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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第二異世界
81/411

しゃぶしゃぶパニック!?

 少将に昇進してから数日後、俺は隊長室でレオンの業務補佐をしていた。不在時の業務がまだ片付いていないのだ。遊んでいたり覗いていたりなどサボっている時も多いが、それを差し引きしてもやはり元の量が量なので仕方が無いといえば仕方が無い…断らないのが悪いのだが。

 今の俺にとっての毎日は、“アカシックボックス”で取り出した机(何故あった)の上にレオンと同じように書類を広げて日々判子をひたすら押していく。そんな毎毎日なんだ…退屈でないと言えば嘘になってしまうのが申し訳無い。


「朝から晩までぺったんこ」


 因みに、この業務を行わなければならない当人であるレオンはこの、永遠の地獄ともとれる作業で思考回路が停止している。


「いつまで経ってもぺったんこ」


 因みに判子を押した書類の量は俺の方が上だ…頼むぞ隊長、本当に。


「リィルちゃんの胸も「失礼しますわ」」


 時々こうして進行具合を見るためにリィルが様子を見にくるが、何故か決まってレオンが固まる。


「弓弦君に負けていてどうしますの!! 頑張って下さいまし!!」


「量が多すぎるんだ〜!」


「はいはい口より手を動かして下さいまし。では失礼させていただきますわ」


その度にレオンが抗議の声を上げても、正論を叩き付けて彼に渋い顔をさせるだけさせて帰る。よくもまぁ、そう何度も確認に来れるものだが。


「弓弦…腹減ったな〜」


 レオンが自らの腹を摩る…確かに俺も……


「……俺も腹が減ったな」


 ーーーすると、


「失礼しま〜す♪」「ご主人様♪ ご飯を持ってきました!」


 決まって知影とフィーがそれぞれお盆に手料理を乗せてやってくる。タイミングを見計らったように持ってくるものの、俺の心を覗いている訳ではないらしい。ただこの二人は俺が、空腹を感じるタイミングを完璧に把握しているんだ。嬉しいやら悲しいやらなんだが…お、俺は別に嬉しくなんてないからな!! …って誰に言ってるんだか。


「すまないな…ん、美味い」


 手を合わせてから食べ始める。知影とフィーに見詰められているのがこそばゆいが…だからと言って味がどうこうとなる訳じゃない。


「隊長の俺には無いのか〜?」


「隊長さんにもありますよ。はい!」


「ご主人様に感謝することね」


「……!!!! っっっ、美味いぞ〜〜っ!!」


 知影は兎も角何故フィーも嫌々ながらレオンに料理を持ってくるのか? 最初に来た時はやっとフィーの人間の男嫌いが治ったのかと喜んだものだが、理由としては単に、早く俺と一緒に任務ミッションに行きたいからだとか。


「…ふぅ」


 食事は当然完食。こんなに美味しいものを残すなんて選択肢は無い。


「頑張ってくださいね?」


「応援してるよ♪」


 この二人も俺とレオンが食べ終わった後直ぐどこかに行ってしまうが、何をしているかはよく分からない。心を覗けば分かるんだが、バレたら面倒だし、今は早く終わらせてのんびりするのが最優先だ。


「お~~しっ! やるぞ~!!」


 世間一般で言ったところ美少女達の、美味しい手料理を食べて元気を取り戻したレオンと一緒に倍速で作業を進める。

 時間を忘れてただ判子を押していく内に書類の山は少しずつその数を減らしていき、次第に日が暮れて夕方になった頃、扉が叩かれる。


「弓弦様、隊長様、業務の方は捗っていらっしゃいますか?」


この時間になるといつも風音が、手作り和菓子を持って来てくれる。甘い物を食べるとリラックス出来るのでこの退屈な業務の癒しの一つだ。


八嵩はちがささんより言伝を預かっております」


「少〜し待ってくれ〜…良いぞ〜」


「『本日達成された任務ミッションは合計三種類。オルグレン大尉とルクセント少尉が御二人で【Kランク】、クアシエトール大佐が【Eランク】、天部大佐と副隊長が【Fランク】…いつも通り僕が手続きをしておくから業務早く片付けてよ』…だそうです」


 一語一句そのまま…か。旅館の女将…いや、接客業は利用してくれた客の顔を忘れないようにするのが大事だそうだからな。記憶力、大したもんだ。


「よ〜し。分かったとセイシュウに伝えてくれ〜」


「承りました」


 風音は自ら進んでこういった連絡係を務めてくれている。これで和菓子作りと任務ミッションもこなしているのだから流石だ。若女将を務めていた彼女にとっては造作もないことらしいが、たまにはゆっくりと休息をとってほしい。

 だが俺がいくら言っても「弓弦様が頑張っていらっしゃるのに私がお休みをもらう訳には参りません」の一点張りだから、困ったものだ。


「弓弦様、餡が付いておりますよ」


「どこ「失礼します」」


 どこに付いているか聞く前に風音が指で餡を取って自らの口に運ぶ。


「か、風音!?」


「クス…ッ…自画自賛になりますが美味しいですね」


「…どうしたんだよ急に」


 風音みたいな人は口をそっと拭いてくれるイメージがあるんだが。


「私とて一人の女です。甘いものは大好きですし、拭いてしまうのも少し勿体無いような気がしまして…減るものでもありませんから。いけなかったでしょうか?」


 減るより寧ろ良いものを見ることが出来たような気がする。


「如何されました? 私の顔を御見詰めになられて」


「いや、何でもない」


「クス…ッでは失礼させて頂きます」


「あぁ…後、多分今日中に終わりそうだと知影達に伝えてくれ」


「…でしたら、椅子と判子はありませんか?」


 振り返って風音は部屋を見回す。


「レオン」


「ん〜その辺にあるやつを勝手に使ってくれ〜…判子はこれで良いか〜?」


「ありがとう御座います」


 風音は俺の隣に椅子を置いて書類を半分ほど自分の近くに寄せて判子を押し始める。


「…宜しいですか?」


「あぁ、すまないな」


「愚考致しますに、この場合はありがとうの方が良いかと」


「風音、ありがとう」


「クス…はい」


 風音が手伝ってくれているおかげで、俺の机の上の書類は程無くして最後の一枚を残すのみとなる。


「最後の一枚…だな」


「どうされます?」


「折角だ。最後の一枚は二人で押してみるか? 折角だしな」


「クス、畏まりました」


 二人で判子を握って書類に押印する…これで終わりだ。


「ふぅ…じゃあレオン。俺の分の書類は全て片付いたからこれで良いよな?」


「あ〜出来れば俺のも手伝ってくれ〜」


 …この隊長、まだ頼るのかっ。


「…俺は別に構わないがあの二人がな……」


「皆様の了承を得ることが出来るのならば。無論私は認めませんが」


 バッサリだな。


「だとさ」


 その言葉にレオンは観念して業務を進めていった。











「あらあら…フィーナ様や知影さんの御姿が見えませんね。御二方共何処にいらっしゃるのでしょうか?」


 うん…? 確かにあの二人の姿が見受けられない。


「大方買い物にでも行っているんだろうな。まぁその内帰ってくるだろ」


 部屋に戻ってきた俺は椅子に座り、風音から渡された茶を飲んで一息吐く。


「ふぅ…肩が凝ってしまったな…流石に一日中デスクワークって言うのはキツい。…勉強の方がまだ少し楽だったりして…なんてな」


「御揉み致しましょうか?」


 答えるより先に風音は俺の肩を優しい手つきで揉み始める。


「これは相当凝ってますね…」


「はは…ここ数日ずっとデスクワークだったからな…明日からは身体を動かさないと、固まっちゃうかもしれないな」


「……御忙しいですね。弓弦様こそ明日は御寛ぎされては如何でしょうか?」


「あ~そうだな。どうせなら広い温泉とかでゆっくりしたいと言う気持ちがあるが、ここには無いからな…温泉」


「確かに温泉があれば寛げますが…艦では無理がありますね」


「いや、案外やってみたら面白いかもしれないな。そう言う戦艦を見たことがあるから、もしかしたらだが」


 この艦にもシャワーはあるんだ。温泉ぐらい割と簡単に造れてしまいそうだが。


「成る程…隊長様に御提案なさっては如何でしょう?」


「物は試しだな。明日頼んでみるか」


 もみもみと優しく揉んでくれる風音に「ありがとう」と言ったタイミングで扉が開く。


「ただいま弓弦」


「…風音殿と何をしていたのだ」


 ユリと知影が帰宅した。


「肩を揉んでもらっていただけだ。そう言う二人こそどこに行っていたんだ?」


「これ? 皆で手分けして買い物。弓弦今日で隊長さんのお手伝いが終わったでしょ? だからお疲れ様会を開こうかな〜って」


「“しゃぶしゃぶ”だそうだ。私はよく知らないのだが取り敢えず肉を買って来たぞ」


 ユリと知影が買って来た肉は“しゃぶしゃぶ”用の肉。結構あるな。


「ただいまー」


 続いてフィーとセティが買い物袋を提げて入って来る。


「…しゃぶしゃぶ」


 セティは楽しみ過ぎて待ち切れないと言わんばかりのオーラ全開で、野菜を机に置く。


「私は飲み物を買って来ました!」


 フィーは飲み物を買って来たようだ。冷蔵庫の中に入れられていくジュースのパックが八種類程…だな。


「じゃあ用意を始めよっか!」


 知影の号令の下“しゃぶしゃぶ”の用意が整えられていく。


「これで全員か?」


「うん! 全員だよ」


 …男は俺一人だけか。どこか陰謀めいたものを感じるのは気の所為…そんなことないか。


「そろそろ飲み物を出すか?」


「私が用意します」


 そう言って立ち上がり、フィーが買って来た飲み物をコップに注いで持って行く。


「飲み物は皆いったわね? じゃあご主人さ…いいえ、弓弦のお疲れ様会と、皆の昇進を祝って乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


 そして机を囲んで昇進祝い兼俺のお疲れ様会が開かれた。

 沸騰した出し汁に思い思いの肉を入れ、潜らせて加熱(箸でしゃぶしゃぶ)する。徐々に色が変わっていく肉を、しゃぶしゃぶ初体験のユリは興奮し、セティは色が変わっていく肉の様子に興味津々だ。

 俺も久し振りのしゃぶしゃぶに心を躍らせてご飯と一緒に口に運んでいく。


「…しゃぶしゃぶ美味しい」


「うむ! 美味しいし、何より手軽だ! この飲み物も初めて飲むものだから最高だぞ、うむ!」


 本当だな。美味いし簡単だし…若干場合によって家計にダメージをもらうが、ちょっとした贅沢だと思えば楽しめる。


「ご主人様。お注ぎしますね」


「あぁ。すまないな」


「弓弦。ご飯よそって来るから茶碗を貸して?」


「ありがとな…ん、風音どうしたんだ? ボーッとして」


 …風音の様子がおかしい。


「……」


 皆が談笑する中何故か、風音だけ先程から無言で箸を進めている。最初に比べて“しゃぶしゃぶ”をする時間も長くなっているし、何か考え事でもしているのだろうか。


「風音?」


「……」


「おーい、返事ぐらいしてくれ」


「……」


 返事が無い。余程深い思考の海の中に入り込んでるのだろうか。


「はいご飯。どうしたの?」


「風音の様子が何かおかしいような気がしてな…思い詰めているみたいなんだ」


「ふ〜ん。それよりもう少し私の近くに来て」


「『それより』は無いだろう。そして何故近くに寄る必要があるんだ?」


「なら私が近くに寄る」


 ピタッと俺に、知影が身体を密着させる。


「おい…どうしたんだ知影…って酒臭っ!? いつの間に酒なんて飲んだんだ!」


「何かね〜んふふ〜何だかな〜♪」


 コップの中にジュースを注いでグッと飲むと、顔の赤みが増す知影。ついには……


「弓弦ぅ〜弓弦? 弓弦〜弓弓弓ぅ〜〜弦弓弦♪」


 歌い始めたよコイツ…しかも歌詞全て俺の名前という先駆的な歌をやたらビブラートとこぶしを入れて歌う。普通に上手いのが何故か悔しい。

 ん? …ジュースを飲んで酔いが回ったということはジュースが原因?

 そう思ってジュースの表示を見ると、隅の方にお酒の表示が。しかもなんと、全部のジュースに。


「フィーお前」


 まさかーーーッ!?


「ご主人様ぁ…らめなわらひにお仕置きしてくらしゃい…もっろ蔑んら眼れ…っ!! あぁそうれすそうれす!! その眼をまっれらんれす!! その眼れ見られるらけでわらひ…わらひぃっ!!」


 プルプル震えだしたと思ったら人の手にリードを握らせて“アイスバインド”で足共々固定して自分から引っ張っている。小屋に繋がれた犬のように自らの首を圧迫して快楽の渦に溺れている姿は若干(いや、盛大にだな)引いた。と言うか、恐ろしい程に悪い酒だなアレ…なんて残念な美人なんだお前は……?

 …冗談だよな? フィー…お前そこまで変態じゃないはずだ…あぁ、正直見たくない。見たくないぞ…っ。


「……何をされていらっしゃるのですか」


「きゃんっ!?」


 見兼ねたのであろう風音が氷を溶かして救出。

 フィーは勢い余って布団にダイブして布団の上で動かなくなった。


「すまん助かった」


「当然の義務です」


 そうか…なら、


「俺の頬を突いているのも当然の義務なのか?」


 俺を助けてくれたはずの風音は、何を思っているのか俺の頬を人差し指で突いている。これも義務だと言い出しでもしたら、風音は頼れる味方から危険人物へと早変わりしたことになる。


「え? 私そのようなことしてませんよ? もしや弓弦様も酩酊されていらっしゃるのですか?」


「いや…そこまで飲んでいないからな」


 二人揃ってパック一本飲んでしまった歌い続ける酔っ払い(知影)気絶中ドM酔っ払い(フィー)と違って、俺はコップ(200ml)を四杯程しか(?)飲んでないのでまだ大丈夫だろう。後知影、年齢的に駄目だろう。


「……」


 さて現在風音はと言うと、人の犬耳をモフモフと触っている。彼女も例に漏れずパック一本空けていて、彼女のことを例に挙げるような、お酒で残念美少女カテゴリーに当て嵌めるとするのなら俺はこうカテゴライズしたい。“無意識な酔っ払い”と。


「弓弦様、どうかされましたか?」


「いや、別に……」


 自分が酔っていることに気付いていない。だから、言っていることとやっていることが矛盾する。

 今風音の頭の中ではいつも通り俺の近くに控えているという光景が映っているだろう。しかし実際はただ控えているのではなく、人の犬耳を触り続けている。本当に困ったものだ。そして、どうしてこうなった……


「……クラクラ…する…クラクラ」


「あらあら…イヅナも酔ってしまったようです。私はあの子を連れて部屋に戻らせて頂きます」


 …さて問題。

 思考が行動がバラバラで、場所を弁えずセティのことをイヅナと呼んでしまう風音がこの時にとった行動は何であろうか。…正解はこうだ。


「では失礼します」


「俺を連れて行こうとしてどうするつもりなんだ…セティはあっちだ」


「承知していますよ。では戻りましょうか」


「だからセティは今鍋の前に座っているだろう! お前が今、部屋に連れて行こうとしているのは俺だ!」


「…? あ! 申し訳御座いません! 直ちに降ろさせて頂きます!」


 「言葉と裏腹に」とは正に、現在の風音のことを的確に表しているだろう。降ろすと言いながらちゃっかり俺を背中に固定している。そしておんぶの体勢となった俺の手の先には着物に隠れた風音のある部分に当たっている訳で…取り敢えず言えることは、決して触りたいがために抵抗しないでいる訳ではないと言っておく。


「ではこのまーーー」


 突然バタンと風音は床に倒れる。

 一応俺の心証のために気絶してもらった…いや誰に対しての心証かと言うと、よく分からないが。


「……世界が…回る…回っているのは私…クラクラ…クラクラ」


「………うぷ…っ」


 取り敢えず風音をベッドまで運んだが、セティもユリも例によってパック一本空けている。一本空けなきゃいけないルールでもあるのだろうか。


「セティ、ユリ。大丈夫か?」


「……クラクラ…クラクラ」


「……弓弦殿…」


「ほら、お疲れ様会はお開きだ。後は俺が片付けておくから二人共部屋に戻ってくれ」


 カセットコンロの火を消してガスボンベを外しておく。

 二人を立たせようとするも当然立てるはずも無く…そっとしておいて片付けを始める。


「弓弦〜〜♪」


「………クラクラ」


「……あう…」


 ……頭痛くなってきた…はぁ。











「…何故こうなった」


 片付けを粗方終えてから俺は酔っ払い娘達(風音、ユリ、セティ)を一度各々の部屋に抱えて“テレポート”で連れて行った。全員送り終えて帰って来る頃には知影も眠っていて起きる気配は無かったのでフィー共々ベッドで寝かした…そこまでは良かったのだ。後は俺も寝るだけだったのだから。

 …だが想定外の出来事が起きた。いや、頭のどこかで想定はしていたのかもしれないが、それでも俺としては認めたくない出来事なのでやはり、想定外の出来事と言えるだろう。

 帰って来てしまったのだ。三人が三人共俺の部屋に。

 その結果ダブルべッドの人口密度はどえりゃ〜ことにゴホンッ…酷いことになっていた。その数俺を含めて六。

 俺を中心にして密着する形で酔っ払い娘達が仲良く寝ている…とても暑い。


「弓弦…むふふぅ…」


「あ…な…ぁ…駄目で…すぅ…」


「………パ……マ……」


 左腕を抱きしめ、脚と脚を絡ませている形で寝ている知影と、俺の右腕との間にイヅナを挟んで同じように抱きしめる形で寝ているフィーはまぁ、セティこそいるものの(髪型をパーマに変えたいのだろうか)いつものことなので慣れた。


「………すぅ…」


 俺の頭上で緩やかな曲線を描くように寝ている風音の吐息が犬耳に当たってこそばゆい。しかしこれよりも大問題といえる人間はユリだ。


「………ぁ…ぅぅ…っ」


 あろうことか、人に股を開かせてその間で丸まって寝ている。朝起きたらどんな反応をするのだろうか…楽しみだと言いたいが、人に見られたら冗談では済まない。

 身体が触れている以上、不慣れな“テレポート”を使用しても付いて来てしまうので逃げれない。逃げようと思わないの間違いではなくただ逃げられないのだ。

 起こそうと声を掛けても一向に起きず、ホールドされた両腕と両足は動かない。吐息や鼻腔をくすぐる甘い香りから必死に理性を守りながら“スリープウィンド”を使って俺は、無理矢理意識を飛ばさせた。











ーーービーッ! ビーッ!


「な、何だ!?」


 艦内に鳴り響くアラートで勢い良く身体を起こした。

 その際の衝撃でフィーと知影がベッドから落ちて頭を押さえる。


ーーー緊急招集! 緊急招集! 少佐以上の階級の実行部隊隊員は直ちに隊長室へ来い! 繰り返すーーー


 緊急招集?

 何かあったみたいだ。急いでレオンの下に行かないと!


「皆起きろ! ほらユリも風音も早く!!」


「ぬ…頭が痛い…!」


「これが二日酔いですか…つぅっ! こうも頭痛がするものなのですか…っ!」


 二日酔い娘達を意識がハッキリするまで揺さぶって起こす。あまり褒められた行為じゃないが、致し方無しと言うヤツだ。


「緊急招集だと! よく分からんが急いで隊長室へ行くぞ! 二度寝はするなよ頼むから! って言ってるそばから寝るな知影! ほら!」


「…ゃ…激しいよ弓弦…っ」


「変な言葉を言う暇があるのなら早く服を整えろ! 眼の遣りどころに困るから!」


「っ、フィーナ様! 早々に起きて下さいませ!」


「…ユリ起きる…!!!!」


 繰り返されているアラートを聞いている内に意識が覚醒した風音とセティが手伝ってくれる…が、結局その後数分時間を取られた。











「遅いぞ弓弦〜! ん〜? なんか酒臭いな〜…まぁ良いか。崩壊異世界の反応をキャッチした! この場にいる隊員は装備を整えて直ちに転送装置に向かえ〜!」


 隊長室へ入ってすぐに俺達は転送装置の場所へと向かう。

 そして転送装置まで行くと既に装置が起動していてセイシュウがその周りを歩き回っていた。


「セイシュウ! 状況はどうだ!!」


「もう崩界点突破直前だよ! 侵食も酷い! 兎に角急いで! 後は通信で説明するから!」


「…っそうか〜! 弓弦、お前達に説明している暇は無いから急いで突入するぞ! 続け〜!!」


 俺達もレオンの後に続いて光の中に飛び込んだ。


* * *


「博士! 【リスクB】の反応増えましたわ!!」


「大丈夫。想定内だよ」


 セイシュウは余裕のある表情でリィルの言葉に返す。


「いざという時のために僕とリィル君がこうして控えているのだからね」


「…あぁ、そう言えば。私と博士が崩壊異世界の突入メンバーから外れるのは久々ですわね」


「隊員の人数が増えて余裕が出てきたからね。これまで実行部隊内で突入出来たのは三人だけ…戦力の埋め合わせで突入するのは仕方が無かっ…レオンか」


 通信が入ったらしく、セイシュウはそこで言葉を中断する。


「…? 実行部隊隊員で少佐以上の隊員は六人だったはずですわ…今七人居たような…博士突入メンバーの再確認を」


「ーーーいや、その必要は無いよ」


 転送装置の光が収まった時、飛び込んだメンバーの中で取り残された人物が居た。


「え? え? どうして私だけ向こうに行けないの?」


 そう、神ヶ崎 知影、“大尉”である。


「知影君は転送条件を満たしていないからね。残念だけど、崩壊異世界に突入することは出来ないよ」


「お留守番ですわね」


「嘘…何でまた私…?」


 世の理不尽さに打ち拉がれた彼女はーーー


「‘弓弦…私またお留守番だって。うん…危険なのは分かっているけどやっぱり君の側に居たいよ…ふふ…誤魔化しても無駄無駄♪ …大丈夫。…そう言うこと。ふふふ…’」


 何を思ってか、独り言をブツブツと呟き始める。


「「……」」


 そんな不気味な彼女は放っておいて二人は、突入した実行部隊のサポートをするためにブリッジへと静かに向かうのだった。

「ほっほ……今回はこの、ロリーが次回予告をさせてもらうのじゃ。いやはやまったく…お酒とは恐ろしいものじゃのう? 麗しき花の乙女を格も淫らな様子にしてしまうのじゃからな。…と言っても、一人だけ演技をしていたの。流石にあの酔い方はあんまりじゃて…そりゃあ誰でも引いてしまう訳じゃの。…当人も後々後悔に苛まれていたみたいじゃからな。さて、『初めての崩壊異世界突入。それは、突入した隊員の内、実に半分が始めての経験となるものであった』…? これは次回の、さらに次回の予告じゃな。これではなくての…そうそう、これじゃ。『突然の緊急召集に応じて集まった実行部隊が向かったのは、今その時正に、滅びの危機に瀕している世界であった。破滅しゆく世界で彼等は、何をしなければならないのかーーー次回異世界突入!?』…ほっほ、物語はまだ、始まったばかりじゃ。…いや、まだ、始まっておらぬのかもしれんのぅ…?」

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