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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
最初の異世界
48/411

天守にて待ち受ける者

 突如湧き上がった感覚は、全身に活力となって行き渡る。

 まるで活力の噴水のように、力が漲ってきた。

 レベルアップってこんな感じなのだろうか──? ふと、そんな思考が過っていた。


「…ん?」


 何故こんな時に。

 自らの胸に手を当てながら困惑する。


「…どうかされました?」


「あぁ、いや……」


 脳内に、とある単語が浮かんでいた。

 “シグテレポ”。先日『ソロンの魔術辞典』の中で会った人物が告げた二つの魔法の内、一つだ。

 必要となった時に使えるという話だったが、まさかこのタイミングで浮かぶとは。


「(…必要なのは、目印。…で、目印を残しておくと…成程、そう言うことか。目印…記すための道具…あ、確か……)」

 

 弓弦は“アカシックボックス”を発動させ、不可視の箱の中に収納していた一本の魔法具を取り出した。

 美しい純白の羽があしらわれた、『魔力筆』と呼ばれる羽ペンだ。「魔力マナを込めることで、特定の魔力マナにのみ反応するインクを出すことが出来る」──とは、このペンを収納した時のフィーナの言葉だ。

 勿論インクを付ければ普通のペンとしても使える。

 弓弦は不思議なペンを片手に、鹿風亭の入り口の目立たない所に五芒星に似た小さな魔法陣を描いた。


「良し、こんなもんだろ」


 思い浮かんだ魔法陣と相違無い完成度に満足しつつ、道具をしまう。

 それから少し現王の話を訊いた後、人眼を避けながら城の側へと向かう。


「(現王…か)」


 その道すがら、従業員の話を整理する。

 病で崩御したとされる先王から王位を継いだ現王は、即位するなり権威を振りかざす愚王だった。

 邪魔立てする側近は、容赦無く打ち首もしくは家を取り壊し、周りを従順な部下で固めたかと思いきや──政は部下に任せ、日々自堕落な日々を過ごしている。

 王としての立場を良いことに国の金を使い、夜な夜な他国から集めた美女との宴席を催しているとの話も聞いた。金が不足し始めた途端に税を厳しくするものだから、国民からの信頼は地に堕ちているのだとか。

 愚王にして外道、ここに極まれり。

 畜生にも程がある、大うつけ者だった。


「(よくもまあ、謀反が起きないもんだ。…いや、時間の問題なのかもしれないな)」


 城が近付く。

 『ジャポン』の裏通りは、長屋が並んでいた。

 まだ朝早い時間ということもあり、静かな場所であったが、時折土を被った男達の姿を見る。

 長屋自体もそう立派なものではなく、瓦屋根の崩れている家もあった。

 あまり裕福ではないのだろう。

 貧富の差が生まれるのは、仕方が無いといえば仕方が無いのだが──。


「(あんな王の話を聞くと、国の秩序が乱れているから…なんて色眼鏡で見てしまうな)」


 人々の営みを横眼に、そんなことを考える。

 上には上が居るが、自分が元々暮らしていた国と似ている国であるが故に嘆かわしくなった。


「先程の魔法陣…一体何の効果があるのですか?」


 右へ左へと視線を彷徨わせる弓弦に、フィーナは疑問を打つけた。

 見慣れない魔法に、興味が湧いたのだった。


「あぁ、あの魔法陣はな、昨日覚えたばっかりの魔法の目印だ。念じればすぐ魔法陣の場所に転移が出来ると言う、転移魔法のな」


 目印の数だけ、転移先が増える。

 いつでもどこでも瞬く間に──それだけで有用性が分かる便利魔法だ。

 あまりに距離が離れ過ぎてると転移出来ないかもしれないが、瞬間移動というのは決まって便利な魔法だ。


「魔法陣を目印に、瞬間移動? 凄い便利な魔法ですね」


「あぁ、きっと冒険には欠かせない魔法だな」


 弓弦の脳裏に、とある思い出が浮かぶ。

 かつての日常の中で、一度は使えたらと思った魔法に似たようなものがあった。

 一度行った町や施設に、一瞬で行ける魔法──というか、呪文だ。天井のある所では使えない。

 まさか自分が使えるようになる日があるとは。人生何が起こるか分からないものである。


「ふふっ、日帰り旅行も簡単に出来そうですね♪」


「そうだな。帰りは、一っ飛びだ」


 城が、眼の前に迫った。

 石垣で囲まれ、城門は来る者を拒むように閉ざされている。

 門には見張りの兵が居り、気怠そうに警備をしている。


「…王はどうします?」


 フィーナは緩んだ表情を一転、静かなものにした。

 その顔の裏に、人間への憤りが宿っている。


「敵で、場合によっては斬るかもしれないな」


 何事も無ければ、それで良い。

 しかし手を出してくるのなら、相応の報いは受けてもらう。

 愛剣の鞘に触れながら、弓弦も表情を引き締める。

 敵となるのなら、斬る必要性が生じてくるというもの。

 斬らなければ、こちらの生命が脅かされるのかもしれないのだから。


「フィー、お前は……」


 彼女を危険に遭わせたくない。

 そんな思いで口にしようとした言葉を、弓弦は呑み込んだ。


「お伴しますから」


 言ったところで、大人しく従ってくれるような瞳を彼女がしていなかったのだ。


「…はは、そうか」


 弓弦の読み通り、彼女に引き下がる心積もりはなかった。

 「最悪、一国と争うことになっても構わない」と、そう言っているのだ。

 彼女がそれに反対をする理由は無いし、その真意が分かっている故にしようとも思わない。

 弓弦の今の行動原理は、自分を想ってのことだ。

 「妖精狩り」の真意を問うために、彼は王の下へと向かっている。

 どうして止めることが出来ようか。


「訊くまでもありませんよ? ご主人様」


「そうか」


 二人で足並みを揃え、空を仰いだ。


「行くぞ」


「はい!」


 呼吸を整え、魔力マナを高める。


『『勇ある者に風の加護を』』


 風音の無事を祈り、戦いの場へと二人は飛翔する。

 行き先は──城の天守。


「(人間の…王……)」


「なぁフィー」

 

 風を受けながら、空へと近付く。

 どこまでも清々しい風を二人で浴び、人眼を避けながら空を駆ける。


「風音さんのような人間も居ること、忘れるなよ?」


 呼び掛けられたために隣を見たフィーナの髪に、弓弦の手が伸びた。

 帽子の上からくしゃくしゃと撫でられると、たちまち心に幸福が広がった。

 天守で何が待ち受けているかは分からないが、二人なら大丈夫だ。

 天守が近付くにつれて人間への嫌悪感に沈んでいたフィーナの表情は、再び幸せを宿すようになる。

 地上から、高度数m(マール)までの天守まで。一気に速度を上げると、二人は城内へと突入した。











* * *


 襖を横に引き、中へと侵入する。

 そこはやはり王の間だった。

 部屋一面に時代劇で見るような虎や龍が描かれており、こんな状況や心境でなければ俺は素直に見入っていただろう。

 さぞ、高名な絵師の手によるものなんだろうな。素人眼にも分かる迫力と躍動感に満ち溢れていた。

 まぁそんなことが分かるのも、それだけこの東の国が俺が居た世界の国、日本に似ているからなのだろう。

 皮肉なことに今の俺とフィーナは、場合によってはこの国の王を殺めようとしている。時代が時代なら不敬罪ってヤツだろうな、きっと。

 …ま、喧嘩を売られたんだ。国を訪れただけの旅人を殺そうとする王がどんなものなのか、しっかり見せてもらおうじゃないか。


「……」


 王間には、一人の男が畳の上に胡座あぐらをかいていた。

 考えるまでもない。この男が王だ。愚王ともっぱらの噂の。

 なのに、


「(…随分と威厳があるな……)」


 纏っている覇気が、どうにも噂とは異なる。

 自堕落な王じゃなかったのか?

 もう少しどっぷりとした体型を予想していたんだが──あまりにも肉体が出来ている。

 白髪の老人の見た目をしてはいる。だが袴の上から窺えるフォルムは、あまりにも筋肉質だ。

 鋼のような、武士然とした肉体──こんな男が、本当に女と金に狂う王なのか?

 噂の印象と、ほぼ世界一周分違う。影武者を疑う程に、だ。

 並の王がここまでの威圧感を持っているのか? それとも単に、俺が王と言う存在を知らなかったがための事象なのか。

 眼の前の男は、只者じゃない存在感を──言葉にすると陳腐に聞こえるが、王者の風格を持っていた。


「……世が玉座に、何用だ」


 老人は刃のような視線を俺たちに向けてきた。

 見定めるような、鋭い視線だ。小心者なら、睨まれただけで気絶してしまうかもしれない視線だった。


「…ッ」


 何だこの強者の視線は。

 それに、隙が見付からない。

 幾多も戦場を乗り越えてきた、武人気質の王──『ジャポン』を治める王を見ての第一印象はそんなところだ。

 少なくとも人の生命を殺めることへの抵抗は無さそうだ。


「……」


 フィーも、違和感を抱いたような瞳をしている。

 人は見かけによらないとは良く言うが、それにしても──おかしい。

 妥当なのは影武者と言ったところだが…さて。


「突然の訪問、失礼する。王に対する態度としては無礼になるんだが、幾つかの質問に答えてもらいたい。よろしいか?」


「賢人…か。良かろう」


 賢人…か。

 妙に落ち着き払っているな。空を飛んで来たのだから、俺達が彼らが言ったところの「賢人」であるのだと理解することは容易だ。


「(だとしても、今朝方刺客を差し向けた者達の訪問に対して、こうも落ち着けるものか…?)」


 豪胆な男だ。

 その態度を支える何かしらの用意があるのか?


「…一つ。『鹿風亭』に兵を派兵したのは、あなたの命令か」


「…如何にも。世の命令だ」


 返答には、数秒の間があった。


「二つ。何故俺達を狩ろうとする?」


 王は小さく鼻を鳴らした。

 皮肉気に顔を歪められた王の顔に感じるのは、違和感。

 まるで当事者ではなく、傍観者のような印象を受けた。


「(コイツ……)」


 俺の中で、とある予測が立った。


「哀れな“英雄”に、死に場所の下賜を考えたまで」

 

「はは、そりゃ光栄なことだ。だが生憎、まだ死ぬつもりはなくてな」


「ク…ッ」


 王は小さく笑う。

 まるで俺の意図が読めているかのように。


「…じゃあ三つ」


 ならば、その思惑に乗ってやろう。

 俺は三つ目の質問と同時に、失礼を承知で人差し指を立てた。

 

「あなたは…誰だ?」


「‘…ユヅル?’」


 フィーナから驚いたような視線を向けられる。

 それはそうだ、眼の前に居るのはこの国の王──普通に考えればそう(・・・・・・・・・)だ。


「此の国を統べる者だ」


 眼の前の男は、確かにこの国を統べる者。そう、極々当たり前のことだ。

 だというのに、俺の中で警鐘が鳴っていた。


「そんなの分かっている。俺が訊いたのは別のことだ」


 何か、おかしい。

 この得体の知れない違和感は、何だ。


「…では、何と答えれば善いのだ?」


 不敵に笑う王。

 まるでこちらを試しているかのようだ。


「…王よ」


 まぁ良い、こうなればそのまま疑問を打つけるだけのこと。


「お前は…人間か?」


「え…?」


 眼の前の“王”は、本当に人間なのか。

 自分でも何故疑問に思ったかは分からない。だが、これまでの俺の経験…とも言えるものが、自然と俺にその質問をさせた。

 経験と言っても、恥ずかしいことにゲームだ。

 噂と違い過ぎる姿、そして只者とは思えない程に威厳に満ちた気迫。

 存在感が、人間の枠組みを超越しているように思えたのだ。だったらまず、人間であることを疑う。

 そしてそれは──


「ふむ…流石は“選ばれし者”と、云う事か。確かに“我”は人ではない。…では、何者だと?」


 王は口角を僅かに吊り上げ、眼光をさらに鋭くした。

 どうやら、俺の予測は当たっていたようだ。

 だが…選ばれし者? …どこかで聞いたことがある言葉だ。

 まぁ良い、それは思考の隅にでも追い払っておこう。

 今は、眼の前の問題だ。

 もし俺の予測が正しければ…俺達は、とんでもない存在と再び(・・)対峙していることになる──!


「まさか…いや、でも…ご主人様」


 フィーナも多分、俺と同じ答えに辿り着いたようだ。

 徐々に王から溢れつつある気配に察するものがあった様子。

 当然だ、俺より“奴”について知っているのだから。

 そして俺と同じく、“奴”がもう居ない存在であることを知っていた。

 だから信じられないように、王の姿を凝視していた。


「お前は…」


 紡ごうとした言葉が、喉の奥で引っ掛かる。

 …正直、言いたくない。ありがちな展開に繋がるありがちな切っ掛け──そう、“フラグ”だ。“フラグ”過ぎて、今からにでも逃げ出したい気分だ。

 これは言うなれば開戦の狼煙。口にしてしまえば、ただでは済まないだろう。

 だが、これも一つの運命さだめなのか? 見てしまった、出会ってしまった、知ってしまったからには──見過ごせない。

 やるしか──ない。


「『バアゼル』…!」


 俺とフィーナの──否、王の間自体を、深い闇が一瞬にして包んだ。

 闇に浮かぶ、不思議な紋様。

 幾重にも走る魔力マナの光が織りなすそれは、紋章。

 五本の指から垂らされた糸で人を思わせる模様を吊り上げ、その首筋に鎌を当てている蝙蝠が描かれた紋章。


「あの…紋章……まさか、本当に…!?」


 謎の空間の中で王の姿が霞んだかと思うと、一瞬にして翼が広げられた。

 続いて禍々しさが具現化したような体躯が現れ、圧倒的な量の魔力マナが溢れた。


「「…っ」」


 凄まじい衝撃波が、全身を打ち付けた。

 瞬く間に瞳が乾く程の風の中、“それ”は俺とフィーナにとって因縁のある姿を取っていく。

 巨大な蝙蝠こうもりを思わせる、悪魔の姿へと。


【……人の刻では随分と久しい事になるか。我を討った者達よ】


 …あぁ、この威圧感。

 眼の前に存在しているだけで、背後に「死」を感じる。

 畏怖の感情さえ覚えるプレッシャーは──出来れば、二度と感じたくなかった。


【否、お前達からすればそう遠い日でもないか】


 見紛うはずもない。

 俺達の前に顕現したのは、『支配の王者』の二つ名を持つ悪魔─がバアゼルであった。

 本当に…生きていてほしくなかったなぁ。


「…まさか、止めを刺し損ねていたと言うの…っ」


 フィーも驚愕に眼を見張っていた。

 無理も無い。奴の消滅は、俺とアイツ──二人で見届けたのだ。それが実は逃げられていただけだったとは、実際に目の当たりにしても信じ難いのだろう。


「いや、手応えはあった。…どうやって逃げ延びた」


【ク…逃げるだと? 愚か者めが】


「愚か者…ですって…!?」


 愚か者呼ばわりに、フィーの声が裏返る。

 確かに、そんな呼び方をするとは大層なものだ。

 神経を逆撫でする言い方に動揺するのは、分かる気がする。


【確かに我は討たれた。然し今一度いまひとたび、静寂の中から現世うつしよび戻されたのだ。…些か不本意ではあったがな】


「(不本意…?)」


 静寂から現世? 喚び戻された?

 物憂気に話すバアゼルに、虚偽を言っている様子は見られない。

 いや、悪魔と呼ばれるくらいなんだ。普通に考えたら、息をするように偽りを話してもおかしくないんだが──それよりも、気になることがあった。


「(まさか…)」


 何者かによって蘇らされたとでも言うのか。

 だが誰が何の目的で…どうやって?

 どうやら…思ったよりも根が深そうだな。


「お前を召喚したのは誰だ」


 探ってみるか。


【解らぬか? 解らないだろうな】


 喉の奥で嘲笑うバアゼル。


「答えろ」


【知って如何どうする】


「二度と悪魔を喚ばないよう話を付ける」


 一体で世界を滅ぼせる存在なんだ。

 そんな存在を好き勝手に召喚されたら堪ったものじゃない。

 折角俺とフィーが勝ち取った平和も、無いようなものだ。

 それに──。


「お前は望まない召喚をされたんだろう? なら、止めさせないとな」


 バアゼルは「不本意」と言った。

 つまり今の状況を望んでいない(・・・・・・)ということにる。

 嫌なことをされたら、嫌だと感じる。それは人間だろうが悪魔だろうが一緒──だと思う。

 それが、感情。いては、「心」ってヤツだ。


【……】


 バアゼルは沈黙した。

 だが心なしか、気配が穏やかになった気がしなくもない。


【クッ】


 やがて喉を鳴らすと、【酔狂者め】と続ける。


「ねぇ…」


 フィーも何か思うことがあったのか、複雑そうに俺を見てくる。

 先程から静かだと思ったが、恐らく自分の中にある感情を鎮めていたのだろう。


「‘愚か者呼ばわりしてほしいです…ご主人様’」


「……」


 鎮めるには鎮めていたようだが、俺の予想していた感情とはかなり違う感情だったようだ。

 場違いにも程がある発言だが、心に響くものがあったのだろう。いや、場違いでしかないのだが。


【……。二百年余…か】


 そのあまりにも場違いな様子は、バアゼルでさえ面食らってしまったようだ。絶句とも取れる沈黙の後、染み染みとした呟きを零す。


「あぁ…人一人変わるには十分だろうさ……」


 この場一番の酔狂者は、彼女な気がする。

 期せずして、バアゼルと意見が一致してしまう形に。


「(…いかん)」


 空気が和もうとしている。

 もしかしたら、これがバアゼルの作戦なのかもしれない。

 かつてのようにフィーの心をもてあそび、何かしら仕掛けてくるかもしれない。

 そうだ、俺達は、何をしに来た。

 妖精狩り等とふざけたことを考える国王を問い質しに来たんだ。

 だが、この国の天守に座していたのは悪魔だった。

 この意味することは──。


「…この国の王はどうした?」


うの昔に黄泉路だ。我が手を下した訳ではないのだが…な】


 そうか、崩御したのか。

 この世に悪の栄えた試しはないとは、よく言った話か。

 好き放題して死ぬとはまた、随分な人生じゃないか。


【人の業の、何と深き哉…。今際の際に迄、己が欲を満たさんとしたいた。『ハイエルフを…永遠の命を…』と。お前達にとっては、朗報かも知れぬがな】


 そんな人魚じゃあるまいし、俺達(ハイエルフ)を取って食ったところで永遠の命なんてものは手に入らないだろうが…。


「馬鹿な人間ね……」


「(フィー……)」


 人が死んだから喜ぶ──なんてのは無粋にも程があることだ。

 だがしかし、生きていたらゾッとする…って思いもある。

 人の業の、何と深いこと…か。確かに、分からなくもない話だ。


「生きていようが命を終えようが、結局は現実を知ることになっていただろう。…永遠なんて、存在しないからな」


【ク…】


 …そうか。…バアゼルの奴、王に成り済ましていたことになるが、手に掛けてはいないのか。


「(…待てよ)」


 元々この国の王は、ハイエルフのことを狙っていた。

 バアゼルも俺達のことを狙っていたような口振りをしていたが、それがこの国王を騙っての言葉なら──その真意は、どこにある。

 偶然にも、王とバアゼルの考えが一致していただけか? それとも…。


【然し運命とは不思議なものよ。二度と遭う事も無いと思っていたが、斯様にして再び相見える事となるとは。…此度は二百年前と違い、油断はせん…!】


 どうやらこれ以上の疑問は、戦いを終えてからになりそうだ。


「ご主人様!!」


 バアゼルの魔力マナが高まっていく。

 フィーナが魔法の詠唱準備に入ると同時に、俺も剣を抜き放ち、悪魔を見据える。


「俺は歓迎していないんだがな」


「えぇ、私もです」


 東の国を治める王城の、天守閣。

 そこで行われるのは武士と武士の戦いかと思いきや、悪魔と妖精の一大決戦。

 「支配」という訳の分からない属性を司る大悪魔に対して、今度も白星を収められるか、どうか。


【ク…冷めたものよ。然しる余裕も、此れ迄…!】


 ──それにしても、少しバアゼルの人間味が増したような気がするのは俺の気の所為だろうか。

 気持ち活き活きとしているような…いや、気の所為だ、きっと、うん。気に入られた訳でもあるまいし。

 だが何でこう…俺達ばかり面倒事が舞い込んでくるんだよ…。

 決戦が終わって異世界に飛ばされたかと思いきや、決戦して決戦して決戦する。山場ばかりに溜息が我慢出来ない。

 …と、愚痴を言っても仕方が無いか。 


「行くぞッ!!」


 さぁ、今一度始めるとしよう。

 悪魔を討ち、平和を守る。

 そう、


「はいッ、今度こそ、送ってあげるわッ!!」


 『二人の賢人』伝説……第二幕ってヤツをッ!!

「お~お~、キレッキレだな~!!」


「…橘殿…頑張っているのだな……」


「俺達の物語はまだまだこれからだぜっ!! って感じだよねぇ…」


「うむ…しかし、私達が話しても良い話なのだろうか…?」


「う~ん、さっぱり分からんな!! だがま~ここは特殊空間らしいから細かいことは気にしない方が良いと思うぞ~?」


「そもそもこの空間は何なのだ。当たり前のように居る私達だが、いつどうやってここに来ている? ここは夢の世界なのか?」


「夢かぁ…確かに夢のような空間ではあるのかもしれないけど……うーん」


「知影殿、何か気付いたことが?」


「うーん、でもなぁ…うーん、突っ込み入れるのが野暮なのかなぁ」


「??」


「二人共、今はそんなことを気にする時じゃないぞ〜。詳しく考えない! 隊長権限だ~!」


「隊長! それは強行過ぎるかと思われますッ!! と言う訳で、たらいの刑!」


「む、隊長殿の頭上にたらいが」


「っ、な、なんだと~!! そんなの聞いて──!」


「はいズドーン!」


「うごぉっ!?」


「…何と言う……無茶苦茶だ……」


「じゃあ予告いってみよー!! ユリちゃん!」


「わ、私かっ!? ん゛んっ。『契り。それは己の存在を賭けた、絆と言う名の約束。裏を返せば、支配の権利を相手に与えることでもある。互いの心を重ねた二人は、互いが交わる切っ掛けとなった悪魔と再び対峙した』」


「はいはーい!! 『全ては運命にして、必然。そこに偶然は無い。悪魔が再び姿を見せたことも、対峙することでさえも。光の傍に、影はあるのだから──』」


「…運命、な〜」


「「『次回、本当の悪魔は』」」


「お、二人一緒のタイトルコールって、何かアイドルっぽさがあるな〜!」


「さぁてこの次も?」


「次の話も」


「ビールとつまみ片手に楽しめよ~!」


「あ…っ、隊長取らないでよ!!」


「む…っ」


「いただきからの急下山ッ!!」


「あ、逃げた!!」


「得意の三十六計の一つだ~!!」


「待〜て〜〜ッ!!」


「…む、隊長殿も知影殿も行ってしまったか。しかし三十六計…本当にあの隊長の脳内に存在しているのだろうか…? 八嵩殿なら兎も角、隊長殿は…うむ」




「うむ…何となく言ってみただけとしか思えない。…しかし…うむ……」

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