滅失
ヨハンは街中を駆ける。
向かうは向かい風の先、彼方の友を追い掛けて。足がひたすら地を蹴り、どよめく人混みを手で掻き分けていく。
「先走るな、ディー!」
上げた声に、友の背中が迫って来る。
横に並んだ戦友の顔は、追い付いたヨハンが頼もしいとばかりの期待に満ちていた。
「来~たのかい、ヨハン!」
「行くぞ! 借りを返すッ!!」
「仕方無いんだな! 合点!」
ディーが発動させる、“クイック”の魔法。
風を纏って二倍速となった老兵二人は、街の西部へと急行する。
細い路地裏を駆け抜け、月夜の見え隠れし始めた空の下ーーーようやく辿り着いた。
「な…っ!?」
「こ~れは…」
住宅街の中に、ポツリと大穴が空いていた。
空間ごと抉り取られたように、下に細長いクレーターが形成されている。
先程空気が振動したのは、この空間が削り取られた余波によるものだったのだろう。綺麗な、あまりに綺麗過ぎる終末風景がそこにはあった。
「…突然この有り様か…! お見逸れ入るッ!」
街の中だ。
街の中だというのに、まるで『陰』に侵食され過ぎて崩壊した世界の果てを見ているような気分だ。
生命の気配はしない。あまり無機的な印象を与えてくるこの空間だけが、まるで今の世界から切り取られた別世界のようだった。
「…奴は…ッ!?」
互いに背中を預け、周囲を探す。
隈無く動き回る視線に、緊張が駆け巡る。
「…はぁ。逃げられちゃった~」
凄惨な破滅の現場に、場違いな声が響いた。
「よ~いしょっと!」
直後。濃密なまでの穢れた風が、吹き付ける。
開かれた奈落の口から、地上へと飛び上がる影があった。
「「……ッ!!」」
二対の視線が、月夜を射抜く。
宵闇の一点を染める、赤い影。
吹き荒ぶ風に舞い上げられて、深紅の髪が空へと靡いていた。
着地の音は、とても静かだった。
しかし放たれている威圧感は、想像を絶する程に大きい。
「あ。やっほ~♪ パパ♪ 先生♪」
厳しい面持ちで睨む男達を、親しみを感じさせる声の呼び名で呼ぶのはーーー女性。
深紅の髪を腰の辺りまで下ろし、横髪は豊かな胸の下で内巻きにしている。蒼の瞳は、得意気に片方が閉じられた。
人懐っこそうな無邪気な笑みを浮かべた彼女は、担いだ大剣を地に突き立てる。
スラリと滑り込む刃が地に亀裂を走らせる。
彼女が両手を横に振ったのは、挨拶だ。その仕草は、可憐さを思わせる。
だが同時に見る者によっては、これ以上に無い程の挑発として取られるものだった。
「お~?」
ビシリ、と更に地に亀裂が走る。
不思議そうに俯いた女性の足下から、周囲が奈落へと崩落した。
「わ~っとっと!? と~っ!」
気の抜けた声から間を置いて、再び跳躍で空を駆ける、深紅の影。
共に崩落した大剣を掴んだまま華麗に着地した彼女は、二人分の視線に晒され、
「えっと~…。恥ずかしいな~…あはは~」
頬を染めて俯き、仕切り直しのように柏手を打った。
「パパ、先生、元気してた~?」
そして本当に仕切り直した。
片足を上げ、両手を可愛らしく振るのは彼女なりの挨拶だった。
ヨハンもディーも、良く良く知っている挨拶であり、彼女が上機嫌であることを示す挨拶であった。
「…最悪の気分だ」
「あぁ…。全くだ」
こんなに似ていても、違う。
違うとは分かっていても、重ねてしまう。
『滅失の虚者』と呼ばれる悪魔は、十四年前に死んだディーの教え子であり、ヨハンの娘の姿をしていた。
姿形は同じ。だが、存在が違う。
オルナ・ピースハートは、もう居ないのだ。
塵は塵に。灰は灰に。
在らざるべき亡霊は、在るべき彼方へ。
だから、正さねばならない。
複雑な胸中の二人は、静かに得物を構えた。
「お~。すぐに臨戦態勢。元気なことは、良いことだよね? パ~パ♪」
茶化す女性もまた、得物に手を添えた。
女が扱うには、大き過ぎる剣だ。しかし、二人は知っている。彼女はそれを、棒切れのように振るえると。
「ヨハン、挑発だ」
ジリジリと距離を測りながら、ディーが眼配せする。
ヨハンも彼女の隙を探っていた。
「あぁ…分かっている」
どこから攻める。
だが、隙が見付からない。
一見隙があるように見えるが、明らかに罠だと経験が諭す。
「いつ振りかな~? 前はちょっと魔力を出してみたら、わざわざ二人共が私のお墓にまで来てくれたんだよね~? 覚えてる?」
フェゴルが嬉しそうに話す、再会の記憶。
『滅失の虚者』の魔力が感知されたとの報告に、ヨハンとディーが急行したのがとある異世界の狭間。
何万と異世界があれば、その数だけ狭間の世界がある。しかしヨハンとディーがその世界について良く良く知っていたのは、記憶に残らないはずのない狭間であったからだ。
それが、墓。
建てたのは、娘の恋人。魔物の軍勢から仲間を逃すために一人残り、一人戦い、命を落とした娘を置いて退却した恋人。亡骸すら持ち帰れなかった男だ。
形だけのものに何の意味があるのか。後になって娘の大剣を持ち帰った男に対し、強く糾弾したのをヨハンは覚えていた。
何だそれは。娘はどこだ。拳と共に打つけた想いに対し、男はただ床に頭を付けるだけであった。
もしジェシカの涙ながらの懇願がなければ、ヨハンはそのまま男を殴り殺していたかもしれない。それ程までに、娘を見捨てられた父親の憤りは大きかったのだ。
だから、心のどこかで娘の死を認めたくなかった。男に向けた言葉通り、形だけのものに拘りたくなくて墓も作らなかった。
だから、男が娘の墓を作ったと聞いた時も当然激怒した。結局はジェシカの懇願に折れたが、許せない気持ちは抑えられなかった。その心のどこかで、「せめて弔いのために、形だけでも」という思いを感じつつも。
だから、その墓で悪魔の反応があると聞いた時は、不思議な因縁を感じた。
「お前はっ!? な、何故っ!? だったかな~。最初は。あの驚きっ振り、凄かったな~。なかなか見れないよね、あの顔~。ふふ♪」
その因縁が、最悪の形で今の再会を呼び込んだ。
初めて聞いた悪魔の声は、久しく聞いていなかった娘の声。
愛娘の姿をした者が、愛娘の声と、愛娘の言葉で語り掛けてくる。親にとって、これ程悲しいことない。
そう、悲しかったのだ。
「…お前は何が狙いだ。何故あの時何も言わずに、姿だけを見せて消えた」
ヨハンの口から、静かな言葉が出る。
槍の穂先が、微かに下を向いた。
「ヨハン…」
諌めるように友が名を呼ぶ。
ディーは、その想いの強さを知っていた。
しかし感傷に浸るには、まだ早過ぎる。彼女の魔に満ちた気配がそれを悟らせた。
「(や~っぱりまだ…情が捨て切れないか…)」
そんなことは承知の上だった。
ヨハンの家族への想いを知っていたから、一人で行こうとしたのに。
だが同時に、彼が動くために一石を投じたのも事実だった。
「(…。情が捨て切れないのは同じか…)」
もしヨハンが居なければ、自分が惑わされていたかもしれない。
だがヨハンが居るから、そんな自分を律することが出来る。ディーは冷静に努め、まだ機を窺う。
「……」
フェゴルと一瞬眼が合う。
昔から変わらない爛々とした彼女の瞳が、楽しそうにしていた。
「(…攻撃を待っているのか? 無駄とでも言いた気なんだな…っ)」
剣の届く範囲に踏み込めば、斬撃が飛んでくる。
そうでなければ『滅失の虚者』の二つ名通り、殲滅魔法が飛んでくるかーーーいずれにせよ、一歩間違えれば死だ。
ディーは効果の切れた“クイック”を、再度掛け直していた。
「ん~。久し振りの親子の再会って、ちょ~っとドラマチックで、ミステリアスでも良いかな~って、思ったから。雰囲気作ってみたんだ~」
ディーの纏う風を肌で感じながら、ヨハンは歯噛みする。
ふざけているとしか思えない言葉だ。腹立たしさにヨハンの眼が鋭くなる。
「だって、喋ると馬鹿がバレるぞ~…って、パパが昔言ってたから。何か雰囲気大事にしたくて」
それは、確かにヨハンの記憶に触れる発言であった。
愛娘が一部隊の隊長に任命された日。自分と妻の下に報告しに来た折に激励した言葉の一部だ。
フェゴルは眉を顰めてみせ、声音を低くして続けた。
「隊長は部隊の顔だ。隊長が侮られれば、部隊が侮られる。お前は喋らない方が頭の弱さが露見しないかもしれないな…って。アレ結構私傷付いたんだよ~? そんなこと言う? って~。…でもあんな皮肉っぽくなったのは、パパなりに軽口を言おうとして辛口になったんだって分かってた。だからママと一緒に、面白いな~って思ったり~。でもその後の言葉は、流石パパ~って、思った」
父親の真似をする娘のように、似合わない声真似をしてみせ、なおも続ける。
「隊長となるからには、並みの隊員よりも大きな責任が付き纏う。時には己の決断に迷うこともあるだろう。だが、後悔の残る決断だけはするな。刹那の後悔が、長年お前を縛り付けることになるんだ…。あの言葉…まだずっと、私の中で生きてる。だからあの時…」
話す途中で、フェゴルはそっと眼を伏せた。
まるで己の内に、言葉を染み込ませるように。
彼女が話した言葉。それもまた、ヨハンがかつて愛娘に伝えたこと。
今でも記憶に残っている。
その日を境に娘の部隊はたった四人で世界を救って回り、『組織』の中でも名を上げていった。
互いに忙しい身となった親子は、その日を境に手紙のみでの遣り取りとなった。
だからその言葉は、ヨハンが直接娘に伝えた最後の言葉だった。
最後になってしまった、言葉だったのだ。
「ふざけたことを…ッ!」
思い出を、愚弄された気分だった。
ヨハンが穂先を上げ、フェゴルの喉元を貫こうとしたその時。
「ッッッ!!!!」
眼を伏せた瞬間。
歴戦の棍士はそれを、隙とした。
風の纏った突撃が、フェゴルを狙う!
「「ッ!!」」
フェゴルは俯いたまま反応し、視界に入っていないはずの攻撃を、広い大剣の面で受けた。
「そ~れ以上はァッ!」
ディーは身体を翻し、蹴りを放つ。
伸びる足先が、鞭の如くフェゴルの首を狙い澄ます。
空を切る音、次いで鈍い衝撃音。
フェゴルは足首を、手の甲で受け止めていた。
「止~めるんだなッ!」
身体を切り返したディーが振るうのは、棍による連撃。
眼にも止まらぬ速度の打撃が、フェゴルの身体に吸い込まれては弾かれていく。
連続する衝撃音は、少々甲高い。
フェゴルが大剣を少し動かすだけで攻撃を去なしているのだ。
「ッ!」
ヨハンも加勢した。
地を蹴り、乱舞の中に佇む悪魔の胴を狙い澄ます。
「ディーッ!!」
ディーが身を翻した。
構えられた槍の穂先が、刹那の内に空いたばかりの空間を貫きフェゴルへ。
「任せたッ!」
通り過ぎたディーが、魔力で起こした風でヨハンの背を押した。
穂先が大剣の脇を擦り抜け、フェゴルの身に届く前にーーー何かに触れた。
「(障壁か。だが…!)」
高位の悪魔が持つとされる、穢れた魔力による障壁。物理的干渉を中和して無効化するという特性が故に、半端な攻撃では障壁を崩せず傷一つ与えることが出来ない。
しかし追い風という推進力を得た穂先は、障壁に触れてなお弾かれることなく、押し貫いていく。
「ぬぉぉぉぉぉッ!」
雄叫びと共に、ヨハンは踏み込む。
まるで巌を貫いているような感覚だ。圧倒的に堅牢な障壁は、このままでは傷を付けるのが精々かもしれない。
いや、だが貫く。信念を、巌を、その先の悪夢を。
ヨハンは己を鼓舞し、己の魔力を怒りで燃やす。
『膨れよ炎爆ぜよ、焼き飛ばせ!!』
叫ぶような詠唱と共に放たれたのは、火属性中級魔法“フレイムボムズ”。
フェゴルの直前に展開した魔法陣から、火球が飛び出て膨れ上がる。
周囲の空気を一度に吸った火球は、内に秘めた魔力を解放して小さな爆発を起こした。
「はぁぁッ!」
爆発の煙の中、火の粉を散らして槍が障壁を穿っていく。
『どっか~ん』と気の抜けた、しかし頼りになる援護の声。背後から、ディーによる風属性中級魔法“エアバズーカ”が放たれたのが分かった。
「(…勝機ッ!)」
ディーの意図を汲み、ヨハンは力強く地を蹴飛ばした。
多くの言葉など要らない。互いの経験が、身体を動かす。
次の瞬間、ヨハンの背を猛烈な風が押し込んだ。
耳に聞こえる亀裂音。ヨハンは止めとばかりに、手元に引き寄せた腕を突き出したーーー!
ーーーバリィィインッ!!
破壊音。
ガラスが割れるような音を立て、フェゴルの障壁が飛び散る。
大きく後ろに押し出されたフェゴルは突き立てた大剣で衝撃を殺し、
「ぬぅ…ッ!」
ヨハンが右手を天高く突き上げているのを見た。
展開する巨大な魔法陣が、振り下ろしと共に巨大な火球を吐き出す。
「はぁぁぁッ!」
大将ヨハンの代名詞が、彼のみが使える無詠唱での“火属性上級魔法”が、今。
「ほら…」
ーーー爆発した穢れた魔力により、闇と消えた。
「…ッ!?」
闇の源泉は、フェゴルの掌。
ヨハンと同じように手を空に向けたフェゴルは、俯きながら小さな溜息を吐いた。
「…喋ったら…馬鹿…」
表情の見えないまま、彼女は笑った。
顔を上げた彼女は、やはり笑っていた。
「ううん、偽物だってバレちゃったかな♪ 良いよ、お喋りおしま~い。ここからは~?」
凝縮、爆発。
圧倒的な質量を持った暴風がヨハンを、ディーを吹き飛ばした。
爆発の中心に立つフェゴルは、先程までとは比較にならない威圧感を放ち、剣を構えた。
『…殺し合おうよ~ッ!!』
直後。風が吹き抜けた。
景色が塗り替えられる。悪魔の魔力に周囲が覆われ、退路を塞がれた。
だが皮肉なことに、外部を遮断する悪魔の支配下にある世界だからこそ、ヨハンとディーは互いに全力が出せると判断した。
「(オルナ…。今、お前の姿を取り戻すッ!)」
瞬きの刹那、ヨハンの前に剣先が迫る。
ヨハンは咄嗟に槍を構え、穂先にて刃を去なす。
「ぬッッ!?」
穂先が、割れた。
一撃の刺突。たったそれだけの衝撃に、ヨハンの得物は容易く屈した。
刺突はまだ続く。
空を滑る銀一閃。一人に避けられ、狙うはもう一人。
「…はぁッ!」
光速の一閃を穿つ、鋭いカウンター。
身を小さくしたディーが突き出した棍が、フェゴルの腹部に決まる。
向けられた加速は反転。鈍い衝撃と共に、悪魔の身体を突き返した。
『ふふ…』
笑う悪魔。
鋭い一撃を受けてなお、彼女はまるで戦いを楽しんでいるようだ。
おそらく、まともなダメージは入っていない。苦々しい顔をしたディーは、悪魔を挟んで向かいに立つヨハンに呼び掛けた。
「なぁ、ヨハン!」
「何だ、ディー!」
男達が見据えるのは、勝利。
「こ~こ最近、随分刺激的だ…!!」
「…全くだ」
軽口を叩くのは、軽口を叩けないような状況だから。
「「…行くぞッ!!」」
火と、風の魔力が、相互に魔法陣を展開する。
悪魔を中心として嵐が起こり、巨大な火球が降る。
ヨハンとディーによる連携魔法が猛威を振るい、フェゴルを焼き切り刻もうとする。
炎の嵐は広がり、世界を赤く染めた。
人の姿を模していても、敵は最強の悪魔が一柱。老将達に、「加減」の二文字は無かった。
『堕ちし古の賢人は云った』
ーーーだが。
『破壊』
嵐の真下。広く、激しく、黒い光が溢れている。
『それこそが我が望みと』
明滅する世界。
白く、黒く、明滅は感覚を狭める。
轟音。果てしなく轟き渡り、空間を揺らす。
解き放たれんとする魔力が、世界の色を奪った。
そして、
『“カタストロフィー”』
二人は、自分達の敗北を悟るのであった。
「この丸い細胞…良く良く見ると、胸のような形をしている…! これは、部屋に入る前に採った血液からは見つからない!! そうかつまり! …こいつが原因菌か!!」
「この菌は培養のため、こっちに保管して…。良し、後はこの菌に対して強い抵抗を示している部分を探し、作用を強化する薬剤を用いる! これでこの細菌事件は…解決する…ッ!! 解決するのだ…ッ! やっと! あの悪夢のような日々が! 終わるッッ!!!!」
「ん…? 痛っ!? あった…ま…っっ」
「む…。起きたかフィーナ殿」
「えぇ…。どうやら、少し我を忘れていたみたいね。頭痛いわ…」
「あれだけの酒を飲まされたのだ。酔わぬ方が無理だというもの。うむ」
「えぇ…不覚だったわ。本当この人ったら…一旦ボケに回ったら酷い有様だわ。どこからお酒を取り出したのか」
「全くだな。ともすれば世界が滅亡しかねない。…困った奴だぞ」
「本当。時々困らされるのが玉に瑕だけど…でも、誰かのため真っ先に動ける優しい人だから…ね?」
「うむ」
「…私はこの人をしっかり拘束しておくわ。だから、薬はお願いするわね」
「うむ!」
「じゃあ」
「…予告だな。『空から降り立つ者が居た。降り立つ男は不敵に笑う。城から飛び出す者達が居た。飛び出す乙女達は戦場へと駆ける。部屋にて憂う者が居た。憂う女は生還を願うーーー次回、虚者』」
「ふふふ…」
「フィーナ殿…楽しそうに縄を見詰めているな…。…意外とSっ気もあるようだ」
「“アクアバインド”」
「む、水が弓弦の身体を拘束していく…さらに縄でも拘束が…」
「はい、完成よ」
「…何と言うミイラ巻き。アレでは流石の弓弦も…って」
「あら」
「自分ごと巻き付けてどうするのだっ!? どうしたらそんな器用なことをっ」
「く…っ。どうやら私はここまでのようね」
「何故そうなるのだ。もう少し、抜け出す努力を…っ!!」
「駄目よ。縄縛りとユヅルとの密着状況が魅力的過ぎて、身体が言うことを聞かないわ」
「な、んだと…っっ」
「…この人は私に任せて、あなたは薬をっ!」
「仕切り直しッ!?」
「あなたならきっと出来る! 信じているすぅ…っ」
「寝たッ!?」
「…すぅ…。すぅ…」
「……」
「…いかん。無性に怒りが」