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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
87/411

英姿颯爽!?

 湖のほとりに戻ってみると、フィーが俯せになって倒れていた。

 もし何も知らなかったら大急ぎで駆け寄って、呼吸をしているかどうか確かめなければならない…。だが、自業自得なのでまぁ焦る必要は無いだろう…と、思いつつもやはり急いでしまう。はぁ…。


「フィー、フィー! 起きろ…ほら、ご主人様が帰ってきたぞ」


 注意を引くように「ご主人様」と言ってみたが、これが中々恥ずかしかったりする。

 反応が無いのでペチペチと彼女の頬を叩く。

 きめ細かい肌は赤児のように柔らかく、手に吸い付いてきて病みつきになりそうだ…っといかんいかん。


「…お前の大好きなご主人様の犬耳だぞ〜。今ならなんとーっ! 触り放題だ!」


 …。俺の犬耳にも反応しない…?


「…この、起きろ!」


 彼女の犬耳や首輪を引っ張る。

 …反応無し…だとっ。


「フィー! おい! フィーッ!!」


 嘘だろ!? 犬耳にも首輪でも反応しないなんていつものフィーならあり得ない…ならまさか、まさかっ!?


「しっかりしろ! 冗談じゃないぞ!! ふ、ふざけているつもりなら今すぐ起きろ!!」


「…うぅ…っ」


 …ほっ。やはり気を失っていただけか。心配して損したな。

 装束の“シュッツエア”が発動しているから風邪を引くことも無さそうだし…よし、ここはそっとしておいて魚でも釣るか。


ーーーポチャリ。


 …それにしてもこの湖、よく魚が釣れるな。透明度も主観が入るが最低でも17m(マール)(メートルでも別に良いが)あるはずだ…いっそのこと泳いでみるのも悪くないかもしれない。

 あ、潜るのもアリか。「取ったどぉぉぉッ」…ってな。一度やってみたかったりするんだ。


「…ぅん…っ」


 フィーが身動ぎをする。


「…ご主人様だ」


 お、眼を覚ましたか。


「ご主人様、おはようございます…ぅぅ、首が痛いです…」


 手加減無しだったもんなぁ。あの手刀。


「自業自得だ。俺の犬耳を触り過ぎたフィーが悪い」


「ふふ、後悔はしてません。何故ならご主人様の頭を私一色に染めることが出来ましたから♪ 必死に抵抗しようとしているご主人様の犬耳を徐々に敏感にしていって最後にフィニッシュとして噛んだらうっとりされて…ふふ♪」


 犬耳…か。


「…何でこんなにフィーも俺も犬耳が弱いんだ? もしかしてハイエルフ全員がそうだったりするのか?」


 木陰に移動して二人で湖を眺める。


「私を始めとしたオープスト家のハイエルフが特殊なのですよ。言い方が悪いですが。私と同程度の実力を殆どのハイエルフが持っていたのなら『あの日』…人間に遅れを取ることは万に一つもありませんでした」


 『あの日』…人間によってハイエルフが虐殺されたらしい日のことか。

 言われてみればそうだ。あの世界において人間は魔法を使うことが出来ない。普通に考えて武器でしか戦えない人間がフィークラスのハイエルフに勝てるはずが無いからだ。

 …いや、それこそ万に一つ勝てたとしても余程不意を突くことが出来たのか、圧倒的な物量で押し潰さない限りそこには無駄という現実しか無い。放たれた核兵器の前にあらゆる生物が無力なように、フィーと同程度の実力を備えたハイエルフに人間は無力なんだ。…ま、例外は一杯居るんだろうが。


「つまりハイエルフの中にも位…と言うか実力にばらつきがあったんだな?」


「はい…ハイエルフと言えど、一属性の魔法しか使えなかった者は当然居ます。ですから数あったハイエルフの名家の中でもオープスト家は特別だったのですよ」


「他のハイエルフ達と比較してどう特殊だったんだ?」


「オープスト家のハイエルフは皆、普通のハイエルフとは一線を画した魔力マナを持って生まれてきます。勿論、ケルヴィンのように他の家からでも天才と呼ばれる魔力マナを持ったハイエルフは生まれますが、それでも足元にも及びませんね」


 フィーはただ淡々と事実を述べるように言う。


「先程のご主人様の疑問への答えですが、犬耳が弱いのはオープスト家のハイエルフ限定です。何でも以前、高い魔力を持つが上に体内の魔力回路の所謂ツボと言える犬耳を長い間刺激され続けると体内の魔力マナが変な形で活発になってしまい、その結果一種のトランス、または興奮状態になってしまうとお母様に聞いたことがあります。要するに、身体が火照って発情「要さなくていい!」きゃんっ!?」


 デコピン。

 一種のトランス、興奮状態か…まぁ大き過ぎる力の代償みたいなものか。どうりで犬耳を掴まれて主導権を握られるわけだ。可能な限り注意していきたいが…はぁ、無理だな。


「何か対策は無いのか? 正直俺ではどうにも出来ない…仮に戦闘中にそうなってしまったら足手纏いになる。俺は足を引っ張られるのは良いが足を引っ張るのは断固拒否だからな」


「はぁ…っ大丈夫ですよ。その時は私と一緒に…はぁ、本能の赴くままに互いの情念を打つけ合いましょう…ご主人様は足手纏いになることなく、私は全身を以ってご主人様の情動を、愛を受け止めることが出来ます…はぁ、一石二鳥に「なるか!」きゃんっ!?」


 再度デコピン。そんなことをしようものなら知影に殺される…と言うより、あいつもフィーと一緒になって俺を襲ってきそうだ。ハリセンとデコピンが間に合うだろうか…いや、それ以前に。


「お前にとってはそうかもしれんが、戦闘でお前が欠けることになるのは問題外だ。お前一人で何人分の戦力だと思っているんだ」


 言い方がアレだが。


「はぁっ、はぁっ、それを仰るのなら、ご主人様が欠けられることも問題外ではないですか? ご主人様が欠けられることは戦力面だけでなく、私達の士気に関わります。ご主人様も私達の誰かが欠けるようなことがあれば心配されて焦るのではないのですか?」


「うぐ…っ。お、お前達の誰かが欠けたとしても俺は常時冷静に対処していく」


 まぁ実際はやはり無理だろうな…。焦るのは間違い無い。


「そう言うことにしておきます♪ 素直じゃないのが可愛いですよご主人様♪」


「……」


 一々口に出して言うなよ、恥ずかしい。


「話を戻すぞ。オープスト家はハイエルフの中でどう言った立ち位置だったんだ?」


「地位としてはブリューテで第二位。村長の次に偉かったです。ご主人様、何故私達の名前の間に「エル」や「ルフ」などがあるのか、分かりますか?」


「いや、知らんが」


 知っていたら逆に怖いな。分かるはずも無いので続きを促す。


「ハイエルフの中のハイエルフ、誰よりも優れたハイエルフまたは、最も高貴な血を持つハイエルフのことを言います。つまり人間で言うところの王族です」


「…まさかフィー、お前まさか、自分がハイエルフのお姫様とか言うんじゃないよな?」


「ふふっ、そのまさかです。つまりご主人様はハイエルフの王子様ですよ♪」


 …まさかだったか。知らなかった。

 それ以前に何故今まで話さなかった…って、機会が無かっただけか。


「なら以前戦ったケルヴィンと言うのは?」


「ケルヴィン・ブルム・ブリュー。デ…村長の跡取り息子です。村長には良くしてもらっていましたが…あのような乱雑な男、全然タイプじゃなかったです。それに、村長にも一応理解いただけたのですが…どうやら知らなかったみたいですね」


 フィーは額に手を当て辟易とした表情で、俺に慰めてくださいアピールをする。


「しかしオープスト家は詰まる所、王家だったんだろう? あの村の村長は王家よりも偉かったのか?」


 甘やかしてはいけないので当然無視するが。


「ケルヴィン家は代々長老の樹の御声を聞き、守護する神官の一家でしたから…同程度の権力がありました」


「…そうか、大変だったんだな」


「…昔の私はどちらかと言うと冷めたハイエルフでしたから。そこまで気にしてはいませんでした。ケルヴィンに対しても卑劣な鬱陶しい男という印象しかありませんでしたし…安心してください、私が身も心も捧げているのはご主人様ただ一人なので♪」


「ディオやレオンとかにももう少し優しい対応は出来ないのか? もう少し仲良くしてほしいものだが」


「出来ないことはないのでご命令とあらばそうします」


「じゃあそうしてくれ。少しずつで良いからその方が助かる」


「褒めてくだ「さて、釣りを再開するか」…ご主人様の…意地悪」


 …可愛…何だその顔はっ。


「…頭を撫でるだけで良いか?」


 仕方が無いので頭に手を置いて撫でてやる。


「わん♪ ふわぁ…っ、幸せです…満たされています…♪」


「満たされているって…大袈裟だな。それだといつも満たされていないみたいじゃないか」


「独占欲が強い私は一分一秒でも長くご主人様の愛が欲しいんです。愛されたいんです。もっと愛してください♪」


「そ、そうか…」


 知影もフィーも愛が重い…困ったもんだ。


「ご主人様は本当に愛されているのですよ。知影さんや風音、ご家族にも…えぇと、そう、優香さんにマフラーを編んでもらったように!」


「…確かに皆そうだったからな…? マフラーは見せたが、優香姉さんの名前…その時に言ったか?」


「………ふふ、カリエンテでの夜にご主人様、ご家族の名前を仰ってたじゃないですか」


 …。あぁ、あの時か…。


「あの時はみっともない姿を見せてしまったな…っ!?」


 …あの時はあの時で中々恥ずかしいことをしていたな。


「…貴方には何があっても私が一緒に居ます。これまでも…これからも、いつまでも、この命果てるまでずっとです。ご主人様が死んだら私も死にます。その覚悟があります。ですから大丈夫です。一人になんかしません」


「はは…そうか」


 瞳の奥には、あの頃と全く変わらない意思、覚悟という名の炎が灯っていた。


「もう…それだけですか? もっと何か他に言うことがあったりするのではないのですか?」


 …せがまれてまで言うようなことでもないが、あるにはあるな。


「………一度だけだ。聞き逃したりなんかするなよ?」


 改まって言うの…結構恥ずかしいよな。


「…はい」


「…いつも支えてくれてありがとな」


 よし、良く言えたぞ、俺。


「…それだけですか?」


 まだ言えと? しかもどこかでやったようなやり取りだ。


「…これまでも、これからも俺達は家族だ。だから…よろしく頼む」


「…まぁ良いです。フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナはユヅル・ルフ・オープスト・タチバナに対し、伴侶兼雌犬としてご主人様である夫を支えることをよろしく頼まれました♪」


 …反則級の可愛さの笑顔である。本当に何でこんな良い娘が俺にここまで尽くそうとしてくれるんだろうな…。


「ふふ、私がそうしたいからです♪ ご不満ですか?」


「素直に嬉しいさ。こんな可愛い……家族が居るのだからな」


「…妻と言うのを避けて敢えて家族と仰いましたね。お気になさらなくても以前に伝えた通り、ハイエルフは一夫多妻制ですから問題無いですよ?」


 コイツめ…っ。


「…必死に考えないようにしていた人の心情を解説しなくてよし」


「…ん…っ! はぁっ、幸せ…♪」


 撫で続けていると犬耳がビクッと動く。コテンと肩にもたれかかってくるフィーと一緒に春の陽気のような日光に輝く水面みなもを見ていると自然に瞼が重くなってきて…。


「「ふぁ…」」


 ほぼ二人同時に欠伸をする。


「昼寝…するか?」


「お昼寝…しましょうか」


 まぁ魚もそれなりには釣った…日陰で涼しいし…このまま昼寝…と言うのも…悪く…ない…な。











* * *


 弓弦が私達に助けを求めているような気がして彗星のごとく大急ぎ(当社比3倍)で駆けつけたらフィーナとキスをしているし…本当に困ったものだよ…。それでちょっと弓弦に褒めてもらおうかな〜って犬耳を触ったら拠点に強制送還。誠に遺憾であります。


「知影さん、また手が止まってますよ」


「だって…折角助けに行ったのに弓弦、酷いよ…」


「当然と言ってしまえばそれまでです。 私達にも非があるのでこの話はここで終わりです」


 風音さん弓弦の耳を触っていた時はあんなにノリノリだったのに…いざデコピンされて置いていかれるとすぐに冷めちゃって…あ〜あ。 弓弦の声は聞こえないし、お腹も少し空いたし、風音さんが伐った木の加工という単調作業。 弓弦分が足りないよ…弓弦〜、弓弦〜…弓弦を食べ…弓弦をなでなでしたいな〜。 なでなでして、すりすりして、ぷにぷにしたいのに…はぁ…弓弦が恋しいよ。


「…! 洗濯が終わりましたね。 では干してきますので、私がいない間も作業を怠らないように御願いします」


「…はーい」


 風音さんが洗濯物を干しに家の中に入っていく。


 …ふふふ。


 …ふふふふふ。


 …ふふふふふふふ♪


 …ここからは、私のターンッ!! 変 ふふふっ♪ もう止められる人は誰もいない! 私の時代が、キターーーッ!!


 …ということで、ふふふっ♪ 皆さん(?)には私の弓弦との将来設計を盛り沢山お伝えにしたいと思いまーす! …え? そんなのどうでも良いって? ふふふふふ、大丈夫! 私にはちゃんと伝わっているよ? …気になって気になってしょうがないという皆さんの心がね!











 …そう、それは起こるかもしれない可能性の物語(未来の私の物語)


        *


 ここは地球にあるかもしれない“星降りの丘” 。 地球上で最も宇宙そらに近い地で薄汚れた格好の乙女が1人、星に自らの願いを込めていた。


「……お母様とお姉様達が笑顔で私に接してくれますように…」


 乙女ーーー知影の父親は、彼女がまだ小さかった時に「ちょっとコンビニ行ってくる」と言い残して家を出て帰らぬ人となった。 母親と姉達は父親が死んだことを知影の所為にして悲しみを乗り越えようとしていた。 そのことをよく理解していた彼女も今日この日まで心無い仕打ちに懸命に耐えてきた。 しかし、彼女の心、体は悲鳴をあげていた…もう限界だったのだ。


「…ふふふ、私はこんなにも汚れているのに…ここから見える星はいつも…変わらない、なぁ…っ」


 どんなに辛い時も、どんなに苦しい時も彼女は、ここから星を見上げて心を癒していた。 だから、自らの命を絶つ時もここで果てようと密かに決めていた。 …こんなにも早く来てしまうとは思わなかったが。


「ぐす…っ、ごめんね…勝手にこんなことして…でも、もう疲れたんだ…もう、無理だよ…だから…っ」


 知影は家からこっそり持ち出したナイフを自ら喉に当て、この世に別れを、自らの短い人生に終止符を打とうとしていた。


「さようなら…お母様、さようなら…お姉様達…っ!!!!」


 頬を伝うのは涙、死の恐怖に震える唇が紡ぐのは叶わない願い。


 …流れ星が、見えた気がした。 それは真っ直ぐ彼女の下へと落ちてくる。 驚きに目を見開いた彼女の手からナイフが落ちる。


「な、なに…?」


「間に合ったようだね(キラッ)


 光の中から現れたのは、高身長、美形、美声の三拍子が見事なまでに揃った、美としか形容出来ない知影と同じ年頃の美青年だった。 …とどのつまり、彼女のタイプにドンピシャだった。


「あ、あなたは誰?」


「僕の名前は弓弦(キラッ)。 知影、君を迎えに来たんだ(キラッ)。 空からね(キラッ)


 青年ーーー弓弦の口から言葉が発される度に知影の心は大きく脈打つ。


「ど、どうして…?」


「君が星に願いを込めたからだよ(キラッ)。 天が君の願いを聞き届けたから僕は君の下へ遣わされた(キラッ)


 弓弦が指を鳴らすと光が集い、翼の生えた天馬となる。


「君さえ良ければ僕と一緒にどこか遠い所へ行かないかい(キラッ)?」


「でも、私にはお母様やお姉様達が…きっと許してくださらないわ…っ!! あなたのような…素敵な方と一緒だなんて…」


「なら僕と一緒にお願いをしにいこうか(キラッ)。 きっと君のご家族もお認めになってくれると思うよ(キラッ)


 …その後知影は弓弦と一緒に自らの家族を説得した。 普段なら確実に反対するであろう母も姉達も、この時は何故か反対しなかった。 それどころか、憑き物が落ちたような、晴れ晴れとした笑顔で知影を送り出してくれたのだ。 彼女からしたら信じられないことであっただろう。


「ほら、ね(キラッ)? お認めになってくれるってね(キラッ)? さぁどうするんだい(キラッ)? 僕と一緒に行くか(キラッ)、1人でここに残るか(キラッ)


 知影の答えは決まっていた。


「えぇ行くわ! 私、あなたと一緒に行く! どこまでも! どこにでも! 弓弦、こんな注文が多い私だけど、付き合ってくれる?」


「はい(キラッ)。 喜んでお付き合いいたします(キラッ)…知影(キラッ)


「ありがとう…ありがとうっ(キラッ)!!」


 こうして2人は天馬に乗って、どこまでも、どこまでも遠くへ行ったとさ…。


        *


 …おしまい♪ うん、感動した! 我ながら凄く感動した!! 完璧と言って良い出来! はぁ…弓弦もあんな風にもう少し爽やか(?)になってくれても私は良いと思う…何故かって? そっちの方がカッコイイから♪ それはもう、圧倒的で壮絶なまでに。 いつのも弓弦も大好き♪ 好き過ぎて自分自身が怖くなるほど大好き♪ 私の想像力なら、イメージすればどこにでも弓弦は現r…。


「知影さん、何をなさっていたのですか?」


「え、え〜と…あはは…」


 背後にはいつの間にやら風音さんが笑顔で腕組みをして立っていた。 着物の端々に焔が灯って(宿って?)いて、その様子が私に彼女が素晴らしいほど凄まじく激怒していると分からせた。 愛想笑いを浮かべながら誤魔化すのを試みる…私の演技力、甘く見ないでよ?


「これには日本海峡よりも遥かに深い理由があって…」


「あらあら…それで?」


 ふっふっふ…もらった♪











「…かくかくしかじか、というわけ! どう? 分かってくれた?」


 私は風音さんがいなくなってからの(事実を大いに湾曲させて既に原型が無い)出来事を感動的に切々懇々と語った。


「クス」


 風音さんは可笑しそうに小さく笑ってから私を見る。


「滑稽です。 滑稽としか思えません。 滑稽以外にどう表現すれば良いのでしょう…何故なら」


 薙刀を構える。


「“かくかくしかじか”で私にどう理解しろと仰るのですか?」


「えぇ…そこなんだ。 そこ気にしちゃうんだ…それは反則だよ」


「その点以外に私はどこを気にすればよろしいのですか?」


 …デスヨネー。


「今頃弓弦様とフィーナ様は食材調達に励まれていらっしゃるので…? クス、あらあら…弓弦様、御休みになられてますね」


 弓弦のことを頭に思い浮かべて意識を集中してみる。


『…すぅ…すぅ…止めてよ優…姉さん…そろそろ…弟離れ…恋人探し始め…』


 さ、流石はシスコン…優香先生のことを夢で見ているなんて…どうせなら私の夢とか見てほしいよ。


「それでは再開しますよ」


「サボっていたことはもう怒ってないの?」


「クス、弓弦様の寝言を聞かせて頂いていたらそのようなこおどうでも良くなりました。 …ですが御休みになった分、知影さんには先程より多くの作業を御願いしますがよろしいですね?」


「うぅ…は〜い」











『…んん…よく寝たな。 魚も十分釣ったし、そろそろ戻った方が良いか』


「…どうやら弓弦様とフィーナ様が御戻りになるみたいですね。 知影さん! 今日はここまでにして戻りますよ!」


「ちょっと待って! …これで…よし! じゃあ弓弦とフィーナが帰ってくる前に急ごう!」


 弓弦が戻ろう考えているのを覗いた風音さんと私は草陰に木材を隠して(隠れていない)拠点へと戻る。 私がお米を洗っている間に風音さんが干しておいた洗濯物を取り込み、畳んで寝室の隅に纏めて置く。


「ふぅ…ただいま」


「「おかえりなさいませ弓弦様(ご主人様)」」


 一緒に帰ってきたフィーナまで…うん、分かるよその気持ち。


「おかえりなさい弓弦♪ ご飯にする? お「ご飯だな」…最後まで言わせてよ」


「これが今日釣れた魚だ」


 弓弦からクーラーボックスを受け取る。


「うん♪ 受け取ったよ♪」


「弓弦様は寝室の方で御ゆるりと御寛ぎ下さい♪」


「頑張りますので期待していてくださいね♪」


 私達の言葉に手で答えて寝室に入っていく弓弦を見届けてから、調理を開始した。


「献立はどうするの?」


「鯛飯、刺身、焼き魚の三品でいこうと思っています」


「アラ汁を含めての四品でいった方が良いわ。 ご主人様が食べたいと仰っていたから」


「決まり♪ 取り敢えず私は先に鯛飯に取り掛かるね」


「はい、では私はこの魚でお刺身を作ります」


「アラ汁は私が作るから魚のアラは私に“渡し”て。 下拵したごしらえするから」


「「…」」


 ヒュゥ…と冷たい風が吹いたような気がした。


「…どうかしたのかしら? 急に静かになって」


「…無自覚?」


「…ですね」


「? まぁ良いわ。 ご主人様をお待たせしているのだから早く作るわよ」











「蒸らしはこれぐらいで良いかな…風音さん、魚はどう?」


「…問題無いですね。 フィーナ様はいかがですか?」


「はぁ、美味しく出来たと思うわ。 だけど…ご主人様の味噌汁の味には遠く及ばないわね」


「じゃあ呼ぼっか」


「はい」


「分かったわ」


「「「弓弦(ご主人(様))!」」」


「ん…出来たか」


 …弓弦の味噌汁に張り合うのは無理があるかな…。 あんなに美味しい味噌汁、始めて味わったし…隠し味とかも多そう…でも、一番の隠し味は“愛情”だったりして…キャッ♪ …だったら嬉しいけど…どうなのかなぁ…。


「よし、頂きます」


「「「頂きます♪」」」


 …いつか教えてもらえると…良いなぁ。

「………」


「…ユリ、どうかした?」


「…いや、知影殿の妄想がな…セティ殿はどう思う?」


「………。 凄い」


「うむ…いくら妄想の中でのこととは言え…毎回のように語尾に(キラッ)が付くのはどうかと思うのだ…」


「…心が光の矢を放ってるから…仕方が無い」


「それは…危険では無いだろうか? それに橘殿はまだ使えないはずだ」


「…大丈夫。 比喩だから…最後の切り札ではない」


「…? 切り札と言えるほどの威力がある光矢こうし系魔法があっただろうか?」


「……全ては恋する乙女の妄想…気にしたら負け」


「…そうか。 恋する乙女の妄想…か」


「…ユリは恋、してる?」


「…わ、私はどうもそういったことには疎くてな…」


「…でもユリ…部屋で1人の「1人の時…何だと言うのだ?」…脅迫…反対…? …ご飯の時間」


「…確かに夕餉ゆうげの時間だな。 では参るとするか」


「…うん」

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