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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
昇進試験編
71/411

お正月短編 “恐怖の鬼ごっこ”前編

 戦艦アークドラグノフーーーVR5空間内通路。


 俺こと橘 弓弦は“とあるイベント”で、VR再現された艦内を奔走していた。


「弓弦! 先回りされてる!」


 俺の隣を走っているのはディオルセフ・ウェン・ルクセント。愛称はディオ。

 そのディオが指差した方向には、五人の女性が。


「…っ! ディオ、他に道は!?」


「こっち!」


 …いきなりこんな状況から始まって分からない人も多いとは思うが、大丈夫だ。 俺もよく分かっていない。

 …と、言う訳で。どうしてこんな状況に陥ってしまったのか情報を整理しようと思う。申し訳無いが、少しの間、いや、長いと感じる人がも居るかもしれないが俺の回想に付き合ってもらいたい。


* * *


 その日の朝、アークドラグノフ内の隊員全員にある連絡が届いた。


ーーーピンポンパンポーン。


『あ〜マイクデスマイクデス。お〜い、全員聞こえるか〜? ま〜聞こえているよな〜』


「聞こえてるぜマイク! HAHAHA!!」


 朝から暇潰しにトランプで遊んでいた俺とディオと五人の女性は、頭上のスピーカーに視線を向ける。…うちの部隊の隊長はいつ、“マイク”になったのだろうか、知影さんの言動も含めて謎だ。


『聞こえているとして続けさせてもらうから、聞いていないヤツはドンマイだな〜』


「隊長が珍しくしっかり前置きしてる…ねぇ弓弦。僕凄くイヤな予感がするんだ…」


「…俺もだ。寧ろ嫌な予感しかしない」


「私は何か、凄く面白いことが起きそうな予感がするんだけど…ユリちゃんは?」


「知影殿もか。実は私も何故か武者震いがするのだ」


 俺やディオと正反対の予感を抱いているのは自称俺の恋人、神ヶ崎 知影と医療班リーダー、ユリ・ステルラ・クアシエトール。


「よ〜し! 言うぞ〜。これから『VR5』でアークドラグノフ内の全隊員強制参加のゲームを行おうと思う〜」


「ご主人様、ゲームだそうです」


 俺と同じ形の帽子の中で犬耳をピコピコを動かしながらこれまた嬉しそうにしているのは俺の犬フィーこと、フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナ。犬と言う言い方はかなり語弊があるとは思うが、要するに知影と同じく守ってやりたい大切な人であることには変わりない。因みに誇り高きハイエルフであり、俺の妻…になるそうだ。

 …一人の女性をただひたすらに想い続ける聖人君子…はぁ、今の俺からは遠く離れた言葉ってヤツだ。知影にフィー…本当に…参ったよな。


「…………楽しみ」


「クス、御恥ずかしながら、私も楽しみですね」


 まぁそれは置いといてだ。

 そのフィーの隣で正座している和服二人組、セリスティーナ・シェロック、本名イヅナ・エフ・オープストと風音もまた、ゲームの内容が楽しみなようだ…つまり、男性陣と女性陣で対照的な心境になっていると言う訳になる。


「ルールは簡単だ〜VRで再現されたごちゃごちゃ空間で〜女性隊員が男性隊員を追い掛ける形式の鬼ごっこだ〜、んで〜捕まえた時の景品は〜」


「…雲行きが怪しくなってきたな」


「……言わないで、これ多分…もう…」


 俺達はそれぞれが緊張の面差しで、次の言葉を待つ。


「捕まえた男性隊員に一つだけ何でもお願い出来る権利~……だと…っ!?」


 タッ。←俺とディオが立ち上がる音。


 ダッ! ←それぞれ逃げ出す音。


 ガシッ! ←ディオがセティに捕まる音。


 ヒュッ! ダンッ! ←俺が知影の手を避ける音と、ディオがセティによって床に叩き付けられる音。


 サッ! ←フィーが犬耳をピコピコさせながら俺の視界を横切る音。


 ムニュ。ズデンッ! ←反射的に俺がフィーの犬耳を掴む音と、フィー共々体勢を崩す音。


 カチャ! ←知影によって後ろ手の状態で手錠を掛けられる音。


 ちゅ。←おっと。


「…あらあら…うふふ、ではこのまま会場に向かいましょうか」


 唯一成り行きを見守っていただけの風音が仕方が無いと言わんばかりに扉を開ける。…その隠し持っている薙刀で一体何をしようとしたのだろうか?


「…弓弦、君は…馬鹿だね…」


「…ははは…返す言葉も無い」


 それぞれ拘束され、担がれるように運ばれて行った……











 VR5では、アークドラグノフ中の男性隊員が集められていた。勿論拘束済みで。


「お、俺までやらなきゃ行けないのかよ〜っ!」


「当然ですわ。あなたもアークドラグノフの“男性隊員”ですから」


「むぐ〜っ!! むぐぐぐふっ!?」


 何故か猿轡(さるぐつわ)まで付けられている男、八嵩 セイシュウの鳩尾を蹴って黙らせた女性、リィル・フレージュは先程の声の主、レオン・ハーウェルから紙を奪う(受け取る)と、レオンが話した内容の続きを読んだ。


「コホン…時間は今日の正午までですから…大体三時間ですわね。これでは報酬の期限が半日ではありませんの…まぁ、良いですわ。取り敢えず男性隊員は全力で女性隊員から逃げること。男性隊員は魔法禁止ですが、女性隊員の手段は一切問いません…らしいですわね…まぁVRですから武器、魔法共に使用しても問題無いでしょう」


「「「「「ありありだぁぁぁぁッ!!!!」」」」」


 アークドラグノフ男性隊員の心が一つになった瞬間である。


「サバイバル形式ですので、集団リンt…集団戦法も可能ですわね」


 今リンチって言おうとしたぞこの人!?

 と言うか…とんだハンデじゃないか!? 幾ら何でも分が悪すぎる…!!


「男性隊員の開始場所はランダムですが、女性隊員の開始場所は決まっているようですわね。後、捕獲に関してですが、捕獲条件と致しましては“男性隊員を行動不可にすること”要は気絶ですわ。女性隊員一名につき捕獲出来る男性隊員は一名のみということを十分留意した上でお願いしますわね。それでは、女性隊員は男性隊員を入口に放り込んでくださいまし!」


 …女性隊員が次々と男性隊員を投げ入れてく様はまるで玉入れのようだった。


「弓弦君、絶対に捕まえちゃうからね?」


「…絶対に逃げきるからな」


「ご主人様、私も全力でいきますから」


「……魔法「使いますよ、あなたを他の人に渡す訳にはいかないから」…」


 独占欲発揮かよ…はぁ、大変だ。


「……狙い撃つから覚悟を決めておけ」


「……」


 狙撃要因。


「…絶対…捕まえる」


「………」


 斬り込み隊長。


「クス…私はどう致しましょうか……」


 どうするのか考える素振りを見せる前に、その剣呑な視線を止めてほしい。


「…………ディオ」


「…何だい?」


「俺、逃げ切れると思うか…?」


「…………何とも言えないかな」


 「無理」と断言してくれない辺り、良心的だ。

 そして俺とディオもまた、VR空間へと放り投げられた……


* * *


 そして、だ。俺は運良くディオと同じ場所に転移させられたので、今行動を共にしているという訳だ。…と言っても狙われているのは間違い無く俺なのだが。


「振り切ったか!?」


「いや、まだ振り切ってない!」


「“クイック”か! …っ男だけ魔法禁止は無しだろ!!」


 マジで俺対策のルールみたいなものじゃないか…転移出来ないし…くっ。


「激しく同意するよっ!」


 角を曲がると、その先に道は無い。


「…弓弦! こっちは行き止まりだ!」


「なら…切り拓くだけだっ、シフトッ!!」


 銃形態に移行。


「そら!!」


 銃弾を発射して眼前に迫る壁に扉状の穴を開けていく。


「ディオ!」


「合わせるよ!」


 同時に床を蹴る。


「「はぁぁぁぁぁっ!!」」


 タックルして壁を壊し通り抜ける。


「穴を塞げば!!」


 後方に向けて射撃、壁を塞ぐが……


 ドカァァンッ! と爆発、意味無し全く。

 その直後、周辺に光の檻が現れようとしているのを、視た。


「弓弦! クアシエトール中佐の“クロイツゲージ”だ!」


「走れ!」


 すれすれで包囲が完成する前に走り抜けると、更に光の檻が。


「今度はフィーかっ、ディオ俺に掴まれ!」


「どうするんだい?」


「こうする…全弾発射(フルバースト)ッ!!」


 地面に向けて放ち、衝撃で檻を飛び越える。


「流石だね!」


 あいつらなんでこんなに連携が上手いんだよ!?

 く…っ、共通意識の下の団結…恐るべし!


「どうする?」


「全力疾走しかないだろう!」


 壁を通り抜けた先は草原。

 至る所で魔力(マナ)が活性化する気配が。えげつない…!


「他の奴らも頑張ってるんだ! 俺達が捕まってたまるか!!」


 実行部隊の面々と言ってもこんなハンデじゃ数で押されるんじゃないか…?


「…弓弦、前方! 戦闘が起こってる!」


「あれは…セイシュウか! 避けるか? それとも…突っ込むか!?」


 思った傍からセイシュウを発見。

 一対一…の感じだが相手は…?


「弓弦、上!」


 頭上を見上げると、雷と言う名の白刃が俺に向かって落ちて…こなかった。


「な…“ブリッツオブトール”…? どこに落ちた!?」


 魔法陣は展開された。つまり、魔法は発動したはずだ。だが、落雷は無かった。

 視てみると…何故か雷は、セイシュウに向かって吸い込まれるように落ちたようだ。


「…ふぅ、僕の近くで雷魔法は、一切意味を成さないんだよッ!!」


 雷に撃たれたはずのセイシュウは、俺とディオを抱え、猛スピードで駆け出して後続を突き離す。…“クイック”が掛かったフィー達から軽々と距離を開けるとは……セイシュウもレオンと同じく、かなりの実力を備えているみたいだ。大人の力って凄いな。雷を纏っているセイシュウは、普通にカッコ良いと思う。


「弓弦君! ルクセント少尉! 無事かい?」


「あぁ、助かった!」


「博士も戦えたんですね…」


 ディオも初めて知ったみたいだが、日頃の様子を見ていれば信じられないのも仕方が無いか。俺もそうだからな。


「僕も助かったよ。リィル君、僕の魔法や武器の特性を知っているから魔法を使ってこないし…ずっと受け身の戦いだったんだ」


 そう言いながら、セイシュウは身体と同じように雷を帯びたトンファーを腰にしまう。トンファー使いで特別な魔法を使える…まるで天魁星の宿星を持った主人公みたいだな。


「フィーも知影も結構距離が離れてる。このままなら逃げ切れる…か?」


「…間違い無くこのゲームで一番逃げ切るのが難しいのは弓弦君だね」


「…僕もそう思います」


 現実は残酷だな。まぁ俺自身…殆ど皆無に等しい可能性だと思っているが……はぁ、どう転んでも行く先は地獄…だな。

 …ふと、意識を集中すると近くで強い魔力(マナ)の反応が。


「セイシュウ、ディオ。…アレ、何だ?」


「アレって…アレ…だよね?」


「……」


 そこには、茂みに隠れるようにして“あるもの”が置いてあった。例え潜入(スニーキング)任務(ミッション)中でも何故か、中に入っていると敵に見つからないあの伝説の傭兵ご用達の偽装装備がそこにあったのだ。実際には違和感しかないから困る。


「……それでも君は隊長かい?」


 セイシュウがそれを取ると、中から体操座りをしているレオンが。


「…俺は〜隠れとるぞ〜。も〜イヤだからな〜…『腐腐腐…ッ!』とか言いながら人を追い掛けて来るんだぞ〜……」


 成程、セイ×レオカプを狙っているんだな。…恐ろしいものだ。


 ーーーアト、1ジカン、ノコリ4メイーーー


 電子音のアナウンスが残り時間を教えてくれる。


「一時間…だって」


「残りは僕達だけか…このままいくと逃げ切れそうだね」


「…だと、良いがな〜」


 三人は逃げきれそうだと気を緩めるが、俺の犬耳がある音を聞き取った。

 そうら…来るかも、な。


「…この音まさか…っ、三人とも逃げるぞ!!」


 俺の言いたいことを理解したセイシュウ、レオン、ディオの三人は襲い来るであろう脅威から逃走する。


「ゆ、弓弦…この数…冗談じゃないよ!」


「兎に角走れ!」


 艦に居る女性陣、こんなに居たのか!?

 …いや違う。きっとフィーが魔法で幻を見せているんだ! クソ、あいつめいつの間に…ッ!!


「弓弦君! 全員“クイック”がかかってる! 振り切れない!」


「振り切るしかないだろう!」


 俺達は全力で女性隊員から逃げ、茂みに隠れた。


「‘く…っ! どうすれば良いんだよ…!?’」


 このままでは捕まってしまう。

 周囲を見渡せば女性隊員が居り、皆様、息どうもが荒いご様子…俺達は捕まってしまうのだろうか……?


「‘…俺が囮になる。その間に弓弦達は逃げろ’」


 だが、立ち上がる男が居た。


「‘レオン…’」


「‘隊長…’」


「‘……すまない’」


「‘部下のために動くのが隊長ってやつだ〜。…気にすんな’」


 レオンは女性隊員の前に出ると、彼女達を引き連れそのまま遠くへ逃げて、逝った。

 …レオン、流石は隊長だ。その行動は、男として尊敬出来るぞ。


「よし! レオンの犠牲を無駄にしないように遠くへ離れよう」


 静かになったことを確認してから俺達はセイシュウ先導の下、その場を離れる。


「博士…」


「言うなディオ」


「でも弓弦…それじゃあまりにも隊長が「ディオ」…! ごめん…」


 ディオがあまりにも淡白過ぎるセイシュウの態度に抗議の声を上げようとするのを止めて、俺達は彼の後を付いて行く。

 ーーーその、震える肩には一切触れずに……


* * *


 ーーー遺跡エリア。

 あれから三十分程経ったのかな。

 逃げた先、遺跡エリアの扉の前で僕達は足止めを食らっていた。


「動くと扉が閉まるスイッチ…誰かがここに残らないといけないね」


「…嫌な仕掛けだな」


「…どうする?」


 遠くからバタバタと足音が聞こえる。…もうここまで来たのか…なら。


「僕が残る」


「………頼む」


 流石弓弦君だ、何が最も重要なのかをあの子はよく理解している。

 …これなら、大丈夫そうだ。


「弓弦! 博士! それで良いのですか!?」


「ルクセント少尉、たまには僕にも花を持たせてくれ」


「ですが…っ!「早くッ!」…ありがとう…ございます…っ!」


 続いてルクセント少尉も扉を潜ったのを確認し、トンファーを構える。


「…最近本当に運動不足気味だったからなぁ…良い運動になりそうかなっ!」


 弓弦君、ルクセント少尉……後は任せたよ。


* * *                              


 扉の先の狭い通路を俺達は走っていた。


「隊長に続いて博士まで…トウガも…」


 ディオはかなりショックを受けているようで、先程からずっとこんな調子だ。


「ディオ、悔やむぐらいなら、前だけを見てろ…今お前がすべきなのは、たったそれだけだ」


「弓弦…」


「多分俺達は……いや、ハッキリ言わないとな。俺達も逃げることが出来ないだろう…こう言った遺跡の構造上、経験からするとこの先はおそらく広場。…つまり、あいつらならそこで待ち伏せているはずだ。きっとな」


「じゃあ意味が無いじゃないか…」


「無意味にしないためにも精一杯抵抗するんだ。…最期の最後まで」


「……」


「背中、預けさせてくれ」


「…ありがとう」


 眼の前に見える大きな扉を俺達はゆっくりと開けていった。

 向かう先は…地獄。

 ここはそう、地獄の門なんだ……!!


* * *


 最後の女性隊員の身体にトンファーの一撃を沈み込ませ、一息吐く。


「…はぁ、はぁ、終わり…かな…」


 …あはは、やっぱり運動不足だね。


「昔はもう少し身体が動いたのに…はぁ…」


 眼の前に築かれた女性隊員の山が消えていく。

 どうやら気絶した時点で強制的に外に出される仕組みみたいだ。…それとも、幻、だったりして。

 確かハイエルフは、『失われた属性』の一つである(…と言っても、種族固有の魔法であるとされてるから、その枠組みに居れてしまうのは怪しい)幻属性を扱えるらしいから……


「で、終わりーーー」


 遺跡内に足音を響かせ、まるで僕が疲れるタイミングを図っていたかのように、最後の一人が現れる。


「ーーーでも…幻でもないみたいだね」


「しぶとい人ですわね。武術のみでこれだけの隊員を仕留めるとは」


「…リィル君」


 …僕が消耗するのを待っていただなんて…中々狡猾だね。

 参ったよ…かなり堪えてるんだけど…はは、普段動かしていない筋肉が痛い。


「始めますわよ」


 鞭が床を軽く打つ。


「いきますわ!!」


 襲い来る鞭に対し得物を構え、正面から突撃した。


* * *


「(やっぱり…か)」


 扉の先の広場には、やはりあの五人が俺とディオを待ち伏せていた。

 あの雰囲気…まるで大ボスだな。


「待ってたよ、弓弦君」


「…絶対に捕まえる」


「うむ、時間が無い。覚悟してもらうぞ」


「ふふ、ご主人様。全力でいきますからね」


「右に同じです」


「…弓弦…皆眼が本気だ…」


 五人の気迫に気圧されたのか、ディオが思わず後退りする。


「ディオ、捕まりたいか?」


「…お断りだね!」


「…あなたの相手は…私」


 引き付けるためか、ディオが俺から距離を取って駆け出し、セティがそれに続いた。


「例え副隊長でも、負けるわけにはいかない、よ!」


 ん…おい待て。


「なんでそんな正直に一対一で戦うんだぁぁっ!?」


 襲い来る魔法と弓と銃弾の嵐。

 そのどれも脅威だが、最も脅威なのが…!


「クスクス…!」


「…っ!」


 …風音の薙刀である。ノリノリなことで結構だが、眼が笑っていないんだよこいつ…!


「下がれ!」


『プロテクト!』


 ユリの号令により、一斉に距離をとる女性陣。…防御魔法を掛けるためか…いや違う、これは……!?

 その直後にユリが放った銃弾が、俺の近くで光を放ち始める。

 …囮…? え、嘘だろ?


「た〜まや〜」


 嘘 だ ろ ッ!?


 ドゴーンッッッ!!!!!!


 大 爆 発。


「うおわぁぁぁぁぁっ!?」


 衝撃でエリア内の柱が崩れ、ノイズと共に天井が崩落する。

 VR空間だからこそ落下してきた天井が途中で消えて良かったものの、現実だったら最悪、場の全員お陀仏だったかもしれない。あまりに本気…と言うか、酷過ぎる。


「く、クアシエトール中佐……」


 ディオも腰を抜かしたみたいだ……


「む、外したか」


「も〜何やってるのよユリちゃん!」


「まさか疑似的とは言え(めつぼう)の光…!? それを平気で放つなんて…なんて恐ろしい子なの…!? 無事で良かったわ…っ」


 …フィーは知らない間に人間の文化について学習を深めているみたいだな。それとも、俺の記憶から情報を覗き見たのだろうか。

 「無事で良かった」…さて、誰に向けて言った言葉なんだ? フィーよ。


「クス、綺麗でしたね♪」


 …。もう鬼だよ風音(この人)…!!


「…かーぎやー」


 可愛いなぁ…っ、じゃないっ!!


「ユリ! 人を殺す気か!」


「む? 勝負に待ったは無しだぞ? 橘殿」


「惜しかったなぁ…後少しだったのに…もう少しで弓弦君の身体が…ふふふ」


 く…っ、あのトンデモ弾を放つなんて…どこまで本気なんだよ皆っ!


「あ、あぁ…ガク」


「っておい、ディオ!?」


 …まぁ、あれを初めて見たらそうなるよな。

 消えていくディオ……はぁ、残るは俺…だけか。


「…止めないか。こんな争いは誰にとっても無益だ、なぁ皆、止めよう、な!?」


「ふふ、無益じゃないから大丈夫ですよご主人様。それだけの価値があるものなのです」


 そうかぁ…そうですよね…わーい。

 …と、冗談はここまでだ。さて…逃げるか…いや無理だ。この距離で背中を向けるのは危険過ぎる。

 …。まず五体一のこの状況でセオリーとなる方法は圧倒的な火力で蹂躙するか、各個撃破の二つ。魔法が使えない以上前者は無理だ、それで、気絶することが敗北の条件なら…っ!


「シフト!!」


 各個撃破しかないよな!


「勝たせてもらうからな!!」


 矢と銃弾を撃ち落とし、斬撃と魔法を避けながらフィーに迫る。


「取った!!」


「きゃあっ!?」


 “ちょったした手品”で彼女の帽子を奪って背後に回り込んで、そのまま羽交い締めにする。…これも戦法だ、勝つために…手段は選んでいられない。


「…っ、嬉しいけど、場所と状況を考えて! 離してっ!!」


「な…卑怯だぞ!」


「弓弦様! それはあまりにも!」


「…狡い」


「弓弦君と密着…良いなぁ」


 目的は敵戦力の無効化。

 帽子が取れて露わになったフィーの犬耳に俺は…っ!!


「ひゃっ…あぁっ!」


「いつかの仕返しだ…!!」


 カプッとフィーの犬耳を甘く噛む。


「きゃんっ!? か、噛まないでくだ「許せ、フィーっ!!」ーーー!?!?」


 少しずつ力を込めていくと、コリっという音と共に、彼女の身体から力が抜ける。


「~っ、きゃうぅぅんっっ♡」


「…おっと」


 甘い声と共に身を預けてきた華奢な身体を、そっと抱きしめる。「おやすみ」と囁きながら金糸のような髪を撫でると、幸せそうに小さく呻いた彼女の身体が消えた。


「悪いな、次だ!」


 今度は知影さんの側に移動する。

 常套手段、片付けられる奴から片付ける!!


「…ゆ、弓弦君…何をするつもりかしら…?」


 ーーー許せ!!


「‘好きだ、知影’」


「え…?」


「‘…っ、愛してる’」


「なっ…なっ…ななっ…!」


「‘なぁ知影ーーー’」


 有りっ丈の言葉を早口でならば!


「ーーーわぁ♡ 嬉しい…私もだよ…? …ふふふ、夢みたい…♡ ぁ…」


 耳元で囁くと知影さんも気絶する。

 彼女は本当にこういう言葉に弱いので助かった…が、最低だ、俺…っ。


「後三人…ッ!」


「…これ以上…させないっ!」


 ユリへと向かう俺にセティが割り込む。

 何と言う罪悪感ッ!

 何と言う虚無感ッ!!

 押し潰されそうになる…だが、守りたいものがあるんだッ!!


「…っ…でりゃぁぁっ!!」


 義妹と言えども、敵ならばッ!!


「やらせませんッ!」


 当然風音がセティの前に現れ、攻撃を受け止める、だが!!


「…それを待ってた! 一斉発射(フルバースト)ッ‼︎」


 反動で、一人になったユリの下へ。読み通りッ。


「シフトッ!!」


 再装填(リロード)

 ここから先は、小細工が通用するメンバーじゃないだろう……だから、斬るッ!!


「く、来るな…っ!」


 怯え過ぎだーーーッ!?


「…なっ!?」


 剣形態に移行したガンエッジでそのまま、仕方無しにユリの身体を貫……こうとしたところで勢いを殺せず体勢を崩して、ユリに打つかる。


「あ」


「あ、あう…あうあうあうあうあう…~っ!?」


 ーーーそれは、本日二度目の感触だったと言っておこう。

 これが以外にも柔らかくて驚いた…って最低じゃないか俺…後で謝らないと。


「…弓弦様、程々になさった方がよろしいかと」


「……激しく同意」


 不幸中の幸いか、ユリが気絶したので残るは二人。

 二人共恐ろしい程に怒っていらっしゃる……と言うことで小細工は終了だな。

 ん? 足が……ッ!?


『“バインドウォーター”』


「…御覚悟は宜しいですね」


 動かないな…ははは……


「せめてもの情けで御座います」


 (かんざし)を髪から抜いた彼女はそれを咥え、ゆっくり背後に立ちクスリと笑った。


「最後に何か、言い残すことは御座いませんか」


 前方では、俺も良く知っている刀身を持った刀が、振り上げられる。


「良い…早くやれ」


 …。天罰覿面…か。だがな、俺は、戦い切ったぞ。

 フィーに、知影に、ユリに…三人を倒してみせたんだ。

 …俺は、俺が想うがまま、俺が望むまま……っ。


「クス…見事ですッ!!」「ッ!!」


 首の後ろに走った鋭い何かともう一つ、前に添えられた刃が走った光景を最後に、俺の意識はブラックアウトした……

「『男達の夢の跡。敗者に与えられた道は、従う…ただそれだけのみ。泣こうと、喚こうと、地を這い、救済を求めるしかないのだ。救いの光は、何処(いずこ)にーーー次回、お正月短編“恐怖の鬼ごっこ”後編』…渡る世間は鬼ばかり…男達よ、受け入れよ」

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