交わる想い、重なる心
何度か触ってみると、自分の耳を触っているような感覚を感じる。
間違い無い。自分の犬耳だ。
不思議に思ってフィーナを見ると。
「…。人の身でエルフの秘術を使った一種の影響だと思います。大丈夫です、今のご主人様最高にアリです!!」
暫しの沈黙に、戸惑いが現れていた。
フィーナも動揺しているのだろう。誤魔化すように、ことさらに高い声音で付け足すが。
「…わーい」
弓弦の胸に去来したのは、モヤリとした違和感。
「それで、今の俺って…人間か? それとも…」
背筋に、氷のように冷たいものが走った。
言葉にすると、違和感が強まる。
まるで自分が自分でなくなったような、自分という存在がバラバラになってしまったかのような──そんな、自分へのあまりにも大きな違和感が。
心臓が不自然に脈打っていた。
「…今のご主人様から発せられる魔力の性質は、私と同じハイエルフのものです…間違い無く」
弓弦の言葉を濁した問いに、答え辛そうに言ったフィーナ。
だがその声は、どこか弾んでいた。犬耳でも分かり易い。
隠し切れない、喜びの感情。
矢で穿たれたように、弓弦は言葉に詰まらせようとする。
だが、
「ハイエルフ?」
どうにか持ち直し、問いを返した。
「…ハイエルフでありながら人間でもあると言った方が正しいでしょうか…。不思議です」
「ですが混血であるハーフエルフとはまったく違います」と彼女は続ける。
「そう…か。ハイエルフは人間とは具体的にどう違うんだ?」
「そうですね…よく間違われるのは、『エルフ』ですが…。普通のエルフと違い…この通り、フサフサな柔らかい毛で耳が覆われています。後は…」
犬耳に触れながら、「人間との違いでしたね」と話す。
「(人間との…違い……)」
それを語れるだけで、人間とは違うことを意味している。
彼女から心中の動揺を隠すよう、弓弦は拳を握り固めた。
「人間との違いは──」
フィーナ曰く、ハイエルフは人間に比べて魔力を扱う回路の質が、より純粋で清らかなものであること。魔法の威力が人間により強いらしいこと。また魔力の流れが、鮮明に見えるようになり、動物を始めとした人間以外の気持ちも分かる──らしい。
確かにエルフらしい特徴だ。
ファンタジーだ。
しかし弓弦は、犬耳以外に今一つ実感を持てなかった。
「(いや…)」
実感を持ちたくないのかもしれない。
「戻れないものは仕方が無いからな。…まぁ前向きにいこう。取り敢えず、風呂だ風呂」
──だから自分に言い聞かせるように、気分転換を図る。
「では私は…そうですね。少し早いですが、明日の出立の用意を確認しておきますね」
「あぁ…頼む」
弓弦は徐ろに、しかし逃げるように脱衣所へと向かった。
「…。…?」
フィーナにも分かる、歯切れの悪い返事と共に。
「(…バレて…ないよな?)」
宿の風呂は、部屋から直通出来る位置関係にある。
扉一枚隔てられた脱衣所の先──にある窓を抜けた先には、個別の露天風呂が。
「‘…風呂か。まさかこんな異世界に来てから入ることになるとはな……’」
脱衣所で服を脱ぎ、弓弦は風呂に入る。
右の爪先からゆっくり、やがて左足、そして肩まで浸かる。
浴槽から湯が溢れた。溢れた湯は浴槽より外にある排湯口へと流れていく。
弓弦も良く知る、風呂らしい風呂だ。
もっともシャワーは無かった。湯船は思ったより熱めであり、給湯口に近付くとその傾向が強まる。
恐らく直火で温めているのだろう。細かな温度調整は出来なさそうだ。
随分と、懐かしさを感じるような、感じないような──そんな湯船であった。
「‘…染みる…なぁ’」
夜空には、満月が映えている。
美しい月だ。眺めながらゆっくりと浸かると、身体にも心にも染みる。
驚かされたのは、香りだ。
異世界に来る以前に時々通っていた、『日本』での檜風呂の香りがする。
香りというものは、どうしてこうも懐かしい気持ちにさせるのか。湯船を見下ろすと、感じるのはやはり──。
「レオン、ユリ、知影さん。皆もどこかで、この月を見ているのだろうか…?」
──ふと脳裏に懐かしい光景が浮かんだ。
誤魔化そうと、自身が身を置いている非日常のことを考えようとしたのに、浮かんでしまった。
「…っ!」
あの頃──自分がまだ、「日常」に身を置いていた頃。
実際に考えることはなかっただろうが、きっと「日常」がいつまでも続くと思っていた以前の自分。
剣道の練習に、毎日励みながら過ごしていた。
代わり映えのない毎日だったが、楽しかった。
今も、当時も楽しいと思っていた。
戻れるなら、あの頃に戻りたいという気持ちは確かにある。
「く…っ」
だが、それは叶わぬ願いで、願ってはいけない願い。
「かつて」を願うことは、今の否定に繋がってしまうからだ。
今を、自分は満足している。
満足するしかなかったのはある。不平を抱いていては前に進めないから。
だから今を否定したくはない。否定したくはないが──昔を夢見てしまう。
「父さん…母さん…杏里姉さん…美郷姉さん…優香姉さん…恭弥兄さん…木乃香……」
片方の望月がそうさせたのか。はたまた、木目美しい檜の香りがそうさせたのか。
どうしようもなく、弓弦は寂しくなった。
寂しくて、恋しくて──それを紛らわそうと、今は亡き家族の名前をポツリと呟いた。
「…っ」
だが、逆効果だった。
余計に寂寥感が込み上げてくる。
自分が自分でなくなってしまったような感覚が──先程起こってしまった身体の変化がにわかには信じ難く、どこか現実離れしていると、頭の理解が追い付かないのだ。
もしかしてと装束を脱いでも、身体は戻らない。
いつの間にか生えた犬耳が、ペタンと髪に貼り付いていた。
街の景色が、普段以上に良く見える。
遠くまで詳細に、何か空気中を漂う淡い光すら見えた。
あれが、魔力だろうか。
そうか。見えるのか。見えてしまうのか。
見えるということは──。
「‘…もう、戻れない…んだな’」
ハイエルフを否定するつもりはない。
それはフィーナを否定することになるから、なってしまうから。
ただ、恐怖の感情が込み上げてくるのだ。
“人間とは違う”という事実が、それを強く認識させた。
「ご主人様!? 大丈夫ですか!?」
水滴が、湯船に波紋を広げる。
「雨だろうか?」と彼は考え、すぐに否定した。
酷く遠くから聞こえたフィーナの声は、戸惑いの感情を帯びていた。
「っ…く…そ……っ」
戸惑いの理由は分かる。分かってしまう。
それを“それ”と理解してしまうと、堰を切ったように、流れ、溢れ──抑えられなくなってしまった。
「ご主人様…っ」
「はは…幻滅するだろ…?」
震えながら吐き捨てた自嘲の言葉に、湯船に入って来た彼女がビクリと動きを止める。
首を小さく振りながら、弓弦の隣へと歩み寄る。
「…自分が、人間じゃないと否定されたような気が…してな…。おかしいだろ…? それだけでこのザマだ…っ」
抑えられない。
思った言葉が、全て口を衝いて出てしまう。
胸の内に抑え込んでいた、悲しい感情そのままに。
「…ご主人様」
「強がることが出来なかった…。疲れてしまった…」
剣を握れても、所詮は十九の元学生。
自らが暮らしていた日常を悉く壊され、失い、それでも前を向こうとしていた。
知影が居てくれたのも、きっとある。「しっかりしなければ」と自らに言い聞かせ、肩の荷を積み、積み──今の現実を少しずつ受け入れようとした。
弓弦自身、驚いていた。
「自分が自分である」ということが、思いの外心の支えとなっていたのだ。
だから、自分が「人間」とは別の存在に変わってしまったことに戸惑い、心乱されてしまった。
日々の中で、戦いの中で、張り詰めていた弦は、不安と孤独と、望郷の念によって簡単に断ち切られていた。
「っ…」
言葉を飲むフィーナ。
あれだけ頼りになると思っていた弓弦の身体が、まるで今にも崩れ落ちてしまいそうな脆さを伴い、とても小さく見えた。
「兎に角もう、寂しくてな…っ。自分の価値観、何かもかもが粉々に壊された気分にさえなってしまう…」
「(そう…そうよね)」
フィーナは先程までの自分を叩きたい気分だった。
弓弦の「変化」を、まるで自分は歓迎するかのように振る舞っていた。
勿論本音だ。本音ではあったが、あまりにも彼のことを蔑ろにしていた。
少しだけ寂しかった。彼の口振りだと、まるでハイエルフを否定してるようにも受け取れるから。
だがそれは、受け取り方の問題だ。
変わってしまった日常に対する恐怖、彼の動揺が痛い程伝わってきたのだから。寂しいとは思ったが、それ以上に彼のことが心配であった。
「何だかな…はは…っ、どうしようもない駄目人間だ…っ」
このままにはしておけない。
だから──動く。
「馬鹿…っ」
フィーナは弓弦を、背中からそっと抱きしめた。
何故抱きしめたのか。これといった理由は無い、ただ「そうしなければ」という衝動が彼女を動かしていたのだ。
「そうね。確かに頼るべき人に頼れないのは駄目かもしれないわね…でもね? どうしようもない駄目人間ではないと思おうの。私一人助けるために二百年も時を遡ったのでしょ? 強大な力を持った悪魔に立ち向かって、勝利して、次があるかどうか分からない帰還手段を諦めてまで私の側に残ってくれたでしょ。…そんな人に幻滅なんて…しないわよ」
抱いてしまうと分かる。今にも壊れてしまいそうだと思った。
あんなに頼もしかった背中は、この時はとても小さく見えて──支えてあげないといけないと、思った。
「寧ろ幻滅どころか…ふふっ、可愛いなぁって思える」
背中から伝わる温もりを感じながら、ふと思う。
自分は彼をどこかで、英雄視していたのかもしれない。
それこそ、書物の中に居るような。
「きっとね、あなたの“優しさ”がそう思わせてくれているのかもしれないわ」
でも蓋を開けてみれば、自分と同じような年頃の青年で。
ちょっと情けないところが、また良い。
「でも、馬鹿ね…あなたと同じ存在が今、あなたの後ろに居るのよ。価値観が否定された? 駄目人間? 結構よ」
弓弦という男の子の存在を、とても身近に感じた。
それは、身体と身体が触れ合っているというだけではなく──「心」を近くに感じた。
「寂しかったら、こうやって抱きしめてあげるわ」
回した手に触れている弓弦の力が、ほんの少しだけ強くなる。
自分よりも大きく、固い掌の感触が強まるだけで、心の奥で揺らめいている感情が強まっていく。
「…っ」
とても優しい時間だった。
幸福感に満たされた、互いの呼吸さえも聞き取れる穏やかな時間。
少しの間、互いの温もりに浸った。
だけど、浸り切るには──胸の音が騒がしい。
そんな時間の中で、気付いた。
「…決めた」
あぁ、いつの間にかこんなにも──。
「…え?」
こんなにも、彼のことを。
「私ね…さっきまで少し迷っていたけど、やっと決心が付いたの」
少しだけ、緊張していた。
初めての言葉。少しだけ勇気が要る、言葉。
でももう、決めた。
だから止まらない。
「…決心?」
少しずつ胸の奥で育っていた感情の種。
今花開いた、想いの丈。
「ふふ…っ。ねぇ、“ユヅル”」
短めの深呼吸の後に、僅かに頭を持ち上げた彼の耳元で囁いた。
「私、これからもずっと…。あなたの側に居たい、支えたい。…あなたが許す限り」
まさか自分がこんな台詞を言うことになるとは思わず、心の中で苦笑する。
「…良いかしら?」
だがそれは、紛れも無い本心であることには違い無い訳で。
弓弦が驚きと戸惑いの表情で振り返るも──
「……後悔しても」
誤魔化しは認めない。
突き立てた人差し指で唇を遮り、フィーナは吸い込まれそうになるオッドアイを見詰めた。
「知らないぞ」と、弓弦がその後に続けることは、出来なかった。
「良いか、駄目か…。二択よ」
良いのならば、駄目なのならば、どちらの答えが返ってきたとしても──決めていた。
もっとも返ってくる答えは──きっと一つ。
確信というより、ただ信じていた。
「…居たければ好きなだけ、側に居てくれ」
返ってきたのは、素直じゃない言葉だった。
しかしフィーナにとって、「好きなだけ側に」という言葉は何より嬉しいものだった。
フィーナが望む限り、側に居ても良い。
それはつまり──。
「分かりました」
顔を俯かせた弓弦の耳に囁き、フィーナは顔を上げた。
次に彼女が口にしたのは、詠唱。
『乞い願いし定め人ここに、現れたり…』
瞑目し、静かに意識を研ぎ澄ましていく。
『我、フィリアーナ・エル・オープストは彼ノ者に、その総てを捧げる事をここに誓う』
弓弦の顔が上がった。
持ち上がった犬耳は、フィーナの言葉を聞き逃すまいとしている意志の表れか。
フィーナは指を重ね、祈りを捧げるように胸の前で組んだ。
詠唱は、なおも続く。
『彼ノ者の名は橘 弓弦…この“契り”永久に、永遠に違われる事無き万象の摂理と成りて…』
それは、フィーナ自身一度も唱えないだろうと確信していた魔法の言葉だった。
皮肉であろうか。自分にはもう一生縁の無いものであったからこそ、長い詠唱であるのにも拘らず一語一句間違えること無く言葉を紡げた。
『ここに久遠の、想いの証を刻み込めん』
詠唱が完成すると、眩いばかりの魔法陣が湯船の底で展開する。
光を反射した湯面は光り輝き、とても幻想的な光景を作り出す。
その光に照らされる中、フィーナは意を決した面持ちで弓弦の正面に回り込む。
湯船に浸かったまま回り込んできた彼女に、弓弦は見惚れていた。
「…一度私の唇を奪っているのだから、悪く思わないでね」
好都合。
フィーナは眼を閉じ、両手で弓弦の頬を包み込むと。
「──ッ!?」
彼の唇に、そっと口付けをした。
「!?!?」
甘く痺れるような、刹那にも永遠とも思えるような時間が流れ──動転のあまり見開かれた瞳が静かに閉じられた。
「(あぁ…)」
自分の中から何かが出ていき、同時に、何かが入ってきて自分の中で溶けていくような感覚を覚えた。
そして、
「……」
──ピチャリ。
雫が湯面を揺らしたような音と共に、感じていた柔らかな温もりは離れていった。
徐ろに見開かれた弓弦の視界では、眦から伝うものを月明かりに照らさせている美女の姿が。
「(フィーナ……)」
魔法陣の光が、薄れていく。
月明かりに照らされるのみとなった湯船の中で、一人でに高鳴っていた鼓動を押さえようと、弓弦が胸に手を当てた時、
「……っ」
新たな感覚に、気が付いた。
自分の中に、別の温もりがあるような感覚。
圧倒的な安心感。
まるで、孤独に震えていた心の隙間が温かいもので埋められたような──
「(…そうか)」
弓弦は自分の中に、『フィーナ』を感じていた。
知影の時とはまた違った感覚で、どこか懐かしい感覚が彼の心を包んでいく。
「これでもう…あなたは一人じゃないわ。どんな時でも私がずっと、あなたの側に居ます。あなたを…守ります、守ってみせます」
まるで、心と心が繋がったような気分だった。
フィーナの決意が本物だと、心が感じていた。
「ふふ…離しませんよ? ユヅル…私だけのご主人様…♪」
彼女は眼尻に微かな雫を溜め、小首を傾げる。
弓弦が告白され、自らが告白を了承したのだと気付いたのは、そんな時だった。
途端に頬が熱を持ち、落ち着けようと彼女の瞳から眼を逸らすと、別のものが見えた。
「!?」
タオルから覗く陶芸品のような肢体。
湯気の中でも燦然たる美しさを放っており、蠱惑的だ。あまりの魅力に、本能が刺激されてしまいそうになる。
「ッ」
彼は思わず彼女から視線を外して、二つの月を見上げた。
「ふふ」
彼女も共に、視線を上げた。
寂寥感は消え、今彼の胸の内にあるのは安心感。
彼の手を握った彼女の胸の内にあるのは、幸福感と──もう一つ、何かが外れた不思議な感覚。
「?」
一瞬感じた視線。
その中に、先程とは微妙に違う何かがあるような気がして、視線を彼女に戻した。
「ふふ…♪」
そこには慈愛に満ちた柔らかな微笑みがあった。
あぁ、また見てしまった
直後、胸の高鳴りが今にも爆発してしまいそうな程激しくなり、頭がクラクラしてくる。
「ゴポゴポゴポゴポ……」「!? ご主人様!?」
要するに、逆上せたのだ。
湯船に沈んだ彼を抱き起こそうとするフィーナ。
「ぁ…っ」
恥ずかしいので意識しないようにしていたものが眼に入る
彼女の顔がボンッと、空気砲の如き勢いで赤くなった。
「ゴポポポポ…」
動作が停止し、再び彼は沈んでいく。
「いけない…っ」
煩悩を振り払って再起動した彼女は、彼を救出する。
「もぅ…」
安堵の息と共に、微笑み掛けた。
仕方の無い人だ。
ちょっと締まらないけれど、そこがまた──愛おしい。
「(…この人らしいわね)」
弓弦に意識があったら、気付いていただろう。
今彼女が浮かべている微笑みこそ、先程感じていた視線の正体だと。
慈愛の笑み。
「あら…?」
なのに、自然と涙が滲んでくる。
無意識に欠伸でもしたのだろうかと納得し、弓弦を湯船から連れ出した。
そのまま、脱衣所へと二人は消えていく。
誰も居なくなった湯船の向こう側では。
二つの夜月が、静かに輝いていた。
「は~…進んでるね最近の若い子達は…」
「博士?」
「進んでるよ進んでる。あぁ、進んでいるとも。…それに比べて僕は…こんな……くそぅ…」
「…自業自得ですわ。これに懲りたら、もうあのような本の購入は止めてくださいまし」
「良いじゃないか! 生まれてこの方、美女に優しくご奉仕されたことなんないんだから、夢見てもさ!」
「…別に、そこまで夢願うのなら…。叶えられないこともないと思いますわよ」
「ぁぁぁぁ…巨乳美女…」
「ブチ殺しますわ」
「いっ、ててててて!?!? 殴るなってリィル君、痛い!」
「大袈裟ですわよ博士。鳩尾に入れただけでしてよ」
「いや今思いっ切り僕の身体曲がったよ!? 景気良く曲がったよ!?」
「どこかの世界では海老は縁起が良ろしいのだとか。良かったですわね、博士。縁起が良いみたいで」
「何が!?」
「では景気良く、もう一発」
「ぐふぅっ!?」
「…最近、だらけ過ぎじゃありませんの? 昔はもう少し、お腹に硬い手応えがあったのですけど」
「…達成したい目標があったからね。もう無理だけど」
「…ぁ」
「あ〜あ。異性とイチャイチャ…かぁ。僕もこんな若き時代を過ごしたかったよ。…どこで間違えたんだろう。どこを直せば……」
「……………」
「…少ししんみりしちゃったかな? 所詮は過去…もう過去のことさ。今は大丈夫」
「…。そうですわね」
「ん。じゃあリィル君、一緒に読もうか。ここと…ここをお願い」
「…分かりましたわ」
「じゃあ僕から。『支え、支えられ…フィリアーナと強い絆を育んだ弓弦は、どこか懐かしさ漂う東大陸を目指す』」
「『広大な砂漠を、東へ東へ』」
「『一方、彼の足取りを追って、知影もまたカリエンテを発つ。胸の内で、再会を夢見て──』」
「「『次回、それぞれの旅』」」
「甘いシーンには、より甘々な糖分で対処だ。皆も、糖分ちゃんと用意するんだよ?」
「は~か~せ~!!」
「う゛…っ」