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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
昇進試験編
73/411

初任務

「私は最近のストーリーに物申ーーーーーーすッ!!!!」


「な、なんだよ知影。出て来ちゃ駄目だろ…ちゃんと控え室にだな…」


「だって、だってだよ!? 前回の今回の予告とか、最近のストーリーとか、明らかにフィーナ贔屓だよね!? なんで弓弦×フィリアーナのカップリングが公式的に確定しちゃっているの、これじゃあ私は勿論、今後出てくるヒロイン達の負けが決まっているようなものだよ、ね!? 弓弦に心もフィーナに傾いているじゃん、なんで!? これは『俺と彼女の異世界冒険記』、俺は弓弦、彼女は私こと知影、つまり私がメインヒロインになるんだよね!? そうだよね!?」


「さぁて、な。第一、彼女が知影だって…いつ決まったんだ? まだ決まった訳じゃないだろう」


「最初のプロットだよ!! 私だよね!?」


「いやどう考えても違うだろ。そもそも一巻の表紙に描かれているヒロインと主人公が結ばれるのって…なぁ? ありきたり過ぎるだろ?」


「ありきたりでも、私が勝者!! そんなウッソなことは嫌だよカテ「うん止めよう」…なら今ここで、襲うッ!!」


「おわっ!? なら俺は逃げるからな!?」


「逃げるってどこに、どこまでだって追いかけるよ?」


「本編だよ!!」


「あ、そっか。じゃあ始まり始まりー」


「…ったく、書く方の身にもなってやれよ、そう言うの大変なんだから……」

 その日、俺とフィーと知影と風音はの四人は隊長室に呼び出された。


「…と言うことで、お前達新人四人に初任務(ミッション)だ〜!」


 どう言うことだ。


「はぁ…それで、内容は?」


「中を見てみろ〜」


 レオンから紙を受け取って内容を見る。


【スライムが界座標(ワールドポイント)15386にて大量発生中。ただちに現地へと向かいこれを殲滅せよ。ランクI】


 【ランクI】…中佐階級の人間一人でどうにかなる難易度か。


「…スライムか」


「あぁ、青くてシンプルなフォルムのあの「うん静かにしような?」」


 …確かに一番最初に想像するのはそのスライムだが、色々と危険な香りがするし止めておこう。


「この…界座標(ワールドポイント)とはどのようなものなのですか?」


「そのまんま、その世界の座標のことだ〜。例えば風音ちゃんやフィーナちゃんの居た世界だったら…界座標(ワールドポイント)【51694】だな〜、これはその世界が見つかった順番も表している、所謂通し番号みたいなヤツなんだが〜、ま~詳しいことは気にするな〜」


「…【Iランク】なら危険は少なそうだな。転送装置の場所へ向かえば良いんだな?」


「そうだ〜。転送装置に界座標(ワールドポイント)を打ち込めば行くことが出来るからこれを持って早速行ってこい!」


 ーーーチャチャチャチャチャン♪

 弓弦はインカムを手に入れた!


「…今のは一体何ですか?」


「雰囲気だ。気にしたら負け、良いな?」


 風音の疑問に笑顔で返す。

 そう、俺は、何も思っていない何も口遊んでいない。だから、安全だ。…何が? とは言わなきよう。


「畏まりました」


そして転送装置の前。


「クス、番号をここに打ち込めば良いみたいですね。皆様準備は宜しいですか?」


「あぁ」


「うん!」


「お願いね、風音」


 風音が転送装置に数字を打ち込んでいく。一つ一つ打ち込む前に、俺の方を見て確認してくるのが何ともおかしい。

 そして、風音がどうにか最後の数字を打ち込んだ瞬間、俺達を光が包み込んだ。


* * *


『よし! 着いたみたいだね』


 どこかの森に飛ばされた瞬間、インカムを通してセイシュウの通信が入る。


『数は凡そ三百…かな? 他に訊きたいことがあったらその都度通信をしてくれよ、サポートするから』


「了解。…スライムの数は約三百だそうだ」


「…普通に多いね」


「四人で行動というのも時間が掛かりますね」


 そこが問題だ。数が多いのでここは分担した方が良い…が。


「「無理だな(ですね)」」


 どうやら同じことを風音も考えていたらしい。

 常識人が居てくれるとこう言う時助かるものだ。

 何てことを考えていると。


「何か出て来たよ!」


 現れたのはドロドロと流動する謎の物体。


「セイシュウ、こいつが?」


『そう、それが今回の目標だよ。じゃあ、健闘を祈ってるから』


「こいつがスライムだそうだ。風音」


「承知致しました『クス…燃えなさい』」


 風音の火属性初級魔法“フレイム”(フィーナ曰く)がスライムを焼き尽くす。

 他には“ファイアーボール”なんて、随分とメジャーな名前の魔法もあるそうだ。


「何か…拍子抜けだね」


 スライムは蒸発して消えた。


「まぁ、こんなもんだろ」


 リィルが一人で熟せるような難易度。それを四人で行うなんて正直、余裕にも程があるな。


「また現れました!」


「こっちにもよ!」


「…弓弦!」


 今度は沢山出た。…ざっと二百は居るか? 明らかに多いが丁度良い。


「よし、魔法は禁止で誰が一番多く倒せるか、勝負といこうか」


 俺の実力がこの中で何番目にあるのか、知りたい。

 彼女達の誰かに負けるようじゃ、この先彼女達を守ることなんて出来ないからな。…ま、単純な力に限定した面での話にはなるんだが。


「賛成! 一番多く倒した人には弓弦のハグで!」


「…おい待て」


「ご主人様。カウントをお願いします」


「…俺は? 俺が一番多く倒したら?」


 自分で自分の身体を抱きしめるなんてことを、しないといけないのか?

 …。恋に身悶えする乙女かっ!!


「…クス、面白そうですね」


 無視かっ! まったくこいつらは……


「じゃあ弓弦の合図で!」


 拒否権選択権ここに在らず。


「はぁ…よーい、どん」


「「「……ッ!!」」」


 三人が俺を中心にして、三方向に分かれてスライムの群れに向かう。

 …はぁ、すっかりやる気が削がれてしまったが、一応俺も適当に頑張らないとな。


「見ててよ弓弦、私の妙技!!」


 知影(…まだ慣れないな)はそう言うと助走から入り、ロンダートからの後方倒立回転跳びと同時に弓を空に投げ、シライの途中でそれをキャッチ、身体を空中で捻らせながら矢でスライムを正確に射ていく。


「もう一丁!!」


 …からの、シライ2をしながらさらに矢を放つ。もう単に身体を捻りたいだけにやっているとしか思えない。


「それそれ!! もーらいっと!!」


 おまけにその途中で、串刺しのようにスライムを纏めて射抜いたりもしている。 いつの間にか彼女は人間を辞めていたようだ。まったく…なんでそう簡単に人間を辞めたような動きが出来るんだか。


「どうどう?」


「わー凄い。凄いぞー」


 嗚呼、素晴らしき棒読みかな。


「ご主人様、見ていてくださいね!!」


 そう言うとフィーは、鞘に収まった刀の鍔を指で押し出す。

 ん? あの体勢…鯉口を切った…? と言うことは…ッ!!


「行くわよ…!」


 刃を鞘走らせ抜く否や、一瞬の内にスライムの群れを通り抜ける。

 瞬きの刹那に彼女は刀を鞘に戻そうとしていた。

 刀が滑るように鞘に収まると、通り抜けた…否、斬り抜けられたスライム達は二つに斬り裂かれる。

 神速の居合い斬り…流れるようなその一連の動作は俺がよく知る剣術の型。

 『橘式抜刀術』の、一ノ太刀。その名も“一刀抜砕”。確か『バアゼル』との戦いの時に一度だけ直接見せたし、その後も色々、角度とかについて訊かれたことはあったが、ここまで完璧…と言うか、若干のアレンジを加えて完成させてたとは。また、練習したんだろうな…はは、可愛いもんだ。


「どうでしたかご主人様?」


「あぁ、良かったと思う…だが、いつの間に練習したんだ?」


「ふふ、何年一緒に居ると思っているのですか?」


 …視線が痛い。

 後ろからの視線が痛いっ。


「はは、それもそう…なるのか?」


 二百年に渡るコールドスリープの影響か、ずっと時間の感覚が曖昧だ。

 本当…俺とフィーって何年一緒に居るんだろうか。…なんて考えていることを知影に聞かれでもしたら、明日は血の雨だな。


「あらあら…御二方共凄いですね」


「…風音がそれを言うか?」


 ーーーだが、俺の見たところ、最も多く倒したのは風音だった。

 彼女は薙刀を巧みに扱い、スライムの群れを兎に角斬り刻んだのだ。しかもその速さと美しさが、尋常ではなかった。いやはや、味方で本当に良かった。


「クス、では私を抱きしめてもらいましょうか」


 だが意外だな。

 知影もフィーも、ご褒美目当てでかなりの数を本気で潰していた。なのにその数を、大してご褒美目当てでもないであろう風音が抜くとは。

 …あ、分かったぞ。アレだ。風音もきっと、勝負好きな人間なんだろうな。


「別にやらなくても良いぞ、知影が勝手に決めたことなんだから」


「折角ですし…思いっきりどうぞ?」


「そうか? じゃあ…」


 仕方無しに風音の身体を正面から抱きしめる。自然と彼女が俺の胸に顔を埋める形となるので、動悸が若干早くなっているのを知られるのが少し恥ずかしかった。

 …そう言えば風音って、何歳なんだろうか? 雰囲気からすると、大人の女性の印象を受けるんだが。


「…風音……くっ」


「…うぐぐ…ズルい…」


 どうせ俺がセティにしたのを羨ましがって提案したのだろうが、結局無駄だったな。…別にお願いされ…っと考えるな俺。


「風音、ご主人様があなたきゃんっ!?」


 風音から離れ、フィーを連れて行く。


「…フィー、こっちにおいで」


 せ、セーフ! 女性に歳を訊くなんて失礼にも程がある。…言い難いことを代わりに言ってくれる、その気持ちは嬉しいんだがなぁ。


「ゆ、弓弦? その鎖…何?」


「ん? あぁ気にしないでくれ」


 魔法の鎖。原理は謎…と言うのは冗談で、フィー曰く一種の魔法具だそうだ。…こんなリード紛い…用途が一切見えてこないが…な。はは、はは……


「わ……ご主人様、どうかされましたか?」


 お、鎖を引っ張っても犬思考になっていない……やれば出来るじゃないか。


「フィー、親しき中にも礼儀ありだ。男の俺が歳を訊くのはマナー違反だろ?」


「…大丈夫ですよ。風音も私と似たような人ですからきっと教えてくれますよ?」


 そう言ってくれるのは嬉しいんだが…何かな、ワザと口に出そうとしたような感が否めないのは、俺が変に疑り深くなっているだけか?


「とは言ってもな「十八です」…は?」


 風音が横から俺の顔を覗き込んで言う。


「十八歳ですよ私」


 ーーーその時、俺に雷が落ちた。


「なっ…な、な、な? 嘘だろ…」


 てっきり二十代後半だと思ってた……その歳でここまでしっかりしているなんて若いのに苦労しているんだな……。


「ふふ、初めて訊かされた時の私と同じことを考えていますよ?」


 成る程、考え方は似るものだな……俺も歳を取ったということか…ははは。


「…私と弓弦と同い年ってこと?」


「そういうこと「「違いますよ」」…じゃないのか?」


「厳密には私と知影様が同い年なのです」


 うん…成程。レオンじゃないがさっぱり分からん。


「…一応俺も十八の筈だが」


「ふふ、そうですね。お互い、心は十八ですよ」


 …そうか。心が…ね。

 永遠の十八歳…もう一歳若ければなぁ。


「『二人の賢人』は私達にとって二百年前の伝説の人物ですよ? 同一人物なのですから当然ではありませんか?」


「そ、そうか…」


 フィーもどこか辛そうな顔をしている。

 こういう時は…アレだ。何か気の利いた言葉を言ってやるのが大切…だよな。


「なぁフィー……お互い長生きしような」


 ……全然気の利いてない言葉だ、はぁ。


「えぇ、揺り籠から墓場まで一緒ですよ、ご主人様♡」


 言っていることが社会福祉の理念になっているぞ…でも、


「そうだな。フィーさえ良ければ…な」


「わんっ♪」


「…ムカつく」


 頬を膨らませて知影が文句を言う。


「まぁまぁ、二百歳違うだけですから」


「二百歳“も”違うの! 暦三回も戻ってきているよ!」


「「……」」


「あ…ごめん」


 …分かってても傷付くんだよ……何か複雑なんだよ…くっ。


「さ、休憩は程々にして、目標まで後何匹程ですかご主人様?」


 …休憩…と呼ぶものにしては精神的なダメージをかなり被ったような気がするが…きっと気の所為だと信じたい。


「ん、ちょっと待ってろ」


 コンコンとインカムを軽く小突く。


『どうしたんだい?』


「三百匹まであとどれぐらいだ?」


『待ってて…八時の方角に残り百匹だね。固まった場所に居るみたいだ』


「了解。西南西の方角に後百匹だそうだ」


 因みに先程の彼女達の討伐数は、知影が三十。フィーが十五(居合斬り一発だから仕方無し)で、残りは風音だ。


「つまりここから八時の方向ですね」


「固まって居てくれて良かったけど……」


「そうだな」


 八時の方向ーーー俺が今向いている方向を十二時として時計で八時、つまり西南西の方角に向かえば良いのだ。

 なので、その場所に向かう。


「それにしても…変わった森だね」


「そうか? どこにでもあるような森だと思うが」


 「ゲームで」と続けると知影も納得がいったみたいだ。


「…知影が言っていることも正しいかもしれません」


「言うな」


 …分かっている。ハイエルフだからこそ分かる「変わったこと」の原因。

 ーーーそう、この森には“本当の意味で”スライムしか居なく、他の生物が…居ない。普通は居るはずなのに、ここの生態系はどうなっているんだ?


「…兎に角さっさと終わらせるぞ」


 眼の前に飛び出したスライムを斬る。

 ビンゴだったらしく、再び次々と現れるスライム達。だが不思議なことに、一体だけ他のスライムとは明らかに色が違うスライムが居た。


「当たって!」


 知影の矢が黒いスライムを貫き穴を空ける、すると。

 黒いスライムの穴を他のスライムが塞いで大きくなるスライム。


「…おぁ…このタイプも居るんだな」


「ねぇ…王冠手に入れとかないと後々困っちゃうからしっかり剥ぎ取らないとね」


 次々と他のスライムを取り込んで巨大化する黒いスライムは3(マール)程の大きさになった。…知影には触れないでおこう。


「大きいですね…」


「少しは手応えがありそう」


 風音とフィーがそれぞれ武器を構える。


「こいつを倒せば三百匹。さっさと倒して帰還だな」


「弓弦…あのスライムからなんか出てきたよ?」


 知影に言われてスライムを見ると、確かに何かが出ていた。


「…まさか触手か?」


 べちょ。

 スライムから伸びる八つの触手がそれぞれ丸くなる。…正解とでも言っているのだろうか。


「知影!」


 触手がニ本知影に向かって高速で伸びる。


「え? …きゃあぁっ!!」


 知影が何故か、矢を外して足を掴まれ吊り上げられてしまう。


「馬鹿! 何やってんだ!!」


「だ、だって!! い、嫌っ、ヌメヌメするー!!」


 彼女はスカートを両手で押さえて必死に抵抗しているが、触手はそのまま、這うように知影の身体を締め上げていく。

 お前の頭なら予測出来ない攻撃でもないだろうに、油断のし過ぎだ!


「ゴク…ッ」


 フィー、何故生唾を飲むんだ…って、まさか!?


「おい、妙な気は起こすな「あ、捕まってしまいました♪」って言ってる傍からおい!!」


「あーれー」


「風音まで!?」


 知影はまだしもフィーと風音は明らかにワザとだろ! 今自分から捕まっただろ!?


「ヌメヌメ…嫌っ♪」


「ん…っ! ご主人様助けてください!」


「……弓弦様…早く…」


 なんで三人が三人共こんな馬鹿なことするんだ! …だぁっ、触手が三人の身体を我儘(わがまま)に這い回るから服も髪もベトベトに…っ!


 …。


 ……。


 ………これって、一種の触手プレイと呼ばれるものだよな……? グッジョブ…って、ハッ!?


「な、何言ってるの! 早く助けてよ!!」


 …だがこのまま放っておくのはどうだろうか。


 ……。


 ………。


『あ…っ! ご主人様に見られてる…なんて冷たい視線…ん、感じちゃう…っ♡」


 …………。


「シフト」


 銃口を風音を掴んでいる触手に向ける。


「悪いがその人を下ろしてくれないか? 下ろさないと撃つ」


 触手をうねらせて、風音の頬や身体を、線に沿って這う…どう見ても交渉決裂だな。

 …何、着痩せしてるだ…ん゜んっ、早く解放してやらないとなッ!


「撃つ」


 引き鉄を引き触手を撃ち抜いて風音を救出する。

 対話とはフィーリングが全て、何故簡単なコミュニケーションが取れているのかについては気にするな…って誰に言っているんだ俺は?

 …まぁ良い、答えを簡単に言えば、ハイエルフの能力ってことだ。


「弓弦様、遅いですよ」


「…はいはい、すまないな」


 何故俺が文句を言われるんだ。自業自得だろうに。


「ですが私を一番に助けられるのですね」


「まだ救いようがあったからな。喜んでいる節さえあるあそこの二人とは違って、嫌がってたし」


「これにはきっと感覚を敏感にする媚薬成分が含まれているんだよ、きっと。だから弓弦が助けてくれないと…私が薄い本の材料になっちゃうよ…!」


「……媚薬…で、でも私の身体を好きにして良いのはあの人だけよ…で、でも…っ、だ、駄目よ私…っ、くぅ…っ!!」」


 あの二人駄目だ。早く何とかしないと。


「はぁ…消去法でいけばこうなるよな?」


 もっともまともなのは、常識人風音。当然の結果だ。


「…左様で御座いますか」


 ん、なんか声音が冷たいような……そうか、着物駄目になっちゃっているし、凹むか。

 洗えば何とかなるとは思うが俺も正直、あんな軟体生物の液体が付いた服ってのは気が引ける。…今度、服屋物色してみるか。


「片付けるから風音はそこで待っててくれ。あまり動きたくないだろ?」


「戦いますよ。御気になさらず」


「いや、良い」


「……左様で、御座いますか」


 さて、どう倒したものか。


「…どれ」


 “アカシックボックス”で『ソロンの魔術辞典』を取り出して詠唱を始める。


『…業深き者を四重の戒めにて封じよ…目覚めぬ事叶わぬ永久とこしえの深淵たる地獄にて眠れ……!』


 フィーに抜刀術見せてもらったから、俺だってあいつの魔法を使ってみるか。

 まだ火属性の強力な魔法は覚えてないからな…蒸発させるなんて力技は出来そうにないから凍らせることに。…ほら、風と飛行と影のカードだけで水を何とかするには、凍らせるのが一番だってこと、照明してくれた少女が居るぐらいだし。

 この魔法…多分今の俺が使える最強の氷属性魔法だ、確か…上級の上に位置する封級魔法だったか。

 因みに『ソロンの魔術辞典』を出したのは全力で放つためだ。


「くらえッ!」


 ーーー発動した。

 “コキュートス”…彼女には遠く及ばないだろうが、雪月花ってやつだ。


「ここまでの“コキュートス”……!! ふふ、凄いわ…!」

 

 魔力(マナ)が巨大スライムを一瞬にして、綺麗な氷像に作り変える。

 それに銃弾を撃ち込み破壊して任務(ミッション)完了だ。


「納得いかない…! なんで助けてくれないの……」


「助ける必要が無かったからだ」


 本当に危なかったら言われなくても直ぐに助ける。…それぐらい分かれこの馬鹿。


「…ごめん」


 無視してインカムを小突こうとしたところで、感激したらしいフィーが瞳を潤ませているので、微笑みかける。


「~っ!!」


 うん、喜んでくれたみたいだ。


「セイシュウ、任務ミッション終了だ」


『…目標数倒したみたいだね。じゃあすぐに装置を送るよ』


「頼む」


 俺の眼の前に期間用の装置が転送される。


『全員で魔力(マナ)を送れば起動するから、起動したら「転移」と言うんだよ』


「了解だ。…よし皆。まずはそれぞれ、これに魔力マナを送ってくれ」


「分かったよ!」


「承知致しました」


 それぞれが装置に魔力マナを送っていく。すると装置が光を放ち始め、起動する。


「……」


「…フィー?」


 返事が無いと思ったら、フィーが少し感慨深げに装置と周りの景色を見ている。


「ご主人様…初任務(ミッション)もこれで終わりなんですね…」


「そうだな」


「ふふ、頑張りましょうね? これからも」


 返事として頭を撫でた後、俺は起動ワードを口にする。


「転移」


* * *


「お疲れさんだ〜。…で、最初の任務ミッションどうだったんだ〜?」


 帰還後俺達は隊長室でレオンに結果を報告していた。

 相変わらず隊長業務が忙しそうだが……ああ言うの、俺は遠慮したい。


「そうだな…【Iランク】だからこの程度なのか。…とは思っていたな」


「そうか〜、ま〜面子からすれば当然って奴だな〜。あ〜そうだ、受け取れ〜」


 レオンは俺に小さな袋を渡す。


「報酬だな〜。依頼(ミッション)達成が出来れば上から報酬が出るんだ〜、今回は最初ということで少し弾んでおいたからな〜」


 中には四枚のカードが入っていた。

 それぞれに俺達の名前が書いてあったのでそれを配る。


「それを以前渡した勲章に(かざ)してみろ〜」


 言われた通りにするとカードが粒子化して勲章に吸い込まれた。


「お金か?」


「そうだ〜、残高が知りたければ魔力マナを込めれば分かるからな〜」


 魔力マナを込めると¥100000と頭の中に数字が浮かんだ…多いな。

 物価は俺が知るようなものと変わらないような普通の値段だったような気がするんだが……


「これから必要な物品とかは自分で購入しろ〜。任務(ミッション)は各自の部屋にある端末から受けることが出来るから受けたら必ず俺の所に来い〜。本部から立会人が来るまではまだ日があるから熟せそうな任務ミッションはこなしてくれると助かるぞ〜、業務は増えるがな~…以上だ〜」


 レオンは自分の仕事に戻ってしまったので、邪魔にならないように隊長室を出る。


「…よし、折角だから食堂で飯を食べに行くか?」


「賛成賛成!」


「行きましょう!」


「クス、皆様が羽目を外さないように私も御一緒します」


 食堂に着いたら隅の席に座って思い思いに注文する。

 知影がストロベリーパフェ、風音が饅頭、俺がショートケーキ、フィーがチョコケーキを頼む。

 少しして届いたショートケーキを口に運ぶ。程良い甘さのホイップが口の中を優しく包みこみ、スポンジと合わさり美味しい。苺は勿論、最後まで取っておく。


「このチョコケーキも美味しいですけど…ご主人様のケーキも美味しそうですね」


「少し食べるか?」


 物欲しそうな視線を向けられてるし、少しぐらいならあげないこともなかったりしちゃったりなんか…ん゛んっ。


「はい!」


 ショートケーキをフォークで分けて正面に座るフィーの口に運ぶ。


「んーっ♪ 凄く美味しいです!! 私のもよろしければどうぞ♪」


 同じようにフィーもチョコケーキを口に運んでくれたので一口。

 ショートケーキを美味いがチョコケーキも中々上品な味をしていて美味しい。


「…ぁ。~っ!!」


 何故か赤くなるフィー。


「こ、このパフェ! どうかな!」


「どうしたんだ急に?」


 対角線上に座る知影が焦ったようにクリームが乗ったスプーンを俺に向けてくる。


「弓弦様、今御自分が何をされたか御分かりですか?」


「いや…「はい」むぐっ!?」


 口を開いた直後にスプーンが…美味い…美味いが…。


「よ、よし! これで弓弦と…♡」


「…本当に分からないのですか?」


 …何となくだが分かった。


「美味しいから自分のも食べて欲しかったんだろ? ほら、風音もケーキ食べるか?」


「……頂戴します」


 …うん、正解だったみたいだな。


「じゃ、口開けろ」


「…はい」


 丁度一口大の大きさが残っているのでそれを、隣に座る風音の口に持っていく。


「…あーん」


「「なっ!!」」


 何故かフィーと知影が固まる。


「あ、あーん…♡」


 なんとなくノリで言ってみたが想像以上に恥ずかしい。

 風音も嫌と言えばいいのに…なんで便乗するんだよ……~っ!!


「お、美味しいか?」


「……美味しいですね…美味しいですよ…何故こうも美味しいのでしょうか…?」


「か、風音…?」


「あぁ…! 分かりました…! きっと…きっとそうです…っ」


 な、何が分かったんだ一体…?


「…これ『スリープウィンド(眠りなさい)』…」


「お、おい風音?」


「風音には寝てもらいました。あのままですとご主人様に、危害を加える可能性があったので」


「そういうこと、風音さんは私がセティに預けてくるからフィーナと、ここで待っててね?」


 風音の身体を担ぎ急いで食堂を出て行った知影。…風音の身体が軽いとしても…どこにそんな力があるんだ?


「橘殿にフィーナ殿ではないか。初任務(ミッション)はどうだった?」


 入れ替わる形で食堂にユリが入って来た。


「問題無く終わったな、ユリこそどうした?」


 ユリは空になったパフェの入れ物を見て少し考え込んでからバナナパフェを注文する。


「座っても良いだろうか?」


「あぁ、良いぞ」


「ご主人様が許可をされているのなら私は構わないわ」


「では、失礼する」


 ユリがフィーの隣に座る。


「隊長殿から訊いたのだが、橘殿もフィーナ殿も私やセティ殿と同じ中佐になったのだな。良ければ勲章を見せてもらえないだろうか?」


「あぁ、ほら」


 隊員服のポケットから勲章を取り出してユリに見せる。


「功績から(かんが)みればこの程度は当然だな…すまない、感謝する」


「そう言えば、ここでのお金の価値はどれぐらいなんだ? そのパフェとか…」


「このパフェなら400円と言ったところだ。例えが悪いので申し訳無いが、2000円あればここの食堂で食べられない物が無くなるな」


 届けられたバナナパフェのバナナをスプーンで掬ってユリは答える。


「そうか」


 殆ど俺が知る金の価値と変わらない…か。


「どうした? 人のパフェを見つめて…や、やらんぞ…!」


 …ふと気になることがあった。

 ここは異世界なのに何故ここまで俺と知影が居た世界に色々なものが似ているんだ? 食べ物、通貨の単位も一緒。

 面白い偶然…と言い切れるものなのだろうか? いや、考え過ぎか?


「橘殿…そんなに食べたいのか…?」


 ここは異世界だ。

 俺達の世界とは違う世界、その程度の偶然はあって然るべき…かもしれないな。


「し、仕方が無い…なぁ…」


「なら、私がご主人様の代わりに食べるわ」


「フィーナ殿!?」


 …騒がしいな。


「…何してるんだ?」


 眼の前にはユリの持っているスプーンの先をくわえているフィーの姿が。 ユリ…百合か?


「ご主人様…面白いです…」


 慰めているように聞こえるフィーの言葉だが、眼を泳がさないでくれ……っ。


「……」


 いや、気にしてないからそこで悲しそうな視線を向けないでくれぇ…っ!!


「? 何が寒かったのだ?」


 …ぐ、そうか…ユリは覗くことが出来ないんだな。

 知影といいフィーといいトンデモ能力だ、プライバシーの欠片もない。


「…どうやら俺にはボケの才能が無いらしい…」


「つまり、ご主人様はツッコミ役が似合っている。と言うことよ」


「…確かに橘殿は言葉の切り返しが美味いと、私も思うぞ、うむ」


「……」


 悩ましいな、まったく。


「お待たせ〜! あれ? ユリちゃんも来てたんだ!」


 知影が戻って来た。彼女はユリが食べているパフェを見、フィーと何かしらのアイコンタクトをする…フィーが首を縦に振ると安心したように俺の隣に座る。


「ユリちゃんとどんな話をしていたの???」


 多いな疑問符。


「まぁ色々だ」


「へぇ…どんな話?」


「ここの物価についての話だ…ごちそうさま」


 そこでユリがパフェを食べ終える。


「まぁそんなところだ」


「部屋に戻られますか?」


「風音さんの様子を見に行く」


 席を離れて会計を済ませる。

 ユリの言った通り大して高い値段でも無かったので、俺が全員分払った。


「良いの?」


「問題無いだろ?」


「ありがとうございます」


「私の分も払ったのか…すまぬな」


「カッコ付けたいだけだから気にするな」


 そのまま俺達は502号室(セティの部屋)へ行き、ノックをする。


「…入って」


「邪魔するぞ」


 セティの部屋は鹿風亭のような和風の部屋であった。

 風音が内装を変えたのだろう。彼女達らしい部屋だ。


「あ、ご…弓弦様…」


 風音は布団から顔だけを覗かせて俺達の方を見る。

 異常な程の眠気にやられているのか、(まぶた)が重そうだ。


「大丈夫そうだな」


 着ていた着物は洗濯中だろうか、艦のモーター音とは別のモーター音が聞こえてくる。


「…はい」


「‘…着物、今度新しいのを仕立ててやる’」


「‘…承知……致しました’」


「じゃあセティ、風音さんを頼むな」


「…分かった」


 風音さん少し顔が赤かったな、熱でもあるのだろうか。

 心配だが…兎に角今はセティに任せて部屋に戻るか。


「‘橘殿’」


「何だ?」


 セティの部屋を出たところでユリが小さめな声で話す。


「明日、共に任務ミッションに向かわぬか?」


「良いぞ」


「そうか」


「私とフィーも行っても良い?」


「…あ、その…だな…」


 当然頷くと思っていたユリは首を横に振ると、衝撃の一言を言う。


「出来れば橘殿と二人で行きたいのだ……」


「「…………」」


 二人が固まる。

 はぁ…これは後のフォローが面倒だな……

「まーた(わたくし)」だけ出番無しなのですわね!? 何故(わたくし)だけがこうして予告要員として出してもらえないなんて納得がいきませんわぁぁぁぁぁぁぁ!!!! もう嫌ですわ! 新しい人、新しい人をお願いしますわッッ!!」


「えぇと…僕も居るんだけどな…「居ましたわ!!」」


「そうですわ、ルクセント少尉が居たではありませんの!! 同士ですわ、同士ですわぁぁっ!!」


「あ、あはは…そこまで感激されるとは思わなかったけど…予告…良いですか?」


「えぇ勿論でしてよ!! はい、これですわッ!」


「ありがとうございます…えぇと、『闇、そこは全てを呑み込む闇だった。光、二人が見たのは全てを埋め尽くす光だった。二人が触れたのは、触れてはいけない“何か”ーーー次回、ユリとのミッション』…それは未来であり、過去…」


「素晴らしいですわ!! では(わたくし)はお暇させていただきますわ」


「はい。心の強さが道を開くってね?」

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