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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
昇進試験編
72/411

お正月短編 “恐怖の鬼ごっこ”後編

「さぁ! 弓弦君には何してもらおうかな〜♪」


 所変わって俺の部屋。

 現在この部屋には朝トランプをやっていたメンバーの内、ディオが抜けたメンバーが揃っている。光景としては俺が部屋の中心に座らされ、周りを女性陣が囲んでいる状態だ。

 レオンもセイシュウも破れ、結局男性隊員は全滅したようだ。

 当然と言えば当然なのだが誰だ? あんな馬鹿みたいなゲームを考えたのは……


「クス、では私から言いましょうか。…そうですね、弓弦様に…これを着てもらいましょうか♪」


 笑顔の風音が取り出したのは、カツラと着物(可愛らしい柄)。

 因みにゲームで俺に、止めを刺したのも彼女であり、その内容は後ろから延髄を貫き、前から薙刀で首を斬り飛ばすと言うなんともえげつない内容だった。


「…分かったよ、じゃあ着替えてくるから…っ!?」


 脱衣所に足を向けた俺の前に、薙刀の刃が向けられる。


「何処に向かわれるので御座いますか」


「いや、脱衣所に向かおうとだな「許しません、許せるはずがありません、断固として許可致しかねます」…そうか」


 ここで着替えろと…はぁ。

 仕方が無いので着物を受け取り、着替えることに。

 羞恥心が無い訳ではない、と言うかあり過ぎるのだが、俺の下着姿なんか好んで見る人物など居ないと判断した上で、服を脱ぐ。


「「「「「……」」」」」


 …こいつらには羞恥心が無いのだろうか。まじまじと人の裸を見て、一体どんな趣味だよ。


「弓弦様、着付け御手伝い致しましょうか?」


「はは、それぐらい出来るさ」


 優香姉さんに教わってるから……まぁ出来るんだよ、結構完璧にな。それに、今の風音に身体を触らせると何されるか分からないし、なんか風音が怖くて仕方が無いんだ。


「えー!? 弓弦君出来るのっ!?」


「ふふ…」


 知影さんの反応はもっともだが、フィーの優し気な笑みが心に刺さる……

 別にそんな、女装趣味とかはないんだけどな…?


「…これで…良いだろ?」


「はい、とっても良く御似合いで御座います♡」


「…皮肉にしか聞こえないな」


「いえ、本心です…クス」


 そっちの方がある意味問題である。

 でも…うん、大丈夫だ、スイッチは入らない入れさせない。と言うか引かれる。

 それに視線が痛い。優しい視線に中に混ざっている百合百合な視線が危ないんだ…だが、鏡に映った姿はカツラの効果もあって…それらしく見えるんだよな。

 はぁ、どうしてこうなった。


「……次は私」


「着たままなのかよ…」


 今日一日この着物を着ていろと言うのか。

 …そうだよな、風音の小悪魔的な笑みはそう言う意味だろうな。


「で、何だ?」


「……私を抱きしめて」


「えっ!」「む?」


 うん二人共、その反応はもっともだ。


「……」


「…あらあら」


 言われた通り抱きしめる。

 ま、義兄としての務めの一つだと思えばどうってことはない。


「ん……ありがと」


「もう良いのか?」


 本当にこれだけで良いのだろうか。

 あっさりしていると言うか…あれだけ鬼ごっこで頑張っていたのにも拘らず折角のご褒美の権利を、この程度のもので費やしてしまうのかが疑問だった。


「…コク」


 珍しくとても嬉しそうな彼女の姿を見て一つ思い付いたことがあった。


「まぁ…なんだ…こんなので良ければこれからは好きな時にしてやるから…言ってくれ」


「……!!!! そうする」


 …まぁ、甘い態度見せても変に調子に乗ることがないからな。お安い御用ってやつだ。


「では私だ…そうだな。…時間がある時で良い、共に買い物に付き合ってもらえぬか?」


「あぁ良いぞ」


「そうか…! では知影殿とフィーナ殿の頼みも訊いたやってくれ」


 なんだ…意外と簡単なお願いばっかりだな。…なんて言うと、所謂フラグが立つものだが。


「私ね。…今晩…二人で少し……お出掛けしませんか?」


「良いぞ」


 これまた簡単なお願い。この程度のものなら当然、二つ返事で了承する。


「最後は私だね」


「あぁ何でも言ってくれ」


 さて…大本命知影さん。

 どんな無理難題が飛び出すんだろうか。


「…じゃあ、これからは私のことも呼び捨てにして。私もこれから“弓弦”って呼ぶから」


 …ん? 意外だな。そんなことを気にしていたのか…。だがそうか…そう言えばそうだったな。


「…知影、これで良いか?」


「うん! うん……弓弦!!」


 ーーー結局、本当に簡単なお願いだけだったので安心した。

 あんなに本気になって人を気絶させようとしているから何をお願いされるのかと思ったよ…本当に。


「…ま…こう言うのもたまには悪くないな」


「ううん…もう少し吹っ掛けても良かったかな…?」


「あら…まぁ良いじゃない。意外にあなたにもそんな、初心な心があったってことが明るみに出たのだから」


「…コク…無理なお願いは…ちょっと反則」


「うむ。程々が一番だぞ」


「クスッ、そうで御座いますね♪」


 …レオン達は大丈夫だろうか。


* * *


 ーーーディオの部屋。


 隣から楽しそうな声が聞こえる。

 弓弦もきっと今頃酷い目にあっているかな……はぁ。そんな僕はと言うと。


「う〜ん…流石にこれは参ったな〜」


「…僕もです」


 隊長と一緒にベッドに入っていた。…上半身裸で。


「ホモォ…ホモォ…っ」「腐腐腐…」「…このカプ…ありだわ…っ」「あぁ…堪らないぃぃ…」「こうやっていつも夜は二人で…」「「「「「キャーッ!!!!」」」」」


 …この艦に居る女性がここまで特殊な興奮要素を持っていたなんて…脱帽だよ。

 …弓弦なら彼女達を捌き切ることが出来るのだろうか。

 出来るか出来ないかは僕には…無理だ。


「…弓弦のツッコミなら全て捌き切れるんだろうな〜」


「…僕も同じことを考えていました」


「「「「「キャーッ!!」」」」」


 あまりの騒がしさに、隊長も僕も素晴らしくウンザリだ。  


「…ディオ。明日、お前さんとセイシュウと弓弦で隊長室に来い。…愚痴ろうな〜…は~…」


「そうですね…はぁ…」


 はぁ…早く明日にならないかな…。

 博士…どうしてるんだろう…?


* * *


ーーー研究室。


 拷問だった。


「…うーんっ! 美味ですわっ!」


 こんな悲惨なことが許されるのだろうか。…いや、許されないね、だって……


「なんで僕の前で甘い物をそんなに美味しそうに食べるんだぁっ!?」


「博士のためですわ。幾ら言っても糖分を制限しないので当然の処置でしてよ」


 ベッドに縛り付けられた僕は精一杯の声で叫ぶ。


「だからって…隠しておいたお菓子をいちいち全部引っ張り出すこともないよね!」


「うーんっ!」


「こんなのおかしい…これは絶対おかしいよ…僕の糖分が…」


「反省してくださいまし。…私如きに「糖分が…」不覚を取った「糖分が足りないよ!」ことを…」


 後半はよく聞き取れなかったけど、そんな些細なことより糖分が欲しい。


「これに懲りたら、明日からは糖分を控えることですわ」


「糖分が…」


 …弓弦君とかどうしてるのかな。

 …あぁ…甘い物が食べたい…。


* * *


 ーーー結局、あの後時間が空いたこともあり、俺はユリと一緒に、艦内の雑貨屋へと足を運んだ。

 何でも、買いたい物があるとか…ないトカ。


「橘殿と共に買い物に行くのは初めてだったな」


「そうだな。あまり俺はこう言った所に足を運ばないからな。それに…ユリだって忙しいだろ?」


「いや、別段そうでもないのだが」


 医務班の主任だから忙しいと思っていたが、案外そうでもないのか。…いや気を使っただけだな。

 しかしこの艦の医療班って何やってるんだ? 活動しているところを見たことがないんだが……


「…それで、何を買うんだ?」


「銃弾と…絨毯と…塩タンと…ランタンと…ラタンと…チタンと…ボタンだな」


「…武器にインテリアに食材に日用雑貨に合金に服飾品に果ては…(とう)だと…何に使うかは聞かないが、少しは忌憚(きたん)してくれ」


「このボケが通じた…だと、練習した甲斐が、ん゜んっ、驚嘆したぞ橘殿!」


 …ユリがこんなに冗談を嗜むなんてな。

 まぁ…所謂外伝話の補正ってヤツか?


「…で、何が買いたかったんだ?」


 感嘆の息を漏らすユリ。


「銃弾と簡単な雑貨だけだ」


「…嘘や冗談ではないな? 本当にそれを買いに来たn…のだな?」


 危ない危ない。危うく『来たんだな』と乗せられるところだった。

 忌憚と来たん…被らせる訳には、いかないよな。


「…なら手分けして探すか。その方が効率が良いからな」


「ふっ、場所は分かっているから問題無いぞ」


「なら荷物持ちか?」


「そんな重い物でもないから大丈夫だぞ」


「…なら何のために俺を?」


「…橘殿と一緒に買い物に行きたかった。…では、駄目だろうか」


 …ユリは自分の言っていることの意味が分かっているのだろうか。


「…それなら良いが…あまりそんな言葉を男に言うのは控えとけよ。…勘違いする奴が現れても知らないからな」


「心配しているのか? …ふっ、大丈夫だ。私がどこぞの馬の骨に言うと思うか?」


 それもそれで問題のような気がするんだが。


「…思わないな」


 フラフラとユリが付いて行くというのはあまり想像が出来ない光景だ。

 結局その後購入したのは本当に銃弾とボタンぐらいなもので結局俺が付き合う必要があるのかどうか分からなかった。勿論荷物は持たせてもらったが。


「それにしても銃弾なんてよく売ってるな。 普通支給品だろう」


 因みに俺のガンエッジの弾も、事前に支給されたものである。


「あれでは魔法を込めることが出来ぬのだ。狙撃では支給弾の方がコストが良いが、こうやって……っ」


 合わさったユリの両手から光が溢れる。


「…これで完成だ」


 出た、俺にも撃った大量破壊弾。こうやって作っていたのか。


「いざという時にしか使わない銃弾だ。事殲滅(せんめつ)においては威力、範囲共に申し分無いからな」


 …そんな弾を俺に放ったと。

 こんな…というのも失礼だが、こんなお願いのためだけになぁ。…女心とは良く分からないものだ。


「ふっ、付き合わせてしまってすまぬな。それよりもそろそろ、フィーナ殿との約束の時間ではないのか? もしそうならば行った方が良いぞ。私はまだ、やらねばならぬことが残っているからな、うむ」


 実を言うと、今日入っている予定は、ユリとの買い物だけじゃない。

 彼女との買い物の後は、フィーとの予定がある。

 …はぁ、女の子との予定次に女の子との予定か。見下げ果てたものだろうな、俺……


「…ん、もうそんな時間か。すまないな」


「む、何を謝る必要がある? 私は寧ろ、感謝しているからな、うむ」


「そうか…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうか、ありがとな」


「うむ、こちらこそ」


 控えめの笑顔。

 彼女が何を思って俺を買い物に誘ったのかは分からない。だが、この笑顔を見たら、理由なんてどうでも良くなった。

 彼女に感謝しながら俺は、フィーとの待ち合わせ場所へと向かった。


* * *


 フィーとの待ち合わせ場所は甲板。

 扉を開けると冷えきった風が俺に吹き付ける。


「待たせたか?」


「いいえ、私も今来たばかりです」


 嘘吐け。身体が微かに震え、肌が青白くなっているところから鑑みるに、あれから絶対待っていただろに。

 …上着の一つでもあれば着せてやることが出来たのだが悲しいかな、今の俺は着物を着た女装姿なので、上着など無い。


「…では、行きましょうか」


 フィーは俺の手を握り、“ある場所”へと連れて行った。


「…では、お願いします」


「…んで、何をすれば良いんだ?」


 食堂裏の調理室へと連れて来られた俺は、説明もせず去ろうとしたフィーの肩を掴む。

 彼女は恥ずかしそうに俺の顔を一瞥すると、


「…味噌汁…作ってください」


 それだけ言い残し、顔を真っ赤にして食堂へと出て行ってしまう。


「あ、おい!」


 勝手だな…まぁ良いか。

 味噌汁か…そういや鹿風亭での夜に約束したな…あまりのボケの多さに、殆ど無意識で突っ込んでいたから、忘れ掛けていた。


「〜〜♪」


 椅子に座って居住まいを正し、背筋を伸ばしている姿は幻想的な容姿と相まり、どこかのお嬢様と言った感じだ。が…犬耳がふにゃっと垂れている。あれは…多分俺が忘れ掛けたいたことを気付いているな。


「ふぅ…よし!」


 なら、俺の本気を見せてやる。


「折角のリクエストだ、待ってろよ…?」


 よし、まずは出汁作りと具材の準備。昆布を水に浸し、沸騰させないように加熱しながら、その間に豆腐や九条葱(何故かあった)と和布を丁度良いサイズに切り分ける。昆布を取り出して完全沸騰させた後、下にボールを置き、クッキングペーパーに包んだ鰹節にそれを注ぎ込み、染み出す汁から二番出汁を作る。ここまでなら普通の味噌汁だ。…ここまでなら。


『出でよ不可視の箱』


 “アカシックボックス”を発動して出現させた不思議な穴に手を入れ、目的の品を探す。…何かを掴むような感触に手を戻すと。

 ---『橘印の味の素』


「何故あるんだよ!?」


 っ、何なんだこの穴は! マフラーと言いおかしいだろ! …という突っ込みはさておき。

 それを少しだけ入れ、具材も投入。俺は穴に取り出した物をしまうと、今度は別の物を探す……感触が。取り出す。


 『橘印の特製味噌』


「…おい…この穴はアレか? 四次元に繋がっているのか、〇ラ〇もんのポケットなのか?」


 だが小さな声でツッコミを入れても誰にも聞こえるはずがなく、虚しくなったので、取り敢えずテキパキと味噌を溶かしていく。

 そして、


「出来たぞ…!」


 橘家の姉妹をことごとく虜にした特製味噌汁の完成だ。

 材料に俺が近所の方々と試行錯誤を繰り返して作った特製出汁と味噌を使ったので、味は町内会全員のお墨付きだ。

 その中でも優香姉さんなんか、毎朝作っても、飽きずに全て飲み干すぐらいに気に入ってたな。

 最初に飲んだ時は感動のあまりかどうかは知らないが、何故か泣きそうになって、困ったものだったが。


「フィー、待たせたな」


 フィーの眼の前に鍋から器に注いだ味噌汁を置く。


「…いただきます」


 恐る恐ると言った様子で味噌汁を軽く飲む。


「…!!!!!!」


 想像以上の美味しさだったのか、眼を見開き犬耳をピンッと立てる…犬耳を。

 そして超人的な速さで飲み進めるので、五秒とかからずに器は空になってしまう。


「うん…この味……っ! ご主人様の味よ…っ!」


 俺の味って何だよ。

 まぁ、嬉し涙が出そうになるほど喜んでくれたのならそれで良いのだが。


「おかわりよ! コホン…です!!」


「はいはい」


 結局、鍋はやはり空になった。

 つい作り過ぎてしまったから心配だったが、味噌汁は全てフィーの胃袋の中へと消えたので、無駄にならずに済んだようだ。


「…これからも…作ってくださいますか?」


「…コホン、犬風情がご主人様に命令するのか?」


「コホン、命令ではなくお願いよ。どうかしら?」


 そこで口調戻したか…何か張り合っているみたいだ。


「……よし、ならこれから俺が作った味噌汁は全部飲むこと。命令だ」


「わんっ!」


 あ、犬言葉になった。


「良い子だ」


 フィーの頭を撫でてやると、彼女は気持ち良さそうに眼を細めてはにかんだ。

 はは…こうして見ると笑った顔、イヅナと重なるものがあるな。美人姉妹…か、縁があるんだな。だとすると良い縁なのか?


「…じゃあそろそろ戻るか?」


 片付けを終えてからそう彼女に訊いた。


「はい。…今日一日は本当に楽しかったですね」


「そうか? 午前中は地獄だったような気がするけど」


「…そうですか? 私の犬耳を弄ばれた時は生き生きとしていらっしゃいましたけど」


「はは…もう一回味わいたいか?」


「駄目ですよ。あれをもう一度なんてぇっ!? ん…っ! んぁっ! やめ…」


 止めてやる。


「はぁっ…はぁっ…お願いですから止めて下さい…っ!」


 眼は潤み犬耳はピコピコと動く。…言っていることと考えていることが逆なのがよく分かる…なので、再開。


「ひゃ…なんで…続けるのですかぁっ!! んっ…! だから止め…」


 止めてやる。


「…止めてください…これ以上は…」


「良いのか? 本当に」


「……」


「素直になれフィー、もっとしてほしいんだろう?」


「もう…っ!! …お願い…します」


 俺は彼女の犬耳を、たっぷりと満喫した。

 うん、ハイエルフ、素直が一番だ。


「まだ今日が終わるまでもう少し時間があるな、どうする?」


 再び甲板に戻ってきた俺たちは、並んで壁にもたれ掛かり夜の暗闇を見つめていた。


「ふふ…私はご主人様の側にいられるだけで十分ですよ」


 そういうことを言われると、嬉しいな。


「なぁ、フィーは今、幸せか?」


「勿論です。今も、これからも……きっと」


ーーーピンポンパンポーン。


「ん? 今度は何だ?」


「あ〜マイクテスマイクテス…よ〜し。…アークドラグノフ各員にお知らせだ」


「あの男は無事だったようですね」


 あの男呼ばわりかよ…まったく。


「さて…どうかな」


「え〜アークドラグノフ各員に連絡だ〜。ただ今をもって年が明けたぞ〜! 明けましておめでとう〜ってヤツだな〜、ま~来年もよろしく頼むぞ〜っ!」


 そうか、年が明けたのか。…いや、昨日が大晦日だったこと自体初耳だが。


「らしいですね。…ではご主人様、来年もよろしくお願いしますね?」


 フィーが俺の手を握り、身体を預けてくる。…人肌の温もりは良いものだ。


「…あぁ、こちらこそだ」


 そんなこんなで暫く静寂に身を委ねていたのだが、不意に後ろが騒がしくなる。


「ここに居られましたか」


 声がしたので視線を向けると、気配を感じさせずに風音がそこに立っていた。


「弓弦様を発見致しました!」


「「風音!?」」


 その声にドタバタドタバタと階段を上っている音が。 


「探したよ弓弦」


 ディオが。


「……発見」


 セティが。


「…明けましておめでとうだ。橘殿」


 ユリが。


「おめでとう、弓弦君」


 セイシュウが。


「…フィーナとイチャコラ…私、最初のヒロインだよ…」


 …知影が。


「お〜お〜、全員揃ってるな〜? トウガ、後で店に行くからな~」


 レオンともう一人、トウガという名前らしい隊員がそこに居た。 


「ど、どうしたんだ一体…!」


「……風音…タイミング図ってたわね」


「セイシュウとディオには伝えたが、弓弦も明日隊長室に来いよ〜。明日もミッションは無いからな〜男同士で語ろうぜ〜」


「分かった…じゃあ皆」


「分かっていますよ、ご主人様」


「…後でこんな短編を考えた人にお仕置きしないとね…ふふふ」


「……それは駄目」


「来年も賑やかだと良いな…」


「クス、来年も、まだまだ冒険はありますね」


「…僕の戦闘描写。増やしてほしいな」


「博士は今回の短編であったのではなくて?」


 皆で笑い合う。

 はは…こんな日々も、こんな“非日常”も、悪くないな。


「お〜しっ! じゃあ皆、〆るぞ〜っ、せ〜のっ!」


「「「「「「「「「明けまして、おめでとうっ!!!!」」」」」」」」」


 太陽こそ昇っていないものの、皆の口から発せられた新年の挨拶はきっと、もう少しで昇るであろう朝陽に届くんだろうな。

 明けない夜はなく、陽は必ず昇る……そうやって時は進んでいくんだ。

 前へ、前へと俺は…俺達は、進むんだ! と言うノリで今回はおしまいだ!

「『迫る粘液! 乱れる乙女! 増える薄い本のページッ!! 煌めく刃は姉譲り、しかし鞘走らせ、駆け抜けるのは……真似真似わんわんおっ!! …そうして妻はまた一つ、夫に似ていく。妻が放つは夫の技、夫が放つは妻の魔法ーーー次回、初任務』…夫婦の絆は、そこにある」

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