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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
裏舞台編
379/411

撃退

 ディーが謎の男達を尾行していた頃のこと。

 トレエの姿は、街の南側にあった。


「…♪」


 ディーと別れた彼女は、主に『エージュ街』の入口部分を見回っていた。

 いつも同じ所を見回るのではなく、たまたま今日見回っているのが街の南側だ。

 南側というのは、『エージュ街』の中では比較的静かな部類にある区画で、中心部よりも店は少ない。代わりに兵の詰所がある等、有事の際における対応のための施設が揃っていた。

 因みに兵の詰所は西側と東側にもあるが、この南側程大きな建物ではないし、どちらかといえば兵の訓練施設の側面が強かった。それ故、実力のある兵は南の詰所に多く居る。外への出入口が南側にあるため、街の警備のために必要な配置だ。

 では何故ディーとトレエが見回りをする必要があるのか。見回りだけでなく、本来ヨハンやジェシカの仕事である「視察」の役割も任されているためであった。「任されている」、の前に「一応」が付くが。


「(わぁ…良い風です)」


 トレエが北を向けば、『シリュエージュ城』が見えた。街のシンボルの一つが北にある中、ここの特徴はというと、南の草原から爽やかな風が吹いてくることだろうか。

 周囲を煉瓦の壁に囲まれた『エージュ街』は、南側が入口だ。壁で囲まれているとはいっても、北を横切るように大河が流れているため完全に囲まれている訳ではない。長方形の上線が無い形で壁は広がっている。

 ならば大河の上に架けられた橋の先にある『シリュエージュ城』はどのような立地にあるかというと、やはりというか当然というべきか、南以外の三方を山に囲まれていた。

 また『シリュエージュ城』の方が『エージュ街』よりも、河に対して高い位置にある。ヨハンの執務室から街全体が良く見渡せるのは、そのためでもあった。

 壁によって守護された街の中は、基本的にのんびりとした時間が日々流れている。それは今日この日も例に漏れなかった。

 街の様子にも変わったところは見られず、人々には笑顔が、街には活気が満ちている。

 見慣れた光景だが、見慣れているだけに安心する光景だ。

 平和が一番。こんな日が続くと、そろそろ事無かれ主義に目覚めそうである。何も起こらなければ、それで良いーーーと。少々達観した考え方だ。

 だが同時に、何か良いことがありそうだと期待を抱けそうな風であった。

 トレエ・ドゥフト十五歳。まだまだ夢と期待をその身で膨らませるお年頃。胸の膨らみどんとこい、お腹の膨らみお断りである。

 ーーー等と考えてしまうのは、平和だから安心しているのだ。見回りを頼まれた時はどうなるのか不安だったが、そろそろ慣れを感じているだけに、見回りは散歩気分。

 右へフラフラ左へフラフラ。ブラブラブラブラ、時々道でつまずく。因みに決して道に迷っている訳ではない。これは巡視であると同時に、お散歩ーーーそれは、逆か。

 トレエが今していること。それはお散歩であるが、巡視である。強調すべきは巡視であって、お散歩ではない。

 何故ならこれは、一応お仕事だ。仕事であるためトレエは、一応周囲への注意を配ってはいる。いるのだが、完全に警戒している時よりはおざなりな巡視となっていた。

 隊員として戦場に赴くとはいえ、十五歳である少女の遊び心が現れているのだ。微笑ましい様子ではあるのだが、仕事に対する姿勢としては些か問題か。

 しかしかといって、常に気を引き締めていては疲れてしまう。気を引き締める時と、気を抜く時のバランスは大事なのだ。


「(気持ち良い日…です…♪)」


 もう少し日が落ちたら、城に戻ろう。城に戻ったら、ジェシカ手製の夕食が待っているのだから。

 見回りと、ご飯。自分にとっては勿論のこと、誰にとっても危険の少ない日々が、ずっと続いてくれれば良いのに。

 そんなことを考えながら、街の外を眺めていたその時であった。


ーーーれかぁぁぁぁぁッ!!


 「フラグ」という言葉がある。

 過程の先に結果があるように、日常茶飯事という結果があればその過程ーーー所謂「原因」というものがある。

 日常茶飯事とは、お約束事とも換言することが出来る。「何か」を行えば、それに伴う結果が起こり、「何か」を行わずして結果は得られない。

 もし結果が望まない形の不幸な結果であっても、人は不思議と「何か」を行ってしまう。

 例えばバナナの皮である。もし道にバナナの皮が落ちており、それを踏んだら滑って転ぶという結果がある。この場合、バナナの皮を踏むという行為が「何か」ーーー結果に至る原因であるのだ。

 だが分かっていても、バナナの皮を踏んでしまう欲求を抑えられないとう人種が居る。「バナナなんて踏む訳ない。転ぶ訳ないじゃないか」と、所謂「振り」と呼ばれるお約束の後に転倒という結果に自ら踏み出してしまう。 

 この場合、「バナナなんて踏む訳ない」と言ってしまうことが「フラグ」なのだ。言ってしまわなければ、もしかしたら踏まなかったかもしれないのに、自ら「踏む」という結果に近付く原因を作ってしまったのである。

 「平和が続けば良いのに」。そう思ってしまったことが、「フラグ」だった。

 「平和」という概念に意識を向けさせ、「平和」ではない現象を知覚する閾値を下げてしまった。そのため、トレエは耳慣れない現象を聞き取ってしまったのだ。


「…?」


 聞こえた声に、視線を巡らす。

 整備された舗装道が走る草原の彼方から、こちらに向かって何かが来る。

 凝らされた少女の瞳が、声の主を見定めた。


「(…男の人…焦った顔で走って来る…。その後ろに何か…大勢…?)」


 砂埃が立っている。

 衝撃で千切られた草が舞っている。

 砂埃が立つにしては、男一人という質量ではどう考えても少な過ぎる。


ーーー助けてくれぇぇぇッ!!


 どうやら男の後ろを、大きな質量が追従しているようだ。

 質量の主はーーー?


「(ううん…狼勢…ッ!?)」


 大勢の、青毛狼。

 【リスクJ(少佐一人で倒せる強さ)】に分類される青毛狼、『マーナガルム』。その数十数匹。

 何故こんなに多い。そして、平和に終われそうだったのにどうして現れたのか。

 助けに行く必要が、あるようだ。

 このままでは男の命が危ぶまれるし、街の中に魔物を招き入れるのも問題外。

 周囲に男の声を聞いた街民による人集りが出来始めている今、魔物が街に入れば少なからず負傷者が現れる。

 少女は身構えた。

 撃退するなら外で。そして外で討つには、まだ魔物と街の間に距離がある今しかない。


「いけないです…!」


 草原に躍り出た。

 取り出した手袋に両手を挿し入れ、風を切るように草の上を駆け、男と擦れ違う。


「おいこっちはあぶーーー!?」


 制止の声を背中で弾き、両袖に隠し持っていた得物の感触を確かめる。

 魔物を見据えるトレエの瞳が、闘気に満ちた。


「…街には行かせません…ッ!」


 視線が隈無く魔物の数を捉える。

 十五匹。奇しくもトレエの歳の数だ。

 中々に多いが、これ以上の数でないよりかはマシな数だ。

 トレエと魔物との距離が、1m(マール)にまで詰まった。


「(速い、でも)…ッ!」


 袖より引き抜いた軌跡から、指先にかけて光が輝く。

 否、光を反射するモノが巻き付いているのだ。

 先頭の『マーナガルム』が跳び上がった。

 他の魔物によって一瞬にして周囲を囲まれ、逃げ道と避け道を塞がれる。

 青空の下、緑の上、円状に囲むのは、青い狼達。


「すぐにっ…!」


 包囲に加わらなかった二匹が、男の背中を追い掛けるのが視界の端に見えた。

 敵を封じ、効率的に獲物を狙う、実に統率の取れた動きだ。


ーーーグァガァァッッ!!!!


 特徴的な三日月を思わせる牙を剥き、狙いは少女の小柄な体躯。

 鋭い牙に嚙み付かれれば、次の瞬間には鮮血が、その次の瞬間には千切られた身体の断面と出会えるだろうーーーむざむざとやられれば、の話だが。


「…間に合わせますッッ!!!!」


 直線的な動きを見切れない程、トレエは未熟ではなかった。

 魔物の動きに反応した彼女は右手で短剣を抜きつつ、半歩身体を後ろに反らした。

 『マーナガルム』に限った話ではないが、本来地を駆ける生物は、空中で急に向きを変えられない。

 爪を避け、腕を突き出す。

 そして逆手に持った短剣の刃を、開かれた獰猛な牙の合間に滑らせた。


「えいッ!」


 手応え。

 口元から尾の部分にかけて走る、青を切る紅。

 本来一つであった身体が、次に着地する頃には上下二つに分かたれている。

 落ちる死骸。短剣に付着した血液が、主の亡骸を映す。

 急襲の勢いが、トレエの実力が、魔物を喰らい返した。


ーーー…!!


 魔物達が、地に立てていた爪をより食い込ませる。

 唸り声を強く発するのは、威嚇か。

 背を向けて逃げ出した男よりも、小さい幼気な少女。しかし単なる獲物でないことを、彼等は理解したのだ。

 獲物を狩猟しようとしていたはずが、自分達が狩られようとしていることにーーー


「…まだ…やりますか…? やらないのなら…元の世界に帰って」


 理解してもらえるとは思わなかったが、トレエは問い掛ける。


ーーーガルル…ガァァァッッ!!!!


 返事は、全方位からの急襲にてもたらされた。

 捌ける数で襲い掛かれば、容易に狩られる。ならば、数の優位を活かした全方位攻撃にて、狩るーーー獣の本能が、そうさせたのだろう。


「そうですか…」


 しかし少女は動じることなく、その場でクルリと回った。

 意味も無く回った訳ではない。トレエが身体を動かすことは、攻撃であり防御の意味を含んでいた。

 遠心力により、腕に巻き付いた光が解けていく。

 一定のところまで解いた後、トレエは強く地を踏み締め指先を動かす。

 動作に合わせて周囲に細い光が展開、彼女を守るように檻を作った。


「…可哀想…ですけど」


 指先に、微かな手応えが伝わる。

 それは糸という牙が、命へと食い込んでいく感触。微かなのは、命を覆う血肉が紙切れのように千切られているため。


「やぁッ!」


 トレエは両腕を大きく凪いだ。

 檻が大きく広がり、彼女の頭上を中心として左右に周囲を駆ける。

 風が切り裂かれ、鳴いた。

 鋭い音が、断末魔が、響き渡る。

 全方位から襲い来る魔物の全てが、少女へと牙を立てる前に喰らい尽くされた。


『弾け貫くは弾丸、其は水で出来ていた!!』


 少女による狩りは、まだ終わっていない。

 赤く染まる景色の中から、街へと向かった魔物の先頭に向けて二本の短剣が投擲された。

 見事な投擲だ。しかしそれだけではない。空を滑るように疾走する短剣の柄に、推進力が働いている。

 弾丸のように丸いのは水球、水属性中級魔法“ペネトレイトウォーター”。圧縮された水が、敵を弾丸のように撃ち抜く魔法だ。

 攻撃対象に向かい直進する魔法の効果を活かし、短剣のエンジンとする。これまで踏んだ場数の経験が、彼女を強く後押ししていた。

 貫通するかしないか、ギリギリの魔力(マナ)にまで抑えられた弾丸は、少女の膂力では届かない一撃を可能とさせる。

 そして真っ直ぐ向かう切先が、それぞれの尾の付け根に刺さった。


ーーーガァッ!?


 動きを止める二匹。

 否、短剣の柄に巻き付けた糸を通してトレエに引っ張られ、先に進めないのだ。

 少女と魔物の力比べ。

 力だけならば、魔物の方が上。このままトレエが力負けするように思われたが。


『…湧いて下さい!』


 発動された水属性初級魔法“スプレッシャー”によって生じた水柱が、真下から魔物達の身体を打ち上げると、同時に勝負の軍配が少女に上がった。

 指先の感覚を頼りに短剣に巻き付いた糸を外した後、彼女はもう一度大きく両腕を凪いだ。


「ごめんなさいッ!」


 打ち上げられて自由落下していく魔物達の身体を二本の糸が撫で、命を切断する。

 風に舞う血飛沫と細切れの渦中に立つ彼女の街防衛は、こうして終わりを迎えた。


「ふー。(…一仕事終わりました)」


 肩の力を抜き、糸に付着した水分を軽く吹き飛ばしてからしまう。

 魔物の血液塗れが嫌なトレエは、水柱で打ち上げたついでに糸を濯いでいたのだった。

 魔物の身体から落下した短剣も街に戻る道中で回収する。

 大事な大事な得物だ。握ってみると、慣れ親しんだ感覚を返してくれる、この世に二つと無い相棒だ。二本あるが。

 トレエは短剣に付着した血液を払い落とし、糸と同じようにしまった。


「…片付け…お願いします」


 街の入口に戻ったトレエは、入口を守っていた警備兵に敬礼する。どうやら、戦っている間に駆け付けてくれたようだ。

 仮に討ち漏らしたとしても、代わりに討ち取ってくれただろうし、お蔭様で野次馬の乱入もなかった。無事に討伐する援護をしてくれたことへの感謝の気持ちを込めていた。


「ハッ、お疲れ様です」


 尊敬の感情の篭る視線が、不思議と居心地を悪くさせる。

 彼等は同じ街を守るものとして、危険を未然に防いだ少女を純粋に尊敬しているのだ。だがそうと分かっていても、あまり親しくない人と視線が合うと戸惑いを抑えられなくなる。

 トレエは小さめに頭を下げることで視線を外し、その場を後にした。


「大丈夫でしたか?」


 今度は、先程魔物に追われていた男に声を掛けられる。

 気さくに話し掛けてくれる男であったが、いきなり調子良さ気に話し掛けられたために、トレエは身構えてしまった。


「………………。はい」


 人見知り、発動。

 どうして気さくに話し掛けてくれたのか、どうして急に脇から話し掛けてくるのか。そして距離が近い。

 トレエは少し距離を取りながらどう話したものか考えた結果、ようやくその二言を話せた。


「助かったよ…。奴等…本当は山の中とかに住んでるんだけどさ。近頃人里に下りて来たって言うから、観察しながら原因を探ってたんだけど。まさかあんなことになるなんて…。君が居なければ、僕は今頃アイツ等の胃袋ん中さ…ぁぁ、怖かった」


「ぇ、ぇっと…その……」


「でも君強いね! あんなに強そうな魔物を倒せるなんて…やっぱり軍人さんって皆強いんだなぁ」


「……そんな…強くないです」


 矢継ぎ早に言われて、トレエはしどろもどろに。取り敢えず褒められて恥ずかしいのが心情だ。

 そこには、先程まで魔物を倒していた様子が影も形も無い。ただただ、どこにでも居る内気な少女の姿があった。

 彼女にとって幸運なのは、遠眼に拍手こそしてくれるものの、街の人が話し掛けに来なかったことだろうか。


「君は謙虚なんだね。見習いたいぐらいだ」


「…謙虚なんかじゃ」


「っとしまった!!」


 いきなり大きな声を上げる男に、トレエの肩が跳ね上がる。


「ひぅっ」


 そしてすっかり竦み上がってしまう。


「今回の件、調査をお願いしないと!! それじゃ!」


 随分と慌ただしい男を見るトレエの瞬きが止まらない。

 矢継ぎ早の言葉責めの次は、あっという間に離れることで返事をさせてくれない無言責め。


「助けてくれてありがとうございました!」


 かと思いきや、バタバタとこちらに戻って来て頭を下げられる。


「ひうっ」


 当然トレエは驚いた。

 もう何が何だか。耳を突き抜けていく言葉群を理解し切れず棒立ちに。

 その間に男は城の方へと走って行き、姿が米粒のように小さくなる。

 途端、周囲が静かになった感覚に囚われる。

 実際には賑やかなのだが、終始男のペースに圧倒されていたために、周りの喧騒が気にならなかった。

 普段から賑やかな存在が静かになると、必要以上の静寂を感じる感覚に近いのだろうか。

 その変わり、少し思考が自分に向く。

 何か忘れているような気がする。それも、意外と大切なことを。


「あ」


 そういえば、自分は自分で報告に行かなければならない。

 そのことを思い出したトレエは、てくてくと城への道を歩くのであった。


「…うむ、開けるぞ」


「…そう、ね」


「…。開いたぞ…」


「……静か、ね」


「…うむ」


「…あ、ユヅル」


「む…他の者は…寝ているな」


「…ユヅル、ユヅル」


「……?」


「ユヅル、こっちよ」


「…どうやら聞こえたみたいだな」


「えぇ…。こっち来たわ」


「……」


「…どうしたの? 早く、こっちに」


「「「「……」」」」


「フィーナ殿、他が起きたっ」


「…っ、ユヅルっ、手を!」


「……」


「早く! 私の手を掴んで!!」


「…手……」


「…掴んだ! きゃあッ!?」


「フィーナ殿! 何て力だ、フィーナ殿が一瞬で弓弦の下に!!」


「ちょっと! く…っ、抜けれない…ッ! でも胸板硬くて素敵!」


「フィーナ殿! 本音が出ているぞッ!」


「仕方無いじゃない! 女の本能よ! こんな苦しいぐらいに抱き締められるなんて私、半分本望だわッ!!」


「全てが煩悩にしか塗れていないぞッ!?」


「お…お…ッ!!」


「得意の魔法はどうしたのだッ!?」


「さっきからやってるわよ! でも何故か抵抗レジストされてるみたいで全然効かないのッ!」


「「「「おっぱい! おっぱい!!」」」」


「い、嫌…っ!! ほほ本当にあそこの男達、気味が悪いわ! 離してユヅルっ、離してぇぇっっ!!!!」


「おおお…おお…ッ!!」


「っ、ならばフィーナ殿! そこを動くな!」


「え?」


「おおおっ!!!!」


「「「「ぱぱぁぁぁいッッ!!!!」」」」


「麻酔針だッ! 巨大なモンスターもこれ数発で眠らせられるこれを撃つッ!! くらえッ!!」


「それかなり強力な銃弾じゃない!? 撃つの!?」


「ォォォォオッ!!!!」


「「「「ぱぱぱぁぁぁぁいいッッ!!!!」」」」


「ユヅル!? その手に持ってる物は…ワインッ!?」


「動くなフィーナ殿! 照準が定まらんッ!!」


「分かってるわよむっ!?!?」


「ッペンハイムゥゥゥゥッッ!!!!」


「むぐぅぅぅぅぅっ!? んくっ、んくっ!? はぁっ!? ちょっ、いっきっ!? うぅっ!? やめ…っ!? ぷはっ! れっ!? ぷはっ、くだしゃっ!? んっ、こはっこほっ、ごひゅひんさまぁっ、んく…っ!?」


「フィーナ殿! く…そこだッッ!!!!」


「うあッ!?!?」


「なッ、しまったフィーナ殿にっ!? 私が外しただとッ!?」


「ぅ…はぁっ、はぁっ…なんかふわふわしてきた(ひれひら)……っ♡」


「っ、次弾装填…!!」


「ォォォオオッ!!!!」


「あ…そんな…またいっぱい……っ♡」


「フィーナ殿ッ! しっかりしろッッ!!」


「「「「おぉぉぉぉおおおおッッ!!!!」」」」


「あぅっ!? しまった、また怖くてついっ!?!?」


「ッペンハイムゥゥゥゥッッッッ!!!!」


「ん〜〜〜〜〜〜〜っっ♡」


「フィーナ殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」




「……ここで起きたことは、始まりであり、終わりであった。夢巨乳病は、男が感染すれば単なる乳狂いを起こすが、特定の遺伝子…そう、主人公という要素を持った男を媒介となって胸のある女に感染した場合…洗脳に近い魅了効果を起こすと気付いた時には、全てが遅かった」


『オッペンハァァァァイムッッ!!!!』


「最恐最悪の罹患者となった弓弦は、その後も酒を片手に次々と犠牲者を増やしていた」


『…私が弓弦様を止めに参ります…!! 斯様な惨劇に…終止符を打たねば…!!!!』


『…重い病気に罹った弟を病院に連れて行くのは、お姉ちゃんの役目かな…!!』


『…コク。皆で助けて、皆で帰ろう…一緒に』


「皆…皆犠牲になった。風音殿も、レイア殿も、セティでさえも…。胸のある者は、皆…彼の前に屈していった」


『…弓弦、あんなに私以外の女の子を侍らせて…。ううん、弓弦は病気なんだよね? 病気の弓弦は…私が治さないと』


「最後の砦であった知影殿の姿も、翌日には弓弦の傍にあった。他の者と同じく、手懐けられたように彼に寄り添っていた。弓弦を囲む酒池肉林の桃源郷景色のように見えたが、私の眼には世界の終末として映った」




「…私は散っていった仲間のため、一人夢巨乳病の研究を進めた。そして一つの仮定に行き当たった。…夢巨乳病が弓弦の身体を取り込んだばかりの頃、弓弦の中で病に対する免疫が発生していたのでは? …と。そう考えると、弓弦だけ症状が異なっているのも頷ける。…そうと決まれば、私が起こすべき行動は、一つだった」




「惨劇の引鉄を引いたのは、私。私があの時、弓弦に麻酔針を当てていれば…。そんな後悔と、贖罪の念に突き動かされながら。…そして、見付けたのだ」


『男には秘めた想いがあった。秘めた想いが女に注がれる。女にも秘めた想いがあった。秘めた想いが男に注がれる。男女を見詰める瞳があった。瞳が注ぐのは、何の想いかーーー次回、懐古』


「…これは、次話(みらい)への切符。過ぎ去った時へと巻き戻る、夢落ちという(たった一つの)手段。これを使って、過去に戻る。そして探し出す。もう一つの結末に辿り着く…道筋を」




「…今度は失敗しない。…この光の先で必ず、当ててみせる」


ーーーTo be continued.

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