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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
84/411

拠点建築!?

「よ〜し♪ じゃあちゃちゃっと作っちゃおっか!」


「ダメよ、拠点なのだからもう少し考えた上で作らないと。最悪この世界に長期滞在なんてことも無きにしも非ずなのだから」


「でも弓弦が帰って来るまでにある程度作っておかないと…弓弦が悲しい気持ちになっちゃうよ」


「それは嫌だけど…急ぐあまり中途半端な拠点を作ったとしてもご主人様が…顔にこそ出されないけどそれこそ、悲しい気持ちになられてしまうわ」


 弓弦と風音がそれぞれの作業に向かった後、知影とフィーナは拠点製作の準備において軽く揉めていた。取り敢えず作ってしまおうというのが知影の意見で、ある程度構想が纏まってから作った方が良いというのがフィーナの意見だった。


「取り敢えず今日は家の設計を考えて、材料を用意することに徹した方が良いと思うわ。この二つの作業が早めに済んで且つ、時間があったら組み立てる…こっちの方がいきなり作るよりかは安定するはずよ。私はもう設計図が出来上がっているし、後は知影の設計図と組み合わせて私達の良いとこ取りをした家の方がご主人様を喜ばすことが出来ると思うわ」


「んっと…じゃあどんな感じに纏まっているか訊かせてもらっても良いかな?」


「えぇ、一軒家を建てようと思うわ」


「ふんふん、一軒家ね…って、えぇぇぇぇぇっ!? 一軒家を私達で建てることが出来ると思っているの!?」


「建てられるわよ。私以前一人で建てたこともあるから問題無いわ」


 ーーー実は『名無し島』のフィーナの家は彼女が自分自身で設計と建築を行っているのはここだけの話だ。

 一軒家となれば弓弦は間違い無く喜んでくれるし、ここにいる知影は基本的に凡ゆることをこなせる天才と呼ばれる人種だ。それが分かっているから、フィーナには絶対に建てることが出来るという自信があった。


「私はご主人様のことを考えてたら何でも出来てしまうような気がする…。知影もそうでしょ?」


「うん! そう言われたら出来るような気がしてきた…! 頑張ってみよっかな♪」


「まずは材料集め、行くわよ!! 全ては…」


「「ご主人様(弓弦)のために♪」」


 二人で考えた合言葉を言ってからフィーナが魔力マナを使って空中に文字を書く。知影の扱い方を心得てきた彼女がほくそ笑んだかどうかは定かではない。


「必要な材料はこんなところよ、幸いこの付近は緑が豊かだから材木には困らないと思うから」


 フィーナが近くにあった木に優しく触れてから刀を抜いて木を切り倒す。


「その刀、凄い斬れ味。風音さんが打ってくれた物なのでしょ?」


「そうよ、『軻遇突智之刀かぐつちのかたな』…『オレイカルコス鉱石』と言う特別な鉱石を材料にした私の愛刀よ」


「へぇ…オレイカルコスで出来た刀かぁ…。なんか、使うと竜巻が起こりそうな刀だね」


 どこの剣と勘違いしているのであろうか。


「竜巻は起こせないけど、魔力マナを込めて斬れ味を良くしたりとか色々なことが出来るわよ」


「持って見てみても良いかな?」


「良いわよ」


 フィーナは刀を鞘に納めて知影に手渡した。


「抜刀! …ってあれ? っ、この! 刀全然抜けないっ、よっ!?」


「ふふ、その刀は選ばれた者にしか抜けないのよ」


 「こんな風にね」と知影から刀を返してもらい、容易く鞘から抜くフィーナ。


「選ばれし者にしか抜けない刀…弓弦が喜びそうな武器だよね」


「とても喜んでいたわ…ふふ、子どもみたいで可愛かったわ♪」


「だよね〜♪ そう言う弓弦を見てると不思議と今の私、満たされてるなぁ…って実感するんだ♪ そうだ! 折角だから順番に弓弦との思い出話をしていかない?」


 と、知影。


「良いわ…どっちがご主人様との思い出話で先に相手を悶えさせるか、勝負といきましょう!!」


 フィーナもそれに同意し、こうして木材の加工をしながらの謎の勝負が始まった。話しながら木材の加工が出来るとは随分と余裕なものである。


「最初は私からで良いかな?」


「えぇ、問題無いわよ」


「じゃあ先ずは小手調べ♪ 弓弦って今は一人称が“俺”じゃない? アークドラグノフに来る前は一人称が“僕”だったんだけど、弓弦が変えた理由が分かる?」


 フィーナからして見れば出会った時からずっと一人称が“俺”だったので、良く分からなかった。


「どうしてかって言うとね…いつまでも“僕”じゃ格好付かないし、甘えたような一人称だから私の夫として情けないから変えたんだって! こっそり覗いて調べちゃった♪ 私の夫だなんて…照れちゃうよね!」


 イヤイヤと嬉しそうに言う知影とは対照的と言えるほど冷めた態度でフィーナが鼻で笑う。


「そんな作り話で私が悶えると思ったら大間違いよ知影、じゃあ今度は私の番ね?」


「…嘘じゃないのに…(一部は)本当のことなのに…どうぞ」


 あくどい女だ。


「犬耳を触っている時、特定のタイミングでご主人様は良く逃げるの。結局そのあとは暫く警戒なさるのでなかなか触ることが出来ないのだけど、それ以上無理矢理触ったら面白いことになるのよ」


「面白いこと?」


 弓弦の犬耳は触っているだけであの、もふもふとした感触が疲れを癒す。そんな感触が巷の奥様方に大人気かどうかは別として、取り敢えず彼女達にとって癒しアイテムだ。所謂中毒性があり、一度あの感触を堪能してしまった人物は自然と手が犬耳へと向かってしまうほど恐ろしい。

 少なくとも知影にとっては逃げた後の警戒している姿も、中々唆るものがあるのだがまさかあれ以上、無理矢理触ったことがあるのか。


「ご主人様が、馬鹿になるわ」


「…???」


「軽いトランス状態になっちゃうのよ。何でも言うことを、喜んで訊いてくれるわよ? あ、状態確認の目安はご主人様の瞳が夢を見ているかのように潤んでいること、お馬鹿になられたご主人様は庇護欲を唆られると言うか…本当に可愛いわよ♪」


 知影の眼が妖しく光る。それはもう、魔眼のように。


「どんな命令? 例えば?」


「私に深いキスをしてとか、私に甘えてとか、私にお仕置きをしてとかね。ご主人様が覚えていらっしゃらないのが残念なくらいよ」


 欲望全開である。


「う〜ん、でもディープキスぐらいなら普通にやってくれると思うけど…」


 普通にやってくれる、ではやく普通にやらせてくれるの間違いでは無いかとフィーナは思った。

 彼女は以前弓弦から知影の人となりを聞いている。勿論彼曰く無愛想で大人しくて清楚だった昔の知影ではあるが。ご主人様の言ったことは何でも信じるフィーナですら思わず首を捻るほど、彼が語る昔の知影と今の知影は真逆に近い程雰囲気が異なっていた。


「なら今度私も弓弦をお馬鹿にしてみよっかな♪ 色んなお願いをして色んなことをして沢山、沢山愛してもらうんだぁ…ふふふふふ」


「…これで後はさっきの場所に運んで行くだけよ。さ、運びましょうか。次は知影の番よ」


「ん~と。じゃあこのネタいこうかな…弓弦のとある失敗の思い出だよ♪ 弓弦って美人のお姉さん達に沢山お嫁技術(?)を仕込まれた家事万能のスーパーボーイだけど、そのお蔭で重度のシスコンの気があるんだよね。…学校では優香先生の監視の眼があったとは言ってもまるでクラスの女子に興味が無かったし、唯一時々からかっていたすみれさんも本人からしたら男友達らしいから。まぁこれは前置きとしてここからが失敗談なのだけど、弟の弓弦がシスコンになってしまう程お姉さん達のブラコンっぷりと言ったら酷いの。私は優香先生しか直接会って話したことは無いから、弓弦の記憶の中でしかその人達を知らないんだけどね」


 ーーーあなたは、人に心を覗かせることが出来ますか?

 ここに、弓弦の心のプライバシーは皆無だ。


「…さてある日、優香先生が教師を務める数学の授業で弓弦は前日の試合の疲れからか居眠りしていたの。その年に新人の教師として高校にやって来た優香先生は国試最短ルート通過での二十三歳という若さながら、そのトップモデルクラスのルックスと授業の分かり易さから神代じんよ高校でも人気のある先生になった。この日の授業もいつも通り生徒の想像力や理解を促しながらスムーズに展開されていくはずだったんだけど、途中教室を見回して理解出来ていない人が居ないか探した時に先生は弓弦を見付けた」


「………あ、続けて」


 ーーー話している最中、フィーナの意識が飛んでいたように見えて知影は話を中断するが聞いていたようだ。フィーナの魔法で軽くした木材を運びながら知影は話を続ける。


「弓弦が疲れていることは勿論先生も分かっていたはずだけど、授業中寝っ放しは流石にどうか…と思ったみたいで、先生は弓弦の名前を呼んだんだけど、爆睡してる弓弦は起きない。…でも繰り返し呼んでいる内に弓弦は頭を上げて『ゆうねぇお願い…もう少し寝かせて』と、言ったの。そしたらーーー」


 知影は深く息を吸って吐き出すと、フィーナの顔を真っ直ぐ見つめて言う。


「ーーーその時、先生が超絶ブラコン姉へと変わった」


「……」


 さながらドキュメント番組のように声音を改めながら言葉を続けた知影に向けるフィーナの瞳は半眼だ。


「優香先生は最初の自己紹介の時に呼び易い呼び方で呼んでも良いって言ってたから、皆は先生のことを“優香先生”と下の名前で呼んでいたけど、弓弦は頑として“橘先生”の一点張り。参観日であと二人のお姉さんや妹の木乃香が勢揃いしたらしい時…あ、私その日保健室に居たんだ。体調が悪くてね。で、その時も弓弦だけは我関せずで一度たりとも学校で橘先生としか呼ばなかったみたいなの。フィーナはどう思う? ある場所で長い間弓弦に他人行儀な呼び方をされて急にそんな呼び方をされたら…!」


「そうね。…っ!? あなたまさか…これが狙いだったの…っ!?」


 この話をした知影の狙い、それはフィーナ自身に理想の呼ばれ方を想像させること。今頃フィーナの頭の中で彼女は、彼女自身が想像したシチュエーションに対して悶えないように、必死に戦っているだろう。馬鹿馬鹿しいと思うことなかれ、これもまた戦法の一つ。先に悶えた方が負けのこの勝負、最大の敵は自身の想像力だ。


「…………まだまだ、その程度で私が悶えると思わないで」


「嘘…まさか耐えきったの? 弓弦のツンデレを!? 私なんかこれを覗いた時卒倒したのに!」


「ふふ、甘いのよ。その程度の境地なんて私は既に超越しているわ。…さ、思ったより早く木材の準備が終わったから勝負は一旦中止して建てるわよ」


 謎の勝負と、“クイック”を使いながらではあったがフィーナが伐採して知影が加工した木材は既に目標数まで達していた。今日の目標は本来ならここまでで終わりだったのだが、このペースならいけそうだと判断したフィーナは木材を地面に突き刺すように置いていき、魔法で固定していく。知影も同じように木材を配置することを繰り返すと程無くして徐々に家の形になっていく。

 意外と肉体派な彼女達。もっとも、殆ど全てをフィーナの魔法でどうこうしているので、実際には積み木感覚に近いだろうか。


『勇ある者に風の加護を…ベントゥスアニマ!』


 家の骨組みが完成すると、木材を持ったフィーナの足が地面を離れて身体が宙を舞う。


「ご主人様が戻られる前に終わらせるわよ!」


「勿論! 早く終わらせて勝負の続きをするよ! そして勝った方には弓弦からキスをしてもらう権利! これで良いよね!」


「えぇ! 負けないわよ!!」


「「全ては弓弦(ご主人様)のために!!」」











「ーーー私達、頑張ったよね?」


「ーーーえぇ、凄く…頑張ったわ」


 日が傾き、夜の帳が下りようとしている空の下。平原には一軒の家が建っていた。

 見た感じこそ木造の小さな小屋であるが、知影によってより緻密に計算され、フィーナの魔法によって徹底的なまでに格物質の結合が固定化されたその家は、コンクリート製の建築物に強度において等しいだろう。

 そんな家の前で二人は弓弦と風音の帰りを待っていた。


「もう夜かぁ…弓弦と風音さん遅いね…道に迷ってるのかな」


「……知影あなたご主人様が今どちらに居るのか分かる?」


「ううん、分からない。多分今、風音さんが弓弦の心を覗いているから」


 弓弦の心を同時に覗くことは出来ない。それは“テレパス”の魔法も例外では無く、建設作業中時々弓弦の鼻歌らしきものが二人交互に聞こえることはあっても、それは暫くして途絶えてしまう。なので現在知影もフィーナも弓弦と会話をすることが出来ない以上、風音と話しているであろうと考えるのは当然だ。


「ねぇフィーナ」


「何かしら?」


「…続き、しよっか」


「そうね…私から、いくわよ」


「うん…どうぞ」


 周りの暗さも手伝い少し心細くなってきた二人は寂しさを紛らわそうと再び弓弦との思い出話ーーーもとい、弓弦関係の暴露話が再開されるのであった。











* * *


ーーー迷った。それはもう、完璧に。


「お〜い! 知影! フィー! 風音! 声が聞こえたら返事をしてくれ〜‼︎」


 声が虚しくも誰の気配もしない空間に吸い込まれていく。

 あの湖のほとりの木にシグテレポ用の五芒星の小さな魔法陣を描いて来た道らしき道を進んで行った結果、迷った。右を見ても左を見ても魔物がちらほらいるだけの草原で俺は途方に暮れている。日が暮れ始めて途方に暮れるしかなかったんだ。

 だってどうしろと? 迷ってしまったんだ。もうどうしようも無い。魚も鮮度が第一だから知影達に早く食べさせてやりたい。焼いたり、捌いて刺身にしたりしてあいつらがうっとりするような美味さの料理を食べさせてやりたい…だがそのためには。


「帰らないとなぁ…」


 道が分からない。一体ここは誰で俺はどこなんだ…違う、ここはどこで俺は誰だ…? いや、ここはどこだ? だけで良いんだ。…これは混乱しているな、我ながら。

 …そうだ! もしかしたらこう言う時に役に立つ道具が“アカシックボックス”で取り出せるかもしれない! …と言うことで。


『出でよ不可視の箱…アカシックボックス』


 何も無い空間に生じた黒い穴に手を突っ込んでイメージしながら手探りで探していく。そして…何かを掴んだ感触、手を戻す。


「ん?」


 これは…何かの瓶だ。中には白い粒状のものが詰まっている。これを空中に撒いたら何かが俺を助けてくれるのだろうか? もしかしたら新しい武器が出てきたり…なんて。…だが、どこと無く見覚えがあるような気がする…ん? 裏にラベルが。


「…。うん、これは絶対に違うな」


 後で必要になるといえば必要になるとは思うが少なくとも今は絶対に必要無い。だから瓶を戻して別の物を探す…掴んだ。


「照明弾…よし、シフト」


 しかも何故かガンエッジで発射できる形状だ。 銃携帯に移行させ上空に向けて発射。


「…あ」


 タイミング良く鳥型の魔物が飛んできて見事食べられる。

 …どうやら体内で発光したみたいだ。少しだけ身体を明るくさせながらそのままどこかへ飛んでいく。

 

「……」


 イラッ。


『裁きの鉄槌天よりきたりて撃ち貫けブリッツオブトールッ!!』


 “アカシックボックス”で“ソロンの魔術辞典”を取り出して怒りのままに“ブリッツオブトール”を鳥型の魔物がいる方角に放つ。

 ーーー白刃の落雷。遠眼に何かが落ちていく姿が…フッ、仕留めたか。


『…今の雷、弓弦様がお放ちになった魔法ですか?』


 どうやら風音に見られていたようだ。


「風音か、丁度良い。今どこにいるんだ? 良かったら合流したいんだが」


『…そうしたいのは山々なのですが…弓弦様の魔法で刺激された魔物達が一斉に襲い掛かってきまして…』


 おっと…既に彼女を巻き込んでしまったか。


「あぁ…すまない、急いでそっちに向かうからそれまでいける…か?」


 風音との会話に集中していた俺は、“ソロンの魔術辞典”が光を放っていることに気付いた。


「まさかこれって…っ!?」


『弓弦様!? どうされたのですか! 弓弦様!!』


 考える暇はどうやら用意されなかったようで、あの夜と同じように俺の意識は“ソロンの魔術辞典”の白紙のページに吸い込まれていった。


* * *


「それで、今度は何だ?」


「何のために君がここにいるのか、君自身が分かっているはずだよ」


 吸い込まれた先には顔が顔がよく見えないあの女性が居た。


「なら教えてくれ、あんたは一体何なんだ?」


「私が何者か、それは君が決めることだよ」


 …相変わらず無駄に謎めいた発言だ。


「冗談でも嘘でもない本当のこと。嘘から出た誠、誠の中の嘘…優しい嘘もまた、時としては真である…なんてね♪」


 理解に困る言い方をワザとされるとな。頭の処理が追い付かなくなる。

 俺は知影達のように頭の回転が極端に早くはないんだからな。


「俺には全くもって理解出来ないんだが」


「大丈夫、私もよく分からないから」


 おい…っ。


「なら言うなっ。用があるのなら早く済ませてくれ…俺は風音を助けに行かないといけないんだ」


「あ、それについては本当に大丈夫。一応この空間の中では見えない力で外の時間は止まっているから」


 どんな原理だ。


「見えない力とはまた抽象的だな。だがどちらにせよ俺は兎も角、あんたには時間制限があるのだろう? どの程度の時間制限があるかは知らんが急ぐに越したことはないと思うが」


 謎の女性はまるで誰かと話しているかのように暫く沈黙していたが、やがて口を開く。


「…今回は前回より時間があるみたい、君が私の心配をすることはないよ? ふふふっ! でもありがと♪」


「問題無いのならそれは良い、なら今回ここに呼んだのは何のためだ? また魔法を授けるためだったりするのか?」


「それもあるけど、今回は君と話がしたいのが正解かな?」


「嫌だと言ったらどうするつもりだ?」


 冗談交じりの訊き方だ。

 何と言うか…少し揶揄からかってやろうと思ったんだ。


「私がしょんぼりする」


「…分かった、仕方が無いから相手してやっても良い」


「本当!? ありがとう♪」


 後は…どこの誰かは知らんが、女性を泣かせてしまうのは気が引ける…それ以前にだ。姉さん達に示しが付かない。

 あの人達のことだ。知影、フィーと大切な人を泣かせかけて挙句この女性まで泣かせたら…夢の中に出てこられて犯…やられそうだ。


「じゃあ何から話そうかな…これも良いけどあれも良いなぁ…ふふふっ♪」


 …話したいことが沢山あるのだろう。指を折りながら女性は何かを数えているようだ。

 その声は本当に楽しそうで…彼女のお願いを訊いて良かったと思えた。


「君は誰か好きな人って居る?」


「好きかどうかは知らんが、守ってやりたい大切な人はいる」


 “居る”とただ一言答えれば良かったのに遠回しな発言をするように口が勝手に動く…我ながら恥ずかしいからだ、気にしては負け。


「私にも居るよ…支えてあげたい大切で、大好きな人が。 凄く遠い所に」


 …凄く遠い所? まさか。


「遠い所と言ってもそんな天国にいる訳じゃないよ? ただこの世に居ないだけだから、気にしなくて大丈夫」


「…別に気にしてはいないからな」


 …言葉通りのニュアンスで受け取ると…どうなるんだ?

 「ただこの世に居ないだけ」…ねぇ。


「そう言うことにしとくね…って違う違う、こんな話じゃない」


…何故だろう、既視感を覚えた。


「人を好きになるって不思議な感覚だよね、温かくてくすぐったい…そんな感覚。君もこんな感覚…感じたことがある? 当然あるよね、それってどんな時に感じる?」


「どんな時と言われてもな…」


良いな。…と感じるのは知影、フィーと一緒に夜寝る時や風音が和菓子を作って持ってきてくれてそれを食べた時の嬉しそうな風音の笑顔を見た時、ユリと買い物に行っている時や…イヅナで良いか、の頭を撫でた時だな…だが。


「…多分皆と居る時だな」


「ふ〜ん。凄くアバウトだけど、まさか何か隠してない?」


 おっと…察しが良いな。…だが何故か、この女性には本当のことを言ってはいけないような気がしたんだ…何故なのだろうか?


「…私結構真面目に訊いているんだけど、酷いなぁ。でも君らしいか♪」


「俺らしいって…あんたが俺の何を知っているんだ?」


「知っているよ。君のことなら殆どね…私こう見えて物知りだから」


…驚きを禁じ得ないと言ったところか。良くもまぁ、殆ど知っているって言えるものだ。

 しかし…読めないな。自分の発言に若干陶酔気味のこの女性の考えが。


「物知り…か。つまり俺と彼女達がこの異世界に置いていかれた理由も当然知っていると受け取って良いんだな?」


「そりゃあね。そうそう、“シグテレポ”と“アタラクシア”…どちらも役に立ったみたいで良かった♪ どうかな? 私の言った通り本当に必要な時に使えるようになったでしょ? でも、君が知らないことは私からは教えられない。 君自身が気づかなければならないことだから…あくまで私はそのお手伝い、それ以上のことは出来ないしそれ以下のことも出来ない、そしてそれ以外のこともまた、出来ないの」


「…つまり、今後俺の身に降り掛かるであろう何かについて知ってはいるが俺には教えない…いや、教えることが出来ない…というわけだな」


「本当はもっと君の力になってあげたいけど…私に出来るのはこうやって魔法を授けるくらい。さ、受け取って…“エヒトハルツィナツィオーン”よ」


 女性の手から放たれた魔力マナが俺の身体に入ってきた。


「“エヒトハルチナチュ”…“エヒトハルツィナツィオーン”…噛みそうな名前だな。だがこの魔法についてこれ以上は話せないのだろう?」


「うん…まだ今の君には話せない。また次会える時はもっと話せるからその時まで待って」


 本当は話したいのに、伝えたいことがあるのに出来ない…と、その瞳が物語っていた。


「必要な時になれば勝手に使えるようになるんだろ? なら今は良い、時間が勿体無いからな」


「ふふっ! そんなに私の話を聞きたいの?」


「聞きたくないといえば嘘だと言わざるを得ないな。あんたの話には少しだけ興味がある…ほんの少しだけな」


「ツンツンしていると髪の毛までもツンツンしちゃうよ? 素直な方が良いことあると思うけど…いっか。 その方が君らしいよね」


 らしい、ね。


「で、恋についての話の続きはどうなったんだ?」


「ふふ♪ 気になる? …と言っても言わないか。私が良いな…と感じる時はね…私にとって大切な人のことを考えている時なの。あの頃は一日中考えることが出来て凄く幸せだった」


 分かるな。確かに幸せを感じると思う。


「今は違うのか?」


「ふふ…秘密。もう時間みたいだから…そんな顔をしないで、また会えるから…また呼ぶから…ね?」


直後踵を返し、俺に向かって手を振る。


「またね♪ またここで会いましょ?」


「あぁ、いつでも呼んでくれ」


 女性が消えると同時に俺の意識は穴に吸い込まれていったーーー

「一日で家を作るって…無茶苦茶なんじやないかな、あの二人」


「夢のマイホーム、それもしっかりしたヤツを一日でな~。いや~魔法っていうのは凄いもんだな、セイシュウ!!」


「魔法の一単語で片付けて良いような話じゃないような気がするけど…っていや、どう考えても難しいと思う。二人がどれだけ効率良く動こうとしても無理があるようにしか思えないよ」


「そこをどうにかするのが魔法って言うものだろ~?」


「だから、その一言で片付けちゃいけないような気がするからこうして話しているんじゃないか」


「一々突っ込むのは野暮ってもんだろ~? 創作物に」


「…それは一番言っちゃいけない部類の言葉だよ。レオン」


「お~? アレだな、さっぱり分からんな!」


「…はいはい。じゃあ予告いこうか」


「任せたぞ~」


「『異世界生活といってもやることは日常と変わらない。住む場所も大事だが、それと同じぐらい大切なのは乙女にとっては欠かせないアレだった。知影、フィーナ、風音は乙女の細やかな願いを叶えるため一致団結して動き出すーーー次回秘密計画!?』…乙女にとって必要なものって何だろうね」


「う~ん、さっぱり分からんな! 俺達は男だからな~。こう言うのは、女に訊くもんが筋ってヤツだな~」


「え、リィル君に訊くのかい?」


「別にリィルちゃんじゃなくても良いだろう~? 例えばユリちゃんとかな~」


「あぁ…確かにリィル君より遥かに適任者だね。乙女だし」


「乙女だしな~って、そんなこと言っていると後で殺されるかもしれないぞ~?」


「え? あ…。…あ、は、は」

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