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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
92/411

不幸発動!?

 湖底に静かに佇む神殿をほとりから4人は眺めていた。 湖は相当深いはずなのだが人間である知影と風音にもうっすらと見えるほど澄んでいる。


「…大きな神殿だね」


「あぁ、改めて見るとな。 だが今日潜るんだぞ? 行く前から変に尻込みしていても仕方が無い…皆準備は良いか?」


「楽しみですね♪」


「………」


 風音は面白そうに手を合わせるがフィーナはやはりどこか暗い表情である。


「…ぁ」


「まったく…そんな暗い顔をするな。 もしかしたら何かがあるのかもしれないんだぞ? 重要な手掛かりだ…な?」


 弓弦が頭を撫でるとフィーはどこか作ったような笑みを浮かべる。


「…ご主人「はむ」きゃんっ!? 何をなさるのですか!? 気持ち良…酷いです♪」


「フィーナ、本音が混ざって…ごめん」


 フィーナが睨んだのか知影が押し黙る。


「少し元気出たか? 出なかったらまたやるが…」


「いえ、少し考えごとをしていたので…元気はありますよ♪ …ご主人様私の犬耳を甘噛みされるの上手になりましたよね…一瞬で私の体をこんな生殺しの状態にされるなんて…♪」


「よし、“シグテレポ”‼︎」


 フィーナの言葉を無視して、弓弦は“シグテレポ”を発動。 次に目を開けた時彼等は神殿の内部へと転移していた。


「…魔物の気配がしますね。 神殿内に多数いるようです」


「そうだな…取り敢えずは進んでみるか」


「承知致しました。 十分注意して進みましょう」


「…敵です!」


 4人の前に浮遊する魚の骨のような魔物が現れた。


「ボーンフィッシュ…ってとこか。 いくぞ!」


 腰に帯びた鞘から出ているガンエッジの柄に手を添えて駆け出す。 


「…橘式抜刀術」


 一瞬でボーンフィッシュの背後に斬り抜けると抜いた剣をゆっくりと鞘にしまう。 チャッというと共にボーンフィッシュが横に両断され、消える。


一刀抜砕(いっとうばっさい)…成敗、だ」


「お見事です、弓弦様♪」


「抜く時の角度はこう…で…抜けた時はこう…? …う〜ん…」


 フィーナは“一刀抜砕”の練習をしているのか、構えの角度の調整している。 今度しっかりと教えてみた方が良いか…と、弓弦は考えながら先に進む。


「ねぇ弓弦。 さっきの居合斬りのことだけど…」


「何だ?」


「弓弦の居合斬りってお姉さん仕込みなんだよね?」


「あぁ。 居合と言わず、俺の剣術は全て美郷姉さん仕込みだ…初めて一刀抜砕(あの技)が出来た時、美郷姉さん凄い喜んでたな…」


「あ。 回想は入らないからね♪」


「? 急にどうしたんだ知影?」


「ふふふ〜ん♪」


「あ、おい!」


 謎発言に弓弦が聞き返すが知影は鼻歌交じりに先に行ってしまう。


「クス、困った方ですね。 昔から知影さんは自由な方だったのですか?」


「いや…昔は物静かだった。 あぁなったのはアークドラグノフに来てからだったな。 ま、元気なのは良いことだ…うん」


 即答。


「もう少し若々しく…は昨晩私が知影さんに言われましたね。 元気な方を見ていると、見ている私達も元気を頂けるような感覚がします」


「元気過ぎるのも考えものだがな。 …だが、元気が無いよりはマシなのも確かだ」


「クス、そうですね。 私も見習いたいものです」


「…違う違う…う〜ん…? やはり勝手が違うわね…「フィー、行くぞ!」は、はい‼︎」


 未だ刀の向きの角度を考えているフィーナに声をかけ、弓弦達は知影の下に行く。


「遅いよ〜? ほら、まだ先はあるからどんどん行こ〜う!」


 どんどん先に進んでく知影。


「そんなに先を急ぐな…何かあっても俺は知らんからな」


「大丈夫。 弓弦が守ってくれるから…って、あれ?」


 ゴゴゴゴゴ…と何かの音が弓弦とフィーナの耳に届く。


「な、何を踏んだんだあいつは…」


「ご主人様、上です‼︎」


「ん?」


 弓弦が上を向くと。


 バシャーンッとタイミング良く、ピンポイントで大量の水が弓弦にかかる。


「………」


「えっと…弓弦、大丈夫ってわぁっ!?」


 犬耳がブルブルと動いて水を飛ばす。


「ぅぅ…冷たい…ックションッ!」


「ご主人様、これを」


「ぁ、ぁぁ…ありがとックション!」


 フィーナが自分が着ていた上着を弓弦に被せる。


「弓弦…ごめんね、私の所為で…」


「大丈夫だ…大じょ…ハックション‼︎ ぅぅ…」


「水魔法…プリーズオーダーの魔法でしょうか?」


 上着を羽織りながらも寒さに震える弓弦の近くで知影が謝り倒しているので心配ながらも今はそっとしておいて、2人は知影が先ほど踏んでしまったように見えた床の近くへと移動する。 風音には誰もツッコミを入れない。


「これは…何ですか?」


「“プレスウォーター”の魔法を自動的に発動させる装置…と考えた方が良いわね。 予想するに、触れた生物の魔力を吸い取って発動するタイプ。 つまり吸い取った相手の魔力が強ければ強いほど威力も高まるはず…踏んだのが知影で幸いね」


「…仮にフィーナ様があの装置を起動されたらどうなるのですか?」


「私は専門家じゃないから分からないけど…踏んでみる?」


「…い、いけませんよ?」


 沈黙が流れる。


「フィーナ、弓弦を温かくする魔法って無いかなぁぁっ!?」


「「きゃあっ!?」」


 知影が何も無いところで躓いて風音とフィーナにぶつかる。 風音は滑らかな身のこなしで装置を避けるが。


「いたた…ごめんフィー…ナ?」


 装置に綺麗に倒れるフィーナ。


「な、何をするのよ知影!? ぅっ!? いけない‼︎」


 装置が起動しフィーナの膨大な魔力の一部が吸われ魔法陣が展開する。


「ん?」


 弓弦の下に。


「弓弦っ!?」


「…っ。 間に合って下さい…!」


「ま、まさか…っ、“マールシュトローム” !? お逃げくださいご主人様‼︎‼︎」


 しかし弓弦が立ち上がるよりも先に魔法が発動した。 発動した魔法は水属性魔法“マールシュトローム”。 対象の足下で強力な渦潮を起こして呑み込む強力な魔法だ。


「はぁぁぁっ! 弓弦様!」


 突如湧き起こった渦潮が弓弦を呑み込もうとするのを風音が助け出して何とか事無きを得る。


「た、助かった…。 すまないなかざっクションッ!」


「知影さん‼︎ もう少し足下に気を配って下さい! これでは弓弦様の御身体が保ちませんよ!」


「…ごめんなさい…」


「風音も大丈夫? あなた少し魔法を受けたでしょ…足とか痛くないかしら?」


「…実は」


 風音は薙刀を壁に立て掛けると、弓弦と一緒に座り込んで壁に凭れる。


「足を痛めまして…申し訳ありません。 私は弓弦様と一緒に暫くここで休ませて頂いてもよろしいですか?


「…仕方が無いわね。 ご主人様、私達は取り敢えず先に進んでみます…知影もそれで良いわね?」


「…分かった。 風音さん、弓弦のこと…お願いするね」


「…俺がまるで足手纏いみたいな言い方だックション! ぅぅ…みたいな言い方だな」


「いえ、足手纏いは」


「…間違い無く」


 風音とフィーナが知影を見る。


「私、だよね…あはは…。 だから弓弦は気にせずに風音さんと休んでて。 行けるところまで行ってみるから」


「『霞の霧よ…幻の霧よ…ここに満ちて全を惑わさん…ミラージュ!』…これで魔物にも察知されないはずよ。 効果があるのはここから…ここまで。 出たら見つかるから出ないように…わかったわね風音? ご主人様もどうか今は風邪を引かないことにだけ注意してください。 時々“テレパス”で繋げるので連絡はその時に」


 幻属性魔法“ミラージュ”。 単体型の“イリュージョン”の下位に当たる魔法で、効果は一定範囲内の気配、音を完全遮断。 範囲が小さいため隠れる時にしか向いていないが、上位に当たる“イリュージョン”とは違い、効果座標が動くことが無くまた効力を失う条件も一定時間経過するか、範囲外に出るかの二つなので正にこういう時のためにある魔法だ。 フィーナが詠唱を完成させると弓弦と風音の周りに薄い霧が立ち込める。


「すまないな…情け無いご主人様で」


「ふふ…支え甲斐があるものですよ♪ それに情け無くなんて…ありませんから。 では…行って参ります」


「ハックション! …気を付けろよ」


「気を付けて下さいね」


 2人の言葉に2人は頷き、神殿の奥へと進んで行った。


「ハックション! ハックション! ハァックションッ!! …我慢していた分一気に…ックション! …騒がしくしてすまなックション! …ぅぅ、本当にすまん…」


「クス、別に構わないですよ。 フィーナ様の魔法で周辺には聞こえないはずですから」


「…そうだな。 周囲にフィーの強い魔力を感じるから暫くは落ち着けるか」


「はい。 災難続きでしたので弓弦様は休まれた方が良いと思います。 無論、私も…」


 風音が自分の足に視線を落とす。 弓弦を目を落とす…と。


「血が出てるじゃないか‼︎ 待ってろ…『かの者を癒したまえ…ヒール!』」


 弓弦から放たれた魔力が風音の足を包み、癒す。


「…ありがとうございま『かの者を癒したまえ…ヒール!』す」


 弓弦の全力の魔力が込められた“ヒール”は一回で風音の足を癒しきるのだが、風音の足が心配な弓弦は更に“ヒール”を掛ける。


「…ありが『かの者を癒したまえ…ヒール!』…あの…」


 まだ掛ける。


『かの者を癒し「十分ですから!」たまぇっ!? うぐっ!? やめっ!?』


 風音が弓弦の犬耳を掴んでグイグイ引っ張る。


「風音止めろって!」


「いいえ、止めません! 止めるはずがないです! 止める気は一切ありません! フィーナ様も弓弦様も御二方共揃いも揃って心配性で何度も何度もビールビールと…っ‼︎」


「…や、止めろ…頼むから…あ、頭が…ひゃぅっ!?」


 弓弦の身体がビクッと波打ち、変な声が出る。 力が抜けてそのまま風音の膝に向かって倒れる。


「あらあら…♪ 可愛いですね」


「…ぅ、うるさぃ…止めてくれぇ…っ」


「ん…っ。 …少々はしたないでしょうか…? ですが仕方がありませんね。 弓弦様がいけないのです。 弓弦様が可愛い過ぎるから…クス♪ 知影さんやフィーナ様の御気持ちが良く分かります…それ♪」


 後頭部に風音の太腿ふとももの柔らかい感触。 その感触と犬耳を揉まれると全身を巡る電流のような感覚が弓弦の思考を麻痺させる。 風音はその様子を微笑まし気にのように見えてさながら小悪魔のようにもてあそぶ。


「…ぁぁ…風音の太腿って柔らかいなぁ…ははは…っ!?」


「いけない子ですね。 クスッ…それほど私の太腿を堪能したいと御思いなのですか? ダメですよ♪ そんなことを仰る悪い弓弦様の犬耳は…こうですよ♪」


「ひゃっ…くぅ…っ」


「ほらほら…クスッ♪ ここですか? ここが弱いのですか? ここが弱いのですね? あぁ…その御顔、とっても素敵ですよ弓弦様♪」


 表情はすっかりとろけきり、流涎りゅうえんまでしている。 この情け無いにもほどがあり過ぎる表情を知影やフィーナが見たらどう思うのか? …と風音は思考の片隅で考えながらも、思考の大半で今の弓弦の表情を忘れまいと必死にフォルダー(本人曰く“ホルダー”)に入れていたーーー。


        *


 弓弦と風音さんと別れてから私とフィーナは神殿内の通路を歩いていた。


「足下には十分注意を払って。 またさっきみたいな仕掛けが起動でもしたら堪ったものじゃないから」


「うぅ…ごめんだって…」


「別に謝れとは言っていないわ。 ただ注意してほしいだけよ。 少なくとも暫くの間はあのような失態を演じることのないようにね」


 皮肉が一杯込められたフィーナの言い方…風音さんが言っていた通り弓弦に似ているなぁ…似せているんだよね…フフフッ♪


「了解りょ〜かい♪ 注意するから大」


ボコッ。 と足下で音がした…してしまった。


「丈…夫…ごめん」


 水で出来た狼が六体ほど私達の目の前に染み出てくる。


「…水狼ウォーターウルフと言ったところかしら」


 矢を射ってみると、貫くは貫くけどすぐに元通りになっちゃう。


「物理攻撃は効かないみたい!」


「えぇ。 つまり知影、あなたは下がっているべきよ。 言い方が悪いけど足手纏いだわ」


「後方援護だね。 分かってる。 任せて」


「……好きにしなさい」


 フィーナが氷の槍を構える。


「…せいっ‼︎ はぁっ‼︎」


 …そう言えばフィーナと一緒にちゃんと戦うのはこれが初めてなんだよね…敵として戦った時は圧倒されたり、初任務(ミッション)は戦った…よりかは弓弦に助けてもらいたいがためにわざと捕まっていたし…お正月の時はすぐに弓弦に無力化されちゃったから…こうやって見ているとカッコいいなぁ…。


「何やってるの知影! 砕きなさい!」


「え? あ! ごめん‼︎」


 次々と凍らされていく水狼を私が矢で砕く。 フィーナの槍さばきは正直言って凄い。 これで刀も、魔法も沢山使える…ヒロイン力半端じゃないよ…これじゃ弓弦の正妻の座が危ういかも…っ。


『燃えなさい、地獄の業火で…エクスプロージョンッ‼︎』


 フィーナの手から放たれた火球が大爆発を起こす。 爆発は残った水狼を呑み込み、焼滅させる…チートだよチート…。


「…戦闘中に考えごとをするのは止めなさい知影。 それでは命を落とすかもしれないわよ」


「…ごめん」


「謝ってばかりね。 駄目よそれでは…それではご主人様…弓弦を支えることなんて夢のまた夢よ?」


「うぅ…」


 座り込んでのの字を書いてみる。 返す言葉が無いよぉ…っ。


「もぅ…そこで黙ってどうするの? …コホン。 これで黙ってるようでは更に駄目ね。 ご主人様もきっと失望されてしまうわ」


「…そうだね。 弓弦に失望させるようじゃ駄目…うん。 そんなの嫌だ」


 フィーナは軽く頷いて私に手を差し出す。


「なら、立ちなさい。 失望させたくなかったら」


「うん! ごめんねフィーナ」


 フィーナの手を取って立ち上がる。


「…ごめんね? もう少し相応しい言葉があるのじゃないかしら?」


「えぇと、ありが…と?」


「はっきりと言う!」


「あ、ありがとうフィーナ!」


「…まぁこんなものね。 じゃあ先を急ぐわよ」


「は、はーい!」


 …フィーナって何ていうか、こういう時お姉さんみたいな人だなぁ…。 もしかしたら妹さんとかいたりして…聞いてみよっかな。


「ねぇフィーナ。 フィーナって妹さんとかいるの?」


「妹? ………いないことも…無いけど? 急にどうかした?」


 妙に歯切れが悪いような気がするけどいるんだ。


「お姉さんみたいだなぁって。 私はそういう人いなかったから…何か良いなぁ…とか思ってた」


「お姉さん…か。 ふふっ、そう見えるかしら?」


「うん。 頼れるお姉さんだと思う。 学校では私もそんな口調だったような気がする…けど…あはは…やっぱり私、無理していたのかなぁ…?」


「言われてみればそうだったわ。 お姉様って呼ばれていたくらいだものね」


「? 弓弦から聞いたの?」


「…えぇ。 以前私が晩酌をして差し上げた時にポロリとそんなことを言っていたわ」


 弓弦…個人情報! プライバシーは守らないといけないよ? まったく…こまったものだよ。


「…って晩酌!? 前も言ったけど弓弦未成年だよ!? 未成年飲酒禁止法の違法行為…50万円以下の罰金に処せられちゃうよ‼︎」


「それは人間の決めたことよ。 ハイエルフである私とご主人様には一切関係無いわ。 それに…」


 寂しげな笑いをするフィーナ。


「私もご主人様もあなたより200歳年上になるってこと、忘れてないかしら?」


「あ」


 合法…なのかなぁ…? いやでも…。


「それに昇進試験の打ち上げの時に皆してお酒を飲んだわね。 知影の言っていることが認められるとして、まず罪に問われるのはあなた達でしょ? 私とご主人様以外全員未成年だったのだから」


「…でも飲み物ってフィーナが買ってきたよね」


 確か私の記憶だと…飲み物を買ってきて冷蔵庫に入れたのはフィーナだったはず。


「…記憶に無いわ」


 目が泳ぐ。 …確信犯。


「お酒…好きだったりする?」


「…ご主人様と一緒に飲むお酒は大好きよ。 1人では飲まないわ…あの方と一緒だから美味しいの。 知影にはまだ分からないかもね?」


 うぐぐ…言葉と言い胸と言い、言ってくれるね…。


「私だってもう少ししたらフィーナに負けないくらい大きくなるんだから…っ」


「…それは胸のことを言っているの? それとも…器のこと? 駄目ね。 あなたとは年季が…コホン。 人間はもうその歳ではあまり成長しないと聞いているわ。 胸で私があなたに負けることは無いわね絶対に。 器はあなた次第だけど…ふふっ」


 …ふふふ。


「…うん。 どうせ勝てないんだよね…そう言っているんでしょ? なら…殺しちゃおっ『バインドウォーター』ひゃっ!? み、水が‼︎」


 ちょっと軽く殺そっかなって思っただけで動きを封じられるって…酷いよ。 ん? 酷いのは私…って聞こえたような気がするけど、気の所為だよね♪


「それだから駄目なのよ。 すぐカッとなる…ヤンデレも大概にしなさい」


「だって…何かこう、イラッとなるとつい殺っちゃうっ!?」


 バシーンッとハリセンが私の頭を叩く。


「な、何でフィーナがそのハリセンを持っているの!? そのハリセンっていつも弓弦がどこからともなく高速で出すハリセンだよね!?」


「えぇ、そのハリセンよ。 ご主人様にこっそりと頼まれたの…『知影が何か馬鹿なことを言おうとしたらこれで叩いてやれ』…とね。 だから変なことを言おうがものなら遠慮なく叩かせてもらうから覚悟することね」


「うぅ…痛いよ…」


 …今の一撃全然遠慮が無かった…。 こうして考えてみると弓弦って結構手加減してくれてたんだなぁ…って思う。


「…魔物が近いわ。 音を立てないで」


 曲がり角の前で急に立ち止まって刀の鞘に手で触れるフィーナ。


 角からボーンフィッシュが現れる。


「……」


 フィーナは刀をゆっくりと抜いて切先を魔物に向ける。 刃が鋭い輝きを放ち始め、私がそれに見入っていると彼女は徐々に刀を上段に持っていって…。


「はぁぁぁぁっ‼︎」


 振り下ろした。 ボーンフィッシュ達は刀の間合いに入っていないにも関わらず、真っ二つに斬れる。


「わぁ…すご〜い!」


「…ふぅ。 中々魔力(マナ)を持っていかれるわね…連発は…六回が限界。 改良の余地もあり…と」


「今の技、どうやったの?」


「技…と言うよりはこの刀の能力と言った方が正しいかしら。 魔力マナを込めることで斬れ味や刀身伸ばすことが出来る特別な鉱石で作られているから」


「へぇ〜まるでハイパーな光線サーベルみたっ!?」


 ハリセン襲来…うぐぐ…誤魔化したのに…。


「変な言葉を使わない。 そう言う時はしっかり言った方が良いわよ? ご主人様のハリセンが唸るから」


「変な言葉を使って、何が悪いんだよ‼︎ …ハイエルフはいきなり人を叩いて良いのか! 「今から叩くわ。 ハリセンで」痛っ!?」


「下らないことを言わない。 …どうやらゴールみたいだから」


 フィーナの言う通り行き止まりに出た。 行き止まりといっても大きな広場。 正しく神殿の最奥に相応しい壁画があった。 見たことも無い文字が刻まれた壁画に触れてフィーナが何かを呟く。


「…ッ!? “アカシックルーン”の効果が無い…? そんな馬鹿なことが…っ!?」


 壁画の中に描かれた丸い壁画が青い光を放つ…光は何かの形をとって同時に背後で壁が降りる。


「…退路が断たれたわね。 まぁ良いわ…倒すだけ。 …くるわよ‼︎」


 光は亀の形をとり、形容出来ない咆哮を上げる。 …亀って吠える?


『迅雷よ…小手調べといこうかしら? デッドインパルス!』


 魔物の周囲に魔法陣が多数展開。 一斉に集中放電を始める…って、全然小手調べじゃない魔法だよ…。


「…口ほどにも無いわね」


「へ?」


 魔物がふらついて倒れる。 倒れた魔物は粒子化していき…消える。


 粒子は空中に徐々に、再び集まり球体の形をとる…綺麗な球だなぁ。


「…触れても良いかなぁ」


「駄目よ。 ご主人様達を待つわ。 今お呼びしたからもう少し…道中の仕掛けは予めお伝えしたからすぐにいらっしゃるはずだわ」


「うぅ…」


 多分殆どの罠に引っ掛かってしまったんだよね…私とフィーナ。 フィーナがいなかったら私なんてとっくに死んでいたな…。 あぁ…私ってホント、ドジだなぁ…♪


 バシーンッ‼︎


「…何がドジだ。 フィーナに迷惑ばかりかけたみたいだな。 少しは自分の注意力不足を反省しろ」


「…い、痛いよぉ…っ」


「ご主人様、お身体の方は…あと風音」


「後とは酷い御言葉ですね。 問題ありませんよ。 弓弦様がビールをかけてくれたので」


「“ヒール”な。 ビールかけてどうするんだよ…戦勝会でもするのかまったく…で、これは?」


「魔物を倒したら現れました。 どうします? 触れられますか?」


 フィーナ…口調がガラリと変わった…何か凄い。 …そしてやっぱり頭は弓弦に撫でられていて気持ち良い♪。


「…禍々しい魔力マナは感じられないが…風音、どう思う?」


「そうですね…フィーナ様、どう思われます?」


「…ご主人様ぁ…投げないで下さい」


「…はぁ。 わかったよ。 じゃあ皆で触ろう…それで良いか?」


「「「うん(はい)(畏まりました)」」」


 うん♪ 皆で触ればもう何も怖…フラグだよね。 うん、止めよう。


「3…2…せぇ…のっ」


 皆で謎の球体に触れる。


 直後。


「え? え? な、何? 地震!?」


「ご、ご主人様‼︎ 魔力マナが! 凄まじいほどの魔力マナが荒れ狂っています! ここまで濃密な魔力マナは…く…っ」


「…っ! 立って…いられない…っ!」


「…弓弦様!? フィーナ様!?」


 弓弦とフィーナが床に倒れ込む。


「…脱出しましょう! このままではこの神殿も崩れるやもしれません! 知影さんは弓弦様を! 御願い致します!」


「分かったよ! …でも、まだ後ろの壁が上がってない…以前に上がる気配が無いよ!?」


「…砕きます! はぁぁぁっ‼︎ …っ駄目なようです…」


 風音さんがあれこれしても壁は砕けない…ってどうしよう!?


「…なるようにしかなりません。 このままここで身を守りましょう…瓦礫は私が斬り裂きます。 知影さんは御二人が私から離れていくことが無いように引っ張っていて下さい!」


 風音さんの言う通りに従って私は2人の手を握って目を瞑った。

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