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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
86/411

情意暴走!?

「…またこの変な空間か」


 辺りを回り見る。

 知影は以前、俺とフィーのことを予知夢で見たことがあるらしいし、俺が今ここに居ることにも何らかの意味があるのかもしれないな。

 実際、以前ここで奴…『バアゼル』に決戦の申し込みをされた。アレは不思議な現象だったよな。まさか悪魔が俺の中に来ていたなんて…あんなことそんなにあったら困ってしまう。


「はぁ……」


 適当に前に進んで行く。


「ん、炬燵か」


 …炬燵があった。あの悪魔の姿は…無いな。

 …ん? このお茶…炬燵もまだ温かいな…誰か先程までここ居たのだろうか。だとしたら、誰が?


「…誰か居るのか…? 俺の心の中に? まさか…な」


 取り敢えずお茶を淹れ、炬燵に足を入れる。

 手持ち無沙汰気味なので、ついでに蜜柑も剥いて口に運ぶ。


「ズズ…ッ」


 うん、濁りは…何とやら。兎に角、良いお茶だ。

 一杯飲んで一息吐いて、一口食べる。一人と言うのが何とも言えない寂寥感せきりょうかんを生じさせているが、たまには良いのも確かだ。…たまには…だが。


「ズズ…ッ」


 …孤独と言うのは寂しいな。孤独を好む人間も居るが、少なくとも俺はそうじゃない。やはり人は人肌も求める程、寂しさに打ち震えることもあって…そんな一面があるからこそ人と言えるんだ。誰とて一人では生きていけない。社会と言うものは沢山の人と言う歯車によって初めて動く、機械のようなものと言えるからだ。誰か一人、小さな歯車が欠けたとしてもいずれ時の経過と共に似たような歯車じんぶつが現れ、綻びは元に戻る。…だが、一人一人の歯車が複雑に噛み合わさって動く産業と言う機関が失われてしまっては、いくら人が集まったとて早々直るものではない。産業は営み、営みとはつまり人の生活だ。一人一人の人の営みという歯車が回り、それが産業と言う機関を育み、複数の機関が稼働することで経済が回る。

 回る、周る、廻り、巡る。人の生もまた、終わりのない螺旋の終わりという矛盾へと向かって廻り続ける。…言うならば人は常にどこかで終わりを探しているのかもしれないな…。


「ズズ…ッ」


 同じ歯車は一つとして存在しない。大きさ、歯、歯数、歯面、歯先円、歯底円などなどだ。何かが同じでも何かが違う。ある一部分において擬似的に噛み合うことはあっても、ある一部分においてはそうではない。そこが先程の似たような歯車じんぶつに関していくのだ。当然のことだが。


「ズ…ッ。あ、全部飲んでしまったか」


 欠けた部分は補えば良い、お茶を新しく淹れるのと同じように。…しかし完璧に同じモノの再現は難しい。このお茶の場合は濃さ、熱さ、中に入っている茶葉の量がそれに当たるな…ん?


「お。茶柱か…縁起が良いな」


 個性を是とするか、否とするかは人それぞれだ。個性とは即ち個が背負わなければならない()…活かすも殺すもその人次第の、手札と言うべきものなのだろう。鬼が出るか蛇が出るか…中々面白いものだ…って、何を言っているんだろうな、俺は。

 …。ところで、いつになったら帰れるのだろうか? そろそろさb…眠たくなってきたんだが。


ーーーご……様、朝…すよ。


「ん?」


 炬燵の中から声が聞こえたので炬燵布団を捲って中を見ると…黒い穴が。

 遠くでフィーがこちらを覗いているのを認識した瞬間。俺は穴に吸い込まれた。











…俺ってよく吸い込まれるよな…。


* * *


「起きてください、ご主人様。起きないと犬耳を触りますよ?」


 いつの間にか俺は、あの炬燵空間から布団の中へと戻っていた。

 眼を開けると、正面でフィーが犬耳天使(?)のような微笑を浮かべて俺を覗き込んでいた。


「ふふ、よく眠れましたか?」


「あぁ、よく眠れた」


 嘘ではない。実際俺は今、熟睡感を強く感じているからだ。

 …ずっと起きていたような気もするけどな。


「起きるか?」


「はい♪」


 二人でタイミングを合わせて布団から起きる…知影と風音はまだ寝ているようだ。

 よし、朝ご飯の用意をしなくては…っと言っても材料が無いか。


「知影さんと風音が眼を覚ます前に、今から大急ぎで材料を採りに行きましょうか」


 布団を畳んでから“アカシックボックス”で旅装束を取り出す。 空かさずフィーが“クイック”を自分と俺に掛けてくれたので、俺は倍速で寝室を出て行った。

 居間で着替えて寝間着を畳んで机に置き、例のごとく“アカシックボックス”で取り出した炊飯器で炊くための米を洗う。

 不思議だよな…。異世界に来たって言うのに、“アカシックボックス”のお蔭で安定感のある生活が送れている。


「ご主人様、何かを忘れていませんか?」


 旅装束に着替え終えたフィーが寝間着を受け取って寝室に消えた。

 そして何かを後ろ手に持って、出て来る…ん。そう言えば頭が軽いような。


「う〜ん…帽子か?」


「正解です♪ 忘れちゃ駄目ですよ?」


「はは…すまないな」


 軽く出掛ける分には要らない気もするが、それを言うのは野暮だよな。


「当然の務めです♪」


 フィーが俺の頭に帽子を乗せると“パーマネンティ”の魔法が発動。“クイック”の効果が延長される…はずだ。

 倍速で洗った米と水を米櫃こめびつに入れてスイッチオン。


「よし、“シグテレポ”!!」


 俺とフィーは“シグテレポ”で昨日多くの魚を釣り上げた湖のほとりに転移した。


「フィー、食べられそうな植物の判定って出来るか?」


「はい、ですが私だけでなくご主人様も植物の声に耳を傾ければ出来ますよ」


 耳を傾ける…か。簡単に出来ると良いんだがな、今は少々急いでいる状態だ。

 ここは役割分担でいくか。


「そうか、だが今は急がなくてはいけないからな。そっちは任せても良いか? 俺は頑張って魚を釣ってみる」


 短時間の勝負…腕の見せ所だな!


「わん♪ お任せくださいご主人様!」


 犬言葉が出てる…萌…じゃない。俺も早く釣り上げなくてはな。


「そら!」


 エサを付けて釣り糸を垂らす。

 ポチャンと水面に波紋が広がり静寂が訪れた。


 …。


 ……。


 ………ポチャ。


「今だっ!!」


 竿がしなる。魚の動きに合わせ、リードを巻き上げ全身の筋群を使って引っ張る!!


ーーーピチピチ。


 釣れた、まずは一匹。再び釣り糸を垂らす…直後に沈む。


「入れ食い…だとっ!」


 二匹目♪


「ご主人様〜! 沢山見付かりましたよ〜!!」


 フィーが草で編んだらしい籠に、何かの植物を溢れんばかりに入れて帰って来た…直後、ウキが沈んだ。


「な…っ!?」


 重い。物凄く重い。

 これは大物が釣れそうだ…っ!!


「フィー、手伝ってぐっ…引っ張られる…っ!?」


 逃がす…ものかよッ!!


「お、お手伝いします!」


 大きく竿がしなった。

 この確かな手応え…!! どんなに踏ん張っても徐々に俺の足は湖に引き摺られていく。


「…くっ…ぉぉぉぉッ!!」


 リードを一気に巻き上げて引っ張る!


ーーーブチッ!!


「な…んだと…っ!?」


 夢の破れた音が、聞こえた。


「…っ! ご主人様!!」


 糸が切れた。勢いが余って後ろに仰け反ってしまい、背後から俺を支えていたフィーごと倒れ込んでしまう。く、逃がしたか…っ。だがそんなことより。


「フィー、大丈夫か?」


 身体を起こしてそのままフィーも起こす。


「はい…ご主人様こそ大丈夫ですか?」


「俺も大丈夫だ…あの魚、大物だったのにな…くっ」


 あれを釣ることが出来たのなら…っ。どうしても逃した魚は大きく見えるな…はぁ。


「またはぁ、次があります。頑張りましょう! …私にとってはご主人様の身体に圧迫されて…はぁ、ご褒美でしたけど♪」


 …うん、後半はよく聞こえなかったが、大丈夫そうだ。


「帰るぞ、掴まっとけ」


「わん! 抱き付いちゃいますはぁ…っ♪」


 やけに機嫌が良いのはおいといて、早く戻らねば。


「“シグテレポ”!!」











 帰宅。フィーと手分けして早速朝食の準備をする…と言っても、二人が起きる前に手早く、静かに作らなければならないのでフィーに魚を任せてエプロンを着用した。

 俺は特製味噌汁とフィーが採って来た食べられる植物数種を、レモン汁に塩を溶かした調味液に漬けて即席漬けを作った。

 取り敢えずすぐに出来た漬物だけ先に器に盛り分け、味噌汁の味見をして一言。


「うん…悪くないな」


 爽やかだ。調味液が意外と上手く染み込んでいるな。


「魚も焼けましたよ! お皿に載せていきますね」


 杓文字しゃもじで炊き上がった白米を切っておく…よし、準備万端だな。


「準備万端ですね。では二人を起こしてきます」


 「頼む」と言って味噌汁の具を混ぜていく。

 何だろうな、一混ぜするごとに何故か楽しい気持ちになってしまう。


「〜〜〜♪」


 料理ってする前は面倒だったりするものだが、し始めると楽しい。

 これを皆が美味しそうに食べてくれるのを想像すると…はぁ、幸せだなぁ。


「ご主人様、二人を起こしてきました」


「主夫だ…立派な主夫がここにいる…ッ!! カメラ! カメラはどこ!?」


「不覚です…よもや私が寝坊するなど…申し訳御座いません弓弦様…」


 確かに。知影は兎も角、女将だった風音が寝坊するとは考え難いものがあるが…。昨日の戦闘で疲れていたのかもしれないな。


「じゃあフィーはご飯を盛ってくれ。俺は味噌汁を注いでいくから。寝坊助二人はそこの流しで軽く顔でも洗っとけよ」


「はい♪」


「…おっかしいなぁ…私が起きれないなんて」


「…昨日に続き、今朝も弓弦様に食事を作らせてしまうとは…申し訳が…立ちません…ぅぅ…っ」


 それぞれがそれぞれの反応をする。

 人間寝坊することなど日常茶飯事なのにな…まったく。


* * *


 食事が終わって片付けをしてから。私は風音さんの指示の下、昨日と同じように木を伐っていた。

 勿論弓弦には食器の片付けなんてさせてないよ? 流石にそこまで彼に任せてたら風音さんと一緒で弓弦に悪いし、女が廃っちゃう…そう、つまり私は普通の女の子なの。ただ弓弦が好き過ぎて好き過ぎてしょうがない、そんなどこにでも居る普通の女の子♪ …ここで頭の中に疑問符が浮かんだ人は…うん、ちょっと向こうに行こうか。

 さてはてはてさて、将来は本当の意味で弓弦の妻になること♪ 今も勿論弓弦の妻、だけど戸籍上は一緒じゃないからもし無事に私達の世界に帰れたら「弓弦君を私に下さい!!」…ってご家族の方に挨拶に行かなきゃ。橘家は超絶ブラコン姉妹の巣窟だけどいざとなったら…ふふふ、ネゴシエーションしなくちゃ…ね。例え向こうがいくら武力行使をしてきても、私がブラコンという歪みを断ち切って彼を勝ち取ってみせる!! …でも弓弦の記憶が確かなら、彼のお兄さんを除いて全員相当な実力者だとか。でもでも♪ 時が見える私の敵じゃないね♪ まだ魔法が全然使いこなせないけど、いずれ完璧に使い熟すことが出来るようになれば…ふふふふふ♪


「知影さん、手が止まってますよ。折角フィーナ様が昨日配慮して下さったのにそれを無駄にしてどうなさるつもりですか?」


「…絶対自分が弓弦と一緒に居たいからに決まってる。だって私ならそうするから…良いなぁ」


「僭越ながら申し上げます。馬鹿なことは仰らずに手を動かして下さい」


「風音さんだって弓弦と一緒に居たいんじゃないの? 昨日だってあんなに楽しそうに弓弦を揶揄っていたのに」


「思慮分別を弁えなければ、それこそ弓弦様の御側に仕える資格が無くなってしまいます。あの御方の御側に居たいからこそ、今は眼前の為すべきことを為さねばならないのですよ」


「為すべきことを為す…ね。正論と言えばそこまでだけど、それは風音さんが勝手に思い込んでいることでしょ? そんなことしなくても弓弦は受け入れてくれるよ」


「私の気が済まないのです。無論押し付けがましい勝手な理由だとも承知しています。確かに知影さんの仰る通り、斯様なことをしなくても、自堕落な人間であったとしても、弓弦様は受け入れて下さるでしょう…ですが、それはあの御方に甘えているのと同じです。例え弓弦様が御認めになられてもフィーナ様は御許しになりません。それは知影様、あなたとて同じはず。あなたも最初、フィーナ様を本気で殺そうとなさったのですから」


 そりゃあ…まぁ。と言うか弓弦に近付く女狐は抹殺しないといけないって、私の両手が轟き叫んでいるんだもん。仕方無いよね。


「クス、緩急をつけましょう。実を言わせて頂きますと、私は御風呂が完成した暁に弓弦様の御背中を流させて頂く予定ですよ?」


「あ、例えば背中を流すと言わずに皆で一緒に入っちゃえば良いんだよね」


「クス、それは良い案です♪」


 やっぱり風音も考えていたんだ。今凄く女の顔をしていたし…弓弦の裸…ふふふ、漲ってきた…っ!!


「ふふふふふ…」


 弓弦の裸、弓弦の裸弓弦の裸、弓弦の裸弓弦の裸弓弦の裸弓弦、弓弦弓弦、弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦…キャーーーーーッ♪


「…私は向こうで木材を加工して参りますので…こちらの木材の加工はお任せします」


 弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦…キャーーーーーッ♪


* * *


「…ハックション!」


「大丈夫ですかご主人様?」


「…ぅぅ、おぞましいほどの寒気を感じた」


 知影だれかが人で良からぬことを考えているのだろう。


「…本当に大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが…あ、かかった。 それぇっ!」


「上手い上手い、流石飲み込みが早くて助かるな」


 俺とフィーは勿論釣りで魚を釣っている。

 狙いは今朝逃してしまった大物。今度こそ…絶対釣り上げてやる。


「ふふ、楽しいです」


「そう思ってくれたら俺もやらせてみた甲斐があるな…っと!」


「わぁ…凄いです!  今日一番の大きさですからアラ汁に使えそうですね♪」


「アラ汁を知っているのか? …そうだな…毒素も無さそうだし、刺身としてもいけそうだから今晩はそうするか」


 フィーは結構、和食文化に精通しているところがあるな…感心感心。


「…ご主人様の作るご飯が食べられるのは凄く嬉しいです…エプロン姿もよく似合っていて二度美味しいのですが、私達にも食事を作らせてください。女の子が三人も居るのですからご主人様はもう少しお休みになった方が良いと思います」


 不満気に上眼遣いで見つめてくるフィーに思わず苦笑してしまう。

 何だかんだ言っても一番肉体労働をしていないのは俺なのだから当然食事は俺の役割だと思っていたのだが、そうでもないようだ…っ、かかった!


「今日も食事は豪華になりそうです♪ 期待していてくださいね、ご主人様」


「あぁ、期待させてもらう。だが張り切り過ぎて失敗したりするなよ?」


「もう…っ、私が失敗すると思いますか?」


「さぁ? あくまで可能性の話を言ったまでだ。猿も木から落ちると言うしな」


「ご主人様、私は猿ではなくて雌犬です」


 雌犬…ねぇ?


「いやそれもどうかと思うが…」


 自分でそれを言うか普通。言わないよな、うん。


「犬か駄犬か雌犬か雌犬か忠犬か雌犬か愛犬か雌犬か…私はご主人様にとってどんな犬なのですわん?」


「どんな犬と言われてもな…」


 少し引いた。もう駄目だこのフィー()、語尾が犬言葉になっているぞ…いや、そう言う問題でもないか。


「…一番近いのは忠犬だな」


「駄犬ですね、分かりました…ではご主人様、駄目なハイエルフにお仕置きをしてください…はぁ、はぁ…」


 とんだ空耳だ。


「…おーい」


 いつもは見ることの出来ない首輪型のチョーカーが現れてリードが、俺の手に。


「冷めた瞳で睨みつけ、心無い言葉で罵って私の体に苦痛よろこびを…はぁ…っ。お願いしますご主人様…どうかはぁ、お仕置きを…っ!」


 うわぁい。絶賛ドン引き中。


「フィー取り敢えず落ち着け、話はそれからだ。な? ほら深呼吸をし…ろ?」


 この残念美人め。さっさと落ち着けっ。


『バインドウォーター』


 お、おい! 身体が動かん…っ水!? そんなもの、“テレポート”で!


「思い繋ぎて誘っ!?」


 転移しようとしても、勝手に手に収まり続けようとするリードが妨害する。


「ご主人様はぁ…逃げないでくださはぁ…私をぐちゃぐちゃにしてください…っ乱して乱しはぁ…っはぁっ…ご主人様ぁ…!」


 こ、怖ぇ……


「おい、落ち着け! 話せば分かる! 話せば「問答無用ですっ!!」やめろ…犬耳を触るなぁぁっ!!」


 水と鎖で拘束され動けないのを良いことにフィーが犬耳を弄ぶっ!?


「はぁ、はぁ…ご主人様っ、ご主人様ぁ…っ!」


「う、や、やめっ!? あ、あぁ…犬耳を…触る、なぁっ!!」


 …ぐぅ…っ馬鹿になる…。俺が馬鹿になったら誰がツッコミをするんだ…っ!! うっ!?


「はぁ、はぁ…馬鹿ではぁ、良いじゃないですかぁ…っ♪ 暑いです…っ、もう私…我慢出来ません…っ♪」


「我慢…しろっ! そろそろ本気…でっ、怒るぞ!!」


「怒ってください! 辛辣な言葉で私を責めはぁ、ください! はぁ、ためにっ! 結ばれましょう…ご主人様の…はぁ、はぁぁ…たいです…っうはぁむ、はぁ…はぁ…っ♪」


 フィ、フィーが俺の犬耳をぉぉぉぉっ!


「大丈夫です…全て私にはぁ、お任せください…はぁっ…優しくしますからぁ…はぁっ♪」


「ち、知影ぇっ! 風音ぇっ! 助けてくれぇぇぇぇ…ぇ、ぇ…」


 犬耳を触ってくるフィーの顔から眼が離せない。

 まるで脳内でフィルターがかかってしまったかのように、上気した顔のフィーが愛しく見えてしょうがなくて…必死に振り払おうとしても力が入らない…。犬耳への刺激へと同時に胸が締めつけられたように苦しくて…息苦しくて…切なくて…包み込むように抱きしめてくるフィーが温かくて…胸から胸へと伝わる鼓動が、交わる息がお互いの意識を、甘く啄むようなキスが俺の理性を溶かしていく。


「「……」」


 …もう、何が何だか分からない。だが何をすれば、しなければいけないかは分かる…ような気がする。

 それがどのようなことであったとしても、溶かされた理性が働くことはない。ただ、痛いほどの激しい衝動ほんのうに身を焦がされたがが外れた二人は互いが互いを一心に求め合う。


「ん…っ! はぁ…ご主人様ぁっ…♪」


「…はぁ、フィー…っ」


「そこまでです!!」


 たがねが飛来して俺とフィーの間の地面を深く穿つ。


「こ、こんな所で何をなさっているのですか!」


「ゆ、ゆゆゆ弓弦? 助けを呼ぶ声が聞こえたような気がしてまさかと思って来てみたら…フィーナと今何をしていたの」


 熱が急激に冷めて理性が戻ってくる。

 俺…はぁ。何やってんだか。


「じ、人工呼吸をしていたのよ! ご主人様ったら足を踏み外されて湖に落ちてしまって…今やっと眼を覚まされたの! 良かったー」


「…っすまん! どうも考え事をしている間に馬鹿やったみたいだ! いやー助かったー」


 素晴らしい棒読みである。


「うん! …凄く馬鹿なことをやってたよ」


 …知影の目が据わっている。

 あぁ…これは…終わったな。


「…フィーナ様、弁明の言葉があるのならば聞き届けます。何か私達に伝えておかなければならない言葉はありますか?」


 風音がかんざしを静かに抜いて握る。フィー、頼むぞ…何か上手い言い訳を…っ!!


「……」


 フィーは俺に向かって『お任せください』と言わんばかりに、軽くウィンクをしてから静かに怒る知影と風音を見据えて口を開く。


「ムシャクシャしてやった、後悔はしてないわ。ご主人様の唇、ご馳走様でした♪」


「フィー!?」


 な、何言っているんだよ! そんなことを言ったら!?


「…は!? つい…うっ…ガク」


「「死刑(天誅)」」


 頚椎へ左右からチョップ。フィーはどこか満ち足りた表情で崩れ落ちる。彼女が完全に意識を失ったことを確認してから、二人はゆっくりと俺の方へ歩いてくる。


「…っ好きにしろ。フィーを止められなかった俺の責任だ。あいつは悪くない、もうその程度で勘弁してやれ」


「ふふふ、分かってるよ。私も風音さんも、弓弦に責任をとってもらうつもりだから」


「そうか…は?」


 自分で言っておいてだが、俺そこまで悪いこと…したな。


「弓弦様にはしっかりと責任を取ってもらいます…あちらで」


「おいで弓弦、一杯話したいことあるから早く行こっ! …向こうへ」


「あ、あぁ…」


 二人にそれぞれ手と犬耳を引かれて湖から少し離れた所へと連れて行か…れる。


「…なぁ風音、犬耳を引っ張るの止めてくれないか」


「御断り致します」


「…っ、知影」


「ダ〜メ。フィーナに襲われたのは分かっているけど受け入れたのは弓弦だから…ふふふ、許せない♪」


「ぐ…っ!?」


「弓弦様の犬耳は、本当に不思議な魅力がありますね…触り続けていて全く飽きることがありません♪」


「これはきっと濃密なフェロモンが出ているんだよ。いけない犬耳は…こうだよ!」


「あぐっ…!?」


 い、いかん…フィーに触り続けられていた所為で耳が敏感になっている…っ!


「ふふふ! 敏感になっているんだぁ…ならいつまで耐えられるかなっ!!」


「…っ!!」


 耐えろ…耐えるんだ、俺!!


「クス、これはどうですか?」


「あ、ビクッてなった! 可愛い…可愛いよ弓弦、凄く可愛い…っ!!」


「力を抜いて下さい、楽になさるのです…」


 優しい手つきだ…気持ち良…くないっ!!


「ぐ…っ、“シグテレポ”!!」


 同じわだちを踏んでたまるか…!!


「え?」


「あらあら…」


 2人を連れて拠点前まで転移。…どうする? どうすればこの二人の拘束から離れられる!? くそ、考えろ…考えるんだ!!


「私と風音さんを離そうとしても無駄だよ…弓弦がお馬鹿さんになって私達を求めてくるまで犬耳を弄ってあげる…ほら早く私達に溺れてよ、ね? そうしたら楽だよ♪」


 …! 離す、か…。


『思い繋ぎて誘えテレポート!!』


「ッ!? 無駄ですよ! 私達が犬耳を掴んでいるかっ!?」


「痛っ!! ちょっと弓弦、優しくして「シグテレポ!!」え、あ! しまった!!」











「…ふぅ、疲れた。全く、魚を釣りに行くだけで何でこうなるんだよ…」


 因みにどうして知影と風音の拘束を解いたのについてだが、簡単だ。“テレポート”で両指だけを転移させてデコピンしただけ。知影のお蔭で思い付いたが、もしそれが無かったら…危なかった…。


「…さて、二人に沈められたフィーを起こしに行かなきゃな……」

「……」


「あ、博士。何の本を読んでいるんですか?」


「ルクセント中尉。…これかい? ほら」


「ありがとうございます。どれどれ…ってぇぇっ!? こここ、これってい、いけない本じゃないですかっ」


「大人の男はこれぐらいの嗜みをするものさ」


「…それはそうかもしれないですけど…え、えぇ? ここ食堂ですよ? そんなに堂々と……」


「良いかい? 他の人の迷惑になっていないから良いんだよ。こんな隅っこで読んでいるんだし、誰も僕がこんな本を読んでいるなんて気付かないのさ。現に、ルクセント中尉も気付かなかっただろう?」


「…それとこれとは違うような気もしますが……ぇぇ」


「ルクセント中尉には早過ぎる本なのかもしれないね。じゃあ、代わりにこれを読もう」


「『湖の畔にフィーナを迎えに行った弓弦はさておき。彼に逃げられてしまった知影は一人、頭の中で自分だけの世界を作り出す。彼女の思い通りになってしまう妄想の世界で登場する彼とはーーー次回、英姿颯爽』…って、これ予告じゃないですかっ」


「……」


「は、博士っ、その手は何ですかっその手はっ!?」

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