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フィリアーナ、憂う

 今日も良い天気。青い空が、綺麗ね。

 陽の光を浴びた草花はとても元気そうで、肌に感じる風はとっても心地良い。

 土の香り、緑の香り…実家のような安心感があるのは、きっと森のことを思い出してしまうからね。


「‘森の皆、元気にしているかしら…?’」


 その内、長老様に『ベルクノース』での一件を報告しに行かなければならないわね。


「ただいま」


 ベランダで作物の様子を見ていると、部屋からあの人の声が聞こえた。

 遅れて知影の声も聞こえたわ。突然部屋を出て行ったものだから、もしやと思っていたけど。案の定あの人の帰艦を察知したのね。私みたいに魔力(マナ)を探れる訳でもないのに、大した女の勘。


「お帰りなさい。材料は集まったかしら?」


 檜…だったかしら。艦内にお風呂を作ろうとするなんて、風音は凄いことを思い付いたものだわ。

 檜風呂…懐かしいわね。きっと美しい浴槽が出来るに決まってる。だって、風音の張り切りようは…以前刀を鍛えてもらった時以上のものがあったから。楽しみね♪


「あぁ。早速風音が製作している」


「そう。完成が待ち遠しいわ♪」


 完成したら、また家族風呂をしたいわね。

 ふふ、イヅナも喜ぶはず。きっと楽しいわよ…♪

 …だけど、この人がどこか浮かない顔をしているのが気になる。何かあったのかしら。


「ね、ね、弓弦。お布団入ろう」


 …あら。人の前で腕に抱き着くなんて、やってくれるじゃない。

 でも残念。ベッドのシーツは今頃風に吹かれているわ。


「どうして昼前から寝ないといけないんだ。良い天気なんだ。俺としては布団を干したいぐらいなんだが」


 ユヅルの指が知影の額に近付く。


「い゛っ!?」


 デコピンが知影に炸裂した。

 物凄い音。知影が膝から崩れ落ちた。

 彼女、それなりの強さで抱き着いていたと思うけど、問答無用の威力ね。衝撃に耐え切れず、膝から崩れ落ちたわ。あら、眼に涙浮かべて…ふふ。自業自得だけど、あの様子だけだと可愛気があるように見えるわ。性格に大いに難ありだけど、見た目だけなら天性の美貌を持っているからこそ…そう思えるのかもしれない。

 でもそんな美貌の額に、真赤な痕。男に持て囃されそうな、美術品のような顔にもユヅルは容赦が無い。あれはあれで、ある種の信頼関係がなせる技…。そう…信頼関係が…ふふ。

 それにしてもあのデコピン、本気だと痛いのよね。…痛いのよ…っ♡


「そうね。私もそう思ったから、知影が出て行った時に洗濯を回して、シーツを干したのよ」


 シーツを干したもう一つの理由は、知影の無理矢理なベッドインを予防するためだけど。

 ふふ。ま、思惑通りよ♪


「お、それは良い。今夜も気持ち良く寝れそうだな」


 外に干してあるシーツを見た弓弦の頬が緩むと、私まで思わず真似してしまった。

 眼の前で微笑まれたら、一緒になって私も笑っちゃうじゃない。だって、好きな人に褒められるのって幾つになっても嬉しいものでしょ? …私、まだまだ若いつもりだけど。つもりじゃなくて、実際に若いのだけど。これを考えた時に、ハイエルフに生まれて良かったって思うわ。人よりも長い間若さを保てるのだから。


「えぇ、ぐっすり眠れると思うわ」


「あぁ。楽しみだ」


 …それに私が若くなかったら、この人まで若くないってことになっちゃうじゃない。この人と私は氷漬けのまま、二百年も同じ時を過ごしたのよ? それだけの理由でおばあさんだなんて…この人にも、私にとっても最低の侮辱だわ。

 …おばさんも嫌だけど。まだそんな歳じゃないわ。…でも、もし長い月日が流れて私がおばさんになっても…きっとユヅル(あなた)は、海とか、若い頃と変わらない場所に連れて行ってくれるのよね? なんて…考えるまでもないわね、ふふっ。


「やだ、寝かせない。今夜は寝かさないからね!」


 今度はユヅルの足に抱き着く知影。

 コアラと言うか…駄々っ子ね。


「駄目よ。私の隣でそんなことはさせないわ」


 寝不足で犬耳の毛並みが悪くなったらどうするのよ。ユヅルの犬耳、ツヤツヤのスベスベで触り心地良いのに。


「じゃあフィーナ、今日は風音さんの所で寝てきたら?」


「どうして自分のベッドがあるのに、理由も無く人の所で寝ないといけないのよ。風音にも悪いわ」


「私と弓弦の愛のためだよ!」


「何が愛よ」


 育ませてなるものですか。


「たまには良いでしょっ! 弓弦と一週間も旅行行ったクセにさ」


「セティも一緒だったのよ? あなたが邪推しているようなことはしていないわよ」


 チラリと見たユヅルが何か、物言いた気な表情をしていたわ。

 えぇ、そうね。大嘘よ。色々やったものね…お互いに。

 仕方無いじゃない。解放感って素晴らしいのよ? ユヅルなんて、全裸で体操していたぐらいなんだから。


「何か怪しいんだよなぁ。セティが居ても居なくても、ヤることには変わらないと思うんだけど」


「あのな…。疑い過ぎだって。後、頼むからいい加減に離れて椅子にでも座ってくれ…」


「うううううううん…。そうなのかなぁ? …弓弦が言うなら、そうなのかもね」


 まだ不審そうに私を見詰めた知影だけど、首を捻ると食事用の机の前に並ぶ四脚の椅子の内一つに座った。


「怪しいんだよなぁ…」


 ユヅルが言うと、聞き分けが良いのよね。

 まだまだ怪しんでいるみたいだけど、探ってくる様子は無いみたい。深く追求されなくて良かったわ。


「ふふ…そうやっていつまでも怪しんでなさい」


 証拠は無いのだもの。怪しんでいるだけ時間の無駄だから。


「うぐぐ…悔しいぃ…」


「ところでご主人様、何かお飲みになりますか?」


「お、そうだな…」


 机に突っ伏した知影の隣に座ったユヅルの視線が、宙に向けられた。

 「んー」と。少しの間思案されてから、「紅茶」と希望を言われたわ。


「ふふ、分かったわ」


 「自分で淹れる」って言ったらどうしようかと思ったけど、そこは私の意思を汲んでくれたわね。ふふっ。優しいわね、あなた…♪


「〜♪」


 そうね、今日は特別なハーブティーにしましょうか。香りが良く、身体の毒素を取り去ってくれる薬草を発酵させた、特製のハーブティーに。

 カップは三つ。ユヅルと、私と、知影。仲間外れにする訳にはいかないし、知影は紅茶の味が分かる子だから。飲ませても損は無いわ。

 …お湯が温まったわね。アイスも良いけど、今日のハーブティーにはホットが似合うわ。


「‘ん’」


 …はぁ、良い香り。すぅ…っと喉に抜けていくこの香り…。心が落ち着く。きっとあの人も喜んでくれるわ。自信作よ♪


「出来たわよ〜」


 トレイの上に三人分のカップを載せて、振り返った時。私の視界にはある光景が映った。

 知影がユヅルの方に倒れていた。まるで今座っている椅子と、隣の椅子を使って身体を橋のようにして横になるように。

 膝枕かしら…? 最初の一瞬はそう思ったわ。でも、


「弓弦ぅ♪」


 ユヅルの背中で隠れている知影の首から上。

 どうして上下しているのかしら。どうしても上下しているようにしか見えないわ。

 …何、やっているのかしらね?


「紅茶。入ったわよ」


 三人分を机に並べてから椅子に座る。

 通りすがりにチラリと見たけど、知影は無理矢理膝枕してただけだった。ユヅルが困ったような顔をしているけど、知影の隣に座ったのが悪いのだもの。自業自得、知らないわ。


「弓弦づるづる弓弦づる〜♪ ふふふ〜。これぞ、弓弦への架け橋! 封鎖出来ませぇん! 私は止めましぇん! あなたが好きだからっ」


「……」


「…はぁ」


 …くだらないわ。本でも読もうかしらね。

 いつも同じシリーズだと流石に飽きがくるわ。たまには別の本でも…と思ったけど、そもそもいつも読んでる本しか無かったわね。

 …。本を買いに行くのは別の機会にして、今ある本で我慢することにしましょう。良い時間潰しにるはずだもの。


「弓弦〜♪」


 知影の頭は相変わらずユヅルの膝の上。ユヅルは困っているみたいだけど、知らないわ。迷惑だと思うのなら自分でどうにかなさい。


「…知影、紅茶が冷めるからいい加減にしろ」


 あら。


「えぇ…後ちょっと!」


 ようやく痺れを切らしてくれたユヅルが知影の頭を掴む。

 ガシッと言う擬音が聞こえてきそうだわ。


「フィーが折角淹れてくれたのに、これ以上待てるか。ほら」


 抵抗を押し退けられて、知影の身体が初期位置に戻っていくわ。

 物凄い抵抗ね。どうしてそうまでしてその人に膝枕に固執するのかしら。分からない訳でもないけど。

 …それにしてもやれば出来るじゃない、へっぽこご主人様。


「…ちぇっ」


「残念だったわね」


「別に。‘…勝ち誇った笑顔しちゃってさ’」


「あら、心外ね」


 別に勝ち誇った顔なんてしていないわよ。だって誇ることでもないのだもの。


「ほら知影も、冷めない内に飲みなさい」


「はいはい、分かってますよー」


 口ではそう言いながらも、知影はちゃんと紅茶を味わったわ。こんな所が憎めないと言うか、調子の良いと言うか…。良く分からない子ね。


「相変わらず美味いな」


「そう? だったら淹れた甲斐もあるわ。お代わりは要る?」


 あなたのためになら幾らでも淹れてあげるわよ、ふふ。…って、何か私…コロコロと簡単な女ね。気の所為かしら、気の所為よね。ふふ。


「そうだな…じゃあ、もう一杯貰おうか」


「分かったわ♪」


「じゃあ私の分もー」


「はいはい」


 仕方が無いわね。どうせ一人分も二人分も変わらないし。

 それに丁度知影の分も淹れないとって思っていたところなの。ふふ…。


「はい、どうぞ」


 再び紅茶を三人分並べる。

 紅茶を飲みながら過ごす昼前…ね。優雅なものだわ。

 お昼ご飯はどうしようかしら。簡単に手早く作れる物を作った方が良いかもしれないわね。

 イヅナが帰って来るか帰って来ないかで作る量が変わるのだけど…何時頃帰って来るのかしら。「任務ミッションに行く」って、フラリと出て行っちゃったから分からないのよね。何の任務ミッションに行ったのかしら…? それも気になるのだけど、ユヅルのあの複雑そうな表情も気になるわ。

 だから話を聞いてあげたいところだけど、何となくその話は知影が居るとし難いような話に思える。これは女の勘。

 じゃあ私がすることなんて、必然的に決まってくるものなの。


「…あれ? ねぇ弓弦」


 さて…そろそろね。

 知影の頭が揺れ始めたのが、その証。


「…ん?」


「どうして弓弦が一杯居るんだろう」


「は?」


 呆れ顔…ちょっと羨ま…ん゛んっ。考えちゃ駄目よ、フィリアーナ。


「右に弓弦、左に弓弦、上に弓弦、下に弓弦。やだなぁ…♪ 5Pなん…れ…幾ら私……壊……っ」


 知影の身体の揺れ幅は大きくなって、とうとう完全に傾いたわ。

 ユヅルの方に倒れたのは最後の抵抗かしら? 効果が発現し始めてから随分と足掻いたわね。結局無駄な努力だけど。


「お、おいっ!?」


 焦ったようなユヅルの声。

 何だかんだ言っても、知影のことも大切なのね。ちょっぴり妬いちゃうけど…これが、私の愛している人だから。


「…きゅぅ…しゃ…ら……ん」


 “スリープウィンド”の魔力(マナ)を付与させた紅茶で、今は一人で寝ていなさい。

 夢だけを抱いて…ね。


「…おい」


「…んっ」


「おい…っ!!」


 はぁ、蔑む視線…堪らないわ。


「別に良いでしょ? 言葉で説くより早く済むわ。物事はスマートに…よ」


「スマートも何もあるか。力に物を言わせているだけじゃないか、まったく…」


「したい話があるのでしょう? 知影が寝ている今がチャンスなのじゃない?」


「…それはそうだが」


 ユヅルは知影に膝枕をしたまま、腕組みをして唸った。

 これで本当に良いのだろうか。そう言わんばかりに暫く唸っていたのだけど、溜息と共に考えるのを止めたみたい。


「…浴槽の件でな」


 ユヅルが話してくれたのは、浴槽の浄水回路の話。

 知影の提案だそうだけど、話を聞いてみると確かに納得出来たわ。

 風音が頑固なのも納得ね。職人気質なのも、大方ユヅルに何か要求を飲ませてそのために尽力しているのは分かるけど…側からすれば良い迷惑。


「…それで、あなたが作った浄水装置なら使ってくれると。そう考えたのね?」


「あぁ、そうだ。だから装置の作り方を教えてくれないか?」


 力強い頷きは、確信に満ち溢れていた。

 随分と信頼があることで結構だけど。


「装置の核は流用するのよね? だったら作るのは簡単よ。浴槽の排湯口に水と火の性質を持つ核を、それぞれ嵌め込むだけ。後は火、水の魔力(マナ)を流し込めば湯船の完成だわ」


 浴槽の下板に厚みを持たせれば、艦底をくり抜く必要は無い。下板から艦底まで範囲内で、二つの核が入る大きさのポケットを作って、その上には抜け毛を受け止めるネットを付ける。その上に栓をすれば、それで排湯口兼給湯口の完成。


「要するにボウルにボールを二つ入れて、笊で仕切って蓋するみたいなもの。とても簡単よ」


「ゴルフのホールみたいなものか」


「核の発動に水と火の魔力(マナ)が必要なのがネックではあるけど、別に同時に発動する必要は無いの。それならハイエルフでなくても出来るでしょう?」


 多分、これが一番簡単な方法。これなら風音だけでも出来るわ。


「そうか…。それは良い。俺だけでも、俺と風音とでも出来るって訳だ」


「…そうなるわね」


 風音の魔法…ね。


「そうか助かった。だが、浴槽の外に溢れた湯はどうすれば良い? 一応艦底は鉄製なんだから、錆びるのが心配なんだが」


「それも簡単よ。水の魔法が少しでも使えれば、床に残った水滴を操って浴槽の中に戻すことが出来るわ。念動魔法でも出来るの。手間はかかるけど、『ソーサリースタッフ・サイコ』を使えば誰でも出来るはずよ」


 水を魔力(マナ)によって操り、動かす。原理は同じだから十分可能だわ。


「『ソーサリースタッフ・サイコ』?」


「『名無し島』の家に置いてあると思うわ。確か持って来ていなかったはず」


 それに関しては、今度足を運んだ時に取って来れば良いわね。当分行く予定は無いのだけど…。


「良し、じゃあ早速風音に話して来る。知影を頼むな」


 知影の分のカップを退かして、膝枕していた頭を机に持っていく。そうやって自分の自由を確保してからユヅルは立ち上がった。

 もしかして知影の分を飲むのかも…と思ったのだけど、口に含まなくて良かったわ。色々な意味で駄目よ、そんなの。


「…忙しいわね。昼ご飯も食べて行かないの?」


 私も席を立って見送る。

 …我ながら、この言い方は少しズルい言い方だったかも。ふふ、私ってズルい女…なんてね。


「ぷ…っ。と、いや。なら一緒に作って食べるか…って。どうしたフィー?」


 …はっ!? ま、まさか今…心を覗かれていたの…っ!? や、やだっ。はっ、恥ずかしい…っ。変なこと考えていたから、余計にっ。


「変態ご主人様」


 変な時に人の心を覗くなんて、変態の仕業よっ。知影みたいな変態よっ。


「へ、変態っ!? 俺が何をしたって言うんだっ」


「変態っ」


 もぅっ、知らないわっ。勝手に風音の所にでも行っておけば良いじゃないっ。


「お、おい…俺はただ知影が椅子から転げ落ちたのを笑っただけでだな…!」


「変態変態変態っ」


「わ、悪かったって…!」


「少し頭を冷やしてきなさいっ」


 ユヅルの身体を押して部屋の外へ。

 変態は退散なさい、もうっ。


「おい待てって! フィーっ!? 俺が何をしたってっ!?」


「さぁて、ねッ!!」


 扉を閉めた。

 「む、酷い」って声が聞こえたけど、知らないわよ。カ〜ってなっている気がするけど、知らないわよっ。


ーーー昼ご飯、作るんじゃなかったのかっ!?


「食堂で食べて来たらどう? 勝手なご主人様」


ーーーり、理不尽だっ。


「いってらっしゃいっ」


 扉の下を離れて、椅子へと戻る。

 知影がうつ伏せになって倒れている気がするけど、気の所為ね。

 …さ、本でも読み直しましょ。

 窓から入る風が涼しいわ…。何だか柄にもなく熱くなって、凄く心を落ち着けたい気分。

 はぁ…恥ずかしさのあまり我を忘れて…って感じかしら。あの人多分、心を覗いていなかったのに。

 …昼ご飯、一緒に作りたかったわね。それに…。


「キス、してもらえば良かった……」


 凄く…色々と勿体無いことをしてしまったわ…。

 あの人が帰って来たら…謝って…改めてキスをせがんでみても良いわよね?

 …。紅茶が無くなったわね。どうせなら気分転換に、何か他の飲み物を…。


「これにしようかしら」


 蓋を開けると、空気の抜ける音が聞こえた。

 口に含むと、ピリリと刺激が走る。


「はぁ…キスをせがむ…かぁ」


 いいえ…絶対にキスするわ。頼られてあげたお礼として、絶対にしてもらう。

 それまでは少し寂しいけど…夜ご飯までには帰って来てくれるから、それを楽しみに待っても良いわよね?


「‘弓弦ぅ……す…きぃ……’」


 知影の寝言が聞こえた。

 夢の中であの人と仲良ししている夢でも見てるのかしら。

 夢では良いけど、現実ではそう上手くいくと思わないことね。


「ふふ…負けないわよ」


 だって。


「私だってあの人のこと、大好きなんだもの」


 …好きよ、ユヅル(あなた)

 半ば追い出しておいて勝手なこと言うけど、早く帰って来てくれると私…凄く嬉しいわ…。

「すぅ…すぅ…ゆづる…すぅ…」




「すぅ…ん……ゆづる……すぅ」




「すぅぅ…ぅ…くらいの…こわい…ゆづる…ぎゅう…すぅ」




「…くら…ぃ……ぁ…におい…ゆ…づるの……におい……すぅ」


ーーージジ。


「…。んぁ…?」


ーーーガガ。


「……」


ーーー代読モード、読ミ込ミ中…。


「……ぐぅ」


ーーーNow,Loading…


「すぅ……」


ーーー読ミ込ミ、完了。今回、予告役不在ノタメニ天ノ声ニヨル代読ヲ行イマス。『思いは行き違う。些細な勘違いの連鎖からフィリアーナに部屋を追い出されてしまった弓弦は一路、風音の下を目指す。階段を降り、仄暗い通路を奥へと進んだ彼は、思わず立ち竦むこととなった。照れる弓弦、増殖する風音。一人作業に明け暮れる女性の様子を窺った弓弦の視界に飛び込んできたのは、想像を超えた光景であったーーー次回、弓弦、慮る』…代読プログラム、完了。プログラムヲ終了シマス。


「…もう…食べられ…んぞ……すぅ…」

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