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僕と私の世界事情  作者: Hollyhock
2/4

世界を2つ持つある二人の話

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在の物とは関係ありません。

 一、


 風がとても強い日だった。外を歩くには困難なほどに。石造りや煉瓦造りの家が多いのは、今の季節を意識して造られたのだろう。気温はそれほど低くはないが、強風と砂ぼこりのためとてもじゃないがコート無しでは歩けない。

 僕の父様は外交をする大臣だ。しかし、今は領主の代理を勤めている。つまり、二つの仕事で忙しい。他人に構っている暇なんてないだろう。

 僕のせいで、一人の幼馴染みの女の子が捕まってしまった。この国では無実でも罪を着せられてしまうことを僕は知っている。ここは僕が助けにいかなくては。

 ここは警ら隊事務所。僕が居た領主館からはそれほど離れていない。ライラは無事だろうか。

 石造りの建物に取り付けられた木の扉を開き、もう一つ内側のドアを開けると、目の前に受付があった。カウンターの後ろに、3人の女性が座っている。他に人はいない。暇そうな職場だ。

「すみません。」

 僕はその中の一人、最初に目が合った真ん中の女性に声をかけた。

「僕はハーディパスト・グロウスといいます。お聞きしたいことがあります。お時間よろしいですか?」

 実は内心とても緊張している。知らない場所で、知らない人と話す。礼儀は出来ていただろうか。失礼はなかっただろうか。僕はどう見ても子供で、もしかしたら取り合ってもらえないかもしれない。

「はい。どうしましたか?迷子?」

「いえ、ライラという女の子が、風節の祭の時に僕を助けるために捕まったと聞きました。彼女は僕を助けるために、本当はいけないことだと知っていて、やったことなのです。ライラは悪くないんです。彼女を返して下さい。」

 自分でも今のはおかしいと分かる。いきなり何を言い出したのかと思われてしまってもおかしくないな。受付のお姉さんは不思議そうな顔をして、僕の事を見ていた。

「ひょっとして、君。あの『風節の踊り子』?」

「………はい。」

 一瞬、なんの話をしているのか分からなかった。僕にそんなあだ名がついているとは思わなかったな。

「うわぁ!やっぱり!似ていると思ったわ!お姉さん、君のファンなのよ。この間の踊りは本当に素敵だったわ!真っ暗な舞台の上で、君と君の持つ剣だけが耀いてて、幻想的っていうのかしらね。まるで幻でも見ているようだった!君みたいな綺麗な男の子、お姉さんの周りに居なかったから、最初、男の子だなんて信じられなかったわよ。遠目に見ても綺麗だったけど、近くで見るとさらに綺麗ね。暗い中だと君の髪は金色に見えるのよ!それにあの衣装もとっても素敵!君しか着れないわよね。似合いすぎだもの。白い布と金刺繍のベルト、腕輪や足輪がキラキラ光って、君がまるで異国の王子様みたいだったのよ!」

 ああ。良くない。怖いな。勇気を出したのに、やはり僕では話を聞いてもらえないのか。大人と来るべきだった。

「ちょっと、ちゃんと仕事しなさいよ。それで、『風節の王子』くんが何の用だって?」

 隣の受付のお姉さんが助けてくれた。あだ名が変わってる。

「ライラという、僕より少し上の歳の…女の子が僕を助けるために捕まってしまったと聞いて。」

「ちっちゃい彼氏が彼女を助けるためにこんな風の強い日に来るなんて、本当に王子様ね。少し待っていてね。」

 勘違いをしているようだ。お姉さんは嬉しそうに席を立つとどこかへ行ってしまった。僕は待つより他にはなかった。

「君、グロウスっていった?」

「はい。僕はハーディパスト・グロウスといいます。こんにちは。」

 先ほど助けてくれたお姉さんともう一人が、僕を待ち合い用の椅子に案内しながら聞いて来た。このお姉さん達には挨拶がまだだったので、しておく。

「失礼ですが、カルナス・グロウス様のご子息ですか?」

「はい。カルナスは父です。」

 父様は有名なのか。名乗らない方が良かったのかもしれないのか?僕の行動が父様に迷惑をかけてしまうかもしれないな。

「やっぱり!カルナス・グロウス様はお元気ですか?」

「?あの、失礼ですが、父とはどういう知り合いですか?」

「違うのよ。あの方はこの辺りでは有名人よ。若いときから弓がお上手で、火節の射儀では、とても素敵だったのよ。今の領主様になるより昔からグロウス家はこのルスターシ領の領主の家系だし。今では、遠い存在になってしまってさみしかったのよ。なるほどね。だから君が踊り子なのね。」

 ここの人はよくしゃべるな。二人に囲まれて圧倒されてしまい、返す言葉が出ない。しかし、時節の祭に父様も出ていたのか。初耳だ。

「あの方が大臣になる前は、ここの領主様になるはずだったんですよ。とても綺麗な奥様を連れて戻ってこられて、私たちも楽しみにしていたんですから。」

 楽しみ?何をだろう。領主になることを?いまいち話が掴めないな。

「本当に綺麗な子ね。お母様そっくり。まつげが長くて、緑色の瞳。遠目では金髪に見えたけど、淡い栗色なのね。『風節の王子』なんて、誰がつけたか知らないけど、ぴったりだわ。」

 僕を見ながら、目の前で何の話をしているんだ。あまり見ないで欲しい。恥ずかしくて、帰りたくなってしまう。早く、さっきのお姉さん戻ってこないかな…。

「お待たせ。分かったわよ。風節の祭の時に神殿への侵入で捕まった女の子が確かに居たわ。祭りの時はいつもたくさんの人が捕まるものだけど…事例が特別だったのね。別にしてあったから、すぐに判ったもの。」

「ライラ!間違いないと思います。会えますか?」

「でも…、おかしいわね。もう釈放されているわ。おうちに戻っていないの?」

「…え?」

「身元引き受け人はカルナス・グロウス様のサインだったわ。」

 父様のサイン…何で。ライラのことを何で教えてくれなかったんだ!領主館じゃなくて、家に戻ったのか?じゃあ、アドリアは?ライラの母親なのに、なぜ教えてくれなかったんだろう。とんだ空回りだ。僕がここまで来た意味はなかったじゃないか。

 いや、僕が誰にも聞かなかっただけか…。とにかく、領主館へ帰ろう。ここに長く居たら、いつまでもこのお姉さん達の話を聞かなきゃいけなくなる。

「わかりました。僕は今、領主館に居させて貰っているので、彼女だけ家に戻ったのかも知れませんね。ありがとうございます。」

 僕は笑顔でお礼を言った。内心は外の風のようにぐるぐると吹き荒れていたが、なるべく何でもないように振る舞った。説明くさくて、逆に不自然だったかと後から気付いたが、もうどうでもよかった。

 事務所を出ると、領主館に向けて風の強い中をひたすら走って帰った。


 領主館に着くと、またすぐに大人に囲まれた。僕の周りの大人は少し心配し過ぎだな。だいたい、ここは家ではないから誰に何を言えばいいのか分からない。だから、外出したくても言えなかったんだ。コートを脱がされ、砂を払われ、髪を整えられ、手と顔をタオルで拭われながら、いくつもある応接室のひとつへ連れていかれる。

「ハーディ!戻ったか!良かった。なぜ勝手に外に出たんだ?!」

「父様!ただいま戻りました。勝手に外出してすみません。ライラに会いに行こうと警ら隊本部の事務所へ行って参りました。」

「いくら、お前が賢かろうが、供の一人も付けずに家を出るな。家の周りならまだしも、ここは街中だ。何があるか分からないだろう。」

「…はい。ごめんなさい。」

 父様も心配して、お仕事の手を止めて待っていてくれたようだ。僕は、考える前に行動してしまう癖があるんだ。結局、父様にご迷惑をかけてしまったようだな。

 だけど、父様が言っておいてくれれば、僕は行かなくても済んだのだ。だから、それほど悪いことをしたとは思っていない。でもまぁ、一人で出たのは確かに悪かったし、心配をかけてしまったのは失敗だった。僕は素直に謝り、父様に頭を下げると、向かい合って座った。

 落ち着いたところで、父様は口を開いた。

「ライラはどうだった?」

 …何だって?!父様から、その言葉を聞くとは思わなかった。父様がライラを釈放したのでしょう。知っていて、それを聞くのはズルい。僕は腹が立ったが、力を入れて堪える。

「…ライラは…父様の名前で釈放されていました。」

「なんだと?どういうことだ。」

「それを、父様に聞こうと思っていました。」

「……私は知らないよ。実は、ライラのことを釈放するようにルスターシ領の領主の名で警備府へ書簡を送った。返信はなく、気になっていたんだ。職務に追われて後回しになってしまっていたのだ。すまない。」

 そしたら、彼女は行方不明じゃないか!父様の代わりに父様の名でライラを連れて行った人がいる。家に戻ったのか、ライラの母の実家へ行ったのか。誘拐されたのかもしれない。

 ライラだって、自分を迎えに来た人が父様ではないことくらい分かったはず。

「父様、お願いがあります。ライラを探します。それと、ヴォルス殿下にお話したいこともあります。王都へ行けば何か情報があるかもしれません。僕が家を空けることを許して頂けませんか?」

 僕はずっと考えていた事を父様に話した。初めてかもしれない。父様に何か言うのは。

「それは出来ないな。ライラのことは心配だ。だが、彼女のためにお前が危険な道を行くのを許す訳にはいかない。ヴォルス卿にはお前なら会えなくもないかもしれないが、すぐには無理だろうな。彼は皇太子という立場がある。急ぐ事でなければ、書を書いたらいいだろう。いいかい。家を出てはいけない。もし、体調が安定しているなら一度家に帰りなさい。」

「…わかりました。」

 分からない!どうして分かってくれないんだ!ライラが行方不明だ。誰かに拐われてしまったかもしれないんだ。今すぐ助けにいかないといけない。父様は、仕事が忙しくて探せないじゃないか。それなら僕が行くしかないだろう。それがなんで駄目なんだ。



 二、


 僕は次の日、家に戻った。戻らされた。だが、やはりライラの姿もみえず、乳母も知らされていなかったようだ。乳母は父様が釈放のために書簡を書いていたことも知らなかった。僕に出来ることは、ヴァンスに言って、乳母をお休みにしてもらうくらいだった。実家へ行ってもらうことにしている。

 先生も居なかった。屋敷に人が少ないな。困ることはないが、不安ばかりがある。ここで出来ることは、剣の練習と読書と乗馬しかない。僕は庭師の息子のルードを誘って、庭園にいた。みんなには内緒でルードが作った秘密基地がある。低木を円形に並べると中心が空いて3人入れるスペースができる。お気に入りの場所だ。

「ルード、僕はライラのこと助けられなかったよ。僕は早く大人になりたい。このまま何も出来ずにずっと家に隠れて暮らすなんて耐えられないよ。」

「ハーディ、君は立場があるからしょうがないんだと思う。本当は、俺だって君に話しかけちゃいけないって言われてる。俺やライラは代わりがいくらでもいるけど、君は特別だろ?」

「そんな!僕には君達しかいない。代わりなんていないよ。ライラもルードも僕は兄弟だと思ってるのに。…僕は偉い人っていうのがどういう意味なのか分からないけど、特別なんかじゃない。同じ人だよ。何も違いなんてないじゃないか。」

 僕はきっと父様に言われたことにまだ腹を立てていたんだ。だから、怒っていた。

「ハーディはさ、人っていう大きな目で俺たちを見てくれているからそうやって言えるんだ。でも、実際は人の中にも上下があってさ、その社会の中で生きているんだよ。人の中でも、やっぱり君は特別なんだ。じゃないと、俺が君に使えてるっていうことが成り立たなくなっちゃうだろ?もし、俺と君が同じなら、俺の居場所はここにはないよ。ライラも同じさ。」

「そうかもしれないけど…でも、それはライラを探さないのとは違うよ。だって、もし僕が二人より上だというのなら、僕は二人を守らなきゃ。」

「偉い人がみんなハーディみたいならよかったのにな。」

「え?」

「偉い人はそんなこと思わないよ。俺らは主人のために存在していればいいんだ。逆はない。主人が俺らのために何かする必要はないんだよ。」

 僕はそんな人間に成りたくない。それのどこが偉い人なんだ。全然偉くないじゃないか。今日のルードは腹が立つ!

「じゃあ、ルードはライラを諦めるの?!」

「そうは言ってないだろ。」

 ルードはニヤリと笑った。

「俺に考えがあるんだ。」

 それからルードは僕に計画を話してくれた。彼はすでに動き始めていた。やはり、僕と同じように、ライラが父様じゃない人にそんなに簡単には付いていかないと考えて、彼女が信用して付いていくくらいの顔見知りだと考えた。男の人で、ライラも信用をおいていて、父様の名前を使える人。ヴァンスかストック先生。ヴァンスは違う。ずっと家にいて、働き手のライラを閉じ込めていては、ヴァンスの方が困るだろう。ルードは先生が怪しいと考えて、知り合いに先生を見張らせているらしい。ストック先生がそんなことをする理由も思い浮かばなかったが、他に宛がない。先生の家は街にあり、たまに森の中の山小屋で何かの勉強をしているそうだ。今はその山小屋にいることが分かっている。

 すぐに行って確かめたいが、僕が家を出る方法がない。父様の言い付けで必ず大人と一緒にいなければならない。

 厩の屋敷のメイドの息子が、兵士の見習いをしている。彼とルードと僕で、気晴らしに近くの丘の上で昼食をとり、夕方までに帰ると言う口実で、家を出る。僕は馬に乗り、丘の上の木に馬をつなぐ、この馬は厩の屋敷から見えるから、僕らはそこにいるだろうと安心させておいて、こっそり森の中へ行けばいい。完璧だな。決行は明日。


 イタズラをする前の緊張感と、悪いことだという罪悪感で僕の心は揺れていた。人を騙すのは良くないことだ。でも、他の方法は僕には思い付かなかった。

 僕は厩の屋敷のメイドの息子ニルスと、ルードと昼食を持って出掛けた。作戦開始だ。ニルスにはルードが計画を話している。ニルスは僕の護衛という名目で、街の警備を休んでくれたようだ。彼は焼けた肌と、黒っぽい茶色の髪をした、黒い目の青年だ。年はミクの世界でいう高校生くらいだろう。面白そうだと言って喜んで参加してくれた。

 森の小屋はそれほど遠くはない。が、近くもない。乗馬用の服を狩用の服へと着替え、靴も替えた。何も持っていかないのは心もとなかったので、短剣を持った。外装が美しく、僕が産まれた時に作られたものだという。つまり、お祝い用の短剣。とても使えるものじゃないだろう。お守りだな。ニルスとルードはしっかりと護衛の格好をしていた。ニルスはいい。ルードは少し可笑しかった。

「用意はいいね。行こう。すぐに戻るから、少しここで待っていてくれ。」

 僕は馬の友達に声をかけて、森へ向かった。

 不思議と森の中は静かだった。僕らの草を踏む音だけが聞こえる。風もあまり強くない。それに肌寒い。森の匂いがした。

 ルードの案内で、森の中を進んだが…道があった。舗装された道じゃない。が、草が少なく、進む道筋が分かるという程度の道が。

「ここは、人が通ってるってことだよね?」

「ハーディはそういうのよく気付くよな。俺らが作った道だよ。山小屋とその先の沢まで続いてる。本当はもっと先まで作りたかったんだけどな。」

 草木のことに詳しいのは、こういった経験があるからかもしれないな。

「全然知らなかった。ルードは森に来ていたんだね。」

「君を連れて来れると思うか?親父に殺されるよ。」

「ルードは本当にハーディ坊っちゃんと仲がいいんだな…」

 僕とルードの会話を聞いていたニルスがポツリと言った。

「ニルスさんはルードとは知り合いだったのですか?」

「ニルスと呼んで下さい。こいつに山小屋の場所を教えたのは俺ですよ。こいつ、ガキのくせに俺らが森で遊んでるところについてきちまって、それから森仲間に。」

「ガキって言うなよ。」

 ルードが膨れている。僕とライラの三人の時はいつもリーダーで、頼もしいのに、ニルスにとってはルードも子供なんだな。

 森をしばらく進み、お腹が空いたので休憩をする。そしてまた歩く。僕は少し、色んな虫や動物が見られることを期待していたのに、何も現れなかった。

 少し、足が痛くなってきた頃、山小屋は突然見えた。しかも目の前に。こんなに近くまで来ているとは思わなかった。心の準備が出来ていない。中から話し声が聞こえた。

「…警告はしたんですよ。脅すような言い方は好きになれなくてね。子供に恐怖感を持たせるのは心が痛みました。」

「でも、結局ダメだったじゃないのさ。あんたの計画は失敗だな。どうするんだ?頭いいんだろ?先生様よぉ。」

 女の声と…先生。

「彼はなかなか純粋で頭がいい。そう簡単に思い通りにはなりませんね。ヴォルティス本人が来るのは予想外でした。彼に何を話したのか…」

 きっと、僕のことを話している。ルードとニルスも分かったようだ。三人で、顔を見合せ、一度物音を立てないように気を付けながら小屋から離れる。

 しばらく無言で歩き、わざと道を逸れて大きな木の根に腰をおろした。

「先生と傭兵みたいな女の人が話してたね。」

「ハーディのことを罠にかけようとしていたみたいな言い方だったな。」

「ヴォルティスって、皇太子殿下だろう?呼び捨てなんて、すごいな。」

 思えば、先生はボルス卿が家に来るとき、いない気がする。先生とボルス卿は仲が悪いのか。

「先生はやっぱり悪い人だったのかなぁ。僕は先生はいい人だと思っていたのに。」

「それは分からないけど、これからどうするんだ?」

「小屋には大人が二人、一人は腕が立ちそうだ。いったん戻ったほうが…!!」

 がさがさっという音がした。ストック先生や、あの女に気付かれたのか?三人で、息を潜める。

 しばらくそうしていたが、誰も来ない。もう大丈夫だろうか?ニルスが立ち上がり、辺りの様子を伺う。僕は少し疲れたみたいだ。目が霞む。よく見えない。

 何も音はしないようだ。

「もう大丈夫そうだな、じゃあ、いちど…!!」

「危ない!ニルス!」

 ニルスが僕たちの方に向き、声をかけようとした瞬間だった。黒い獣が急に膨らみ襲ってくるのがぼやっと見えた。あいつ!ひょっとして!

 ニルスは肩から背中を爪で切られる。獣は立ち上がったのだ。膨れ上がったように見えたのは、四つ足から、二つ足になったからだ。恐ろしい。足が動かない。ニルスとルードが剣を構える。剣!そうだ。僕も持っていた。探し出して柄を握る。こんなナイフでは役に立たないが何もないよりはいいだろう。

 黒い獣は熊と狼の中間のような見た目をしている。なんという名前の獣かは知らない。人間を食べるのかどうかも。縄張りに入ったのは僕達で、あの獣は入ってきた人間を追い返そうとしているだけかもしれない。どちらにしろ、危険だ。

「森の獣は素早く動くものを襲ってくるぞ。ルードとハーディ坊っちゃんは俺の姿が見えなくなるまでゆっくり下がれ!それから、全速力で走るんだ!」

「ニルスはどうするのですか!」

「隙をみて逃げる!」

 ニルスが指示を出す。僕もルードも迷っていた。

「俺一人なら逃げ切れるから!お前たちがいると逃げらんねぇんだよ。早く行け!」

 どちらからともなく、僕とルードは少しづつ後退した。剣を構えたまま、少し距離を取ると思い切り走り出した。

 あいつはたぶんアリシャを傷つけたやつだ。ボルス卿が倒したと言っていたから、仲間かなんかだろう。あんなのがいっぱいいるのは困るな。

 とりあえずは追ってこない。森は走りにくい。木の根に躓いて転びそうになる。

「ルード!ニルスは大丈夫かなぁ?」

「あの人結構強いはずなんだよ。だから兵士になりたいなんて言ったのさ。」

 少し速度を遅くして、息を整える。

「どうする?ニルスを待つ?」

「待つにしても、ハーディは丘へ戻ったほうがいいだろうな。」

 また、僕だけそんな。弱いかも知れないけど、男だから大丈夫だ。

「僕だって戦えるよ。剣も持ってきたんだ。」

「そんなもん、使えるかよ。」

 そうだけど…。

 また、草擦れの音!人か、獣か。音の感じが獣だ。あいつはこっちを追ってきたのか?!

「ヤバイな。話してる暇はなかった。もっと走れば良かったんだ。」

「さっきヤツだと思う?それとも仲間だと思う?」

「さぁな。」

 草の音がしなくなった。さっきもそうだった。油断は出来ない。僕は握っていたあの役立たずの剣を構えた…が、何か変だ。剣がさっきより軽い?

「おーい!ルード、ハーディ坊っちゃん無事か?」

 ニルスの声がする。良かった。無事だったようだ。ニルスが近くまで来てるんだ。獣は逃げたのかもしれない。

「良かった!ニルス!」

「うわぁ、バカ!あんまり大きな声出すなよ。」

 つい、安心して大きな声を出してしまってルードに注意された。迂闊だった。

 しかし、声を出したお陰でニルスが合流出来た。彼はとても信頼できる。僕ら二人だけなら、今ごろどうなっていたか分からないな。

「獣は?ニルスは無事ですか?」

「ああ。大丈夫です。不思議なことに獣は静まって、逃げて行きました。」

 安心したら、なんだかとても疲れてしまった。立っていられない。

「大丈夫か?ハーディ?!」

「ごめん。ルード。ありがとう。少し休ませて。」

 短剣をルードに渡し、側にある石の上に座る。

「あつっ!!」

 ルードは剣を取り落としてしまった。鞘が抜けて刀身が現れる。

 ?………光っている。青白く。

「ミ、ツ、ケ、タ…。」

「え??今、何か言った?」

 確かに何か聞こえたのにな。二人の顔を見ると不思議そうな顔をしている。ルードが剣を拾い、膝の上に置いてくれた。

「水を飲みますか?ルード、荷物に水が入っていただろ?」

「あぁ。」


 !!!


 草の音!森の中から、先程の黒い獣が出てきていた。逃げなきゃ!今は走れそうにない。どうする。ニルスとルードが剣を構える。さっきと同じ状況。同じようにすべきか?

 だが、黒い獣には攻撃の意思がなかった。

「ア、ン、タ、ダ…」

 この声か音か分からないものは黒い獣から出ている。僕を見て。僕は不思議と恐くなくなっていた。この獣が何か言いたいらしいということが分かったからだ。

 僕は立ち上がり二人の前へ出ると、獣をまっすぐ見た。獣は立ち上がっていた体勢を四つ足に戻し、静かに僕を見返す。

「おい。ハーディ!」

「二人とも、大丈夫みたいだから、剣を収めて下さい。」

 二人は、しぶしぶという感じで剣を収めたが、いつでも抜けるような体勢をくずさなかった。

「何か言いたいことがあるのでしょ?聞きます。」

「オ マ エ、ヒ ト ノ オ ウ、ヤ マ ノ オ ウ、ドッチ」

 お前、人の王、山の王、どっち?なんだそれ。僕はどちらでもない。

「僕はどちらでもないよ。君たちの縄張りに入るつもりじゃなかったんだよ。ごめん。」

「ダ イ チ ノ ツ ル ギ 、ツ カ ッ タ。ナ カ マ ノ ヤ マ イ、 ナ オ シ タ?」

 大地の剣?仲間の病を治した?

「ヒ ト ノ オ ウ、ナ カ マ ヲ ヤ マ イ ニ シ タ。ヤ マ イ ノ ナ カ マ キ ッ タ 、ユ ル サ ナ イ」

「すみません。なんのことだか分からない。僕に出来ることは?」

 獣はじっとこちらを見ている。何を考えているのだろう。

「ヤ マ イ ナ オ シ タ、オ マ エ ダ ロ ウ。カ ン シ ャ ス ル」

 それだけ言って、どこかに行ってしまった。何だったのだろう。人の王が仲間を病にした?国王陛下のことだろうか。病の仲間を斬ったというのは、恐らくこの間のことだろう。病が治り獣が暴れなくなった?僕がしたことなんだろうか。感謝すると言われても、僕には自覚がない。

「おい。さっきのなんだよ。」

 ルードがこちらを睨んでいる。何かしただろうか。

「僕にも分からないよ。人の王とか、山の王とか。どうやら僕が、その剣で獣の病を治したらしいけど。」

「話したのか。」

「え?」

「話をしていたのか、と聞いたんだ。」

「聞いていたでしょ?」

「聞こえていない。お前の言葉も不明だった。お前、あの獣の仲間なのか?なぜ初めから俺達を助けなかったんだ!ニルスは怪我をしたんだぜ?俺達みんな死ぬところだった。」

「やめろ。ルード。彼のおかけで助かったんだ。それに、俺の怪我は何故か塞がってしまった。痛みはあるが、何ともない。彼も戸惑っているようだしな。」

 二人とも、獣の言葉を理解していなかった。それに、僕は普通に話したつもりなのに、僕の言葉も不明だったという。僕は何者なんだ。ひとじゃないのか?



 三、


 ハーディにならなくなって、どのくらいたっただろう。もう10日くらい、向こうへ行ってない。ハーディはどうなったのだろうか。踊りのせいで死ぬなんてことないと思うけど。こんなに入れ替わりがなかったのは初めてだ。本当にただの夢だったのかもしれないと思えてくる。私は、もう未来みくだけの私になってしまったのかな。ボルス様が初潮を迎えると力が無くなるようなことを言っていた。何か関係あるのかもしれない。

 いよいよコンクールだ。明日。もう、ここまで来たらやるしかない。夏休みに入ってからもほぼ毎日部活に行き、頑張った。だからこそ、ハーディのことが気になる。向こうで毎日、踊りの練習をしていたし、前日は緊張していた。今、私は緊張している。楽しみもある。どんな会場なんだろう。舞台に乗るのは、未来としては初めてだ。これがハーディなら、失敗することはないって言い切れるのに、心配性の未来は失敗するかもしれないと思ってる。

 明日の持ち物は、お弁当と水筒。制服は夏制服。楽器は学校から自分で持っていくから、家から持っていく荷物はなるべく軽く。毎日、暑いからタオルは2枚いれておこう。あと、御守り。これはお母さんが作ってくれた御守り。いつもは鞄に入れっぱなしだけど、明日は制服のポケットに入れて、応援してもらおう。

 ああ!あと、大事なもの。同じパートの三年生にお手紙を書いたんだ。一年生のみんなで考えて、自分のパートの三年生に手紙をかく。部長と、副部長には花束を用意している。コンクールが終わったあとのサプライズだ。明日のコンクールは実は予選らしい。それに勝つと全国大会に行くようだ。詳しくは分からないけど、全国大会に行ったとしても、おめでとうでサプライズ、行けなかったとしたら、お世話になりましたのサプライズだ。基本的に、このコンクールが終わったら、三年生は受験に力を入れる。部活は自由参加になるのだ。全員がそろってやることも、もうないかもしれない。本当に最後だ。うぅ。泣いちゃう。先輩たちがいなくなっちゃうのはやだよぉ~。明日は朝から泣きそう。先輩たちに最後のコンクールは勝ってもらいたい!もし、勝ったら、全国大会まで一緒にいられる!そしたら、10月くらいまで、先輩たちと一緒に舞台に立てる。絶対に失敗しない。回りの音をよく聞いて、指揮をよく見て、呼吸を合わせる。よし。頑張ろう!


 次の日、朝早くから部室に行き、打楽器や大きな楽器をトラックに積み込んで、自分の楽器を持って、出発だ。

 会場に付くと、トラックの到着を待って、楽器を下ろす。出演までは時間がある。

 音だしのできる部屋へ行き、音だし。

 たくさん時間があるはずなのに、今日はやたら時間の流れが早い。出演時間はたしか13:20だから、お昼ご飯のあとだ。今は10時半。少し基礎練習をして、すぐに合奏。

 1、2回通して、すぐに次の学校へリハーサル室を受け渡す。

 あんなにちょっとしか練習できないんだ。もうちょっと吹きたかったなぁ…。

 一度、劇場内に入り、お昼ご飯まで他の学校の見学。うまいなぁ。うちの学校大丈夫かなぁ。しかし、緊張であまり他の学校の音楽が入ってこない。音の表現が凄く上手いところとか、よく音が出ているところは分かるけど、その他は分からない。2~3校見て、すぐにお昼ご飯を食べる。

 そのあとすぐに楽器を出し、音だし、チューニング。

「どうしよう。陽葵ひまりちゃん、いよいよだよ~。」

「いよいよだね~。緊張する~。未来ちゃん、手握ってもらっていい?」

「うわっ、手冷たい!」

「うん。指が動かないよ~。」

 部長から集合がかかる。

「みんな、ついに本番です。今回舞台に乗らずに、裏方をやってくれている子も、舞台に乗る子も、ソロを吹く子も全員が同じ部員です。一人一人が同じように精一杯1つの舞台を作ってくれていると思っています。悔いの無いよう頑張りましょう。手を出して!」

 部長の回りに集まって、手を真ん中に向けて出す。運動部みたい。

「西中~、ファイ!」

「おーーーー!」

 さあ、いよいよだ!

 舞台袖に行く。暗い。少しひんやりとする。そしてカビ臭い?不思議な匂い。

 と、手を捕まえられた。ひまりちゃん?にしては暖かい手。

 薄暗いなかで見ると、亮介先輩だった。うわっっっっ!!!それは反則ですよっ。私の内側が膨れて、熱い。

 でも、よく見ると、トランペット全員が楽器を持っていない方の手を繋ぎあって、小さな輪を作った。やだ。勘違い。

 もう、舞台袖なので大きな声は出せない。5人でおデコがくっつくくらい小さく輪になって、亮介先輩の声が聞こえるようにする。先輩!ち、近いって。

「今回のコンクール、みんなには色々迷惑かけたな。でも、みんな凄く頑張ってくれた。特に一年生の未来は大変だったと思う。だから、きっと上手く行く。頑張ろうぜ。」

 全員が頷く。呼び捨てされたのも気になったけど、もうどうでもいい。よし。行こう!

 前の学校の演奏が終わり、楽器や椅子や譜面台のセッティングをしている。

 先生の合図で舞台に上がる。初めてだ。舞台は木で出来ているんだ。椅子や譜面台の足に引っ掛からないように注意して歩く。自分の場所に座り、楽譜を置いて、前を見る。あれ。幕って空きっぱなしなの??たくさん人がいるのが見える。先輩たちに倣って、息を入れて楽器を暖める。

 目を閉じて深呼吸。私は、風節の舞を思い出していた。あのときは踊り手だった。今日は、演奏だ。目を開けると、明るくなった。うぅ。まぶしい。明るくなったお陰で、客席が見えなくなる。

 先生が出てきて客席に一礼をし、こちらに向き直る。

 タクトを上げる。私たちはそれに合わせて構える。

 曲が始まった。夢中だった。何度も練習した曲、ここは抑え目に。それからだんだん大きく。ここは草原を駆けるイメージで。必死すぎて、自分の音があまり聞こえない。先輩のソロ。スゴい。先輩、今日はとってもいい!なんて格好いいの!ひまりちゃんも頑張っているのが見える。なんだか今日はみんなスゴくいいよ!楽しい!みんなそれぞれ違うことをしているはずなのに、この一体感!これが合奏なんだ。

 曲を最後まで吹き終えると、客席から拍手が鳴った。こんなに清々しい合奏は初めてだった。

 舞台を降りると、みんな興奮していた。舞台袖を出て、楽器を出したリハーサル室へいく。リハーサル室に入ったとたん、拍手が起こった。やりきった手応えと、仲間に対する称賛と、緊張が溶けた安心感で、拍手をしながらめちゃくちゃ喜んだ!私もひまりちゃんと抱き合って喜んだ。大倉先輩が飛んできて、ハイタッチをしていく。もう、今日は最高!自分の楽器をしまい。外に出て、大型の楽器をトラックに積み込む。

 そのとき、だった。私の目がブレる。森の中?ような風景に、知らない男の子。知らないお兄さん。に、襲いかかる黒い獣。

「危ない!ニルス!」

 は?ニルスって誰。叫んだ自分でも分からない。風景が元に戻った。でも、その瞬間、何かの道具が部員の方に倒れてきて、背中当たった。

「キャーーー!」

「誰か!ちょっと先生呼んで!」

「どうしよう!」

 パニックだった。部員とそうじゃない人が入り乱れている。

「未来ちゃん?」

「陽葵ちゃん、また見えたよ。前よりはっきり。」

 私は、陽葵ちゃんの方に向き直る。きっと、情けない顔していたに違いない。陽葵は恐ろしいものでも見たような顔をしていた。

「ちょっと!未来ちゃん、目の色が緑!?大丈夫??」

 え…。緑の瞳??知っているのは一人だけ。そうか。目が繋がったんだ。ってそんなことある?じゃあ、さっきのはハーディの世界…。

「あっつぅ!」

 その時、ポケットに入れておいた御守りが熱を持って、私の太股が火傷しそうになる。急いで取り出した。この御守りの中には、おばあちゃんからもらった石が入っている。石が熱くなるなんて、テレビの特集でやる怪奇現象ファイルじゃん。

「あ。目が戻ってる。」

 陽葵ちゃん、冷静だね。私はプチパニックだよ。部長がその場をおさめる。大きな楽器は積み終わったから、会場に戻って、最後まで他の学校の演奏を聞くように指示が出た。


 全部の学校の出演が終わった。休憩に入る。どこの学校も上手かったなぁ…。でも、あの学校とあの学校よりは絶対にうちの方が上手い。陽葵ちゃんと、小さい声でプログラムを見ながら色々話していると。後ろから頭をぐしゃぐしゃにされた。亮介先輩だった。

「未来ちゃん、ひまちゃん。初めてのコンクールどうだった?」

「最高でした!全国大会行けますかね~!」

「全国!ははっ!それすげぇなぁ。」

 なぜ、笑われるのか…。

「ここで金賞をとった中から、地区予選への代表校を決めるんだよ。今、俺達が出たのは、県予選ね。その次、地区予選があって、それから全国だよ。」

 そんなに先なの??それは無理だわ。

 開演ブザーが鳴る。休憩に外へ行っていた人達が会場に戻ってくる。結果が出たらしい。

 全部の学校の部長が舞台に上がる。発表が始まった。一校ずつ読み上げられる。賞を発表されるごとに、会場のあちこちでそれぞれの反応をしている。

 うちは12番。結果は―――――金賞!!

 うわあぁぁぁぁ!

 会場で騒いじゃダメなのに。大声出しちゃった。でも嬉しい!本当に凄いよ!あんなに頑張ったんだもん!

 全部の学校の発表が終る。

 偉い人が講評を話し始める。というか、知らなかったんだけど、どの学校も金賞か銀賞か銅賞のどれかになるらしい。うちの学校以外にも金賞を取った学校がいっぱいあった。

「それでは、代表校は―――」

 さすがに選ばれなかった。

 金賞は取れたけど、代表にはなれなかった。そういうものなのね。知らないことだらけだなぁ。でも、凄くない?金賞だって!私は、今まで賞なんて貰ったことないから、本当に嬉しい!金賞!金だよ?

 会場を出て、会場の外で一度集合。先生の話と金賞のたてのお披露目と、今日の演奏について一校ずつ書かれた講評を読み上げた。

 今日はこのまま解散。楽器は明後日、一度ミーティングで部室に集まるときに、学校へ戻す。


「あーーーー。終わったね~!」

 私は、いつものように陽葵ちゃんと一緒に余韻に浸りながらブラブラ帰っている。

「終わったね。すごかったね。」

「うん。楽しかった。」

「今までで一番いい演奏じゃなかった?」

「そうそう!」

 しかし、トラックに搬入中の出来事が忘れられない。

「あの、怪我した先輩大丈夫かなぁ…。」

「あぁ。なんか、フルートの先輩、副部長じゃん?ちょっと話を聞いたんだけど、傷はほとんど無かったって。みみず腫と打撲が少しとかって話だよ。」

「良かったぁ。獣に襲われたから、どうなることかと思ったよ。」

「へ?けものにおそわれた?」

 あ。しまった。私は見えてるけど、普通は見えないのよね。

「うん。そうなの。そういう映像だった。」

「なんか、変なこと叫んでなかった?」

「なんか叫んだ。もう自分でも覚えてないんだけどね。」

 森の中にいた。ハーディは生きてた。しかも、やっぱり私と彼は二人に別れたみたいね。何で森の中なのよ。危ないことしないで欲しいわ。こっちにも影響があるんだから。さっきは気づかなかったけど、よく考えたら一人はルードだったかもしれない。見慣れない格好をしてた。

 何だったの。あと、石は偶然?怖いんですけど。呪われた石だったらどうしよう。

 でも、今日はこの気分をずっと味わっていたいから、考えないでいいや。本当に楽しかった。



 四、


 あれだけの騒ぎを起こして、ストック先生が気付かない訳がなかった。状況は最悪だった。獣との会話を見られてしまっていた。僕は体力がなく歩くのもやっとだ。ルードとはケンカをしてしまった。そして、今、山小屋の中にいる。ルードとニルスと女傭兵も一緒だ。ニルスと女傭兵は入り口のドアの両側に立ち。まるで門番のようだ。

「ハーディ君、大丈夫ですか?」

「…。」

「ルード、君にはハーディ君を守るように言っておきましたね。なぜ、あんなことになってしまったのか、経緯を説明してもらえますか。」

「先生が…。…先生こそ何者ですか?」

 ルードは単刀直入に先生に聞いた。そうだ、本当は先生が怪しかったから、調べに行ったのだ。

「どういう…意味でしょうか?」

「先生はハーディ…様を狙って悪いことをしようとしていたんではないんですか?でも、失敗だった。そこの女と話してたのを聞いたぜ?」

「ルード、言葉はいつも丁寧に。…そうですか。もしかして、先ほど近くまで来ていたのはあなた方だったのですね。私も耄碌もうろくしてきたようです。気配を違えるとは。」

 気付かれていたのか。

「先生、ライラはどこですか?」

「ライラ?ハーディ君と共に街へ行きましたね。まさか…ライラが居なくなったのですか?!……………なぜライラが。」

 先生ではないのか?知らないようだ。嘘を付いているのか?僕にはわからない。しかし、先生が知らないとなると、ライラ捜索は振り出しに戻ってしまう。

「僕を罠に嵌めようとして、ライラを拐ったのでは?」

 思いつきで聞いてみる。そんなこと、考えたこともなかったが。

「私ではありません。しかし、彼女のことは心配ですね。…分かりました。信用して貰えるかは分かりませんが、私が話せる限りのことを話しましょう。」

 先生が話した内容は、こうだった。先生は国王陛下の勅命を受けて、僕の教師をしている。勅命は3つ。1.僕に教育をすること。2.僕を守ること。3.僕を監視すること。なぜ国王陛下が僕にそこまでしてくれているのだろうか。お会いしたこともないのに。一つ目と二つ目は分かる。三つ目の監視とはどういうことだろう。

「教育をすることとは、その通り教育をすることです。ですが、ただ知識を教えるだけではありません。あなたを後継者として育てるための教育です。」

 後継者…王様という意味か?そんなはずはない。ボルス卿がいる。

「二つ目の守ること。私は…昔はこれでも強かったのですよ。人知れず、影から何人もの人を殺しました。陛下のお心のままに。ですが今は私が貴方を守らなければならないのです。貴方は産まれながらに、危険な立場にあるのです。」

 殺したとは恐らく暗殺のことだろう。そうか、先生は暗殺のプロだったのか。すごいな。しかし、今は陛下の命令で僕を守る。産まれについては、そうなのかもしれないな。

「三つ目の監視とは、貴方の力のことです。貴方はとても強い力を持って産まれてきました。先ほど、剣が光るのが見えました。あの宝剣は陛下より下された物でしょう。ある、山の民のみが知る鉱山で取れた鉱物を用いて造られた剣です。街の祭壇にあるものと同じ物ですよ。あの鉱物は媒介です。鉱物がなければ、力が使えないわけではありませんが、よりコントロールしやすくなると言われています。私には分かりませんがね。その力は天災を鎮め、傷を癒し、獣を鎮める自然の力を自由に操れると言われています。また、一方では天災を起こし、相手を切り裂き、獣を狂わす力があるとも言われています。まるで、神の力ですね。その力を監視するために、私がここにいるのです。」

 そんな大きな力だったのか。隣国が欲しがっていた力。

「そんな、守るはずの先生がなんでハーディを罠にかけようとしたんだよ!」

「ルード…」

 僕はルードが真剣に怒ってくれていくことが嬉しかった。さっきのことで嫌われてしまったと思っていたのだ。

「ルード、私は罠にかけようとしたわけではありません。ですが、ハーディ君の力が悪い方へ行かないように、仕向けようとしたのは確かです。貴方に周りを信じるなと言っておいて、私の言うことを信じるようにすることで、私が貴方の力を制御するつもりでした。そんなことは間違いでした。」

 悪い方へ行かないように?先生が僕を制御する…?まるで僕は兵器だな。先生は僕の暴走を予期して、それを止めようとした。さっきの女傭兵の話だとそれは失敗だったのか。ということは暴走したのか。だけど、思い当たる節がない。知らない間に簡単に人殺しをしているかもしれないということか。それは…化け物とどう違うんだ。

「先生は、とても詳しくこの力の事をご存知なのですね。僕は今、自分が何者なのかすらわからない。殺されてしまってもしょうがないような怪物なのかもしれません。」

 僕は心の底から、自分が嫌になった。自分が黒く染まっていくような気がする。力が憎い。僕がいるだけでみんなが危険だというのか。こんな化け物は退治しなくては。

「ハーディ君!こうなってしまうのを恐れていました。だからあまり力の話をしたくなかったのです。貴方の存在はかけがえのないものです。時に使い方を誤ると危険だと言うことだけですから。自分を責めてはいけません。それに、獣を狂わす力を使ったのは貴方ではないでしょう。貴方は気を失っていた。力を使いすぎてしまって。」

 もう、遅い。はっきり言って自分に絶望してしまった。僕は化け物だ。

「先ほど、先生は僕が悪い方へ行かないように仕向けようとしたとおっしゃっいました。悪い力の使い方とは具体的にどんなことですか?僕が何をしてしまったのか聞いておかなければいけないと思います。」

 あの獣を狂わせたのが僕ではないなら、僕のことを止めようとして「失敗した」と言った意味がわからない。もし、僕が何もしていないなら、失敗ではないだろう。

「それは…これは決してハーディ君のせいではありませんからね。風節の祭りの後、ある地域に今までにない雨が降りました。水の季節でも見たことのないような雨でした。とても小さな山村だったのですが、その雨で、村は水没してしまったのです。そこに山が崩れ、村は一瞬で姿を消しました。国の治水が行き届いてない村だったのが、村を救えなかった原因です。」

「しかし、雨は…僕ですね…。」

 そんなことがあったなんて、全然知らなかった。じゃあ、僕が土地を治めるためにした舞は何だったんだ。ひどくしてしまっただけだったのか。

「先生、僕の風節の儀式は失敗だったのですね。」

「そんなことはありません。狂った獣は癒され、川の氾濫を抑え、風の流れを正常に戻し、これからの作物の実りをもたらしました。しかし、今年は、あまりにも大きな力が動いた。抑えきれない自然の力によって、大雨が降ってしまったのです。」

 やり過ぎてしまったということだろうか…。自分ではコントロールできない。確かにあの時、意識を失うほどだった。あれが使いすぎてしまうということなのか。

「僕は力のことを知らなすぎている。今まで何も考えてなかったことが信じられないよ。先生、狂った獣とは、獣が言った病のことだと思いますか?病のために狂ったのか、狂うことを病と呼ぶのか分かりませんが。」

「黒い獣の病…病のために狂うか…なるほど!直接狂わすのではなく、自然の力が作用して病になる。それはあの黒い獣――モアから聞いた話ですか?」

 あの獣はモアというのか。あの時の会話は僕しか知らない。僕はみんなにあの時の会話の内容を話した。ルードが分かってくれると嬉しいのだけど。

「なるほど。獣を狂わせたのは人の王、治したのは山の王。病のために狂い、暴走してしまう。貴方の力は山の王の力と同じであり、暴走した獣の病を治すことで暴走を止めた。…私はここで、モアが暴走する理由をずっと調べていたのです。王の力は自然の力、生き物に直接作用する理由が分からなかったのです。他の動物には作用しません。モアだけなのが不思議でした。」

 先生がいなくなる理由。

「調べていくうちに奇妙なことが解りました。ヴォルティス殿下がハーディ君を訪ねて来ると狂ったモアが出る。先ほどのように突然狂ったモアが出ることもあるのですが、確率的には高い。はっきりとした証拠がないので殿下自身がしたことなのか、殿下にも無意識なのかは分かりません。ですが、恐らく無関係では無いでしょう。」

 先生とボルス卿が同じ時に屋敷にいない理由。その時に獣の様子を見に行っていたのか。

「他にも、川が氾濫したり、日照りが続き乾いてしまう現象が彼の周りには多い。貴方も体験されたはずです。」

 まさか、あのときの川の氾濫はボルス卿が居たから?

 ボルス卿が…そんな風には見えなかった。僕は彼が大好きだし、いつも明るく僕に話してくれる。彼も無意識に何かをしているか、何かの間違えだろう。

「貴方の教育係に付く前に殿下の教育係も私がしていまして、あの子が野心家で自信家なのも私が一番よく知っている。ハーディ君が彼に信頼を寄せているのは分かっていたのですが、近づき過ぎることは良くないと考え、お父様やお母様はヴォルティス殿下が原因だと、少し大袈裟にお話したのです。殿下に対して少しだけ、不信感を持ってもらいたかった。彼が陛下を失脚させようとしているという噂があるのです。貴方が彼に憧れを持ち、彼に付いていってしまうと思ってしまいました。あの時はすみませんでした。結局は彼に対して信頼を深める結果となり、貴方は力を使いすぎてしまった。結果、天災が起こり、村が消失。力を使いきり、貴方が命を落とさなくて本当に良かった。彼の目的はあるいは貴方が命を落とすことを狙っていたのではとも思っていましたのでね。」

 そんな。それが本当に本当なら、完全にボルス卿は悪い人みたいじゃないか。それに、それではボルス卿はただ悪い人なだけで、何をしたいのかわからない。陛下は父上なのに、本当の親子なのに、なぜそうなってしまうのだろう。

「私にも、彼の目的は分からない。しかし、彼にも何かの考えがあるはずだろうと思うのです。どうか、その考えが道に外れていないことを祈っています。」

「じゃあ、先生は、ハーディ…様をどうにかしようとした訳じゃなかったと言うんだな。だけどまだ、完全に信じられない。先生の話が本当かどうかは確かめようがないからな。あの女傭兵のことも説明してもらってないし。」

「ルード、君が君なりにハーディ君のことを守ってくれているのは助かります。私のことも、信用せず、君は常にハーディ君を守ってくれるといい。彼女はミルダ。狂ったモアの研究において、手伝ってくれる人が必要でしてね。捕縛の手伝いをしてもらうつもりでした。彼女も陛下の私兵の一人で、傭兵ではなく騎士なのです。心配しないで下さい。しかし、捕縛の必要も無くなってしまいましたがね。」

 先生の話は終わったようだ。僕が何者なのかは分からないけど。少し、疑問が解けた。僕は力をコントロールする方法が知りたい。でなければ、これから無意識に何をしてしまうのか分からないからな。

「ハーディ、あとはお前だよ。」

「ルード?」

「さっきの獣?モア?と話していた言葉は何だ?会話が出来るなら、何故始めからそうしてくれなかったんだ。」

「ごめん。自分でも分からないんだ。会話が出来るなんて知らなかった。それに、みんなにもあのモアの声が聞こえていると思ったんだ。僕はみんなに話すのと同じ言葉で話しているつもりだった。だから、知らなかったんだ。」

「ルード、ハーディ君には言葉使いを特に気を付けなさい。今はいいかも知れませんが、今後困るのは君ですよ。それにしても…私も驚きました。いくつか質問してもいいですかな?」

 僕はそんなに変なのか。あれも王族の力だろうか。質問されても答えられる自信がない。

「まず、状況を見ましょう。以前、狂ったモアをヴォルティス殿下の私兵が斬りました。その後、一度風節の祭りで、獣の病を治したが、今日また病の獣が現れて襲ってきた。ニルスが襲われたのですね。出会い頭では相手の声は聞こえましたか?」

「いいえ、先生。その時は唸り声しか聞こえませんでした。」

「その後、ハーディ君とルードは逃げることが出来た。ニルス、その時はモアの様子は?」

「ハーディ様の剣を見て、すぐにどこかへ行ってしまいました。ハーディ様が走り出すのと同時でした。俺は―…自分はハーディ様が狙われているのだと思い。すぐ二人の後を追いました。」

 ニルスは兵士のような口調できびきびと答える。さっきの、僕とルードを守ってくれた時も格好良かった。ニルスはやっぱり大人だな。

「その時、怪我は?」

「傷みましたが、とにかく必死でハーディ様を追うことのみ考えました。」

「では、ハーディ君、剣が光ったのはいつだったか覚えていますか?」

「分かりません。僕も必死で。鞘から抜くことも忘れていました。この剣は飾り物だと思っていたのです。何か変だなとは思いました。その後、光っていることに気が付いたのはルードに剣を渡した時です。僕が丁寧に渡さなかったので、ルードは取り損ねてしまい落ちた拍子に鞘が外れて剣が光っていると始めて気が付いたのです。」

「違うよ。俺は、ハーディ…様から受け取った時、剣が熱かったんだ。あんなに熱いもの平気で持っていたなんて、信じられねぇ。」

「僕が持っていたときは熱くなかったよ?」

「そんなはずねぇよ!すぐだったじゃないか。」

「おかしいなぁ。でも、獣との会話が出来たのは、剣が鞘から外れた時だったかもしれません。モアの声は声というより、音だと思ったんです。口から出てるというより、音が響いてくる感じでした。一つの音程が一つの言葉に聞こえて、不思議な感じだった。あとはさっき話したように、僕は自分の話している言葉は普通だと思っていたのです。」

「なるほど。では、やはり血の力に関係しているのかも知れませんね。力を使っているときしか、モアとも会話が出来ないようです。」

「そうだったのか…。疑って悪かったな。」

「良かった。ルードに嫌われてしまったのだと思ったよ。」


 その後、丘に戻り、家に帰る。

 僕は一つ目標が出来た。早急に力を制御する方法を身に付けなくてはならない。何をしたらいいのかはよく分からないが、考えはある。試してみよう。



 五、


 コンクールが終わると、私は完全に燃え尽きていた。まだ、3日しか経ってないのに、ずいぶん昔のことみたいだ。部活も休みになり、暑さもあって、何もする気がない。宿題もたくさんあるが、計画を立てたはずなのに、全く意味を成さないほどだ。やらなきゃいけないのは分かってるんだけどね。なんで8月が休みなのか分かる気がする。この暑さは勉強なんて出来る環境じゃないよ。

 ということで、私は明日からおばあちゃんの家に行く。えへへ。初めての一人旅だ。おばあちゃんの家は長野県にある。お父さんもお母さんも全員が休みが合わなくて、私だけおばあちゃんの家に行くことになった。って言うか、してもらった。だって、一人旅したかったんだもん。

 まずは地元から東京駅。東京から新幹線で長野まで行き、そこから乗り換えておばあちゃんの家の近くの駅まで行って、そこからバスでおばあちゃんの家まで行く。一人で行くのは不安だけど、大丈夫。行き方も調べたし、携帯も持ってる。分からなくなったら人に聞く。めちゃくちゃ不安だけどね。

 東京まではその日お休みだったお父さんが一緒に来てくれた。ここまで来るのにも一時間近くかかった。向こうまでは長旅だ。新幹線に乗り、長野へ。

 長野駅に着くと、大きな駅で少し驚いた。いつも車でしか来たことが無かったから、駅に来るのは初めてだ。ここから、ローカル線に乗り換える。長野駅、広い。

 ここでお昼ご飯を食べ、一度休憩だ。待合室でおにぎりでも食べよう。

 しかし、次の電車が出るまではまだまだ時間がある。一時間以上ある。なんなのよ!全然電車がない!乗ってしまえば、35分くらいで着くらしいのだが、乗る電車が来なかったら行きようがない。あんまり歩き回って迷子になったら大変だから、駅の中のお土産屋さんでも見ようかな。

 駅には戸隠神社の宣伝がたくさんあり、杉の参道の写真が印象的だった。その宣伝広告に目を留めたのは見たことがあるからだ。小さいころ両親と行ったことがある。あんまり記憶がないんだけど、今行ったらちゃんと楽しめるかな。確か、おばあちゃんの家からそんなに遠くなかったはず。あ。でも、車じゃないんだった。電車での行き方は…

「迷子かい?家出かい?」

 突然、道行く老婦人に声をかけられた。見た目も普通のおばあちゃんだ。「迷子かい?家出かい?」って突然すぎるでしょ。

「いいえ。おばあちゃんの家に行く途中です。北しなの線が出るのはまだまだ先なので、駅を見てたんです。」

「そうかい。一人でかい?えらいねぇ。気ぃつけてねぇ。」

「あ、あの。すいませんが、戸隠神社って電車だとどうやって行くんですか??」

 分からなかったら聞く!すぐに実行だ。

「電車なんかつかわねぇよぉ。ここからバスが出てるから、それでいきな。」

「ありがとうございます。」

 それから、私はお父さんとおばあちゃんに電話をした。待合室でご飯を食べ、自販機で新しいお茶を買うと電車に乗って、『黒姫駅』へ。

 着いたらそこは誰もいない駅だった。降りてすぐ、駅の向こうに大きな山が見える。けど、他には何もない。これは…本数が少ないの分かるわ。まず、一番困ってしまったのは、どうやって駅から出ればいいのか分からない。一緒に降りた人が何人かいた筈なんだけど、いつの間にか消えている。自宅からずっとsuicaで来たのに、自動改札がない。駅舎に近づくと改札があるはずの場所は柵のようなもので覆われていて、出られない。パイプでできた無人の改札が柵で封鎖されている…。どうすればいいのか分からなくて、駅員さんがいそうな隣の開いているドアから中をうかがう。中は綺麗でかわいらしかった。木造の駅舎にたくさんの広告。なんだ、大丈夫じゃない。駅の窓口が見えた。良かった!人がいる!!

 恐る恐るそこから駅舎に入り、駅員さんに声をかける。

「すいません。今勝手に出てきちゃったんですけど。suicaで出るにはどうしたらいいですか?」

「あぁ。この駅はないから、ここでやるよ。どこから来たんだい。」

「えっと。東京から」

 そう言ってカードを渡す。本当は東京でも私が住んでいるところは神奈川寄りで、川を渡ればもう神奈川だ。だから、東京からはちょっと離れている。

「夏休みに一人旅?いいね!」

「そうなんです。今年は一人でおばあちゃんの家に。」

 駅員さんからカードを受け取るとお礼を言って、おばあちゃんにもう一度電話した。

 バスで行こうと思っていたけど、おじいちゃんがもう迎えに着くころだから、待っていなさいと言われ、待合室に入ってみる。待合室もとても綺麗で、入ってすぐに駅の売店があった。待合室には何人か人がいる。と、象?これって、象の像…や、やめて。寒いじゃない!全力でダジャレを応援しているわけじゃなくて、ナウマン象の発掘がなんとかって書いてあった。寒いのは私だわ。えへへ、勘違い。

 思ったより、賑わってるじゃない。ここの人に失礼だったわ。

 駅の外はひらけた造りになっていて、ロータリーとタクシー乗り場があった。本当ならあそこからバスに乗って、おばあちゃんの家に行くはずだったんだ。

 しばらく待つと、すぐにおじいちゃんが来た。

「おじいちゃん!久しぶり!」

「未来ちゃん。一人でよく来たねぇ。さあ乗って!」

 車に乗り込んでから気づく。おじいちゃんにお土産を渡すのを忘れてしまった。後で、おうちに着いたときにに渡そう。久しぶりに会うおじいちゃんにすこし緊張していた。一年に一度しか会わないんだから、何を話していいのか分からない。

 あまり会話がないまま、しばらくして家に着いた。

「おーい!未来ちゃんきたぞーーーー!」

 おじいちゃんが大きな声でおばあちゃんを呼んでいる。奥からおばあちゃんが出てきた。二人そろったところで改めてご挨拶。

「おじいちゃん、おばあちゃん。お久しぶりです。今日からよろしくお願いします。あと、これ、東京のお土産。お母さんたちから。」

「未来ちゃん!立派になったねぇ。ありがとう。疲れただろう。上がって。今お茶を入れるからねぇ。」

「ばあさん、みくちゃんはジュースのほうがいいだろう。」

「お邪魔します。」

 おじいちゃん達のお家は平屋で、昔ながらの家だった。大きなフクロウのような森の妖精?妖怪?が出てくるアニメのお家に似てなくもない。あんなに古くはないけど。当然、居間は畳だった。すごい!たたみ!!!

「私、畳好きだなぁ。ここに来ると、おばあちゃん家に来たって感じがするー。」

 それから、その日はお爺ちゃん達といろいろ話した。中学生になったこと、部活が楽しいこと。勉強が難しくなったことや、友達の話。あ!ひとつ聞き忘れていた。今回、どうしてもおばあちゃんに会いたかったのはこのため。夕飯の後、テレビを見ながらお婆ちゃんにお守りのことを聞いた。

「お婆ちゃん、このお守り、お母さんがお婆ちゃんにもらった物だって聞いたんだけど、何の石?」

「どれ?」

 私はいつものお守りを持ってきていた。荷物の中から取り出してお婆ちゃんに見せる。おばあちゃんはお茶を入れ終えてから、老眼鏡を持ってきてまじまじと石を見た。

「あぁ!これかい。これは天鈿女命あまのうずめのみこに縁のある石だそうだよ。」

「あまのうずめ?この石光るんだけど、なにか知らない?」

「天鈿女命さまは戸隠神社にいらっしゃるよ。詳しいことは何も分からないけど、この石は古くからあるものなんだ。自由研究で調べてみるといいんじゃないか?」

「ふーん。ちょうど戸隠神社行ってみたかったんだ!自由研究!お婆ちゃん、天才!それいいよ!」

「じゃぁ、じいちゃん明日連れって行ってやってよ。」

「あ!大丈夫!自分で行くのも勉強だから、一人で行ってみたいんだ。なにかあったら電話するね。」

 おじいちゃんはすこし残念そうな顔をしていた。可哀想なことしちゃったかな。でも、おじいちゃんも畑とかあるだろうし、今回は一人旅。なるべく自分でやってみる。あ。でも。

「でも、電車の駅まで送って!」

「電車の駅にわざわざ行くならバス停まで送るからバスに乗って行くといいよ。」

 寂しそうなお爺ちゃんに甘えるつもりだったんだけど、バスで行けるんだ!そっちのほうが断然いい!畑に行く時についでにバス停まで送ってもらうことにした。



 六、


 僕は部屋で、どうすれば剣が光るのか考えることにした。試したいことがある。まずは剣を握り、動いてみること。僕の体温や心臓の鼓動に連動しているかどうか確かめる。次は集中。集中を高めていくことで光るのか。柄を握っている時間の長さに関係しているのか。

 始めは何をしても光ることは無かった。恐かったのだ。何が起こるか分からないが力を使うと何かが起こる。恐れていても何もはじまらない。僕は化け物かもしれないが、自分で解っているかどうかで、単なる怪物ではなくなると思う。落ち着いて、しっかり。光始めたら止めればいい。

 しばらく続けていくと、少し分かるようになった。結論から言うと、全部だった。集中し、一定時間以上体を動かしていくことでしか発動しない。剣の撃ち合いでもいいし、集中して剣の型の練習をしてもいい。だから、剣舞なのか。力を剣に伝える方法は分かった。

 剣を光らせると体が少し軽くなり、剣が吸い付くように一体になったような感じかする。光らせている間の時間の分、多く力が使われるようだ。

 これまでの練習で、何か悪いことが起こったことはない。僕の周りでは、だけど。今は風の季節であり、風に何か起こるのかを試してみたりもした。たか、結局何も分からなかった。どうか、どこかで悪いことが起こっていませんように。

 自分だけでは少し限界だと思っていた。執事のヴァンスに手伝ってもらったりしていたが、彼は力は使えないし、家の仕事もある。先生は何か知っているだろうか。

 ヴァンスに先生を呼んでもらおう。と思ったが、先生がヴァンスを伴い僕の部屋に来てくれた。タイミングがいいな。こういう抜け目のないところはおそらくヴァンスの仕業だろうな。僕が何か悩んでいると思って、先生に話してくれたのだろう。

「ハーディ君、お時間よろしいですかな?」

「はい。先生、よくいらして下さいました。とうぞ、お掛けください。」

 先生をもてなすのはとてもドキドキする。実は作法が苦手だ。言葉の選び方や、相手に気を使わせない方法など、その場で判断することが多すぎて、正解がわからないからだ。相手が知らない大人だと何を考えているのかも分からない。人と話すことが苦手な理由だ。

「では、お言葉に甘えまして、失礼しますね。」

 窓際に設えられたティーテーブルに向かい合って座り、お茶が入るまで待つ。ここは僕の部屋なので、僕から話を切り出さなくてはいけないが、このタイミングと言葉をいつも迷ってしまう。

「えっと、寒くはないですか?お茶をどうぞ。」

「ふふ…。ありがとうございます。頂きますね。」

 先生は少し笑って、お茶を飲む。なんとか合格点をもらえたかな。

「固くならず、大丈夫ですよ。今日はお勉強ではありませんからね。友人として、参りました。ヴァンス、香りを落とさずに薄めに入れてあるのはハーディ君に合わせてだね?君はとても優秀です。素晴らしい。」

 ヴァンスは一礼をして、代わりに僕が答える。

「ありがとうございます。それで、何かお話が?」

「貴方は、力をコントロールしようとしているようですね。あまり、体に負担がかからないと良いのですが。」

 何か悩んでいるどころか、目的まで完全に知られている。そうだと思ったけど、先生は魔法使いか何かで、水晶玉を覗けば全部見えるのだろうか。その能力欲しいな。

「先生はなんでもご存じですね。僕は何か起こしてしまったのでしょうか?」

「いいえ。ですが、お一人では何かと大変でしょう。王国にて、山の民についての記述が見つかりましたので、報告をと思いましてね。何かヒントになるかも知れません。」

「え?先生はいつ王都へ行かれたのですか?」

「私ではなく、妖精がやってくれるのですよ。」

 先生は時々こういう冗談を言う。妖精だなんて、そんなわけないじゃないか。今はもう分かる。王さまの私兵、暗殺部隊、そんなところだろう。

「では、妖精さんはなんと言っていましたか?」

 僕も乗っておく。本当に妖精なんていたら面白いけど。妖精が調べものをしている想像をして、おかしくなる。本が大きすぎてつぶれてしまうだろうな。

「はい。山の民とは、山で放浪の生活をする部族のことで間違いなさそうです。山とは、この国の北側にある山脈のことで、そのどこかに、剣の鉱物が採れる鉱山があるのようなのです。」

「北の山脈ですか…とても遠いですね。その部族の方なら何か知っているかもしれない。会いに行けるなら、行きたいのですが。」

「ええ。私も研究者としては、会いに行きたい所ですが、少し遠い。そこで、もう少し調べさせたところ、山の民から別れ、東の国境沿いの山岳地帯に定住している部族があるようなのです。私達がいるのは国の南東部。街道を馬車で北に進み、山岳地帯の近くの街までは安全に行くことが出来るかと思います。その先は国境付近ということで少し危険な旅になるかも知れませんが、行ってみませんか?」

「先生!良いのですか?!…でも、父様がお許しにならないかもしれない。」

 ライラを探しに行くのもダメだった。僕は彼女のことを諦めていない。旅が出来るなら、情報収集も出来るだろう。父様になんと言えばいいのだろうか。気が重い。

「カルナス殿には陛下より言って頂くことにしましょう。王族の力については解明されていないことばかりで、陛下も知りたがっておられる。私は耄碌していますが、ヴァンスは若い。ヴァンスを連れて行って下さるとよろしいかと。」

「!!…ハーディ様、発言をお許し下さい。」

「ん?ああ。」

「ストック部隊長、光栄に思いますが、私はまだまだ若輩者です。ハーディ様を御守りしつつ、山の民の離れ部族の村までとなると、私だけでは荷が思いかと。」

 ちょっと展開が早い。僕が行くことは出来るようだけど…んん?ヴァンスを連れていけ?ぶたいちょう?もしかして…。

「僕は知らないぞ。ヴァンスは先生の部下だったのか。」

「ヴァンスを責めないでやってください。彼もまた、王の私兵の一人。とても優秀です。ヴァンス、人選は任せます。なるべく目立たぬように。」

「承知しました。」


 先生が帰った後、僕は我慢が出来なくて、ヴァンスを呼んだ。 

「ヴァンス、話を聞かせて下さい。あなたは先生の部下でした。僕は化け物だと――危険だとずっと知っていたのですか?監視しているのですか?他にも監視している人がいるのですか?……少し、裏切られた感じがします。」

 僕は監視の檻に囲まれていて、外から危害を受けないように、中から被害が及ばないようにずっと見られていたということなのか。

「ハーディ様…。私は正式に執事としての教育も受け、こちらに雇われております。ストック部隊長は私の師であり、恩人であり、上司でもあります。推挙は受けましたが、それ以上のことはありません。私が執事としてここにあるのは任務ではありません。私の主は貴方です。それに、ハーディ様が王家の方との関わりがあることは存じあげておりました。ですが、お力について詳しくは知りませんでした。今まで、何も申し上げずにすみません。」

 ヴァンスは弁解するでもなく、まっすぐに僕を見て言った。

「…はぁ。大人は、僕に隠し事が多すぎるよ。ヴァンスを信じます。僕はきっと足を引っ張ってしまう。とても頼りにしています。ヴァンスも旅の支度を。」

「はい。お供します。」

 僕は少し嬉しくなって、小さく笑うと。彼も少し笑った。言わなくても通じる、男の友情だな。………違うか。でも、彼は信用が出来る。今までのことを考えると、彼はとても良くしてくれていた。僕のことを危険な化け物だと思っていないことは解っていた。秘密にされていたことが悔しかっただけだ。実を言うと、これからがとても楽しみだ。彼と一緒に旅が出来ることは単純に嬉しい。風の神様、どうか彼に危険のない旅路を。


 出立の準備に2日、脅威的な早さだ。ヴァンスの有能さは知っていたが、これほどとは思わなかった。旅慣れた旅人以上だと言いたくなるくらいだが、街まで半日、こそから10日ほどで最後の街に着く。そこからは何日かかるか分からないが、数日で山の民の村まで着くのだろう。それほど遠くないな。国内だしな。もっと言うとルスターシ領内だ。遠くないのは当たり前か。

 僕も僕なりに旅の支度をしてみたが、正直に言って何が必要なのか全く分からなかった。剣や着替えはいいとして、思い付く限りの探検道具を用意してみたが、殆どヴァンスに要らないものだと却下されてしまった。ランプが要らないと言われたときは、納得出来なかったが「冒険ではないのですから」と冷静に説得されてしまった。

 執事が居なくなると、家の方はどうなるのか心配だったが、それも問題ないそうだ。



 七、


 出立は朝。風は昼過ぎが一番強くなり、馬では移動できない為に朝のうちに馬で街まで駆ける。そこで、馬車とガイドと合流するようだ。風の季節特有の目の詰まった薄手の外套を羽織り、鞄一つに収まってしまった荷物と短剣のみ身に付けて、ヴァンスと二人で出発した。ルードも行きたがっていたが、ライラ捜索を引き続きしてもらうことになった。

「ハーディ様、よろしいですか。旅というのは大変辛くなることもあります。何か危険が迫りましたら、お一人でもお逃げください。神殿を捜し、そこへ助力を求めるように。」

「はい。」

 そんなに危険な旅になるのだろうか。僕は楽しみにしていたのに。

 ヴァンスについて、誤解していたことが一つある。彼はいつも髪を上げて後に詰めていたので気がつかなかったが、旅装に着替え、前髪を下ろすと父様よりずっと若かった。20代後半くらいだろうか。屋敷での雰囲気とは全く違うので、慣れるまでは話しにくい。

「ヴァンスは、強いのですか?」

「一通り心得がありますが、強いかどうかと聞かれますと、分かりません。」

「人と戦った事は?殺した事もある?」

「……………はい。」

 答えにくい質問だったな。悪いことをしてしまった。

「僕に戦い方を教えて下さい。僕は守られてばかりで、何かやろうとしてもいつも空回りばかり。結局は大人の力を借りなければ何もできません。自分の身くらいは守れるくらいになりたいです。」

 ヴァンスは僕を見て、グレーの瞳で少し難しい顔をしている。

「戦う為の剣は、貴方が剣術の先生に教わっていたものとは少し異なります。相手が騎士ならばともかく、賊のような者の場合、剣術は意味がありません。戦おうとするのではなく、逃げる方が得策です。私もストック部隊長も賊に会ったら逃げますよ。」

「そうか。分かりました。」

「貴方はいつも、物分かりがいい。ですが、もう少しご自分を通されても良いのですよ。剣術は、手合わせを続けましょう。私も鈍っていますから。お相手頂けると助かります。」

 良かった!出来ることは何でもやっておきたい。力のコントロールも練習するつもりでいる。この旅で少し強くなるんだ。


 街に着くと、馬を家まで送り届けてくれる人に愛馬を託して、乗り合い馬車の待ち合い施設へ行った。ヴァンスが色々としてくれている。僕は少し暇になり、施設内を見て回った。施設は広い空間にたくさんのベンチが置いてあり、ミクの世界でいう空港やパーキングエリアに似ていた。たくさんのカウンター、地図、案内板、掲示板、売店、そしてたくさんの人。大人もいれば子供もいる。見たことのない人種の人もいる。例えば、案内板を見ている僕と同じくらいの女の子。肌がよく焼けていて褐色、髪の色が黒と赤だ。この国では黒はめずらしい。赤もルードのような茶色というかオレンジ色っぽい赤のことではなく、赤だ。顔の両側に一房ずつ赤い。服装も見たことがないな。他には、革の鎧を着た強そうな男に、長い剣を持った背の高い女の人。この人たちは旅の用心棒だろう。あそこの売店には何か旅に役立つ物があるかもしれないな。見てみよう。

 僕はお金を持っていない。だから、見るだけだ。売店には武器、防具、携帯用食品、雑貨が所狭しと置いてある。雑貨では、何に使うのか分からないものもたくさんあった。剣のコーナーは磨き粉の臭いがして、大きな物からナイフまでピカピカに磨かれていた。隣の防具のコーナーは主に革で出来ているのか、革の臭いがする。剣にしても、防具にしても、こんなに大きな物を持って旅には出られないんじゃないかと思う物があるが、さっき見た用心棒を思い出した。必要な人もいるのかな。

「お坊っちゃん、剣に興味があるのかい?ここにあるのはお坊っちゃんが持つようないいもんは無いぜ。」

 売店の店主か?僕がそんなに戦えそうに見えるとは思えないのだけど。重さと、身長が合っていたらいいわけじゃないのか?

「いえ、その…僕が持っているものは宝飾品のようなもので使えるものではないので…。」

「はっはっは!!そりゃあ、悪かった。どう見ても貴族の坊っちゃんだったからな!使える剣か!」

 僕が剣を見ているのがそんなにおかしいことなのか。悪かったと言っている割りに、笑われているようにしか思えない。

「いやいや。そんな顔するな。あんたら貴族は剣なんぞ使わないだろうと思っていたからな。剣を買うくらいなら、剣を使える人を雇えば良いだろうが。貴族様にとっては剣は宝飾品だろう。」

 そういう意味か。

「あんた、失礼よ!店が客を選ぶの??」

 いつの間に来ていたのか、さっきの黒と赤の髪の女の子が僕の後ろから店主に声をかけた。

「こりゃ、ちげぇねぇや。ねぇちゃんも何か買うかい?」

「あたしは食糧だけ、もらうわ。」

 僕は二人のやり取りを眺めていた。この女の子、しっかりしているな。買い物も一人で出来るし、大人の人にしっかり意見が言える。一人で旅をしているのだろうか。

「あんた。自分で戦うつもり?あたしが用心棒になってあげてもいいわ。」

 ん?僕に話しかけているのか?

「え?確かに僕は戦えないけど…君は用心棒なのかい?」

「あら。決まりね。よろしくね。」

 いや。いや、いや!決まりじゃない!お願いするなんて言ってない。なんて強引な女の子なんだ。

「ハーディ様。」

「ヴァンス、良かった。無事に終わりましたか?」

「なに?連れがいるのね。いいわ。二人まとめて面倒見てあげる。」

 強引に僕とヴァンスの間に割り込んでくる。ヴァンスは目線で、僕に説明を求めてきた。

「今、店で会ったばかりです。彼女、僕たちの護衛をしたいそうですよ。」

「ほう?ラシェット族の娘ですね。この辺りではめずらしい。申し訳ありませんが、護衛は必要ありません。」

「そんなの卑怯よ!今だって助けてあげたじゃない!それにもう彼とは契約したわ。」

 助けてもらっていないし、契約もしていない。ヴァンスに首を振る。

「いいんじゃないか?ヴァンス。連れていっちゃおうよ」

 え??誰だ??

 振り返るとさっきの…背の高い女の人だ。男の人だったのか。髪が長くて、体が細いから女の人だとばかり思っていた。

「こんにちは、王子さま。俺はミラン・ラルトと申します。ヴァンスの友達です。」

「ミラン、君はいつもいつもいい加減だ。ハーディ様の安全を第一に考えて下さい。」

「じゃあ、決まりね。よろしくね。ミラン?とヴァンス?」

「あなたは関係ない。護衛はミランと私で十分だ。」

 なんだか、大変そうだなぁ。ヴァンスが振り回されているのは初めて見る。どうでもいいけど、お腹がすいた。

「あの、移動して話しませんか?お昼にしましょう。」

「失礼しました、ハーディ様。少し粗野な店になりますが、ご理解下さい。」

 店に入る前にまた問題が起きたが、結局ヴァンスが折れて、ミランの提案した店に入った。小さい店だが、彫刻されたランプの映し出す影が美しい店だった。料理も豪華な食材が使われているわけではないが、素朴で美味しかった。なぜか、あの女の子も一緒に来て、店に驚き、料理に驚き、いちいちうるさかった。

 すっかり忘れていたが、何となくあれは僕にも覚えがある。ミクだったときを思い出す。そういえば、向こうはずっと時間が動いていないのか?何となく頭が痛いような気がしてくる。ミクはあの後どうなったのか。少し、胸騒ぎがするな。

 食後、紅茶を飲みながら、やっと落ち着いて話すことが出来た。

「ヴァンス、少し整理しましょう。この四人で旅をするのですか?」

「そうですね。ミラン、君は?」

「俺はいいと思いますよ、王子さま。ラシェットの娘。お前名前は?」

「あたしはロアーシュカ。シュカと呼ばれているわ。この子、王子さまなの?」

「ミラン、ラシェットの娘の同行に私はあまり賛成できません。」

「王子さまに危険があると分かれば、俺が責任もって斬るだけさ。」

「ねぇ。無視しないでよ。目の前にいるのに斬るとか言うな。私はシュカ!この子は王子さまなの?って聞いてるのよ!」

 一番無視されているのは僕だろうな。全員、噛み合わない。このまま話を続けても、終わらなそうだ。手を上げて、話す意思表示をする。僕は本当はこういうのは苦手なんだ。仕方がないな。

「よろしいですか。僕はハーディパスト・グロウスと言います。シュカさん、僕は王子ではありませんよ。旅の目的地は山間部にある山の民の村。ヴァンス、ミランさん、シュカさん、よろしくお願いします。」

「ハーディ様、よろしいのですか?」

「ヴァンス、いいと言いました。シュカさんはお困りのようです。少し強引な女の子ですが、腕には自信があるようですし、旅慣れている様子。何か力になってくれるかもしれません。それと、もし僕のせいで彼女を雇えないなら、気を使わないで下さい。僕は食事も、寝る場所も気にしませんから。」

「しっかりした王子さまだね。では改めて、俺はミラン・ハルト。ミランとお呼びください。ヴァンスと同じの一人です。護衛としては一流ですよ。」

「扇の一人??」

「あれ?話していないのか?」

「…………。」

「まぁ、いいか。つまりそういうことですよ。」

「何となく分かりました。よろしくお願いします。シュカさんも。」

「ありがとう。ハーディパスト?あんたのお陰で助かったわ。あたし、お金がないのよ。あんた王子さまじゃなくてもお金持ちなんでしょ?ついでにあんたのお目付け役にあたしの報酬弾むように頼んでくれない?」

「シュカ、調子に乗るな。ハーディ様に無礼な態度をとるなら、ミランの手を借りずとも私が斬ります。覚えておきなさい。報酬は追って伝える。」

 ヴァンスが怖い。シュカを仲間にしたことは間違いだっただろうか。仲良くして欲しいな。僕は無礼だとは思っていないのに。

「ごめんなさい、シュカさん。僕の事はハーディと呼んで下さい。」

「あたしはシュカでいいわ。ハーディ、よろしくね。」

 なんとか、場が収まったみたいだ。ヴァンスはあまりいい顔をしていなかったが。僕とヴァンスは買い物をして、領主館に行くと、父様に報告。父様はとても心配していたが、陛下から勅使が来たらしく。止めはしなかった。明日はついに、全く知らない土地へ行く。その日は、領主館へ泊まった。



 八、


 これは予想外だったわ。バスで行けるというからバスにしたのに、余裕で一時間以上の長距離移動だった。電車の方が早かったかもしれない!あ。でも、電車の本数の少なさを考えれば、やっぱりこっちで正解だったのかなぁ。

 バスを降りたのは戸隠神社の中社の前。戸隠神社は主に5つの社があって、それぞれ神様が違う。ご利益のある回り方とかあるらしいけど、とりあえず目の前から。

 中社は大きなお社だった。観光地だけあって、人がいっぱいだ。お店も入りたかったけど、一人だし。人でいっぱいだったからやめた。戸隠神社ってすごい大きいのね。こんなにすごいところなら、一人はやっぱり不安だなぁ。

 石段を上がり色々な建物がある。砂利道を歩き先ずは神様にご挨拶。

 でも、謎の石について調べたい。どうしたら良いのかなぁ。

 地図を見て、早速そのあまのうずめ?の奉られているという火之御子社へ向かう。道、あってるのかな。山道だけど、民家の裏だったりして、間違えて人の家に入って行っちゃったりしないよね?

 こっちの方は上の中社に比べると随分人が少い。途中、畑があったり民家があったり、道路があったりしたけど、森林浴ってやつよね。夏の一番暑いときなのに、何となく涼しく感じる。

 10分くらい歩くと、それはあった。中社に比べると小さな社。見た目も地味。地味と言うか、歴史を感じる?小さな石垣があり、その上に建つ建物は昔の神社の様相だった。石垣の下は広場のようになっており、開けていていた。。すぐ下は小さな駐車場になっていて、車で来ることができる。だから、途中の道はそんなに人と会わなかったのか。

 お社の横に大きな杉がある。とても大きい。近づいてみると余計に大きく見えた。この杉、結びの杉と言って縁結びの杉なんだって。先輩とのこと、内緒でお祈りしておこう。

 でも…この杉、なんだか懐かしい。縁結びはピン来ない?縁結びというよりは…双子みたい。そんなこと言ったら神様への冒涜ね。

 ここで何か分かるかと思ったのに、あまり情報はなかった。

 火之御子社の前の空地のベンチに座り、お昼におばあちゃんが作ってくれたおにぎりを食べていると、ぽつりぽつりと観光客が来ているのがわかる。中社程ではないけど、ここもやっぱり観光地ね。

「すいません。地元の子?写真撮ってもらってもいい?」

「あ、はい。」

 こうやって、地元の子と間違われて、写真を撮る。そりゃあ、中学生がこんなところに一人で居るのはおかしいよね。

「ありがとう~!ね。ひょっとして、踊る子?」

「え??なんで?だって、私。」

 ぞわっとした。

 なんでこの人がそんなこと言うの?だいたい、あれは私じゃなくて、ハーディ君だったときだし。私だけど私じゃなくて。顔も違うし、こっちの世界じゃないし。おかしい!どういうこと?コワイ!このお姉さん、何者??

 完全にパニックになってしまって、私はお姉さん達に何も言えなくなってしまった。

「地元の子がやるんでしょ?下見とかじゃないの?」

「今年は16日くらい?また、その時来ようかなぁ」

 あれ?何か勘違いしてる?私。

「頑張ってね~!」

 お姉さんたちは、行ってしまった。

 人の流れが途切れて、誰も居なくなる。誰にも聞けない。

 ふと社の裏手に巫女の格好をした人が見えた。入っていいのか分からないけど、どうしても聞きたくて、石段を登り、社の裏へ急いで追いかける。

「すみません!まって、話を、聞かせて下さい。」

 息を整えながら言うと、巫女の格好をした女の人が私を指差した。「なに?あ!あつっ!」

 御守りだった。また熱い。でも、今回は一瞬だった。

「どういう……………?!」

 消えている。巫女服の女の人は幽霊だった。もーーーー!ここ、怖すぎ!帰る!

 一度、駐車場に行く階段を降りて避難する。車があるのに、人が少い!なんでよ。誰か来てよ。由来の書かれた看板に目を留めて、読む。天岩戸を開く舞を踊った人。それが天鈿女命。岩を動かす力がある舞。ハーディ君と何となく通じるものがあるわね。

 この神様について、もう少し調べないとダメみたい。

 さっきの幽霊がこの神様なら、聞いた方が早い!勇気を出して、もう一度。他の参拝客に混じって上へ上がる。

 さすがに、居なかった。そうそう幽霊が出ても困るんだけどね。

 ここは人が居ないから、もう一度中社へ戻る。そこでおみくじを買いがてら、ちょっと聞いてみよう!

 ここのおみくじは、年と性別を言うようだ。

 神主さん?におみくじを頼み、ついでに質問してみる。

「踊り手ですか?って聞かれたんですが、何のことだか分かりますか?あと、御守りの石が、ここの石だと聞いたのですが、何か分かりますか?」

「ああ。踊り手というのは太太神楽のことでしょう。もうすぐありますよ。石の御守りというのは恐らく、九頭龍社の御守りのことだと思いますので、そちらに行ってみて下さい。」

「あ。ありがとうございます。」

 そういう踊りがもうすぐあるのね。あと、御守りも普通に売ってるものってことなのか。なんだか、分かってみると呆気ないなぁ。

 遅くなると、おばあちゃん達が心配するから、今日はここまでにして帰ろう。見たかった杉の林は見忘れちゃったけど、御守りの正体も分かったし。いくつかパンフレットをもらって、天鈿女命あまのうずめのみことのことは、図書館で調べた方がいいと思うのよね。行き帰りに時間がかかるから、帰って宿題しなきゃ。

 その日はそこまでで、おばあちゃん家へ帰った。ちょっとした冒険で楽しかったけど、幽霊事件はヤバかった。夕飯時、今日の出来事をおじいちゃんとおばあちゃんに話す。知らないバスに乗ってドキドキしたこと、神社はとても大きくてたくさんの人がお参りに来ていたこと、おばあちゃんのおにぎりがおしいかったこと、幽霊にあったこと、石はお土産として販売してること。二人とも楽しそうに私の話を聞いたいたけど、幽霊と石の話になると、少し様子が変わった。

「ミクちゃん、あのね。おばあちゃんもよくは知らないんだけどね。うちは太太神楽の伝承を守る氏子をしていたことがあるらしいのよ。太太神楽っていうのは、神様にお祈りをする踊りのことでね。天岩戸を開けるときに天鈿女命が踊ったものだと言う話だよ。もしかしたら、あんたの前に出てきたのは本物の天鈿女命かもねぇ。」

 それって、スゴいね。私選ばれた人みたいじゃん。

「あと、お土産の石のことなんだけど、九頭龍社の御守りってこれじゃないかしらねぇ。」

 おばあちゃんが見せてくれたのは、綺麗な水晶がキーホルダーになっている御守り。私の石は、普通の石に見える白く濁った石。全然違う。おかしいなぁ。でも、あの神主さんが………勘違いしてる?そういえば私、見せてなかったから、お土産の御守りを買いに来た人と間違われたのかもしれない。私、なんで納得しちゃったのよ!あぁ。何のために時間をかけて一日神社にいたのよ!無駄骨だったわ。

 その後、どうしても話したくなって、陽葵ちゃんにすぐに電話した。

「ちょっと聞いてよ!」

 私は今日の事をすべて陽葵ちゃんに話した。特に幽霊事件と石のところは少し盛って話した。

「ってことなのよ。私、自分が情けないわ。一日何やってたのか分からないわよね!」

「大変だったねぇ。石のこと調べようとして行ったのに、結局分からずじまいだったなんて。」

「でしょ?一人で神社まで行ったのは楽しかったんだけどさぁ…。」

 私の話を聞きながら、陽葵ちゃんはパソコンで調べてくれていた。電話口からタップの音が聞こえる。

「今、ググってみたんだけど、天鈿女命っていうのは日本の神話に出てくる女の神様で、太陽の神様が岩の洞窟に隠れちゃったときに、踊りを踊って外に出す手伝いをした人らしいよ。芸能の神様なんだって。えっと…日本書紀にかかれているらしいよ。」

「日本の神話かぁ。おもしろいね!」

「あ。踊ったときに、勾玉まがたま?を持ってたみたいだよ??」

「パソコンで調べた方が早いじゃん。私の一日って、今の10分より情報が少い…。」

「ふふっ。ほんとだね。」

「もしかしたら、その勾玉のひとつだったりするかなぁ。そしたら、国宝級だよね。」

「お宝だね。」

 陽葵ちゃんと話すのはとても安心する。今日はいろんなことがあって、不安だったんだ。宿題がまだまだ終わってなくて、とりあえず立て直した計画の今日の分を終わらせることにした。まだ、もうちょっと調べなきゃいけないことがあるけど、調べものは明日。図書館に行くんだ。そこで宿題を多めに終わらせれば、もうちょっと時間も出来る。今度は、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に行こう!

 緊張の連続で疲れていた私は、その日早く寝てしまった。



 九、


 早く寝過ぎてしまって、夜に目が覚めてしまった。風の音がしない、静かな夜だった。もう一度、寝なくてはいけないのに、寝られそうにない。胸騒ぎがする。少し外に出よう。

 僕は領主館をそっと抜け出し、夜中の街を走った。夜中に家を抜け出すなんて、僕は悪い子だな。気分がいい。暗い夜道に街灯の灯りが揺れて見慣れた街並みが違って見える。まるで知らない街に迷い込んだようだ。自分はもうこの街から閉め出されてしまったような感覚になる。本当は離れるとなると不安なのだ。その不安を振り払うように、目的もなくただ走った。

 昨日はたくさんの出来事があった。色々な人に出合い、これから旅をする。長い間、家を空けるのは始めてのことだ。何年も居なくなる訳ではないのに、もう二度と家に戻れないような気になってしまう。不安と興奮は走るだけではなかなか納まらない。

 領主館を一回りした後、神殿へ向かっていた。ここは風の神殿。僕にとってはいつもの場所だ。この街には神殿が3つ。風のほかは火と水だ。花の祭壇は公園のまん中にある。雨ざらしだ。雪の祠に至っては街の外だ。風の神殿が一番大きい。この地方は特に風が強い地域で、風害が多いからだ。しかし、今日は風がない。珍しいな。

 この涙型の建物のとなりには、同じように白いレンガ造りのこちらは四角い建物で、祈りの祠がある。一般の人はここで、風の神様に祈りを捧げる。涙型の本堂は施錠されていて入れないが、祈りの祠は常に解放されているので、深夜にも入ることが出来る。旅の無事をお祈りしていこう。

 僕は祈りの祠に入った。だが、すぐに祈りを捧げることはしなかった。出来なかったのだ。

 何かあったときのために、あの剣を腰紐に挟んで来たのだが、それが良くなかったのかもしれない。この祈りの祠には本堂へと続く隠し通路がある。神殿を管理する神官と僕しか知らない通路だ。風節の舞の後、本堂の入り口は施錠されてしまうので、いつもはここから戻ってくるのだ。ライラは誰も知らないはずのこの通路を使って入ったようだ。隠し通路の入り口は他の壁と変わらないようになっていて、見た目では分からない。

 その通路へ通じる壁の向こうが青白く光っている。あれでは隠し通路ではないな。ただの怪しい壁だ。しかし、昼間は何度も来ているのに、こんな光景は見たことがない。

 夜は神殿にいないはずなのに神官様が何かをしに来ているのだろうか?

「神官様?」

 声をかけてみる。特に返事はない。向こうからはすぐに開くが、こちらからは開け方があったはずだ。たしか…このレンガが錠の代わりになっていて、押したら錠が外れる仕組みだったはず…。レンガを少し奥へ押すと、半分まで沈み錠の開く音がした。上手くいった。

「神官様?僕です。入ります。」

 もう一度声をかけて、中に入るといつもと変わりのない通路。本堂の方から強い光が見える。おかげで明るい。

 本堂側にも同じような壁型の扉。すごく眩しい。この壁、こんなに隙間が空いていたんだな。

 本堂に入る。と、例の僕の大嫌いな寝台が光っていた。この寝台も同じ石で作られていたのか??あの香の残り香が微かに残っている。他はいつもの風景だった。

 自分でも、なぜそう思ったのか分からないが、剣を抜き、風節の舞を踊り始める。この寝台の光を止められるかもしれないと思ったのだ。自分の流れを剣に流すように集中する。そして、さらに今日は風の神様への祈りを込めて。体が軽くなる。剣は青白く輝き、寝台も輝きを増す。音楽はない。僕の足音だけが聞こえる。跳躍の踏み込みが甘かったかな。

 そこで、はっとして気がつく。人がいる?

「神官様?どうしましたか?」

 寝台の向こう側、祭壇へ向かう階段との間に人が倒れている。入ってきた時は僕の身長では見えなかったのか。

 急いで駆け寄ると、黒い髪が見える。

「シュカ…??」



 十、


 あまりにも早く寝過ぎてしまって、夜中に目を覚ました。時計を見ると2時。朝の2時?!もう一度寝よ。

 しかし、やたらと目が冴えて眠れない。水を飲みに行こう。物音をたてないように静かに歩く。でも、こういう建物ってどうやっても音が出るのよね。ギシギシと鳴る廊下を進み、キッチンに着くと冷蔵庫から水を出して、コップに1杯入れて飲む。昼間、幽霊を見たせいで、夜の家は恐ろしかった。

 周りを警戒しながら、もう一度水を飲み、残りの水を冷蔵庫に仕舞って部屋へ戻ると、石が光っていた。あぁ、もう、また。

 なんとなく寒気がしてパジャマ代わりのジャージの上を羽織って、石を触る。熱い。御守り袋ごと石を持ち上げて、まじまじと見る。

 自分でも、何を思ったのか分からない。何かが呼んでる気がしたのかもしれない。石を持って、外に出る。石が行きたい方向へ歩く。おかしな事だけど、石が行きたい方向がわかる。どこをどう歩いたのか分からない。どう考えてもおかしい。距離も時間も。でも私は神社の前にいた。あの、火之御子社だ。

 私は踊らなきゃと思った。ハーディだったときの記憶を使って、思い出す限り…。この体だと、あまり上手くは踊れない。それどころか、はっきり言ってメチャクチャだ。体も重い。でも、石はさらに輝いた。

 ふと見るとお社の隣にある2本杉の木のところ、あの巫女姿の女性が立っている。綺麗な人だ。聞かなきゃいけないことがあった。

「あの、この石は…。私は……」

 "可哀想な私の子達。離ればなれは辛いでしょう。"

 私が女の人に近づいて、話しかけようとしたときだった。彼女の声のようなものが響いて、彼女は私を抱き締めると、2本の木へ戻る?分からない。光が強すぎて、何も見えない。頭がクラクラする。


「シュカ…??」

 誰かの声がする。しゅか?朱華?そんな友達いたかな…?目を開けようとすると眩しくて、見えない。

 男の子の声だった気がする。クラスメイトでも先輩でもない。誰だろう。聞き覚えがあるような…。

「………まさか、ミク?」

 そうだよ。未来だよ。あなたは誰?懐かしい感じの…。

 うっすらと見える景色は見覚えがあるようなないような。ここはどこ?うぅ、頭痛い!

「ごめんなさい。ありがとう。あなたのこと忘れてしまって、もう一度名前を教えてくれない?」

「どういうことだ!なんでこんなところに。本当にミクなのか?」

 失礼ね。なんて言い方するのよ。友達じゃないの?

 まだボヤけていてはっきりとは見えない。さっきの光が強すぎて、チカチカする。この声は知ってる声だもん。早く名前を教えてよ。

「なんてこと言うのよ。友達でしょ?ちょっと、目がチカチカしちゃってよく顔が見えないの。」

「本気で言っているの?友達だって??」

 ようやく見えてきた。……………ハーディ?思いっきり変だ。

「え?なにこれ。いつもなら、私はそっちよね?私は誰?」

「ミク。こっちの世界に来てしまったのか?」

 は??何言ってんの?あんたは私。ここは…たしか神殿。踊り終わってから、目が覚めた???あれ?私はミク?

「ちょっと!どういうこと?」

「こっちが聞きたい!」

 だって、私の目の前には私…じゃなくて、ハーディ君がいて、私は私のまま…私の…………ま ま ?

 体を確認。私のままだ。着ている服もジャージにスニーカー。対して、ハーディ君は三銃士風のシャツ。ハーディ君はいつも通り。ここの場所に合わないのは私。

 あーーーーーーーーーーー!もう、なにこれーーーーーー!

 この夢、今までにないパターンじゃん。



 ――――――――――――――――――――――――――――――


 続

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