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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
91/411

探索前日!?

「…る…づる…」


 霞む意識の中微睡んでいると体が揺さぶられる。


「弓弦…起きて」


 更に激しく揺さぶられる。


「起きないと「…ッ!?」…ちぇ…っ」


 身の危険を感じて勢い良く起き上がると知影がつまらなそうに目を逸らした。


「…人が気絶している間に、何をしようとしていたんだ?」


「何って…愛のち・ぎあうっ!?」


 ハリセンが唸る。


「…そういうのはそういう時にやってくれ…意識がない間にされてもな…」


「よし、じゃあしよっかうっ!?」


 ハリセン。 バシーンッという音が空間内に響く。


「馬鹿か! 周りを見てからそういうことは言え!


「うぅ…だって「言い訳は聞かんっ!」弓弦とイチャコラ…」


 …これで学校では常に全教科ほぼ満点の学年一位の天才なんだがな…どうして俺に関することだと思考回路が駄目なんだか。


「…で、ここはどこだ?」


「う〜ん…壁に彫られている何かの彫刻から判断すると多分神殿だと思う。 しかも相当古い。 多分建てられてから最低1000年は経ってる」


「神殿か…」


「どうする?」


 湖の底に隠されていた神殿…浪漫があるな。 探検したい…が。


「魔物の気配がある。 危険だし、俺達2人で無理に進むことも無いから探検は明日だな」


 言いながら道の隅に取り出した魔法の羽ペンで五芒星の魔法陣を描く。


「…2人きりで探検したかったけど…仕方無いかな…」


「何があるか分からないからな…そういった要素は可能な限り減らした方が良い。 取り敢えず今日はこのまま拠点に戻って明日に備えるぞ」


「うん。 分かった…ぁ…っ」


 知影の頭を撫でる。


「よし、じゃあ戻るぞ」


「うん♪」


「“シグテレポ”‼︎」











「あ! お帰りなさいませご主人様!」


 湖のほとりに一度転移して荷物を持ってから拠点に転移した俺達はフィーと風音に出迎えられて小屋の中に入る。


「食材を御預かりしますね」


「あぁ、頼む」


「畏まりました」


 食材の調理を予めくじ引きで決まった風音に任せて、俺は知影とフィーと一緒に食事が出来るのを待つ。


「…次ッ‼︎」


 …視界の隅では風音が驚異的な速さで調理をしていっている。 あまりの速さに残像が見えるほどだ…恐るべし。


「今日の収穫はどうだった?」


「ありますよ。 ご主人様は?」


「あぁ、俺もある。 明日は忙しくなるかもしれないな」


「ふふ、望むところですよ♪ …あと、少しお話があるのですが」


 妙に改まった態度で話を切り出すフィー。


「私は外した方が良い?」


「…結構真面目な話か?」


「そうですね…凄く大事なお話です」


 フィーが大事な話…か。 一体どんな話なのだろうか?


「…あのですね」


 生唾を飲む。


「首輪が緩いのです…ご主人様?」


「…ま、真面目な話だからどんなものだと思ったら…そんな話かよ…っ」


 衝撃のあまり椅子から転げ落ちてしまった…。


「私にとっては大真面目なお話です! 何故なら…」


 フィーの首輪型のチョーカーから鎖が伸びて彼女はそれを握る。


「おいまさか」


「…っ!」


 引っ張って涙目になる。


「うぅ…駄目です…全然気持ち良くないです…」


「別に気持ち良くなくても良いじゃないか。 フィーのM体質が治り始めたってことだろ?」


「治りません! 治したくありません!」


 …何故そうも意固地になる。


「私忘れられてないかな?」


「嫌に決まっています。 無論私の体質が普通のそれとなったとしてもご主人様と私の関係が変わることはありません。 (ご主人様)(雌犬)の関係は…はぁ…っ♪ …ですが、この快感を失うのは嫌です。 快楽に溺れていく…あぁ…何て素晴らしい生活なのでしょう…はぁっ♪」


「…本当にそんな生活を過ごしていきたいのか?」


 フィーは笑顔でそれに答える。


「勿論です。 全てにおいてご主人様をお支えするのが私の夢です」


「物は言いようだな」


 …悪くないと思う自分がいるのがなんとも言えないのだが。


「ふふ♪ ご主人様もそう思われているのならそれでよろしいではないですか♪ はい、それではもう少し小さめの首輪をお願いします」


「どうしてそうなる。 俺は支えられるのは悪くないなと思っただけで、首輪云々は全く関係が無いだろ? あと覗くな」


「関係あります大ありです。 支え=ご主人様ぁぁっ! …です」


 根本的な意味合いが同じなのは分かるがよく分からない思考回路だ。


「十分お分かりになっているではありませんか? ふふっ…嬉しいです♪ 私がご主人様に染められていくようにご主人様も私に染められていく…はぁっ♪」


「…お互いに染まり、混ざり合って組んず解れつ…じゃない。 おーい」


「クス、弓弦様の前で見せられることはありませんが、弓弦様がおられない時のフィーナ様は、まるで弓弦様のように「風音!」振る舞われておりますよ?」


 机の上に食事を並べながら風音が言う。 美味しそうだ。


「そうなのか?」


「はい。『ご主人様のことは少し心配だけど…今はやるべきことをやるわよ』…と、今日は仰ってましたね」


「…? どこが俺みたいなんだ?」


「素直でないところを弓弦様に似せておられるのです他に「“スリープウィンド”」」


 何かを言おうとした彼女はフィーの魔法で眠らされてしまう。 倒れ込んでくる風音を支えると寝息が。


「お…っと。 おい、フィー」


「風音が悪いのです。 ありもしないことを話し始めるので仕方無く…」


「食事前だ。 寝かしてどうするんだまったく…起こすには?」


「自然に起きるのを待ちま…すみません」


「他に方法は無いの?」


「眠りから覚まさせる魔法は無いのか? あるのなら使ってくれ」


「…はい」


「ねぇ…何か私悪いことした? おーい!」


『…彼の者を永久とこしえの眠りからさませ…パージスリープ!』


 魔法陣から発せられた柔らかな光が風音を包む。


「ん、うん…」


「起きたか風音?」


「あ…はい」


 寝惚け眼の風音に見つめられて少しドキッとする。 …少しだけだからな?


「よし、ご飯にするか」


「わん♪」


「はい」


「おーいっ! 私のこと忘れてないかなっ!?」


 あ。


「い、いや…忘れてないぞ? ほら知影も早く座れ。 ご飯にするぞ」


「そ、そうよ知影! ほら、あなたも早く座りなさい?」


「お、美味しいですよー。 自信作ですー」


 3人が3人とも言葉が吃る。 勿論それで誤魔化せる知影ではない。


「ねぇ…本当のこと言って? 怒らないから…ねぇ、言ってよっ‼︎」


「「「忘れていました。 すみません」」」


「うん…正直でよろしい…っ。 …正直で…っ」


 結局その後、食事が終わるまで知影の機嫌が元に戻ることは無かった…。












「じゃあどっちから話す?」


 悪戦苦闘の末、やっと機嫌を戻した知影が話を切り出す。


「そうだな…先ずはフィー達の方から聞かせてくれ。 収穫はあったんだよな?」


「はい。 この世界の不思議な点についてです」


「「この世界の不思議な点?」」


 フィーは頷く。


「この拠点を中心として離れた場所には必ず森があり、またその先に進むことが出来ないのです」


「ある程度進んだら戻されている…と言ったところか」


「そうですね。 迷いの森と通じるものがあるかと」


「戻される理由は?」


「分かりません…木々の声を聞こえないのです。 そして…それについて深く考えることも出来ません」


「…どういうことだ?」


 2人は首を左右に振る。


「何か結論が出る直前に何らかの力によって思考がリセットされる…と言うのでしょうか。 …分かりますか?」


 風音の言葉によって俺と知影は同じ答えに辿り着く。


「…弓弦、これって」


「…そうだな。 多分そういうことだろう」


「? どういうことですか?」


「あの湖から僅かに魔力マナを感じた理由が分かったんだ。 だからお手柄だな」


 フィーと風音の頭を撫でる。


「結論から言うとだ。 中心となっているのはこの拠点ではなくあの湖だと思う…湖底に神殿があった」


「「…神殿(ですか)」」


 フィーがそっと目を伏せたのが気になったが続ける。


「入り口には不可視と妖精と…封印結界が張ってあった。 もしかしたら何か関係があるかもしれない」


「だから明日皆で神殿内を探索しようという話を弓弦としていたんだけど…決定だね」


「そうですね。 そうすることに致しましょうか。 フィーナ様も…フィーナ様?」


「……………え?」


 ブツブツと何か呟いていたフィーが目を瞬かせる。


「あらあら…話を御聞きになっておられないのですか?」


「…聞いてたわよ。 明日神殿に行くという話でしょう? 行くわよ。 ご主人様あるところに私ありなのだから」


「よし、じゃあ明日はそうするか。 妖精と封印結界があったんだ。 きっと普通の神殿では無いだろう。 何があるか分からないから十分注意していくぞ」


「りょ〜かい♪」


「畏まりました♪」


「……」


 フィーは何か思うところがあるのだろうか…ん? 犬耳が…そうか。


『…少し、今からこっそり2人で風に当たりませんか?」


 フィーが外に出て行く…話があるみたいだな。


「じゃあ私お風呂の準備してくるね」


「私も食器の片付けを」


「あぁ。ありがとう。 美味しかったぞ」


「クスッ♪ 当然でございます」


 風音に食事の感想を言うと、彼女は少し自慢気に微笑み、食器の片付けを始めた。 俺は2人に見つからないようにこっそり“テレポート”で付近の木の枝の上に転移した。


「やっぱり“テレポート”でここに飛ばれましたね」


 俺がその場所に転移するのが分かっていたようにフィーはその隣で座っていた。


「お見通しか」


「はい♪ では行きましょうか」


「行くって…どこへだ?」


「あの湖です」











 疑問に思いながらも“シグテレポ”で湖のほとりに転移。 昼寝をした木の下で腰を下ろす。


「それで、話があるんだろ? どんな話だ?」


「…首輪を付け替えてほしいのです」


 まだ言うか…困ったな。


「お困りになることは無いのですよ? ただ私は新しい首輪をつけてほしいだけで…」


「『来たれ不可視の箱…“アカシックボックス”』…こんなので良いか?」


「よろしいのですか!?」


「あぁ。 そもそもキツくするのじゃなくて新しいやつがほしかったのだろう? …まぁ何か、馬鹿馬鹿しくなってきたからな」


 小さな星が付いたチョーカーのように見える首輪をフィーに着ける。


「わぁぁ…っ! ありがとうございます♪」


 犬耳ピコピコ。


「…そんなに嬉しいものか?」


「わん♪ ご褒美ですよ! とても嬉しいです…嬉しくないはずがないです♪」


「そ、そうか…まぁ似合ってるし…良いのだろうか?」


 首輪を渡され、着けられて喜ぶ犬耳女の子…萌…えないな。 うん絶対に、多分、きっと。


「この湖の底に神殿があるのですね…神秘的です」


「確かにな…湖底に沈む神殿…一体何があるのだろうな」


「お宝…でしょうか?」


「さて…な。 だが何かがあるのは確かだ。 明日用意が整ったら向かうからな?」


「レッツダンジョン攻略! です♪」


 …ダンジョン、か。 そう言えばフィーに聞くことがあったな。


「何ですか?」


「イヅナについてだ」


 フィーの犬耳が微かに動く。


「イヅナが…どうかしましたか?」


「いや…こう言ってはアレだが…あの子何と言うか…色々物知りだと思ってな。 イヅナとフィーは姉妹というのは魔力マナや“軻遇突智之刀”を抜けるところを見れば何とか分かるが…そこのところはどうなんだ?」


「ふふ、あの子は昔から好奇心旺盛でして…村の中でも無口なお転婆娘と有名でしたよ♪ いつしか村を飛び出して行方不明になっていましたが…まさか世界自体を飛び出していたとは思いませんでした」


「成る程な…まぁ姉が姉だ。 聡いのもあったのだろうな。 賢い妹か…木乃香を思い出すな」


「末の妹さんですね。 私もいつかお会いしたいです…きっと弓弦様に似た可愛らしい娘だと思うので♪」


「ははは! 可愛いぞ、うちの木乃香は! …姉さん達同様不出来な()によく懐いて懐き過ぎるあまり恋人とか一切作らずに折角の可愛さを無駄にしていたな…。 本当に全員が全員ブラコンを拗らせてよく襲われかけたものだが…今覚えばそれもスキンシップみたいなものだったのかもしれないな」


 少し鬱気な気分になった俺はフィーに頭と犬耳を撫でられる。


「…会いたいですか?」


 会いたくないと言えば嘘になるが…だが。


「いや、良いさ…ありがとな」


 この道は、繋がってるような気がする…だから、今は良い。 代わりという言い方は駄目だが、支えてくれる人達がいるから…な。


「……ご主人様…」


「支えてくれるんだろ?」


「勿論です」


 当然と言わんばかりの微笑みに俺もつられて笑ってしまう。 不可視結界が解けた神殿はほとりからでもうっすらと見え、揺れる湖面の双月がその様を一層幻想的にする。 それを物憂げに見つめているフィーを見ていると目が合う。


「帰るか? そろそろ2人が気づくし、続きはまた今度でも良いだろう?」


「…いえ、まだお話があります」


 表情を引き締めたフィーが立ち上がろうとした俺の犬耳を引っ張って座らせる…っ。


「ど、どんな話だ…っ?」


 体が甘く痺れる…今日はいつにも無く耳が敏感になってるみたいだ。


「…私の愚痴を聞いてください!」


「お、おう」


 物凄い迫力だ。


「あのですね…風音が…風音がぁ…私の名前を間違えて覚えてたんですよ! ご主人様は私のフルネーム、お分かりですよね!?」


「あ、あぁ。 フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナ…だよな?」


「ご主人様…まさかタチバナまでしっかり付けてくださるなんて…うぅ…っ嬉しくて涙が…ご主人様ぁ…っ♪」


「うわっ!?」


 抱きつかれて押し倒され、胸に顔をうずめられる。


「ご主人様はご主人様でご主人様なのだからご主人様なのであって、故にご主人様は最高です…夫です…はぁ…っ♪」


「そ、そうか…まぁ風音は横文字に弱いんだ。 許してやれ」


「……ご主人様がそう仰るのなら許してあげないことも無いです…不本意ですが」


 不承不承と言わんばかりにフィーが溜息を吐く。


「話は終わりか? なら「その代わり条件があります」…何だってうわっ!?」












          *


「遅いよ弓弦…ってどうしたの?」


「は、ははは…」


「ゆ、弓弦様?」


「…少しやり過ぎたわ」


 フィーナが外に出、弓弦が消えて少し経ってから2人は帰ってきた。 …何故か弓弦の瞳が虚ろだ。 だが心を覗こうにもフィーナが覗いているのか覗くことが出来ない。


「弓弦、おーい」


「はは、ははは…」


「弓弦様、どうされたのですか?」


「は、は、はは…」


「ダメだこりゃ…ねぇ、フィーナ…何をしたの?」


「……まぁ、その…悪いと思ってるわ…さぁご主人様、お風呂に入りましょうか」


「……」


 弓弦を先導しながらフィーナが風呂場へと消える。 残された2人はこっそりと耳打ちをし合う。


「だから何が悪いと思ってるの…」


「後ほど問い質すことは…無理ですね。 あの様子ですときっと御話になられないと思います」


「…うぅ…夜に2人でこっそり外に…2人でこっそりそとに…2人でこっそりと外に!? 変まさかフィーナ‼︎」


「どうされたのですか知影さん?」


「分からないの!? 夜に! 2人で! こっそり! 外に! 出たんだよ!? これはきっと!」


 興奮のあまり声が大きくなる。


「まさか…! いえ、でもそれは…‼︎」


「こうしちゃいられない! 風音さん!」


「はい!」


 扉に駆け寄る2人。 しかし。


「さ、流石フィーナ…抜かりないね…どうする? もう出てくるのを待った方が良いかな?」


 扉はフィーナが展開したのか、魔法陣が起動して触れようとすると弾かれる。


「下がって下さい…斬り裂きます」


「出来るの?」


「出来る出来ないかの問題ではありません。 やることに意義があります。 それに魔法陣が起動したことをフィーナ様は御気づきになっているはず…急がなくてはいけません」


「事案は今、現場で起きているんだものね! お願い風音さん!」


 風音が簪を抜いて静かに構える。


「…ッ‼︎」


 投げた。 バキィィィンッ! と音が響いて魔法陣が砕け散る。


「さぁ! 突入致しますよ!」


 扉を開けて中に入る。











「まさか…破られるとは思わなかったわ…」


 事案ではなく事件が風呂場で発生していた。 2人の前では幼児化した弓弦を膝に乗せて湯に浸かっているフィーナが軽く目を見開いている。 その彼女の手は弓弦の犬耳をしっかり掴んでいて、弓弦が熱を帯びた瞳で虚空を見つめていた。


「…フィーナ様、何故このようなことになられているのですか?」


「…少し、やり過ぎだよ…ふ、フフフ…ッ」


「だから悪いとは思ってるわ…さぁご主人様、出ましょうか♪」


「……コク」


「え? ちょっとフィーナ?」


「…後で話すから早くお風呂入った方が良いわよ。 ご主人様が眠たそうだから」


 フィーナは手早く(やけに慣れている)弓弦に服を着せて自分も寝間着に着替えてから寝室へと入る。 頭を傾ける2人だったが、取り敢えずは言われた通り風呂に入ることにした。


「むぅ…何があったんだろう…フィーナが弓弦を襲ったと考えるのが一番妥当ではあるけど…」


「先ずはゆっくりと今日の疲れを癒しましょう…ふぅ…良い御湯」


「風音さん今の発言凄く老けているように聞こえるよ? もうちょっと若々しくさぁ…」


 手で湯を交互に左右の肩にかけながら風音は苦笑する。


「若々しいとは何でしょう?」


「…もっと子どもみたいにってこと…かな?」


「クス、似合いませんよ私には」


「そうかなぁ…」


「そうですよ」


 知影は窓の外から覗く月を見る。


「…この世界も月は二つなんだよね…」


 風音も月を見る。


「知影さんや弓弦様のおられた世界では違ったのですか?」


「うん。 一つだけだったな…何で二つもあるんだろう…?」


「月は在るものですから…理由を御考えになっても答えは出ません」


「答えなんて求めてないよ。 ただ…気になっただけ。 どうしてそうなのかな…ってね」


「成る程…それは失礼致しました。 答えを求めていない…哲学的ですね」


「ふっふっふ…哲学的でしょ〜♪ …なんてね、じゃあそろそろ出よっか」


「はい」


 風呂から上がって体を拭き寝間着に着替える。 寝室へと移動するとフィーナと元に戻った弓弦が布団の上に座る形で2人を待っていた。


「すまないな。 フィーに押し倒された時の衝撃で気絶してしまったらしい。 我ながら情け無いな…はは」


「……」


「痛いところは無い? 多分頭を打ったんでしょ? どう?」


「ん? あぁ…大丈夫だ。 多分」


「…多分、ですか…」


「風音も心配するな…な?」


 弓弦に嘘を吐いているような様子は無い。 だからそこ何があったのか2人は余計に心配になった。


「…フィーナ」


「分かってるわ。 …ご主人様も無理に隠されないで良いのですよ?」


「いや…言ったら俺が怒られるだろう…それにフィーにも悪いしな」


「私はその…嬉しかったです。 悪いだなんて…」


「ゆ、弓弦まさかフィーナと…っ」


「…っ!」


 風音と知影の脳裏に、同時にあることが思い浮かぶ。 …正確にはある行為だが。 とても言葉には出せない、憚れるその行為だが知影は聞かずにはいられなかった。


「まさかフィーナと…し、し、ししし、しししししししちゃったの!?」


「ち、知影さん、それを聞かれるのですか!? 流石にデリバリーに駆けると思いますよ!?」


「だ、だって風音さん! き、気になるし…もしそうだとしたら先越されちゃったことになるんだよ!? あと“デリバリーに駆ける”じゃなくて“デリカシーに欠ける”の間違いだよね…ってそんなことはどうでも良いのツッコミ役は弓弦なんだから! …ってそれもどうでも良いよ! それでどうなの弓弦‼︎ フィーナのその、貰っちゃったの!?」


 フィーナと顔を見合わせて少し考える弓弦。


「貰ったというか…俺があげたと言うか…」


「私が貰ったんですよね…凄く…大きくて美味しかった「聞きたくない! 聞きたくないよっ‼︎」…知影?」


「き、聞きたくない…私は聞きたくない…っ」


「か、確定だと…言うのですか…っ」


 知影、風音は信じられないと言った様子で後退り、ヒソヒソと小声で話し合い始める。


「…もう私、行くしかないと思うんだけど…どうかな?」


「今行きましょう。 すぐ行きましょう。 行くしかありません…‼︎」


「な、何を話し合っているんだ…?」


「さぁ…? 聞こえない以上は何とも…」


「「…ッ‼︎‼︎」」


「なっ!? おい‼︎」


 2人が同時に勢いよく振り向き、一気に弓弦に肉迫し、押し倒す。


「良いよね…どうせもう…取られてるから…ね? 風音」


「…このままいきましょう。 …申し訳ありませんがフィーナ様だけというのは些か納得がいきません」


「何をやっ「えいっ!」ぐぅっ!?」


「ちょっとあなた達何をしようとしているの!?」


 知影が弓弦の動きを犬耳を掴むことで封じ、風音が服を脱がせていく。


「…フィーナとだけだなんて許せない…弓弦の初めては…諦めるけど…でも…っ」


「ま、まさか!? 止めなさい! 何を思ってそんなことをしようとしているの!?」


「フィーナ様が先に抜け駆けなさったのではありませんか‼︎ そのような不公平なこと、断じて許しません! ですから弓弦様、御覚悟を!」


「やめろって! 2人とも何しよっ!? やめっ!? ひゃあっ!?」


「止めなさい! さもなければ…動きを封じるわよ!」


「止めないに決まってるよ! フィーナだけなんてズルイから‼︎」


 弓弦は抵抗するが、力は徐々に抜け服は脱がされていく。 残るは下着一枚となった時にフィーナの声が部屋中に響いた。


「私が食べたのはご主人様が私のためにこっそりとお作りになったバケツプリンよ!」


「「…え?」」


 固まる2人。


「よっと…何と勘違いしていたんだ? やけに切羽詰まってたが…まぁ良い」


 風音と知影を退かして服を着直しながら弓弦は「疲れたから寝る」と言って真ん中の布団に潜る…程無くして寝息が聞こえるようになった。


「ご主人様がお気付きになっておられないから良かったけど…今後は控えなさい…紛らわしい言い方をしてしまったのは悪かったわ。 はい、決めるわよ」


 謝ってからフィーはくじの棒を取り出す。 全員一斉に引くとフィーナに印が。


「…じゃあ私も寝るから、後は2人で勝手にしてなさい…ご主人様ぁ♪」


 彼女もまた布団の中で暫く身動ぎしていたが、やがてフィーナからも寝息が聞こえてくると。


「…私達も寝る?」


「…クス、そうすることに致しましょうか」


 次の日はこの世界に来てから初めて冒険といえる神殿探索。 知影と風音はそれに備えているかのように直ぐに眠りに就くのであった。

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