記憶で何回か。たしか、初めてボルス様に会ったのもパーティーだった。

「あの…不思議に思っていたのですが、ハーディ君があの力を持っていると何故判ったのですか?」

「あぁ、そうだったね。君はハーディパストの記憶がある。力の話はあまりするものではないよ。」

「すみません。」

「しかし、そうだね。君にも関係があるかも知れない。風節の時のあの力の事を我々は『地鎮の義』と呼んでいる。どういうわけか、国が乱れる時、天地が荒れ災害が起こる。しかし、彼が『地鎮の義』を行うと、災害が起こらなくなるのだ。」

「はい。」

「彼の力に初めに気がついたのは、彼と初めて会ったときだ。今から5年ほど前になるね。王城にて、父上の王政10年を祝う祝賀会が行われた。全ての王族、貴族が集まり、そこで選定が行われる。最も力の強い王族を選び、゛後継者゛とするものだ。力の強さを測る方法は山の民しか知らぬ。彼は゛後継者゛に選ばれた。この事は私と父上、一部の王族しか知らない。子供は不安定で、15を越えるまでは選定されないはずなのに。」

「後継者…?」

「山へ力を返す、後継者だ。この力は神の力と呼ばれていてね。後継者とは、神の後継者を指す。山の民に選ばれた者は山へ神となりに行くのだよ。」

「…神となりにとは、どういう意味なのですか?」

「実は分からない。その者は帰らないということだけ、分かっている。」

 え?それって生け贄みたいなものじゃないよね?

「それじゃあ、ハーディ君は…」

「彼はこの国そのものの命運を背負っているのだよ。」

 国そのものの命運か…よく分からない。

「あの…もうすぐなんですか?その…山へ行くのは。」

「国王が見罷り、次の王が立つときだ。新しき王の御代が少なくとも10年は安寧となる。ハーディパストほどの者なら、もしかしたら100年の安寧は約束されるかもしれないな。しかし、彼は若すぎる。風節の時伝えようとしたのだか、私には言えなかった。」

 確か、今の王様はご病気で長くはもたないということだった。そして、次の王様はボルス様。ボルス様はハーディ君の犠牲のもとに、国を栄えさせるということね。それは…言えるわけながない。

「そう…だったのですね。」

「レティシアがそこに居たならば、彼女だったのだろう。通常は子供を選ぶことは無いからな。」

「……私が代わりに行くことは出来ませんか?」

 私は考えもせずに口に出していた。でも、口に出してみて初めて恐ろしくなってしまった。何んてことを口走ったのかしら。

「実はそのことで、君に話さなければと思っていたのだ。すまないが、今日は時間がない。湖畔の城へ向かう時に話をしよう。私はこれよりしばらく居なくなる。湖畔の城へは明後日の朝、迎えに来るよ。」

 気になる。私が生け贄になる計画進行中なのかしら。ハーディ君か私か。これは、思ったよりもキツい話になりそうね。



 二、


 雨が降っている。この雨が、もう少し寒くなると雪になるのだろうな。強い雨ではないが、雨粒は大きく幌に当たるとバチバチと音を立てた。まだ風の季節。風が幌に当たる音と相まって、不気味な音が馬車内に響いた。

 ミクがいなくなってから3日たってしまった。僕は相変わらず何も出来ない。昨日、受けた報告でミクがボルス様の王都にある別邸に居ることまで分かっている。王都にある別邸へは4日前に居たあの分岐の街から入ったのだろう。

 その後、僕への襲撃はない。ボルス卿が気づかないわけがないのに。賊とボルス卿は関係が無いのだろうか。

 馬車酔いが少しましになってきている。体が慣れてきたようだ。雨の日は剣の打ち合いも出来ないため、あまりすることがない。さらに、馬に布を掛けて走らせてはいるが、無理はさせられない。次の街へは少し遅くなりそうだ。自然と苛立ちは生まれる。馬とも仲良くなりたいが、別れが辛くなるので意識的にあまり触らないようにしている。だが、今回はあまりに可哀想になり、納屋のある農村で、馬を休ませてもらうことになった。僕は頑張ってくれた彼らにお礼を言いたくて、手入れの道具を持って納屋に行く。

「無理させてごめん。今日はありがとう。」

 声をかけながらゆっくりと近づき、首に触れる。その暖かさが嬉しくて、ゆっくりと撫でる。馬の様子をしっかりと見ながら声をかける。おとなしい子だな。持ってきたブラシで逆毛に鋤いてやり、ゆっくりと汚れを落とす。背の部分は台が無いと届かないため、木の箱を裏返し踏み台にする。

「こんな雨の中、辛かっただろう?」

 ブラシを変えさらに続ける。今度は流れに沿って鋤く。納屋に入れるときに、体を拭いただけだったのだろう。とても汚れている。

「僕は、旅なんてしない方が良かったのかも知れない。」

 相手は馬だ。独り言になっていることには気がついている。

「最近、旅の目的が何だったのか分からなくなるんだ。僕は力の事を知りたい。でもみんなを危険にさらしてでも知りたいわけじゃないんだよ。コントロールの方法も知りたいと思う。でも、それは本当に必要なのか分からなくなるんだ。」

 鬣用のブラシに変え、きれいに鋤く。鋤くときに踏み台の上でも手が届かなくなり困っていると、頭を下げてくれた。優しい子だ。馬に乗ることも好きだけど、手入れはもっと好きだ。

「…ライラやルードと遊びたいな。今の季節は庭にモゴの実がなるんだ。美味しいんだよ。今年は食べられないや。厩への並木道も葉が落ちて、雪の季節の準備をするんだ。道が葉でいっぱいなるのが綺麗で、葉っぱで遊ぶのも楽しいんだ。屋敷のみんなはどうしてるかな…。」

 誰にも言えない寂しい気持ちを吐き出していた。馬は心地良さそうにしている。雨が小雨になるまで、動けそうにない。

「ハーディ…」

 !!

「ミラン!すみません。気が付きませんでした。」

「馬が好きなんだな。」

 僕はさっきの独り言を聞かれてしまったことが恥ずかしくて、曖昧に笑う。

「仲良くなるのは得意なんです。」

「ああ。馬の様子を見たら分かるよ。…王子様は身分を捨てられなくて苦しんでるのか?」

「え?」

 唐突な話題の転換についていけなかった。僕が、旅をやめたいのかと聞いているみたいだ。

「分かりません。でも、みんなを危険に晒してまでしなきゃいけないことなのか、分からなくなってしまいました。」

 ミランは優しい顔の中に強い目をもって僕に言った。

「そうか。もし、本当に身分を捨てたくなったのなら、ヴァンスではなく、俺に言え。お前はもっと自由に生きていいはずだ。」

 励ましの言葉にしては少し物騒な雰囲気がある。身分を捨てるとは何の例えなのかいまいち掴めないが、ミランなりに僕を励ましてくれているのだと解った。

 馬の手入れの道具を綺麗に拭い、水を汲んであったバケツで手を洗う。

「そういえば…僕を探していたのではありませんか?」

 ミランが静かにしている。いつもの軽く冗談を言う感じでは無いのが、僕を探していた理由について不安しかない。

「会ってもらいたい人がいるんだ。」

「仲間…ですか?」

「お前次第だろう。」

 ミランの目が全く笑っていない。ここは納屋の中だ。床は 泥だらけで、物もたくさんある。ミランはそこに片膝を付き、騎士の礼を取る。

「ハーディパスト様、ご案内します。」

 こんな様子のミランは見たことがない。これは『扇』として、ハーディパスト・グロウスに話しかけている。ミランは僕の事を風節の王子だと思っているのかと思っていた。ヴァンスや先生と同じ『扇』なのだから、僕の事を知らないはずがなかった。ミランの表と裏を見たような気がして、寒気がした。このままついて行って大丈夫だろうか。ヴァンスはどこにいるんだろう。伝えた方がよくないだろうか。

「遠いのですか?」

「いえ。村の中でございます。」

「シュカとヴァンスには?」

「シュカは森へ、ヴァンスは伝令でおりません。」

 これは良くないような気がする。ミランを疑うわけではない。だけど、僕のなかで、行ってはいけないと叫ぶ声がある。

 少し考える。

「…わかりました。お会いします。」

「こちらです。」


 ミランが案内してくれたのは、本当に村の中だ。自分の鼓動が早鐘を打ち、お腹の辺りが締め付けられる。危険かもしれないが、僕も男だ。人に会うくらい出来る。

 この村はそもそも5軒くらいしか建物がない。そのうちのひとつが納屋だ。目指す建物は一番奥。山小屋のような作りの建物だった。

 中に入る前にノックをする。そして、木の扉を開け中に入った。

 中には 14、15歳くらいの甲冑を身に付けた女の子と、50代位のこちらも黒い甲冑を付けた男がいた。

 彼女の髪はミクの部屋にある茶色い胴長の犬のぬいぐるみと同じ色をしていた。瞳も茶色。手足が長くて甲冑を着ていても、スタイルが良いことが分かる。うん、いい。いや…もちろん、そういう目で見ているわけじゃなくて、パッと見てそう思ったんだ。何で自分に言い訳してるんだ?

 女の子は冑を隣の男の人に渡す。

「ハーディパスト様をお連れしました。」

 ミランが僕の後に立ち、彼女に言う。警戒する。例え女の子でも、油断は出来ない。

 彼女の手が動き…―――優雅な仕草で貴族の礼をする。

「あなたがハーディパスト。パストということは、ルスターシの血を持つお方なのね。わたくしは、トルナ。ハーディパスト様、お見知りおきを。」

 相手がきちんとした礼をしたので、僕も姿勢を正し右手を胸に当て礼を返す。ん?15歳くらいかと思ったけどもう少し大人なのかな?

「トルナさん。ハーディパストです。お会いできて光栄です。」

「あら、とても可愛いらしくていらっしゃる。わたくしもお会いできて光栄ですわ。」

 可愛いとか言われると、馬鹿にされているのかと思う。そんなに小さい子どもでもないし、女の子じゃないんだ。

 少し腹が立ったが、丁寧に対応しなくては。ここは僕が大人っぽいところを見せてあげよう。

「あの、ご用件を伺ってもよろしいですか?」

「しっかりとしていらっしゃいますわね。わたくしはあなたに一目、お会いしたかっただけですわ。お時間を取らせてしまいましたわね。また、近いうちにお会いできる日を楽しみにしております。」

 え?何だって?それだけ??トルナさん。お名前しか聞いていない。緊張が溶け、拍子抜けしてしまったが、代わりにモヤモヤとしたものが僕の中を満たしていく。

「こちらこそ、あなたのようにお美しい方ならば、次に会えるときを楽しみにしないわけがありません。」

 恥ずかしいけど、これが貴族の礼儀なのだから、言わなくてはならない。意味はいまいち分からない。

「まぁ。素敵な紳士ですこと。それでは、わたくし失礼致しますわ。」

 もう一度、挨拶のやり取りをして、僕が彼女のためにドアを開ける。甲冑の二人は屋敷を後にするように、この山小屋を出ていった。一瞬だった。なんだったのだろう。

「ミラン、あのお姉さんは?」

「今、ご身分を名乗られなかったのはお考えあってのことではないかと。」

「そう…。分かりました。トルナさんを覚えておきます。」

 ミランは正体を知っているのだろう。でも、言ってはくれなかった。

 なぜ、僕に会いたかったのか。僕もよく知らなかったパストという名前の意味まで知っている。王族に関係のある人である可能性が高い。こんな国境付近の小さな村で、こんな山小屋の中で、王族の令嬢と会う理由が全くわからない。

「戻ろう、ハーディ。」

「はい。」

 いつも通りのミランだった。



 三、


 結局、街へたどり着くことはなく、その夜はその村へ泊めてもらえることになった。村では、少しの歓迎があり、シュカがお礼に横笛を吹いていた。この村は3軒の民家しかない。しかし、歓迎会にはたくさんの人が集まってくれていた。その中にトルナさんの姿は見当たらなかった。

 次の日、とても良く晴れていて、穏やかな風が吹いていた。気持ちがいい。昨日着くはずだった街には休憩を挟まず、昼前に着いた。ヴァンスが伝令に出ていた街だそうだ。

 ここから1日と半、北へ進めば、ルスターシ王国東端の街へ着く。その街に着く少し前にまた王都へ抜ける道があるそうだ。本当にこの国の道は王都にしか向かってない。

 街では、必要な物をそろえ、すぐに出立した。急げば、明日の夜には東端の街へ着くことが出来る。

 この街から東端の街へ向かう道は土の道であったが、平らに均してあり、馬車が通るために作られたような道だった。

 最初の休憩で、僕はミランに剣の稽古をつけてもらっている。

「剣が弾かれた後の立て直しが遅い!力で戻そうとするな!」

 僕は明らかに、屋敷を出た頃に比べて動けるようになった。今まで屋敷で剣術を習ってきたが、あまり本気で打ち込んだことがない。剣術の先生も、剣の型は教えてくれていても、体の使い方などはあまり教えてくれなかった。体の使い方を知ると、剣の型の意味がすごく良く理解できた。よくできている。体を使うから、こういった型になるのだ。型だけやっていても、剣は使えるようにならない。また、剣舞の動きも剣術と通じていることが解ってきた。今、注意を受けたこともその一つだ。

 今の動きをもう一度。

 右から左へ剣が弾かれる。弾かれた剣の勢いで体を軸に一回転する。さらに回転した力を剣に乗せたまま踏み切り、跳躍。相手に撃ち込む。

「よし!いい!」

「あり…がとう…ござい…ます。」

 息が上がってまともに話せない。ミランは息一つ、服装一つ乱れていない。悔しい。

「もう少し余計な動きが少なくなれば、スムーズに動けるだろう。筋力がないから、体の敏捷性を最大限に使えるようにするのは正解だろうな。考えたじゃないか。」

 褒められるのはうれしい。でも、筋力がない。旅を始めた頃よりは少しついてきたと思ったのに。

「筋力を上げるためにはどうしたらいいのでしょう?」

「ハーディ、そんなにすぐには無理だ。あと…………5年もすれば自然とついてくるんじゃないか。」

 5年!そんなにかかるのか。しかも、ミランは5年と言う前に一瞬、渋い顔をして躊躇った。気を使われたようだ。本来ならもう少しかかるものかも知れない。

「はぁ。強くなるためには、時間がかかるものですね。」

「剣の修行は一生続くものさ。俺だってまだまだだ。だけど、ハーディは敏捷性とバネが強い。今の動きを俺がしたところで、戻って来る前に切られてる可能性だってあるからな。伸ばしていけば誰にも真似できないような動きが出来るかも知れない。」

 よし!褒められた!以前、跳び過ぎて足を斬ったのも無駄じゃなかったな。でも、一つ、僕には問題が残っている。

「ミラン…剣術は人を殺すためのものでしょうか。」

「基本的にはな。」

「僕は、甘いのでしょうか。強くなりたいと思うのに、人は殺したくない。」

「普通さ。むしろ、人を殺したいと思う奴がいたらそれはそいつがおかしいんだ。誰だって殺したくないし、殺されたくないもんだ。だから、強くなるんだろ?」

「ありがとう、ミラン。僕も強くなるんだ。女の子を守れないなんて、情けないから…。」

 ミクは、ライラはどうしているだろう。僕が助けに来ないから嫌われてしまったかもしれないな。

「もう一度、お願いします!」

「ああ。次は俺の剣をあまり見るな。俺の体の動きを見て、剣の軌道を予測してみろ。」

 ミランは課題を次から次に与えてくれる。はっきり言ってヴァンスよりもいい先生だ。ヴァンスは説明が長い。理解することも必要だけど、動いた方が分かりやすい。教えてくれる人によって、こんなにも違いがあるんだな。

「ハーディ様。よろしいですか?」

 そんなことを考えながら稽古をしている間に、ヴァンスが来た。

「何かあったのですか?」

「ミクさんの事で、ご相談したいことがございまして、ハーディ様の剣の稽古の時間と知りながら大変失礼致しました。」

「普通に声をかけりゃいいのに、真面目過ぎるぜ。」

「ミラン、終わりにしてもいいですか?ヴァンス、相談というのは?」

 ヴァンスは僕に着替えを手渡し、汗を拭き、水を固く絞った布でさらに背を拭かれる。汗を拭くくらい自分で出来るのに。恥ずかしい。そして、僕から着替えを受け取り、着替えさせる。

「また少し、お痩せになられたように思います。ご不便をお掛けして申し訳ありません。」

 僕の着替えが完了すると、ヴァンスが肩から長めの外套を掛ける。今日はそれほど寒くないのにな。ミランなんかシャツ1枚だ。

「稽古のおかげで締まってきたんだろ?子供なんて細いもんだ。」

 細いと言われるのも、実は少し傷つく。どうせ、筋力がないさ。

「ミラン、ハーディ様の稽古を無理のないようにお願いします。」

「ああ、気を付ける。彼はセンスがいいから、ついな。」

 そう言われると、もっとやりたくなる。心の中では、飛び上がってよっしゃ!と叫んでいたが、冷静に。でも、ニヤニヤは止められない。

 馬の休憩を切り上げ、先へ進みならがら話すことになった。

「それで、ミクのこと何か分かりましたか?」

「はい。明日、湖畔の城へ行くようでございます。」

「あら、あたし知ってるわ。ここから近いじゃない。」

 近い?もしかしたら、チャンスがあるかもしれないな。

 ヴァンスはシュカを一瞥、黙っていろという事らしい。

「湖畔の城では、明日の夜、皇太子殿下主催のデビュタント・ボールが行われます。」

「何だって!?」

 つい、大きな声を出してしまった。まさか…ミクじゃないだろう?さすがにまだ早い!そんなことあるわけない。

「何それ。初めて聞く言葉だわ。」

 分かるわけない。僕も今まで、主席したことのないパーティーだ。

「シュカ、デビュタントというのは女性が社交界のデビューをするお披露目のパーティーなんです。社交界の一人として認められ、大人の仲間入りをする。ミクは早すぎると思います。それに、彼女が行くのはおかしい。ダンスも踊れないデビュタントなんて聞いたこともない。結婚相手を見るためのパーティーでもあるんだから。」

「いえ、ハーディ様、ミクさんではないようです。殿下のご令嬢、ヒルシティア様のようで。」

 僕は思い出した。以前、パーティーで何度かお会いしたことがある。あの子がデビュタント。信じられない。僕にとっては意地悪なお姉さんでしかない。恐い女の子と言えばヒルス姉さんだ。

「ヒルス姉様が…そうか。それは、ミクやボルス様に会えるチャンスだということですか?」

「はい。しかしながら、旅程は中断となります。この先の王都への道を進み一日半ほど。」

「父様は?」

「ただいま王都にいらっしゃいますので、ご出席されるのではないかと。」

 それで、相談か。父様と一緒にでなければパーティーには入れない。ヒルスのデビューを祝いたいと言えば、父様も一緒に入れてくれるはずだろうけど、僕の目的とは外れてしまう。さらに、僕を拐おうとした人の近くに自ら飛び込んで行くのだ。あまりいい考えにも思えない。ミクがもし、ボルス卿の元で安全に暮らしているのなら、危険な旅へ連れ帰るのも良くないだろう。困ってしまった。

「僕はお祖父様の命で旅に出たことになっているけど、どうなのかな?父様と連絡をとりたいな…。僕はボルス様に色々と聞きたいことがある。旅の目的もあるけど、湖畔の城へ行っても構わないのだろうか…。危険なことかもしれません。」

「…城までの安全は我々が。しかし、ボールルームに入ってしまいますと、我々は入れません。」

 ボールルームとは、ダンスのできる大広間のことで、使用人は入れない。使用人は使用人だけの集まる場所がある。しかし、ボールルームでは人の目もあるため、何か起こることはないだろう。

「知り合いの成人の儀式くらい、行ってくればいいんじゃないかしら。貴族っておかしな習慣があるわよね。何を迷うの?もし、湖畔の城へ行くなら、その先の森にラシェットの村があるのよ。友達に会いに行くくらいいいでしょ?自由行動させてもらうわ。」

「ああ。何日かの遅れは問題ないだろう。お祖父様・・・・はいつまでにとはおっしゃっていないからな。俺はこのまま東端の街へ行く。御者を解雇し、こちらで連絡を待つ。」

「シュカ、ミラン、ありがとうございます。僕のわがままに付き合わせてしまってすみません。」

「そもそも、お前の旅だろう。好きにすればいいさ。」


 そのあと、王都への分岐の道で別れる。ここは小さな村のようになっている。二つの道が交差する十字の村だ。道の両側に宿や雑貨屋などが立ち並び、馬を2頭手に入れて、ミランと別れる。

「ミラン、それでは5日後に会いましょう。」

「お気をつけ下さい。風の神に旅の無事を祈ります。」

 ミランは膝付かずに礼を取り、形式通りの挨拶をして微笑むと、僕たちを見送ってくれた。

 僕はヴァンスの前に乗り。もう1頭はシュカが。

 馬を走らせ、湖畔の城へ向かう。途中、休憩をこまめにはさんだが、馬車よりもずっと速い。

 僕はあることに思い立って、後ろにいるヴァンスに聞いた。

「ヴァンス、父様とは城まで行かなくては合流できませんか?招待を受けていないので、城に入れないのではないでしょうか。特にこの格好では…。」

「この先、城へ続く道は全て街の中となります。どちらかにご滞在されているはずですので、カルナス様にご連絡が付き次第、合流となります。お衣装に関しましては、街が王都の一部ですので、ご用意させていただきます。オーダーメイドとは参りませんので、ご了承下さい。」

 僕が急に言い出したことなのに、どうにかなるのか。すごいな。

「あと、トルナさんという女性をご存じですか?」

 もしかしたら、王族の一人かもしれない。親戚だったら、ヴァンスは知っている。会う前に何か情報が欲しい。

「…申し訳ありません。覚えがありませんが、お名前を全て伺ってもよろしいですか?」

「それが、分からないんです。」

「…その女性とはどこで?」

 そうか、しまった。ミランのことや、会うことになった経緯を話してもいいのだろうか。

「えっと、途中の村でお会いして、貴族か王族の方のようでした…。」

「それでしたら、城へ向かわれている途中だったのでしょう。あちらでお会い出来るのでは?」

「そう…ですね。」

「ハーディ様、見知らぬ方とお会いした時には私にお話下さい。それと、私がお側にいないときに見知らぬ方とはお話しなさらないで下さい。」

 少し、叱られてしまった。やはり、ヴァンスは知らない。

 しばらく走り、日が傾く頃、大きな城門が見えた。明らかに他の街とは違う。城門は開かれており、門兵が何人も居た。城門はとても大きい。城門というよりは城壁のついた砦そのものであり、砦の中を通って街に入るような感覚だ。

 僕だけ騎乗したまま、ヴァンスとシュカは馬を降りる。

「城門というより、建物のようですね。」

「ここは、ルスターシの東側の砦の拠点になります。東端の街より先、砦はございますが、ここはその幾つもある砦の統括する場所でございます。」

「私もここで別れるわ。3日後、この街の『うちがね』という酒場にいる。遅れる場合はマスターに伝言を頼んでおくから。」

 シュカはそういうと、馬をヴァンスに手渡し、消えてしまった。

 街には人がたくさんいる。もう、日が沈む前だというのにとても賑わっていた。ヴァンスは僕に外套のフードを頭から被るように言った。騎乗して、頭からフードを被った少年なんて、逆に目立ってしまわないだろうか。

 城門から少し離れて、馬場のある休憩所へ入る。馬の世話を頼み、僕たちも休憩した。外套を脱ごうとしたら、脱いではダメだと言われた。街の外側には旅人や賊が多いということらしい。僕には危険そうに見えない。

「僕は、王都に来るのが初めてかもしれません。とても大きな都なのですね。ここから、僕たちの街の近くまで全て繋がっているなんて。」

「そうですね。王都は色々な地区に別れています。この地区はその中でもかなり外れの方になります。ここから中央区までは3日ほどの道程です。」

「3日。同じ街の中なのに。」

 あまり長居はしたくない。休憩も会話もそこそこに、僕達は休憩所を後にした。



 四、


 ボルス様がお迎えに来てくれた。…わけではなかった。お忙しく、来られなくなってしまったらしい。私はライラとは違う、もっと歳上のメイドさんとちょっとイケメンの従者を連れて、言われた通りの馬車に乗り、湖畔の城というところへ出発した。湖畔というくらいだから、きっと湖のそばってことね。

 私は、馬車の中でもあまたの中で挨拶とダンスのイメージトレーニングをずっとしていた。私が失敗したら、ボルス様に恥をかかせてしまうのよ!ボルス様だけじゃなくて、ご家族のみなさんにまで迷惑がかかるわ!

「ミク様、お茶に致しましょう。」

 お茶?開けたところで馬車が止まり、即席のティーテーブルセットが出てくる。休憩ってことね。なんでそうやって回りくどい言い方しか出来ないのかしら。

「ここは街中なの?」

 そうメイドに訪ねると、私のことを見る。

「なのですか?でございます、お嬢様。」

 あーもう。あなたも注意するのね!

「こちらは街中なのですか?」

「左様でございます。」

 苦労して聞いたわりにはそれだけ?なんなのよ!ヴァンスさんならもっと色んなこと教えてくれるのに!

「あとどのくらいで着くの?」

「私にはお答え出来ません。」

 何それ!なんで答えられないのよ!私もう限界だわ。もう、嫌!許せない。

「つまらないから、あなた、何か面白い話をしなさい。」

 完全に性格の悪い王女様状態だわ。今なら分かる。スーパーカマチョなのよ!要するにもっと構って欲しいの!暇なのよ!

「わたくし、面白いお話が出来ません。申し訳ありません。それと、お言葉遣いをお気をつけ下さい。」

 ますます、面白くない。ハーディ君たちはそろそろ東の端の街に着いたのかな。私、置いていかれちゃったかもしれない。さすがに拐われた所まではわかってると思うのよね。でも、きっとボルス様の屋敷でこんな生活をしているなんて、知らないはずだわ。せめて私の居場所が伝えられるのなら、助けに来てくれるんだろうけど。

 お・・の時間が終わって、もう一度馬車で走り始める。この世界の人は馬車に乗っている間、何をするのが普通なのかしら、暇でしょうがないわ。本読みたいけど、この世界の本はいまいちわからない。ルスターシ語ね。言葉は通じるのに。自動翻訳機能を本にもつけて欲しいわ。

 馬車の旅は2回目だけど、この馬車はみんなで乗ったものより数倍良かった。揺れも少ないし、お尻も痛くならないし、クッションはふかふかだし。これなら、馬車酔いのスペシャリスト、ハーディ王子様も酔わないんじゃないかな?

 ボルス様が私に話そうとしていることはなんだろう。あんまりいい話じゃないような気がする。気になって気になって仕方がなかったから、今日分かると思って楽しみにしてたのに。早くスッキリしたい。

 ボルス様が今日迎えに行けなくなってしまったから、とお詫びの品にドレスを新しく下さった。サイズを測った覚えがないのに、ピッタリだった。

 明日はそれを着るらしい。緊張する。やっぱりパーティーなんて向いてないわ。お守りを握りしめて、ひたすら一人考えていた。

 その日は、とても大きな宿に泊まった。お城かしら、お屋敷かしら、なんて言い表せばいいのかわからない。

 明日、お城で開かれるパーティーのせいなのか、宿の前には貴族の人が大勢いる。ロビーに入ると柑橘系の匂いがして、床には絨毯が全面的に敷かれていた。ハーディ君たちと泊まった宿とはレベルが違うわ。これは超高級ホテル。

 私の部屋は広く、天蓋付きのベッドやクローゼットなどがあり、どの家具もとても高級そう。夕食は部屋に運ばれてくる。一人の食事係が付きっきりで、暖かい料理を運んでくる。私は子供だよ?中学生だよ?おかしくない?この状況。

 私は、逆に食べにくくて、食べることができなかった。全く知らない大人の人を使っている感じが居たたまれない。私には上流階級って無理だぁ。早く普通の中学生に戻りたい。本で読んだときは憧れてたのに、実際に上流階級の生活をすると、窮屈で仕方がない。 毎日怒られて、自分のやりたいように出来ない。ハーディ君の時はこんなに窮屈じゃなかったのに。挨拶だって、ダンスだって、お勉強だって、こんなに怒られなかったのに。自分がダメな人間に思えてくる。やっぱり私は普通の女の子で、お姫様にはなれない。

「ミクお嬢様、お夕食が終わりましたら、御召し替え下さい。」

「はい。」

 最近、あまりちゃんと人と話してない。そう言えば私、ハーディ君に人と話が出来ない根暗だとか言っちゃった。今の私は彼にそんなこと言えないくらい根暗ちゃんだ。

 美味しい料理とふかふかのベットとキレイなお部屋と豪華なドレスがあったとしても、友達や家族がいないと何にもならないんだ。陽葵ちゃんと話したいな。こんな体験をしたなんて、きっと信じてもらえない。もう、こっちの世界に来て一週間以上経ってる。今頃、どうなってるのかな。


 次の日になると、朝から大変だった。メイドさんが付きっきりで、髪型やメイクやネックレスやイヤリングや服や靴や髪飾りの用意で、何がなんだか分からなかった。昼過ぎに出来上がり。

 七五三の時の悪夢が甦る。私はお人形。出来上がっても、鏡に映るのは、知らない女の子。きっと、感情がない女の子。

 その感情のない女の子は、馬車でお城へ向かう。あのお城は人形屋敷。そんなネガティブ思考スパイラルでモヤモヤしていると、外が騒がしい。

「ミクお嬢様!決闘でございます!」

「は?決闘??」

「まだお時間はありますので、一度宿へ戻らせて頂きます。」

 従者のイケメンがさっさと指示を出し、馬車をターンさせる。

『なぜ、闘わなくてはいけないのですか!』

『俺が一番強いと証明するためだ!』

 なんで道の真ん中で決闘なんかするのよ。全く、男の子って何を考えてるのか分からない。迷惑だわ。もう一度出直しなんて、運が悪い。嫌な予感がする。

 馬車の小さな窓から、どんな人が決闘をしているのか見た。

 え?

 小さな、10歳くらいの貴族風の少年と、高校生くらいの貴族風のお兄さんが一瞬だけ見える。ちょっと、何考えてんの?子供と高校生くらいのお兄さんが決闘??

 きっと、あのお兄さん、子供に絡まれてるのね。相手にしなきゃいいのにね。でも、声の感じからすると、逆かな?…まさかね。

 後ろから、喧騒と歓声が聞こえる。

 勝負の行方が気になって仕方がなかっだけど、馬車は問答無用で来た道を引き返した。きっとあの少年、かわいそうなことになるわね。

 そのあと、ロビーでお茶を飲み、もう一度出発。キキョウが夕刻を告げる前に着けるかしら。

 2度目に同じ道を通ったときは、もう何事もなかったように通り過ぎた。

 城へ行く道は、街並みから公園の入口のような小さな門があり、そこから先は人の声がしなくなった。

 美しい庭園がしばらく続き、木がお行儀よく立ち並ぶ向こう側に城が見えてきた。突然、木が姿を消し、蒼い水を湛えた大きな湖が目の前に現れる。湖のほとりに建てられた鈍色の城が湖面に映し出されて、一つの絵画のようになっている。なんて素敵。ここは現実の世界なのかしら。

 馬車はその絵の中に溶け込んで、絵の一部になった。オトギノセカイだわ。

 城に着くととても大きな建物だった。あの絵の一部が急に現実感を帯びて、私はドキドキが止まらなくなる。いよいよだわ。

 城門を馬車のままくぐり抜け、中庭のようになっている広場を通り、馬車寄せに止まる。従者が扉を開けて、手を出す。私はその手を取り、馬車を降りると、石の階段を数段上がり、従者を一人お供に城の中へ向かう。

 お城ってこういうふうになってるのね。思ったより、サッパリしてる?って言うのかしら。とても単純な構造に見えた。

 中へ入るとすぐにエントランスホールがある。入るときに、イケメン従者が入り口に立っている人に声をかけ、何かを話していた。すると、その入り口に立っていた人がこちらに来て私に声をかけた。

「こちらへお越しくださいませ。」

 案内されるまま、どこかを通り、一つの部屋の前に止まる。

 単純な構造じゃなかった。どこをどうやって来たのか分からない。案内してきてくれた人がノックをする。内側から扉が開く。自動ドア?じゃなくて、中から人が開けてくれたようだ。

「やあ。ミク。お迎えに行けなくてすまないね。」

 ボルス様とそのご家族がいらっしゃった。奥様だけいない。私の足は緊張で震えていた。習ったお辞儀をして、習ったばかりの、頭の中で何度も繰り返し練習した挨拶をした。

「ボルス様、お招き頂きありがとうございます。本日はおめでとうございます。」

 すると、ボルス様と、白いドレスを着たキレイなお姉さんと、私より少し歳上のピンクのドレスのお姉さんがいる。

「お嬢様、初めてお目にかかります。ミクと申します。」

 心臓は爆発寸前!大丈夫だったのかしら??失礼なこと言ってないよね?手の角度とか、首の角度とか、変だったんじゃないかしら??

「ミクさん、お話は伺っておりました。ヒルシティアと申します。本日はありがとうございます。」

 白いドレスのお姉さんと、ピンクのドレスのお姉さんがお辞儀をする。話したのは白いドレスのお姉さんだから、こちらがヒルシティア様。流れるような綺麗なお辞儀。これが本物のお辞儀なのね。本物のお姫様。

「わたくしは、クリスティア。よろしくね。」

「ヒルスもクリスも私の娘だよ。妻は今、忙しいようだ。後で挨拶させよう。君を私の末の娘として今日の来客に紹介する。いいね。」

 ????

 えーーーー!??それは!無理です!

「あの…えっと…、光栄でございます?」

 完全に訳が分からない!どうするの?どこの誰だか分からない、こんな小娘にそんなことする??危険な娘だったらどうするつもりなのよ!



 五、


 すっかりと日が暮れてしまった。しかし、街に街灯が点り、明るい。人の流れは未だに途切れず、忙しく往き来している。

 僕は休憩所を出たあと、ヴァンスと共に今日の宿へ向かった。厩のある、少し大きめの宿だ。そこの厩に馬を預け、僕は部屋に残り、ヴァンスは出ていった。鍵をかけて外に出ないようにと言われている。

 宿の窓から街を眺めると、光のある場所だけが街から切り取られたように存在していた。

 しばらくすると、ヴァンスが一人の男を連れて戻ってきた。服飾店の人のようだ。採寸を終え、ヴァンスにいくつかの質問をすると、それを紙に書き付けて出ていった。

 ヴァンスはもう一度、外出しないようにと言うと、また行ってしまった。

 ヴァンスに借りている剣と宝剣を取り出し、見よう見まねでチェックしてみる。

 ボルス卿に聞くことをまとめておかないといけない。なぜ、ライラとミクを連れて行ったのか。ライラの母上に何があって火傷を負ったのか。川の氾濫や獣が暴れるのは、ボルス様がしたことなのか。ボルス様は何を考えているのか。聞きにくいことばかりだけど、聞かなくては。


 次の日は朝からヴァンスがいなかった。服飾店の人のがもう一度来て、僕の服を持ってくると、着た状態で体に合わせて縫っていく。その作業はすぐに終わり、服を置いて帰ってしまった。

 昼前にヴァンスが戻ってきた。

「カルナス様がお呼びでございます。お父様のところへ参りましょう。」

 一安心という表情で、ヴァンスが言った。

「父様に会えたのですね!良かった。先ほど、服屋が服を置いて行きました。着替えてから、父様に会いに行きます。」

「かしこまりました。」

 久しぶりに僕は、正装をした。後ろ髪が少し伸びてきたので、リボンで結う。リボンや靴やコートはいつ用意したのだろう。ヴァンスは本当に手際がいいな。結うには短い髪も彼にかかると綺麗にまとまる。髪、どうなっているんだろう?

 自分の屋敷の中では楽な格好をしていることが多いから、これを着ると僕は自分の立場を自覚する。僕は大臣の息子として参加する。父様のお立場が悪くならないように、しっかりとしなくては。

 ヴァンスも久しぶりに執事の格好に着替え、髪を撫で付けていた。

「行きます。案内してください。」

「こちらでございます。」

 ヴァンスと二人、馬で向かう。着いたところは街で一番大きな宿だ。馬を預け、ロビーに入ると柑橘の香りがする。花の装飾が豪華だ。領主館を思い出し、懐かしく感じる。ロビーからティールームへまっすぐに抜け、父様を探す。

「ハーディ!良かった!」

 父様は僕をすぐに見つけてくれた。懐かしい。うれしくて、早歩きから小走りになって、父様に駆け寄る。優しく大きな手に抱きしめられる。

「父様!」

「ハーディ、少し顔つきが変わったか?また痩せたようだな。」

「父様はいつもそうおっしゃいますが、僕はそうは思いません。病に倒れないように、体を鍛えることにしたのです。」

「ああ、そうか。ならば、食事を増やしなさい。何日か離れていただけなのに、しっかりとものを言うようになったな。」

 そうだった。父様はこういう方なのだ。

「はい。気を付けます。」

「ところで、ヴァンスよりヒルス王女のデビュタントに出席したいという話は聞いた。パーティーの嫌いなお前が珍しいな。」

「はい。ヒルス姉様には以前、幾度かお会いしました。僕もヒルス姉様にお祝いを言いたいのです。」

 嘘ではない。でも、本当の目的もある。…ずるいだろうか。

「ああ。そういえば、ヒルス王女はハーディのことを気に入っていたね。彼女も喜ぶだろう。ヴァンス、馬車を。」

「かしこまりました。」

 ヴァンスが行ってしまうと、僕は宿に大切なものを忘れてきてしまったことに気が付いた。というよりも、そのまま城へ行くと思っていなかった。

「あの…父様、僕は宿に忘れ物をしてしまいました。すぐに戻って参ります。」

「それは大事なものなのか?」

「…はい。」

「ならば、従者を一人着ける。早く戻りなさい。」

「はい。」

 僕は父様の従者と馬で急いで宿に戻った。実は宝剣を置いてきてしまったのだ。持っていかないといけないわけではないが、これは御守りなんだ。持っていないと不安だ。鞘ごとベルトに挟む。旅の荷物はそのままにしてある。ヴァンスに借りている短剣をどうするか迷い、置いて行くことにした。

 帰りは、従者が歩き、僕だけが騎乗。あまり街中で馬を走り回すのは良くないからな。

「君、デビュタント・ボールへ行く者だね。」

 見知らぬお兄さんから声をかけられた。そちらを向くと、白い馬に乗り、帯刀した貴族の青年だ。知り合いだったろうか?

「申し訳ありませんが、以前お会いしましたか?」

「いや。初めてだろう。君が王族であるなら手合わせ願おう。俺はストラト領主、ストラト候の息子、カナル・ストラトだ。」

「…え?」

「噂では、王族で一番強いのは君くらいの少年だと聞く。君がそうではないのか?」

 そんな噂など知らない。僕は人違いをされているらしい。何も答えられないでいると、彼は馬から降り、剣術試合の構えを取る。肯定ととられてしまったみたいだ。

 相手が年上なのに、僕だけが騎乗しているのは、良くないことのように思えて、僕も馬から飛び降り、従者に馬を預ける。

「あの…カナル・ストラト候。どうかお納め下さい。」

「やはり、君か!俺が一番だと証明出来れば、次の王になれる!」

 誰に何を証明するんだって?

「まさか…次の王にはヴォルティス殿下だと決まっているでしょう。」

「いや、俺は知っているぞ。表向きの王ではなく神に選ばれし最強の者が次の王だ!早く闘え!」

 そんな馬鹿な。このお兄さん、どこでそんな事を聞いたのだろう。しかも道の真ん中でいきなり闘えなんて、随分乱暴だな。

 お兄さんが勝手に剣を抜き、踏み込んで来る。驚いた。本気だ。僕は後へ跳び、かわす。コートが邪魔だ。

「なぜ、闘わなくてはいけないのですか!」

「俺が一番強いと証明するためだ!」

 この服では闘えない。靴も硬くて、動きづらい。汚したくもない。向こうは剣を持っていて、僕は宝剣。この宝剣は抜いてはいけない。完全に不利な状況だ。

「おい、坊っちゃん!剣がないのか?」

 いつの間にかたくさんの人に囲まれてしまっている。闘わなくてはいけないようだ。お兄さんを見据えたままコートを脱ぎ、投げ棄てる。

「これを使え!」

 細身の剣が投げ込まれる。体は変えず、目だけで確認する。細身だが、これは大人用で、僕には長すぎる。使えるか分からないな。

 また彼が踏み込んで来た。横跳びに避けつつ、片手で側転すると同時に剣を拾う。斬り合いなんてしたくない。鞘に納めたままの剣を構える。深呼吸。よし、闘おう!

 彼はもう一度、踏み込んで来る。中段基本の型だ。でも、遅い。ミランやヴァンスの速さに慣れていた僕には、彼の動きがぎこちなく見えていた。左から打ち込んでくる。剣で受け流す。手首に重さが伝わってきた。手が痺れる。何度も受けたら、剣を持つことが出来なくなるだろう。

「やはり、君は闘える!」

 お兄さんが嬉しそうに言う。なぜ、笑っているんだろう。もっと集中すべきだ。真剣を持っているのに。

 お互いに間合いを見る。

「避けてばかりでは、闘いにならないだろう。打ち合え!」

 そんなことを言っても、身長差がこんなにあるのに、打ち合ったら負けるのは僕だ。力も向こうの方が強い。

 また、打ち込んで来る。このお兄さん、手数が多い。後へと跳び避けるが、後ろがもうない。

「最強のわりに動き回りすぎだな。それじゃぁ、すぐに息切れして動けなくなるぜ」

 分かってるさ。だから、僕が闘える方法は一つだけ。他に思い付かない。

「剣術の先生に何を習ったんだ?打ち込んでこい!」

「分かりました。」

 僕はすぐさま間合いを詰めると彼の目の前まで踏み込んだ。少し低い姿勢から彼の腰を鞘付の剣で払う。剣の間合いが合わず、彼の腰の金具に当たってしまった。この剣は長くて扱いづらい。金具に弾かれた反動で反転、彼の横へ廻りこむと、体の反動が乗った剣で太腿を思いきり叩く。それで勝敗がついた。

 彼は尻もちをついて、驚いたように僕を見ている。

「君の剣術は見たことがない。速いな。俺はまだまだだ。」

「いえ。まともに打ち合ったら、僕が負けていました。それに剣の長さもはかり間違えてしまいました。僕もまだまだです。お兄さんとても強いですね。」

 僕がお兄さんに手を差し出す。

「何事だ?」

 いつの間にか人だかりが消えて、豪奢な馬車が停まっている。そこから、父様が歩いて来るところだった。

「ハーディ、忘れ物はこれか?真剣でというのは解せぬ。早く戻るように言ったはずだ。」

「まさか…あ、あなたはグロウス大臣!」

 カナルさんが、せっかく立ち上がったのにまた膝をつき、頭を下げる。

「ん?君は…ストラト候の…ハーディパストが迷惑をかけてしまったな。」

 僕は何も言えなかった。闘うのは楽しかった。よりによって父様に見られているとは。

「い、いえ!俺…私は…私が…申し訳ありません!」

 カナルさんは、父様を知っているようだ。父様はそんなに恐い方なのかな?とても先程の勇ましいお兄さんとは思えない怯えぶりだ。

「父様、ごめんなさい。カナルさん、後ほどお会いしましょう。」

 父様にはさっと謝るのが一番いい。カナルさんと握手を交わし、ふと細身の剣を見る。これ、誰のだ?

 辺りを見渡すとそれらしき人は誰もいない。通りの向こうに武器を扱う店がある。父様はカナルさんと話をしている。少しくらい大丈夫かな。

 武器店へ走り、中へ飛び込むと、店主がすぐにこちらに気がついた。

「お!さっきの坊主だな。いい戦いぶりだったじゃないか!」

「あの!この剣はどなたの物かわかりますか?」

「ああ。これはうちのお客さんのさ。」

「お礼を言って、お返ししてください。僕はハーディパスト・グロウスといいます。」

「おう。」

「ありがとうございます!」

 僕はお礼を言ってすぐに戻る。

「まて、坊主!明日の昼過ぎにもう一度来い!」

 ?なんだろう?

「はい。必ず。」

 僕はすぐに走って戻り、馬車に乗った。

「父様、場を納めていただきありがとうございます。」

「ああ。聞けば、お前が強いという噂で闘いたかったらしいな。そのような話は初めて聞いたが、彼は完敗だと言っていたぞ。」

「僕も、なぜそんな噂があるのかわかりません。完敗というのはご謙遜でしょう。父様にご迷惑をかけてしまいましたか?」

「…お前は何も気にするな。いつの間にか大人のような口を聞くようになり、周囲への気遣いができ、強くなった。私はお前の成長を知らない。これでは、親とは言えないな。」

 父様が真剣な表情で言うので、困ってしまう。確かに、あまり思い出があるわけではない。でも、僕自身よりも父様の方が寂しそうにしているのを見てしまうと、胸がつまった。

「父様、僕はデビュタント・ボールに出席するのが初めてなのですが、大丈夫でしょうか?」

 空気を変えたくて、曖昧な質問をしてしまった。

「ああ。この国のデビュタントでは、いくつかの家が合同で行うものだ。主催は皇太子家だが、他7つの家の令嬢がデビュタントを迎える。先程のストラト候を見ても分かるように、すべての領、近隣各国からもお客様がいらっしゃるからな。文化の違いなどで戸惑うこともあるかもしれないが、ルスターシ流で構わない。失礼の無いようにな。」

「はい。」

「それと、本来ならあまり子供は参加しない。お前は血縁なので問題ないが、子供が出席できるパーティーではないことを覚えておきなさい。」

「はい。」

 父様と話すと、僕は本当に『はい』としか言えない。やはり、父様との会話は難しいな…。


 湖畔の城へ到着した。全てが灰色で冷たい印象を受ける。城門を抜けると庭園になっていて、門から見て右手奥に塔がある。塔の下だけが白い壁の建物になっていて、あそこはおそらく五神の神殿じゃないかと思う。馬車寄せには何台かの馬車が停まり、順番待ちだ。そして、しばらく待つとヴァンスから声がかかる。

「お疲れ様でございました。到着でございます。」

 馬車を降り、城内へ入ると、正面に大階段があった。大階段を登った先に大きな扉がある。

 右手に開かれた扉があり、開場までの間、そこで待つようだ。左手にも扉があったが、そちらは閉じられており、衛兵が立っていた。

 右手の開かれた扉に入ると広い部屋があり、そこで立ち話をしている人もいたが、それは数人で、あまり人は居なかった。豪華な装飾のされた柱に、大きな燭台が等間隔にいくつもあり、絵画や調度品が置かれている。奥に扉があり、そちらに使用人がいるので、そちらへ向かう。父様と僕のコートをヴァンスが受け取り、どこかへ行ってしまった。

 次の部屋に入ると、入り口で名前を聞かれた。名前を告げると使用人が来て、案内される。人がとても多くて、迷子になりそうだ。お菓子がたくさん用意された長テーブルを通りすぎ、奥のハイテーブルで止まる。父様は飲み物をもらったが、僕はもらえなかった。あれはお酒だな。

 そして、その瞬間から、たくさんの人が父様の元に挨拶に来た。次から次に、知らない大人が来る。僕へ声をかけてくる人もいたが、僕を一瞥して変なものを見るように見てくる人、僕のことを見えていない人も多かった。

 途中、使用人が僕のところへ飲み物と先程のお菓子をお皿に盛り持ってきてくれた。お菓子は美味しかったが、大人が変わるたびに挨拶をするので、ゆっくりは食べられなかった。

 もう、疲れてしまったな。パーティーはやっぱり苦手だ。いや、まだ始まっていなかった。この先、ずっとこれが続くのか。暇だ。

 いつの間にか何か面白いことがないか探す遊びを始める。あの人、変な格好だ。あの女の人はお化粧がこわい。あの老人は、パーティーで踊るのだろうか。

 …そういえば、ミクとトルナさん、いないな…。

 そうしているうちに、部屋には人で溢れていた。いつの間にこんなに人が増えたのだろう。

 相変わらず、父様に挨拶に来る人はいなくならない。この人たち、全員知り合いなのだとしたら、よく覚えていられるな。

 そっと父様のそばを離れて、城の探検にでも行こうかと思ったとき、見覚えのある人が挨拶に来た。どこか異国風のドレスを着て、髪を結い上げている。

「おじ様、お久しぶりでございます。」

「これは…公女様。私を覚えていてくださいましたか。うれしい限りです。」

「本日は、母の代理で参りました。本日はよろしくお願いいたしますわ。ご子息殿もね。」

「これは…失礼致しました。私の息子、ハーディパストです。ハーディ、彼女はトルネニア公国の公女様で、トルナ・キリス・ダルクス姫だよ。」

 トルネニアの…公女様。だからトルナ。気がつかないなんて。トルネニアは女王の国だったはずだ。ということは、トルナ8?世のような感じだったと思う。トルネニアのお姫様だったのか。ミラン…まさか、トルネニアと繋がっている?

「トルナさん、今日はとても素敵です。」

「ハーディ様こそ、変わらずとても紳士的で素敵ですわ。」

 しまった。誉めたつもりだったのに、『今日は』なんて失礼な事を言っしまった。これが苦手なんだ。

「ごめんなさい。えっと…またお会いできたことに感謝致します。」

 なんとか、返すことができた。すると、父様が驚いてこちらを見る。

「また?ハーディは姫に会ったことが?」

 はぁ。今日はスマートにいかないな。父様に自分からバラしてしまったようだ。

「ええ、少し前にお目にかかる機会がごさいましたの。素晴らしいご子息ですわ。わたくし、お母様の代理で来ておりますので、カルナス様にエスコートをお願いしようかと思っておりましたの。ですが、ハーディパスト様にお願いしても?」

 いや、僕は子供だ。それに、母様を捕らえた敵国の姫をエスコートだなんて、出来ない。

「ハーディでよろしいのですか?」

「彼がいいのです。」

 話がまとまってしまった。女性をエスコートなんて、したことがない。今日は本当に上手くいかない日だ。

 彼女は他にも挨拶をする人がいるのだろう。行ってしまった。

 僕がショックで動けなかった間に、挨拶の人が何人か入れ替り、ストラト夫妻とカナルさん、と女性が一人。

 ストラト夫妻は父様に挨拶をして、先程の事を何か話していた。

 その隙にカナルさんが話しかけてくれる。

「ハーディといったか?さっきはすまなかった。しかし、楽しかったな。またやろう。」

「カナルさん。あの時は自己紹介を忘れていました。ハーディパスト・グロウスです。打ち合い楽しかったですね。僕はここにいるよりも今すぐにでも、お願いしたいくらいです。」

「ははっ!確かに。俺も堅苦しいのはあまり得意ではないんだ。」

「そちらは?」

 僕はカナルさんの隣に立つ女性を見る。

「この人は、俺の婚約者だ。」

 と言ってから僕に近づき耳元で言う。

「俺は認めてない。8つも歳上なんだ。」

 僕はそれを聞いて小さく笑ってしまった。あまりにも普通の顔で言うものだから、冗談なのか本気なのかわからない…が、どっちもなんだろうな。

「僕には初対面でも斬りかかってきたのに、女性には弱いんですね。」

「おい!すまなかったと言っただろう。君はなかなか言うな。」

 僕たちの様子を見て、ストラト夫妻も、父様も安心したようにしていた。僕も、カナルさんの存在は安心する。

 と、音楽が聞こえて、奥の扉が開いた。

 大回廊を進み、左手に向かい合う二頭のガルーダの彫刻が施された巨大な扉があり、その重厚な扉が開かれる。音楽がさらに大きく響き渡り、開場した。



 六、


 私はもう一度、王女様たちと身だしなみを直した。お姉さんのヒルス様は一番後からの入場になる。ボルス様と、妹のクリス様は私と一緒に入場する。緊張する。クリス様は私をとても気遣ってくれた。

「ミクさん、大丈夫よ。パーティーが始まってしまえば、あとは楽しめばいいのよ。」

「クリス様、ありがとうございます。」

「…その話し方、ハーディパストにそっくりなのよね。どういう風にとははっきりと言えないのだけど…。本当にそうなのね。初めに聞いたときは驚いたわ。」

「私のこと、ボルス様はなんておっしゃっていましたか?」

「ハーディパストの異世界の姿だと聞いているわ。」

「その通りなのですが…彼と私は別れてしまったので、今は違う人になりました。」

「…良くわからないけれど、全てお父様に任せておけば大丈夫でしょう。」

 音楽が聞こえて、使用人の人によって開場したとこを告げられた。。

 私はついさっきまで、このパーティーの主旨を知らなかった。ヒルス様の成人式のような会で、社交界の一員として認められる日だそうだ。なんでそんな大事なこと、誰も教えてくれなかったのよ!

 エントランスホールまで移動する。そこではじめてボルス様の奥様にお会いした。細身で優雅で気品があるが…とってもキツそう。彼女はギリギリまで指示を出し、とても声をかけられる状況ではない。

「スフォルツァ、ミクだ。ミク、彼女が私の妻のスフォルツァだ。」

 ボルス様が早口に小声で紹介を済ませる。私も急いでお辞儀をし、「ミクと申します。」と小声でご挨拶をすると、彼女は少し微笑んで、お辞儀をした。

 エントランスホールの中央、大きな階段があり、そこを上る。こんな階段、あったのね。気がつかなかった。階段を登りきると、向き合う鳥?の扉がある。絵じゃなくて、ドア自体が木彫りになっている。 中から音楽が聞こえ、はっきりとは聞こえないがゲストの名前を読み上げる声とともに拍手が起こる。入場にも時間がかかりそうね。

 その声を聞きながら、緊張はさらに高まり、お腹が痛くなりそうだ。

 長いような短いような時間が過ぎ、曲が変わる。そして目の前の扉が開いた。

 開いた瞬間、目に飛び込んできたのは巨大なシャンデリア。すごい。これがシャンデリア!本物だわ!蝋燭の炎をいくつものガラスが反射させてキラキラと輝いている。

 入ってすぐは、テラスのような構造になっていて大きなダンスホールに人が大勢集まっている。そのすべての人がこちらを見上げていた。音楽がいつの間にか止み、ザワザワと人の声が聞こえる。

「本日はお集まり頂き感謝致します! 今宵は、よい夜をお楽しみ下さい。」

 司会者?みたいな人が一言、開演を告げるとそれにあわせて礼をする。

 ボルス様と奥様を先頭に私とクリス様が左側の階段を降りていく。あれ?ヒルス様はどこへ行ったのかしら?

 階段を下りた先に席が用意されていて、ボルス様が着席すると同時に私たちも着席する。

 この椅子、私の知っている単語の中で一番ピッタリくるのは、玉座というやつね。私が座るのだから王様じゃないけど、他に当てはまらない。

 また曲が変わり、一度閉められた私たちが入ってきた扉がもう一度開かれる。

  また、司会者によって名前が呼ばれ、白いドレスを着てティアラを着けた女の子達が同じくらいの年の頃のタキシードの男性と共に階段を降りてくる。ドレスの色は同じだけど、刺繍やレース、布の使い方、それぞれに美しいデザインで、まさにお姫様だった。

 最後にヒルス様のお名前が呼ばれて、テラスで男性と共に一礼し、階段を降りてくる。ヒルス様のドレスが一番美しかった。

 そして、男性からボルス殿下に代わると、ダンス曲が流れる。

 フロアの中央へお二人で行き、ダンスを踊った。

 とても素敵!感動してしまった。いいなぁ。

 次の曲では白いドレスのみなさんと、一緒に入場した男性のダンス。夢のような空間に、私はひたすら感激していた。

 こんな世界が本当にあるなんて。私、ひょっとして12時の鐘と共にスウェット姿に戻るとかないかしら…。

 三曲目には私の踊れない曲で、これには他のゲストの方も参加してみんなで踊る躍りだった。男性と女性が向かい合って一列に並び、踊る。

 …あれ?まさか…。

 男性の列の中に目立つ子供。金髪に近い淡い栗色の髪を赤いリボンで結い、黄土色の刺繍が施された貴族の服を着て、軽やかで優雅な動きをする色白の少年。…どう見ても、彼だと思う。なんでかしら。旅は?どうやってここまで来たの??似てる別人ってことはあるのかしら?そんなことあり得ない気がする。他にあんなに綺麗な子見たことないもの。

 彼は茶色い髪の可愛いお姉さんと踊っていた。可愛い。身長があまり高くないから、幼く見えるけど、高校生くらいかしら?お相手の彼女も目立つ子だ。白いドレスの主役のみなさんも一緒に踊っているはずなのに、私は二人から目が離せなかった。

 私か呆気にとられているとクリス様が私を呼んだ。

「ミクさん、見て!ハーディパストも来ていたのね!」

「…そうみたいですね。私も知りませんでした。」

「わたくし、彼と結婚したかったのに、彼はダメなんですって。血が近いからかしらね。」

 結婚!!そんな先のこと考えてるの??それに、後継者のこと…彼女は知らないのね。一部の王族しか知らないんだったか…。

「それにしても、相手の方どなたなのかしら。ハーディパストに馴れ馴れしい。いやらしい手で彼に触らないで欲しいわ。」

 ダンスなんだから無理でしょう!ってツッコミを我慢して、クリス王女に笑顔で答える。

「ハーディも結婚のことなど考えていなさそうです。お相手の方よりクリス様の方がお綺麗ですよ。」

「そうね。後で私からハーディパストを誘いに行ってみようかしら。」

 実は社交辞令だ。はっきり言うと、踊っている彼女の方が可愛いくて、スタイルも抜群だ。

 クリス様はさっと立ち上り、曲が終わるのを待って声をかけるようだ。女の子から誘ってはいけないんじゃないの?

 っていうか、あの子、女たらしなの??どこから女の子連れて来るのよ。しかも彼の回りの女の子は、私以外みんな胸が大きい。悔しい。

 ボルス様は奥様とともに次から次へ、お客様にご挨拶をしている。ハーディ君のお父様もいらっしゃっていて、何か話している。その様子を遠目に見ていて、お二人と目が合った。

 近くへ来るように言われる。

 習った挨拶で、ハーディパパへご挨拶。私、少し出来る子になったでしょ?

「君はハーディに似ている子だね。領主館にいた。ハーディパストが君を連れて行くというので、少し心配していたのだ。女の子に旅をさせる訳にはいかないからな。ヴォルティスの元にいるのなら、安心だろう。」

「私はこの子を一時的に養子として迎えようと思う。」

「……そうか。」

「ミク、ありがとう。ダンスをしておいで」

 ボルス様が笑顔で言ってくれる。踊れるかしら?っていうか、誰と踊るのかしら。

 そんなことを考えながら一礼してその場を離れると、お二人の会話が聞こえてしまった。

「…その時が来たら彼女を、君に返そう。代わりにはならないかもしれないが…」


 ……へ?それは。私がハーディ君の代わりにグロウス家に入るってこと?


 このきらびやかに輝くおとぎ話の世界が一気に黒くなる。ハーディ君は何も知らない。後継者のことも、私がハーディ君の代わりになることも。

 ボルス様はひょっとして、初めから私を向こうの世界に帰すことなんて考えてなかったのかも。だから、私をレディにして、ハーディ君が……死んだあと、跡継ぎの居なくなったグロウス家に私を…。

 鳥肌が立った。なんて世界なの。物みたいに簡単に返すとか言われるなんて嫌だ!大人なんて、信用できない!私には何も心配ないって言ったのに!

 見ると、ハーディ君はまた違う女性と踊っている。

 しかも、お相手は白いドレスの女性。デビュタントの女性は結婚相手を探すのがこのパーティーの裏の主旨だって聞いたわよ。

 そして、赤い顔をしたクリスが戻ってきた。

「ミク、やっぱり彼は素敵だわ!ダンスもとてもお上手で、わたくしに笑顔で『お久しぶりです。クリス姉様』って!とても可愛い。」

 それは、誰にでも言うんじゃないかしら…。あの子、まだ10歳なのよ?あんなにモテる意味が分からない。そりゃ、目立つし、本当に綺麗な子だけど。

「とても可愛らしいあなたが、壁の花とはもったいない。踊っていただけますか?」

 どこからともなく声をかけられた。私のこと?よね?

「は、はい!あの、私まだあまり踊れなくて。」

 若い男性に声をかけられて、手を引かれダンスフロアへ連れていかれる。ちょうど、私も踊れる曲が流れて、その男の人と踊った。あまり上手くは踊れなかったけど、練習しておいて良かった!とても楽しい!しかも、ドキドキする。先生の時には思わなかったけど、相手が若い人だと、デートでもしているみたいで、恥ずかしい。一曲踊り終わり、相手の男性がドリンクのカウンターの所へ連れて行ってくれる。そして、飲み物を二つ取ると一つを私に手渡した。

「王女様、お名前を教えて頂けますか?」

 王女様?!そっか、さっきの入場で。

「わたくしは、ミクと申します。」

 この話し方恥ずかしいっ。おかしくないですか、これ。私、日本の中学生ですよ?

「ミク王女、とても楽しい時間をありがとうございます。以後、お見知りおきを。」

 うわぁ、ダンスマジックね。今のときめいたわ。

 彼は一礼して、次の女性を誘いに行った。

 顔が赤いかも。喉が乾いたので、飲み物を一口飲む。

 ―――お酒だ。うぇ。

「ミク!」

 下から声がする。どこ?

 瞬間、手を引っ張られた。ハーディ君だった。彼はまた私を引っ張っていく。お菓子の置かれたテーブルの裏へ行くと、その下へスッと潜る。私も付いていくと、彼はぐったりしていた。

「大丈夫?あなた、大人気ね。」

 睨まれる。何怒ってんの?彼はため息をついて、2、3秒間を空けると、私に言った。

「どういうことですか。」

「何が?」

「ミクはボルス様の家族として入場しました。あの場で、あなたは皇太子家の王女として紹介されたんです。」

「うん。なんかそうみたいね。私にもよくわからないわ。」

「……ミク。ボルス様は何を考えているのかわからない。信用して良いのかどうかも…。」

 驚いた。彼はボルス様をあれだけ信頼していたのに、何があったのかしら。

「ハーディ君、あのね、私が拐われたあと、ボルス様に旅の目的を話したわ。そしたら、それは国王陛下の罠かもしれないような感じだった。国王陛下も信用して良いのかしら?……あなたは、殺されるかもしれないわ。」

「!!ミクは何を聞いたんですか? 」

「いや、あのね…あなたは後継者といって…」

 テーブルの前に人の気配がする。

『ハーディパスト様を見なかった?休憩されるというから、待っているのに、どこにいらっしゃるのかわからないのよ。』

 ハーディ君が明らかに嫌そうな冷たい顔をする。あのお姉さんたちは、彼のこの顔知らないのよね。天使なのは笑顔と寝ている時だけよ。

「すみません、ミク。先ほど、カナルさんと踊っていましたね。あの曲の時に誘いにきます。一曲踊ってから話をしましょう。」

 そう言って、テーブルの下から出ていった。さっきの男の人はカナルさんというの?踊るのが嫌な相手なら出ていかなきゃいいのに。

 私も裏からさっと出ると、ちょうど、さっきのカナルさんがいた。

「なんだ?ひょっとして君もハーディなのか?」

「えっと、カナルさん?」

「彼から聞いたのかい?先程は名乗らなくて失礼をしてしまったね。」

「いえ。あの、勘違いです。私と彼は双子みたいなものなので」

「ああ、そうか。従兄弟同士だしな。なんとなく顔も似ているし。てっきり、彼の本命は君なのかと思ってしまったよ。テーブルの下から出てくるから。」

 カナルさん、その想像はキモいですよ。

「彼は避難したかっただけみたいです。」

「成る程、彼はモテるな。強くて、モテる。代わりたいな。」

 代わりたい。…彼は長生き出来ない。

「ええ。なぜあんなに人気があるんでしょうね。」

「ははっ。君がそれを言うのかい?彼はグロウス家の長男だよ?それに見た目が反則だしな。姑がいなくて、さらにダンスも上手くて、強い。冷静に考えると、彼はこのパーティーの列席者の中で一番の男さ。唯一の問題は年齢だな。」

「あの…さっきから、彼のこと強いって。何ですか?彼、めちゃくちゃ弱いですよ?」

 私は馬車で弱っている彼を思い出した。

「何?!ひょっとして、王族最強は君なのか?………よし、俺と結婚してくれ。」

 はぁ?何いってんの?勘違いヤローだわ!

「あの、そういうことはちゃんとお付き合いしてから…。私、まだ子供だし…。」

「それならば、殿下にお話しして、君がいいと言うまで待つよ。」

 だから~、話が通じない人ね!もう、この人めんどくさい!

 彼はキラキラと目を輝かせながら、どこかへ行ってしまった。

 あ。どうしよう。

「ミク!!」

 ハーディ君が、早足でこちらへ来た。息が上がってツラそうだ。何も言わず、手を引っ張られ、フロアの中央へ連れていく。

 そのまま私を抱き込むように組むと、踊り出した。彼の方が小さいのに。

「驚いた。本当にダンスが上手いのね。ボルス様のところの先生より踊りやすいわ。」

「ミクは、もう少し柔らかく踊って下さい。姿勢もポジションも悪い。肩が上がってて、足首が突っ張り過ぎ。」

「そんな!酷いわ!私、最近始めたばかりなのよ?」

「知ってます。短期間にとても頑張って練習したのでしょう?さっきのカナルさんとの踊りで見ていましたから。」

 やだ。うれしい。…ハーディ君のペースに巻き込まれてる。くそぉ。

「ちょっと待って、あなた、他の人と踊っていたのに私のこと見てたの?」

 ふと、彼の方を見ると、顔が目の前にある。近っ!

「こっちを向かないで下さい。踊りにくい。」

 そうだ、さっきのことハーディ君ならなんとかしてくれるかも。

「私、さっきのカナルさん?に告白されたわ。」

「は?何を言ってるの?ミクは考えなさすぎます。」

「違うって。彼、あなたのこと強いって言うから、体が弱いっていう意味で弱いって言ったら、私が最強とかなんとかで、結婚してくれって。」

「もう、信じられない。帰る気ないんですか?」

「いや、だからハーディ君なら友達みたいだし、どうにかしてくれるかなぁって。」

 曲が終る。彼はそのまま私の手を取り、フロアを出る。

「ちょっと、いつまで手を繋いでるの?」

「僕がミクの手を放したら、他の女性に声をかけられてしまうんです。」

「モテるのも大変ね。」

「違う。僕がボルス様の甥で、グロウス家の長男だからです。血と家柄が大事なんです。僕に意味はない。」

 気がついてないのね。それだけじゃないってこと。だって、それだけならクリス様があんなになっちゃわないわよ。

 フロアを出て、部屋の一番後ろに向かって歩く。

「どこに行くの?」

 そう聞くと、彼は私の方を見て急に子供に戻り、いたずらっぽい顔で言った。

「逃げよう!」



 七、


 ガルーダの間を通り、一組づつ名前を呼ばれて入場する。おそらく、家柄順の入場なのだろう。僕たちはずいぶんと待たされた。僕は父様の後でトルナさんと腕を組む。トルナさんがミクより小柄で良かった。それでも僕の方が小さいんだ。ミランくらい背が高くなってヴァンスくらい筋肉があれば、僕もそれなりに格好がつくのに。

「グロウス家、カルナス殿。続いてご子息ハーディパスト殿とトンネニア公女、トルナ・キリス・ダルクス姫。」

 紹介の声が上がり、僕は彼女と腕を組んだまま入場し、入ってすぐに彼女が挨拶の礼をする。少し後で同じように礼をしてから、もう一度手を組み、ボールルームへ入る。

「トルナさん、僕がもう少し大きくなれば、もっと上手く出来るのですが…。」

「あら。わたくしは、あなたがそのままでも欲しいですわ。」

 一瞬、ゾクッとする。今のは……いや、考えないでおこう。

「ダンスもしてくださるのでしょう?エスコートの女性と始めに踊るのがルスターシの習慣でしたわね。」

「上手くはありませんが、よろしくお願いします。」

 入ってきた扉の左手側の上方にバルコニーがあり、その下が楽団が入るオーケストラボックスになっている。

 部屋の中央まで進み、父様が三方礼をする。僕もそれに倣い、トルナさんを三方向に礼をさせて前へ向き直る。すると曲が止み、人々がフロア中央に集まる。ファンファーレが鳴り響き、バルコニーの扉が開く。

「ヴォルティスパスト皇太子殿下とご家族の皆様です。スフォルツァ妃、クリスティア王女、ミク王女」

 なん…だって?ミク王女?

 確かにミクだ。しかし、王女とは。王家の血でもないのに。養子に入るとして、ミクはニホンに帰らなくてはいけない。ここでお披露目をすると、彼女は王女としての責任が生まれる。政略結婚のためのお披露目だ。または、娘と結婚したければ、家柄を上げる努力をせよという脅しでもある。彼女は今の瞬間から、王家の物になってしまったのだ。

 皇太子夫妻とクリス姉様、ミクがそれぞれ席につき、今日の主役の入場となる。 もう一度、違うファンファーレが鳴り響き、一様に白いドレスを着たデビュタントの皆様が入場する。そして、最後、ヒルス姉様が入場して、お相手の男性からボルス卿がエスコートを引き継ぐと、曲が始まった。

 始めにお二人のダンスが披露される。本来なら、主催の皇太子夫妻なのだろうけど、今日はデビュタントなので、姉様なのだろう。ヒルス姉様、昔とは全然違う。あんなにも優雅に微笑む方だったのか。僕は昔、よくからかわれた。嘘を教えられたり、パーティーでわざと足をかけられて転ばされたこともある。本当にあの子だろうか。

 次の曲では、主役たちによるダンスだ。それぞれがエスコートの相手と踊る。見たことのある人が何人かいるが、名前までは思い出せない。

 次の曲でゲストが踊る。この流れはパーティーの基本だ。ミクは圧倒されているようだ。どうにかして、彼女に近付けないだろうか。踊り終わったあと、彼女をダンスに誘えばいいのだけど、彼女は踊れない。それに、ヒルス姉様にお祝いを伝えて、一曲踊ることもしなくてはならないから、優先順位はヒルス姉様だ。

「トルナ姫、踊って頂けますか?」

「はい、ハーディ様。」

 僕はトルナ姫をダンスフロアへ誘う。踊りながら、必死で考えた。ミクはそもそも僕に気づいているのか?全然こちらを見ない。

「ハーディ様、何か考え事ですの?」

 僕はハッとする。失礼なことをしてしまった。父様のためにも、しっかりとしなければ。

「失礼しました。トルナ姫がとても美しくて、ボーッとしてしまいましたね。」

 先生に習った通りに返す。会話が苦手な僕はあまりたくさん話すときっとダメになる。基本は相手を褒めること、それと笑顔だ。

「ダンスがお上手ですわね。」

 先を越されてしまった。

「ありがとうございます。姫がお相手だからですよ。」

「まあ。嬉しいですわ。ハーディ様とのダンスは気持ちがいいですわね。」

 さっきからぞくぞくするのはなぜだろう。とにかく僕は失礼がないように笑顔で答えなくては。

 曲が終わって、フロアサイドに戻ると、トルナ姫はすぐに他の男性に誘われて、行ってしまった。

「ハーディパスト様、わたくしともよろしいですか?」

 この人は誰だろう?女性から声をかけられるなんて。そうか。僕は子供だから、女性からでも声をかけやすいんだな。紳士なら、断ることはしてはいけない。僕は笑顔で答える。

「僕なんかでよろしければ、お願いします。」

 どうしよう。本当なら、ヒルス姉様にご挨拶に行かないと。それに、ボルス卿と話すタイミングがあるだろうか。

 笑顔のまま、考え続ける。

 曲が終わり、ヒルス姉様を探そうとすると、妹君のクルス姉様に声をかけられた。

「ハーディパスト、久しぶりですね。」

「お久しぶりです。クルス姉様!」

 クルス姉様は晴れやかな笑顔で僕の手を取る。そしてフロアへ入る。温かい手は安心する。知り合いの少ない中で緊張していたので、本当に嬉しい。

「クルス姉様、とても大人っぽくなられましたね。」

「まあ、あなたもよ。昔はほんの小さな子供だったのに。」

「昔の僕は…恥ずかしいです。今もあまり大きくないので、本当ならもっと大きくなって姉様と釣り合うようになってから、踊りたかったです。」

 本当に身長が低いから、ちゃんとリードできない。僕の腕の下をくぐってもらっている。情けない。

 曲が終わり、フロアサイドに戻る。

「姉様、ありがとうございました!」

「また踊りましょう。」

 ちょうど、ヒルス姉様も戻って来たところで、すぐに声をかける。ダンスはある意味戦争だな。

「ヒルス姉様!本日はおめでとうございます!」

「まあ!ハーディパスト!大きくなりましたね。」

 思いきり抱きしめられる。いい匂いがする。僕的には幸せだけど、だ、大丈夫かな。従姉だし、お相手の男性に恨まれることはないと思う。ただ…―

「姉様、…苦しいです。」

「踊りましょう。」

「僕の台詞ですよ。」

「まあ。フフ、大人ぶって。」

 さすがに、体力的につらい。でも、笑顔を忘れないように。ずっと組んで踊る曲でなくて良かった。ヒルス姉様となら、身長が足りなくてきっと踊れない。

「ハーディパスト、女の子みたいだったのに、すっかり男の子ですね。残念です。」

「ヒルス姉様も相変わらず、意地悪です。男らしくなったと喜んで頂きたいな。」

「あら。わたくし、あなたが泣く顔が可愛くてたまらなく大好きなのに。」

「もう、見ることは出来ませんね。」

「それはまた、いじめたくなってしまいますね。」

 ヒルス姉様とのダンスは楽しかった。冗談をいいながら、笑う。

 最後にもう一度、しっかりと抱き締められて、解放された。小さいときの記憶にある意地悪なヒルス姉様は本当は素敵な方だった。意地悪をして僕を泣かそうとしていたのは、本当だったようだけど。

 ふう。ひと息ついて、飲み物をもらおう。

「ハーディパスト様、踊って頂けます?」

 ひと息、つけそうにない。休ませて欲しいな。

「はい。僕でよろしければ、お願いします。」

 にこっと笑って、返す。そのまま、何曲も踊り続けることになった。二人の女性の間で揉め事が起きそうになり、慌てて止めたりもした。そうか、僕は入場の時、父様とトルネニアの姫君と入った。長男で、家柄が良く、王族と近い上級貴族か。肩書きが良すぎる。子供だから、声もかけやすい。

 ふと見ると、ミクとカナルさんが踊っている。ミク、踊れたのか。ひどい踊りだ。でも、きっと必死でステップを覚えたんだろうな。彼女は頑張る人だって僕は知ってる。

 だけど、ダンスを覚えて、王族として紹介されて、帰る気はないのだろうか。これも、ボルス様がそうさせたのなら、許せない。ミクはボルス様を信じきっているのかもしれない。ボルス様と話をする前にミクとちゃんと話をしなくては。

 曲が終わる。ミクはどこだ?

「ハーディパスト様ですわね。わたくし―」

「すみません、ちょっとだけ休憩させて下さい。僕を待っていてくれますか?必ず戻ります。」

 ちょっと中断だ。壁沿いに体勢を低くして歩く。こんなに声をかけられるものなのか?見つからないようにしなくては。

 ドリンクカウンターの前にミクを見つける。

「ハーディ様?どうなさいましたの?」

「トルナ姫!すみません、飲み物を飲むこともできなくて。」

「ふふ。みんなあなたを欲しがっていますわね。無駄な努力ですわ。」

「あの、失礼します。」

 やっぱり鳥肌が立つ。僕は逃げるようにカウンターのすぐ裏まで来た。飲み物を給仕する使用人が少し驚いた顔をしているが、内緒にしてと身振りで伝えると少し微笑んで、了解してくれた。

「ありがとうございます。お水も頂けますか?」

 小声で伝えると、何も言わずにお水をくれた。話が分かる人で良かった。グラスを返し、ミクを見ると、ちょうどカナルさんと別れ、一人で―――飲んでるのは、お酒じゃないのか?

 とにかく、ミクと話せる場所まで連れていこう。

「ミク!」

 僕は彼女の手を取り、早歩きでお菓子のテーブルの下へ入る。やっとひと息ついた。

 ミクと話をすると、ミクは何かを知っているようだったので、聞きたかった。が、テーブルの前から先程の女性の声が聞こえて、またすぐに出ることになった。

 ミクが踊れるなら、踊りに誘う方が自然だ。彼女にそれを伝えて、先程の女性の元に急ぐ。もし、僕が約束を破ったら、グロウス家に傷が付く。父様にも迷惑がかかるし、僕自身の評判が悪くなっては、僕の屋敷で働いてくれているみんなにも悪い。

「すみません。お待たせいたしました。僕を待っていてくれたのですね。あなたが優しい方で良かった。」

 本当に良かった。女性の噂は早いから、怒って言いふらす人がいてもおかしくないのに、この人は待っていてくれた。一安心する。曲の途中だったので、少しお話をしていたら、父様に呼ばれてしまい、彼女とは結局踊れなかった。大丈夫かな。

「ハーディ、困っているようだな。お前が大きくなったら、隣国列強を巻き込んで大騒ぎになってしまうだろう。」

「父様、僕はパーティーがますます苦手になりそうです。」

「ああ。だが、女性を満足させられない男は失格だからな。気を抜くなよ。」

「はい。」

 父様なりの冗談らしい。父様が少し笑うと、回りにいた大人たちも笑っていた。その笑い声に紛れて、小声で僕だけに話す。

「後で…話がある。」

「………はい。」

 深刻な話だろうか。嫌だな。

 曲が変わった。ミクと約束していた曲だ。

「父様、すみません。約束があるので、失礼します。」

 急いでミクを探すと、カナルさんと話している。彼がどこか行ってしまったので、急いでミクの手を取り、誰にも邪魔されないように中央まで行く。踊り始めると、ミクがカナルさんに結婚の申し込みをされたと言っていた。腹が立った。ミクは浮かれすぎだ。このパーティーは遊びじゃない。大人の世界なんだ。

「ちょっと、いつまで手を繋いでるの?」

 引っ張り過ぎてしまった。ミクは腕が細いから、痛かったのかもしれない。

「僕がミクの手を放したら、他の女性に声をかけられてしまうんです。」

 これは、完全に僕のためにしたことだ。少し罪悪感が残る。

「モテるのも大変ね。」

 のんきだな。決して僕がモテる訳じゃない。僕についてくるものと繋がりを持ちたいだけなんだ。

「違う。僕がボルス様の甥で、グロウス家の長男だからです。血と家柄が大事なんです。僕に意味はない。」

 ミクもそうなんだ。気がついてほしい。皇太子家に入るということは、一番地位の高い家に入るということなのに。

「どこに行くの?」

 彼女が不安そうに聞いてくる。この部屋を出て、神殿に向かい、そこで舞を踊ればこの世界から向こうの世界へ飛べるのか、まだ試していない。夜の神殿に行ける。同じ条件だ。今、チャンスだと思う。

「逃げよう!」



 八、


 重い扉を二人がかりでそっと開ける。薄暗い大回廊に人の姿はない。隙間からさっと抜け出して、あまり音を立てないように歩く。二人で顔を見合わせて、頷く。繋ぎなれた手は暖かく、お互いの鼓動が伝わるようだ。二人で、人に見られていないか警戒しながら歩いていく。人の声が壁の方から聞こえてぎょっとする。

 僕はミクを庇うような体勢になったが、様子がおかしい。

 ミクがさっと僕を引っ張って歩き出す。

 ミクの顔が真っ赤だ。後ろから男女の声が聞こえる。

『ねぇ…今、見られたわ…。』『見せてあげればいいだろう…』

 僕達はその場から逃げるように小走りで遠ざかる。こんなところで何やってるんだ。人が通る可能性があることくらい考えなよ。

 僕も顔が赤いのを自覚しながら、次の部屋へ入る。

 この部屋も薄暗い。誰も居ないことを祈りながら、音を立てないように早歩きで進む。

 ミクが突然笑い出した。

「ミク?」

「フフ、ごめん。何だか懐かしいなって。はじめの時もこうやって、手を引っ張られながら歩いたわ。」

「のんきですね。」

「でも、冒険みたいでドキドキしない?」

「遊んでいるわけではないです。」

 ミクの前だから真面目ぶっているが、実はとてもドキドキしている。それに、ちょっと楽しんでいる。

「ねぇ、逃げるってどこへ?」

 ミクが小声で聞いてくる。

「ミク、向こうからこちらへ来るときのこと、僕に話していないことがありませんか?」

 僕も小声で話す。

「話してないこと…?」

「僕の真似をして、風節の踊りを踊ったとか。」

 この部屋はパーティーの前に待っていた部屋だ。人がいないと、広く感じる。

「あれ?話さなかったっけ?」

「あのとき、僕は具合が悪くて。その前のところが分からない。きっかけは何だったんですか?」

「えーと、どうだったかなぁ…戸隠神社で、お参りの後…お婆ちゃんの家に帰って。うーん……。早く寝ちゃって…夜の2時くらいかな?目が覚めて…石が急に光り出したの。石が行きたがっている場所が分かって、歩いて行けるはずのない神社まで歩いていたのよ。」

「その時にはもうおかしかったということですか?」

「おかしかったわ。あのとき、なぜかしら、あなたと同じことをすれば何か分かるかもしれないって思ったのよ。それで、この体で踊るなんて無理だと分かってたのに、踊ってみたんだわ。」

「…試してみませんか?」

「何を?」

「何がきっかけなのか良くわからなかったけど、祭壇の前で踊ってみたら、向こうに帰れるかもしれない。」

 僕達はいつの間にかエントランスホールへ来ていた。大階段の向こうから曲が聞こえる。

「ねえミク、やってみましょう。僕も踊ります。ミクはここにいてはいけない。この世界に巻き込まれてしまう。」

「ええ…でも私、お世話になった人に挨拶しないと。それにお金も返してないし、……このままあなたを置いていけない。」

 そんなこと、どうでもいいのに。早く帰らないと取り返しのつかないことになりそうで、僕はとても不安なんだ。

「挨拶も、お金のことも何とかする。僕のことも、大丈夫です。」

「駆け落ちの相談をするには少し若すぎるんじゃないか?」

 !!


 階段の上から突然声がして、僕達は息が止まりそうになる。

「ボルス様!?」

「ボルス様!?」

 僕とミクの声がぴったりと重なる。最悪だ。一番会ってはいけない人に見つかってしまった。

「二人で手を繋いで、逢引きとは、困るなぁ。いくら君でもうちの娘はあげられないよ。」

 ボルス卿は面白そうにしながら、お酒を飲んでいる。

「ボルス様、何で!何でミクを!」

 僕はミクを庇うように立ち、階段の上にいるボルス様と向き合う。

「君はここでは身分をわきまえなさい、ハーディパスト。彼女は王女だ。君のものではないよ。君ほどの人気ではないけれど、彼女の可愛さに欲しいと言ってくれる男性が何人もいるのでね。彼女を拐うなら、私の顔を立てて彼らと決闘をしなくては。」

 ボルス様はゆっくりと降りてくる。走れば逃げ切れるか?逃げたところで、神殿についてもそこで追いつかれてしまう。かといって、街へ逃げたところで、知り合いはいない。

 冗談なのかどうか分からない。顔は変わっていないが、目の奥が笑っていない。身分をわきまえなさいと言われたことに対して少し怯んだ。

「失礼しました、ヴォルティスパスト殿下。しかし、彼女は帰らなければいけません。僕になら出来るかもしれない。」

「自惚れるな、ハーディパスト。彼女が帰る方法は今のところない。君よりも私の方が王家の力については詳しいのだよ。」

 ボルス卿は真顔になり、僕をしっかりと見据えて言った。

「彼女は、僕です。彼女を返すことが出来るのも、僕だと思うのです。行かせて下さい。」

 ボルス卿が階段を降りきってしまった。もう、頭がまわらない。

「ボルス様。私が帰ると、ハーディ君の代わりがいなくなって困りますか?ハーディ君が神様になった後で、私はグロウス家に入る方が都合がいいのですか?それで私が向こうへ帰ることに賛成できないんですか?」

 ……ミクは何を話しているんだろう。僕は訳がわからなくて、ボルス卿とミクを見比べる。

「ミク、気がついていたのかい?でも、それは勘違いだ。彼が消えても君が帰る方法は探し続けるよ。」


「なんの……………話?」


 僕が神様?消える?ミクがグロウス家に入る??二人は何を知っているの?全く話が分からない。

「ハーディ、あなた、王様にこの土地を治めるために生け贄にされるのよ。神様になるの。」

 話が何もわからなすぎて、ただ、首を振る。ミクにも裏切られたような気になる。この世界にいながら、ミクが知っていて僕が知らないことがあるなんて。

「君は後継者様だよ。…名誉な事なんだ。」

「そんな!生け贄です、ボルス様!ハーディが死ななければ殿下が王位についても国は倒れてしまうのでしょ?」

「ちょっと待って!待ってください!僕の話をしているのに、何がなんだか分からない。………僕は、死ぬのですか?」

「ハーディパスト。君はこの国を救う事が出来る。君にしか出来ない。分かってほしい。」

 質問の答えになっていない。何を言っているのか、全く理解できない。僕はミクと神殿に行こうと思っているのに。夜に神殿に行けるチャンスは今しかないじゃないか。

「ミクを向こうへ帰せるか試してからではいけませんか?」

「ああ。いけないな。まずは私の話を聞いてほしい。ミクのことよりも、君の時間の方がないだろう。」

 僕の時間?僕は、時間がないのか?話なんて聞きたくない!今すぐに逃げたい!僕はミクの手を離し、拳を握りしめる。大人の話なんてもう嫌だ。大事なことは何も教えてくれないくせに。僕のこと、放っといてよ。

 下を向いたまま大きく深呼吸をする。

「…分かりました。もう、逃げません。ごめん、ミク。すぐにお母様やお父様、ヒマリちゃんに会わせてあげられなくて。」

「ハーディ!やめてよ。あなたのことも大事なの。今、向こうに帰ってもあなたの事が心配で、普通になんか暮らせない。」

 こうして、僕達の脱走計画は失敗に終わった。僕の小さな反抗は、何事もなかったかのように握り潰されて、僕の心ごとぐしゃぐしゃに丸められてしまった。僕はヒーローになりたかっただけかもしれない。ミクが目の前で拐われてしまったことを取り返したかったのかも。どちらにしろ、また空回りだった。全部、意味がなかった。最悪の結果だった。

 僕は情けなくて、悔しくて、赤い絨毯から目を離すことができなかった。





―――――――――――――――――――――――――――――――


 続

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