変化
気絶した知影を背負い、ユリは王宮に戻っていた。
海に落ちた知影をどうやって助け出したかというと、ありがちではあるのだが海に飛び込んで助け出した──という訳ではなく、別の方法にて救出が出来た。
思いもよらない幸運であった。崖上から手をこまねいていた彼女がふと崖下を覗き込んだ際、洞窟のような穴を発見したのだ。
飛び降りるのはどうかと思ったユリ。付近の捜索を行い、無事に一つの洞穴を発見。潮の風が香ってきたので中を進むと、奥の入江に知影が漂流していた。
そこからは肉体労働だ。頬を叩いても眼覚めないが、取り敢えず呼吸は安定している知影を背に、『カリエンテ』への帰路に就いた。
眼覚めるのを待つ──という選択肢もあったのだ。しかしユリには、どうしても早く街に戻りたい理由があった。
正確には、明るい内に洞穴を後にしたかった。
暗くなると──そう、視界が悪くなるのだ。
彼女は狙撃手だ。近接戦闘も熟せるが、危険は少ないに越したことはない。
日が暮れ始めた頃に洞穴を抜け、街に着いた頃には既に、南の国では昼とは正反対の静寂が支配していた。
知影をベッドに横たわせ、汗を吸った衣服を着替えたユリは客間を後にする。
道中視界の隅に、半透明のものが映った気がしたが──恐らく南国の夜の夢だろう。極力見ないようにして庭へと出る。
「ふむ…あの辺りで良いか」
噴水近くの椅子に座ると、愛用の銃の手入れを始めた。
火薬で煤けた内筒を掃除したり、銃身を磨いていく。
まるで母が子の頭を撫でる様を思わせる程に、優しい手付きだ。磨かれた銃身が、無機質な輝きを見せる。同時に、まるで鏡面のように頭上からの光を反射していた。
「今夜は…空が綺麗だ…」
見上げる夜空には星々が瞬いている。
それらに囲まれるようにして輝く二つの月──その内、片方の月が満月となっていた。
良い夜ではないか。ユリはこの静寂に包まれた神秘的な雰囲気が好きだった。
耳を澄ませると虫達が鳴いていて、噴水の音と共に静かな旋律を奏でる。大切なのは、仄かに明るいこと。完全な暗闇は別として。
ユリは暫く、この静寂に心を浸した。
瞼の裏に、一人の人物が浮かぶ。
「(橘殿…)」
自分を守ったばかりに、この世界に飛ばされてしまった青年。
彼は今、どこに居るのだろうか。瞼を開けても、眼の前に居るはずもなく。
いつか再会することを、月夜に願った。
「(さて…)」
そのためには、行動を起こさなければならない。
レオンが合流し、知影が弓弦の反応を検知した。
恐らくこの国の滞在は、今晩までになるだろう──当然、旅の支度をする必要があった。
「(確かこの辺りに……)」
ユリは銃を傍らに置くと、右手を服の中に差し入れる。
夜の噴水。服の内に手を入れる、一人の美女。艶めかしい行動の理由は、豊かな胸の間に収められた銃弾を取り出すためだった。
所謂、「とっておき」だ。普段は切り札として、下着の間に隠しているものだ。
簡素な装飾がなされた銃弾は、先の戦いでアデウスに向けて放った銃弾と同一の物。その効果やたるや、さぁお立ち会いの代物。
専用の銃で放たれるとリミッターが外れ、弾丸内にある複数の光物質が融合することで、擬似的にだが核爆発を起こすトンデモ代物。
だが内部に込められているのは、あくまで彼女の魔法。彼女が攻撃対象と認識したものにしか爆発作用を起こさないのだ。
つまり、核並みの威力を持ちながらも、環境に優しいというマンハッタン計画メンバーも脱帽の代物だ。
いざという時にしか使わない、ユリにとっては奥の手(弾?)。
使う場面を考えさせられるのは、作成に専用の薬莢と弾薬、膨大な光魔力を必要とすることが理由だ。
そのため現在ユリが持っているのは、この一発ともう一発分の材料の計二発だけだ。
この一発といっても、これから作るのだが。
「──ッ!」
ユリは早速、切り札の製作に取り掛かった。
先程取り出した銃弾──薬莢(弾薬は既に詰めてある)を両手で包み、意識を集中する。
「はぁぁ…!」
あくまで魔力を込めるだけなので、術自体を使う必要は無いのだが、これがかなりの重労働だ。
合わせられたユリの両手を中心に淡くも力強い光が溢れていく。
微かに溢れた光は辺りを漂い、やがて夜空に吸い込まれていく。
それはまるで、蛍のようだった。
「…ふぅ」
光が収まると、彼女は出来たばかりの銃弾を再び胸元のポケットにしまう。
短く息を吐くと、ぐったりとベンチに凭れ掛かった。疲れが押し寄せてくる中、部屋に戻るのも億劫な状態だ。
しかし温暖な気候とはいえ、夜はどうしても冷えてしまう。両手で身体を抱くと、少しでも暖を取ろうと二の腕を擦った。
「ここに居たのか〜。少しだけ探したぞ〜ユリちゃん」
どうしたものかとユリが悩んでいると、声が聞こえた。
瞬き数度。首を回して振り返ると。
「隊長殿」
いつの間に眼が覚めたのか、レオンが後方に立っていた。
「気絶している俺を置いて行ったと思ったら、今度は知らない間に知影ちゃんが気絶している。…何かあったのか〜?」
話しながら隣に腰掛けてくる。
碧玉の瞳が真っ直ぐとユリを見詰め、その瞳は『誤魔化しは禁止だ』と、雄弁に語っていた。
普段呑気にしている人間が真面目そうに振る舞うと、途端に真剣味を帯びるものであった。
「…橘殿が、この近くに居たらしい」
レオンが興味深いとばかりに眼を見開く。
「例の感応現象…か〜」
「うむ。それで知影殿は、反応を辿るのに必死なあまり、海に落ちそうになって…」
「それで、落ちたのか~?」
ユリは首を振った。
「いや…彼女の真下の部分だけ、急に海が凍り付いたのだ。故に落ちることはなかった」
「そうか〜」
それは安心だった。
ホッと胸を撫で下ろしたレオンを見ていたユリだが、
「時に隊長殿」
その桃色の瞳が、僅かに細められた。
「ん?」
「隊長殿と再会した時に着ていただけで、普段の滞在中はここの服を着用していた。そう物珍しそうな視線を向けられると気になるぞ」
と言いながらも、瞳には軽蔑の色が宿っている。
そんな彼女の服は現在、『カリエンテ』の女官が着ている服と同一のものだ。
白を基調とした布生地は、透けるか透けないかといった絶妙な薄さを誇りながら身体のラインを描いている。
レオンの視線を受けてか両手で隠されているが、腹部も露出していた。健康的に括れており、とても美しかった。
恐らく、十人の男が見れば十人全員が魅力の虜になってしまう。それはもう電流に撃たれたように、恋に落としてしまうだろう。
アラビアンな印象を与える衣装は、ユリの魅力を普段以上に引き出していた。
「…それで〜…どうして知影ちゃんは気絶しているんだ〜?」
視線を逸らしながら、レオンは話を変える。
美女を眺めたい気持ちはあったが、部下に不信感を与えるのは本意ではない。
思わず吸い寄せられそうになる視線を逸らし、吸い寄せられそうになっては逸らし──己の煩悩との戦いを始めた。
「…アレは」
ユリはそんな上司の姿に呆れつつも、話題転換に応じた。
「アレは急に氷の上に乗った後、足を滑らせてな。衝撃のあまり、気絶してしまっただけだ」
「魔法…か〜?」
「何を言っているのだ隊長殿。軽い脳震盪だろう」
真面目に返されたものだから、レオンは少々面食らう。
気絶の理由はそうだろう。だが違う、そうではない。
咳払いと共に、言葉を追加した。
「気絶の理由じゃなくて海が凍った理由だ〜」
「そうか、魔法…だとは思うが。恐らくは…うむ」
この世界では、魔法は既に人間から「失われたもの」だということは、ユリ達にとっても既知の事実だった。
魔物の勢力争いが、偶然あの時、あの場所で起こっていて、偶然放たれた氷魔法が、偶然知影の真下の海に当たったのだろうか?
「…ここは南大陸。気候から鑑みて氷魔法を使える魔物は居ないはずだ。しかしあの魔法は、私達の遥か上空から放たれていた。ならば、魔物の仕業と考えた方が辻褄が合うと思うのだ…」
ユリが語った自身の考え。
その言葉の数々はまるで、自分自身を無理矢理納得させているようにレオンには感じられた。
沈黙が訪れた。
予想は、ユリもレオンもしている。
だが予想は、あくまで予想。確信ではない。
だが──胸が騒いでいた。
「知影ちゃんは…弓弦を追い掛けるだろうなぁ〜…」
偶然は、一つだけなら偶然。
しかし重なれば重なる程、それは──関係を確かめる必要性が、出てくる。
「さて〜」
レオンは立ち上がると、ユリに背を向ける。
その声音は、先程とは打って変わって落ち着いたものであった。
「…部隊の隊長としては、一刻も早く『アークドラグノフ』に帰艦することで、まずはユリちゃんと知影ちゃんの安全を確保したい。だが〜…俺個人としては弓弦を探すべきだと考えている」
ユリもハッとしたように立ち上がり、レオンの次の言葉を待つ。
「…下手したら長旅になるかもしれない。今の内に身体を休めておいてくれ~…隊長権限、発動だ」
「隊長殿…しかし、良いのか? 本来ならば、まず帰艦手段を探すべきだと思うが…」
「そんなもの、弓弦と合流した後でもどうにかなる〜。向こうにはセイシュウが居るしな〜」
本来ならば、転送事故等で異世界に飛ばされた際は、帰艦手段の捜索が第一優先となる。
仲間との合流は、二の次。
本来ならそのはずだが、レオンという男は何よりも部下を優先する男なのだ。
必ず全員生還。男はそれを胸に誓っているのだから──
「隊長殿……」
去ったレオンの背中を、ユリは見届けた。
その後も暫く棒立ちの状態になっていたが、
「っくしゅんっ」」
くしゃみとともに身を震わせると、思い出したように部屋へと向かう。
得物をしまってからベッドに横になると、囁きにも等しい寝息が聞こえてきた。
「……Zzz」
隣のベッドでは知影がスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
時折「弓弦」と、譫言のように呟いているのは夢の中で彼に会っているのであろうか。
「(知影殿は、どんな時でも橘殿のことを考えているのだな)」
驚きを通り越して呆れてくる程だが、どこか羨ましくもあった。
彼女のように、“誰かを好きになる”という感情とはそんなものなのか。
理解することは出来ないが、素敵な感情とは思える。
ユリだって一人の女だ。理解出来ないものの、恋への恋しさは感じられる女だ。
夢──見ているのかもしれない。
例えば白馬の王子を待つ姫のように。
現実には、白馬の王子なんて早々に居ないけど。
もしかしたら、自分も時の流れに連れて──
「私も、いつ…か…」
やがて瞼が重くなる。
「そう…。いつか……」
魔力を酷く行使したからなのか。
思考は中断され、そのままユリの意識は薄れていった。
* * *
弓弦とフィーナが泊まることにした宿はカリエンテ一番の宿らしく、中々寛げる場所であった。
その中で特に弓弦を驚かせたのは、木で出来た露天風呂があったことだ。
街が一通り見渡せる程に景観の良いその風呂は、東大陸を治める国から遥々取り寄せたものらしく。
部屋に入った弓弦を、衝撃で固まる程に感動させた。
「…これでどうですか?」
「ん? …はは、完璧じゃないか! 俺も負けてられないな」
──さて、そんな彼らは食事を終えていた。
現在何をしているかというと、これがおかしなもので。座布団の上で隣り合って、急か急かと旅装束を作っている。
「旅人なら旅人らしい格好でもしてみたいな」という、弓弦の発案の下に実現した共同作業。材料は、昼頃に弓弦が買って来た布だ。
作業に関して弓弦は当然、フィーナもかなり乗り気であり、この時点で既に、二人分の装束が完成しようとしていた。
「ご主人様。…そこ、少しだけですけど擦れ始めてます」
「ん?」
弓弦は手を止め、装束をまじまじと見詰める。
フィーナの指摘通り、少し縫い目の直線が擦れかけていた。
「おっと…。すまないな」
縫い目を少し解き、戻してから再び縫い始める。
「じゃあ、私は次の作業に……」
既に一式作り終えたフィーナは、もう一つの作業を始める。
競争してはいないはずなのに、どことなく勝者の笑みを浮かべているのは何故なのか。
「…!」
表情そのままに、フィーナは魔力を込め始める。
「(…魔法の付加、な)」
別に悔しい訳ではないのだが、縫う速度を速めていく弓弦。
「魔力を込めた装備は強くなる」とはゲームではよくある話なのだが、それはこの世界でも同じらしい。
自らの中にある常識と現実を擦り合わせながら、ようやく手縫いを終えた。
「ふぅ…完成だな」
「では、早速これにも魔力を込めますね」
「頼む」と弓弦が頷くとフィーナは、嬉々として作業に取り掛かった。
彼女の全身が淡く光を帯びていく。
その余波だろうか。金糸のように艶やかな髪が、靡き始める。
風を孕んで持ち上がった金色の清流から、花のような香りがする。
「‘綺麗だな……’」
彼女に対して、同じ感想を何度抱いただろうか。
幻想的な雰囲気を漂わせるフィーナを眺め、弓弦はポツリと呟いた。
『精霊の御霊…ここに』
フィーナが徐ろに眼を閉じた。
途端に光が強まり、華奢な掌に集まっていく。
淡く、優しい光が強まる光景は、誰の眼にも神聖だと分かるもの。
『エルフの秘術』と呼ばれるこの魔法は、正しくその名に相応しいものだと弓弦は思った。
不思議と胸が高鳴る。
興奮しているのだと、分かってしまう。
瞳を輝かせながら、秘術完成の瞬間を待っていると、
「(……?)」
──ふと、弓弦の中、とある感覚が生じた。
覚えのある感覚。これは、まさか──?
「(…そうだ、バアゼルとの戦いでも……)」
“どこからか”、何かが身体の中へと流れ込むような感覚。
恐らく、フィーナの魔力だ。装束に注がれている溢れんばかりの魔力が、僅かばかりではあるが弓弦の中へと入ってきているのかもしれない。
身体の中で、微かに漲る力──それは予感だった。確信めいた。
まさかと思い、早速行動に移してみる。弓弦はフィーナに倣い、旅装束に手を翳した。
「…!」
フィーナの眉が、ピクリと動いた。
「(嘘でしょ…? これも…出来ると言うの…!?)」
驚いているらしいことは分かったが、心の内までは見えない。
それより眼の前のことを。弓弦は瞑目すると、意識を集中させていく。
すると、暗闇に閉じた視界を刺すように照らす、温かな光が見えた。
「(…何か…出来そうだ…!!)」
思った通りだった。弓弦の手からも、魔力が発せられていた。
弓弦の魔力は、『時氷の杖』の時よりも強くフィーナの魔力と絡み合い、一つ──否、二つの装束を包み込む。
光が、強まっていく。
そして浮かぶのは、最後の詠唱句。
脳裏に浮かんだ言葉を、そのまま弓弦は口にした。
『『宿りて…祝福あれ!!』』
折紡がれた二人の魔力が、今度は弓弦とフィーナまでも包み込んだ。
あまりの眩しさに、両腕で眼元を隠す。
それでもなお刺すような光に耐えながら、暫く待つ。
そして、光が収まり始めた。
眼を少しずつ開けていくと、二人の眼の前には──
「……おぉ」
側から見ただけでも神々しいと形容出来る程、力強い魔力を放つ装束が二つ並ぶように鎮座していた。
「凄いわ…凄まじい魔力を感じます」
見た目は簡素な、外套付きの装束に見える。
月のように白い布を基調とした装束は、所々に金色の刺繍を施されている辺りに両者のセンスが光っている。
「魔法文字を編み込みましょっか」。とはフィーナの言だ。
お蔭で、慣れない模様に大いに手こずってしまった弓弦。完成に漕ぎ着けてみると、我ながら出来の良さに惚れ惚れとしていた。
試しに羽織ることに。
「…ッ!!」
神経が研ぎ澄まされ、感覚が鋭敏になるのが分かる。
すると、耳に奇妙な違和感を覚えた。
「(…まさか)」
触れてみると明らかにおかしい感覚がして、ピクっと独りでに動いたりもした。
今度はもしやと思って鏡を見ると、
「…どうしてこうなった」
黒毛の、ピクリと動く、モフモフ物質。
他の見た目は何も変わっていないのに、耳だけモフモフ。
右も、左も、モフモフ、モフモフ。
「何じゃこりやぁぁぁぁぁ──ッ!?!?」
弓弦の耳があった場所──の少し上側。
自前の耳もあるが、まるでコスプレのように。
そこには、フィーナと似たような犬耳が生えていたのだった。
「何じゃこりゃぁぁぁッ!?」
「おや博士、どうかしまして?」
「どうかしまして? じゃないっ! リィル君、これは…」
「?」
「これはどう言うことなんだッ!?」
「…何って、廃棄物ですわ」
「違う! 僕の私物だろ!? どうしてビニール紐で結ばれているんだッ!?」
「廃棄物だからに決まっていますわ」
「決まってない!」
「では問題です。この…『けも耳巨乳美女達の誘い』って…何ですの?」
「浪漫だ!」
「はい着火」
「うわぁぁぁッ!? 何も焼却処分することないじゃないか!」
「大丈夫ですわよ。火災対策はバッチリですもの」
「そう言う問題じゃない! …ぁぁ…僕の秘蔵の本が……」
「では別の問題です」
「何の問題ッ!? そっちの方の問題じゃない!」
「この…『ビバ☆ けも耳巨乳美女!』って…何ですの」
「夢だッ!」
「はい着火」
「わぁぁぁっ!? 止めてくれ!! リィル君、君は、君はッ! 何の権限があって、こんな惨いことをッッ!」
「ここでは、私が神であり、法ですわ。法の下に下された判決は、絶対。執行猶予無しの実刑判決でしてよ」
「何が…何が法だッ! こんな、こんなことが…許されるとッ!?」
「何故神が許しを請わないといけませんの? これは当然の裁きでしてよ! お〜っほっほ!」
「く……!」
「でも私は寛大ですの。…次の質問の答え次第では…他の廃棄物の取扱いを考えなくもないですわ」
「な…んだって……!」
「…では、最後の質問です。…この、『ドキドキ♡ けも耳巨乳美女は〜れむ♪ 〜あなたの匂いに発情期♡〜』って…何ですの」
「…それは」
「知っていますわよ。最近一番のお気に入り…ですよね?」
「……ッ」
「…さぁ、これは…何ですの…?」
「(これを認めれば…本を救えるかもしれない……)」
「これは、何ですの」
「(だが…認めると言うことは……僕の神聖な宝物達が、いけないものだと認めてしまうことになるッ!)」
「それは…ッ」
「さぁ、さぁ!」
「(そんなの、間違ってるッ! これは、浪漫なんだ夢なんだッ! だけど…クッ!! だけど……本のため……)」
「さぁさぁさぁ!!」
「それは……ッ!」
「これは何ですの? 何ですの!?」
「(僕は──!!)」
「愛だッ!!」
「……」
「…愛だッ!!」
「……愛?」
「愛ッ、だッッ!!」
「着火ァッ!!」
「ぁぁああああッ!?!?」
「良い度胸ですわッ! 全ッ部燃やしてさしあげましてよッ!!」
「ぁぁぁぁああああああああああッ!?!?」
「お〜っほっほ! 良〜く燃えますわ! 燃えましてよォッッ!!」
「…しょ、消火をっ!」
「さぁ、景気の良い大炎上を背後に、予告ですわ! 『身体は変化した。望もうと、望ままいと、それがあるべき姿であるように。心は揺れる。身体の変化に取り残され、静かに揺れる。波紋は広がり、感情として溢れる。そして、彼は、彼女は──次回、交わる想い、重なる心』…」
「ぁ…ぁぁ……ぁぁぁ………」
「…良い様ですわ。巨乳巨乳…どうしてそう……!」