青空
『アークノア』に帰艦したディーとトレエは、艦の機関部から上階へと上がる階段を昇っていた。
鉄の香りと色に満ちた空間。硬い足音を立てて歩く二人の表情は、どこか浮かない。
「…あ~。気楽な客人生活も遂に終わったんだな…」
ポリポリと。憂鬱に髪を掻くディーを横眼に、トレエも嘆息する。
「…また…弄られる日々です…」
彼女の脳裏には、嫌味な笑顔を浮かべた男の顔が浮かんでいた。
朝起きて、任務を熟して人々の困り事を解決し、帰艦、報告、余暇。
中でも一番苦痛なのは、報告だ。
上司に揶揄われる日々に、戻って来てしまった。
またあの日々が到来しようというのだ。これが溜息を吐かずにいられようか。
「…ディー隊長は…良いです。…また暫く…お外なんですから」
「い~や、そう言う訳にもいかないんだな。ちょ~いと書類手続きが嵩んでいるし」
ディーの視線は遠い。
「書類…ですか?」
「一時的であっても、ジェラルに移譲出来ない権限が必要な書類なんだな。こ~ればっかりは、自分で書かないといかん」
「そう…なんですね。…どんな書類なのですか?」
「一番パターンとして多いのは、僕個人に宛てた親書だ。こ~れの返信ばかりは僕が書かないといけない」
「…ディー隊長は、そんなにお友達が多いのですか?」
トレエの声は、驚きが混じっていた。
艦を離れていた時期は短くないが、決して長くもない。その期間で書類が溜まる程の親書が届いているかもしれないのだとしたら、驚きであった。
「僕ぁ仕事柄、人付き合いが多いからね。これもある種の必然的出来事なんだな」
「…凄いです」
そんなトレエ、文通をするような相手など居ない。
言葉を交わすよりも、文を交わす方が得意そうに見える内気な彼女。しかし、例え文を交わそうにも交わすための相手を見付けられていない段階であった。
親しくするミーアも、好んで文章を書くような人物ではない。寧ろ文書を書くぐらいなら短剣で斬り刻んでしまいそうだ。それも、微塵に。
間怠っこしいことが嫌いな人物なのだ、彼女は。
しかし勘違いしないでほしいのは、彼女に友人が少ないという訳ではないということである。
ミーアとは勿論、実行部隊の面々にも可愛がってもらっている。
外部では、以前の指揮訓練演習で生死を共にした隊員とも交流はある。無論女性隊員とだが。
しかしそんな彼女とも、わざわざ文通をするような関係性ではなかった。
繰り返そう。トレエ・ドゥフトは友人が少ない訳ではない。ただ今の友人をとても大切にしているだけである。
「凄くはないんだな。この歳にもなると、自然と居たりする。元教師と言う肩書きがあるにせよ、ね」
「…教職だと、お友達が増えるんですか?」
「長年真面目に教師やってると、い~つになっても慕ってくれる教え子の一人や二人…居る。僕ぁたまたま、それが多いとも言えなくはないが。…だからヨハンにも、そ~う言う繋がりの人は居るんだな」
「おじさん先生にも…」
トレエの脳内に、ヨハンの教師時代が妄想された。
生真面目で、強面で、強くて、不器用な性格であるが、教えることが上手い教師像が浮かんだ。
「城の中に居るんだな」
「教え子が…ですか?」
一体誰なのだろうか。
何となく予想してみたくなる彼女であったが、意外にも城内の人の顔を覚えていないことに気付く。
「…誰ですか?」
「…今度、本人に訊いてみるんだな」
艦の通路を艦橋部に向かって歩きながら、今度本人に聞いてみようと思う彼女なのであった。
「ま~、世界は広~い。意外な所で教え子に会うってことぐらい、結構あるんだな。『組織』に籍を置~いている奴も居れば、遠~い別な世界に流れて日々を過ごしている奴も居る。…皆、それぞれの時間を歩んでいるのさ」
「…でもそれじゃあ、教え子だって分からないこともあるのでは…?」
「…実を言うと。その通りなんだな。面影を言われてみれば感じるだけで、歳を重ねれば雰囲気であったり色々と変わるから」
「…覚えていないことも多いんですね」
ディーは、ツイと眼を逸らした。
「…印象強い奴だったら、覚えていることもある」
「…それって…印象が薄い人は殆ど覚えていないってことじゃ…」
降りる沈黙。
ディーは視線を逸らしたまま、トレエの方を向かない。
即ち、肯定であった。
「…ディー隊長が、ここまで冷たい人だとは思わなかった…です」
ジト眼になるトレエの声は、平坦だ。
知人に声を掛けて、覚えてもらっていないことを知らされる。声を掛けた方からすれば、中々に衝撃である。
きっとこれまでも、これからもそんなことがあるのだろう。
それではあまりにも、教え子達が酷だ。
「…何十年教師やってると思ってるんだ」
「…知りませんよ」
バッサリと切り捨てるトレエの頬が膨らんだ。
むくれている。すっかりご機嫌斜めな彼女であった。
「…印象強い人って、例えば誰なんですか」
そんな彼女の様子にディーは記憶を手繰っていた。
この言いっ振りはまさか、彼女もまた教え子の一人だったのではないのかと。いや彼女でなくとも、例えば彼女の家族とか周りに教え子が居たのではないのかと。
しかし実際、彼女は教え子ではないし、身内もそうではない。そのため、無意味な思案なのであった。
そんな思案を続けながらも、ディーは印象強い生徒達のことを思い出す。
「…印象強い…か」
すると、すぐに四人の姿が浮かんだ。
「…珍しく、入学から卒業まで続けて担任を受け持った時の教え子なんだな」
教員生活の中で過ぎ去った時の中で、その頃が一番印象強いと確信していた。
昔を思い出すようにして、そして懐かしむようにして言葉を続ける。
「そ~の中でも、一際…他の生徒達とは違う輝きを放っていた四人が居た。『ティンリエット学園』の歴史は古いが、あの四人を擁した世代は、ま~…もう二~度と現れないだろう。…今にして思えば運命の神の、悪戯だったのかもしれない」
一人は、『最強の魔法使い』の孫。
一人は、学園始まって以来の天才。
一人は、三人を纏めていた調律者。
一人は、戦場を共にした親友の娘。
忘れたくても忘れられるはずがない。四人が四人共、皆総じて印象強かった。
「…凄い人達だったんですね」
ディーの話に耳を傾けながら、トレエも感心していた。
良く出来た物語のように、偶然では済ませられないような集まりだ。
その世代は確かに、運命の神による祝福でもされていそうだ。そう思えてしまう程に、奇跡的な組み合わせだ。
奇跡的な者達が偶然にも集った世代ーーー正に、奇跡の世代とでもいえよう。
ーーー。
「…あ」
そこまで考えたトレエの耳元で、何事か音が聞こえた気がした。
いつも突如として助言を与えてくれる、『夢の人』の声だろうか。
心なしか、「奇跡の世代」というフレーズに対して思うところがありそうな印象を受けたのだが。しかしすぐに聞こえなくなってしまった。
「…ドゥフト中尉?」
トレエは首を横に振り、逸れ掛けた思考を元に戻す。
ディーが話す四人の人物。聞くからに凄いと思える人物達であったが、その中で一人。
「…でもその親友の娘って…」
一人だけ、知っていた。
「そ~う。オルナ・ピースハートなんだな。綺~麗な子だったろう…」
オルナ・ピースハート。
彼女が放つ威圧感を除いたにしても、その美貌は忘れ難いものだろう。
加えて、身の丈よりも大きな大剣を軽々と扱っていた。そんな戦姫のような人物は、早々忘れられるものではないだろう。
だが、そんな彼女はーーー。
「…っ」
訊くんじゃなかった。
寂し気に笑うディーの姿に、彼女は頭を下げていた。
「…ごめんなさい…です」
傷を抉るような話題であった。
反省が喉元から声帯を震わせて飛び出し、声となった。
「良~いさ。ちょ~いと意地悪な話題になっちゃったんだな。ま、事実だけど」
視界の先に、通路の角が見えた。
通路を曲がれば、目的の隊長室はすぐそこだ。
目的地が近付くに連れて気が重くなっていく中、ディーが話題転換を切り出そうと口を開いた。
「…そ~う言えば、今日元帥嬢ちゃんが鋭く反応していたけど。…橘少佐とは、ど~んな関係なんだ?」
話題も、視線も、どこか下世話な物に変わった。
探るような視線に晒されたトレエの瞳が、そっと細められた。
「…ディー隊長が気にするようなことじゃないと…思います」
青白い髪越しの視線ではあるが、呆れていると分かり易い様子だった。
しかし引き出された反応は、ディーの予想通りであった。
「い~や。僕ぁ、『橘 弓弦』って男に興味がある。それに、彼を学舎に教職として招く以上…知~れることは知っておいて損は無い。特に、一度は戦場を共にした部下の話なら、尚更」
その言葉を聞いたトレエは、ハッとした。
至極当然な理由ではある。
しかしディーの言葉から察するに、彼のことを良く知っているようには思えなかった。
「あ…そうでした。でも…どうして教職に?」
別に人柄を疑っている訳ではない。
ただーーー気になったのだ。
「隊長」として、いずれはどこかの部隊を率いるものとばかり思っていた。しかし、一線を退いて教職に就こうとしているとは。
そこには一体、どんな心境の変化があったのだろうか。そうでないのだとしたら、誰かの思惑によるものなのかーーー。
「彼の部隊の隊長が、戦い尽くめだった部隊全員に、ちょ~っとした休暇を与えたいんだと」
「…部隊…全員ですか?」
随分と大仰な休暇だ。受け取りようによっては、部隊の解散とも取れる。
トレエの困惑をもっともなものだとし、ディーは肩を竦めた。
「あ~いつ達の考えることは、時々分からん。だ~が少なくとも、誰に横槍を入れられた訳でもない隊長の意思だ。そ~れなりの理由があるとは思うんだな」
因みにと、他の隊員は殆どが学生、一人が用務員として学舎を訪れることを話す。
「…ますます橘隊長が教職に就く理由が分からない…です」
トレエの頭に疑問符が増えた。
「…人に物を教えると言う点で、隊長養成訓練の一環じゃないか?」
ディーも今一つ、思惑を掴みあぐねていた。
だがとある彼自身の目的に必要な人物であるため、教職として招くーーーそんな理由が彼にもあった。
「「……」」
そして、突然の沈黙。
隊長室の扉が、眼の前に。
「「……」」
二人並んで、扉を暫し見詰める。
この扉を潜ってしまえば、とうとう普段の日常が戻ってくる。
現実を前に、二人は固まってしまっていた。
だが、いかに後髪引かれる思いでも、いつまでも立ち尽くす訳にはいかず。
「…行~こうか」
「…です」
俯いた視線を、上へと上げて。
二人は、日常へと戻って行くのであった。
* * *
ーーー『シリュエージュ城』三階、ヨハンの執務室。
日が昇り始めた室内で、一組の夫婦が時に身を任せている。
「…静かですね」
ディー、トレエという来客を帰した執務室は、静寂そのものである。
ジェシカはヨハンに身体を寄り添わせながら、彼の鼓動に耳を傾けていた。
「……」
トク、トク、と聞こえる拍動。
どうしようもなく心が落ち着くのは、つい先程までずっと、不安に心揺さ振られていたためか。
二体の悪魔による襲撃。たった一体で、世界一つを滅ぼすともされる存在を相手に戦っていたのだ。命の有無を心配しないという方がどうかしている。
だが、ヨハンは生き延びた。戦い抜き、そして帰って来てくれた。
嬉しかった。嬉しさが込み上げてきて、どうしようもなく離れ難くなっていた。
「…ジェシカ。離れないのか」
顔を上げると、困った様子のヨハンと眼が合った。
「…いけませんか?」
「…構わん」
バツが悪そうな上眼遣いと共に問い掛けると、いつもの返事が。
少し、鼓動が早くなった。
「…ふふ」
ヨハンが話を切り出したのは、照れ隠しなのだろう。
プイと顔を背けたヨハンの頬が、心なしか赤くなっているように見えた。
「…静かだな」
居た堪れなくなったのか、妻が言ったばかりの言葉を呟くヨハン。
それは、心から思ったのか。それともジェシカの言葉を繰り返しただけなのか。
「ふふ」
妻は、前者と判断した。
このままどんどん照れていけば良いのに。そんな悪戯っぽく考えながら、彼女は側に寄り添う。
「……」
しかしそんなヨハンも黙っていなかった。
徐に持ち上げた腕を、そっと。
「……」
下ろした。
「(あら…?)」
そっと肩を抱くぐらいされても良いとは思ったが、少し様子がおかしい。
照れたような頬は、今は薄らと血の気が引いているようにすら見える。
「…どうかされましたか?」
沈黙しているヨハン。
視線は空を見詰め、何かに思いを馳せているようにも見える。
その頭の中では。
『へんた~い。へんた~い。へんた~い。へんた~い』
幻聴が、聞こえていた。
「(…ぬぅ)」
娘の姿を模した悪魔が放った突然の暴言は、しっかりと彼の心に消えない傷を刻んでいた。
消えない傷は、これでもかと自制心を働かせ、どうにもこうにも生じた欲望のままに動けなかった。
「いや…何でもない」
そもそも、こんな朝からまた城主の業務を放り出す訳にもいかない。
納得の理由で自らを律し、ヨハンは心を落ち着けた。
「…そうですか」
少し残念だと思うジェシカであったが、日頃から夫を側で支え続けている以上、彼の思いを何となく察した。
そのため敢えて追求することもなく、静かに窓へと向き直る。
「「……」」
静かな空間。二人切りの、穏やかな風の吹く時間。
ここ最近賑やかになっていたが、これが執務室の平常運転だ。
朝焼けに染まる街並みを眺め、静かに二人の時間を過ごす。そうして一日は始まり、二人は互いの役割を全うしようと業務に入っていく。
ここ数日のことならば、ジェシカは朝食作りのためにアンナの下へと足を運ぶ。そして夫の分も食事を作り、執務室へと持って来る。
しかし先程アンナは、街に繰り出して行った。
きっと、街で食事を摂っているだろう。そのため彼女の分まで食事を作る必要は無かった。
だがこれから夫の分を作ろうと動くこともなく、彼女はヨハンに身体を預けたままだ。
これには、ある理由がある。
そうーーー見送りという理由が。
「む」
窓枠の上から、戦艦が姿を現す。
唸りを上げて薄い雲の上に消えると、二人の視線は、雲に映る影を追う。
「行って…しまいますね」
「…あぁ」
「そう言えば、ブローレン大佐から美味しいお酒をいただいています」
全てを察するヨハン。
鼻で笑った彼の口が、「独り占めしようとするからだ」と呟いた。
「…そうか。では夜に用意してくれ。良い肴と共にな」
してやったりと浮かべた満足気な面持ちを横眼に、ジェシカも大満足である。
「はい。…では、腕によりを掛けて」
飛行艇の低い音が聞こえる。
徐々に遠去かる音に耳を澄ましながら、ヨハンとジェシカは窓の外を眺めていた。
「やっぱり、ここに居たか」
「……」
「…お前なんだろう? あんな訳の分からないウィルスを作ってレオン達に注入したのは…知影」
「……。来たんだ」
「…あぁ」
「…風、気持ち良いよね」
「…。そうだな」
「…。何か…夢みたい。さっきまで、あんな騒ぎになっていたのに」
「そうだな。…静かだ」
「…どうしてここが分かったの」
「…お前ならここに居るって思ったからだ。…この、甲板の端に」
「…ふふふ。分かっちゃうんだ? 流石は未来の旦那様。何でも見抜かれちゃうね」
「…あぁ」
「…そう、私だよ。夢巨乳病ウィルスを作ったのも、それを隊長さんに投与したのも、全部」
「…あぁ、お前しか考えらなかった」
「…その言葉、もっと別の場面で聞きたかった。そうしたら、こんな…特定の異性にだけ反応して、興奮物質を分泌させるウィルスなんか作らなかったのに」
「…俺を夢中にさせるためだけに、こんなことをしたのか」
「そうだよ? 全部…あなたと私が心から結ばれるため。…何だか恥ずかしいな。ふふふ」
「何とかと知影は高い所が好きって言うが…流石だな」
「……」
「…犯人と、船で越す人は崖が好きとも言う」
「……えー」
「…居たわ!」
「弓弦!」
「…来たか。フィー、ユリ」
「待たせたわね」
「うむ、決戦とやらには間に合ったな」
「あぁ、丁度クライマックスだ」
「…ねぇ、折角作っていた雰囲気が台無しなんだけど」
「…さて、役者は揃ったな」
「えぇ」「うむ」
「行くぞ!」
「良いわよ!」「頼まれた!」
「いきなりッ!? そんなのはステーキでーーー」
「…“光の檻”」
「か、身体が…ッ!」
「水でも被っておきなさい! “潰す水球”!」
「ぶぇぇっ!?」
「このハリセンで…終わりだッ!」
「ららばいっっ!?!?」
「ふぅ…終わったな」
「ぅぅ……」
「知影殿…気絶しているな」
「そりゃそうだ。全力で叩いたからな」
「…私もちょっとされたいかも」
「フィーナ殿」
「コホン。これでこの騒動も…この章も終わりなのね」
「…そうだな。次からはまた、俺達も本編に出ることが出来そうだ」
「うむ。それで、次の章はどんなものなのだ?」
「あぁ。じゃあまずはこれだな。
『大人達は、あるサプライズを用意していた。情報に秘匿性を持たせ、あくまでサプライズとして機能させるために、水面下で行動していた。
「楽しんでこいよ〜」
「時々様子を見に行くからね」
「またと無い機会ですわ。ゆっくり羽を伸ばして下さいまし」
それはかねてより計画されていた、ちょっとした息抜き。戦いや任務に励む隊員達に用意されたのは、何と『ティンリエット学園』での学生生活!?
「転校生の神ヶ崎 知影です。趣味は読書で得意武器は弓です。短い間ですがよろしくね♪」
「ディオルセフ・ウェン・ルクセントです! えっとその…自己紹介か。何を言えば良いかな…えっと、あ、ディオって呼んでくれると嬉しいです。よろしくお願いします!」
「ユリ・ステルラ・クアシエトールだ。分からないことばかりだが、楽しみたいと思っている。よろしく頼もう」
「フィーナ、フィーナ・オープストよ。得意教科は…数学かしら? ふふっ、よろしくお願いするわ」
「天部 風音と申します。十八歳です♪ どうぞ宜しく御願い申し上げます♪」
「セリスティーナ・シェロック。ニックネーム…セティ。…よろしく」
「何だ? 若い内は恋愛に走るのも悪くないとは思うがな。恋ってヤツは若い内にやっておけ。特に青春って時期はな…持論だ」
「私の名前はレイア・アプリコットって言います。好きなことは歌を歌うこと。好きな教科は音楽で、短い期間だけど皆と一緒にお勉強させてください。どうぞよろしく♪」
「…あー。新しくこの学園に赴任した橘 弓弦だ。研修で学園を空けられる前任の代わりに、戻られるまでの間だが魔物生物学の授業を受け持つことになった。よろしく」
転校生として学園に編入する人物が多い中、トウガは用務員で弓弦は教師!? 彼等にだけ、ある任務が任されていた!
「…ん〜、ま〜、若いね〜」
「あれ? 隊長君じゃん! おっひさ〜♪」
始まるのは穏やかなスクールライフか、それとも破茶滅茶なスクールライフか。
「キシャッ!!」
「娘よ、斯様な輩は不届きを働く。更衣では背後を取らせるな」
「私は緑の妖精、シテロちゃんなの♪」
「甘いな! その程度の速さでは、作れるものも作れんよ!」
「私は何故飼われているのだッ!?」
一体どうなるーーー!?』…お、何か随分賑やかな章になりそうだな」
「…教師…だと」
「教師…ね」
「……良い」
「……そうね」
「…どうした? 二人共」
「いやいやいやっ! 別にそんな不埒なことは考えていないぞ!」
「えぇそうね! そんな少女漫画みたいな…ねぇ?」
「うむ」
「…? おかしな二人だな。んじゃ次、キャラクター紹介を挟んだ新章第一話の予告だな。フィーかユリ…」
「「……」」
「おーい。…まぁ良いか。『弓弦だ。学園生活とか言われて、まさか教師をやる羽目になるとはな。皆と一緒に青春を満喫したかったが、俺とトウガにはやることがあるんだと。まぁそれは仕方が無い…って、出勤時間…もうすぐじゃないか?! セイシュウの奴から魔法は使わないように言われてるし……くっ、考えるより…急げっっ!ーーー次回。『学園編』第一話、『ありがちな始まりは、ファンタジー物に定番な火の玉のようだった。by弓弦』…タイトル長いなっ!? それよりも次回…俺、大丈夫か?」
「「……♡」」
「お前達も大丈夫か…?」
「大丈夫ではなさそうですね」
「風音か」
「はい。僭越ながら、一部始終を拝見しておりました」
「そうか。悪いが、フィーを部屋まで連れて行ってくれ」
「畏まりました」
「…ぅっ」
「…何も気絶させる必要は無かったんじゃないか?」
「手間が省けますので。それでは弓弦様…」
「ん?」
「御指導、御鞭撻の程、宜しく御願いしますね? クスッ」
「…?」
「セティか。どうした?」
「お散歩」
「そうか、風邪引かないようにな。良し…行くぞ、ユリ」
「‘…うむ、先生…♪’」
「(…コイツ、大丈夫か?) ほら、部屋に戻るぞ」
「‘…はい…’」
「…知影…ビショビショだけど良いの?」
「諸事情あって反省中だ。コイツは風邪引くような奴じゃないし、大丈夫だろう」
「……コク。…弓弦が言うなら」
「じゃ」
「…一緒に行く。…反対側手伝うから」
「ん…なら一緒に行くか」
「…コク」