表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TRICK OR TREAT OR…?   作者: 明るいあかり@ユリ
7/11

第五幕 Ⅰ





『次の日も、彼はここで泣いていた』





「最近あの子、様子おかしくない?」

ハクシャクに問う女は真剣だった。

「よく怪我をするようになりました。モノもよく無くなりますし。」

「それで?」

だから、腹立たしい。

父親の面をした男の態度が。

「『それで?』じゃないわよぅ。」

彼女はハクシャクの仕草を真似てみせた。

それは場を和ませようと思ったからではない。

自分の苛立ちを、彼に伝えられると思ったからだ。

しかし、その気持ちは届かない。

「アンタ父親なんだから、何か手を打ちなさいよ。それともまさか、今まで気づいてなかったの?」

貴方も母親でしょうが。

そう思うと同時に、セバスチャンは時計を見た。

そろそろあの子が帰ってくる時間…。

「…ただいま。」

彼の予感は的中した。

そしてもう一つの悪い予感…。

「話は聞いたぞ、少年!何でもいじめにあっているそうだな!」

「ちょ、アンタ…そんないきなり…。しかもいじめって決まったわけじゃ、」

ハクシャクが、少年が帰ってすぐに、この話をすることも、セバスチャンにはわかっていた。

そんなゾンビの考えはドールによって代弁された。

きっと彼女の言葉はすぐにかき消されるであろう。

…まぁ、どうでもいい。

しばらく黙っておこう。

セバスチャンは一人、鼻で笑った。

「何故暗い顔をしている?やられたらやり返せばいいだけだろ?そう教えたハズだが?まだまだお前も、妖怪としては半人前、」

「妖怪って、嘘吐くの下手なのか上手いのか、よくわからないよね。」

少年が言葉をさえぎったのは、セバスチャンを含め、妖怪たち三人にとって意外であった。



だがそれよりも意外だったのは



少年があるモノを取りだしたことであった。



それは彼らにとって今まで何度も目にしてきたモノ。



少年がここに来てから何度も目にしてきたモノ。



だから、彼がそれを持っていることは、



彼らには意外だった。



「これ、何?」



女に至っては、口を手で覆い、慌てていた。



「…ほう。」

ドールとは違い、ハクシャクは極めて冷静だった。

ばれたらその時はその時、という言葉は伊達ではない。

そんな彼とは対照的に、ドールは棚をひっきりなしにいじった。

そんなことをしても、意味はないというのに。

「私にとってはただの紙切れだが?『妖怪』の私にとって、それは価値のないモノだ。残していたのは、ただの情さ。」

価値が、ない。

その発言は、人間と妖怪の間に齟齬を生む。

「僕にとってはとっても大事なことなんだよ!今まで僕を騙してたの?」

少年とハクシャクの息遣いもまた、対照的であった。

はぁ、はぁ、と狂ったように漏れた少年の吐息を吸い取るかのように、ハクシャクは囁いた。

「あぁ、そうだ。私たちは妖怪、お前は人間だ。」

「ハクシャク!少しは言葉を選びなさいよ!」

女の揺れた声は、男の心を揺らすには至らない。

「今更隠す必要があるのか?少年、真実がわかったとて、私たちとお前の関係は変わらないだろ?小さな問題だろ?何だ、それともいじめの方が小さな問題か?」

「……どっちもきついよ。」

そもそもの考え方が、違う。

妖怪だから。

人間だから。

少年の兄は黙ったまま。

母はまともぶったことを言うがそれまでで。

父は、

「ん?どうした、いつもの元気がないぞ?」

笑っていた。

「話は終わりだ、そろそろ食事にでもしようではないか。」



終わり?



何が?



まだ何も終わっていないというのに。



そろそろって何だよ。



まるで煩わしいみたいじゃないか。



何が、



何が煩わしい?



父さんは何が煩わしいの?



もしかしたら何も考えずにそう言ったのかも。



じゃあ僕は?



僕は今、何がこんなにもイヤなの?



話が済んでないこと?



お腹が減っていないのにご飯の時間になったから?



違う。



あの笑顔がイヤだ。



あの笑顔が煩わしい。



じゃあ、何で父さんは笑ってるの?



何で二人は止めないの?





…あぁ、そうか。



僕の家族は妖怪だから。



こんなにもイヤなのは




僕が人間だから。







ぷつん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ