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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
89/411

浴槽困惑!?

「エヒトハルチナチオーン!エヒトハルチナチオーン!エヒトハルチナチオーン! …エヒトハルチナチオーンッ‼︎」


「「………」」


 もう何回噛んだのだろう…何度やってもツィがチになってしまう…く…っ!


「身体能力も変化するのですね。 ご主人様、おそらく何度挑戦しても無駄かと」


「そうか…しゅんっ!」


「ふふふ、いつまでもそのような姿では風邪を引かれます。 洗ってさしあげますのでお風呂に入りましょうか」


「…あぁ、そうだな」


 …うぅ、そう言えば服が脱げていたんだった。 動転し過ぎているあまり忘れていた。


「ねぇ弓弦、私とも一緒に入りたくない?」


「私もよろしいでしょうか?」


「…ことわる。 なぜかいまのちかげとかざねは…いやだ」


「う…っ。 じゃあ何でフィーナは良いの?」


 ショックを受けたように知影が後退あとずさる。


「ふぃーだったらふたりよりはあんしんだ。 いざなとなればめいれいでおさえられるし」


「わん♪ ミニご主人様の舌足らずなそのお声で私に命令してください♪」


 今のフィーを見ていると…複雑だな。


「わ、私も駄目なのですか!?」


「かざねのためだ。 わかってくれ」


「何故ですか!?」


 まぁ、はっきりと言うべきだな。


「このままだとかさね、“しょたこん”になるかもしれないから」


「????」


 “ショタコン”。 要するに小さい男の子大好きな人達のことだ。 ロリコンの男の子バージョンだ。 因みに起源は某太陽の使者28号の操縦者であるトカ。 知影は俺がこんな姿である以上、どんどん覚醒していくだろう…もう俺を見る目が危なそうだし。 だが風音はまだ引き返すことが出来る。


「はぁ…成る程」


「ちかげみたいにはなりたくないだろ?」


「えっ!? 何で私「見習わせて頂こうとは思っています。 知影さんの一途な弓弦様への思いは1人の女性としてのあるべき姿だと私は思いますので」…風音さん…っ」


「くしゅんっ…あぁ、そう」


 …変態への道を一歩踏み出してしまった風音を見ていると悲しくなってくる…こうして徐々に俺の周りから常識人が消えていくんだな…。


「ご主人様」


「ん、わかってる。 じゃあはいろうか」


「わん♪」


 犬耳ピコピコ。


「私も入るよ! フィーナだけが今の弓弦の子どもボディを満喫して私と風音さんが一緒に入れないなんて絶対におかしいから! 」


「うん、ちかげのいっていることのほうがあきらかにおかしいからな。 だがまぁ、すきにしろ」


 この際もう良いか。 兎に角風呂に浸かりたいし。










 カポーン…という音が聞こえてきそうなほどお風呂らしいお風呂を俺は満喫していた。 体はしっかり全身を3人に洗われて疲れてしまった(全力で抵抗したのに抑えられた…)なので、お風呂の湯が体に染み込んで気持ち良い。


「…しみるなぁ…」


 良いものだ…風呂というものはそう、風呂は良い…俺は風呂以外に気持ちいいという感覚は覚えていないぞ、絶対な…!


「良〜い湯だ〜な♪」


「ご主人様、気持ち良いですか?」


「あぁ、いいゆだよ」


「…私にも弓弦様との…が授けられるようなことがあるのならばこのような場面があるのでしょうか…?」


「そうね…きっとあると思うわ。 どうせならご主人様を乗せてみると良いわ」


 フィーに持ち上げられてそのまま、風音の膝に乗せられる。 風音は恐る恐る俺を受け取って暫くはあたふたとしていたが、やがて落ち着いたかのようで優しく俺の体を支えてくれた。 タオル越しのとある感覚については気にしない。


「意外ね…風音が小さな子どもを抱くことに慣れていないなんて」


「幼い頃から父の下で鍛治を教わり、母の下鹿風亭の後継として育てられていましたから。 2人が身罷みまかってからは皆さんが家族代わりとして支えてくださいましたが…兎に角あまり機会に恵まれなかったのですよ。 それに私、18です」


「謝るわ…私達が関わってしまったばかりに鹿風亭の方々…風音のご家族は「良いのです」え…っ」


 寂しそうな風音の表情にフィーは自らが軽く地雷を踏んでしまったことを理解して謝罪の言葉を言おうとするも風音の言葉に止められる。


「起こってしまったことは仕方がありません。 私が過去に縛られることを先に逝った皆さんは決して許さないでしょう…私を叱るため夢に出てくるかもしれません。 申し訳が立ちませんし、戒めるために背負うものは一つの十字架だけです。 …私が至らぬばかりに心の有り様を違えてしまった音弥を説き正すことが出来ずにこの手で討ったという十字架を背負うだけです」


「風音さん…」


「風音…」


 事情を知らない知影だけでなく、フィーも彼女にかける言葉が見当たらなかった。 下手に言って風音を追い詰めてしまったら…その危惧が2人に口を噤ませたのだ。 …2人に、はな。


「かざね、おれのこころをみてくれ」


「……」


 どうも喋りにくい…身体状態上、構音機能がまだ整っていないからだな。 だが、向こうに心を覗かせればはっきりと俺の意思は二つの意味で伝わるはずだ。 想を得たのはアデウス戦でのユリだが。


 責任感があることは良いんだ。 だが言葉で無理やり納得させながら自分を責め続けていると、いつか風音自身が道を踏み外してしまうかもしれんぞ?


「……」


 こういう時、本当に便利だな。


 確かに風音がはっきりと心というものを説くことが出来ていたのなら、あの音弥という男はあんなことにならなかったもしれん。 だがな、それは仮定論だ。 それで自らを責めるのはな、ある種の自己満足だ。


「…それは」


『ですがこれは私個人の問題です…申し訳ありませんが弓弦様には…』


 …大切な人のためにでしゃばったら悪いのか?


「…っ‼︎」


『私の心を覗いているのですね…駄目ですよそのような禁じ手…』


 あぁ、悪いとは思っている。 だがそれはおいといてくれ。 確かに人を殺めるということは褒められたことでは絶対無い、断じてな。 仇を討った…と言えば聞こえが良いかもしれんが、結局そうなってしまったことに変わりはない。


「…でしたら」


 違うんだ…違うんだよ。 俺が言いたいのは何故1人で背負おうとしているかだ。


「……」


 俺も人のことを言えた義理じゃない。 俺もやたら1人で背負おうとしてしまうからな。 だが、1人で背負える十字架には限界がある。 いずれ重さに潰れてしまうのが目に見えているんだ。 …まして、今の風音を見ているとそれがそう遠くない日に起こってしまいそうでな。


「……否定、出来ません」


 どんなに体力があったとしても限界がある。 誰でもだ。 いかに風音が強い心を持っていてもそれは決して例外じゃない。 俺はな、重みに負けて壊れていく風音、見たくないんだ。


「…それこそ弓弦様の自己満足では?」


 …そうだ。 俺の自己満足だ。 だが俺は優柔不断…つまり欲張りな人間だ。 手に入れるものは何でも手に入れようと試みる。 …俺の魔法属性が“吸収”なのもそれの表れかもしれないな…っと、話が逸れたな。 言ってしまうとだ、わざわざ1人で背負う必要は無いんだ。


「1人で背負う必要は無い…」


 あぁ、風音のことだ。 分からないでもないだろう? …その十字架、俺にも背負わせてくれよ。


「ですが弓弦様…」


 …背負わせてくれって言ったら背負わせてくれ。 遠慮なんかするな。 何故なら俺達はある意味既に…。


「かぞくみたいなものだろう?」


 振り返り風音の顔を真っ直ぐ見つめながら俺は最後にそう締めくくった。


「…っ! 弓弦様…弓弦様…っ!」


「おわ…っ」


 いきなり強い力で抱きすくめられる。 位置的に…ヤバイ。


「はい…私が間違っていました…っ。 何て愚かだったのでしょう、愚の骨頂とは正にこのこと…っ」


「か、かざね…む、むね…が」


「…弓弦様の言葉、痛く胸に染み入りました…これまでも自覚してはいましたが…惚れ直し致しました…っ」


「う、ぐ…ぐるじい…」


「風音、ご主人様が‼︎」


「“家族”…私に対する告白と受け取っても良いのですね!? これで晴れて私は橘 風音に…っ、嬉しいです…っ!」


「ゆ、弓弦!?」


 …ぁ、ぃ、意識が…っ。


「ですよね弓弦様! …弓弦様? 弓弦様!?」










 *


「…私と致したましたことが…申し訳ありません」


「…まぁなんだ、きにするな」


 結局俺はあの後気絶してしまい、布団で子ども用のパジャマ(何故あるんだ…)を着させられて寝かされていた。 …体は元に戻らない。 布団は部屋の入り口から見て左から知影、風音と俺、フィーの順に並んでいて今日俺が一緒に寝るのは風音らしい。 …いや、らしいではなく既に寝ている。 背中に手を回してトントンと優しく叩くのは俺を寝かせようとしているのかただ単に何となくやっているのかは分からない。


「…御身体の具合は大丈夫ですか?」


「あぁ、だいじょうぶだだからはやくねるぞ」


「…はい」


 そう言い目を閉じる。


「…フィーナ、弓弦って本当にたらしの才能あるよね…」


 暫くして知影が突然口を開く。


「…えぇ、だからご主人様がどのようなことを風音に仰ったのかおおよその見当はつくわ」


「…増えるかな?」


「現段階で可能性がありそうな人物は知影から見て誰がいるのか教えてほしいわ」


「…ありそうなのはユリちゃん、セティかな。 リィルさんは…博士だし」


「セティは違うわ。 でも私はアンナがありそうだと思う」


「…アンナかぁ…ありそう。 彼女結構弓弦のこと気にしていたしね…セティはどうして違うと言えるの?」


「女の勘…よ」


「私もセティは違うと思います。 理由を聞かれてもやはり何となく…なのですが」


 何の話をしているのか分からないが、風音がフィーナの意見に同意したので知影は「兎に角」と言って続ける。


「今挙げた女ぎつ…女の子以外にもまだ増えると思うよ…きっと、必ず…」


「ところで風音、ご主人様はお休みになられたのかしら?」


「…弓弦様、起きておられますか?」


「…まだねれなくてな」


「起きていら「でもこれ以上増えたらなんて思うと…ふふふふ、殺さなきゃいけないよね…!」…っしゃいま「私はご主人様のご意志を尊重するけど…知影、あなたのその性格、直したほうが良いと思うわ」…すよ…あらあら、聞いてませんね」


 途中で知影がヤンデレを発動しだしたので言葉を挟みに挟まれる風音。


「以前も言ったけど頭では分かってるの…でも気がついたらつい…殺っちゃうんだ♪」


「…あなたのその感覚、よく分からないわ」


「フィーナが分からなくても弓弦は絶対理解してくれるの…ふふふ♪」


「…悪いけど少し引いたわ」


「褒められても何も出ないよ♪」


 …褒めてないからな。 絶対に褒めてないからな…!


「…ご主人様は?」


「まだ起きら「良いなぁ風音さんは…ショタ弓弦(おそらく今命名したのだろうが酷い)と一緒に寝れて…」…私が弓弦様と御一緒するのはこれが初めてなのですが」


 そう、殆ど一週間あったに関わらず実は俺が風音と一緒に寝るのは初めてだったりする。 くじ引きの性質上、仕方が無いと言えばそれまでなのだが、役割分担のくじ引き(俺はずっと食材採取)と言い作為めいたものを感じてしまう。 …後者は絶対わざとだお思うが。


「羨ましいよ…小さな弓弦…ショタ弓弦萌ぇ…これはきっとアレだよ、母性? そう! 母性が猛烈に刺激されているような気がするの!」


 もごもごと動く気配が知影の方からする…悶えているのだろう。


「「「………」」」


「弓弦可愛いよ弓弦…ふふふ♪ 抱きしめたいよぉ…ぺろぺろしたいお…っ♪」


 『変態だ』と、知影を除く全員の意見が静かに一致した。


「弓弦…弓弦…弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦ん…っ」


「ちょっと知影、何やっているの!?」


「だって…ん…っ、止ま」


「なにをやっているんだあのばかは…」


「しっ…見ても聞いてもいけませんっ!」


 犬耳を塞がれて上手く聞き取れなくなる…何かの作業でもしていたのだろうか。


『私が良いと思うまでは申し訳ありませんが弓弦様の御耳から手を離すことは致しかねますので…私と少し御話を致しましょうか』


 …フィーの“テレパス”は兎も角、この念話と言うべきものは一体どういう原理なのだろうか。 …会話するよりかは相手に伝えたい言葉を強く心に思い浮かべるといった方が近いのだが…どうでも良いか。 さて、何の話をするつもりなんだ?


『…ご主人様は一体どなたを娶られるおつもりなのですか?』


 …な!? 何でそんなに答えに困る質問をするんだ!?


『クス、気になるのです。 気になってしまうのです。 気になってしょうがないのです』


 …さて、な。


『誤魔化されるのですね。 …つまり、迷っておられる…と。 成る程、“人の事を言えた義理じゃない”とはこういうことを仰ってたのですね』


 …どうせ俺は誰も選べず傷つけるダメ男だよ。


『…そうですか。 では私達をそのような情けない男性に捕まってしまった見る目の無い女性と…そう仰るのですね』


 …何故そうなるんだ。


『そのようになるからです。 弓弦様は立派な御心を持たれているのに関わらず情けない発言をされるとそうなります』


 …だが…何だ、言い方がアレだが魅力的過ぎるんだ皆。


『……………』


 どうした? 急に静かになって。


『…弓弦様は何と言いますか…罪な男ですね』


 …?


『クス、私も完全に駄目になってしまったみたいですね…考えても考えても弓弦様のことばかりが浮かんで胸が甘く締め付けられます。 …これからは一緒に十字架を背負って下さるのですよね?』


 あぁ、風音が望むならいつまでも背負ってやる…風音の分までもな。


『…〜っ! そのようなことばかり仰っていると、この先災難に襲われるやもしれませんよ?』


 その時は素直に助けを求めるさ。 信じられないように可愛い、俺のことを慕ってくれる大切な女の子達に…な?


『…そういう場面で御気取りになられても…。 …嬉しいと思っている私がいるのがどこか口惜しいです…はい、もうそろそろよろしいですね』


 風音が俺の犬耳から手を離したのでフィーと知影の会話が再び聞こえるようになる。


「ねぇ、フィーナと風音さんは弓弦とどんなエッチがしたい?」


「え!? 何よ急に!?」


「…返答に窮する質問ですね」


 …聞いてはいけない話題のようだ。


「…と、その前に風音、ご主人様は寝ておられる? こんなはしたない会話、ご主人様に聴かせるのは忍びないわ」


「弓弦様は起きられて「もう寝てるよね?」…ですから起き「…先程からご主人様のツッコミが入らないし、きっと寝てると思うわ。 そうよね風音?」……「じゃあ私から! 私はね!」」


 またも言葉の途中で知影と風音に言葉を挟まれまくる風音。


「…………………………………」


「かざね…」


「心配なさらなくとも大丈夫です。 …気にしてはいませんから」


 はぁ…絶対に凄く気にしてるぞ…仕方が無いな。


「風音さんはどう?」


「私は…?」


「かざね」


 風音の服の袖を引っ張る。 彼女が俺に視線を向けたタイミングを見計らって言葉を続ける。


「あのばかたちはばかたちどうしではなさせておいて、かざねはおれといっしょにさっさとねよう…な?」


「…!!!!!! 畏まりました…」


 バカ達の話は聞くだけ無駄だと思うので、俺は風音に体を寄り添わせ、子どもらしく彼女の心臓の鼓動を聞いて安心しながら微睡みの中に身を委ねた。










          *


「…またここか」


 俺はこの世界に来て二度目の炬燵空間(そう呼ぶことにした)にいた。 いつの間にか体も元に戻っている。 …最近間隔が短くなったような気がするが、ただ、これまでとは違う部分があった。 それは…。


「…ここはどこなのでしょうか? あ、弓弦様!」


 …それは風音が俺とは少し離れた場所に立っていたからだ。 彼女は注意深く周囲を見回してやがて俺を見つけるとこちらに駆け寄ってくる。


「風音、お前何でここにいるんだ?」


「…私にはよく分かりません。 気がついたらここにいたとしか…」


「そうか…取り敢えず、向こうでくつろげる場所があるからそこまで行くぞ」


「はい」


 …この空間は俺の夢とかそれに近い空間では無いのか? …でないと説明がつかないのだが。


「物事を自らの基準で考えることはいけませんよ」


 俺のプライバシーは一体どこに行ってしまったのだろう…。


「…ほら着いたぞ…って、は?」


「あらあら…これは…」


 炬燵は変わりない。 座布団も急須も茶葉も蜜柑もある。 だが…。


「…招き猫ですか?」


「…どう見てもそうとしか言えないな」


 何故ここにあるんだ…。


「取り敢えず炬燵に入りながらゆっくりするか」


「承知致しました」


 炬燵に足を入れる。 普通は向かい合って足を入れるべきなのだろうが風音は湯飲みにお茶を注ぐと俺の隣に座って足を伸ばした。


ズズ…ッ。


「結構なお手前で」


「御気に召されたようで良かったです♪」


 同じ茶葉であるはずなのに俺が淹れるお茶とは違った味わいが何とも言えない充実感を俺に与えていた。 風音も少し口に含み満足そうに微笑んだ。


「どうやったらここまで味の差が出るんだ?」


「クス、秘密です。 女将としての嗜みの一つと思って頂ければ」


「…なら仕方が無い、か…。 ふぅ…」


 お茶を少し飲んでから一息吐き飲んでから一息吐くを繰り返して炬燵にゆっくりと突っ伏する。


「…御疲れのようですね」


「ん…どうせ暫く帰れないし、体を少し伸ばしているだけだ…」


「そうですか…弓弦様は以前もこちらにいらしたことがあるのですか?」


「3度目だな。 だが俺以外の“人”がいるのは今回が初めてだ」


 風音は口に手を当て、その言葉を小さく反芻してからあることに思い至ったように俺を見る。


「…“人”以外の存在はいたことがあるのですね。 お伺いしても?」


「“バアゼル”だ」


「…“二人の賢者”と謳われた弓弦様とフィーナ様が、200年前に討ったと伝えられる支配を司る悪魔のことですね」


「詳しいな、そうだ。 最初に俺がここに来た時…“ブリューテ”で目が覚める直前だな。 その“バアゼル”が俺を呼び出したのかここにわざわざ来たのかどうかは分からないが、まぁ兎に角いたんだ。 それで少し世間話のようなものをしてからヤツに戦いを申し込まれた…そんなこともここではあったな」


 風音はどこか照れ臭そうな微笑を浮かべる。


「以前フィーナ様が教えて下さったのです…六時間ほど」


 …六時間も話すような内容か?


「…何かすまないな。 疲れたりしなかったか?」


「クス、とても楽しむことが出来ました♪」


 ズズ…ん、無くなったな。


「新しいものを淹れさせて頂きますね」


 立ち上がろうとする風音を止める。


「いや、自分で淹れるから別に良い、風音はそこでゆっくりしていてくれ」


「御断り致します」


 今度は風音が立ち上がろうとした俺の服を引っ張って座らせると同時に立ち上がる。


「こういったことは私の務めです。 どうか御任せ下さい」


「しかしだな…「御任せ下さい。 御任せして下さい。 御任せ下さらないのならば私は…」…私は…?」


 彼女は簪を首に当てて寂しそうに笑う。


「…自刃致します「待て待て待て‼︎」…自刃させて下さい、自刃せねばならないのです…全てはそう、弓弦様に茶を御淹れすることが成せなかった私の責務ですから御願いです弓弦様、どうか私に「風音、お茶を淹れてくれ」畏まりました♪」


 俺が折れてお願いすると、風音は嬉々としてお茶を淹れ始める。 洗練された丁寧な動きだ。


「はい、御待たせ致しました♪」


「あぁ、すまないな」


 ズズ…ッ。


 風音が隣に座るのを待ってからゆっくりとお茶を飲む。 …しみじみとして落ち着くものだ。


「それにしてもこの招き猫は一体何なのでしょうか?」


 招き猫を手に持ってあちこち見てから俺が受け取る。


「分からないが…何か意味があるものだったりするのか?」


 …何の変哲も無いただの招き猫だ。 手に収まるサイズでありながら意外と重みを感じる。 …中に何か入っているのだろうか?


「…壊したりでもしたら“意味”が忌み”に変わってしまいそうで中を見ることが出来なそうにないな。 ここだと魔法も使えないみたいだしな」


「…炬燵に湯飲み、良質の茶葉、急須と“ガンポッド”、蜜柑に招き猫…招き猫だけがあからさまに浮いていますね」


 もっと浮いているものがあるぞ…。


「…それは電気ポッドだ。 ガンポッドって…イヅナから教えてもらったのか?」


「それもありますが…ポッドと書いてあったのでガンポッドだと思ったのですが…違ったのですか?」


 ポッド→ガンポッド…何故そうなった…。


「違うな、全く違う…イヅナは何て風音に教えたんだ?」


「はい、『…ガンポッドと言うのは戦闘機に付けられる機関銃のこと…もし戦闘機に乗る機会があったら絶対に乗る前に“パンサラダ”や“素敵な特大ヒーロイン”は食べない方が良い』と言ってましたが…っ弓弦様!?」


 力無く炬燵机に向かって突っ伏し、呻くような声で風音の聞き間違いを直そうと試みる。


「それは多分、“乗る前にパインサラダや特大サーロインステーキを食べない方が良い”を聞き間違えたんだろう…イヅナのやつ…やたらアニメに詳しいな…」


「飴煮…ですか?」


「ア、ニ、メだ」


「アニメ…それは一体どういう意味なのですか?」


 もうわざとやっているようにしか思えない聞き間違えだな…これで本人は真面目だから困ってしまう。 まぁ兎に角今度イヅナを問い質す必要があるかもしれんな…。


「簡単に言ってしまえば俺と知影がいた世界の文化の一つ…それに尽きるな」


「成る程…」


「それ以上は俺も上手く教えられないし、余計混乱すると思うからそれだけ理解しておけば良い…ん?」


 炬燵の中に魔力マナを感じる…どうやら帰れるようだ。


「…よし、炬燵の中に入るぞ。 そうすれば戻れるはずだ」


「畏まりました」


「…?」


 今招き猫が独りでに動いたような…気の所為か。


「弓弦様、どうされたのですか?」


「いや、何でもない…行くぞ」


 風音と一緒に炬燵布団の中に潜り込んで俺達は元の場所へと戻った。

「…マグロがそ~らを、貫いて」


「セティちゃん、何を歌っているんだ~?」


「マグロが空を貫く…独創的な歌詞だね」


「…うん、替え歌…」


「…元はどのような歌だったのだ?」


「…今度…教える」


「…。 シェロック大佐とクアシエトール大佐、どこか寂しそうだね」


「ユリちゃんはそうでもないと思うが~…ま~出番が無いからな~」


「…それはそれで君にとっては幸いじゃないかい?

 仕事、貯まってるんだよね?」


「ははは~…俺は知らんぞ~」


「…弓弦君に手伝ってもらったのに、どうしてまた貯まるんだい?」


「ん~? 少し調べ事をしているんだ~」


「はいはい。 先ずは業務だよ」


「……」

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