一人暮らし始めると、帰宅した時妙に寂しくなる。厳密には一人じゃないんだが。by弓弦
──前回までの、あらすじ。
アンジェラやマカナを始めとした食堂の人々は、それぞれの思いの下に日々を生きていた。
涙ながらに、しかし一生懸命な様子のマカナに心打たれながら。その一方で、アンジェラの情熱的な言動に終始押されながら。弓弦は身の危険からの逃亡に成功するのであった。
* * *
生徒の姿や賑わいが、少しずつ収まりつつある学園内。
帰宅しようとする生徒達に別れの挨拶をしながら、弓弦とディーは学園長室に戻っていた。
「『クラス・トール』のマカナ・マキナ。い~つも終業後はバイトしている生徒なんだな」
話題は、食堂で出会った一人の少女について。
弓弦の疑問にディーが答えているところであった。
「随分真面目な生徒ですね。毎日ですか…」
「雨の日も、風の日も、病める時も健やかなる時も働いているんだな」
弓弦は思わず半眼になってしまった。
前者二つは兎も角、後者一つに関しては休むべきだろう。口に運ぶものを作っているのならなおのことである。
「熱心ですね。真面目なのは良いことだと思いますが、何がそこまで彼女を…」
「ま、彼女にも色々あるんだな。あ~れで、背負っているものはある」
「…背負うものが」
弓弦は唸った。
齢にして二十もいかない少女が一体、どれ程のものを背負っているのだろうか。
「…可能ならば、力になってあげたいものです」
まだ分からないことだらけの教師生活だが、人が困っている姿を放っておくことは出来ない。
弓弦はマカナのことを、気に留めておくことにした。
「頼られた時には、是非そうしてあげると良いんだな」
「はい、そうします」
学園長室が見えてきた。
日の当たる廊下を並んで歩きながら、日差しの温もりを肌で感じる。
「(…良い天気だなぁ)」
中庭に視線を遣ると、噴水に誰かが腰掛けているのが見えた。
「…?」
ユリが座っていた。
背中しか見えないために表情は分からないが、何やら考え事をしている様子が伝わってくる。
「(そう言えば…助け舟を出してくれたな)」
次に会った時に礼を伝えようと考えつつ、学園長室の扉を潜る。
「さ~て、と!」
入るなり、ディーが伸びをした。
小さな欠伸が聞こえたのは、食後の時間帯であるためだろう。
「これで今日のお仕事、終わりなんだな」
振り返るなり告げたのは、終業の話。
この後も何かしらの仕事があると思っていたため、少々拍子抜けしてしまう。
「もう終わりなのですか?」
「あ~まりこっちに時間を取らせるのも悪いんだな。出来ればこ~の後の時間は、明日以降の準備に取り掛かってほしい」
「あぁ…」
そういえば、と今さらながらに思い出す。
いや、考えないようにしていたのが正しいだろう。何せ初講義なのだ。緊張しない程、心臓に毛が生えている訳ではない。
事前にカリキュラムは貰っているが、どう授業展開したものか。そんなことを悩んでいる内に、いつしか思考の外へと追いやってしまった。
「分かりました。以前送っていただいた教科書を元に、講義をすれば良んですよね」
「そ~うだな。隊員として培った知識と併せ、生徒達に分~かり易く魔物についての講義をすると良い」
「分かり易く…」
そこが問題なのだ。
分かり易いという表現に落とし込むのは、口にするだけなら容易だ。しかし実行するとなると困難を極める。
講義をするのは、生徒達に理解してもらうため。つまり生徒達が理解出来ない講義を行うのは、好ましい行為とはいえない。
分かり易い講義とは何なのか。人に教える経験の乏しい弓弦にとっては、非常に頭の痛くなるものであった。
「心配そうな顔をしているんだな」
「それは、まぁ…」
ディーは、そっと表情を緩めた。
瞳には微笑まし気な光が宿っている。
「自然体でいくと良い。…生徒達もきっと応えてくれるはずだ」
そして若き教師に向けた、心からの声援を送った。
長年教師を務めている彼にとって、生徒達は自分の子どもにも等しい。
大切な生徒達を任せることが出来るのか。今日半日近くをかけて弓弦を見定めたつもりだった。
そして感じたのだ。彼なら大丈夫。生徒達を正しく導くことが出来ると確信していた。
「…はい。やれるだけ、やってみます」
今はまだ、迷っても良い。
その迷いが、懸命に乗り越えようとする努力が、やがては成長の糧となる。
完璧である必要は無い。同時に、指導が拙くても良い。
人を指導することは、己を指導すること。人を見、自らを見詰め直し、そして互いに成長していく。
そうやって今も昔も人は育ってきたのだ。
「じゃ~、今日はお疲れさ~ん!」
弓弦は一礼すると、退室した。
その背中は、多くの悩みを背負っているのか重そうだ。
彼は明日までに、どんな答えを見付けてくるのだろうか。隠し切れない多くの期待を込めつつ、ディーは手元に視線を落とした。
「‘共に成長し合える教師の存在が、子ども達にどんな影響をもたらしてくれるのか…’」
その手には一枚の手紙があった。
差出人は、彼が良く知る人物からのもの。
内容は、既に一読済みだ。
手紙の正体は、要請状。
応じるか応じないのかの答えは出ているが、だからこその心配事がある。
いや、いずれにせよ懸念は尽きない。
多くの懸念事項だ。しかも、多くの後悔を伴う。
「‘…この眼で見られないかもしれないことが、実に残念なんだな’」
ディーの瞳は、憂いに染まっていた。
* * *
朝に通った道を、帰って行く。
坂道を下り、ぼんやりと周囲の景色に視線を向けながら街を歩く。
太陽の位置は変わっているはずなのに、あまり時間の経過を体感出来ない。
まるで、つい先程通ったばかりの道を歩いているような感覚と、重くのしかかる疲労を紛らわそうと肩を叩く。
「(あっと言う間に終わったな…)」
やがて町外れのアパートに足を止めると、深く息を吐いた。
ズボンのポケットから取り出した鍵を手に、先端を鍵穴に差し込む。
──カチャ。
鍵の外れる音の後にドアノブを捻り、中へと入る。
靴を脱いで家に上がると、向かったのはリビング。
歩速が、速くなる。
リビングに着くや否や、向かった冷蔵庫の中を探って麦茶を取り出す
「…ゴクリ」
喉を鳴らしながらコップに注ぐ。
並々注がれた麦茶を手にソファーに座り込み、まずは一口。
一気に身体の中へと、流し込んでいく。
「っっっ、終わったぁぁぁぁ……!」
仕事上がりの一杯である。
瞬く間に飲み干し、弓弦は声を上げた。
初めての教師生活。
あっという間に一日が終わったように感じたが、思い出したように疲れが押し寄せてきていた。
そんなに動いた訳ではないので、恐らく緊張疲れによるものか。思った以上に緊張していたことに驚きつつも、ようやく訪れた休息を堪能することにした。
「お疲れ様なの~♪」
シテロが顕現した。
龍の姿を取って顕現するや否や、「きゃっほ~♪」といつも通りの掛け声で人間の姿になる。
労いの言葉と共に、他に何かしてくれるのだろうか。弓弦は思わず、僅かな期待を抱かずにはいられなかった。
しかし左隣に陣取ってきたシテロは、
「すぴ~」
寝た。
「おい…っ!」
全身での凭れ込みだ。
まるで糸の切れた人形のように身体を預けてきたシテロ。
凭れられた弓弦は抗議の声を上げるも、微動だにしてくれない。
「すぴー」
抗議の声は、聞こえるはずもないのだろう。
何度か声を掛けてみるも、夢の世界に居るであろう彼女に届くはずもない。
緩み切った表情で、熟睡していた。
「…アデウス」
「は」
流石の弓弦も、まだ寝たい気分ではないのに抱き枕にされるつもりはなかった。
仕方無いので、アデウスに連れ帰ってもらうことに。
「起こさないようにな」
「師匠、それは…。いや、分かった」
顕現したアデウスは言葉を濁すも、シテロにの身体に触れながら魔力の粒子になる。
するとシテロの身体も粒子になり、揃って弓弦の中へと入り込んでいった。
「ふぅ…」
静寂が戻ってきた。
さて、ここから何をしようか。その場を動こうとした弓弦だが、
「……」
自らの中から、勝手に魔力が飛び出した。
程無くして小さな龍の形を取ると、弓弦の正面で実体化する。
「きゃっほ~♪」
またもやシテロが顕現した。
龍の姿で現れ、即座に人間の姿を取る彼女。
「(まさか…っ!?)」
そんな彼女を見ていた弓弦の中を、嫌な予感が過った。
咄嗟に離れようとする弓弦。
「♪」
だがシテロも同時に動いていた。
上機嫌な様子で、腰を浮かせた弓弦の胴に向かって飛び込んだ。
「おわっ」
元々両者の間に距離が無かったため、弓弦は簡単に捕まってしまう。
腰を捉えられ、そのまま押し倒されてしまった。
「すぴー」
完璧なタックルをかましたシテロは、満足そうに夢の世界へと旅立つ。
「…おい」
弓弦の腹部を枕にしながら。
「……」
先程よりも身体の自由を封じられてしまい、弓弦は固まってしまう。
無理にシテロを退かそうとしたために、余計に身動きが取れなくなってしまった。
しかも困ったことに、シテロはより幸せそうに熟睡してしまったのだ。
至福の時間とばかりに緩んだ表情で寝息を立てる彼女だったが、それでも弓弦は諦め切れなかった。
きっとこのままでは、自分自身もまた寝てしまいそうな気がする。そして一度寝てしまえば、次に意識が戻るのは朝になってしまうだろう。
明日から初講義。流石に何も準備しない訳にはいかなかったが、今この時でさえ、シテロの寝息が眠気を催させてくるのだ。
「く…っ」
「諦めろ、師匠」
どうにかしてシテロを離せないだろうか。頭脳をフル回転させて対処法を模索する弓弦の耳を、アデウスの声が打った。
「こうなった以上、梃子でも動かないと思うぞ。…どう抵抗しても」
それどころか、寒いギャグと共にアデウスまでも顕現した。
珍しくハリセンを手にしてない蟷螂悪魔は、部屋の隅で鎌同士を擦り合わせ始めた。
「然龍は…恐らく、決して諦めないだろう」
恐らく鎌を研いでいるのだろう。
今度は、アデウスも居座る雰囲気を漂わせていた。
「…どうやらそうみたいだな」
重みからの解放を諦め、小さく息を吐く。
下手に抵抗するより、好きなだけ寝かせるべきなのだろう。気持ち良さそうに眠るシテロの顔を見、弓弦は傍に置かれた空コップを見る。
「…悪いがアデウス、冷蔵庫からお茶を取ってくれないか」
喉が、渇いていた。
「お安い御用だ」
鎌を持ち上げて応じたアデウスが、その場で鎌を振り下ろ──
「ストップ」
──そうとして、止められる。
「魔法の使用は駄目だ」
教師生活を送る上で、自身の魔法は使わないと決めている弓弦。
それはセイシュウからの指示でもあるが、あくまで普通の教師として振る舞うつもりな彼自身の意思でもあった。
魔法禁止。
それは外だけではなく、家の中においても例外ではない。
どうしようもなく使わざるを得ない状況ならば考えるが、お茶が飲みたいというだけで使ってはいられない。
「…厳しいな、師匠」
そんな我儘な男の意思に従う蟷螂悪魔。
それが、師匠が決めたことならば。魔法ぐらい使っても良いと思うアデウスであったが、律儀にも尊重の姿勢を取った。
両者の強い信頼関係があるからこそ、成立するやり取りであった。
「さて…」
冷蔵庫へと向かうアデウスを尻眼に、弓弦は今後の予定について思案を始めた。
これからどうしたものだろうか──というのも今日のこの後の行動についてだ。
シテロによって身動きが取れない以上、行動が制限されている。
やることが無い訳ではないのだ。一応、明日の講義に向けての準備をしななければならない。
ならば、準備をすれば良いだろう。しかしそうは問屋が卸さない。
肝心の講義資料は部屋の隅に置かれていたのだ。ソファから動かないことには取れない距離だ。
「ん~…」
どうしたものか。
いっそのこと、シテロを引き摺りながらでも取りに行くべきだろうか。
彼女がいつ眼覚めるか分からないため、手段としては十分候補に挙げられるのだが。
「‘ユー…ル……’」
「…くっ」
あまりに気持ち良さそうに眠られているから、出来るはずもなく。
これが中々に幸せそうな寝顔なのだ。見ているこちらまで眠たくなるような。
嗚呼、視界に、世界に花畑が広がっていく。
「…Zzz」
シテロに引っ張られるようにして、弓弦の意識もまた旅立とうとしていた。
浅い浅い眠りの海に潜って行き、
「師匠、茶だ」
「…はっ!?」
帰って来た。
「…危ない危ない。流石に何も準備しないのはマズいな」
鎌の面で、さながらウェイトレスのように茶のボトルを取って来たアデウスが中身を注いでくる。
「…んくっ」
溢さないように受け取ると、再び茶を煽る。
「ぷはっ…。なぁアデウス、続けて頼んで悪いんだが…」
「師匠の頼みだ。断る理由も無い」
続けて側に置かれる、一冊の教科書。
弓弦が元々暮らしていた世界と、どこか似ている文字で、「魔法生物」と表紙には記されていた。
その分厚さは、さながら辞書に匹敵するだろうか。この内容をこれから教えていかなければならないのだと思うと、少々眩暈を覚える。
「…良し」
しかし学生の身ならば兎も角、今は教員。
生徒達を教え導く立場だ。甘えたことは言っていられなかった。
「いっちょ、頑張るとするか…!」
頼りになる家族に感謝しつつ、中を開く。
目次には、種族毎に様々な魔物の名称が記されている。
大体一個体辺り、二頁が用いられているであろうか。ありがちな「スライム」から、果ては──「ドラゴン」までとバリエーションに富んでいた。
パラパラと捲ってみると、危険度の指標である『リスク』も【K】から、中にはコラムで【X】についても書かれていた。
「へぇ…意外としっかり書いてあるのにゃ」
そんな言葉と共に、クロが弓弦の頭上に顕現した。
琥珀色の双眸が、興味で輝いている。
「…そうなのか?」
「大事にゃ部分は粗方書いてあるし、単にゃる百科事典に留まらにゃい程度の面白さもある。それに、順に難しい内容ににゃっている…。理解度に合わせた講義をし易い、悪くにゃいテキストにゃ」
そんなものなのか。
一通り眼を通してから、最初の項目に戻る。
明日の講義範囲に該当する生物の名を、弓弦は口にした。
「…『バット』…なぁ」
【リスクK】という最弱の危険度に分類される蝙蝠型の魔物だ。魔物。
弓弦にとっては、取るに足らない相手だ。
それこそ、腕の一振りで倒せてしまうかもしれない。格下としか評せない魔物。
「しかし、赤子同士なら話は別となる」
正面から聞こえた声に顔を上げると、金毛の狼が反対側から参考書を覗き込んでいた。
「…ヴェアル、お前も出て来るのか」
「妙に意地になっている然龍が気になってな。こうして直接見に来てみれば…中々にご執心のようだな」
野次馬根性で顕現したヴェアルは、シテロを見ると喉の奥を鳴らす。
腰を下ろした狼は、どうやら面白がっているようだ。
「すぴー」
「はは…困ったもんだよ」
シテロに始まり、アデウス、クロ、ヴェアルと姿を現した。
バアゼルはセティの下に滞在し、アスクレピオはどこかの空の下。
弓弦の下に居る悪魔達が、揃いも揃って全員顕現していた。
「…と言うか何だよお前達、揃って姿を見せて。アデウスは兎も角、クロとヴェアルはわざわざ出て来るまでの必要が無いはずだが…」
教科書に視線を固定しながら、弓弦は苦笑する。
部屋はちょっとした動物園となった。
騒々しくはないため、近所迷惑にはならないだろうが気にはなってしまう。
「そりゃあ決まってるのにゃ。慣れにゃいことに取り組もうとしている弓弦を、揶揄いに来たのにゃ」
「…良い性格してるな」
あっけらかんと言ってのけた悪魔猫に、弓弦は渋い顔をする。
近所迷惑にはならないだろうが、良い迷惑だ。
「にゃはは、褒め言葉にゃ。それよりも弓弦、当たりは付けたかのかにゃ?」
「…ん?」
落ちたクロのトーンが、弓弦の注意を自らに向けた。
いつになく真剣な質問をされ、弓弦は少々面食らってしまう。
当たり、とは何のことだろうか。
弓弦が教師として着任した真の目的は、『ティンリエット学園』に忍び寄る魔の手が何なのかを確かめるためだ。
もっとも、初日で何の情報を掴めというのか。何も掴めていなくとも当然の状況だ。
「当たりって…一日で目星付けられたら苦労しないだろ」
「僕は付けたのにゃ」
それを一日で付けられたと合っては、驚きたくもなる。
「…それは本当か」
「…にゃ」
魔の手が伸びる先に居るのは、十中八九生徒達だろう。
教師としても、隊員としても、生徒達は守らなければならないものだ。
何が魔の手なのか。そもそも、魔の手なのか。
まだ一切手掛かりはない。なかったと、弓弦は記憶していた。
それがまさか、一日で目的に近付けるとは思わなかった。
「…それは、誰だ?」
一体、どんな影が忍び寄ろうとしているのか。
弓弦は神妙なクロの言葉を待つ。
不思議と緊張していた。
当たりを付けた人物には、なるべく早急に探りを入れる必要がある。
悪魔の誰かを付けるのが良いだろうか。常に監視を付けておけば、尻尾も掴み易いはずだ。
その人物とは、誰なのか。
琥珀色の双眸を、ジッと見詰める。
「…その人物とは…」
クロが口を開いた。
「…マカニャ・マキニャ、にゃ」
「──ッ!?」
まさかの人物名に、弓弦は驚愕と共に息を呑むのだった。
──チャッチャカチャ、チャッチャカチャ、チャッチャッチャッカッチャ!
「さぁ、始まりますわよ〜! ネクストミュージック、スタート!」
──教えて! それは何? 教えて! お姉さん♡ そのお悩みを解いてあげます♪
「…ポン」
──タヌキさん? 違うよ! 妖精さん? そうだよ! ユリタヌキって言うんだよ♪
綺麗な、お姉さんと可愛い、ユリタヌキ♪ 二人が楽しく教えてくれる〜ぅ♪
「「集まれ〜! 皆〜!!」」
──皆でおいでよ〜♪ 笑おうよ〜♪
「ミュージック、ストップですわ!」
「…ポン」
「学園と言えば勉強! 勉強と言えば、解説ッ! さぁ、『なにそれ? 教えてリィルお姉さん!』の始まりですわ! ‘…ほら’」
「ぱちぱちぱちぱち〜ポン!」
「はい。このコーナー、十二回目となりました! 暑い時期には是非とも欲しい水属性魔法。次に説明する魔法は〜?」
──ダカダカダカダカダカ…! ダン!!
「“アクアストーム”ですわ!」
「パチパチパチだポン。“アクアストーム”…水の嵐。何だか気持ち良さそうな魔法だポン」
「ユリタヌキ、あなたは土砂降りの雨を傘無しで歩いていても、気持ち良いと思いまして?」
「…それは、嫌だポン。お家の中に居たくなるポン」
「えぇ、私も心の底から嫌ですわ。…雨で濡れた衣服の中から下着を晒されて…注がれる視線、吐かれる落胆の息……ッ!」
「…お姉さん?」
「水着を着た時だってそう。隣にいつもあの子が居たから…あのナイッスバディがッッ!」
「……」
「っっかぁぁぁぁぁッッ!!」
「水の嵐…恐ろしい攻撃魔法だポン」
「あなたもでしてよユリタヌキッ! 最近また成長したとかどうとか!」
「は、はぁ…?」
「でも、その果実がいけませんの」
「…や、やだなぁポン。お姉さん…眼が怖──」
「起こ──」
「ッ!」
「ガッ!? こ、怖いのはあなた…の方……」
「麻酔弾だ。…許せ、ポン」
「…はい♪ お姉さんが唱えようとしたのは、セティど…セティちゃんの詠唱だポン。水属性中級魔法を容易く扱える実力は、副隊長の肩書きに相応しいものだポン」
「…では、今回はここまでだポン。予告だポン。『ユリだ。分かってはいたことだが、知影殿は初日から問題行動ばかりを起こしてくれる。学園だけでなく、部屋でもだ。そんなに履物の一つが大切なのか? まぁ、落ち着く…かもしれないことは、認めなくもないが──次回、嗅覚は密接に記憶と結び付く。故に匂いフェチは人の健全な有り様の一つなのだ。変探偵は除く。byユリ』…まったね〜だポン♪」