社会人として学生を見ると、自分にもそんな時代があったのかと懐かしくなる。by弓弦
──前回までの、あらすじ。
弁当問題解決の目処を立て、いよいよ食堂へと向かうことにした弓弦とディー。
その直前、学園内に用意された教員室にてシテロを飼う許可を問う弓弦であったが、即座に応じてくれると思われたディーが予想外の反応を見せた。
「羽の生えた蜥蜴」ではあるものの、決して『バジリスク』でないことを証明することになった弓弦。シテロをいつ見せるべきか悩みつつ、食事を楽しむのであった。
* * *
高等部の食堂は、高等部校舎のワンフロアを使用しているために、中々広々としている。
しかし中には生徒達の姿で溢れていた。空間を割らんとするばかりの声が響き渡る程、大いに賑わいを見せて。
「賑やかですねぇ…」
これが、学食の風景か。
日替わり定食を食べながら、弓弦は染み染みと呟く。
眩しい。それはさも、太陽の如く。燦々と、煌々と。
若さが、眩しい。
青春が、眩しい。
嗚呼、眩しさの中に溶けてしまいそうだ。
「(俺もそんな時代があったんだな…)」
橘 弓弦、二百二十歳。
若さが懐かしくなるお年頃である。
『…何か言ってるにゃ』
『…ユールはまだ若いと思うの』
『まだ若いと言えど、師匠の突っ込み技術は素晴らしいな』
『フ…まだ坊やと言うことさ……』
そんな彼の内に住まう悪魔達は、正直なところ何年生きているのか分からない存在ばかりである。
弓弦、クロ、シテロ、アデウス、そして先程戻って来たばかりのヴェアル──年齢を合算すると、きっと四桁の数字かそれ以上になるであろう。
「賑やかなんだな」
食堂の窓側の隅で細々と食事中の二人。
彼等が隅を選択したのは、そこから生徒達の姿が見渡せるからであった。
時刻は昼。久々に学園で再会した生徒同士が、休暇中の土産話に花を咲かせている。
高等部ともなれば旅行話を始め、休暇中の恋愛話も頻繁に飛び出す。デートに行った話や、お相手を見付けた話等々、実に青春真っ盛りの話題が至れり尽くせりであった。
それだけではない。青春色に染まる食堂の中に混じる、灰色の空気。
曰く、休暇前に異性と遊ぶ約束を取り付けられなくて気が付けば始業式に──なんてありがちな現実に晒された生徒達も中には居た。
『人を動かせなければ、自分が動かなくてはな。救いを求めるだけに留まった時点で、この結果は決まっていた。無様だな…』
『にゃはは、それもまた人生にゃ。その時、その場所で、一度しか訪れにゃい機会を棒に振って…そうやって人は、後悔と共に学ぶのにゃ』
悪魔なのに人生論を語り出したクロとヴェアルの声から程無くして、茶を啜る音とカップを置く音。
悪魔達もまた、絶賛寛ぎ中のようである。思わずクスリと笑いたくなるのを堪え、弓弦は食堂を眺める。
──どうやら、まだ知り合いは居ないようだった。
「お〜、橘先生。あ〜れを見るんだな」
などと考えていると、影になってしまう訳で。
噂をすれば、何とやら。
フォークを置いたディーが顎で示す先に、弓弦は恐る恐る視線を向けた。
「(…お)」
どうやら、想像していた人物達ではないようだ。
しかし、やたら視線を惹き付けそうな存在が視界の中に入ってきた。
食堂を素通りするようにして、颯爽と横切って行く数人の生徒が居た。
これが中々の美人揃いだ。少々気が強そうなのが気になるが、鼻は高く、瞳は大きく、スタイルに関しては出ているところが出ている。
「あれは?」
ふと周囲に視線を遣ると、男達の熱の宿った視線が眼に付く。
喩えるなら「♡」か。隣にパートナーらしき女生徒が居るのに見惚れてしまい、頬を抓られている生徒も居たぐらいだ。
「学園の、マ〜ドンナ達なんだな」
「はぁ…学園のマドンナ達ですか」
言われてみれば、そんな風にも見える。
他の生徒達と比べ、纏っている雰囲気が違ったからだ。
何となくであるが、美への意識の高さも窺えた。
「(魔力も…他の生徒と比べて多いか。強さと美を兼ね備えた…みたいな感じか)」
女性陣の様子を冷静に分析する弓弦。
特に意識した訳ではないのだが、自然と魔力の量を確かめてしまった形だ。
強く、美しい。
生徒達の視線が集まるのも頷けた。
「(それに…)」
「お〜いおい、あ〜んまり興味が無いみたいじゃないか。生徒を理解するためには、生徒の気持ちにならないと。興味を持たないといけないんだな」
「興味はありますよ。ありますけど、別にマドンナってことにそれ程の興味は…」
マドンナと呼ばれていても、突き詰めてしまえば一生徒である。
確かに彼女達は美しい生徒かもしれない。しかし弓弦は、彼女達の外見にそこまでの興味を持つつもりがなかった。
「(寧ろ興味を惹かれるのは…彼女達から感じる『魔法具』の気配か)」
魔力については気になるものがない訳ではなかった。
本人達の魔力に混じり、若干異なる波長を感じる。
『魔法具』の気配だ。
だが、ふと周囲を見てみれば、他の生徒の中にも『魔法具』らしき魔力を感じる。
流石は魔術の学園か。簡単な『魔法具』ぐらいは、皆が日常品として持参していそうだ。
『…『妖精の瞳』大活躍にゃのにゃ』
『便利な力ではある。しかし、気取られる可能性を忘れていないか? 弓弦』
「(…その時は、その時だ)」
しかし、確かにリスクが無い訳ではない。
魔力に敏感な感覚を持っている者には、気付かれない保証が無いのだ。
それは自身が、感じることの出来る存在だから分からないもの。
魔力を視れることが当然となっている弓弦にとって、視られない存在のことは、逆立ちしても理解し切れないのだ。
警戒するに越したことはない、ないのだが──それでも勝ってしまうのが利便性の宿命か。
『…開き直ってるのにゃ』
「…ま〜、君は普段から別嬪さんに囲まれてから、そう言う耐性が付いているんだろう。羨ましいんだな」
羨望の横眼。
ディーは、冷静な弓弦の様子を特に訝しむことはなかった。
揶揄い混じりの視線を受けつつ、弓弦は苦笑した。
「…いや、別に別嬪だとかそうじゃないとか、どちらでも良いじゃないですか」
「ま〜、それもそうなんだな」
実際どうでも良さそうなディーの様子から、本当に揶揄われていただけのようだ。
「ふぅむ」
マドンナ軍団はその間にどこかへと消え、食堂のあちこちが彼女達の話で花が咲いた。
そんな中、話題転換とばかりに鼻を鳴らし、ディーが茶を啜る。
「で〜だ」
弓弦もつられて茶を啜ると、次の言葉に耳を傾ける。
茶は緑茶だ。冷たく澄んだ味がするが、深みが無く彼が好む味には程遠い。喉は潤せるが、本当の意味で落ち着けるような味わいではなかった。
少し残念だが、プロの味を求めるのは酷。しかし飲みたくなる。ここは飲めるような環境ではないが──悶々と、欲求が高まっていく。
欲求と戦いつつ、ディーの言葉を待っていると。
「‘今回この学園に来た編入組の中に…君の恋人と呼べるような存在は居るか?’」
声を潜めたディーの、低めの直球質問が投げられた。
「は?」
あまりに直球な質問に、暫し弓弦の時が止まる。
直前まで茶のことを考えていた所為か、一人の女性の顔が浮かんでしまった。
「‘恋人《こ〜いびと》だ、恋人。そ〜れなりの美人揃いなマドンナ連中にも眼を遣らないからには…転入してきた面々の内の誰かに想い人が居ると見た。上司として、部下の恋愛事情ぐらい知りたいんだな」
「いや、そう決め付けないでくださいよ…」
確かに転入組と弓弦はとても仲が良く、彼女達も弓弦のことを慕ってくれている。
その一部には、「友人」の一言で片付けられない好意を抱かれているために、思わず返答に窮してしまう弓弦。
「で〜」
ディーの瞳が、キラリと光った。
それはもう、獲物を見付けた猛禽類のように。
「ど〜うなんだ?」
ガンガン攻めてくる。
僅かに顔を寄せながら、真意を探ってくる。
その瞳は、これでもかといった好奇心に彩られている。
形振り構わずの攻めっ振りだ。
そこまで興味を持たれても困ってしまうのだが、どう答えものか。悩んでいると、
──おい、あれ…。
何やら、再び食堂内が騒めいている。
それも、先程よりも大きなどよめきだ。男子達が、女子達の抑えた声が聞こえてくる。
「何だアレ…」「ちょ…えぇ」「嘘だろ…?」
「え…ヤバい、可愛い」「顔ちっさっ。髪綺麗…」「モデルみたい…」
聞こえてくるのは、そんな内容の言葉ばかりであった。
いずれも、褒め称えるような、信じられないものを見ているといった言葉の数々だ。
食堂は、先程を大きく上回るどよめきを見せていた。
「(げ…)」
視線を遣らずとも、気付く。
弓弦は気付いてしまったのだ。
「食堂…か。懐かしいなぁ…」
知影が、
「ふむ…中々賑わっているな」
ユリが、
「…人が多いわね」
フィーナが、
「わぁ…こんなに同年代の子が居るのを見るのって…あんまり無いかも」
レイアが、
「‘…ご飯の香り。…そうだ、私はお腹が空いていたんだ…’」
『娘、人の犇めく場では擦れ違いにも用心せよ。素知らぬ体を装った不届き者が現れるとも知れん』
バアゼルを肩に乗せたセティが、
「…何でこんなことに」
とても疲れた表情のディオは、所々の髪にピンが見え隠れしている。
「面白い姿をしているな、ディオルセフ」
排水管工も姿を見せた。
「…ひ、人違いです…」
「あぁ、お前は変わってしまった。もう俺が知る前は居ないと思うと…な」
「…ひどい」
弓弦は気付いてしまったのだ。
食堂の入口に、一人、また一人と現れ、出来たばかりの友人と共に食堂内へと散って行く見知った人物達の姿に。
「(何で揃いも揃って来るんだよ…っ!?)」
『どうやら彼女達は、転入生対象のオリエンテーションを受けてきたようだ。起こるべく、重なるべくして生じた当然の結果さ…』
ヴェアルの補足に、思わず天を仰ぎたくなる。
確かにそれなら、足を運ぶタイミングが重なりはするだろう。しかし何も、揃って足を運ばなくても。
「…単なる家族ですよ、家族」
傍に極めて薄い気配を感じながら、選んだ言葉を口にする。
一番例え易い言葉が、「家族」なのだ。決して、逃げた回答をしている訳ではない。
──クス…ッ。
気配が遠退く。
視線だけで消えた気配を追うと、箸を手に手を合わせている風音の姿が。
「(…油断も隙もあったもんじゃないな)」
どうやら彼女は、面白そうな気配を察したのか側に来ていたようだ。
ただ特に何かをされた訳ではないのだが、揶揄われた気分だった。
「…家族か。じゃ〜今、恋人は居ないんだな?」
そんな風音の行動に気付いたのかは定かでないが、ディーの興味が逸れることはなかった。
確認するような問い掛けに、一瞬返答に窮するも、
「…恋人は居ないです」
転入生と転入職員の恋人疑惑──そんな話が話題が広がらないはずがない。
どこで誰が耳を立てているか分からないため、弓弦は敢えて答えを濁すことに。
『師匠、視線が注がれているが…』
背中で視線を感じながらも、気付いていない素振りを貫く。
「(良いかアデウス。眼を合わせちゃ駄目だ。合わせてほしそうな視線をしているが、合わせたらやられる…ッ!)」
合わせた途端、彼女達の接近を許してしまう。
この学園では、あくまで生徒と教師として関わろうと決めていた弓弦。背中に感じる視線を、全力で無視した。
「ま〜さか、既婚か〜?」
何とも答え憎い質問である。
身に覚えがない訳ではない。弓弦の額に冷汗が滲んだ。
「…ディーさん、どうしてそこまで気になるんですか…」
「そ〜りゃアレだ。‘…奥さん達とは、どこで出会った’」
しかも、勝手に既婚者にされてしまう。
ディーの瞳は謎の確信に満ちており、確固たる根拠を持ち合わせている様子だ。
「(どうしてそうなる)…‘と言うか、『達』ってどう言う意味ですか’」
内容が内容なので、潜めた声に潜めた声で返す。
徐々に不穏な空気が立ち込み始めていた。
不穏。それはもう、不穏だ。
耳の良いとある女性から注がれている視線に、熱が宿っている。
その視線に気付いた一部の視線は鋭くなり──弓弦の背中は針のむしろとなっていた。
最早痛い。今にも激痛が走りそうだ。
食事を食べ終えると、額に滲んだ冷汗を拭った。
「‘ん〜…いや〜’」
つられて声を潜めたディーは、何とも言い難いように言葉を濁らせる。
言い難いのなら言わなくても結構なのだが、律儀なことに言葉を続ける。
「‘セイシュウ坊やが寄越した資料にだな。…君が複数人の女性と深い関係にあると書いてあってだな〜’」
本当に、言わなくても結構なことであった。
「‘ちょ…っ!?’」
弓弦は言葉に詰まりながら、視線で周囲を窺う。
──ディーがさらに声を潜めたこともあってか、周囲に聞こえるようなことはなかったようだ。弓弦は胸を撫で下ろすと同時に、込み上げてきたモノを吐息にして居住まいを正した。
「‘失礼ながら、深い関係とはどう言った意味なのでしょうか’」
そして色々と悪い意味で取られかねない表現の、真意を確かめることに。
変に答えを返してボロを出す必要は無い。向こうの理解度を鑑みながら、必要な情報のみを提供していく。
「‘ん〜。互いに安心して背中を任せられるだけでなく、尊敬し合え、時には身体さえ委ねられる…そんな関係、と言ったところなんだな’」
しかし、あんまりにもあんまりな言い方に唖然としてしまう。
「‘妙なニュアンスの響きを感じるのですが…あの、そう言う意味ですか?’」
「‘女性が異性に身を委ねると言うことは、そ〜う言うことなんだな’」
「‘学園長が白昼堂々何と言うことを…’」
何故そんなことになっているのだろうか。
間違ってはいない。確かに「深い関係」だろう。
弓弦と部隊の一部女性陣は、この「深い関係」に両足を突っ込んでいる状態だ。
否定し切れない後ろめたさが、反論の余地を奪い去っていた。
しかしだからこそ、怒りが込み上げてきた。
「(セイシュウ…ッッ!!!!)」
悪意のある書類を送った男への強い怒りが、弓弦の中で煮え滾る。
それはもう、烈火の如く。最早殺意とも呼べた。
「(アイツ…今度絶対あることないことリィルに吹き込むからな…っ!)」
「‘ま〜あのセイシュウ坊やのことだ。大方、ワザと意味深に取れる書き方をしたんだとは思うが〜’」
弓弦から立ち込める黒いオーラに気付いたのか。ディーがフォローを入れるももう遅い。
セイシュウは有罪。次の通信で、必ず息の根を止める。
「(フフフ…ハハハ…ッ!!)」
黒い笑いは、さながら悪魔のよう。
精神的疲労が徐々に蓄積していく中、どんな仕返しをするべきか思考を回す。
まずは隠しているエロ本の位置を全て暴露する。次にあらぬ女関係をでっち上げ、徹底的に仕返しする。徹底的にだ。
最後は膝から崩れ落ち、両の手を付いて頭を下げるまで決して許さない。
そう、
『倍返しか、師匠ッ!!!!』
アデウスに台詞を取られても、決して突っ込まない。
『倍返しだぁぁぁッッ!!!!』
「(…くっ)」
『…突っ込むか突っ込まにゃいかににゃってる時点で、既に突っ込みのことを考えているのにゃ』
『人は追い詰められている時、最も己の本能に忠実となる。…熱血なのは結構だが熱くなり過ぎたな、弓弦』
『ユールがもっとポカポカしてるの。…何だか眠たくなってきすぴー……』
好き勝手を言う悪魔達にも突っ込まない。決して。
しかしそのお蔭で熱は落ち着いてきた。
視線を空になった皿に向けると、さも悲しそうに嘆息した。
必要なのは、冷静な思考だ。
変なボロを出してしまわないよう、不注意な発言に注意して口を開く。
「‘…えぇ、何かの間違いだと思います。確かにこれまで戦場を共にしてきた以上、相応の信頼関係は築けていると思いますが…’」
「‘そ〜うだろう。ま〜ったく…アイツの悪ふざけときたら…。だからいつまでもリィルちゃんにシバかれるんだ’」
ディーは語りながら、昔のことを思い出していた。
時折二人から手紙が届くこともあったが、その関係性は学生時代から変わらないようだ。
一日一悪。一日一鞭。
彼の部屋ではきっと、今日もリィルの怒号が響いているであろう。
「‘だが、悪く思わないでほしいんだな。アイツが悪ふざけするのは、決まって信頼出来る相手に関してのことだ。…信頼されているんだな’」
「‘そんなディーさんこそ。悪ふざけに振り回されないであろう信頼の下に、書類を送られていますよね’」
眼を丸くするディー。
そんなことを言われるとは、全く予想していなかったのだ。
「お〜、上手く言ってくれるものなんだな」
「事実を言っただけです。…そろそろ、行きませんか?」
「ん〜?」
交わされた会話の間に、ディーも食事を終えていた。
いつしか食堂は学生で満席になっており、空席待ちの生徒も居る。
「行〜くか〜」
これ以上の長居は生徒のためにもよろしくない。
二人は食器が載った盆を手に持ち、返却口へと向かうのであった。
──チャッチャカチャ、チャッチャカチャ、チャッチャッチャッカッチャ!
「さぁ、始まりますわよ〜! ネクストミュージック、スタート!」
──教えて! それは何? 教えて! お姉さん♡ そのお悩みを解いてあげます♪
「…ポン」
──タヌキさん? 違うよ! 妖精さん? そうだよ! ユリタヌキって言うんだよ♪
綺麗な、お姉さんと可愛い、ユリタヌキ♪ 二人が楽しく教えてくれる〜ぅ♪
「「集まれ〜! 皆〜!!」」
──皆でおいでよ〜♪ 笑おうよ〜♪
「ミュージック、ストップですわ!」
「…ポン」
「学園と言えば勉強! 勉強と言えば、解説ッ! さぁ、『なにそれ? 教えてリィルお姉さん!』の始まりですわ! ‘…ほら’」
「っ、ぱ、ぱちぱちぱちぱち〜ポン!」
「はい。このコーナーも、とうとう十回目となりました! 次なるお題は…」
──ダカダカダカダカダカ…! ダン!!
「“スプレッシャー”ですわ!」
「パチパチパチ〜だポン。ねぇねぇおねえ。何だか今までの魔法と雰囲気が変わった気がするんだポン」
「そう…その通りですわッ!」
「わっ!?」
「このコーナーも、とうとう水属性編に突入したんですわァ!!」
──バシャァァァァンッッ!!
「今回は水柱だポンッ!?」
「そう! “スプレッシャー”とは、水柱で対象を打ち上げる魔法でしてよ! はい、“スプレッシャー”ッ!」
──バシャァァァァンッッ!.
「凄い水圧だポン…! でも…何か既視感が…!」
「大気中の水魔力を凝縮させて噴出させる…。イメージとしては間欠泉に近いですわね。こちらは水ですが」
「あ、雨にならないかポンッ!? ぬ、濡れたくないポン…」
「大丈夫ですわよ。集められた魔力は、この程度の魔力ならば途中で霧散しますから」
「それなら安心したポン。毛繕いも無駄にならないし」
「まぁ威力としても、消費魔力に対してあまり殺傷性がある訳ではありませんし。初級魔法ですから。そう心配しなくても大丈夫ですのに」
「……」
「そんな親の仇を見るような眼で見ないでくださいまし。毛並みをボサボサにしてしまった件…私も私で少し反省しましたの。だから、ちゃんと配慮はしていますわ」
「それなら安心したポン」
「しっかり傘をさしながら言う台詞じゃありませんわね。…と言うかその傘は何なのでして?」
「念のためだポン」
「いや、そんな葉っぱで雨が防げるのでして?」
「狸には葉っぱって昔から決まっているのだポン」
「…防げるかどうかは分かっていませんのね。…可愛らしいとは思いますけど」
「ふふん、だポン」
「……」
「…その呆れたような眼は何なのだポン」
「さて、詠唱例ですわ」
「…ポン。『湧いてください』」
「はい、これはトレエ・ドゥフト大尉の詠唱ですわ。極々普通な王道形式の詠唱です。このような方は、大変ありがたい存在ですねぇ」
「ありがたい存在なんだポン?」
「えぇ。こう言った攻撃性能の弱い魔法は、あまり基本に沿った詠唱がされないんですの。…詠唱例も、この一つしかありませんし」
「ふむふむ…だポン」
「本編でも、魔物を打ち上げるためだけに使われていました。攻撃の軸補正なんて、大分アクロバティックな使い方を良くもまぁ、思い付くものですわ」
「ふむふむ。詠唱は型通りだけど、使い方は型破りと言うことかポン」
「…何上手いこと言っていますの」
「ふっふっふ…ポン」
「…まぁ、予告に移りますわ。『知影です。あ〜あ、やっぱり分かっていたことなんだけどさ。イケメンな弓弦が学園に来たら、皆キャーキャー言っちゃって…もううるさいの何の。あり得ないよね。ほらまた、ちょっと眼を離した隙に──次回、よく言うよね。カッコ良いとか可愛いは罪だって。本当そう思うよ。by知影』…ですわ!」
「ねぇ、お姉さん」
「…はい?」
「座布団はくれないのかポン?」
「…。はい?」