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火が付いたように熱いのは、何なのだ!?byユリ

 ──前回までの、あらすじ。


 『ティンリエット学園』に教師として赴任して来た橘 弓弦。途中「とある先生」風なトラブルを『キュンキュンチェッカー君』によって起こされたが、何とか無事に学園へと辿り着いた。

 その後、学園長であるディー・リーシュワに促され、始業式までの一時間で学園見学に赴くのであった。


* * *


「(…見学と、言われたのは良いんだが。どこから見て行けば良いんだか…)」


 学園長室の扉を背に立ち尽くす弓弦。

 取り敢えず、当てもなく歩くことにすることにする。

 まずは、眼の前にある噴水広場へ。


「へぇ…結構立派な噴水だな」


 学生の溜まり場なのであろうか。所々に美しい造形のベンチが設置されている。

 石で整備された道の端には腰の高さまではある緑の壁が巡っており、子どもからすれば迷路にでもなりそうだ。

 少し離れた所には、動物でも飼っているのか飼育小屋や鳥籠が見える。そこから更に遠くを見遣ると、校舎の二階部分にまで届きそうな高さの温室が見えた。


「(どこかの令嬢でも居そうだな。あそこは)」


 ふわりと髪先が持ち上がり、弓弦は足を止めた。

 風に、緑の香りが混じっている。

 透き通るように爽やかな香りは、喉から身体を癒していくように思える。


『この香り…』


 ふと、脳裏に聞こえる声があった。


「あ」


 次の瞬間。弓弦の身体から生じた淡い光が、小さな龍の形を取る。


「緑の香りなの♪ きゃっほー♪」


 弓弦の中に住まう悪魔が一柱。地属性を司る存在、悪魔龍アシュテロ。

 今はシテロと名乗る存在は、そのまま風に逆らって飛んで行った。


「…まぁ良いか。あんまり遠くに行くんじゃないぞ~」


 一体一体が世界を破壊する力を持ち、星に息づいたあまねく生物を戦慄される存在も、彼にとっては大切な身内の一人だ。

 遠くで鈴を転したような音色の声を聞きながら、弓弦は自分の内に宿る他の悪魔にも声を掛ける。


「お前達も、人の見ていない所だったら勝手に出て来て、好きにしていてくれて良いからな」


 その力を解放している時は畏怖の対象であるのだが、解放してさえいなければやはり、少し珍しい動物達だ。気配に敏感な者でもなければ、目撃することすら叶わないだろう。

 仮に敏感な者が居ても、弓弦自身の身体から出て来る瞬間さえ見られなければ、学園内に動物が紛れ込んだということぐらいで済む。それに戦闘中でもないのなら、外での自由を促しても良いはず。

 そう言って反応を待っていると。


「平和な学舎まなびやの空。実に良き風! 主よ、私も空を飛ぼうぞ!」


 もう一体が空へと飛び上った。

 神鳥かむどりアスクレピオスである。悪魔鳥ではないが、悪魔の一員ではある。本鳥は断固否定するが。

 天空へと舞い上がった隼の姿は、程無くして見えなくなった。


「じゃあ、僕も行こうかにゃ」


 今度は悪魔猫クロルこと、クロが出た。

 氷属性を司る悪魔であるが、猫らしく好奇心も強い銀毛の猫は、「にゃん」と一鳴きして噴水の側に腰を下ろした。

 どうやら、ひんやりとして気持ちが良いようである。


「「……」」


 無言で顕現した金毛の狼と蝙蝠は、そのまま校舎の奥へと消えて行った。

 ヴェアルと、バアゼルである。


「見付かるんじゃないぞ~」


 これで計四体の悪魔と一匹の神鳥かむどりを見送った。

 最後の一体は出て来る気配が無かったため、弓弦はその場を離れた。


「さて…後五十分くらいか。…どうするか」


 校舎内に入り、内部の散策に移る。


「(…大分広いな。迷わないようにしないと)」


 取り敢えずは一階部分だけを見て回ることにした。


「(学校…か。懐かしいな。それも、魔法学校…まるで、本の世界に入ったみたいだ)」


 青空の下、校舎と桜と、生徒の初々しさが混じったような風。

 ──弓弦はふと、昔が懐かしくなった。

 本の世界に行ってみたい。魔法を使って冒険をして、自由気ままな旅をする。かつて弓弦が暮らした世界では、中々出来なかった経験の数々を夢見たことがある。

 今ではそのどれもが現実に。しかし夢を現実としたために、元々の現実を喪ってしまった。


「(…と。こんな塩らしいこと考えてもいけないな。さて、探検探検)」


 気を取り直しながら、散策再開。

 数分もしない内に、彼の足は止まった。

 その視線の先にあるものは、


「お」


 「保健室」だ。

 保健室といえば。弓弦の脳裏で思考が回る。


「(美人な先生…って、こう言うファンタジー世界では決まってるよな)」


 何故ああも綺麗な人が多かったのか。逆に綺麗でない人だった場合を考えると、男としては嘆かわしくもある。逆もしかり。

 大事なのは、女だろうが男だろうが生徒の癒しであることだ。

 だから美男美女の優しい先生は、さぞ生徒から好まれるであろう。


「(さて、この学園の実力やいかに…)」


 引戸を引いて中に。

 すると、中に一人の女性が。


「(おぉ…)」


 肩にまで伸びた淡い桃色の髪は、パーマが掛かっており柔らかい印象を受ける。

 薬品が入った棚を見詰める瞳には知識人の色が宿り、肌は美白。顔立ちはいうまでもなく、美しい。

 そのスタイルはどうだ。素晴らしく、実に素晴らしく主張する胸、服の上からも分かるウェスト、形の整っていそうなヒップの膨らみ──嗚呼、実にグレイト。

 やはりファンタジー世界の保健室には、マドンナが居たのだ。


「ん?」


 というか良く良く見ると、見知った顔であった。

 というか服装的に、養護教諭ではなく生徒だ。

 紺色のスカートと臙脂色のブレザーには、ワンポイントとして校章が裾に、胸ポケットに刺繍されており、落ち着いた印象を受ける。

 中のシャツは白っぽい灰色。スカートと同じ色のリボンが結ばれている。靴は焦げ茶色。黒い靴下が膝まで伸びている。

 一つ思ったのは、以外と普通だ。

 異様に短いスカートや、謎のヘソチラリズムも、はたまたガーターベルトもなく、「あぁ、学生だな」と思えるデザイン。

 現実味があって、何よりだと思う弓弦であった。


「こんな所で何をしているんだ? …ユリ」


「えっ!?」


 一人保健室に居たユリ・ステルラ・ステルラ・クアシエトールは、弓弦の声にピシリと固まる。

 すっかり自分の世界に入っていたのだろう。弓弦の方を向いた面持ちに驚きが宿っていた。


「ゆ、ゆづゆづゆゆゆゆづ!? 弓弦殿ぉっ、どうしてここにっ!?」


 後退りしながら窓際にまで下がった彼女は、コツリと背中が壁に触れる。

 上下に揺れる肩は、彼女の呼吸が荒いことを窺わせた。


「…どうしたも何も、皆でここに来ているんだから当たり前だろう。…それよりも何してるんだ?」


 随分な動揺姿に弓弦も困惑した。

 嫌われるようなことでもしただろうか。そんなことを考えはしたが、何分思い当たることはない。


「…ぁ…ぅぅ」


「(何なんだ……)」


 とうとう顔を逸らされてしまった。

 最早、怯えの領域かもしれない。

 暫くユリを見ていた弓弦だが。


「ん、そうか」


 そういえばここは、保健室なのであった。

 ここに居るということは、大方体調でも悪くなったために足を運んだのかもしれない。


「具合が悪いのなら悪いと言ってくれ。…ベッドなら、多分空いてると思うし」


 人の気配は自分達以外に無い。

 養護教諭に今すぐ伝える必要は無いし、人間は何よりも身体が資本である。

 そう思ってベッドに案内しようと思い近寄ったのだが。


「…ぅ…っ」


 ユリはへたり込んでしまった。

 そんなに体調が悪いのか。心なしか熱があるように顔が赤いため、しゃがみ込んで顔を覗き込んでみる。


「……弓弦は…スーツなのだな…っ」


 眼すら合わせず、ユリが言う。


「あぁ。スーツだが…。ユリは学生服だな」


 ここで弓弦の佇まいについて説明しよう。

 何のことはない。極々普通のスーツである。特にお洒落という訳でもなければ、奇抜なものでもない。黒を基調としたスーツだ。

 似合っていないということはないはず──そう弓弦が思うのは、そもそもスーツが似合わない男の方が少ないためだ。

 スーツというのは、大概が着る人物に合うように作られているフォーマルな服装。それが似合わない程、悪い見た目をしていない自信はあった。

 しかしユリの様子から、まさか似合っていないのではないかという疑問が浮かびつつあった。


「…う、うむ…」


 それに比べて、ユリはどうだ。

 俯いた彼女の姿を見たまんまの感想が、弓弦の口を衝いて出た。


「似合ってるぞ。いつもが白衣な分、普段とは違う可愛らしさが際立っているな」


 何気無い感想だ。

 学生服姿のユリが可愛らしく見えるのは、普段の白衣姿を見慣れているためか。

 普段はカッコ良さの方が強いが、今は可愛さの方が遥かに上回っていた。

 素直な、心からの感想であった。


「…ぇ」


 直後、ユリの時が止まった。

 口をあんぐりと開けて、唖然とした様子。

 だが程無くして、その顔色が。


「~~っ!?!?」


 蛸も真青な程、真赤に。


「なっ…またそんなこと言って…っ。言って……っっ!!」


 ボンッ! と音を立てたように赤面したユリは、わなわなと唇を震わせた。


「…??」


 弓弦が不思議な様子の彼女に首を傾げていると、


「弓弦なんか知らんっ!」


 腹部に鈍い衝撃。

 突き飛ばされたのだと分かったのは、尻餅を突いてからだった。


「…??」


 変なことを言ってしまったのだろうか。

 弓弦は暫く、呆然としていた。












「…と、いかん」


 暫く時間が経過した。

 正気に戻った弓弦は、保健室を後にした。


「…ユリは、近くに居ないな」


 ユリの気配は遠い。

 追い掛けようにも、それなりの人混みに塗れることとなりそうだ。

 気にはなったが、もし遠去けられたのならば追いかける訳にもいかないだろう。弓弦は、気の向くままに別の場所へと向かっていた。


「ん…? あれは…」


 その途中。またもや知っている顔を見付けた。


「お」


 飼育小屋の近く。

 そこに、一人立っている男が居た。

 黄土色の髪を赤いキャップ帽で押さえ、青色のツナギを着ている彼は、実に「イャッフゥ♪」な出で立ちだ。

 今にも火球を放ってきそうだが、紛らわしいことに立派な氷魔法使いである。


「…トウガ。随分似合っている格好をしているな?」


 トウガ・オルグレン。

 弓弦の同僚である彼は今、学園の用務員として赴任している。

 こういっては何だが、その逞しい身体付きの主張により奇妙な印象を受けた。


「その言い方は嫌味に取らねかないぞ、橘…」


 箒片手に、トウガは顎に手を当てる。

 彼は彼なりに、自らの姿について思うところがありそうだ。


「そりゃ悪かった。だが皆が学生やる中、お前は用務員とはな…。学生でも良かっただろうに」


「そう言うお前は教師だろう。生徒じゃないのはお互い様だ。…それに俺は生徒とか言う柄じゃなくてな。こっちの方が気楽だ」


 箒で掃く仕草をしながらトウガは言う。


「気楽そうだ」


 冗談めかして返す弓弦に、トウガは声に出して笑った。

 つられるようにして弓弦も笑い、暫し両者の間を笑いが支配する。


「橘は、教師が似合いそうだな」


「そうか?」


 訊き返すと、どこか羨ましそうにトウガは頷いた。


「お前には、良くも悪くも人を惹き付ける魅力がある。八嵩はちがさもそれを踏まえてお前を推したのだろう」


「…そうか?」


 実感が湧かず、その代わりとばかりに困惑が生まれる。

 つい先程、ディーにも似たようなことを言われたが、自分の方が柄ではないように弓弦は思えた。


「いや、一応ここ名門校なんだろ? そもそもあまり知識の無い俺を教師に指定するのは、無理があるように思えてな」


「知らないものは学べば良い。生徒と一緒に学んでいけるんだ。ある種理想的だが…な」


 鳥の甲高い鳴き声が聞こえ、交わされていた視線が外れる。

 それぞれが声の方を辿ると、飼育小屋の上に一羽の隼が停まっていた。


「…そう言えば、鳥小屋の鍵を開けたままだった気がするな」


「おいおい…」


 それは、初日から大失態なのではないだろうか。弓弦は半眼になる。

 何羽居るのか知らないが、逃げられるのはマズいように思えた。


「…捕まえるか。じゃあな」


 そう言うと、トウガは背を向けた。


「手伝おうか?」


 片手を挙げて去る背中に声を掛ける。

 一人よりも二人の方が楽。そう思っての提案であったが。


「いや、良い」


 トウガは断ると、肩を回した。


「ん、そうか」


 その手に、氷属性の魔力(マナ)が集っているのが視えた。

 恐らく、魔法で拘束して捕まえるつもりなのだろう。

 弓弦は「動物は大切にな」と、一応伝えてから踵を返す。


「あぁ、橘」


 今度は、トウガが思い出したかのように弓弦の名を呼んだ。

 その脳裏に、先日とある人物から頼まれた依頼内容が浮かんでいた。


「一応俺達二人は、休暇とは言え任務(ミッション)を任されている身だ。それだけは、忘れないようにな」


 二人だけに課された依頼。

 それは片や教師、方や用務員という立場に二人が据えられた理由でもある。

 それだけを弓弦に念押しすると、トウガは駆けて行った。


「…そう言えばそうだったな…ん?」


 鐘の音が聞こえた。

 まさかとは思ったが、腕に付けた時計が時間切れを示していた。


「…もう、そんな時間か。行くか…」


 約束の一時間が過ぎたことに気付いた弓弦は、大急ぎで学園長室へと戻って行くのだった。


「‘…そのまま暴れてくれるなよ…?」


 氷で出来た足場を登りながら、トウガは屋根の上に辿り着いた。

 ふと、何故弓弦が教師になったのかを考えると、数個思い当たる理由が思い浮かんだ。


「‘…他のメンバーが教師にならなかった理由は…まぁ、それ以外にもあったんだろうな’」


 屋根の上で隼に迫るトウガは、ポツリとそんなことを呟いていた。


* * *


 ──その、少し前。


「(馬鹿っ)」


 校舎の中を、駆ける。

 駆けて、駆けて、駆け抜けて。


「(弓弦の間抜けめっ!)」


 来た道を戻るようにして駆け抜け、一息吐く。


「はぁ…っ。ふぅ…っ。ふぅぅ…っ」


 廊下突き当たりの壁へと隠れ、身体の力を抜く。

 すると一体、どうしたことか。


「ふぁぅぁ…」


 へなへなへなと、しおれてしまう。


「……」


 思わず咄嗟に取ってしまった行動を思い出すと、それなりの罪悪感が過ぎりはする。

 だが。


「……~~っっ!!」


 弓弦のスーツ姿が脳裏に焼き付いてしまい、どうしても離れない。

 一体何なのだ。

 あの姿は、一体何なのだ。

 見たことがなくて、ただひたすらに見慣れなくて。

 なのに見慣れないが故に、どうしようもなく、果てしない程に。


「……かっこいい」


 心に、響いてしまった。


「かっこいい……っ」


 顔を手で覆ったユリは、鐘の音が鳴るまで座り込んでいた。

──チャッチャカチャ、チャッチャカチャ、チャッチャッチャッカッチャ!


「さぁ、始まりますわよ〜! ネクストミュージック、スタート!」


──教えて! それは何? 教えて! お姉さん♡ そのお悩みを解いてあげます♪


「…ポン」


──タヌキさん? 違うよ! 妖精さん? そうだよ! ユリタヌキって言うんだよ♪

 綺麗な、お姉さんと可愛い、ユリタヌキ♪ 二人が楽しく教えてくれる〜ぅ♪


「「集まれ〜! 皆〜!!」」


──皆でおいでよ〜♪ 笑おうよ〜♪


「ミュージック、ストップですわ!」


「…ポン」


「学園と言えば勉強! 勉強と言えば、解説ッ! さぁ、『なにそれ? 教えてリィルお姉さん!』の始まりですわ! ‘…ほら’」


「っ、ぱ、ぱちぱちぱちぱち〜ポン!」


「はい。二回目となりましたこのコーナー。次なるお題は…」


──ダカダカダカダカダカ…! ダン!!


「“フレイム”ですわ!」


「パチパチパチ〜だポン。ねぇねぇお姉さん、“フレイム”ってどんな魔法だポン?」


「“フレイム”と言うのは、火属性初級魔法に分類される攻撃魔法の一種ですわね。“ファイヤーボール”と並ぶ初歩的な魔法で、火属性魔法使いなら確実に押さえておきたい魔法です。発動すると、指定した座標を発火させることが出来ますのよ」


「は、発火!? いきなり発火って…怖い…ポン」


「頻繁に訊かれますのは、“ファイヤーボール”との差ですわね。片や火の玉を当てる、片や発火させる…熱でダメージを与える点では共通しているのですが、意外と違いがあります」


「うーん…でも火球を飛ばすよりも、いきなり…ボ〜っと燃えた方が、強そうだポン」


「いえ、消費する魔力(マナ)の量は上、追尾性能が低い特徴があります。確かに“ファイヤーボール”と違い、不意を突くことが出来ますが…こちらは、詠唱を開始してから狙いの変更が出来ませんの」


「…? うーん、難しいポン」


「“ファイヤーボール”を三発打てる魔力(マナ)と、“フレイム”二発分の魔力(マナ)は同等量です。また、威力は“ファイヤーボール”の方に軍配が上がる等の差がありますわね。単純計算でも、20%は違いますわ」


「…意外と違いがあるのだポン」


「“フレイム”の有用な点は、詠唱完成から作用開始までの時間が極めて短いこと、そして確実に狙った場所へと放てることです。大型魔物の特定の部位を的確に狙い続ける…そんな場合にも利用することがあります」


「‘ふぁ…。ぁ…’ふーん、だポン」


「…。このように、同じ火属性初級魔法でも違いが存在します。用途に合わせて使い分けることが大切ですわね」


「…なるほど〜。良く分かったポン!」


「……。さて、詠唱例に移りましょう。本編では、天部中佐が使用していました。詠唱文は、『燃えなさい』…です。まぁ…初級魔法ですから、無詠唱もしくは比較的短い詠唱文ですわね」


「……なるほどー…ぽん」


「…。そんな“フレイム”ですが、やはり突然の発火は防ぎたいもの。防御魔法が存在しますわ」


「…防御…まほう?」


「その名も“レジストフレイム”。こちらも火属性初級魔法ですわね。効果は簡単。炎の壁を作り、作用しようとしている火の魔力(マナ)と衝突して霧散させる魔法ですわ」


「…ん……。…ん……」


「初級魔法ですが、消費魔力(マナ)は打ち消そうとしている魔力(マナ)以上の量を用いますわ。発動に用いられた魔力(マナ)を踏まえ、必要最小限の量で用いなければ、すぐに魔力(マナ)が枯渇してしまいますの。また、名目上“フレイム”に限定されると勘違いされがちなのですが、打ち消し出来るのは火属性攻撃魔法全般ですわ」


「……ぅん……ぅん…」


「ではこちらの詠唱例も見ていきましょう。まず、『炎を喰らうは同じく炎也』…これはフィリアーナのものです。次に、『炎よ、共を喰らいて我等を守り給え』…こちらは彼女のかつての戦友、ガノンフと言う方の詠唱です。魔力(マナ)の扱いに長けたハイエルフでも、省略せずに詠唱していることからも、この魔法の扱いが難しいことが分かりますわね」


「…Zzz」


「…はぁ。さて、ユリタヌキも寝てしまいましたし、今回はここまでしておきましょう。予告ですわ! 『キシャ! キシャシャシャ、キシャシャキキ、キシャキシャ! キシャ、シャア! キシャシャキシャ!! キキシャ、キシャアー…シャア、シャア、シャア、キシャキシャ!! キシャッキシャシャ──次回、流石師匠。ツッコミの切れ味が上がっている!byアデウス』…はい? な、この予告は何なのでして!? 全ッ然意味が分かりませんわ! 分かりませんわぁっ!?」


「…ふむ」


「…?」


「…アデウスだ。いやはや師匠と居ると、退屈する暇が無く、日々満足だ。この度人の子の学舎まなびやに足を運ぶことになったが、不思議と興が乗って仕方が無い。嗚呼仕方が無い! さぁ師匠、この世界ではどのような突っ込みを、突っ込みを! 突っ込みを!! 見せてくれるのか!! …しかとシカトせず見届けよう……」


「な、え、え? ユリ…タヌキ? えっと…あなたあの、妙な予告文の意味が分かりましたの…? それにアデウスって…まさか」


「…くぅ……ぽん……」


「…寝言、でしたのね。そう…」


「Zzz……」


「では、また次回お会いしましょう」


「Zzz…」


「本当に寝ていますのよね…。ビックリさせないでくださいまし…」

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