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TRICK OR TREAT OR…?   作者: 明るいあかり@ユリ
8/11

第五幕 Ⅱ

「どっちも苦しいよ!」

繋いでいた心の糸が、切れる。

ハクシャクに投げつけたカバンは、落書きで汚れていた。

マントでそれを防いでいたハクシャクの目は怪訝そうだった。



何でそんな目で僕を見るの?



それもそうか。



だってわかってないんだもん。



何で僕がカバンを投げたか。



何で僕が怒ってるのか。



わかるはずないよね。



妖怪には。



「僕が何でいじめられてるか知ってるの?僕が妖怪の子どもだからだよ!?本当は人間なのに…。やり返すなんて僕にはできない。だって僕は弱いんだもん。父さんたちみたいに強くない。だって人間なんだもん!」

「自分が妖怪の子どもだと、周りに言いふらしたのはお前自身だろう?」

初めて、ここでハクシャクは狼狽えてみせた。

わからないから、狼狽える。

それが、ムカつく。

「全部あんたらの所為じゃないか。妖怪なんかに育てられたから!」

「落ち着け、少年。さっきからお前の発言は全然面白くないぞ?」



ムカつく。



「っあああああ!何なんだよ、その呼び方は!?僕にはちゃんとした名前がある。面白いとか退屈とか、僕はそんな価値観で生きていない!」

「人間がつけた名前に価値なぞない。そのうち、『ちゃんとした』名前を決めるさ。名前を考えるのは、私の楽しみの一つだからな。」



ムカつく



イヤだ。



イヤだ。



イヤだ。



イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ。



「…わけがわからないよ。もうイヤだ。何もかもイヤだ。何で父さんは僕を拾ったの?面白そうだったから?今がこんなに苦しいなら、その時のたれ死んだら良かった。いっそ生まれてこなければ良かった。もう、死にたいよ…。」

「そんな…アンタちょっと落ち着いて、」

ドールが二人の間に割って入る。



こいつも、ムカつく。



「あんただって騙してたくせに…!」

突如、ドールの視界が破裂した。

同時に、軽快と言っていいほど高い音が、空気を振動した。

「え…?」

ドールにはすぐにわかった。

自分は殴られたのだ、と。

息子に…少年に殴られたのだと。

フランス人形とはいえ、彼女は妖怪だ。

興奮して体が火照ることがあるほどの妖怪だ。

痛みが彼女の頬を包む。

「いった…。」

「はぁ、はぁ…。やられたから、騙されたから、やり返しただけだよ。」



ぷつん。



ハクシャクの中で何かが切れた。

「…お前、さっき自分は弱い、と言ったよな。」



コツ。



室内にドラキュラの足音が響く。

「ということは今、ドールが自分より弱いと思ったから殴ったわけだな。」



コツ。



ドラキュラは人間に、静かに、確実に近寄る。

「確かにこの世は弱肉強食だと私は教えた。だがお前のその考え方は、クズだ。」



コツ。



「そしてこうも言った。『死にたい』と。だったら、」



コツコツコツ。





「死ぬか?」

「え?、」

「く、っかぁ!」

刹那、ドラキュラは人間の喉仏に喰らいついた。

「う、わ、あ……。」

血液を吸い取る音は、様々な感情の渦の中で、憤りに満ちているように聞こえた。

頬を押さえながら、ドールはドラキュラと人間を引きはがそうとする。

「セバスチャン、アンタも手伝いなさいよ!」

「…わたくしは、この子が死のうがどうしようが、興味ありません。」

久しぶりにしゃべったかと思えばこれだ。

ドールは頭が沸騰しそうになる。

「っ、…~!!いい加減にしなさい、よ!!」

感情を言葉にし、半ば強引ではあるが、ドールは二人を引き離すことに成功した。

「安心しろ、手加減はしてある。」

ハクシャクは口を軽く拭うと囁いた。

「…どんな気分だ、今?怖いか?いいか。私がお前を拾ったのは、お前が言ったように面白そうだと思ったからだ。だが!私は!お前を自ら死を選ぶようなクズに育てたつもりはない!私を失望させるな。私を退屈させるな。怖がるくらいなら、粋がった言葉でしゃべるな!」

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