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知影、怒りのアイアンクロー

 ガタッ。


「弓弦?」


 物音がした。

 「待っててくれ」って言われたけど、あまりにもバタバタしたような音が聞こえるのは何故かな。

 弓弦…隊長室で何してるんだろう。

 ううん…もしかして、BL? いやぁ…でもね、弓弦だし。あのイケメンだよ? もう正直、隊長さんも黙っていないと思うんだ。

 となると…このバタバタはまさか、致している最中っ!? これはいけないよ! 弓弦を助けないといけない状況だ!!


「と言う訳で、入りまーす」


 誰も私を止められない。

 だって私には、弓弦を助けるっていう大事な使命があるんだからっ。


「弓弦駄目だよ〜? 私と言う女の子が居るのに浮気しちゃ〜」


 お部屋の中に失礼しまーす…って。


「誰も居ないし」


 窓が開いてる。

 部屋に誰も居ないってことは、ここから外に出たって…こと?


「えぇ…」


 何かさ、思うんだけどさ。

 私、扱いが悪い…もとい、弓弦から避けられてない? どう考えても私、色々と損な役回りばっか貰っているような気がする。

 これさ、置いてきぼりだよね。地味に。私から逃げるために隊長さんと結託した…?

 ううん…弓弦だもん。そんなことはしないかな。だって弓弦は私のことが大々代々大々橙大々ダイ大大々だ〜い好きなんだもんね♡

 と言うことは…隊長さんが何か、弓弦を唆した…と言うこと! うん、きっとそう!!

 そうと分かれば、窓の外へとレッツゴー♪

 すぐ近くに居るかな、弓弦。隊長さんもきっと居るよね。

 あーあ、速く見付けたいないなぁ。


「…見付けて締め上げなくちゃ」


 窓からジャ〜〜ンプッ♪

 勢いよく飛び出した気分は紐無しバンジー。着地を間違えたら足の骨が折れるかもしれないけど、そんなミスはしない私。見事に着地を決めたら、はいポーズ♪

 フラつきなし、見事なまでに美しい着地…これは、減点無しだね! 変メダルも確定だ♪ …と、弓弦はどこかな。


「弓弦、弓弦♪ どーこーだっ♪」


 …居た!!

 あれ…でも…倒れてる?


「はっはっは〜っ!」


 隊長さん…笑ってる。

 ふんふん…そう言うことね。弓弦を痛め付けたお返し…しないと。


「ブチ殺す♪」


「いや〜、こうも上手くいくとはな〜!! はっはっは! 悪いな弓弦! 事務作業ばかりで癒しが欲しくてな〜。ど〜〜しても桃源郷を目指したかったんだ〜! お? うぐぉっ!?!? 背中がぁっ!?」


 そうだよね、いきなり顔掴まれて地面で引き摺られたら背中痛いよね?

 でも…弓弦はきっと、もっと痛かったと思うんだ♪


「フフフフフフフフフフフフフフフフ!!」


 力が漲ってくる…! 溢れてくる…!

 私の怒りが真っ赤に吼えているッ!


「うぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ?!?!」


 何周しようかなぁ♪ 引き摺って引き摺ってぇ…引き摺ってッ!!


「いてててててててててててててててててっっ!?!?」


 顔を掴んだま〜ま、持ち上げて!!


「うぉぉぉぉぉっ!?」


 とどめのッ!


「ア・イ・ア・ン・ク・ロォォォォォォッ!!」


「うごぉぉぉぉーーーーーォォォオオッ!?」


  で、ぽいっと。

 地面を転がる隊長さん。可哀想とは思えないね、ふふふ。

 だって、弓弦を痛め付けたんだから当然の結果だよね♪

 さてと、隊長さんへのお仕置きが済んだところで。


「弓弦!」


 弓弦を起こさなきゃ!

 眼が覚めた時に眼の前に美少女が居たら、嬉しいもんね!


「…何やってるんだ」


 そう思って振り返ると、弓弦はもう身体を起こしていた。

 作戦失敗。ざーんねん。


「えへへ〜弓弦♡」


 あーもう、好き。本当、好き。

 この艶のある黒髪とか、黒曜石みたいな右眼とか、整った顔立ちとか。私譲りの左眼なんか見てると、どうしようもなく愛しくなる。

 あ〜〜、好きぃぃ…。だから抱き着く〜。


「おわ…急に抱き着くなって」


「ふふふ〜。好きだよ〜♪」


 わぁぁ…良い匂い…♪

 ちょっと汗滲んでる…? そっか、そこに転がってる誰かさんと戦ってたもんね。


「おいおい…。そんな強く抱きしめるなって」


「くんくんくんくんくん」


「おい、嗅ぐなっ」


 仄かな汗の匂い。汗で少し強まった弓弦の匂い…。


「ふぇへへ」


 すきー♡


「はぁ…」


 わぁ♪ 頭撫でられてるぅ♪

 そうそう、この撫で撫でだよ! 愛のある撫で撫で略して愛撫! うーん! 頑張って隊長さんを、ごっどふぃんが〜った甲斐があるよね♪


「…今回のやり過ぎは大目に見る。レオンとのやり過ぎ同士、これで相子だろう」


 わぁい♪

 でも相子…? 弓弦がやり過ぎを許してくれるって珍しいことだけど。


「弓弦は隊長さんに何されたの?」


「ん…、あぁ。睡眠薬を盛られた」


 ふぅん。じゃあこれの出番だ。


「じゃあ隊長さんにこの薬飲ませてくるね」


「待て、その薬をどこから取り出した。と言うか何の薬だ」


「え? 一口含むと青春の甘酸っぱい思い出が瞼の裏で全力疾走して胸が苦しくなっちゃう素敵なお薬」


 …そう! 戻れないあの頃に一瞬にして帰れる素敵なお薬さ!


「つまり?」


「カリちゃん」


 まぁ、素敵な名前♪


「青酸カリ…おい」


 そうとも言うね。ふふふ♪ 伝わった♪


「じゃあ行って来るね」


「行くな」


「いきたいのぉ♡」


「アイツに死んでもらったら困るし行かせないからな」


 ひゃー♡ そんな、生殺しだなんて♪ 弓弦の鬼畜〜人でなし〜♪ でもそんなところも大好きぃ♡ フィーナみたいに調教されるぅ♪


「誰がいつ調教したんだ」


「えー、だっていつも愛おしそうに首輪を撫でてたしー」


 …最近は指輪を見てニヤついてる時の方が多いけど。腹立つことにさ。

 あの指輪…本当のこと言っちゃうと壊してやりたいって気持ちあるんだよね。奪ってやろうって考えたこともあったけど…私の指には合わないサイズっぽいんだよね。見たところ。

 合わないサイズを無理矢理嵌めても、指が痛くなりそうだし抜けなくなったら困るし。あの指輪、多分私の力じゃ壊せなさそうだし。

 仮に壊したとしてもね…。フィーナだけじゃなくて、弓弦も怒っちゃいそうだから。したくても出来ないんだよねぇ。

 ま! 私には弓弦がくれた矢筒があるけど。ふふふ。


「別に自分が気に入ったアクセサリーを撫でるくらい普通な気がするが」


「それが首輪なことが問題だよ」


「あれはチョーカーだ。首輪じゃないから」


 どう見ても首輪だけど…。アクセサリーと言われると…フィーナに似合っているからそうなのかもしれないし。


「ま、首輪だね!」


 弓弦は額に手を当てて息を吐いた。


「さて…レオンを起こすか」


 そして立ち上がる。

 ずっと地面の上に座っている訳にもいかないから、私も立った。


「そうだね。隊長さんを崖から」


「起こす、だからな」


 え? 落とす…じゃないんだ。


「だって弓弦に薬を盛ったんだよ? 最低じゃない?」


「…気持ちは分からない訳じゃないからな」


「気持ちって?」


 薬を盛る気持ちって良く分からないけど。どうしても盛らないといけない理由でもあったのかな。

 …あ。そっか!


「弓弦にどうしても勝ちたかったんだね! 弓弦強いもんね♪」


「…恐らくはそうなんだろうが」


 やっぱり。

 でも…何か歯切れが悪いなぁ。

 うーん…弓弦、色々と後悔しているみたい。どうしてだろう。


「…負けちゃいけない戦いだった?」


 負けちゃいけない戦いに、どんな形であっても負けてしまった。

 じゃあ何が悪いかって言うと、毒を盛った隊長さんは当然として、もしものリスクを考えなかった弓弦の見込みの甘さが一番悪いこと。これしかない。

 …弓弦は多分、勝てるって確信があったんだろうけど…。あ、何かムカムカしてきた。そうだよ、弓弦だもん。勝って当然なのにさ、それに普通睡眠薬盛る? あり得ないよ!

 …。取り敢えず隊長さんを地獄に堕とそっと。


「そう…だな」


「ふーん…。どうして?」


「今度艦内に出来る浴槽を混浴にするかしないかで揉めたんだよ」


 あー…浴槽。そう言えば風音さんがそんなこと言ってたね。その材料を取るために昨日今日と外出したみたいだから。

 混浴かぁ…。うーん、素敵な響きだけど。


「勝った方の希望に沿う条件で決闘をすることになった…それで隊長さんに睡眠薬を盛られてしまった。…そんなところだよね?」


「察しが早くて助かる。全く、その通りだ」


 頭に手が乗せられた。

 ポンポンって優しく撫でられると、嬉しくて頬が緩んじゃう。

 はぁ〜…何か身体から力抜けてきた。このままぐたーっと弓弦に凭れたいけど、そんなことしたら素直な弓弦がまた照れ隠しするようになっちゃうからなぁ。うーん、お預け気分だ。


「…隊長さん、そこまでして混浴が良かったのかな」


「さて、な。どうもアイツが言うには、俺には混浴を求める男の気持ちなんて分からないんだとさ」


 うわぁ、私の弓弦によくも言ってくれたね。

 やっぱり蹴飛ばして海に落とすべきかな。


「そりゃあ分からなくて当然だし、分からなくても良いと思うな」


「? どうしてだ?」


 不思議そうに私を見てくる弓弦。

 はぁ…ずっと、ずっとずっと私だけを見詰めてくれれば良いのに。


「だって、弓弦には私が居るし。弓弦さえ望んでくれれば私はいつでも混浴してあげられる。その先のも勿論いつでもどんと来い。だから弓弦は、私とだけ一緒に入れれば良いだけでそれ以外の混浴は一切必要無いもん」


「…成程なぁ」


「でしょ?」


「あぁ、良く分かったよ」


 わぁい♪ 理解してくれたぁ♡


「…にしても、随分と痛め付けたな」


 隊長さんの死体の前に着いた。

 …あ、死体って言っても比喩だよ? まさか、本当に殺す訳ないしね♪


「ちょ〜っと引き摺って、アイアンクローしただけだよ? 全然♪」


「…爆発させなかっただけマシか。だがちょっと引き摺るぐらいで、どうして渦が描けるんだ」


「ほらー、何となく新しい大陸への扉を開きたかったし」


 目指せ別なる世界へ!


「レオンを冥土送りにするつもりだったのか…」


 うーん。それでも、


「‘まだ足りないくらい’。あはは♪」


「おいっ」


「てへっ♪」


 あ〜、この遣り取り本当好き。

 呼吸の合った感じとか、息切れ気味の弓弦とか。一度で二度美味しい。


「…お〜い」


 下から声。

 隊長さんの声だ。

 何? 私と弓弦の会話を邪魔するなんて良い度胸してる。…踏んで地面に埋めてやろうかな。


「人の上で何をイチャコラしてるんだ〜」


 起き上がった隊長さんの背中には傷一つ無かったりする。

 どうしてかな。あんなに引き摺ったのに。…隊員服の耐久性が恨めしい。


「…ようやくのお眼覚めか」


「‘二度と眼覚めなければ良かったのに’」


「「おいっ」」


「あ」


 つい。


「知影ちゃんは酷いな〜。久々のアイアンクロー…効いたぞ〜」


「本人としてはその後、掌ごと爆発させながら握り潰すつもりだったらしいぞ」


 おー、流石弓弦。良く分かってるぅ♪


「…知影ちゃんが『活心衝』を使えなくて本当に良かったぞ〜」


 眼に見えて顔が青褪める隊長さん。

 額を拭う動作をしたから、冷汗を掻いているみたい。

 …そう言えば、初めて隊長さんと戦った時もしたんだっけ。アイアンクロー。何かあの時よりも妙に手応えを感じなかったけど、どうしてかな。掴む位置を少し間違えちゃったのかも。

 見事に決められなかったんだとしたら、残念だなぁ。


「それよりも弓弦、俺は勝ったからな。約束通り…便宜ってヤツをだな〜」


「…。あんな搦め手を使っておいて、良くもそんなことが言えるな」


 うんうん。勝負って言えないよね。

 あ、腕組みした弓弦のジト眼素敵。


「男と男の決闘だからな〜! 勝った方が正義だ〜!」


「…勝ったとこ正義とか、どこの悪役だ」


 うんうん。本当にそう思う。全然男と男の決闘じゃないし。普通は正々堂々と戦うものだと思うけど。


「…ま、勝ちは勝ちだからな。そっちの条件を飲まない訳にもいかない」


「え、飲むの?」


 ちょっぴり意外。てっきり飲まないとばかり思っていたのに。


「だが反則も反則だ。他の隊員のためにも、全面的に混浴を認める訳にはいかない。混浴に関しては、貸切の時限定にさせてもらう」


「な…期待させといてそれか〜?」


 うーん、普通だと思う。ホテルとかと似たような感じだよね。

 浴槽を複数種類用意出来るんなら、混浴専用の浴槽を設けることだって出来るだろうけど。流石に戦艦の中でそんなことは難しいだろうし。


「プライバシーへの配慮無くして風呂が成り立つ訳ないだろ? そこは、分からないとな。隊長?」


「ぐ。だが、約束は約束だ〜!」


 …隊長さん、何か必死過ぎる。

 独身が続くと…男の人って皆こうなるのかなぁ。…嫌だなぁ、ちょっと変態な香りがする。


「あぁ。だから一度だけレオンのために、二時間くらい風呂を貸し切れるようにする。そうすれば、二時間も貸切風呂を楽しめるぞ」


 弓弦がチラリと私の眼を見てきた。

 うんうん、言葉にしなくても分かるよ。だって私達愛し合っているんだもん。このアイサインは…「話を合わせろ」って意味だね!

 は〜、通じ合ってるぅ♡


「わ〜♪ 二時間も貸切風呂だなんて、凄いね〜♪ 本当は一時間ぐらいしか難しいんでしょ? 貸切って」


「あぁ。だからレオンは特別に、一度だけその倍の時間借りられるようにする。…これで文句は無いよな?」


 二時間もお風呂を貸切に出来るだなんて、良いよねぇ。ヤリ放題だ。

 それだけ時間があれば、十分過ぎるくらいお風呂を満喫出来そうだけど。


「い〜や、大アリだ〜! このままじゃ、俺の一人風呂じゃないか〜!」


 全力で首を振る隊長さん。

 そうだね、混浴の話だもんね。

 ふふふ、弓弦の意地悪ぅ♪


「ならセイシュウ辺りを誘えば一人じゃなくなると思うが」


 私も便乗しちゃお♪


「セイシュウさんじゃなくても、ディオ君とか入ってくれると思います」


「トウガもイケるな」


 ん…んんん。

 ま、良っか。


「弓弦も入ってくれるよね」


 弓弦が頷いた。

 「良く言った」って褒められているみたいで嬉しいな。


「な〜、お前さんら〜…。俺で遊んでいるだろ〜?」


「「何のこと(だ)ですか?」」


「全員男じゃないか〜!?」


「「一人じゃなくな(るが)りますけど」」


「同性と入って何が嬉しいんだ〜っ!? 何か嬉しいことがあるのか〜っ!?」


「「別に」」


「お前ら二人揃って、人で遊ぶな〜ッ!!」


 あ、隊長さんが吼えた。

 遊び過ぎちゃったかな? でも、良いでしょ? だって弓弦と言葉が一杯被ったから。もう幸せ♡


「…独身男を弄んで…! こうなったら、俺も考えがあるからな〜ッ!?」


「へぇ、次の小細工か?」


 …あ。弓弦、怒ってる。

 多分、隊長さんとの久々の手合わせを楽しみにしていたんだね。

 だって、隊長さんと剣を交えたのって、ここに来たばかりの時の一回だけだったはず。あの時に比べて、弓弦は物凄く強くなっているもんね。自分の力を試したい気持ち、もんのすごーく分かる。


「…隊長権限だッ!」


「うわ、サイテー」


 あ、思わずつい。


「…知影ちゃん、マジトーンだな〜」


 流石に隊長さんも傷付いたみたい。声のトーンが下がっちゃった。

 だからと言って、咎めてくる良心はないんだけど。


「…心からだろうな。なぁレオン、その権力行使の仕方は色々とマズいような気がする。でだ、そうまでして、誰と混浴したいんだ」


「そうだね。隊長さん、誰と混浴したいの?」


 弓弦に斡旋してもらうつもりかな。

 だとしたら、壮絶に最低なんだけど。

 弓弦を何だと思ってるの? 弓弦はそんなウェイ族とやらじゃないもん。私のことをいつまでもひたすら想ってくれる純情な人なんだもん。本当、失礼しちゃうって話。


「そりゃ〜、可愛い子だな〜」


「自分で頼めば良いと思いますけど」


 土下座でもすれば入ってくれる人、居るんじゃないかなぁ。


「…夢、か」


「…弓弦?」


 意味深な呟きしてるけど。

 何か考え込んでいる…? 何をだろう。

 …覗いてみよ〜っと。


『男の夢…それは確かに大事なものだ。レオンにここまで頼まれておいて…それをバッサリと切り捨てるのも、アレか。油断して負けた俺の悪いし…な』


 弓弦は優しいなぁ。


「分かった。…一人だけ、混浴してくれそうな女性を知っている。そいつなら、お前の夢も叶えられるだろう」


 え、それって私っ!?

 た、確かに弓弦がどうしてもって言うんなら一度くらい混浴しても良いけど…。でもこう言ったらアレだけど、好きでもない人と混浴するなんてそんな、風俗系みたいなことはしたくないかも。…タオル一枚の姿なんて、恥ずかしいし。

 あ、私今、凄い女の子らしいこと考えちゃった。そうだよ、私だって恥ずかしいことは恥ずかしいんだからねっ♪


「…その子は…可愛いのか?」


「あぁ、美少女だ」


 でも弓弦のお願いはやっぱり断れないし…。隊長さんと混浴した後、私の全身を清めてくれるのなら良いけど…♡


「…美少女〜っ!?」


 隊長さんの食い付き凄い。

 そうだよねぇ、美少女と混浴出来るなんて聞いたら嬉しいね。


「じゃ、そう言うことだから。俺は行かせてもらう」


「お〜お〜、楽しみにしとるからな〜!」


 隊長さんを残して、弓弦が急ぎ足で艦に戻って行く。

 大分時間取られちゃったもんね。私も追わないと。

 それにしても、美少女って誰だろう? やっぱり私のことかな、かな。


「安心しろ」


「え?」


「お前じゃないから」


 私を安心させようとしてくれたのかな。

 だけど、


「お前じゃないからな……」


 そう言ってくれた弓弦の顔は、どこか悟ったような。諦めの付いた顔だったのが凄く不安になった。

「ぅぅぅぅぅ…。どうしてああも知影殿と密着しているのだっ。は、話しかけ辛いではないかっ。く…っ、こうして手をこまねいている間にも弓弦の姿が遠く…あぁっ、か、階段を降りて行ってしまった…っ。私は…また声を掛けられなかったのか…っっ」




「…くっ、私はまた、何も出来ずにここに戻って来てしまったのか…っ。この、ベンチに…ぅぅ…」




「…あぁ、何故だ。何故この椅子に座っていると、こうも心が落ち着く…あぁぁぁ…」


「買い物るんるん楽しいな~♪ あれ買ってこれ買ってそれ買って~…って…? えぇ…ユリちゃん……」


「…。私…無理なのかもしれない…」


「…え? む、無理? ユリちゃん…どうしちゃったの?」


「恥ずかしくて弓弦に話し掛けられないよぅ…ぁぅぁぅ」


「え、え、え? ユリちゃん? しっかりして」


「…ぁぅぅ…? …れ、れ、レイア殿ッ!? いいいいつからそこにっ!?」


「いつって…今来たばかりだけど…それよりもユリちゃん、何だか疲れてない? ちょっっっと新しい一面をみれちゃったん…だけど」


「えっ!? ま、まさか聞いていたのか!?」


「えっ!? き、聞いてないよっ!? 何にも!」


「…そ、そうか。それは良かった! ところでレイア殿…何故、また商業区に?」


「お買物してたから。今はその帰り。…ユリちゃんこそ、どうしたまたここに? ユ~君とまた話せなかったの?」


「…。うむ」


「…ありゃ、話せなかったかー。緊張しちゃったの?」


「緊張した…と言うよりは、知影殿と弓弦の間に割って入る勇気が無かっただけだ」


「割って入るって…話し掛けるだけでそんな、大袈裟だよ。もう少し肩の力を抜いてみたらどうかな?」


「…そう…か? それで話せるのか?」


「それはユリちゃん次第だけど。話し掛けるだけで緊張してちゃ、会話が続かないよ? ここは、一歩でも良いから前へと歩こうよ」


「…む、むぅ。確かに…思い切りは大事だな、うむ。相分かった。肩の力を抜いて、追い付いて話してみることにしよう」


「うんうん。今度こそユ~君と話せると良いね♪ じゃあね~♪」






「…うむ。肩の力を抜いて…うむ。良し、深呼吸の代わりに次回予告だ。『風音の前には大きな壁が立ちはだかっていた。打つ手を求め、艦を流離う彼女に声を掛けるリィル。吐露される想い、顕在化する現実。偽りを弄する男の嘲りが、そこにはあったーーー次回、風音、リィルの悩みを聞く』…弓弦は今、どこに居るのだろうか…?」

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