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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
裏舞台編
354/411

再戦

 静止した時が、一瞬にして加速する。

 爆発とも呼べる余波の渦中で、嵐のように吹き荒れるのは刃と銃弾、魔法の嵐。


「はぁぁぁッッ!!」


 嵐の中では、死闘とも呼べる争いが起こっていた。

 天井を蹴り、飛来する銃弾を全て斬り裂いて。敵」に向けて刃を振り被るアンナは、全霊の力を込めて剣を振るう。


「ッ!!」


 一閃。

 伝わるのは、鋼のような手応え。だがしかし、擦れ違い様に確かに斬り裂いた。

 斬撃の軌跡に従い、眼前の存在が横に擦れる。

 何かが飛び散った。

 それは、内容物だ。まさかと思い、着地したアンナは宙を見上げる。

 飛び散ったのは液体ではない。固体だ。

 丸く、ヒビ割れたように光が走る固体が一つ、二つーーー無数に降ってくる。


「何ッ!?」


 斬り裂いた物質が、炸裂弾の内蔵された岩石だと気付いたのは、その時だ。

 剣風によって煽られた炸裂弾は、一斉に起爆し、爆風爆炎となる。

 それらは一斉にアンナに襲い掛かり、その華奢な肉体を呑み込んだ。


「……」


 洞窟を焦がす破壊の渦を前に、カザイが感情の読めない瞳を向ける。

 徐に上げる銃口が鉛を放つ。


ーーーダンッ。


 上がる銃声。放たれた銃弾は、止めの炸裂弾。

 弾道は正確に渦の中央を無慈悲に狙い澄まされており、狙い違わず着弾。弾はヒビ割れ、中から衝撃が解き放たれる。

 爆風に煽られた弾丸の破片が岩壁を抉り、爆炎が岩肌を溶かす。どちらも、威力の凄まじさを語っていた。

 破片を生身で受ければ、ただでは済まないだろう。

 だが、カザイが銃を下ろすことはなかった。その瞳も、銃口も、未だ渦の中央を捉えている。

 男は確信していた。まだ、終わりでないことを。

 それを頷かせるかのように、渦の中で赤い光が弾ける。


「『神滅の焔刃(レーヴァテイン)』ッ!!」


 高らかに響き渡るアンナの声。

 直後、渦に赤い斬撃が走った。


「はぁぁぁッ!!」


 斬撃の軌跡が膨れ上がり、爆炎となる。

 それは、神をも滅する焔。貫いた箇所を中心として、神、竜の肉体すら灰燼に帰させる。

 強すぎる炎はーーーそう、同じ事象に分類されるものですら喰らい、焼き尽くす。

 紅炎は見る見る内に広がり、渦を食い破った。


「…こんなこうげきを使うとはな。“あの時”よりも、貴様は本気と言うことか…!!」


 舞い散る火の粉の中心に、凛と立つアンナは眩い炎を宿したような、美しい緋色の刀身をカザイに向ける。


「だがこの剣を握った私に、炎が通じると思うなッ!!」


 薙いだ刀身から、炎が放たれた。

 煌々と燃える、眩い炎ーーー獲物を喰らう炎だ。

 炎は唸りを上げ、斬撃の形となってカザイを襲う。

 カザイは迎撃した。斬撃に、己の魔力(マナ)を込めた銃弾を撃ち込む。

 連続する銃声。しかし斬撃の勢いは止まらず、それどころか撃ち抜かれる度に形を変えて遂に、カザイへと達した。


「爆ぜろッ!!」


 アンナの声に合わせ、剣が輝く。

 剣の輝きが増すと、炎が強く明滅して大きく膨れ上がった。

 触れれば万物を焼き尽くす炎だ。この炎の直撃は、かつて【リスクX】の悪魔でさえ致命傷を与え引き下がらせた。この攻撃ならば、あの男に膝をつかせることが出来るはず。そう考えての一撃だ。

 それは逆をいうなれば、この一撃でないと効果的な攻撃とはならないーーーそんな経験による断言でもあった。

 カザイという男は、強い。アンナは己の人生の中で、今対峙する男に肩を並べる人物を、他に一人しか知らない。総ての魔法を識るとされ、存在そのものが理不尽の塊であった者ーーー眼前の男が殺めた人物しか。

 何故だ。何故、何故殺した。

 ずっと問うているのに、カザイは答えてくれない。ただ感情の読めない瞳と、敵意の証である双銃を向けてくるだけだ。

 だが、問う。

 それでも、訊く。

 問い続けることで、きっと答えてくれる。銃を向けるのなら、その戦意を叩き潰す。


「ッ!!」


 アンナは炎の中に飛び込む。

 むせ返るような高温の火中で、振るわれる剣は火を渦とする。地を、空を舐める火柱は、まるで先程のしっぺ返しとばかりに轟音を上げる。

 そこは灼熱地獄。『神滅の焔刃(レーヴァテイン)』を握っていなければ、瞬く間に全てが炭と化しているだろう。

 「炎の聖剣には、使い手に火の加護を与えて炎から守護する力がある」ーーーかつて、この剣を守っていた者の言葉が過ぎった。


「(…そんなことも、あったな)」


 灼熱に染まっていた視界が開ける。

 炎の中心は、外部からでは分からない程に静かであった。

 耳をつんざくようにけたたましかった轟音が、今はとても遠い。

 周りを灼熱に囲まれたその空間は、まるで戦いのためにあつらえられた闘技場だ。


「……」


 少しずつ狭まっていく舞台の中心。そこにカザイは立っていた。


「(カザイ…)」


 灼熱の如き高温の最中に居るというのに、その顔には汗一つ滴っていない。

 まるで、いずれ周囲を焼き尽くす炎に包まれるであろう自分の置かれた状況を、全く気に留めていないような無表情がこちらを正確に捉えている。

 その足下に、魔法陣が展開していた。

 鋼の属性を持つ魔力(マナ)の奔流を、銃口を通して放つ鋼属性中級魔法“フルメタル・バスター”だ。経験由来の直感が、彼女に魔法を詠唱させる。


『闇を斬り裂け!』


 次の瞬間。彼女の空いた左手には、強く光り輝く一振りの光剣が握られていた。

 “ブライトキャリバー”。光属性中級魔法に分類される光剣錬成魔法だ。

 そして、カザイが向けた銃口から巨大な魔力(マナ)の奔流が放たれた。

 炎の中でも、アンナがどこから来るのか、どのタイミングで襲い掛かるのか分かっていたかのように放たれた魔法は、彼女に回避を許させない。


「はぁぁぁぁぁッ!!」


 回避が不可能であることは、無論アンナも分かっていた。故に剣を交差させ、魔法に真っ向から受けて立つ。


「く…ッ」


 眩いばかりの銀色に視界が眩む。

 流石の威力だ。気を引き締めねば、構えた剣を握る力を込め続かなければ、すぐに押し負けてしまうだろう。

 襲い来る衝撃が強まった。

 カザイが、魔力(マナ)を込めることで魔法の威力を高めたのだろう。

 アンナは歯を噛み締め、地を踏み締める。その身体の感覚には、僅かばかりだが脱力感が生じ始めていた。

 しかしそれと同時に、右手に握る剣が強い熱を帯び始めていること、さらに自分がジリジリと灼熱の壁にまで後退させられていたことに気付かされる。

 脱力感の原因はーーー魔力(マナ)の消耗か。中級魔法とはいえ、その効果を保つために魔力(マナ)を込め続けている以上、それは避けては通れない現象だ。

 歯を食い縛るアンナの背が炎に触れた。すると、背中側から微かに涼しい風が吹いた。

 『神滅の焔刃(レーヴァテイン)』が熱を持ち始めたのは、背後の炎壁から炎を吸収していたためだと、その時気付いた。

 いける。炎粉を散らす剣を見、アンナは剣に魔力(マナ)を込めた。

 剣が透き通るような紅の輝きを強める。


「ハァッ!!!!」


 交差斬りが、魔法を斬り裂いた。

 それだけではない。振るわれた『神滅の焔刃(レーヴァテイン)から炎が放たれ、カザイを呑み込んだ。


「…!!」


 炎は、その規模を一瞬にして縮めたかと思うと、眩い閃光と共に膨れ上がる。

 大爆発。

 破壊の炎が、視界を焦がす。

 息を吸うだけで肺が焼けてしまいそうな高温に、混じるのは炭の匂い。

 まさか。生じた予感が蘇らせるのは、悪夢。


「……っ」


 またか。悪夢にうなされるように、彼女は苦々しく顔を歪めた。

 燃え上がる紅蓮の炎。その威力は、お墨付きだ。

 何故か。それは、この炎こそ、かつて彼女に活路を開かせた起死回生の一手であったため。

 鳶色の瞳に煌々と燃える炎を映したアンナの脳裏に、この剣を手にした時の光景が蘇る。

 ーーーカザイも、あの場に居た。『大元帥』からの命で共にとある世界に赴き、そこで悪魔ーーールフェルと戦った。

 ルフェルの狙いは、この剣だった。この剣に秘められた力に眼をつけたルフェルは、無数の魔物を引き連れて村を襲撃した。

 カザイと二人で応戦したが、多勢に無勢の状況下での戦闘は激闘と呼べるものであった。互いに傷を負い、アンナに至っては生命すら危ぶまれる局面もあった。


「(…私は…今も生きている。あの時、ルフェルも、魔の軍勢も…生きて、退けられた)」


 そんな中、撃退出来たのはこの剣の力があったからーーー否、それだけではない。それだけではないと分かっていた。

 後に、元帥が二人だけで【リスクX】を退けたと伝えられることになる『組織』でも有名な英雄物語。そんな大層な題名とは異なる中身は、カザイがアンナを庇いながら戦い抜いた死闘劇である。

 アンナは今のように、悪魔に対して剣の力を振るっただけ。結果として退かせたものの、その結果に至るまではカザイが一人で奮闘していたようなものだ。

 全身から出血し、立つのがやっとであるとしか見えない見た目をしながらも、悪魔の魔法に撃たれながらも、カザイは苦痛に表情を歪めることなく戦ってみせた。だから、アンナは知らず知らずの内に錯覚していた。「あの男が死ぬはずはない」と。

 カザイの二つ名、『因果歪曲者』。どのような命の危機であっても、必ず生きて帰るといった称号も錯覚を助長した。

 だから、以前カザイの身を剣で貫いた時ーーー手応えを通して男の死を悟りながらも、心のどこかで生存の淡い希望を抱いていた。

 そして、戦いの場にて再会した今もーーー何かが焦げ付く炭のような匂いに、男の存在を感じていた。

 激しく煌めく炎は、男の生命を燃やしているのだろう。

 アンナは炎を見詰め、時を忘れたように眼を細めた。

 激しく揺らめく炎は走馬灯。思い返せば、あの時の感情が蘇ってくる。


「(…お前が居たから)」


 預けた背中から伝わる逞しさが。


「(お前が居たから…私は)」


 勝利の見えない暗澹とした戦況を照らす銀色の眩しさが。


「(私は…戦い抜くことが出来た)」


 そして何より、絶望的な窮地にあっても全てを覆さんとする頼もしさが。


「(…信頼…していたんだぞ、お前のことを)」


 命を賭す戦いの最中。その存在がこれまで、どれ程力となってくれたか。


「(なのに)」


 お前は信頼を裏切った。

 そして私も、恩を仇で返した。

 それも、二度も。

 湧き上がるのは、決まってーーー後悔と、疑問だ。


「……っ」


 アンナの眼前で、炎は己が身中にある全てを燃やし尽くしている。

 燃え続ける炎の匂いが、胸を焦がす。

 チクリと。刺されなような痛みが心に広がる。

 アンナは、心のどこかでカザイとの再会を焦がれていた。だがこれは、望んだ再会でも、望んだ結果でもない。ただ、臨んだだけだ。

 そう、そしてまたしても、やってしまった。

 また自分は、その胸中を知ることなく手に掛けてしまったのか。俯いたアンナの左手から、光の剣が消える。


「…?」


 その時だった。

 右手に、痺れるような衝撃が走った。


「ッ!?」


 突然の衝撃に、アンナの右手から『神滅の焔刃(レーヴァテイン)』弾き飛ばされた。

 顔を上げたアンナは驚愕を隠し切れずに動揺するが、追撃とばかりに襲来する鉛玉の嵐が立ち尽くし続けることを許さない。

 響き続ける銃声の元を辿ると、そこには銃口より煙を立ち昇らせたカザイが立っている。

 傷だらけだ。青髪の所々が焦げている。だが、間違い無く生きていた。


「(…相変わらずの生命力だ。流石だよ、お前は)」


 擦り傷を重ねつつも、間一髪の身体捌きでかわしたアンナは、そのまま剣を拾おうとしてーーー断念する。いつの間にか剣との距離が放されていたのだ。


「(全く…流石だ)」


 銃弾の嵐は絶え間無く、その手に得物は無い。不利な状況となっているが、アンナの心中には僅かばかりの安堵が広がっていた。

 三度目の正直という言葉がある。今一度、カザイの無力化に挑もうではないか。

 嵐の最中、アンナの右手は太腿に結び付けられたホルダーから、一枚のカードを引き抜いていた。


「…来い」


 光が周囲を満たす。

 仄暗い洞窟の中を照らすような閃光が、徐々に収まり始めた時。銃声に混ざるようにして、金属製の物質と打つかるような音が火花を作る。

 カザイが地を蹴った。

 彼の頭上には、薄れゆく周囲の照明よりも遥かに明るく、青白い光が見え隠れしている。

 カザイは手を合わせ、掌に纏わせた魔力(マナ)の塊を、地面に打ち込むと飛び退る。

 揺れる地面。次の瞬間には、突如として隆起した土の槍がアンナを狙い澄ますーーーが、槍の進軍は途中で止まる。いや、止められていた。アンナが新たに握った剣から放たれた雷が、地を抉ったのだ。

 青白い閃光に支配された空間の中で、稲妻を片手にアンナは剣の銘を呟こうとする。

 ーーーふと、既視感が過ぎった。

 以前と、全く同じことをしているような違和感が視界にちらつく。

 しかし、剣に蓄積され放とうとしている一撃を止めようと思うには、あまりにも時間が無かった。

 アンナの脳裏には、この後どう攻めるのか。その結末までが描かれていた。

 即ち、眼眩ましの後に牽制を交えた小手狙い。武器を弾き飛ばし、そのまま無力化を狙う。

 カザイを欺くには、牽制といえども倒す心意気で向かわねばならない。気の逸れた一撃は容易く読まれ、カウンターを見舞われるからだ。

 無力化のため。ただそれだけのために、アンナは剣の銘を呟く。

 それは、剣に込められた魔力(マナ)を解放する鍵。

 鍵が開け放たれ、魔力(マナ)が解放される。


「…『轟雷放つ剣(カラドボルグ)』」


 ーーー直後。雷鳴が、世界を満たした。

「思うんだけどさ」


「…うん?」


「何かさ、訊きたい訊きたい言ってる割に、手加減無いよね。この戦い」


「それは仕方が無いだろう。カザイの奴、本当に自分から白状するってことをしないからな。せ…アンナとしても、力付くになるしか出来ないんだろう」


「…そうは言っても、レーヴァテインにカラドボルグ? そんなさ、ゲームでも結構上の方に来る武器の名前じゃん。伝説の武器~っていう括りで。実際、私達の世界でも神話とか、英雄叙事詩に登場する武器の名前だよ。彼女本編の方であっさり使ってるけどさ、普通あり得なくない? どうしてそんな強そうな剣を幾つも持っててるの? チート設定だよ、チートチート!」


「…『剣聖の乙女』って呼ばれてるぐらいなんだから、聖剣の一つや二つ持ってるだろう。それに…本編見る限りじゃ、騒動の経緯がある。紆余曲折あって、現在手にしている…それじゃ納得いかないのか?」


「その経緯も大問題なんだよ! だっていつの話? …ってなるじゃん」


「いつって…一応本編でも触れられているぞ。『帰還と階級』で」


「それ凄く昔の話だよ。それに、本当に軽く触れた程度だし。だから誰も覚えてないと思って言ったの」


「まぁ、細かいことは良いじゃないか。それよりも…」


「うん、分かってる。でも、その前に予告しても良い?」


「あぁ、頼む」


「『守りたいものがある。守りたいものが人を強くする。守りたいものがある。守りたいものが人の弱味になる。守りたいものがある。人は守れなくなってから、大切さを噛み締めるーーー次回、仮面』。…よーし! じゃあまた息を合わせて! コンビネーションだよ!」


「あぁ。カードゲームとは言っても勝負は勝負。負けたくないしな。ユリのカードの切り方から、向こうの大体の手札は俺でも予測出来るが、出し方までは読めない、だから知影は、フィー達が何を出すのか、その予測を頼む」


「うんうん♪ 私から持ちかけておいて何だけど、弓弦ノリノリだねぇ♪ …じゃ、二人で二人を、をぎゃふんと言わせてやろ!」

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