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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
昇進試験編
75/411

ディオのとある一日

 ーーーVR1仮想草原フィールド


「…行くよ…っ!」


 僕こと、ディオルセフ・ウェン・ルクセントは訓練を兼ねてただ只管(ひたすら)仮想の敵を倒していた。


「…これで、終わりだよっ!!」


 構えからの全力の突きが、最後の仮想の敵をポリゴンに変え、消えさせる。


 ーーーcongratulation!


 そう頭上に文字が表示された。


「おめでとう…か…」


 僕的には全然良くないんだけどね…?

 知ってるかい? 僕だけなんだ…魔法が使えないのは。


「……」


 暫くすると、自動的に難易度が一段階上がって次々と新たな仮想敵が湧いてくるので剣を構えて突撃する。


「はぁっ!」


 今の僕にはこの(ブロードソード)で斬り込む以外の選択肢が存在しない。

 そう、今の僕には…ね。


「でぇいっ!!」


 でも…でも弓弦も、神ヶ崎さんも僕より先に魔法が使えるようになったそうだ。

 つまり僕よりも強くなった……負けてられないって意地、湧くんだよね。


 ーーーcongratulation!


 次の敵が現れる。


 ーーーcongratulation!


 ーーーcongratulation!


 ーーーcongratulation!











「…ふぅ。こんなものかな」


 「終了シマスカ?」の表示に終了ボタンを押す。


 ーーーerror!


「え?」


 ーーーアト一体。


 …あはは。こう言うのって、何て言うか、地味に怖いものがあるよね。

 …ちょっとバグでも起きたのかな。周りを見渡しても…?


「あれは…?」


 剣が浮いてる…『リビングソード』だよね多分。ここでは初めて見るけど。

 ---『リビングソード』…それは死した剣士の怨念が剣に宿ったアンデット系モンスターの一種。

 どこまで再現されているかは知らないけど、個体差がかなりあるモンスターとしても有名なんだ。

 つまり宿った怨念が強く、かつ元の持ち主が強ければ強いほど強力になるって言うタイプだね。アンデットの類に入るんだけど…正直言うと、背筋にぞっとくるものがある。

 だってさ、いつも通りに操作しているはずの機械がいきなりエラーを出して、周りを確認してみると、そこにアンデットが静かに居るんだよ? ホラーだと…思わないかい?

 …と、早く終わらせないと。


「速いッ!?」


 切先を僕に向けたか思うと次の瞬間には、高速の突きが剣に届く。


「…っ!!」


 押し返すと、連続の突きが剣を抜けて僕の身体を斬り裂き始める。


「反応速度が僕を超えている!? ぐっ!」


 剣が弾き飛ばされる。


「…あはは」


 宙に浮く(リビングソード)はそのまま、睨み付ける僕に向かってーーー


* * *


「負けちゃったな…」


 現在僕は、自分の部屋で剣を磨いている。

 大切な剣だ。これ一本で僕は、この日までずっと戦ってきたんだから。


「だから大切にしないとね」


 どうして僕があそこまで自棄気味にトレーニングをしていたのか。これには理由がある。

 ーーー昨日。弓弦がクアシエトール中佐と二人で【ランクD】の任務(ミッション)へと向かってこれを、一日で完遂した……本当に凄いと思った。

 弓弦は暫く前に誕生日を迎えて十八歳になったらしいけど、僕より一歳年下だ…なのに、中佐の階級を与えられたとか。

 だけど、僕よりもそれだけ大変な思いをしているんだよね……あ、副隊長は例外。あの人十二歳で中佐だけど、あの人は別格だね。

 でも、そんな人から聞いた話より僕が彼の強さを、強く感じたのは先日行われた“鬼ごっこ”だ。

 情けないことに僕は、副隊長と戦っている間にクアシエトール中佐が放った一撃に驚いて気絶しちゃって……それでこちらに戻って来ていたんだけど、弓弦の奴は一人で神ヶ崎さんや副隊長、クアシエトール中佐や先日入隊したあの二人の女性を相手取って、三人も気絶させることが出来たんだとか……中佐クラスの相手をだよ?

 どんな手を使ったとしてもやっぱり、凄い。

 だから僕もそんな彼に、追い付きたくて、いつもの訓練の他に毎日あんな感じで、『VR1』で訓練をしている。

 いつまでも少尉は嫌だからね。もうすぐ昇進試験のために隊長が手配した立会人も本部から到着するみたいだから、このチャンスを絶対ものにしなくちゃ。


ーーーかった! 分かったからっ!


 …向かいの部屋から扉越しに弓弦の声が聞こえる。


ーーーろ! 止めろぉぉぉぉっ!!


 何をやっているんだろうか…いや、されているのだろうか…?

 気になったので部屋を出る。

 すると……


「…何をやっているんですか?」


「し…っ!」


「…今面白いところだからな〜」


 506号室……弓弦の部屋の扉に張り付くように耳を当てているレオン・ハーウェル隊長と八嵩セイシュウ博士が居たので、野次馬根性に冷めた視線をプレゼントする。


ーーーや、止めろ! 止めてくうわぁぁっ!


ーーーご主人様♪ もっと…もっとです!


ーーーさぁ私達に、ありのままを曝け出して!


「…お〜お~…凄いことやってそうだぞ〜」


「…これ弓弦、絶対襲われてますよね?」


「…そうとも言えるけど…美少女二人に襲われているのって、中々稀有なシチュエーションだと思うんだよね…僕としては」


 …。この人達は……

 まぁでも、面白そうだから良いかな?

 なんて傍観していると、


「…見付けましたわよ。…隊長室に居ないと思って、探してみれば案の定ですわね…!!」


 隊長達を探していたらしいフレージュ少佐が通路を通り掛かり、呆れ顔で僕達を見詰めた。いやだって…ねぇ?


ーーーは、ははは…ははははは…はははははははははは…!!


 あ。弓弦の許容量を超えた。


ーーー良いだろう…! そこまで人のことを辱めようとするのなら俺にも考えがある! 覚悟しろよっ!!


ーーーやっと弓弦がその気になってくれた! いくよフィーナ!


ーーーふふっ、知影には負けないわよ!!


「………」


「…フレージュ少佐」


 何故あなたまで興味深げに耳を当てているのですか。


「…これは面白そうですわね」


「リィル君も分かっているじゃないか……」


「終わったらちゃ〜んと、業務に戻るから今だけは頼むな〜?」


「…仕方ありませんわね」


 ……この上官達駄目だ。あ、でもお茶目とも言えるかな。


ーーーえ? 嘘…やだ…。んっ、気持ち良い…っ!


ーーーうっ、私もう…駄目…だ…わん…。ご主人様で満たされてき…たっ!


 …え? こっちが「え?」だよ! 一体何やってるんだよ…ドキドキ。


「…成程。申し訳御座いませんが、そこを御通し願えないでしょうか?」


 今度は…えぇと…通り掛かった天部(あまのべ)少佐が僕達を押し退けて、キーを使い(何故持ってるんだ…)部屋の中へと入って行った。


ーーーあなた方と言う人達は…! 何をなさっているのですかっ!?


「…天部少佐って凄く母親みたいな人ですね」


 副隊長と似たような服の、彼女以上の着熟し方もそうだし。


(わたくし)も幾度かお話ししましたけど…フィリアーナさん共々、凛とされている方でしたわ」


「服の上からでもスタイルの良さが分かるからね…あの子絶対着痩せするタイプだがふっ!?」


 変なことを言い出した博士にフレージュ少佐の拳骨が落ちる。


ーーーいいえ、出来かねます!


「天部少佐が来たのならもうこれは終わりですね」


 きっと今頃中で説教中かな?


「…『弓弦ハーレム』メンバーでこう言う時にまともな思考回路の奴は居ないぞ〜」


「『弓弦ハーレム』メンバー…ですか」


「俺が思うにあいつらの共通点は、『四六時中大好きな弓弦のことを考えている』ことだからな〜…それは日頃どれだけまともな人間だとしても変わらないと思うぞ〜」


「それは納得。知影君とか凄い頭良いのにね…」


ーーー風音さんも早く弓弦に、染められちゃえば良いんだよ!


ーーー風音も委ねなさい。ご主人様に…全てを。


 変なことを言ってるよ。


「…それを言うのなら、部屋の中に居る三人の女性全員が、相当な才人ですわ」


 間違い無い。


「「「「はぁ…」」」」


 一斉に溜息を吐く。


ーーーほら、風音も力を抜いて楽になれよ。そうすれば気持ち良くしてやるから……


ーーーこ、こうですか…? っ!? あっ…あぁっ…!


「「「「ッ!?」」」」


 その時僕達は、衝撃の発言を聞いた。これ…つ、つまり…してるんだよね? 四人でしているんだよね? 決定的過ぎるよ!


ーーーどうだ?


ーーーこのような感覚は…初めて…で御座います…っ!


 …ゴクっ。


「‘…よ~し、合図をしたら突入だ〜’」


「「「’了解’」」」


 隊長がマスターキーを取り出し、抑えた声で指示を出した。

 ついでにその…あられもない姿を見れたらなぁ…なんて。あはは。


ーーー風音はここも弱そう、だな!


ーーーっ、何故、そうも御分かりにぃっ…!


ーーーこれで…フィニッシュだ!!」


ーーー〜〜〜〜〜っ!!!!


「行くぞッ!」


 突入!











 …“クロイツゲージ”で捕まりました。


「…人の部屋を覗き聞きとは良い趣味をしているな?」


「…流石にそれは駄目だよ?」


「…最低ね」


 …オープスト中佐って、本当に弓弦以外の男性に対しての態度が違うよね。


「……う…ん…っ」


 天部少佐はベッドに俯せの状態で、悩まし気な声を発している…物凄く扇情的だ。


「んで~…何をやっていたんだ〜?」


「聞いてて分からなかったのか?」


「ん…っ♪」


 弓弦は天部少佐の背中に(またが)ると、彼女の背中を親指で軽く押し始める。


「マッサージだ」


「紛らわしいよ!!」


 しかも、良くも女性の背中に何の気なしに跨がれるよね!? おかしいよアイツ!

 どうして…あんな当たり前のように…。天部少佐も…背中を許しているなんて。…良いなぁ。


「よ〜しディオ、よく言った」


「…紛らわしいよね」


「どうせそう言うことだと思ってはいましたわ…」


 …フレージ少佐、あんなに興味深気に聞き耳立ててたのに。


「ん…何が紛らわしいんだ?」


「大方いやらしいことを想像していたのでしょう。汚らわしい」


「…まぁあんな声を出した私達も私達なんだけどね」


 神ヶ崎さんが困った…と言うより、恨みの視線で天部少佐を見る。

 …あ、そうか。弓弦まだ跨ったままだから……


「…そんなたかがマッサージでどんなことを想像するんだ?」


 本当に困惑したような様子の弓弦。


「どんなことって…あんなことだよな〜」


「あんなことって…そんなことだよ」


 隊長と博士も直接口に出すことは(はばか)れるものでもあるから困惑してしまう。


「弓弦様…もっと…もう少し強めに御願いします…そうですそうです…っ!」


「…? よく分からんな…よし、今度こそ終わりだ」


「…はい。ありがとう御座いました」


 …ん? あの感じ…やっぱり。天部少佐やっぱり着痩せ…いやいや違う! 今はそんなことどうでも良いく……ない!


「用があれば呼び出せば良いだろう。リィルまで覗き聞きは酷いと思うが」


「…それは」


 それについては返す言葉が無いんだよね……


「…フィー」


「はい」


 オープスト中佐が“クロイツゲージ”を解除したのでやっと動けるようになる。

 汚物を見るような眼は止める気が無いみたいだけど。


「…弓弦のマッサージの腕前って凄いよね」


「そうですね…絶妙な力加減と、ツボの押さえ方が御見事の一言に尽きます」


「そうそう…一押し一押しが本当に気持ち良いの…!」


「何と言いますか…逆らえなくなります…もうされるがままになってしまいます…♪」


「…取り敢えず静かにしてくれ。…で、レオンはまだ書類が溜まっているんだろう? なら人の部屋で油を売らずに早く隊長室に戻ってくれ」


「お、お〜…なら言われた通りに戻るか〜」


「僕も“例の件”で話があるから行くよ」


「付いて行きますわ」


  えぇっ!? 汚いですよ隊長達!


「あ…え、えーと…」


 そして残される僕。どうしようかな……


「…そう言えばディオ」


「…何だい?」


「お前まだ…あぁいや、なんでもない」


 ? 何か訊きたいことでもあったのかな?


「ご主人様。伝えた方が良いと思いますよ? …相手が誰であっても」


 …この扱いの差、酷いと思うんだ。

 なんで弓弦の時だけ笑顔を向けて、僕の時はゴミを見るような冷たい視線を向けるんだい? 何か僕彼女に悪いことをしたのかな……

 …あ、でも…まぁ、覗きみたいなことをしていたんだから当然…だね。


「ん…そうか?」


「そうですよ」


「そうそう」


「そうですね」


「…分かった」


 …はぁ。…いつか隊長が、「弓弦と神ヶ崎さんが一緒に居る時は糖分を控えろ~」とか言っていたけど今やっと実感させられた…寧ろ今、無性に苦いコーヒーが飲みたい。


「ディオ、お前まだ魔法が使えないだろう」


「うん…使えないよ」


 あれ? 僕弓弦に魔法が使えないこと言ったっけ? …言ってないような気がするけど。


「お前の魔法属性は…地属性だ」


「お見事ですご主人様♪」


 うわー、遣っ付け感満載。


「…なんでそんなことが分かるんだい?」


 いきなり魔法属性が地属性と言われても分からないよ。僕自身が分からないのに……


「確かにそうだな…それに、な?」


「えぇ、その通りです♪」


 いや、二人だけ納得されても困るのだけど。

 しかも何か前後の繋がりがおかしいし…アイコンタクトでもしていたのかな。


「そう遠くない日に使えるようになるはずだ」


 …はぁ。


「私とご主人様が保証するわ」


「私にも出来たからディオ君なら絶対出来るはず。頑張ってね!」


 …う、うん。


「クス…見かけの強さが(まこと)の強さと思わぬこと。慢心は破滅を呼びます…己と向き合うことを片時も御忘れなく」


 …。あれ…? 話が綺麗に纏まろうとしているようような気がする。気の所為だよね…ねぇ、気の所為だよね!?











 え? え? えぇっ!? 終わりなの!?

 今回僕視点の話だよね!?  まだ続くよね!?











 弓弦達は晩ご飯を食べに行くとかで、どこかへ行ってしまった。だから僕は部屋に戻って外を眺めていた。


「良かった…続くみたいだ」


 世界と世界の狭間の空間といっても、暗黒物質(ダークマター)に包まれた暗闇の世界ではなくてちゃんと綺麗な青空はある…今は夕焼け空だけど。

 夕焼け空は、どうしてこんなにも僕にとって物悲しく映ってしまうのだろうか…?

 いいや、分かってる。“あの日”の空も綺麗な夕焼け空だったからだ。

 ーーー“あの日”……僕の居た世界が崩壊した日。

 もう四年半ぐらいになるんかな…僕はあの頃から全然変わってない…変われていないの間違いかな…?

 …変わる必要自体無いのかもしれないけど…分かんないや……


「……」


 後半は何故か弓弦達に励まされていたけど、天部少佐の言葉が妙に引っ掛かった。


「『“見かけの強さが(まこと)の強さと思わぬこと”』…か」


 僕の強さが見かけ…か。

 そうなのかな…でも、じゃあ僕の四年間は何だったの? 無意味だったのかな…? じゃあ本当の強さって…何? これも分からないよ……

 剣を鞘から抜いて夕日に当ててみる。

 夕日に照らされた刃の寂しさはまるで僕の心そのもののようで…見ていられないので鞘に戻す。


「僕の魔法は地属性かぁ…本当なのかな…?」


 端末を立ち上げて地属性魔法についての記述を見る。


『地属性。基本属性の一つであり風属性と対をなしている属性である。回復魔法は無いが、地面を隆起させて防御壁を築いたり、これで対象を貫くことも出来る。代表とされる魔法ーーー“アースクエイク”、“グレイブランス”、“ストーンフォール”等がある。また、他の魔法属性と同じく、現代において失われた魔法も数多く存在する。その中には異次元から隕石を召喚する魔法や、大陸を分断するほどの地割れを起こす魔法もあったとされる』


 ぱっと見は悪くなさそうな魔法という印象だ。隕石召喚も出来るようになったらカッコ良いなと思う。

 …でも、『失われた魔法』だから使えないんだよね…。ついでに復習も含めて検索掛けてみよっか。


『失われた魔法ーーーその破壊力と膨大な魔力マナ消費量を原因として、詠唱することを魔法黎明期において禁じられ、その後時を経るにつれて存在が抹消された魔法のことを言う。今でこそ古文書の解読の末“どのような魔法があったか”までは分かるのだが、それ以外は未だ一切判明していない、謎が多い魔法である。

 各属性に二〜三種類程度あるとされ、中には属性自体が失われているものもあるらしいが、【リスクX】の悪魔が使用してくることがある以外、やはり詳しいことは判明していない』


「…いつかこういう魔法を使えるようになりたいな。敵の動きを封じて上空から巨大隕石を落として殲滅…なんてことが出来れば大型任務(ミッション)での危険を減らすことが出来るから……」


 そのまま隊員のプロフィール画面を表示させる。


『アークドラグノフの実行部隊隊員、九名。誰のプロフィールを見ますか?』


 僕以外の人がどんな魔法を使えるか…とかも把握しておいた方がこれから何かと良いよね…以前隊長に許可もらってるし。


『レオン・ハーウェル少将。三十二歳。アークドラグノフ実行部隊隊長を務める。

 使用武器、大剣。魔法属性、風。

 本部の隊員からの信頼も厚い』


『セリスティーナ・シェロック中佐。十一歳。アークドラグノフ実行部隊副隊長を務める。

 使用武器、刀。魔法属性、水。

 歳こそ若いが、戦闘スキルは本物』


『ユリ・ステルラ・クアシエトール中佐。十九歳。アークドラグノフ医療班主任を兼任。

 使用武器、スナイパーライフル。魔法属性、光。

 本人の美貌やその最大狙撃距離、医療スキルと合わせて人気がある』


 …? 気の所為かな?


『トウガ・オルグレン中尉。三十四歳。アークドラグノフ実行部隊no.4。

 使用武器、ブーメラン。魔法属性、氷。

 背中で語る良いオトコ』


 ……あれ?


『ディオルセフ・ウェン・ルクセント少尉。十九歳。

 アークドラグノフ実行部隊no.5。

 使用武器、剣。魔法未覚醒。

 総受けktkr』


 総受けって…何?


『橘 弓弦 (ユヅル・ルフ・オープスト・タチバナ)中佐。二百十八歳。

 アークドラグノフ実行部隊no.6

 使用武器、変形剣。魔法属性、不明。

 何人もの女性を周囲にはべらす女性の敵。…しかし本人が無自覚であるのがタチが悪い』


 弓弦も何か厳しい意見をもらってるよ…凄い歳を取ってるけど打ち込みミスだよね…あと名前。


『神ヶ崎 知影中尉。十八歳。

 アークドラグノフ実行部隊no.7

 使用武器、変形弓。魔法属性、不明。

 弓弦ハーレム一号。その病みっぷりは恐るべし』


 …酷いねこれは。


『フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナ中佐。二百十八歳。

 アークドラグノフ実行部隊no.8

 使用武器刀。魔法属性、不明。

 弓弦ハーレム二号。ご主人様や知人への態度とそれ以外の人物への扱いは天と地の差』


天部あまのべ 風音少佐。十八歳。

 アークドラグノフ実行部隊no.9

 使用武器、薙刀。魔法属性、炎。

 弓弦ハーレム三号。誰にでも丁寧な物腰で接するハーレムメンバー唯一の良心』


 …間違ってない所も多いから否定が出来ない。

 一体誰がこのプロフィールを記入しているのだろうか。本部の人と言うのは分かっているけど…だとしたら記入事項が詳細過ぎるよね…最近入ったばかりのオープスト中佐と天部少佐の情報も凄く正しいし……

 …じゃあこの部隊の人? なら誰が? フレージュ少佐…はもっと詳しく書くよね……


「分からないから良いか」


 眼がチカチカしてきたので端末の電源を切って眼を休ませてみる。

 まだ寝ようと言う気持ちにはならなかった。


「今日はもう少し頑張ってみようかな…」


 …ま、どうせならね?


* * *


 『VR1』まで行くと、何かのメンテナンスの最中だったみたいで、整備班の人達と博士とフレージュ少佐が居た。


「何のメンテナンスをしているのですか?」


「最近少し調子が良くなかったから、少し中を見ているんだよ」


 フレージュ少佐のボディブローが博士の体に吸い込まれる。


「がふっ!」


「…先程から指示を出している“だけ”の博士が自慢気に言う言葉ではありませんわ」


 へー、博士……

 まぁ兎も角あのこと…伝えておいた方が良いよね。


「…そう言えば僕、今日の朝中で強力な『リビングソード』に負けました」


「ゴホッゴホッ…『リビングソード』のデータって打ち込んだっけ?」


「…打ち込んではいないはずですわ」


「…。本当に“リビングソード”だったかい?」


 あれは確かに“リビングソード”…間違い無いよね…って、誰に聞いているのだろう。


「他に独りでに宙に浮く剣の魔物が居ますか?」


「うーん…出現魔物のデータを!」


 整備班の一人が博士にリストを渡して作業に戻っていく。


「ふむ…」


 博士はそれに眼を通す。


「…やっぱり居ないね…データを打ち込んでないのだから当然だけど…うーん…何らかの要素でデータが変化したと見て…他に考えようが無いね」


「そうですわね…何らかのバグと考えた方が良いと思いますわ」


 もっと調べた方が良いと思うのだけど…。

 そんな僕の考えていることが分かったのか博士は僕に耳打ちする。


「‘上に報告する上での建前だから気にしないでね。今後は僕が個人的に調査していくから’」


「博士? ルクセント少尉と何を話していますの?」


「いや、暇だから隣で戦わないか訊いてただけっ!?」


 フレージュ少佐の拳が飛ぶ。


「どうぞご勝手になさいまし!」


「…はいはい。許可もらえたし…行こうか」


 …あなたはそれで良いのですか? フレージュ少佐チラチラと見てますけど。


* * *


ーーーVR2、データ、ロードシマス。


「…ふぅ。あの時久々に運動したら全身筋肉痛に苛まれたからね…お手柔らかに頼むよ」


 博士はトンファーを手で遊ばせながら、構えを取る。


「博士こそ。 大佐の実力…見せて下さい」


 確かプロフィールによると大佐昇格試験を合格した博士は雷魔法の使い手。

 主な戦闘スタイルは雷魔法をその身に纏って雷の如く繰り出す高速多段攻撃だとか…どこまでやれるかな……


「魔法は卑怯だから使わないけど…良いね?」


「いえ、博士の戦い方…見てみたいです」


「そうかい? 照れるな…じゃあ、覚悟してよ…っ!!」


 博士は手を自分の胸に当てる。


『ライトニングアロー』


 手の先に発生した小さな魔法陣から雷が博士の身体の中に入っていく。

 その身体とトンファーが雷を帯びた瞬間、博士の姿が消えた。

 直後背後から気配が。なので咄嗟に前に飛び込む。


「背後攻撃の避け方としては正しいけどね」


 飛び込んだ地面の下から雷が僕を貫く。

 痺れる痛みが全身を駆け抜け、動きを鈍らせてくる。


「残念。僕相手にその避け方は不正解だね」


 空中に打ち上げられた僕に博士のトンファーが迫る。


「…っ!」


 間一髪剣で受け止めると博士は不敵に笑った。


「それも、不正解」


 トンファーから放たれた雷が衝撃と共に襲う。


「がッ!?」


 強過ぎるよ……これが大佐。


「もう一つ、いくよ!」


 もう片方のトンファーが剣に打ち込まれると発雷し、貫通。

 ……地面、美味しいよ。


「さっきのが“バーストスパイク”で、今のが“プラズマスパイク”という技なんだけど…。元の魔法が“ライトニングアロー”で電撃の威力が弱いから、その程度のダメージじゃ立てるはずだよ」


 確かに電撃よりはトンファーの打撃の方が痛かったけど……


「ま、攻めはこんなものかな。多分リィル君が呼びに来てくれるはずだからそれまで打ち込んできてくれても良いよ」


 僕に手を差し伸べて立ち上がるのを手伝って博士は少し後ろに下がる。

 …折角だから甘えるべきだね…よし…!


「行きます!」


「いつでも良いよ!」











「はぁ…はぁ…っ」


「あはは、もう息が上がったのかい?」


「強過ぎですよ…」


 大佐の階級は伊達じゃないね。全部綺麗に防がれちゃったけど、楽しかったな。


ーーー博士ー。迎えに来ましたわよ…まったく、わたくしに負けたのが余程悔しかったみたいですわね。


 上からフレージュ少佐の声が聞こえた…本当に迎えに来たんだ。

 この二人はこの二人で…良いなぁ。


「時間だね。よし、終わろうか」


「了解です」


* * *


「博士、ありがとうこざいました!」


「あはは…じゃ、明日は頑張ってね」


「博士! 早く行きますわよ!」


「はいはい、分かったよリィル君」


 明日? 明日何かあるのかな…まさか?

 …。あぁそっか。明日が立会人が来る日みたいだね。

 なら明日に備えて急いで寝ないと……


「よし…明日は絶対……」


 中尉に昇進して、出来れば魔法にも覚醒しないといけない。

 …いや、深く考えないでおこうか。兎に角今はぐっすり寝て、明日頑張ろう……

「……」


「…ユリ、どうしたの?」


「…橘殿のマッサージ、私も受けてみたかったぞ」


「…仕方が無い。…前回、出番多かったから。多ければ多い程、その後が少なくなっていく…そんな、梃入れ防止法……」


「く…っ。昇進試験前に少しでも英気を養いたかったが…残念だ」


「…英気…養えるの?」


「…あ。…う、うむ。養える…かもしれないと言うだけだ。ほら、マッサージ機にマッサージされたいと言う感覚に近いものがあるな!」


「…弓弦…マッサージ機じゃない」


「…これは言葉の綾と言うものだ。気にしなくて良いぞ」


「…コク。…私、今回も前回も出番が無い…少し…悲しい」


「セティ殿…」


「…でも、出番が無いと…きっとメインの回がある…はず。…ルクセント君のように…」


「…うむ。そう願いたいものだな」


「私メイン…ある…よね…?」


「…セティ殿、誰に向かって刀を向けているのだ…?」


「…越えられない壁」


「越えられない…壁。む…謎だぞ」


「…あ」


「予告の紙だな」


「…読む」


「うむ、頼む」


「『…乗り越えるべきものを進み抜けるため、少年は剣を取る。…見つめる先には、硝煙漂う鋼の壁。…そこは戦場(いくさば)。…立つは告死者。…そして、少年はーーー次回、昇進試験その一』…私も…活躍する…」


「うむ。セティがどのような戦い方をするのか。楽しみだ」


「…コク。…頑張る」


「妙に張り切っているな。瞳の輝きが違うぞ」


「…見せたい」


「誰にだ?」


「…お楽しみ。…じゃ」


「…楽しみ…ふっ、そうだな。では…次の話も、捉えたぞ!」

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