第七幕
「そうですか…。全然気づきませんでした。担任として恥ずかしいです。」
「今すぐやめさせろ、とは言いません。ただ、いじめの調査くらいは出来るでしょう?」
「はい…。にしても驚きました。お父様が学校に来られるなんて。」
「直接言った方が良いかと思いまして。それともこの姿、この格好が変、だと言いたいのですか?」
「い、いえ!…?少し顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「えぇ…日の光に弱い体でしてね…。確かにいじめの件伝えましたよ。私はこれで。」
校舎を出て、門も出て。
壁に手をつきながら、電信柱にしがみつきながら、胸を押さえながら。
ハクシャクは歩いた。
いじめを直接教師に伝える。
それが、妖怪である彼が出した答えだった。
彼ならば、いじめの主犯の血を吸い取り、鎌で首をかっ切ることもできよう。
だが、それをしなかったのは、彼が父親だからだ。
人間界で十年以上過ごしてきた彼にとって、その方法は邪道でしかなかったのだ。
だが、正攻法を選んだ彼を、太陽の光が容赦なく苛む。
「はぁ…はぁ…夕方とはいえ流石に日の光は強いな。憎々しいほどに…!」
少年が学校にいない時間帯を選んで、ハクシャクはいじめの事実を伝えに行った。
秋の訪れを感じさせる天候は、ハクシャクを気遣ってはくれない。
「ゲホゲホ、がは!」
彼は、膝を抱えてうずくまった。
脂汗を掻き、息が乱れ、膝は笑っている。
彼の姿は、惨めだった。
道行く人は、彼を笑う。
その無様な姿を、見た目で判断し、笑う。
「何あれコスプレ?気持ちわる。」
「何か苦しそうにしてね?救急車呼ぶ?」
「やだよ、関わりたくない。」
「はは、それもそうだな。」
俯く彼には、人間たちの姿を視界に入れることはできなかった。
しかし、人間が放つ心無い言葉は、妖怪の耳を穢した。
それらを聞いて尚、ハクシャクは、妖怪であるドラキュラは、
「く、ははは…。」
笑った。
力なく、自嘲気味に、笑った。
「苦しい、な…。心も、体も。だがいじめはもっと辛いと聞く。」
男は、立ち上がる。
力なく、震える膝を押さえながら、立ち上がる。
「人間のあいつがこれ以上の苦しみに耐えてたんだ。私がこれくらい、耐えれなくてどうする…?」
男は、倒れる。
力なく、崩れ、横たわる。
「そうだった…考えたんだ。昨日あいつらと一緒に。名前を…考えたんだ。」
手を伸ばし、じりじりと、這いつくばいながら、男は進む。
「父親として、名前で呼んであげなくちゃ、な…。」
男は、笑った。
力なく、自嘲気味に、笑った。
「はは、あははははは…確かに、死ぬのは怖くないさ。だけど、だけどな…」
そして、
泣いた。
「死にたくない、な。これからが面白いとこなのに…。こんな未練ばかりを残して、死にたくない…!」
彼の思いとは裏腹に、体は言うことを聞いてはくれない。
動いてほしいのに、動かない。
泣きたくないのに、止まらない。
怖くないのに、未練がましい。
「…帰らなくては。あの場所に。家族のとこ,ろに。あいつの……と、ころ、に…ぃ……。」
男は動かなくなった。




