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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
昇進試験編
76/411

昇進試験その一

 俺のマッサージの腕前が大いに振るわれた次の日、実行部隊の隊員全員にリィルとセイシュウも含めた総勢十一人が隊長室に集められた。


「…少し前に頼んでおいた立会人が本部から到着したぞ〜」


 心なしかレオンのテンションが低い気がする…気の所為だろうか?

 レオンが「…良いぞ〜」と言うと、入口の扉から三人の人物が隊長室に入って来た。


「今回立会人として派遣されたロリーじゃ! よろしくの!」


 金髪ツインテール幼女だとっ!? 名前も何かそれっぽい…本当に本名か?


「…同じく立会人として派遣されたカザイだ」


 こちらは青髪の無愛想な男であゴホッ…失礼。…ガンマンなのだろうか? 二丁のアーマーマグナム(だよな?)が似合う男である。


「同じく、派遣された…ジャ…ん゛んっ、アンナだ」


 「プッ…」とロリーとレオンとセイシュウが吹く。カザイの眉も微かにだが動き、何かに対して反応しているのが分かる。当人に失礼ではないのか?

 アンナは鳶色の髪と瞳に騎士甲冑、長剣(バスタードソード)と言う騎士のような格好をしていた。…が、多分本物だろう。何故か今俺を睨んでいたような……


「レオン…これはどう言うことなんだい?」


「ま〜なんだ…ゴニョゴニョ」


 レオンがセイシュウに何かを伝える。


「で、でもこれはほんごふっ!?」


「これでよろしくて?」


「…あ〜そうだな」


 明後日の方向を見るレオン…それで良いのか。


「兎に角の〜早う試験を始めようではないか? わしなんかそれはもう楽しみで楽しみで夜もおちおち寝ていられなかったのじゃぞ!」


 そうですか。


「ま〜とっとと始めるか〜。じゃ〜『VR2』に移動〜」


 ん? 今リィルがセイシュウに…気の所為か。











 …そんなこんなで『VR2』のある部屋へ。


「ーーー説明しますわッ! 今回の昇進試験では、事前に本部で決められた組み合わせで対戦をしていただきますわ。そしてその際、相手が提示した勝利条件を満たせば試験合格となり、階級を上げることが出来ます…が、易しくは無いので注意してくださいまし」


 …三人共相当な手練れだろう。となると……


「提示された条件を満たすこと…だよね?」


「その通りだ」


「確かに…それが妥当だな」


「話は纏まったかの? では、先ず最初は誰がやるんじゃ?」


「じゃあ、僕が行くよ」


 名乗りを上げたのはディオ。


「…ディオルセフ・ウェン・ルクセント少尉は俺とだ」


 相手はカザイか。


「ディオ…」


「大丈夫だよ。中尉の試験だからね」


 そうして、二人は『VR2』の中に入って行った。


* * *


 また僕視点みたいだね。

 出番が増えて嬉しいけど…って、そんなことは今、どうでも良いね。


「僕の勝利条件は何ですか?」


「俺に勝つ」


 それは分かってる。


「…後は『魔法の発動』だ」


 …まぁ仕方無いか。魔法が使えないようじゃやっぱり、中尉は駄目みたいだね。


 でも……後少しで出来るような気がするんだ…!

 だから…この人に…勝つッ!!


 ーーー3


 ーーー2


 ーーーLeady?


 ーーーFight!!


 開始と同時に放たれた銃弾を避ける。


「…っ!」


 避けた先にカザイさんが銃弾を放つ。

 それを避けて足に力を込め、突撃する。


「……」


 隙だらけ…もらったよ!


「てぇぇぇぇやぁぁぁぁぁっ!! なっ!?」


 渾身の突きはカザイさんの身体に弾かれる…どうして!?


* * *


「…あやつの魔法属性は“鋼”での。地属性魔法の発展系なんじゃが…簡単に言うと、甘っちょろい攻撃が通らないのじゃ」


 二人の戦闘を見ている中、ロリーが解説を入れる。

 映像の中ではディオがカザイに必死に攻撃しているが、文字通りカザイはビクともしていない。


「ご主人様…構ってください」


 戦闘に集中したいんだが…幾ら相手をしてやってもフィーが構ってくれと上眼遣いでせがんでくるので難しい。

 萌え…じゃなくてっ、今はディオの試験中。

 知影も我慢している程なので流石に弁えなくてはならない…っ。


「魔法を使えれば良いんだがな〜…覚醒するかどうかだな〜」


「そうだね…覚醒すれば勝利したことになるから中尉になれるんだけど…まだまだ遠いかな」


「…アンナ殿。制限時間は後いか程残っているのだ?」


 それぞれの意見が述べられている中でユリがアンナに話し掛ける。どうでも良いがあの二人気が合いそうだな。


「…二…一…終わりだ。カザイ、良いぞ」


 …制限時間? っ、まさか…!


「弓弦! ディオ君が!」


 それまでディオの攻撃に防御や牽制行動が主だったカザイが攻撃に転じ、魔法を発動させる。


「“ロックバレット”。石(つぶて)を飛ばす地属性初級魔法じゃ」


 ディオが吹き飛ばされ、同じく魔法で作り出された壁に叩き付けられた。


「今度は“ロックウォール”ですわね」


 カザイが銃を向けて狙いを定める。

 銃口の狙いは……ディオの眉間、急所だ。


「ディオ…!」


 お前はそこまでの男なのか?

 この程度、何とかしてみせろよ……!!


* * *


 はは…負けちゃうの…かな…?

 でも仕方無い…か。魔法が使えないのだから……

 カザイさんが銃を向ける。

 それは試験の終わり…僕の負けを告げる号砲。

 …僕の魔法属性は“地”だと、弓弦が言ってたっけ…うん、なら…どうせなら駄目元で…!!


「……!!」


 …僕の中で、何かが熱く駆け巡る。

 そうだよ…どうせなら…ね!


「終わりだ」


 発射される銃弾。


 僕は…っ!!!!


『いけ! ロックバレット!!!!』


* * *


「本当に御二方の仰った通りになりましたね…」


 風音が感心したように俺とフィーを見る。

 …あの後、カザイが放った銃弾に対してディオは“ロックバレット”を発動させた。

 そして銃弾の軌道を若干逸らした時点で試験は終了した。結果は、合格だ。

 つまり、昨日の俺とフィーの予想通りになったということになる。


「当然よ。そうですよねご主人様?」


「そういうことだ…と、ディオが戻ってきたな」


 『VR2』の中からディオとカザイが出て来る。


「やったよ!」


「あぁ、見てた。良かったな」


「これでやっとルクセント、“中尉”になったんだね」


「はい!」


 中尉の部分を強調したセイシュウにディオは笑顔で頷いた。


「合格出来て何よりじゃ。さて次は、誰が受けるかの?」


「…私が行く」


 ロリーの言葉に手を挙げたのは、俺とフィーの側に居た少女。次はセティか。


「…セリスティーナ・シェロック中佐、貴殿は私とだ」


 相手はアンナ。

 カザイと言い、中々見てても面白い試験だ。


「…行ってくる」


「頑張るのよ…‘イヅナ’」


「頑張って下さいね」


 フィーと風音が彼女の下へ行き、小さな声で応援の言葉を言う。俺も言うべきだな。


「‘イヅナ’…行ってこい」


 その言葉にリボンの下の犬耳(巧妙に隠されているが俺にはハッキリ見える)を微かに動かしてから『VR2』に入って行った。


「勝利条件は…アンナの魔法を打ち消すことじゃ。ちと簡単かの?」


 確かに簡単そうに聞こえる。


「…どこが簡単なんだ〜…アイツの魔法を打ち消す…なんて……は?」


 セティとアンナがVR2から出てくる…アンナは何故か酷く疲れた表情をしている。い、今の一瞬で何があったんだ?


「…腕が落ちたか?」


「…手加減してやったまでのことだ」


「お主…“ブライトキャリバー”を放っておいてそれはあんまりじゃろ」


 “ブライトキャリバー”?


「圧縮した高密度の光魔力(マナ)で剣を形成する魔法です。見たところ、威力としてはユリが使う光魔法“プルガシオンドラグニール”と同等ですね」


「それユリが使える最強クラスの魔法だよな。それをこの短時間で打ち消すなんてどうやったんだ?」


「闇魔法“マナドレイン”で相手の魔力マナを全て吸収したのですよ」


 つまり…一瞬でアンナの魔力マナを全て奪ったと……えげつないな。


「人間は元々魔力マナの総量がハイエルフの足下にも及ばない程少ないですからね…例外は居ますが、それに…」


 ハイエルフと違い、『魔力(マナ)過耗症(捉えようによっては欠乏症ともとれる)』にならないから加減をしなくても良いということだよな。


「えぇ、それでも極度に疲れが押し寄せますが…あのように」


 確かにアンナの足下が軽くフラついている…あんなので立会人が務まるのだろうか。…あのふら付きは予想するにVRだから精神的に大きなダメージがいったのだろう。


「ん、頑張ったな」


 余裕で大佐になったセティが俺の所まで来る。


「……抱きしめて」


 俺から言い出したことなので、言われた通りセティを抱きしめてやる。


「そのまま……フィーナも」


「ふふ、頑張ったものね…分かったわ」


 仕方が無さそうにフィーも俺と一緒にセティを抱きしめる…犬耳を見る限り嬉しそうだな二人共。俺も嬉しい。


「…何か…絵になってる」


「…凄いものを僕は見ている気がする…」


「あのセティがここまで笑顔になるなんて…信じられませんわ…」


「こりゃ〜まるで本物の家族だな〜」


「……微笑ましいはず…だが…っ」


「うぅ…っ!」


 当然の如くそれぞれの反応が多様な中、風音は何故か袖で眼元を隠して感極まっている様子…何故だ?


「この子が満足するまで暫く、このままでもよろしいでしょうか?」


 そうだな…俺は嬉しそうな犬耳が見れればそれで良い。


『素直に犬耳の部分を二人に戻してみてはどうですか?』


 …因みにこの心を覗くこと…同時に二人以上は無理らしく、先程から知影の視線が物理的に痛い。…なので他の人(知影orフィー)に知られたくないことを考える場合には便利ではあるんだ。…やっていること自体はこうしてバレバレなのだが。

 …と言っても、今俺とフィーは所謂、念話と言うものをしている。

 “テレパス”と言う魔法なんだが…ま、兎に角要するに念話だ。


「………家族とは良いものだな」


 カザイがポツリと呟き、それが聞こえたアンナは軽く眼を見開いて彼を見た。


「珍しいな。お前がそんなことを言うとは」


「……」


「無言…か」


「そこの和やか二人は後回しにするとして…次は誰じゃ?」


「じゃあ僕が行こうかな?」


 セイシュウが手を挙げる。


「相手は儂じゃぞ? 良いのか?」


「……は、はは……」


 …このツインテ金髪ジジっ娘少女はそんなにヤバい相手なのだろうか? セイシュウの奴…本気で怯えているように見えるんだが……

 …? いや、セイシュウの奴怯えていると言うよりは寧ろ…? いや、気の所為か。


『どうでしょうか? ………妙な違和感を感じるのが…気掛かりですが』


 それは俺も思った。

 だが何とも言えないんだ…ただ、“何か”がおかしいと感じるだけだよな。


「……?」


 イヅナが俺とフィーを見上げる。翡翠(ひすい)色の瞳には発した言葉と同じく、素朴な疑問を訊いている時の子どものような…そんな疑問の色が浮かんでいた。


「いや…イヅナは温かいな…って話をしていたんだ。気にするな」


「……うん」


 コクリと頷いて『VR2』内の映像が出力される画面(モニター)へと視線を移す。


『ご主人様。先程も今も、イヅナと呼ばれましたよね…他の人間に聞かれたらマズイのでは?』


 …お前が言うな。

 一番最初に言ったのはフィーだ。まぁ、結構小さめに言ったはずだから聞かれてないだろう…そう願いたい。


「な〜に、たまには灸を据えてやるのも務めじゃな。のうレオン?」


「…勘弁してくれよ〜」


 レオンがうんざりといった様子で文句を言う…珍しい光景だ。


「ほれ、行くぞ?」


「「……」」


 ロリーの後に無言で続いてレオンとセイシュウがそれぞら死んだ表情をしながらVR2に入った。


「…あの二人を昇格させる気はどうやらなさそうですわね?」


「否定はしない」


「…あの方の意向だ。こればかりはどうしようもない」


 アンナとカザイが画面を見る。

 画面の中ではセイシュウとレオンが武器を構えていて、何やらロリーと話しているようだった。

 ロリーの武器は…拳だろうか?


『そのようですね…あの二人の人間は兎も角、ロリーという少女には興味があります』


 フィーの人間の男嫌いは治りそうに無いな。…二回目に“バアゼル”と戦った時よりも、悪化しているように見える。はは、俺のことを慕ってくれるのも俺が“ハイエルフ”だからなのかもしれな…っ!


「っ!」


 フィーが俺の帽子の中に手を入れて耳を触る…器用だ…な……


「ん゛んっ、ハイエルフどうこうではなく、あなたが大切な人(ご主人様)だからこそ、私はあなたの側に居るの。ん゛んっ、安心してください。例え何があっても、私だけは絶対にあなたの側を離れませんから…ね?」


 そのまま頰に口付けをされた。


「…弓弦様、見られないのですか?」


 見兼ねたのであろう風音の冷たい視線が俺とフィーの視線を画面に向けさせる。

 …試験は既に終了を告げる一歩手前の状況だった。

 ロリーの右の拳がレオンの大剣を砕き、左の拳から繰り出されるアッパーが彼に天を舞わせる。

 地面にダイブした彼の近くで頭から地面に埋まっている(刺さってる?)セイシュウの姿が痛ましいな。


「………流石。レオンもセイシュウも相手になってない」


「…次は私が行かせて頂きます」


「……相手は俺だな」


 風音とカザイがそれぞれVR2の前に立つ。

 程無くしてロリーが二人を引き摺って中から出てくる。外見年齢が一桁後半の女の子に片手で引き摺られてくる二人の姿は情けないことこの上ない。


「二人揃ってこの程度で儂から合格をもらおうなんざ、百年早いの」


「…無理だよ…『傷を付けてみろ』なんて…」


「…………無理過ぎるぞ〜」


 …余程強いんだな…このロリーって幼女は。


「…風音を応援しないの…?」


 そしてイヅナ! なんで下からそんな瞳で見つめるんだ…く、首まで傾げるだと…っ!?


『可愛いですね…小動物みたいです♡』


 そうだな。思わず抱きしめる力を強めてしまうぐらいには可愛いな……♪


「ユリちゃん…弓弦が凄く優しそうな瞳でセティを見つめているよ…フィーナともさっきから話しっぱなしだし…」


「……確かに見つめ合っている時間はあったが、それ程話していたか?」


「そっか…まだ分からないんだ。それはそれで安心なんだけど…」


「?」


「行くぞ」


「…風音」


 カザイに続いて風音がVR2に入ろうとした風音がイヅナの声に振り返る。


「…頑張れ」


 応援の言葉に風音が笑みで返す。


「分かっているわね?」


「承知していますよ」


 フィーには軽めの言葉で返す。


「…風音。実力、見せてくれ」


 さて、俺の言葉にはどう返すんだ?


「……」


 風音は、まるで時間が止まったかのように眼を瞬かせる動作以外をしなかった。 無反応か。


「……!!!!!!」


 …かと思うとバッと前を向いて『VR2』の中に足を踏み入れる。らしくない行動だな。


「……」


 …だが、風音はそこから足を動かさなかった。

 代わりにゆっくりともう一度振り返って、俺を真っ直ぐ見てきた。


「仰せのままに…」


 …照れてしまった。


「勝利を手にしてみせます。…あなた様の、ために」


 達観的ないつもとは違う、俺達と同じ年頃の少女の笑みに……


* * *


「御待たせ致しました」


「良いのか?」


 返事として薙刀を構える。


「…条件は「仰らなくて結構です」…そうか」


 ーーー私にとっての勝利条件はただ一つです。

 “全力を尽くして眼前の敵を倒すこと”…それ以外の条件を満たしても私が望む勝利では、決して違うのですから。


「…参ります」


 …イヅナがあれ程張り切っていた理由がよく分かりますね。抱いている“モノ”は多少異なってはいますが。


「焔の舞!」


「………!!!!」


 想像以上に巨大な焔の嵐が起こる。

 私の魔法…感情が左右するであろうことは自覚してはいましたが…想像以上でしたね。


「………やるな」


 何事も無かったかのように嵐から出てくる姿は、流石立会人と言うことでしょうか。…ですが此方は想定の範囲内です。


『ロックバレット』


 魔法陣から石の(つぶて)が。


鋼化メタリア結晶化クラスター


 つぶてが鋼のつぶてとなり直線上で結集する。

 合わさった二丁の銃に魔力マナが集まる。


「終わりだ」


 結晶が魔力マナを帯びたつぶてに分かれて意思を持ったかのように私に襲い掛かります。

 …ですが、


「…焔よ!」


 無駄で御座います。

 熱波がつぶてを全て弾くまたは溶かす。…温度も上がっているのでしょうか…クス。

 身体が熱くなる…身を焦がすようなこの衝動は…熱い想いは…うふふ…!


「……!」


 銃口が火を吹く。


「………無駄か」


 放たれた銃弾も焔は溶かします。


『身は鋼の如し…アーマードメタル』


「咲かせましょう。焔の華を…!」


 一刀一焔刃となった薙刀で斬り付けると同時に刃の通った後に焔が走ります。やがてそれは身体を絡め、動きを封じ、焼き付け、魔方陣を形成します。


めさせて頂きます…ッ!!」


 斬り抜けかんざしを引き抜くと、焔をかんざしに纏わせてそれを、振り向き様に投げると、纏っていた焔が風を駆け、穿つ。

 かんざしが刺さった箇所から焔が輝きを放ち、焔の線は絵を象る。…これが、


「焔の舞…橘」


 真紅の、美しい焔の華を咲かせる私の奥義ですッ!!


* * *


 画面の中では、未だに美しい炎の花が咲いていて、彼女が放った魔法の威力を物語っていた。


「まさか…カザイが実力で負けた…?」


「…ほ〜やるの〜」


 あれが風音の実力か…凄いな。


「…風音が戻ってきた」


 戦闘を終えた二人が戻って来た。

 双方とも疲れを感じさせる表情だが、カザイだけ若干焦げ臭かった。


「如何でしたか?」


「あぁ…凄かった。特に最後のあの技は…綺麗だったしな」


「…え。弓弦…気付いてない?」


 何を言っているんだ知影は。

 どんな花かは知らないが、綺麗だったことは間違い無いだろうに。


『ご主人様…』


「良いですよ。何れにせよ咄嗟の思い付きでしたからどのような花かは…私にも分かりません」


「「嘘だ(ね)」」


 知影とフィーの言葉が被った。今の言葉のどこに嘘があるのだろうか。


「…少し疲れましたね…弓弦様をお借りしてもよろしいですか?」


「……良いわ」


「弓弦様…此方に」


「? 分かった…って大丈夫か?」


 側に行った途端に風音が倒れ込んでくる。

 身体が熱を帯びていて…って、普通に熱か。


「…このまま部屋まで御運び頂けますか?」


「「「!!!!!!!!」」」「分かった」


 風音を抱え上げ、知影とフィーとユリの三人が驚き抗議の声を上げる前に俺は通路に出る。


「イヅナの部屋で良いんだよな?」


「…はい」


 胸に顔を預けてくる風音……体勢的に柔らかいものが身体に当たってしまうので気持ち良…じゃなくて気不味い。


「まさか…私までこうなってしまうとは…納得と言ってしまえばそこまでなのですが…はぁ…」


 溜め息が胸に当たって、ドキッとする。


「…何がどうなったんだ?」


「……私も若いと言うことですよ」


 いや若いも何も、十八じゃないか。高校三年生の年頃…どう考えても若いはずだが……


「…どうしてそんなに背伸びしたような言い方をするんだ? それこそ知影みたいな話し方でも良いと思うが」


「もう身体に染み付いた言葉です…知影さんのような話し方は…私には無理で御座いますよ」


「そうか…?」


 敬語も良いが…やはりどこかよそよそしいんだよな…謎の使い分けをするフィーは例外としても。


「弓弦だぁい好きっ!」


「っ!?」


 な、何だ!? 風音がいつもより高めのトーンで知影のモノマネ…(だよな?)をした。

 凄く似てた…何と言うか…あいつの人を好き過ぎて堪らないと言った感じが良く出てたぞ…! 天才か? 芸人だったら売れるぞこれ…!!


「ほ、ほら…やはり私には似合いませんよ」


「いや…結構似合ってたと思うが…」


「……それでも駄目ですっ!」


 言葉の選択間違えただろ。もっと別の言葉を選べば良いものをなぁ。…にしても知影はこんな台詞を恥ずかし気もなく当たり前のように言ってくるからな…凄いもんだ。

 イヅナのドアのキーを風音がカードキーで解除して中に入る。「布団に寝かせて下さい」と風音が言うので、ゆっくりと布団の上に彼女を降ろした。


「弓弦様…」


「何だ?」


「先程、『何がどうなった』と仰りましたが…」


 唇に柔らかい感触。

 同時にあの互い中の“何か”が互いの中に流れ込むようなあの不思議な感覚があって…って、はぁっ? 俺今、何をされてるんだ!?


「こういうことです…御休みなさいませ」


 だけど問い掛けるより先に、風音は軽くウィンクをして布団の中に潜ってしまった。…今の風音、可愛くてヤバかった…じゃない。兎に角戻るか。

『少女達は戦う。己の武器を持って。銃が吼える、剣が唸る、魔法が煌めく。得物は違えど、乗せる思いは勝利一つ。勝者はーーー次回、昇進試験その二…仮想の中の真実は、勝利への渇望のみ』

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