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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
82/411

異世界突入!?

 少年は友人を殺された。

 炎に包まれた森の中で、自らが心を許したたった一人の友人を、殺された。

 理由? 少年にはそれが良く分からない。そもそも理由という概念も分からない。

 親も分からない、言葉も持ち得無い少年だったが、何故か自分と似たような姿をした人間からは忌み嫌われ、森から出ようがものなら銃弾で無慈悲に襲い掛かられた。

そんな閉鎖的な生活を過ごしてきた少年は、ある日突然森に自分とは違う少年が歩いているのを見付けた。

 初めて見る、小さな少年。湖に映る自信と似たような体格の少年。

 当然と呼ぶべきものなのか、少年は興味が湧いた。それが興味という感情とはやはり知らなかったが、ふとその少年の様子を見たくなったのだ。

 今思えばそれが全ての始まりだったのだろうーーー


* * *


 暗い洞窟の中に俺達は転送された。


「反応は…そうか〜」


 眼の前にある二つの道を見てレオンがインカムを押さえながら通信をしている。

 どうやら…敵の数や場所を確認しているみたいだな。


「よ〜し! 俺とセティちゃんの二組に分かれて対処するぞ〜! 弓弦、ユリちゃん! 付いて来い!」


「「了解!!」」


 レオンと俺とユリが右、セティとフィーと風音が左の道へと走る。…ん? 一人足りないような。


『弓弦…私お留守番だって』


 頭の中に声が。知影の奴…居ないと思ったら転送されていなかったのか。


「弓弦! 走りながら言うぞ! 何らかの要素によって“奴等”の侵食率が一定の数値を突破した世界のことを“崩壊異世界”と呼んでいる〜! この侵食率が限界…崩界点を突破するとその世界は消滅する!」


 走りながらレオンが説明してくれる。

 成る程な。世界にはそれぞれ、崩壊率と言う名前の一つのゲージがあって、そのゲージは奴等…つまり、あの何故の敵…『陰』の存在によって上昇させられる。だが、どうして『陰』が現れるのかは分かっていないと。

 で、そのゲージがある一定の値を超えてしまった世界が『崩壊異世界』と言うことか。だが、


「…世界の消滅!?」


 い、いきなりだ。冗談じゃないぞそんなこと!

 ゲージの値が振り切れてしまった瞬間世界が終わると……酷い話もあったものだ。


『危険なのは分かっているけどやっぱり君の側にいたいよ…』


 …取り敢えずお前は静かにしてろ。


『ふふ…誤魔化しても無駄無駄♪』


 無視。


「良いな! “奴等”を見つけたら迷わず斬れ! 手下を倒せば親玉が出る! そいつを討てば侵食率の上昇は下がって崩界も収まる!」


 …『陰』と呼ばれる謎の生命体は、その世界に“在る”だけで侵食率を向上させてしまう。面倒な存在だな……

 親玉と言うと…まさか、“アデウス”や“バアゼル”のような化物染みた【リスクX】の悪魔のことか?

 …弱気になるのは嫌なんだが、あんな強過ぎる奴等とまた戦うのか…?


「分かった! …そうか! 二人共! あと500マール(m)で会敵するぞ〜! 【リスクI】が五十体だ〜!」


 【リスクI】か。中佐一人で十分倒せるような強さの敵だな。いける…か?

 外に出ると深い雲に覆われた光の届かない大地と枯れた草花の上に、以前“アデウス”との戦いにいたような“それ”ーーー陰の魔物よりも巨大な“それ”が周囲を取り囲んでいた。


「蹴散らすぞ〜!!!!」


 レオンが突撃する。


『光よ集い、我らを守護する障壁と化せ…プロテクト!!』


『動きは風の如く加速する…クイック!』


 ユリがレオンの援護をする。


「弓弦お前〜突っ込めよ〜!!」


「言われなくても突っ込むつもりさ!」


 ガンエッジの柄に手を当てる。

 一撃の破壊力を重視するのなら、この剣技だ!


「……!!!!」


 一瞬で陰の集団の向こう側へ抜ける。

 …手応えは、あった。


「一刀、抜砕」


 抜刀したガンエッジを腰の鞘にゆっくりしまう。

 きっと俺の背後の陰は二つに裂かれ、消滅しているだろう。


「成敗…だ」


 本当…この抜刀術は強いな。

 姉さん…まさか俺がこんな戦いに身を投じることになるのを見越して剣術を教えてくれたのか…? …まさかな。


「…お前さん本当に強くなったんだな〜…頼もしいぞ〜!」


 小休止。


「このままでは隊長殿とて、足下にも及ばなくなるかもしれぬな!」


「…それは参ったな〜。まだまだ新人には負けていられないんだがな〜!」


  …と、言ってみたら本当に一呼吸置くだけの感じだな。


「…どうやら次が来たみたいだな」


 デカい気配だ。これは強さにしてどれぐらいなんだ?


「む? どこだ? 私には見えないのだが」


「セイシュウ。……了解だ〜。どうやら弓弦の言う通りみたいだな〜…この先の方角に【リスクF】の反応だ!」


 【リスクF】…中将なら一人でもどうにか出来る相手か! また一気に強くなったな!!


『来たれ不可視の箱…アカシックボックス』


 なら…これの出番だな。

 塵一つ残らず…何とやらだ。


「数はどうなのだ?」


『ソロンの魔術辞典』を取り出す。


「別に問題無い。ここから殲滅させるからな…下がっていてくれ」


 眼を閉じて体内の魔力マナを活性化させる。


『全てを穿つ光龍の顎を今ここへ!』


 ユリが驚いたように俺を見る。


「た、橘殿その魔法は!!」


『プルガシオンドラグニール! 呑み込めぇっ!!!!』


 魔法陣から現れた光の龍。

 龍は遠方に見える陰を包み込み、天へと誘っていった。


「あの時放った魔法…それを覚えたというのか…! 驚かされたな」


 仕留めたか…流石、増幅器ありの上級魔法だ。凄まじいの一言に尽きる。


「そうだな〜。このクラスの魔法を簡単に使い熟すとは〜…オープストちゃんと言い、ハイエルフってのは相当強いんだな〜」


「ーーーッ!?」


「…? 弓弦、急に眼を見開いたりなんかしてどうしたんだ~?」


 …魔力マナ? 今、凄く淀んだ魔力マナがどこかに流れていったような気がする。念のため“テレパス”を使ってフィーに聞いてみるか。


「‘…フィー。聞こえるか?’」


 フィーのことを頭で思い描き、彼女に対して魔力マナを飛ばすような感覚で潜めた声を出す。

 それだけで発動するんだ。便利だよな。


『はい! 何でしょうか』


「‘今淀んだ魔力マナがどこかにいくのを感じなかったか?’」


『…あ。そうですね…謎の陰を倒すごとに少しずつどちらかへと流れていっているようです。…ですが場所の特定はまだ難しいですね』


「? 弓弦のやつ誰と話しているんだ〜?」


「フィーナ殿だ…っ」


「そうか…もう少し奴等を倒さないといけないと、言うことだな」


 時間制限もあるらしいが…レオンの言う“親玉”の発見には時間が掛かるみたいだな。

 予想するに、倒された陰から生じた魔力マナは“親玉”の下に帰っていき、これが一定値…装置が検知出来るぐらいになったらこれを討って終了と言うことだと見た。


『それが良いと思います』


「分かった。じゃあ他に何か気づいたことがあったら連絡してくれ」


『はい! 分かりました!』


 “テレパス”の魔法を切る。

 フィー…頼りになる奴だ。


「…ユリとレオンはどこだ?」


 周囲を見回す…居た。

 二人は俺の魔法から逃れた敵の掃討をしているようだ。


『ジャッジメントレイ!!』


 ユリが放った光の奔流が彼方の陰を呑み込む。魔力マナは…駄目だ…まだ分からない。


「レオン…あと時間はどの程度残っているんだ?」


「侵食率の上昇は止まっているだろうな〜ひたすら“奴等”を討ち続ければまだそれなりに余裕は無いことも無いが〜どう保ってもあと半日だ〜。“親玉”の反応が検知されたらセイシュウの奴がすぐに通信を入れる〜。だから俺達はそれまで温存気味に且つ迅速に倒していかないとな〜」


『ジャッジメント…レイッ!』


「…ユリが魔法を連発しているが…あれは温存していると言えるか?」


「…。ま〜あれはやり過ぎだな〜。何を思ってかは知らんが〜お前さんが独り言を始めてから急に俺からインカムを奪ってな〜。それからずっとインカムで“奴等”の反応を聞いては魔法を放っているんだな〜」


 温存気味どころか全力を打つけていそうなユリの姿にレオンも俺も苦笑する。


『Judgment Ray!!』


 良い発音だ。いやどうでも良いか。


「お前さん…“ハイエルフ”になるって〜…どんな感じだ〜?」


 ユリが荒ぶっている光景を眺めていると、レオンが突然質問をしてきた。

 …一体どうしたんだ? 今訊くようなことじゃないと思うんだが……


「どんな感じ…と言われてもな。眼が良くなるとかそんなものだが」


「ならその帽子の中の犬耳はどうなんだ〜? 本物なのか〜? オープストちゃんもそうだけどずっと気になっていてな〜」


 …何だ、犬耳が気になっただけか。変に気にして一気に損したような気がする。


「この耳か? ちゃんと自前の耳だ…ほら。この通り動くぞ」


 帽子を取ってピコピコと動かす。

 張ったり垂れさせたり、ブルブルと水を飛ばす際の動きをしてみたり…。はぁ…何やっているんだろうな。


「本物なのか〜。これ触ったらどうなるんだ〜? 触っても良いか〜?」


「駄目だ」


 「絶対に駄目だ」と念を押す。


「どうしてだ〜? 減るものでは無いだろ〜?」


 正直な話、確実に俺の何かが減ってしまうような気がしてならない。


『フォトンレーザーッ!!』


「今は世界が消滅するかどうかの瀬戸際なんだろ? 部隊を率いる隊長として、他事に気を向けてどうするんだ?」


『ライトソード!』


「………………それもそうか〜。悪かったな〜」


『紡ぎし言葉は』


「お、お~…マジか」


「おいおい……」


 ユリが“プルガシオンドラグニール”の詠唱を始めたので止めに行く…あれだけ強力な魔法を連発しておいてまだ使うつもりなのか。


「ユリちゃ〜ん! 魔力マナは温存だぞ〜っ!!」


『其の魂呼び覚まし』


 …聞く耳持たずか? まだ親玉が出ていないのにも拘らずあんなに魔力マナを消費して…。流石にやり過ぎだ。


「ユリ…あんな雑魚にそんな強力な魔法放っても無駄使いだ、止めとけ」


「…む、そうだな。私としたことが…何故か知らんがどうしても突然魔法を放ちたくなったのだ…何故なのだろうな」


 …何故…だろうな。


「…ヤキモチだな〜」


「ち、ちちち違うぞ! そんななっ! わたわた私は別に@@と連絡を取%&$#+!@@@@@が羨ましい訳では無いだかなっ!!」


「ユリ? 早口過ぎてよく聞き取れなかったんだが」


 早口通り越して既に謎の言語だ。


「わ、私は何も言っていないぞ!」


「ユリちゃん今お前さん「~っ!!」…あ〜うん。俺も聞き取れなかったな〜っ!! あっはっは〜…はぁ」


 レオンじゃないがさっぱり分からん…。


「ーーーッ!?」


 …今の…?


「どうした橘殿。顔色が悪いようだが…」


 突然魔力マナが彼方へと流れた。今のは一体?


「…セイシュウか〜」


レオンに通信が入る。


『ご主人様!』


 俺にも念話が入った。


「‘計器にも検知出来る程の魔力マナの流れ…フィーも気付いたか’」


『途中で三つに分かれましたね…。合流しますか?』


「弓弦! デカイのが見つかったぞ〜! ここから近い!」


 親玉の登場か。合流も良いが、取り敢えずその前に、お互い眼と鼻の先の敵を倒さなければな。


「いや、このままの方が良いみたいだ。そっちは頼んだ」


『…………分かりました』


「橘殿急ぐぞ!」


 “テレパス”を切って魔力マナが流れた先へ俺達は向かった。


* * *


 ーーー少年は少年と出会った。

 少年は隠れてこっそりと少年を見ていたのだが、ふとした瞬間に見付かってしまったのだ。

少年には少年の言葉は通じなかった…無理もない。

 だが心は通じた。どちらが、ではなくどちらも、互いの対話を望んだのだから、言葉以外のもので意思疎通が出来たのだ。

 ーーー最初に少年は少年に言葉を教えた。少年は生来物覚えが良いのか、すぐに言葉を覚えた。

 ーーー次に少年は文字を少年に教える。言葉を覚えた少年にとってはやはり容易いもので、これもあっという間に覚えてしまった。

 しかし、どれ程少年が何年も努力しても覚えれないものが一つ、あった。

 ーーーそう、感情だ。感情というものを少年は理解することが出来なかった。喜怒哀楽の感情が。

 表情として表出することは出来ても理解は出来ないーーーそんな少年はどこか機械染みていた。が、確かに、温かいもの胸に秘めていることは間違い無いはずの少年が、何故感情を理解することが出来ないのか少年は悩んだ。

 少年が何を悩んでいるのかが分からない少年も、少年が何について悩んでいるのか分からなかったが、少年と自分が何について悩んでいるのか分からないという共通点を見付け、それが何故か更に少年を悩ませるのであったーーー


* * *


「…………分かりました」


 “テレパス”を使ったご主人様との会話を終える。


「合流はしないわ。別行動のまま魔力マナの流れを追い掛ける」


「承知致しました。イヅナ! 行きますよ!」


「…分かった」


 イヅナが戦っていた陰を斬り伏せ、刀を鞘にしまいながら戻って来る。


「イヅナの剣術…こうして見ていると似ていますね。やはり直接教えてもらわれていたのでしょうか」


「…。そうね…アレンジはあるけれど多分そうだと思うわ。あの子は意識的に見せまいとしているけれど…知っている人が見ればすぐに分かってしまうわね」


「…やはり知影さんが気付かれるのも時間の問題ですね」


「どうかしら? 知影はあの子がハイエルフだとは気付いていないから…。それに私達が気付けたのも刀と魔力マナが決定打として機能したから。それが無ければ今も気付くことが出来なかったはずよ」


「…何話してるの?」


 ひょこひょこと歩いて来て私と風音を見上げる顔はとても愛らしくて…つい撫でてしまう。


「内緒の話よ♪ よしよし」


「……誤魔化した」


「よしよしよしよし♪」


「…………」


 されるがままの人形状態。


「…やはり気付く方が現れるのも時間の問題でしょうか…?」


「風音、この話はここまで…着いたわよ」


 魔力マナの流れの終着点…そこには多くの陰がひしめいていた。

 …微妙に多くて気持ち悪いわね…もぅっ。


「手早く片付けてご主人様の下に行くわよ!!」


「焔の舞、天炎!!」


「…斬る!!」


 灼熱の熱線が降り注ぐ中を駆け抜ける。


『全てを凍てつかす、女神の氷槍…事象の彼方より來て敵を穿て』


『ファイアボール!!』


『潰せ! プレスウォーター!』


 熱線を耐えた陰を火球と水が襲う。


「せぇぇぇいっ!!」


「はぁっ!!」


『氷柩にて永久とわに眠りなさい…フィンブルコフィン!!』


 巨大な陰を風音とイヅナが左右から武器を振り上げる形でX字に斬り抜けるのに合わせて、私も魔力マナにより研ぎ澄まされた氷の槍を作り出して構え、投げる。

 槍、は陰を貫いた箇所から氷結させる。


「今よ!!」


「「やぁぁっ!!!!」」


 ニ人は逆からなぞるように斬り下げ、氷像を砕いた。


「うん! 中々の出来ね♪」


「…タイミングもぴったし」


「これでしたら弓弦様にもお見せ出来ますね!!」


 私達が今やった連携は以前“バアゼル”との戦いの際のご主人様との連携から想を得て考えてみた連携技。予定ではご主人様も加えての四人で放つ技…さっきからずっと練習していたけど、やっと一つの形として纏まって一安心ね。だけど…考えてみたものの、使う機会があるのかどうか…微妙ね…?


魔力マナ流れが変わったわね…あと二つ。どうやら今の陰が三箇所の内の一箇所を司るような存在だったみたい」


「……次の場所に行かないと」


「二箇所の内どちらで弓弦様が戦われているかは分かるのですか?」


「当然よ。私達は後もう一箇所に向かって、そこで合流すれば良いわ」


 魔力マナの流れを再び追いつつ、最後の一箇所へと向かう。


「フィーナ様、あの連携技はどのような名前になさる予定なのですか?」


「今考え中…二人共何か名前の良い案は無い? ご主人様が喜ばれるような技の名前」


 向かう最中、風音に訊いてみる。


「弓弦様が加わられた場合、あの技はどう言った形になるのですか?」


「うまく伝わるかは分からないけど。最初二人が左右から斬る時に中央からご主人様に跳び上がりつつ斬り上げてもらうわ」


そこで言葉を一旦切って、二人の反応を確かめてみる。

 二人の理解度を確かめるつもりだったのだけど…様子を見るに、大丈夫そうね。


「その続きをお願いします」


「…コクリ」


「そこでタイミングを合わせて私が“フィンブルコフィン”を放つ。放ったら私はすぐに対象に接近。槍は空中から後ろに回り込んでもらったご主人様に掴んでもらって、魔法で私の手元に転送。二人がもう一度斬り付けた時同時にご主人様も背後から縦一文字。更にそれとタイミングを合わせて、槍の魔力マナを全て移し替えた刀で私も縦一文字で決まり!! …と言う予定なのだけど」


「成る程…オレイカルコス鉱石を用いた“軻遇突智之刀”の真価を最大限に活かすことが出来ますね」


「…決まったら気持ち良い」


 “オレイカルコス鉱石”…莫大な魔力マナを込めることが出来る魔法鉱石の最高位に位置する鉱石。その特性を利用して斬ると同時に魔力マナを解き放って打つけるのがつまり、私の止めの縦一文字。


「だから後は名前。いざ使った時に名無しだと寂しいから…どう? 浮かびそうかしら?」


「……全く浮かびませんね。私は“そう言ったもの”に関しては疎い部分があるので…」


 …頭の悪い会話と思わないでほしいのだけど…風音あなた、まさか馬鹿馬鹿しいとは思ってないわよね。


「……風音今絶対浮かんだのに誤魔化した」


 …! 良いわよイヅナ。そう、その調子。良い援護だわ!


「浮かんでませんよ、浮かびません、浮かぶはずがありませんから大丈夫です。えぇ! 大丈夫ですよ」


「…浮かんだのなら取り敢えずは言ってくれた方が助かるのだけど」


「……ですから全く浮かばないのですよ…」


 …ならどうして眼が泳ぐのかしら。あからさま過ぎるのだけど…と言うよりは、風音ならわざと、あからさまに見せているような気がしてならないわ。


「じゃあ私が言う。“一斉攻撃”」


「それは安直過ぎるわ」


「“フルアタック”」


「変わってない」


「…“コンビネーションアタック”」


「…もう少し」


「コンビニエンひゃ…っ!!」


「イヅナ、私の言っていること…分かってる?」


 リボンの下の犬耳をマッサージする。ご主人様に散々可愛がっ…していただいてるから犬耳のどこが弱いのかは手に取るように分かってしまう。


「…風音が『誤魔化して』って言うから…」


「風音!! イヅナを唆さない!」


「私は何も申しておりません! イヅナ! 嘘を言うのはいけませんよ!」


「…お願いだから真面目に考えて。私は真面目に悩んでいるのだから」


「…ごめんなさい」 


 …「あなたは悪くない」…と言ってあげたいけど、この子にも非はあるもの。擁護は出来ないわね。


「…アサルトエッジは如何でしょうか?」


 あら…風音、中々ご主人様のツボを押さえたネーミングをするわね。横文字を噛んでいないし…感心した。


「…良いと思う」


「かなり良いわね! それでいきましょう♪」


 “アサルトエッジ”、良い響き! これならご主人様もきっと喜ぶわ! あの人の心を震わせるようなネーミングになっているわ…よね?

 …。使える機会、本当にあるのかしら? 結局、そこが一番心配なのよね。


「…魔力マナの流れが一つ消えたわね。ご主人様の方も終わったみたい…」


 そうこう遣り取りをしている内に、最後の魔力マナの流れの終着点に到着したのでご主人様に連絡しておく。


「ご主人様、三箇所目に到着したので殲滅しておきますがよろしいですか?」


『早かったな。任せられるか?』


「任されました♪」


『はは。じゃあ頼む』


 凄くやる気が出てきたわ。


「はい! …さてと、いくわよ!」


 やることは変わらない。一番巨大な陰以外を殲滅したあとに、命名したばかりの技“アサルトエッジ(ご主人様無しver.)を放って終わり。


「「はぁぁぁぁっ!!」」


 氷像が砕け散る。けど、魔力マナの流れは消えない。

 …? いいえ、流れが変わったわ。消えたはずの魔力マナの流れも再び流れ始めている……空に?

 私達に見詰められる形で魔力マナの流れは空のある一点に集まり、少しずつ膨れ上がりながら禍々しさを放つ陰の物体となった。


「あれが崩壊の元凶…倒せば崩壊は止まる」


「気味が悪いわね…どうすれば良い?」


「やることは変わらない…倒すだけ」


 “ベントゥスアニマ”を風音とイヅナと私自身に掛けて飛翔すると、ご主人様もユリと一応隊長の男と一緒に私達の近くまでいらっしゃった。あぁ…敵を見据えるあの眼光、凛々しいです(※個人の感想)。


「ご主人様、一体倒すのに時間掛かり過ぎですよ?」


「フィー達が早過ぎるんだ。こいつと戦うまでは温存が基本だとセティから聞かなかったか?」


 イヅナが「…忘れてた」と呟いたのを聞いてご主人様は困ったように彼女の頭を撫でられる。

 …。私の消耗具合は…うん、まだ大丈夫ね。十分戦えるわ。


「橘殿が使える風魔法を、何故隊長殿が使えないのか私には分からないのだが…」


「だから俺はな〜? 魔法はあんまし得意じゃないんだよ〜。以前言ったと思うが “ベントゥスアニマ”だなんて高位の魔法を使える訳ないだろ〜」


 …あ。


「ん? “ベントゥスアニマ”は簡単な魔法ではないのか?」


「普通に難しいぞ〜。荒れ狂う風の魔力マナをそのまんまぶつける “アンベネボランステンペスト”とかと違って常に魔力マナを制御しながら効果が切れたと同時に重ねがけしないといかんからな〜。その燃費の悪さと要求される魔力マナ操作の緻密さといったら〜考えるだけで気が滅入るな〜」


「本当なのか?」


 …そう言えば、伝える機会を逃していたわね。

 初めて空を飛んだあの時は…ご主人様と一緒に空を飛べることが嬉しくて…すっかり忘れていて…気が付けば今に至る、と言う訳。ごめんなさい、ご主人様。


「…はい」


「そうか…ま、今度からそう言うことはちゃんと言ってくれ」


「わふ…」


 怒られると思ったけど、ご主人様は笑って私の頭を撫でられる。


「‘後で説教、予約な?’」


 …。あ、喜んでいないわよ、別に……っ♪


「…御戯れは程々に。来ます!」


 陰が動き出した。


* * * 


ーーー少年は初めて、感情というものを理解することが出来た。

 少年が学んだもの、それは確かに感情だ。だがそれは少年が教えようとした感情とは程遠い感情。

 ーーーその日少年は、身体中をボロボロにして森にやって来た。何事かと思って少年が彼の下に行こうとする、と。


ーーーバンッ!


 一発の銃声に少年が倒れる。

 驚いた少年が駆け寄ったところを、


ーーーバンッ!


 銃弾が襲い、駆け寄った少年も倒れる。

 「ごめんね」と少年が何度も繰り返して言う…何度も、何度も。


ーーーバンッ!


 「悔しい」と消え入るような声で言いながら少年は動かなくなった。


『……っ』


 少年は何が何なのか分からなくなった。かつて無い程の、「痛い」という感覚を身体が覚え、気が遠くなっていく。意識を手放したらいけない、と少年の中の何かが叫んでいた。


ーーーバンッ!


 動かなくなった少年の代替なのか、再び少年に銃弾が当たる。

 少年は、どうして自分が動けないのかが分からなかった。どうして眼の前の少年は動かなくなったのかが分からなかった。自分の中で燻っている感情が分からなかった。

 分からない、分からないのだ。こんな状態について、もう動くことのない少年は教えてくれなかったのだから。

 だから少年は自分なりに必死に考えた…遠ざかる意識と戦いながら。すると、少年が動かなくなる前に言った「悔しい」という言葉が引っ掛かった。

 もしかしたらこの感情は“悔しい”という感情なのだろうか。


ーーー悔しいか、憎いか?


 と、自分達を撃ったであろう男がゆっくりと歩いてくる。

 「憎い」とはどんな意味がある言葉なのだろうか…少年は問うと、「お前が今抱いている感情だ」と答えて男は銃口を向けた。


ーーーバンッ!











 ーーー少年は初めて感情を理解した。

 それは、「憎い」という感情だった。

 しかし少年は、自身がそれを理解することが破滅をもたらす爆弾であるということを知らなかった。

 少年の意識が闇の中へと溶けていく。深い闇へと彼の意識を誘い、広がっていく。どこまでも、どこまでも。

 それは世界を覆ってしまうほど広く、深く、禍々しく、凶々しくーーー

「…タイトルの『!?』って一体何なのだろう…」


「さぁ? 分からないけど…気分…じゃないかな?」


「気分…だと思いますわよ」


「…リィルさん誰のことを言っているんだろう…」


「…最近リィル君、ぶつぶつと独り言が多いんだ…まるでそこに誰かが居るみたいに…ね」


「…そ、それは…怖いですね…」


「うん…怖「は~か~せ~?」い、いやリィル君これはだね…うわぁぁぁぁっ!?」


「あ、ははは…はぁ。 きっと僕達また出番が無いんだろうなぁ…はぁ…」


「る、ルクセント少尉じゃない、中尉! 助けてっ、助けてくれぇぇぇぇっ!!」


「博士…すみません。僕、これを読まないといけないので……」


「さぁて♪ 行っきますわよ~♪」


「うわぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


「じゃあ、いくよ。『初めての崩壊異世界突入。それは、突入した隊員の内、実に半分が始めての経験となるものであった。各々が実力を発揮し、戦況を優位に進めていく先に起こったもの、起こってしまったもの。それはーーー次回、事故!?』…えぇっ、事故って…皆大丈夫かなぁ」

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