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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
94/411

合体魔法!?

「昨晩はゆっくり休まれたか?」から始まる社交辞令ともとれる会話を終え、俺達はテト村を後にした。


「アークドラグノフの皆…どうしているだろうね…」


「…そうだな。 俺もそろそろ心配になってきた…こうも音沙汰が無いとなぁ…」


「そう言えばご主人様、“シグテレポ”はもう使えますか?」


「ん、あぁ。 使えるみたいではあるな」


 昨晩外に出ていたのは確認のためだ。 何が原因であの時“シグテレポ”が使えなかったのは分からないが…。


「アレだよね。 しかし、不思議な力でかき消「知影」」


 ハリセンは偉大だ。


「…レオン達が訪れたら分かるように少し空気中の魔力マナに働きかけてきた。 これで当分は離れても大丈夫…だよな?」


「空気中の魔力マナに働きかける…ですか」


「…弓弦が本当にハイエルフっぽくなっていってるよ…何か複雑」


「………。 確認しました。 ですがご主人様、魔力マナの方は大丈夫ですか?」


「あぁ…大丈夫…なはずだ」


「…危なく感じたら事前に伝えてください。 私から魔力マナを分けますので」


「…出来るのか?」


 聞くと、彼女は俺のある一点を盗み見ながら頷く。


「“契り”をしていますから…ハイエルフの夫婦は互いの魔力マナを分け合うことが出来ますので問題無いですよ」


「…ねぇフィーナ」


「何?」


「契りって…何かな…?」


 知影の瞳から光が無くなっていく。 風音にもしもの時は抑えるよう目でお願いするが…。


『フィーナ様の御返答如何では御断りさせて頂きます♪』


 断る気満々のこの心中。 味方はいない。


「何って…契りは契りよ。 同一ハイエルフに対する一度目の契りは仮構築…つまり婚約の証、二度目の契りは固定化…結婚。 ハイエルフの聖地たる“契りの泉”で私とご主人様は契りを交わしたの。 あの時に私達の体内の魔力が泉の魔力によって少しずつそれぞれの体内に流れたのよ。 本来自らの魔力マナを相手に分け与えるのは相手を殺しかねない危険な行為なのだけど…分かるかしら?」


「…血液型みたいなもの…ってこと?」


「そう。 体内の魔力マナ回路がズタズタに破壊されるわ。 でも、契りの力により互いの魔力マナが互いに流れている場合はそれが無い。 魔力マナの補い合いも出来るし、合体魔法なども簡単に出来るということ」


「合体魔法とは…アタラシク「“アタラクシア”だ」あ、申し訳ありません…“アタラクシア”のような魔法のことですよね」


 フィーは「そうよ」と軽く頷いてから言葉を続ける…こうして見ていると…何か先生みたいだな。 


「一方が発動した魔法と合わせるようにもう一方が合わせるのが一般的ね…ご主人様、丁度魔物が現れましたのでお手伝いしてもらっても良いですか?」


 本当にタイミング良く猪型の魔物が飛び出してくる。


「どの魔法を使えば良いんだ?」


「そうですね…“プレスウォーター”をお願いします」


「分かった『…潰せ…プレスウォーター!』


『…凍りなさい…フリーズ!』


 俺が落とそうとした水の塊がフィーによって凍らされ、魔物に落ちて押し潰す。


「こんな感じよ。 この方法だと重ね掛けやに近いものがあるけど、威力が違うわ。 詳しくは…私より専門家の方が分り易いと思う。 …で、次に非一般的な合体魔法だけど…どうされます?」


 最後は俺に向けての質問だ。 “アタラクシア”を使うわけには…いけないからな…それに…あれを見られるのも…はぁ。


「今度で良いだろう。 今は大きな街とやらへ向かうのが先決だ」


「はい。 前者は兎も角、後者を使える人間は限りなく魔力マナが同位に近い…双子で出来るかどうかね。 それに使えるとしても威力は私とご主人様の魔法には及ばない。 これは驕りではなく事実よ」


 最後にそう締めくくり、フィーの合体魔法講座は終了した。


「ふ〜ん…怪しいなぁ。 フィーナか風音さんが覗いてるから弓弦の心が読めないし…ねぇ、“アタラクシア”ってどんな魔法なの? 私、気にな…ってしょうがないんだ」


 あからさまに訝しんで半目で見つめてくる知影…適当に誤魔化してくれないだろうか…知られると後が怖い…だが。


「普通の攻撃魔法だ。 ただ一つ違うのはフィーと一緒に発動しないと使えないという点だが」


「私や風音さんは…」


「無理ね。 あなた達の中にご主人様の魔力マナは無いから」


「むぅ…何か釈然としないなぁ…贔屓だよ贔屓。 そう思わないかな?」


 いや、そう思わないかな…って誰に向かって言っているんだ…あらぬ方向を見て。


「だって…私に特別な魔法なんて…あった」


「特別も何も、あなたの魔法属性は十分特別よ。 私にも、風音にも使えない特別な魔法なのだから…? あったって「何でもないから気にしないで!」…そう言われると私の方が釈然としないのだけど」


「まぁまぁ。 良いではありませんか…そうですよね弓弦様?」


「ん? あぁ…そうだな」


 …犬耳がピコッと立った。 …拠点付近に…この魔力マナ…ユリだ!


「どうかされましたか?」


「3人共俺に掴まれ。 拠点に戻るぞ」


「拠点? もしや…!」


「誰かが来たのですね!」


「そうだ。 ほら早く掴まれ…置いてくぞ」


 3人が俺に掴まったのを確認してから俺は“シグテレポ”を使って拠点へと転移する。 一つだけ突っ込みたいことはあったが。


 一つだけ突っ込みたいところ、それは。












「揃いも揃って人の犬耳を掴むなぁぁぁぁっ!!」


        *


「…な、何なのだこれは…!」


「…多分…フィーナと知影が建てた」


「お〜お〜…良くもま〜建てれたもんだな〜」


 ユリ達は目の前の家を見て口々にそんなことを言っていた。 転移事故で弓弦達がこの世界に取り残され、さらに転送装置の故障という深刻すぎる問題がつい先程解決されたので3人は急いで転移してきたのだが、以前アークドラグノフへ転移した場所の近くに家が建っていたことに驚いた。 近くに寄ってみると扉に“橘”と読める魔法文字ルーン(セティが読んだ)があり、それでこの家の建築者が分かったというわけだ。


「…凄い」


「うむ。 何と無くだが…見た目以上に頑丈に出来ているようだ」


「確かにな〜。 これは“アンベネボランステンペスト”にも余裕で耐えそうだな〜」


 セティはただポカンと口を開け、ユリは複雑そうな表情で“橘”と浮かぶ文字を見る。 レオンに至っては家の周りをグルグルと回り、壁を叩いていた。


「しかし…橘殿達は無事だろうか?」


「普通に考えて無事だと思うぞ〜? こんな家を建てているぐらいだからな〜」


「…だと良いのだが」


「…ユリは心配し過ぎ。 …大丈夫…きっと」


「…ううむ…し、しかしだな…」


 なおも言い淀むユリをセティは見ていたが、やがて家の壁のある一点を見つめる。


「…帰って来た…っ」


「だ、だからだな人の犬耳を触るなどわっ!?」


「待ち侘びたぞ橘殿! 知影殿もフィーナ殿も風音殿も暫く振りだな」


「ま〜暫くと言えば暫くだが〜…待たせてすまなかったな〜」


「…心配…した…っ」


 ユリに『心配するな』言っておいて、抱きついて『心配した』と言ったセティの姿にレオンとユリは目を瞬かせる。 知影は羨ましそうにそれを見、フィーナと風音は微笑ましそうにそれを見つめている。 弓弦はそんな視線を受けながらも、約束且つ何と無くでセティをそっと抱いていた。


「さ〜て、いきなりだが〜実は弓弦。 お前さん宛てにある任務ミッションが入ってるんだ〜…すぐ戻れそうか〜?」


「…どんな任務ミッションかを先に聞かせてもらっても良いか? それによって考える。 出来ればあと一日は時間がほしいからな」


「ん〜…そうか〜。 ま〜アレだ〜…少将以上の隊員が避けては通れない任務ミッションだ〜」


 素晴らしく不機嫌そうな、取り繕ったような笑顔でレオンを睨むフィーナ。


「どうでも良い前置きは要らないわ。 ご主人様が時間が無いと仰っているのに…殺されたいの?」


「まぁまぁフィーナ。 隊長さんに対してカリカリしてもそれこそ時間の無駄だよ。 ほら見てよ弓弦の犬耳…癒されるでしょ?」


 知影がフィーナの意識をレオンから弓弦の犬耳に向けさせる。


「…そうね。 馬鹿馬鹿しくなってきたわ…」


「うぐ…だから触る…な…っ。 レオン! 要点だけを…言ってくれ!」


「…はぁっ…幸せ♪」


 フィーナは弓弦の犬耳を触り始めるとそのまま自分の世界に入ってしまい、こちらの言葉に殆ど耳を傾ける気が無い様子を見て弓弦は深々と、本当に深々と悩まし気に溜息を吐く。


「…く…橘殿…っ」


「…ユリも触りたい…の?」


「…任務ミッション…と言うよりは訓練なのだが〜…暫くうちの部隊を離れて別の部隊…というか数人の隊員と一緒に数日指揮訓練に当たってもらいたいんだな〜」


 その言葉にレオンと弓弦と知影を覗く全員が固まる。


「隊長さん…冗談は止めてください。 私に…私達に弓弦と離れろと? ふふふ…嫌だよそんなの。 私は弓弦と一緒が良いの…駄目かな…」


「…あ〜すまんな〜…そいつは駄目なんだ〜…その〜な、知影ちゃん…弓矢っ! 飛ばすな〜っ‼︎」


 矢の雨がレオンを襲う。


「ふふふ…ふふふふふっ…ふふふフフフフフフフフ…ッ♪ 使おっかな♪ 使っちゃおっかな♪ 邪魔者を滅ぼさないといけないか「知影」ん…っ。 ごめん…でも…」


 何をしたのかは弓弦の(既に存在しているかさえ分からないが)名誉のため控えるが、それにより落ち着いて再起動した女性陣(無理矢理全員にやらされたので決して弓弦の望むところでは無い…望むところでは)は不承不承ながらも、納得するのであった。












 その夜。 レオンと弓弦は家の前の切り株にそれぞれ腰掛けて酒を酌み交わしていた。 一応、未成年飲酒では無い。


「ま〜簡単な演習に参加するだけだ〜。 そんなに心配するようなことでは無いと思うけどな〜」


「…心配性なんだ。 皆が皆…な」


「…け〜っ! 愛されてるな〜! 憎いぞ〜このっ」


「…そんなに羨ましいことか? 当たり前のように毎日犬耳を弄んでくるから辟易しているんだがな」


「…お前さんの自覚の無さは本当に恐ろしいな〜…その内夜道もおちおち歩けなくなるぞ〜?」


 「何故歩けなくなるんだ?」という弓弦の問いの答えとしてレオンは盃に注いだ酒を一気に飲み干す。


「お前さんはどうでも良くてもな〜、お前さんの立場を羨ましがるやつは結構いるんだぞ〜?」


「どうでも良いし、興味も無いな。 羨ましかったら勝手に羨ましがっとけば良いだけの話だからな」


「か〜っ! 言うな〜! 今の発言でかなりの数の男を敵に回したぞ〜? 綺麗所を周りに侍らせて余裕をかましているんだからな〜」


 苦笑しながら酒を口に含んだ弓弦は自らの犬耳をふにふにと触る。


「…余裕というよりかはもう諦めの域だな。 あいつらはあいつらの意思で俺の側にいる。 それをとやかく言う必要も無いし、権利も無い。 …ただ、側にいる以上は俺が何としても全力で守る…それだけだな」


「…お前さんには隊長の器があるな」


「そうか…だが人の犬耳を触るな」


 真面目に話しているように見えて犬耳を触ろうとしたレオンの眉間にガンエッジの銃口を突きつける。


「少しぐらい良いだろ〜?」


「俺にそっちの気は無い。 そういうのはセイシュウかディオにやってやれ」


 突然、レオンは溜息を吐くと視線を外して自らの足元を見る。


「…俺もな、俺の部隊にいる以上はもう誰も死なせたくないんだな…だが現実はそうもいかない。 今回のもそうだ」


「…誰かの思惑があったりするのか?」


「お前を」


 弓弦の顔を正面から見てレオンは憎々しげに言う。


「お前を俺の部隊から引き抜こうとしている奴等がいる。 今回の場合、他部隊での指揮能力訓練が上手い具合にカモフラージュになっているがな」


「引き抜き…か」


「そうだ。 実を言うと、一部の組織内で権力を持つ人間に俺は疎まれている。 そして力だけを欲して権力争いをする屑等の目にお前さん…橘 弓弦という人間が止まった。 止まって…しまった」


「…聞くだけで反吐が出そうだな」


 嫌悪感に表情を歪ませ、吐き捨てるようにレオンは続ける。


「言い訳にしかならないが、俺達の方も色々と手は尽くしていた。 報告書を改竄かいざんしたり、データベースの内容も信憑性があり気な虚偽の情報を記入していた。 …本部の人間でもあの3人以外には隠していたお前さんの“吸収魔法”の情報が漏れた可能性が高い。 …疑いたくは無いが部隊内にスパイがいる可能性もな…」


「…さらに言うのなら、俺さえ無理矢理にでも別の部隊に移せば知影達がついてくるということも考えているんだな…」


「…隊長として、それだけは避けたかった。 奴等は邪魔な俺を殺そうとしているんだ。 …俺を殺すためには部隊の力を削いだ方が効率が良いからな。 言い難いが…お前さんが抜けるということは現在の主力メンバーの半分が欠けることと同じだ。 …だがそうと分かっていても、しっかりとカモフラージュされて任務ミッション且つ訓練という形をとっている以上、突っねることは出来ない…だから今の俺には送り出すことしか出来ない…すまないな」


 深々と頭を下げようとするレオンを弓弦が制する。


「…この場合は「向こうに口実を与えないためにも受けるしかない」」


 言葉は途中で家から出て来た人物によって止められる。


「…弓弦、内緒話は禁止だよ。 そういうことは「「「「私達」」」」も交えて話さないと」


 知影に続いて女性陣全員が出て来る。


「何だ…起きてたか」


「……皆今起きたばかり」


「…そういうことは皆で対策を考えようよ…ね?」


 そう言い、弓弦の股の間に腰を下ろして知影は凭れかかる。


「…おい」


「弓弦様、“三人よらば文殊の知恵”です。 御二方では思い浮かばないような案を私達の内の何方かが思い浮かばれるかもしれません」


 風音が弓弦の背中に自らの背中を寄せる。


「…そうだな」


「お酒を注がせていただきますね♪」


 フィーナが切り株に腰掛ける弓弦の左隣に座って、彼の盃に酒を注ぐ。


「私も、風音も、知影さんもご主人様と心が繋がってるのですよ? …あのお部屋も気に入ってますし、下劣な人間の企みに躍らされるのも腹立たしいですので」


「…皆で、あの部屋で寝るのが私は好き…だから…手伝う…勿論」


 フィーナの膝に乗せられてセティが弓弦を見る。


「う、うむ…」


「何も言わないのか?」


「…私から“弓弦殿”に伝えるようなことは無い」


 ユリは弓弦の右隣に座る。 言おうと思ったことは既に言われてしまったし、それどころでは無かった。


「(…ぁぁ、また名前で呼んじゃった…は、恥ずかしい…)」


「…青春…だな〜」


 片や人口密度が壮絶なことに、それと比較すると何とも寂しい状態のレオンは徳利とっくりに入った酒が無くなったことを確認してから立ち上がる。


「よ〜し! じゃ〜今夜は徹夜で考えるか〜!」


「いや…多分答えは出た」


「…どういうことだ〜?」


「試してみたいことがある。 その結果次第だな」


「…まさか、アレ? …! でも感知されたりはしない? 時間も…」


「そう、ね。 …それを含めて確かめるわ。 ご主人様、それでは…」


「あ、あぁ…」


 知影とフィーナ、風音に連れられて家の中へと消える弓弦。 少し経った後、家の中から3人が出て来た。


「…? 弓弦はどこだ〜?」


「今出て来させますよ♪」


「あぁ…ご主人様ぁ…」


「では、新しい弓弦様の登場です♪」


 パチパチパチと拍手が…しかし弓弦が出て来る気配は無い。


「…橘殿はどうしたのだ? まさか寝てしまった…とか」


「な、なぁ…本当に見せなきゃいけないのか…?」


「…どうした弓弦、ヘリウムガスでも吸ったのか〜? …やけに声が高いが〜」


 レオンの言う通り、家の中から聞こえた声はいつもの弓弦の声に比べて高かった。


「ご主人様! 出て来てください!」


「折角以前御渡しした御召し物がよく似合っていらっしゃいますのに…大丈夫です。 今の弓弦様は…クス♪」


「…風音さん、それだと馬鹿にしているみたいだよ」


「あ! 違うのです。 違いますよ。 違っておりますので御安心を! …それにしても良く御似合いです…」


「……寝る「わぁぁっ‼︎ 駄目だよ弓弦! 出て来てよ!」


「…何をやっているのだ…入る「入るな見るな近寄るなぁぁっ‼︎」…」


 家の中を除いたユリが回れ右をしてそっと扉を閉める。


「………」


 そして何かを悟ってしまったような、そんな表情で夜空を見上げる。


「何でそんなに照れるんだユリ! 止めてくれ! 俺の方がどう考えても恥ずかしいだろう‼︎」


「そ、そのだな…すまぬ…」


「ユリちゃんは一体何を見たんだ〜? …んで〜、答えって何なんだ〜…」


 思い出したようにフィーナが、目を閉じて何かの魔法を使う。


「…感知にも引っ掛からないわね。 時間の方も問題無い…いけるわね。 あ、はいご主人様…どうされましたか?」


 何かの結論を出した彼女だったが、ご主人様である弓弦に呼ばれたため、家の中に入っていく。


「ならこれで…!」


「…さっぱり分からんな〜…」


「…要するに、弓弦1人だけだと何かと心配ですのでお目付…監…じゃない、念のために誰かが、誰にも見つかることなく側に入る方法が見つかったということですよ隊長さん♪」


「…成る程な〜」


 『何かと』について聞くほどレオンも馬鹿では無いのでそれに納得する。 …すると次は“誰が”弓弦の側にいるかで…。


「…取り敢えずな〜…それなりに頭の切れて、実力のある人物が適正だな〜。 万が一の時にすぐ対応するためにはそれが必須条件だ〜…あと、暴走しないことも大事だな〜」


「それに追加をするのならば、常に弓弦様と意思疎通が出来る人物…つまり、私かフィーナ様か知影様に限られます」


「わ、私は何故駄目なのだ!?」


「ユリ……繋がってない」


「…?」


 その発言に知影と風音は肝を軽く冷やしたが、ユリはセティの発言について深く考えなかった。


「重ねて言うが〜下手に暴走されても困るな〜。 あくまで基本的に弓弦の側でジッとしているのがメインだからな〜」


「…つまり知影は…駄目。 …すぐ暴走する」


「そ、そんなこと言ったって私、暴走なんてしないよ! ずっと弓弦の側で…弓弦の側に…」


「……今の知影が正にそう。 …困る」


「ではフィーナ殿は?」


 家の扉が開いた。 ユリ達は2人目の同行候補を見る。 が…。


「…ふぅ。 もう十分なはずだ。 …二度としないからな」


「…ご、ご主人様さまぁ…はぁ…っ…酷いです…私の犬耳…を…こんなに…ん…っ!」


 何があったのかは分からないが、弓弦の声は戻っているし、フィーナは息を荒くして自らの犬耳を撫でている。


「…フィーナも…今みたいになる…から駄目…だから適任は…風音」


 セティが現在、傍観者気味の風音に視線を向ける。


「私…ですかセティ?」


「…そうだな〜。 条件に合うのは風音ちゃんだ〜…頼めるか〜?」


「…よろしいのですか?」


 フィーナと知影に自分で良いのかと問う。


「…仕方が無いけど…うん、風音さんを信じるからね?」


「…分かってるわね。 あなたのことを信用していないわけじゃないけど、ご主人様の身に何かあったら…」


「はい。 心得ております」


「ふぁ…取り敢えず今日はもう寝ないか…相当眠いのだが」


「はぁ…っコホン。 足下がふらついていますよ? 支えますので手を…ひゃっ!?」


「…すまん」


 眠気なのか単に酒が回ったのかは分からないが、ふらつく弓弦をフィーナが支えた際に弓弦の手がフィーナの胸を鷲掴みにする。


「ねぇ弓弦。 掴むのなら私のが良いと思うよ? そしてそのまま布団へ…キャッ♪」


「私も今日は何と無く中央の布団で寝たいのだ…眠いし…な」


「…皆で一緒」


 弓弦に付き添うように次々と家の中に入っていく知影達。 風音自身も出来れば弓弦の側で寝たいので、急ごうとしたところをレオンに止められる。


「…どうかされましたか?」


「…弓弦のこと、好きか?」


 風音は少し考えるように目を閉じた後、はっきりとレオンの顔を見つめて言う。


「はい。 愛しています。 知影様やフィーナ様と同様か、それ以上に」


…その言葉に、レオンは自らの中で何かが疼くのを感じた。


「では、私も御先に失礼させて頂きます」


「…」


 …彼の脳裏にある記憶が蘇る。 忘れ去った、去ろうとしていてたはずの記憶が。


ーーーレオン! レオ〜ン♪ こら〜っ! 起きなさ〜いっ!


「…………」


 この時、彼の表情はいつもの彼とは大きく異なっていた。


「…悪い夢だと…思っていた。 だが…現実なんだよな〜…」


 彼の口から誰かの名前のようなものが聞こえたが、それが家の中にいた弓弦達の耳に届くことは無かった…。


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