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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
裏舞台編
375/411

苦行

 侵入者の襲撃を受けた翌日であるが、『シリュエージュ城』は日常を取り戻していた。

 所々包帯を巻いている兵士が歩いているが、彼等の表情には平和の色が灯っている。


「……」


 そんな城内の階段を、トレエとアンナは上階に向かって昇っていた。

 天井に近い部分にある小窓からは朝日が射し込み、実に日当たり良好。明るく照らされた石床に反射されて、暖かな熱を放っている。

 しかし暑いという訳ではない。風通しも良好な城内に熱が篭ることはなく、涼しい。


「……」


 鳶色の美しい髪を靡かせ、先を行くのはアンナ。

 彼女の背中を追い掛けるトレエは、放心状態のアンナを心配気に見詰めている。


「(ジャンヌさん…)」


 トレエは現在、彼女の背後を歩いている。

 隣を歩くのは一応恐れ多いし、本人としては斜め後ろを歩きたかった。だが、どうしても背後を歩かなければならない理由があった。

 アンナはいつも通りの服装をしている。というのも、騎士甲胄とスカートが合わさったような出で立ちをしている。

 足先から膝までは鉄靴によって守られているが、そこからスカートの間までは素肌が覗いている。

 果たして防御力は、如何程のものだろうか。ビジュアル重視と思われても仕方が無い出で立ちである。美しいには美しいのだが。

 そう、ビジュアル重視と思ってしまう程に防御力がーーー


「‘…スカートの中が……’」


 少し、男性によろしくない状態であることを伝えたいトレエ。

 創作物の中では、偶然飛んできた花弁や何某かによって絶妙にガードされたりするのだが、現実はそうではない。

 もしトレエが背後に立っていなければ、彼女のスカートの中身は階段の下から見えてしまいそうだ。何色か? それ聞くのは野暮というものだろう。

 スカートの中には、一概にはいえないが夢が広がっているというのが通説(?)である。見ることによって夢を叶える者、夢破れてしまう者が居るが、そもそも夢は簡単に見せるものではない。

 しかし悲しきかな。ここで当然とばかりに、彼女の内気な性格が機能する。


「ぅぅ」


 消え入りそうな声が、放心気味のアンナに届くはずもなかった。

 何度目の挑戦かは覚えていないが、何度目かの挑戦を試みている内に目的の階層へと到着してしまう。


「…入るぞ、ピースハート」


 そしておどおどしている内に、目的地であったヨハンの執務室へ。

 どうしようもなく申し訳の立たない気持ちに責められながら、トレエはアンナの後に続いた。


「(…おじさん先生)」


 城を守るために戦い、決して小さくない傷をヨハンは負った。

 あまりまじまじと見た訳ではないが、彼が軽症ではないことをトレエは知っていた。

 最も彼の身を案じているジェシカに配慮し口には出さなかったが、彼女は彼女で心配だったのだ。

 彼は今、どのような状態であるのだろうか。

 無事であることを願うトレエ。一日振りの再会のため、少女はアンナの隣に並んだ。

 昨日と変わらぬ執務室。机の上には、数十枚に及ぶ書類の山が出来ていた。

 部屋の中で香りが立ち込めている。

 その香りは、ここに来る前のアンナの家でも漂っていたものだった。

 甘味と、酸味が程良く混ざったこの香りはーーーそう、自分達の食事後にジェシカが作っていた粥の香りだ。

 彼女と別れたのは、大体一時間程前。「一時間程したら、ヨハンの執務室へといらしてください」との言葉に従い、二人は時間通りここに来たのだが。


「はい、あーん♪」


「ジェシカ、わざわざ掛け声を言うな。扉の前に元帥達を待たせているんだぞ」


 時間通りに来たというのに、ヨハンは食事の最中であった。

 食事の最中。換言すれば、夫婦の一時だろうか。ジェシカがヨハンの口へ、スプーンに乗せた粥を楽しそうに運んでいた。

 二人の会話から、どうやら扉の外で待っていなければならない状況で入室してしまっているようだ。

 恐らく部屋に入る前に、「待て」といった内容の言葉をヨハンは言ったのだろう。それを放心状態のアンナが聞き逃した結果がこの状況か。


「‘あ、あの……一旦外に……’」


 もし二人に気付かれたら、何ともいえない雰囲気となるのは間違い無い。

 そうなったら居た堪れなさのあまり、つい「ごめんなさい」と逃げ出してしまいそうだ。

 だが、だが今なら。今ならもしかしたら、なかったことに出来るかもしれない。


「‘外に…出たいです…’」


 あったことをなかったことにする。

 現実から敢えて眼を背けることで、別な可能性を提示する。

 逃げちゃ駄目だ。いやいや、逃げなきゃ駄目だ。

 逃げなければ気不味さだけが後に残る。気不味さに負けて逃げたくなる。

 ならば気不味さに負けなければ良いのでは。いやいや、気不味さに負けない精神力なんて持ち合わせていない。

 だから今は逃げたい。今か後かでどうせ逃げるのなら、勇気のある退却としたい。

 今は放心状態のアンナだが、正気を取り戻すことが出来ればきっと意を汲んでくれるはず。アンナの腕を強く引き、トレエは語気を強めんと声を振り絞った。


「‘ジャンヌさんっ、私達お邪魔ですっ’」


 「クイ、クイ」ではなく、「グイグイ」。引っ張っているのは腕だが、勢いは身体全体を引くかの如く。

 階段を昇っている時、あれ程声を掛けても気付いてもらえなかったのだ。声だけじゃアンナを呼び戻せないと、

トレエも学習していた。

 何故放心しているのかは知らないが、兎に角気付いてほしい。

 きっと、このままでは駄目だろう。腕を引く他に何か方法はないかと思案するトレエは、視線をヨハンとジェシカへと向けた。


「まだまだありますよ。はい、どうぞ♪」


「…掛け声はもう良いだろう」


「と言いながらも、しっかりと食べてくれますから。止められません」


「それはお前の作る飯が美味いからだろう。俺の所為にするな」


 もう見てられない。トレエは視線をアンナに戻す。

 見苦しいものではないが、身苦しい。

 二人から放たれている幸せのオーラで、気分は大量飲酒の胸焼け状態。程良く楽しめたら良い気分だが、ここまでくると後悔が生まれる。

 一つ幸いなのは、二人が自分達の空間を形成しているということだ。未だ気付かれていないために、まだチャンスはある。


「‘ジャンヌさん、ジャンヌさんっ’」


 もういっそのこと、気付かれた方が良いのかもしれない。等と思いつつ、トレエはアンナの手の甲を抓った。


「‘えぃっ’」


「ッ!?」


 反応あり。

 当然だ。地味に痛い箇所を選んで抓っているのだから。

 これは憂さ晴らしではない。ただ、ただ気付いてほしいのだ。

 ジャンヌベルゼ・アンナ・クアシエトールという人物は、他者のことを気遣える人間なのだから。

 昨日も、ヨハンとジェシカの間に流れる雰囲気を読み取り、自分を隣室へと連れ出してみせたのだ。

 そう、これは決して憂さ晴らしではない。放心している所為で、気不味い雰囲気を作り出してしまったとアンナが悔いる前に、僭越ながら自分が踏み留まらせようようとしているだけなのだ。

 だから、断じて憂さ晴らしではない。デリカシーに欠ける放心状態に巻き込まれ、色々気をもんだのは確かだし、思うところもあった。しかしこれは、正当な気付けの行為なのである。

 トレエは抓る力を、更に強めた。


「いったぁぁッ!?」


 アンナの手が激しく跳ねた。

 悲痛な響きを伴う彼女の声が、部屋の隅から隅を刺すように上がる。


「「!?」」


 抓る力が強過ぎたためか。痛みに耐え切れず発してしまった声は、築かれていた夫婦の空間を無慈悲にも切り裂いた。

 弾かれたようにこちらを向いたヨハンとジェシカの視線が、アンナに注がれる。


「つぅぅぅ……」


 うずくまったアンナは、右手で押さえた左手を摩っていた。

 激痛が走ったのだろう。顰められた面持ちに、涙が光る。


「なに…するんだ…っっ」


 右手から光が溢れ、左手を包んでいく。

 切れ味がありそうな抗議の視線が向けられた。視線が物理的な作用を及ぼせたのならば、トレエは今頃微塵切りになっているかもしれない。


「す、すみません……」


 堪らずトレエは頭を下げていた。

 視線から逃げるためと、どうやらやり過ぎの部類に入る行為をしてしまったため、その謝罪だ。


「まったく…っ」


 やれやれとばかりに息を吐くアンナ。

 回復魔法で痛みを引かせてから立ち上がると、こちらはこちらで鋭い視線を感じた。


「…元帥」


 視線の主は、ヨハンであった。

 低く押し殺した声は、不思議と重みを持って響く。


「入室は待て、と言ったはずだが」


 怒っていた。

 それも、これは激怒だ。

 愛する妻に手伝ってもらっての食事を、折角楽しんでいたというのに、心で浸っていたというのに、それを無粋な悲鳴な打ち壊した。物の見事な程の木っ端微塵に。

 完膚無きまで打ち壊されたが、ヨハンにとって妻との時間は至福の時であったのだ。故にその時間を邪魔されることは、ヨハン・ピースハートにとって激怒に値することであった。


「聞こえていなかったのなら、もう一度戸を叩くべきだろう。元帥よ」


 反論の余地を許さない気迫が、言葉の端々に込められている。

 トレエとアンナは見た。ヨハンの頭に、二本の角が生えているのを。


「堪え性が、無いのは、感心せんな」


 反論の余地を、許さない。

 言葉が強調される度に、トレエの肩が跳ねて涙眼になっていく。

 ヨハンはアンナに言葉を向けているが、その彼女を止めることが出来なかったのはトレエ。少女は、自らに責任を感じて衝撃を受けていた。


「業務に向かう熱意には手を叩くが…」


 しかしそんなトレエの様子に気付かないヨハンは、なおも責める。

 対峙するアンナは、苦虫を噛み潰している。だがその瞳が語っている。隙あらば、言い返すつもりのようだ。

 戦意があるのは結構だが、このまま論争が勃発すればトレエが可哀想である。唯一少女の様子を気に掛けていたジェシカは、一つ強引な手段を取ることにした。


「あなた、そろそろ。お粥が冷めます」


 ヨハンの頰にスプーンを当て、アンナに向いていた意識を自分に向けさせる。


「…いや……」


 アンナ達を一瞥し、ヨハンは口籠る。

 昨日の戦いで負った火傷のために、彼は現在両手が使えない状態であった。そのため、妻に食事を介助されるのは仕方が無いことではある。

 しかしそれと、人に見られながら食事をするのは別問題だ。大の男が、堂々と人前で妻に食べさせてもらっているというのは、プライドの問題がある。

 だがジェシカにとって、そんなことは関係無い。ただ、自分の作った手料理を健康のためにも食べてほしいというのが彼女にとっての全てなのだ。


「…お嫌…ですか?」


 少し不満気な表情を見せてあげると、ヨハンは迷わずスプーンに食い付いた。


「…ジェシカ…やはり、恥ずかしいのだが」


 視線がチクチクと刺さる。

 アンナの何ともいえない表情を視界に入れると、どうにも微妙な気分にさせられた。

 トレエはどこか微笑ましそうに見てくれるのだが、それはそれで恥ずかしい。どうせなら、恥ずかしそうに見ていてくれた方が良いのだがーーー悟ったような雰囲気が困惑を強いてくる。


「‘大将ともあろう方が、視線だけで動じられるのですか?’」


 ジェシカは特に気にしていないようで、次から次へと摂食を勧める。

 彼女の言葉は全くもってその通りであり、反論の余地は無かった。


「ぬ…ぅ」


 完敗である。

 古来より、夫が口で妻に勝てないのは伝統であった。

 視線を気にしないようにしながら、ヨハンは唸りながらも粥を完食するのだった。


「…美味かった」


 食直後の一言に、ジェシカは微笑みで返した。


「では私は、食器を片付けてまいりますので」


 実に楽しそうに退室した彼女であったが、ヨハンは心労を覚えてしまった。

 嫌ではない。決して嫌な感覚での心労ではないが、困るものではあった。


「(…そうか、幸せ疲れか……)」


 所謂幸せ過ぎて困っちゃう、である。


「ん゛んっ」


 諸々の仕切り直しのために咳払いをしたヨハンは、包帯に巻かれた腕を机に乗せて居住まいを正す。


「ぁ……」


 トレエが息を呑んだ。

 それまでは机で隠れていたが、両手から肘との丁度中間部分にまでが包帯で巻かれている様子は、見ていて気持ちの良いものではなかった。

 一方でアンナは無意識に、自らの右太腿に結び付けてある長方形のホルダーを同側の手で撫でた。


「ふむ…」


 第一声は何が良いだろうか。刹那に等しい思案の後に口を開く。


「ジェシカから事の次第は聞いていると思うが、頼まれてくれるな?」


 アンナは分かり易く渋面を作った。

 どうやら伝わっているらしい。だがそれと同時にヨハンは察した。


「『何故私が』…と言いた気だが。誰の原因でこうなったか…分からないお前ではないだろう」


 これまで自分は、自ら進んで『組織』の旗印としての役割を代行してきた。

 それは、彼女が身近な人物達を立て続けに喪ったために、暫くは心の傷を癒す必要があると考えていたからだ。

 彼女は『元帥』。現在の『組織』の中でも最高位に位置する人物だ。

 しかし若い。若いが故に、未だにもう一人の『元帥』を手に掛けたことを断ち切れずにいる。

 無論若さだけが理由ではないのだろう。だが先日の騒動であっても、迷いに付け込まれて惑わされていた以上、迷いが彼女の内に巣食っているのは明らかだ。

 平静に振舞っているだけで、彼女は己の迷いに向き合い切れていない。故に、迷いと向き合うための時間を設けていたつもりだった。また向き合えずとも、その心に負った傷が塞がっていくのを待ちつつ、自身が代替している役割を返していくつもりだった。


「そもそも今俺が眼を通している書類群の、おおよそ半分は元帥、お前が眼を通さなければならないものだ。分かるな? 元帥」


 ーーーこれらの気遣いは、決して彼女を甘やかすためのものではないのだ。


「…断る選択肢は無いのか」


 そんな内心の思いはどうであれ、アンナを甘やかし過ぎてしまったのは事実である。

 ヨハンは力強く、アンナの縋りを一周するかの如く頷いた。


「あぁ。お前にしか出来ないことだ」


 アンナは力無く項垂れる。

 この結果は分かり切っていたがーーー認めたくない。

 言葉とは、こんなに重いものなのか。了承の返事が、喉から上へと昇ってこない。

 まるで石でも詰まってしまったかのようだ。了承したくないあまり、最早苦しい。

 断る選択肢は無い。了承したくもない。板挟みになるアンナであったが、やがて深く嘆息すると。


「…やれば良いんだろう、やれば」


 渋々とヨハンへ了承の返事をした。

 満足そうに頷いたヨハンは、次にトレエに視線を向ける。


「トレエ。一つ、頼みがある」


「…? 何ですか、おじさん先生」


 ピクリと上がる眉。

 どうにも呼び名に慣れず、あわや椅子から転げ落ちそうになった。


「…だ、大丈夫ですか…?」


「構わん。さて、頼みの内容だがーーー」


 仕切り直し、少女にも分かり易いよう説明する。

 それは、ヨハンの役割の一つであった。頼むべきかどうか悩むこともあったが、友人の一言が彼の背を押した。

 半信半疑の部分はあるが、頼めるのなら頼んでしまった方が良いとの判断に至ったのは今朝のこと。


「おいピースハート、それは」


「構わん。ディーも同行するし、俺がそう判断した」


 黙るアンナ。

 言いたいことはあるのだろう。しかし言ってしまえば、何らかのしっぺ返しがくる。ヨハンの視線に、敢え無く屈した。


「頼めるか?」


「…頑張り…ます」


 トレエの返事は、良い返事だった。

 そう、これだ。こうすんなり、素直な返事こそ頼む側としては嬉しいもの。


「良い返事だ。ではもう少し元帥と話があるから、一旦退室してくれ」


 ヨハンが少女に退室を促すと、彼女は執務室から出て行く。


「椅子をお持ちしました」


 代わりに入って来たジェシカが持って来た椅子を自身の隣に置かせる。

 彼女にも退室を促し、ついでにトレエに街案内をするように伝える。


「何か美味しそうな物があれば、土産に頼む」


「かしこまりました」


 そうして、執務室はヨハンとアンナの二人だけとなった。

 アンナに隣に座るよう指示すると、彼女は神妙な面持ちで着席する。


「では、始めるぞ」


 この日から、ヨハンによるアンナへのスパルタ業務指導が幕を開けた。

 その厳しさたるや、あのアンナが土下座して緩和を試みたとかそうでないとか。真相は二人の心の中であるが、城を歩くアンナの表情が、日に日に海のように青褪めていったとの証言が城の者から得られ始めるのであった。

「ユリ、入るぞ」


「(…大丈夫。きっと…そう、大丈夫よフィーナ。心配することなんてないじゃない。病になんて負けるはずがないわ…)」


「誰だッ!?」


「っ!? いきなり銃口を向けるなっ」


「…!! 弓弦…!」


「おわっ!?」


「待っていたぞ! 本当に…っ、待っていたぞっ」


「(ユリ…あんな縋るように抱き付いて…。何か、ボロボロね)」


「…悪い」


「いいや悪くないっ。来てくれただけで良いのだっ」


「‘…あなたが謝ることはないわ。私が…’」


「‘分かっていて付き合ったのは俺だ。’…で、結界の調子はどうだ?」


「それが……」


ーーーこんにちハミ乳♪


「ひぃっ、始まった…っ」


「ぅぉっ」


「これは…歌…?」


ーーーありがとうきわ♪


「ぅぅぅ…」


「このメロディー…おい」


ーーー魔法のお胸で楽し~い、仲間~が♪


ーーーおぱぱぱぁぁぁぁぁいいッ!!!!


「「……」」


「ぁぅ…きょ、狂気だ……っっ!」


「…最低だな」


「…最低ね」


ーーーおぱ、おぱおぱおっぱいぱい!!


ーーーおぱ、ぱいおつぱいぱいぱい!!


「ぁぅぁぅぁ…」


「(ユリ…完全に怯え切っているじゃないか。…お化けよりタチが悪いしな…これ。)…取り敢えず、防音しておくか」


「頼むっ」


「‘これだから人間の男って…嫌いなのよ’」


「‘…こら、それ以上言うな’」


「‘…普段は未だしも、あそこまでいくと生理的な領域なのよ。許して’」


「‘許さんって言ったら’」


「‘最上級のお仕置きを所望するわ。ご主人様’」


ーーーぱぱぱいぱぱぱいぱぱぱいぱい。


「…何の掛け声よ、これ」


「…知らん。だが流石に…最初の隣とかグレーだし、お前の言う通り下品だよ。なぁ…?」


「…どうしたの? 天井を見て」


「…届くかも、と思ってな」


「…何が? …誰に?」


「…声が? …誰だろうな?」


「??」


「…まぁ、気にするな。…良し、これでまた暫く保つだろう」


「ぁぅぁぅぁぅ…」


「おーい、背中に抱き着くなー」


「ぁぅ、感謝するぞ…」


効果延長(パーマネンティ)の魔法は掛けた?」


「あぁ。一応掛けてはいるんだが…どうも効き目が悪いみたいでな。日を跨ぐのが精一杯だ」


「…みたいね。あまりの怪音に、今この時も結界の効果が削られているわ。魔法の何とやら…アレは一種の呪文のようなものかもしれないわね」


「…正に、呪いの文言って訳か。これは…そろそろ他の対策を打つべきだろうな。どうする、ユリ」


「…ぁぅぁぅ……すん、すん……」


「(背中から人の匂い嗅いでるし…)…おーい」


「すん…。…♪」


「…。少し落ち着くまで待った方が良いかもしれないわね」


「…じゃあ予告でも言うか。『光の影に闇は居た。闇はいつも、光に手を伸ばす。闇の先に光は居た。光はいつも、闇を照らす。闇は静かに嗤っていた。憐れな光が闇に躍るのをーーー次回、魔石』…なぁフィー、俺…匂うか? ほら、今ユリが嗅いでいる首とか特に…」


「…さぁ? でも大丈夫よ、臭くはないから」


「…そうか」


「…すぅ…すぅ…」


「…寝てるし」

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