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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
昇進試験編
78/411

昇進試験その三

「さて、最後はそなたじゃな? 橘 弓弦よ」


「あぁ」


 なんとなくそんな気はしていたんだが最後…か。

 出来ればこの合格の流れに乗りたいところだがどうなることやら。


「わくわく…ドキドキ」


「そわそわ…」


「…キラキラ」


「………ゴクリ」


 敢えて触れない。


「お前さんは儂とじゃ。では行くぞ」


 元気なロリーと共に中に入る。子どもは疲れという概念を知らないかのように遊ぶんだが、それと似たようなものだろうか。…なんて、俺が「疲れた」なんて言ったらそれは、遠回しに風音を貶しているような言葉になってしまう。別に疲れている訳ではないのだから問題は無いんだが…まぁ良いか。


* * *


「勝利条件は儂に傷を付けることじゃ。あのうつけ二人には出来なかったがのう…そちに出来るか? 橘 弓弦よ」


「まぁ…取り敢えずはやるしかないからな。出来る出来ないかは別として、だ」


「ほっほ。良いよる…が、それでこそじゃ」


 さて、どう攻めたものか。

 見た眼こそ小さな幼女だが…まるで赤子の手を捻るようにレオンとセイシュウを沈めたあの力は侮れない。と言うか、侮った瞬間捻り潰されるだろうな、はは。


「来ぬのか? じゃったら儂から行くぞ!」


 ガキィィンッ! と、剣と拳が打つかる音としてはツッコミどころのあり過ぎる音が耳朶を打った。


「…っ!」


 それにしても重い一撃だ…が、やっぱりと言うか当然と言うか、小手調べと言ったところだろうな。


「やるのぅやるのぅ…セイシュウのヤツはこれで沈んだがお主は違うようじゃな」


 今ので沈んだのかセイシュウ…流石にそれは、運動不足にも過ぎるんじゃないか?


「セイシュウがどうかは知らないが」


 全身の力で押し返す。


「最近色々あったからな!」


 本当に何度死にかけたことか。

 そのお陰で出会えた大切な人達が居るんだが、それにしてもまぁ…普通の高校生だった俺が良く頑張ってこれたものだ。


「若さじゃのう!」


「ロリーの方が若く見える、ぞ!!」


「ほっ…嬉しい言葉じゃ!!」


 言葉と共に出される一撃を受けていく。ロリーの戦い方は拳と脚を使った格闘スタイルだ。油断をするものならすぐに相手のペースに呑まれる。


「甘いの、防戦一方では儂に傷を付けるなど到底出来んぞ!」


「…っぅ!!」


 拳が剣を通り抜けて髪を掠める。

 おいおい…今拳圧で髪が切れたんだが…っ! あれをまともに食らったらどうなるんだよ!


「集中力が切れてきたのぅ」


「ロリーがスピードを上げただけだろう!」


「バレたかの」


 唇から舌をチロッと覗かせてテヘッ☆ …と言う仕草をするロリーは俺から離れて両拳を胸の前で合わせた 彼女のツインテールが風に逆らうように激しく靡く……雰囲気が変わったな…!!


「ここで遊びは終わりじゃ。そろそろ儂も、ちぃとばかし本気で行くぞ。その身でどこまで堪え切れるかのぅ」


 ここからが本番とでも言うつもりなのだろうな…まぁ実際その通りなんだが。 明らかな実力の差を感じさせられた。これは…例えるのなら、凡人では決して越えられない壁と言ったところだろうか。


「燃えてきたの〜っ!」


 脚で地を踏みしめ膝を沈めたかと思うと、ロリーの姿が消える。

 直後、腹部に衝撃。


「ぐ…っ!?」


 視線を落とすとロリーの膝蹴りが、一瞬にして俺の腹を捉えていた。呻く俺に彼女は不敵に笑い、さらに攻撃速度を上げる。


「遅いのう遅いのう…!」


 拳が身体に刺さる。比喩でも何でもない、食らったら貫通するような一撃だ。一瞬たりとも気を抜くことが出来ない。


「まだまだいくぞ?」


 続いて様々な角度からの連殴。反応出来るはずもない。


「こっちじゃ」


 背後に回り込んでフック、アッパーを次々と叩き込まれた俺の身体は空中へ。


「もっと抵抗せぬか!」


 一回転してかかと落とし。


「…はぁぁぁっ!」


 そして地上にまで落とされた俺は、正拳付きに深々と身体の中心を捉えられ、吹き飛ばされてしまった。現実世界ならばこれは、骨と言う骨が木端微塵にされていただろうな…ッ!


「何じゃ…その程度なのか?」


「……魔法は使わないのか?」


「今は儂の質問じゃ」


「さて…な」


「【リスクX】を二体も討った主がその程度とは言わせぬぞ」


「……」


 …その情報はこの部隊でも実行部隊の面々しか知らない情報で、レオン達が隠蔽を図ってくれたものだがどうしてそれが知られている?


「討伐メンバーの内、お主ともう一人…アンナを一瞬で下したハイエルフや、カザイと良い勝負をしたあの女性のみ未だ実力を把握してないのでの…」


 …全部知られていると見て、間違い無いのか?


「それで?」


「お主…よもや手を抜いている訳ではないじゃろうな?」


 ……。


「抜いているはずが無いだろう」


「この嘘吐きめが。魔法を使わずして何を本気と言うのじゃ?」


 当然嘘だし、向こうもそれを知っているのならそれは明白なんだが…だが……!


「それは…あなた、ロリーも同じじゃないのか?」


「ほぅ…?」


「魔法を使っていないだろう?」


 使わずして本気と言う訳ではないはずだ。魔力マナを見たところ、何らかの魔法を使うのは確実なのだから、使わないのはどう考えても不自然だ。


「儂は…使う必要が無いからの」


 ロリーは少し困ったように言う。


「なら俺も使う訳にはいかないな」


 「不公平だから」と続ける。カッコ付けとかそう言うのは抜きで、武術には武術で戦いたかったからな。何歳かは知らないが女の子相手に自分だけ裏技を使うのなんて許せないのもあるからな……


「気遣いは無用じゃ。本来の彼奴に数十段劣り、その足元にも及ばないお主の剣術では儂に傷を付けることなど逆立ちしても出来ぬぞ?」


 剣を構える。


「…お主は馬鹿かの?」


「さて、な」


 誰と比較しているのかは知らないが、そう言われて何も思わない程俺は冷静なキャラじゃないからな…!


「ほう…!」


「まぁ兎に角…一応これはただの剣じゃなくて、銃剣だからな。ここからは銃弾もありで行かせてもらう。それでどうだ?」


 二、三度打ち合う。


「…捻た性格をしとるの」


「勿体振る性格と言ってくれ」


「この際どうでも良いわ!」


 なら言うなっ!


「シフト!」


 …この距離、行ける!


一斉発射フルバースト!!」


「…ぬ!?」


 発射された銃弾がロリーを襲う。


「シフト!」


 反動による跳躍の着地と同時に一気に突撃、踏み込む。


「抜く…!!」


 鞘がないので寂しいが、動作やることは変わらない!


「抜砕ッ!」


「甘いのッ!!」


 かつて教えてもらった居合の技。それは放たれた、以前見たレオンのものと似たような衝撃波により中断される…だが、


「二斬、烈断!」


 “一刀抜砕”の後に瞬転、背後から横長の交差斬りを放つこの技を放つのが本命だ!


「ぬ…!」


 しかし、


「その程度ではまだまだ甘いのじゃッ!」


 渾身の技はロリーに傷一つ付けられていない。


「ほっほ…活心衝御ノ型“堅鉄かたがね”と言っての。お主にこれを破ることが出来るか?」


 自慢気に腕組みをする彼女を包むように、魔力マナのものとは違った力の波動が視える。口だけじゃないってことだよな…はぁ。


「まだ魔法を使わぬのかの?」


 これを相手に魔法を使っても全然効かないような気がする。何故そこまでして俺の魔法を見たがっているのか分からないが…。まぁ良い、勝たなきゃならないんだ。敢えて踊るも一つの手か。


『鋭き一撃鬼神の如し!』


 火属性初級魔法“パワードエッジ”によって武器が輝きを放つ。


「火の強化魔法か! 儂まで燃えてくるの!」


「これで良いだろ!」


「儂に傷を付けることが出来るのならの!」


 斬れ味の上がった刃を振るうも躱される。


「ほれほれどうしたのじゃ?」


「…っ!!」


 回し蹴り。


「もうちっと真面目にやってくれぬかの!」


「真面目に、やっているだろ!」


「手加減しとるようにしか思えぬわ!」


「そ、そんなわけないだろ!」


 どうして言葉を詰まらせた…!? 肯定しているようなものじゃないかっ。


「このたわけが! これは昇進試験じゃ! 手を抜こうなどと考えるな!」


「…っ!」


 はぁ……


「大方儂が子どもだと思っているのじゃろう! そんな歳ではないわぁ!!」


 拳と蹴りの連続攻撃。


「儂はもう百超えとるわ!! もう数えておらんしのぉッ!!」


「は?」


 首を掴まれ持ち上げられる。


「何言わせんるんじゃぁぁっ!」


「ぐぉっ!?」


 り、理不尽だろ…!


「うぉぉぉぉっ!!」


 ロリーの手が赤く光る。


「く…シフトッ!!」


 その直前俺は、反射的に銃形態に移行させた得物の銃口を相手に向けていた。 


「活心衝系散ノ型。“掌爆しょうばく”! 散れぃッ!!」


 そしてロリーの手を中心として爆発が起こり、視界を満たした。


* * *


「…僕達の時以上に手加減無しだ」


 画面は爆発の煙でよく見えない。最後に映し出された光景はロリーが弓弦の首を掴んで爆発させる直前であり、それを凝視していたセイシュウはあまりの光景に深く息を吐いた。


「フン…失格だな」


 アンナが鼻で笑いながら画面から眼を離す。


「……いや」


 と、カザイ。


「どこに失格を否定する要素がある? どう見てもあの男の死亡で間違い無いだろう」


 その言葉に対して弓弦の失格を冷然とした態度で告げたアンナは、つまらなそうに青髪の寡黙な男を睨んだ。


「今のどこに失格の要素があるのか教えてもらいたいんだけどぉ? ねぇ殺されたいの?」


「知影…残念…本当に残念だけど彼女の眼は節穴のようだから仕方無いわ」


「うむ…私には橘殿が爆発の直前に消えたように見えたのだが…見間違いだろうか」


「…コク…節穴」


「フン…揃いに揃って馬鹿なことを…」


 アンナは画面に向き直ると、煙が無くなりクリアになった画面の中の光景で弓弦が俯せに倒れている。


「フン…やはり倒れていたか。これで橘 弓弦は失格「合格じゃぞアンナ」」


 嘲笑を阻んだロリーが『VR2』から出てきて笑う。


「してやられたわ…ほっほ」


「な、何だと…!」


「本人は衝撃で気絶しとる。迎えに行ってやると良いぞ」


 驚愕に見開かれたアンナを制したロリーの言葉に知影とフィーナ、ユリ、セティの四人が弓弦の下へと向かった。


「自爆させられるとは儂もヤキが回ったものじゃ」


「…勝利条件は僕達と同じ…」


「当然じゃ。儂が担当する試験の勝利条件なぞ、それ以外認めぬわ」


 セイシュウの言葉に微笑まし気に頷いたロリーの髪が、動きに合わせてふわりと揺れる。


「俺はあなたが担当した試験自体見たのは今日が初めてだが」


「ほっほ」


「……あの男…生意気な…っ!」


 カザイの苦言に対しても笑って返した彼女であったが、それとは対照的なまでにアンナが肩を怒らせて部屋を後にするのを見遣りながらセイシュウはまた深く息を吐いた。


「……彼女はどうしてあそこまで弓弦君のことを嫌うのかな」


「あやつは頭が真面目だからの。弓弦“少将”のような周りに女を侍らす男が嫌いなのじゃろ…それにまぁ、あやつはのぅ……」


「彼は無意識だよ」


「ほっほ…分かっておる。あやつには人を惹きつける不思議な魅力がある…それを確かめられたのじゃ。それだけでもここに来た意味があったというものじゃ」


「…今後は控えた方が良い。あなたは狙われているからな」


 呆れたように言い放つセイシュウの声音は若干ではあるが冷ややかな色が見え隠れしているようであり、微かにカザイが眉をひそめた。


「……」


「そのためにカザイやアンナがおるのじゃ、安心せい」


 「ほっほ…」と笑う幼女の姿をカザイとセイシュウは相反する複雑な表情で見ていた。


* * *


 疲れた…本当に疲れた。転移して何とか逃れたものの、置き土産として残した剣(俺の剣のデータだが)が壊れてしまったのが悲しい…が、上手くいっていれば剣の破片がロリーに傷をつけていたはずだ……! だが無様と言うか情けないことに疲れて立てない。

 ロリーは先に出て行ってしまい、ここからじゃ声が聞こえないから誰も呼べない。


「弓弦、弓弦?」


「ご主人様」


「橘殿」


「…起きて」


 頭上から声が聞こえるような気がする。

 気になって上を見てみると……おや? こんな所に天使様が…まさか俺、実は死んだのだろうか。


「そう…天使が迎えに来たのよ。弓弦…疲れたあなたを迎えに来たの」


「…!! 私達と一緒に行きましょうか。大丈夫よ…安心して、そこはとっても気持ちの良い場所だから……」


「……寝惚けているのか?」


「…多分」


 嗚呼…美しい天使達だ。だが…心なしか誰かに似ているようなーーー











 ーーーと言うか本人達だ。


「すまん…起こしてくれ」


「分かりました」


「ちょっと待って」


 すかさず俺の身体を起こそうとしたフィーを知影が止める。その表情は何か、良くないことを考えていることが丸分かりだ。


「ひそひそ」


「良い案…だけど…っ」


「ひそひそ」


「そ、そうだな…」


「ひそひそ」


「……悪くない」


 何を話しているんだろうか? 俺にとって間違い無く良くないことであるのは想像に難くないが。


「ゆ・づ・る♪」


 そして妙に知影が上機嫌なことから危険信号が激しく点滅した。それはもう、モールス信号のような点滅の具合だ。パカパカパカパカ……はぁ。


「起こしても良いのだけど…チューして…ね?」


「フィー」


「何でしょうか?」


「起こしてくれ」


「…申し訳ありません」


 まったく悪いと思っていない様子のフィー。犬耳で分かるんだよ…はぁ。


「ユリ…」


 助けてコールを大いに込めた視線を送る。


「ゆ、た、橘殿…そんな眼で見ないでくれ…うぅ…」


「頼む、お前が頼りだ…」


 ユリは視線を彷徨わせるが…ある一点を見るなりそれは止まる。


「…ごくり」


「おい今どこ見た」


「わ、私は無理だ!!」


 ダメだこいつも…いつの間にやら知影に毒されてるじゃないか。揃いも揃って人の唇を…はぁ。


「……セティ」


「………逃げるの駄目」


 まぁ分かってたけどな。だがお前は色々とまずいぞセティよ。


「弓弦♪」


 徐々に近づく超肉食系女子(ち か げ)の顔…てかこれ外に丸見えなんだよな…冗談じゃない!!


「フィー! 頼む!」


「…知影早く」


 食われて…堪るものか!!


「ご主人様の命令が聞けないのか…」


 突破口は…フィーだ。


「……そ、それは…っ」


 犬耳が左右交互にピコピコと動く。手応えはある! ならさ!


「卑しい雌犬の分際で俺の命令が聞けないのか?」


「ですが…く…っ!!」


 もう少し!


「俺だけの雌犬だろ?」


 フィーの瞳が潤み、吐く息が徐々に荒くなる。


「…雌…はぁ…犬…」


「命令だ。起こせ」


 膝砕けになりかける。

 流石は変態…お蔭で助かりそうだ。


「ご命令のままに」


 フィーが俺の身体を起こす。


「フィーナ!? 何やってるの!!」


「立てますか?」


「ヒール頼む」


『かの者を癒したまえ!!』


 癒しの魔力マナが身体を包み込む…よし、動けるようになった。


「お手をどうぞ」


「すまないな」


 フィーの手を借りて立ち上がる。


「ちょっとフィーナ! どうしちゃったの! 折角のチャンスが……勿体…無いよぉ」


「悪いわね知影。私は今満たされているわ…♪」


 自らの頬を両手で包み込んで悶えるフィーの姿に知影が唖然としているが、本当に助かった…流石はフィーだ。頼りになる。


「橘殿すまない…私は」


 こいつは…少し揶揄からかうか。


「…ふん」


「た、橘殿ぉ…っ!!」


 がっくしと肩を落としたユリの悲し気な表情が…ん? 何とも思わないな。


「……ごめんなさい」


「セティは気にしなくて良い、な?」


「……うん」


 何故かセティには怒る気になれないんだな…甘やかしたくなると言うか…無性に頭を撫でてやりたくなるんだ。


「クス…ッ‘私の妹だからではないですか?’」


 フィーが耳打ちをする。


「はは…かもしれないな」


 否定はしない。


「……なんでフィーナだけ」


「自分の胸に聞いてみろ」


「胸、かぁ…」


 知影の細められた瞳からの視線がユリの身体の一部分に注がれる。


「ユリちゃん…最近何か以前より大きくなってない?」


「な、な、なな何を言うのだ!? む、胸っ!? 大きくなっているはずがないだろう!!」


 う~ん…確かに言われてみれば…っ!?


「ご主人様…」


「…は、ははは」


 ……性分だよなこれ。視線向けてしまったのは仕方が無いな!


「絶対に大きくなどなっていないからな!」


「えい!」


 知影の手がユリの胸…胸ぇぇぇっ!?


「ひゃ…っ!? な、何をするのだ!!」


「信じられない…この弾「何をやっているんだ!」…弓弦のツッコミ…ふふふ♪」


 そう言うのは俺が居ない時にやってほしいもんだな…まったく。女同士の場でのみやってほしいもんだ…眼福…じゃない、眼に悪いからな…はぁ。


「……戻らないの?」


 おっと…戻らないと。決して忘れていたわけではない…決してな。

 …ほ、本当だからな!


* * *


「よ〜しこれで全員終わったな〜!」


 外に出るといつの間にかレオンが戻って来ていた…だがその代わりに、部屋中を見回しても彼以外その場に誰も居なかった。


「ロリー達はどこへ行ったんだ?」


「先に隊長室に向かったぞ〜。俺はいつまで経っても、イチャイチャして『VR2』から出てこないお前さん達を待っていたというわけだな〜」


 珍しく皮肉交じりの言葉だが当然か。長々と他人が惚気ているのを喜んで見ている人物はそんなに居ないしな。


「結構待たせてるから取り敢えず行くぞ〜」











「ほっほ…お楽しみは終わったかの?」


 隊長室ではレオンの言った通りロリー達三人が待っていた。相変わらずアンナと言う名の剣士は不機嫌だし、カザイと言う男銃士は無表情だ。


「昼から堂々と良い身分だな」


「あの女…気に入らない」


「えぇ…同感よ」


 アンナは二人に任せて放っておく。


「それで、結果はどうなったんだ?」


「ルクセント少尉が中尉に、オルグレン、神ヶ崎中尉が大尉に。天部少佐が中佐、シェロック、オープスト、クアシエトール中佐が大佐に昇進だ」


「では勲章を儂に渡してくれないかの」


 女性陣がロリーに勲章を渡す。


「離れておれ」


 手に握る勲章が空中にフワリと浮かぶ。


「ぬぅぅぅぅぅぅっ!!」


 ロリーの手から魔力マナが溢れ勲章を包む。凄い魔力マナだ、眩しい。


「…終了じゃ。受け取れい」


 それをカザイが受け取り、それぞれに手渡す…見ると勲章の物質が変わっていた。


『練金属性…珍しい属性の一つです。おそらくご主人様の吸収属性と比肩する程のものです』


「これが儂の魔法じゃ。どうじゃ?」


 …正直凄いと思う。物質転換なんて正に神の技じゃないか。


「あれ、俺のも一緒にやらないのか?」


「そう急ぐでない…橘 弓弦“少将”。お主のは使う魔法が変わるからの」


「…ん? 俺は大佐になるのでは無いのか?」


 二階級特進じゃあるまいし…俺死んでないぞ。


「ほっほ…まぁ取り敢えず勲章を渡してくれないかの」


「あ、あぁ…」


 ロリーに勲章を渡す。


「さて、と…ぬぅぅぅ…っ!!!!」


 衝撃によるものなのか、カタカタカタ…と机の上に置いてあるコップが動く。


「ふぅ……ほれ」


 七芒星が描かれた勲章が俺に渡された。


「お~お~、俺とお揃いだな〜! これ、少将以上の階級からは個別に形が変化するんだよな~」


 自分の勲章を見せながらレオンが俺の肩を叩く。確かに同じ勲章だが若干形が違うな…他の皆のは同じ形をしているが…どうだろうか。


「弓弦凄い!」


「……凄い」


「うむ!」


「……」


 何故かフィーだけ複雑な表情をしているが…よく分からない。錬金属性に思うところがあるのだろうか。


「…では儂は帰るとするかの。借り物を返さねばならん」


「……」


 隊長室を出るロリーに続き、瞑目…この場合は目礼だろうか。それに続くカザイ。


「フン…少将になったからといって調子に乗らないことだ」


 最後の最後まで人につっかかるアンナに知影とフィーが視線を向ける。捨て台詞としてはまぁありがちだな。


「…むぅ…まさかだとは思うけど」


「無きにしも非ず…ね」


「いや、それは無いだろう」


 こちらは謎の会話をする三人。まぁそれは兎も角、俺もこれでレオンと同じ少将ってことか。


「お~し、弓弦とユリちゃんは少し話があるからここに残ってくれ〜。知影ちゃん達は悪いが少し席を外してくれ〜、隊長命令だ〜」


「えぇっ!!」


「……行くわよ知影」


「…後で説明してもらうからね」


 不承不承フィーに促されて知影は何度も振り返りながら出て行った…はぁ。


「レオン…後で機嫌を取らなければいけない俺の気にもなってくれ」


「はっは~、この方が手っ取り早いからな〜」


「…近頃隊長命令が多いと思うのだが」


 理不尽ではあるがこう言う時には役立つものだよな…俺もいつか使ってみたい…なんてな。


「すまんな〜…だがこれを知られたくはないだろ〜?」


 本棚からレオンが一冊、分厚い本を取り出す。それなりに立派な装丁がされており、まぁ一眼でそれと分かる分厚い本だ。


「ま〜あれだけ撮っていればこの量にもなるわな〜」


「そ、それは…っ。感謝するぞ隊長殿‼︎」


 ユリはそれを嬉々として受け取るとペラペラと眼を通していく。あるページで彼女の手が止まる。


「…どんな感じだ?」


「……う、うむ…! 綺麗に写っているではないか…っ!!」


 ユリが広げている本は先日の撮影会で撮りに撮った写真のアルバムだ。花婿衣装タキシードの俺に花嫁衣装ウェディングドレスのユリが綺麗に写っている。…これは…うん、良いものだな。

 しかし…やっぱり撮り過ぎだと思うんだ俺は。


「う…な、なんだこの顔…あ、あう…」


 ページを捲っていく毎に写っている俺とユリがノリノリになっていくのが分かる。最初こそ寄り添っていたりとか手を繋ぐ等当たり障りのない状態の写真。だが後半にはユリが俺に抱き着いている写真や、俺がユリの前に跪いて手に口付けをしているなど見ている自分達自身が赤面してしまう程の写真も多く見られた。


「二人共良い表情しているな〜」


「そう…だな」


「う…うむ」


 はは…参ったなこれは……


「橘殿…このアルバム…わ、私がもらっても良いだろうか?」


「…あ、あぁ」


 これを知影達に見られたらあとが怖い…見たい時はユリに見せてもらえば良いか。


「そうか…では私は先に戻らせてもらうぞ! 良いな!!」


「良いぞ〜」


「‘………どこに飾ろうかなぁ…っ’」


 彼女はアルバムを抱えて何か呟きながら小走りで出て行く。それを見送っていると、レオンが俺を手招きしているのが眼に入った。


「…何だ?」


「弓弦もこれからは少将だからな~。俺の代わりを務めてもらうこともあるかもしれないからこいつを渡しとくぞ〜」


 レオンは引き出しから何かを取り出して手渡す。…これは…カードキーか?


「『マスターキー』何でも少将以上の階級の人間しか触っちゃいけない決まりらしくてな〜。だからセイシュウの奴には渡せなくて渡す相手に困ってたんだが、ま〜良かった」


「俺で良いのか? そんな大切なもの」


「ま〜気にしなくて良いぞ〜」


 受け取ってポケットにしまう。


「後な〜…少し付き合ってほしい場所があるんだ〜。時間あるか〜?」


「…無い訳ではないが…」


「それなら早速付いて来てくれよ〜?」


 レオンが机の下で何かをすると本棚が横に動く…扉が現れた。「ボタンがあるんだ~」だそうだ。

 中に入ると湿ったような空気が俺とレオンの身体を通り抜ける。空気が淀んでいるのだろうか? 『アークドラグノフ』内にいるはずなのにまるで別の場所に来たみたいだ。


「こんな場所があったとはな…」


 レオンのあとに続いて先に進んで行くと転送装置があった。


「……」


 レオンは無言で界座標ワールドポイントを打ち込んでいく…? いや、界座標ワールドポイントと呼べるのだろうか。


 「20.ark」


 確か転送装置には数字以外は入力出来なかったはずだが…裏コードとかそんなものだろうか。

 装置が起動する。











「…行くぞ〜」


 今俺とレオンは転移したのだろうか? 先程と変わっていないような気がするのだが……

 壁に挟まれた狭い道を引き返すように歩いて行く。


「ここから先で見たことは他言するなよ?」


 扉の先は…やはり隊長室なんだが…どこか俺が知っているさっきまでの隊長室とは違った。


「な、なっ!?」


 陰が居た。

 この世に対して、魔物よりも異質なものがそこに在り、それをレオンは構わず斬り捨てる。


「ここは?」


 …『アークドラグノフ』だ。それは間違い無いはずなんだが……


「俺にも分からんな〜。だがつい最近見つけた場所なんだよ〜」


「最近?」


「本棚に紙が挟まっててな〜? それを見るとここへの界座標ワールドポイントと机の下にボタンがあることが分かったんだよ〜」


 「今までそんなもの無かったはずなのにな〜」と、彼は続ける。


「じゃあここは何なんだ?」


「俺も分かっていたら苦労しないのだがな〜」


 違和感を覚える…なんと言うか俺達自身に。まるで、本来俺達と言う存在自体が、ここでは存在してはいけない存在だと思い知らされる…そんな感覚だ。


「因みに入口の扉は開かないからな〜…ま〜、お前さんに見てほしかっただけだ〜」


「何のために俺に?」


「俺と同じ、少将であるお前さんが一番の適任だからだ〜と言いたいが」


 俺が知る隊長室と同じ位置にあるボタンを押して扉を開ける。


「俺もここに来たのは始めてだ〜…あの装置、どう言うことかお前さんが居なければ起動しないみたいだしな〜?」


「俺が? …いや、話が飲み込めないんだが、そうだとしてどうして、起動するのに必要な人物が俺だと見当を付けられたんだ?」


「ん~? アレだ~、俺としては少将になった奴に片っ端から試していこうかと考えていただけだ~。んで、そしたら早速、お前さんでビンゴだ~」


 …。本当に偶然…か? いや、必然とするには明らかに不確定要素が多過ぎる。レオン…お前は何を考えているんだ?


「お~し! じゃあ~帰るとするか~!」


 途中、「時間がある時で良いから俺と一緒にここを調査してほしいんだな〜…頼めるか〜?」と言うレオンの願いを了承してから、俺達は来た道を引き返して行った。

 …様々な謎を残して。

『チョコ。それは現代において大人の事情の重なりによって生み出された陰謀の産物。その一日は少女達によって神聖な戦の日。想い人へと自らの想いを届けるため願いを具現化する。彼女達の想いは彼に無事、届くのだろうかーーー次回、バレンタイン短編 “チョコレート対決!”…その贈り物に込めるのはただ一つ』

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