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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
女二人湯煙客旅編
293/411

湯煙旅にて焔と焦がれ

 日差しが眩しい。

 木蔭に寝そべり、空を仰ぐ。

 いつまでそうしていたのだろう。向かう先も失い、戻る道も失い、そこにあるのは身体が一つ。

 金はあった。だが、ここで金が通用するのか分からない。少なくとも、先に立ち寄った簡素な町では通用しなかった。

 手元にある物は全て役に立たない。金を残して全て、壊れてしまった。

 だというのに、金が役に立たないとは。何もしようがない。

 だから、寝転んでいた。

 空は青く澄み渡っている。

 考えが、澄み渡る空のように何も浮かばない。

 出来ることがあるとするならば、このまま時を過ごすことだ。

 危険が常に喉元で鉤爪を研いでいたのは知っている。常に死が身を覆っていたも勿論。だが、現に直面してしまうとこうも虚しいものなのか。

 こうなってしまった以上、仕方が無かった。最悪、狩人になれば食料は確保出来なくもないのだが、その場凌ぎに思えてならない。だから、抵抗は辞めておいた。

 このまま自然を感じていよう。そう眼を閉じた。

 風が身体を撫でる。草の香りがする。

 草のベッドは柔らかくて、寝心地は悪くない。土臭いが、眠るには十分だ。

 身体が感じるあらゆる感覚に身を浸す。

 当初から常に求めていた場所とは違うが、良く良く考えてみるとこの状況は、悪くない。この状況は状況で、楽しむことは出来る。

 楽天的に考えていこう。あの青空のようにーーーそう、考えていると。

 ガサ、ガサ、ガサ。

 音が聞こえた。

 何だ。何の音だ。

 ガサ、ガサ、ガサ。

 音は近付く。

 何だ。誰かが近付いて来ているのだろうか。

 ガサ、ガサ、ガサ。

 これは。

 ガサ、ガサ、ガサ。

 この足音は。


「キチキチキチ…」


 ーーー魔物。


 ドガッ。

 手の力だけで身体を起こし、そのまま蹴りを入れた。

 沈み込む感覚の後に、魔物の身体を足が貫いた。

 絶命した魔物を確認する。

 羽の生えた蜥蜴。紫の鱗から、『パラライズバジリスク』と断定した。

 石化の視線だけではなく、神経毒の吐息も放ってくる魔物がこんな場所に居るとは。穏やかそうな景色の割に、物騒だった。

 睡眠するはずが、おちおち永眠させられてしまっては堪らない。場所を移すことにしたところを。

 ザッザッザッ。

 急ぐような音が聞こえた。

 ザッザッザッ。

 近付くこれは、足音。それも、人のだ。

 音を辿り、姿を確認する。

 やはり、人だった。奇妙な形の短剣を握り、呆気に取られている。

 魔物に襲われようとしている光景を見て、助けに来てくれたのだろう。謝辞を述べると、質問が投げかけられた。曰く、「アンタはどうしてここに?」。

 訳を話した刹那。瞳に落胆の色が宿った。

 別の答を聞きたかったのだろう。だが生憎、他に答を持ち合わせていなかった。

 小さく呟かれた言葉があった。

 本当にそう言ったのかは定かではない。だが妙な程、余韻の如く耳に残った。

 「帰りたいか」。そう問われた。

 暫し悩み、頷く。

 帰れるものなら帰りたい。本心だった。すると条件付きではあるが、帰れることを話された。

 条件。無茶程度でこなせるのならば引き受ければ良い。無茶であろうとも、無理でなければ。

 「付いて来なせぇ」。踵を返すのに続く。

 視界に入るものがあった。

 腰に下げられた三つの輪っか。彫られた文字が不思議な輝きを帯びており、心惹かれた。

 それは疲れたようなその者の顔、奇妙な短剣、そして。


「この滅び行く世界に跳ばされるとは…運が無ぇ」


 そんな言葉と共に、強く印象に残った。


* * *


 仁は帰って行った。

 ついでに空の瓶を全て持って行ってくれたので、部屋にある酒は机の上の二本。

 一体何本飲んだのか? 三人で手分けして飲んでいたので、正確な本数は分からない。


「やっと帰ったっすね、あの男…!」


 ざまぁみろ。一昨日来やがれ。

 勝利を確信したかのように、オルレアはグラスを煽った。


『主よ……』


 そんな主人の姿が心配で心配で仕方が無いアスクレピオス。必死に呼び掛けているのだが、主人の耳には届いていない。


「まぁまぁオルレア様。まずは落ち着かれては如何でしょうか?」


 風音は相変わらずチビチビと酒を飲んでいる。

 彼女は仁が帰ってからもなお、熱り立とうとしている少女を諌めているのだが、


「そう言う風音こそ落ち着くっす。いつまで胸触ってるんすかっ」


 逆に諌められていた。


「…?」


 仁が帰ったので、元の位置に戻るとしたオルレア。

 しかし少女の身体は隣から伸びた腕によって引き戻された。

 凄い力だった。そしてそれは浴場の再来だった。

 物凄い力で座らされ、ガッチリ拘束され、胸を掴まれ、揉みしだかれる。

 若干乱暴気味のため、少々痛い。


「私は落ち着いていますが」


 確かに。声音は非常に落ち着いたものだ。

 だが手付きには落ち着きというものが一切無い。

 オルレアは知っていた。これは、風音が完全な酩酊状態に陥った証だ。

 以前にもあった。言っていることとやっていることが全く異なっていた時が。

 その時は確か、気絶でもさせただろうか。余計なことをしでかさないように、先に封じておいた。

 そのためには、風音の背後を取らなければならない。だが背後に回って、首に一撃を見舞わなければ気絶させられないだろう。

 気絶させることが難しいと感じた時は、確か放っておいたか。

 大元帥暗殺の嫌疑をかけられたレオンの無実の証明に際し、必要な情報を無事入手出来た日の夜。揚げ物パーティの記憶が蘇る。

 レオンやセイシュウ、リィルの学生時代の教師であるディー・リーシュアの犠牲もあり、風音によってオルレアに危害が加えられることはなかった。

 酒の力は恐ろしいものだ。まさか、ディーと弓弦を見紛うまでに判断力を奪い去ってしまうとは。

 放置するか、気絶させるか。いずれにせよこの状況では無理だ。身代わりは居ないし、酩酊しているとはいえ、風音の反応速度を上回って首筋を狙うのはーーー


「か〜ざ〜ね」


 一つ、試してみよう。

 オルレアは新しく注いだ酒までも一度に煽ると、風音に凭れ掛かった。


「はい?」


 風音の整った顔を見上げる。

 瞳を潤ませるようにして、軽くしゃっくりをする。

 秘技、酔った演技だ。普段の風音ならばまず騙せないが、今の彼女ならば。


「ちゅーして良い?」


 騙せると踏んだ。


「何を突然……」


 風音、そう言いながらも瞑目する。

 騙せた。それも、こんな子供騙しに近い演技で簡単に。

 これはチャンスだ。オルレアは唇を近付けながら、こっそり手刀を構える。


「オルレア様、一まずは落ち着きましょう。きっと酔いが回られたのだと存じます。落ち着いて、それから……」


 その言葉を、そのまま返す。

 風音との距離を最短に縮めた瞬間、行き違った。

 構えた手刀を素早く風音の頸に振り下ろした。


「(取ったっすッ!!)」


 鋭い一撃が風音の首筋を捉える。

 当たれば確実に気絶するまでに力を込めた。風音が酩酊し、油断しているのならこれでお楽しみは終わりだ。


「クスッ」


 終わり、のはずだった。


「なっ!?」


 手刀は、肘ごと止められた。

 腕を引こうとした時にはもう遅い。すぐさま手首を掴まれ、離脱を阻止される。

 そこからは、実に鮮やかな技であった。

 風音は掴んだ手首を軸にして体勢を変える。

 裾が靡く浴衣は、まるで戦装束を思わせた。舞うように宙を踊った彼女によって、少女は物の見事に組み伏せられてしまった。

 甘く見ていた。まだここまでの動きが出来たとは。歯噛みするオルレアを見詰める風音の口角が上がった。


「…落ち着かれましたね? もう夜も更けました。…他の宿泊客の皆様もいらっしゃるのですから、静かにしなければならないと言うのに……」


 背筋が凍るような感覚を覚えた。

 何て恐ろしい笑みだろう。今すぐ逃げ出したかった。


「うふふ…静かにしましょうね?」


 風音の眼が据わる。

 あ、終わった。視線を交えたくなくて、顔を横に向ける。

 すると、ハイエルフの犬耳が不思議な声を拾った。

 女の声だ。抑えるような、何かを我慢しているかのような。

 それと、男の声も聞こえる。吐息交じりで、まるで何か激しい運動をしているような。


「にゃ…っ?!」


 オルレアは動揺のあまり、猫みたいな声を上げてしまう。

 恐らくだが壁の向こうに居るのは、晴美と雄一だろう。理屈抜きにそう思った。

 当然ーーーといえば、当然するものかもしれない。人とはそんなものだからだ。しかし、何故、どうしてこんなタイミングで聞こえてきてしまったのだろう。音声を拾ってしまったのだろう。

 顔が熱くなる。聞きたくないのに、聞こえてきてしまう。

 聴覚が恨めしい。犬耳を塞ぎたくとも、塞ぐ手段を塞がれている。

 顔を反対方向に背けて眼を瞑る。

 今から自分は人形だ。何も聞こえない何も感じない物言わぬ人形だ。一層のこと、寝てしまえばこんな危機とはおさらばだ。寝ている間に何をされようと、朝になって覚えていなければ問題無い。


「あらあら…御休みになられてしまいましたか。オルレア様、そんな所で眠られては風邪を引きますよ?」


 そんな言葉共に、少女の浴衣は乱された。

 身体が冷えることを注意しながら、服を脱がすとはこれいかに。

 見頃を開かれ、オルレアの肌が露わになった。


『な、何と破廉恥な……っ』


 狼狽しているらしい神鳥かむどりの声が聞こえた。生真面目な彼は、言葉と行動が相反している風音の様子が理解出来ないようだ。

 ただ一つ理解出来たのは、主に危機が迫っていること。それも、貞操の。


『嫌がる主に危害を加えたとなれば、このアスクレピオス、黙っておれんぞ…!』


 アスクレピオス、立ち上がる。

 神鳥かむどりの顕現に際し、少女の身体から離れた魔力(マナ)が窓の前に集う。


「主よぉっ!」


 顕現した神鳥かむどりが突撃した。

 滑空するように接近する彼は、嘴で風音を突き、蛮行を止めようとする。主と同じように頸を狙い、鋭く一突きする。


「ぬっ!?」


 いとも簡単に嘴を掴まれた。

 動きが直線的過ぎたのだ。成す術なく捕まえられたアスクレピオスは、畳の上を転がり、消えた。哀れ。

 何のために出て来たのか。完全に役立たずであった。

 これで、少女の身代わりは消えてしまった。

 容易く邪魔者を排除し終えた風音は、押さえ付けた少女の犬耳に息を吹き掛けた。


「あらあら、こんなに服を乱されて…僭越ながら、直させて頂きますね」


 ピクンと立った犬耳を愛おしそうに見詰め、徐に唇を開く。


「よいしょ…っ」


 咥えた。

 少女が小さく声を上げ身動ぎする。

 両手の拘束を外し、少女の隣に横たわると、視界に入った髪を耳の上へと搔き上げた。

 犬耳ばかりというのも退屈なので、唇を触れさせたまま首筋へと下がる。

 そっと舌で舐めると、また小さく声が聞こえた。

 こうして少女の弱点を攻めるのを、今回の旅行で何度したであろう。数か月分の貯金を全て使い切ろうとしているようだ。

 舌で触れ、唇で触れ、吸い、一旦離す。

 熱中していた。一連の流れの間隔が短くなり、肌に吸い付く強さが増していく。

 そんなことを繰り返していると、オルレアの肌に紅い痕が残り始めた。

 紅化粧ーーー痕を綺麗と思ってしまい、小さく頭を振った。

 霞みがかったような視界に入る少女は、眥から滴を一滴零し呻いている。少女の身体に起こっている変化を綺麗事で片付ける訳にはいかないーーー変化を起こさせている犯人がまさか、自分自身だと気付いていないまま、異常の原因を探した。


「…御熱があるかもしれませんね」


 それは少女の紅潮した肌と、微かに乱れ始めた息を通じての発言だった。

 お酒が入り過ぎて酔っ払い、少し騒がしくしていたので落ち着かせると、突如眠ってしまったオルレア。浴衣を着崩して眠っているものだから、風邪を引いてしまわないか心配で、整えた。そんな時、荒くなっている息と紅潮した肌を見て、発熱の可能性を疑った。

 風音の発言にのみ着目すると、実は一貫性がある。彼女の眼には、現実の光景とは少し異なる光景が映っており、その中で羽目を外した少女に対し、彼女は「いつも通り」に接しているだけなのだから。

 そんな風音の思考回路は現在、どうなっているのだろうか。どうして謎の酔っ払い方をしてしまうのか。本人ではないために誰にも分からない。


「…温めないと」


 オルレアの身体が冷えているように感じた。触れる身体が、冷たい。

 だがそれは、風音の感覚。彼女の身体が知覚した、冷感。

 身体が熱を帯びたように熱く火照っているのは少女ではなく、風音。

 火照っているのは身体だけではない。頭の中が、まるで靄がかかっているように何かに埋め尽くされている。


「温めないと…弓弦様……」


 冷たい。

 身体が、冷たい。

 まるで凍て付いた炎が燃えているようだ。

 冷たい。触れているものが冷たい。

 温めねば。この人が冷え切ってしまう。

 でもどうやって温めれば良いのか。

 身体じゃ、足りない。

 もっと、もっと温めないと。

 ーーー魔法。


「あ…」


 火の魔法を使えば、温まるかもしれない。火の魔法を、温めることが出来る火の魔法を。「火」を。

 でも温めるだけで足りるのだろうか。

 こんなにも苦しんでいる。なのに、温めるだけで良いのか。

 身体が、辛い。

 苦しんでいるのをどうにかして癒してあげたい。でも、今のままでは苦しみを癒せない。

 どんなに体力があったとしても限界があるのだ。もしこれが単なる熱じゃなかったら、もしかしたら、このまま「彼」が壊れてしまうかもしれない。

 癒せない苦しみを癒すには。

 ーーー分かち合えば良い。


「あ…あ……」


 反響する、あの日の言葉。

 「一人で背負う必要は無い」と言った、小さくなった「彼」の言葉が、頭の中に溶けていく。

 そうだ。共に背負えば、互いに苦しみを癒せるかもしれない。

 そう、この苦しみ(・ ・ ・ ・ ・)をーーー


ーーーゴーン。


 時計が、音を鳴らした。


「っ!?!?」


 風音はハッとし、時計を見る。

 時計は、零時を示していた。


「……」


 まさか、もうそんなに時間が経っていたのか。

 従業員が布団を敷きに来ると思っていたのだが、そうではないらしい。


「…何だったので御座いましょう」


 夢を見ていたようだった。

 仁が帰ってからの記憶が朧気で、ハッキリとしない。

 ただ覚えているのは、「あの日」の出来事を思い出していたことだ。

 英雄に対する尊敬の念が、別のものに変化したあの日の。「家族みたいなもの」と「彼」が拙い口調で伝えてくれたあの時の。

 その日のことを思い出したのは、仁が話した「転移事故」と、「風呂」というワードが結び付いたためかもしれない。

 風音は回顧を止め、部屋にある押入れから布団を下ろす。

 下ろした布団は一重。別にそれ以上下ろす必要は無かった。

 机を退かし、オルレアの隣に布団を敷く。


「‘失礼します…ね’」


 そっと小柄な体躯を持ち上げ、布団の上に寝かせた。


「ん…にゃ……」


 少女は寝息を立て、身動ぎした。

 起こしてしまったか。少し心配になったが、起きそうな気配は無かった。

 勿論風音は少女の隣に滑り込む。

 熟睡する少女は愛らしく、見ているとどうしようもなく抱きしめたくなった。

 少女を優しく抱きしめ、風音は眼を閉じた。


「ーーー」


 意識を失う直前。風音がポツリと洩らした呟きは、闇に溶けた。

「え。(ここは…)」


「ささ、行ってみよーね♪」


「…知影さん、もう良いと思うんだけど…」


「駄目だよ。ささささ、私に青春のトキメキを堪能させてよ♪」


「え、えぇ…。そんなぁ」


「はい、ぴんぽーんっ。そしてダーッシュっ」


「あ、待って…(心の準備が…っ。でもに、逃げる訳にはいかないし…ぐ、うう…観念するしかないのかな…っ)」


「‘さぁて始まってまいりましたディオ君青春ドキドキ大作戦♪ 解説は私、影さんと。知さんが送ります最後の刺客はーーー!!’」


「(うわぁ…散々副隊長に振り回された所為か、ツッコミが欲しくて実況みたいなのしてる。…一人二役、ノリノリだなぁ)」


「はい…あら?」


「‘フィリアーナ・エル・オープストォォォォっ!!!! 略してフィーナ♪ さささささっ、ディオ君行っちゃってちょーだいっ♪ いやー、期待が膨らみますねー’」


「こ、こんにちは……」


「‘ディオ君の第一声は『こんにちは』から始まりました。解説の知さん、どう思いますか? いやー、無難な挨拶ではありますが、少々面白味に欠けますねー’」


「(面白味って……)」


「‘ですがこれは正解の挨拶かもしれませんよー。何せ相手はあのフィーナですからねー。変な絡め手で攻めればバッサリですねー’」


「(はぁ…。弓弦は大変だなぁ。でも…やっぱりハーレムは羨ましい。だって…こんな綺麗な人に好かれてるんだもんね……)」


「ふふ、こんにちは。何か用かしら。あの人もセティも居ないのだけど」


「‘お、良いですねー。フィーナが作り笑顔を浮かべましたよ、知さん。いやー、上手くスタートダッシュ出来ましたねー。これが隊長さんやセイシュウさんだと、中々見せてくれませんからねー、作り笑顔’」


「(作り笑顔って…知影さんはこの人のこと嫌いなのかな。作り笑顔には…見えないけど)…あ、えっと…」


「‘おーっとディオ君、ここが肝心だー! いやー、どんな攻めを見せてくれるのでしょうかー。楽しみですねー’」


「(…あ、部屋から良い匂いがする。ご飯作っているのかな……。)その…特に用と言うものは「あっ!?」…?」


「‘おーっと、フィーナが部屋に入って行きましたねー。かなり慌てていましたけど。いやー、本当に随分急いでいましたねー。…あ、戻って来ましたよ」


「急に悪いわね。今、夕飯の準備をしているから少し立て込んでいるの」


「‘あ’」


「…知影ったら、夕飯の買い出しを放ってどこに行っているのかしらね。子どもじゃあるまいし…もぅ」


「あ、はは…どこに居るんでしょうね。(ちょっと知影さん……じー)」


「本当に、どこに居るのかしら。気分で任務ミッションに行って時間が掛かっているのだとしたら、少し心配ね…」


「‘ごめんごめん…すっかり忘れてた☆ でめ…心配させちゃったか。後で謝らないとね…’」


「(何故だろう。わざと忘れていたようにしか思えないや)…心配なんですか?」


「えぇ、そうね。巻き込まれているであろう誰かが心配。ユヅルが居ないから誰が巻き込まれているのやら……」


「‘え、そっち!? そこは私の心配とか無いのっ!? 酷くないっ!?’」


「あはは…そうですね。(僕です…それ今の)」


「…話が逸れたわね。ところであなたは、何をしにここに来たの?」


「え…。(本当、僕何をしに来たんだろう)」


「…先に言っておくわね。用が無いのなら帰りなさい…と言うしかないの。冷たいことを言うようだけど、これ以上夕飯の支度を遅らせると、セティの帰宅に間に合わないわ」


「あっ、す、すみません……」


「謝るより先に、答えを聞かせて。時間が無いの」


「(え…こ、答えと言っても…何を答えれば良いんだ? オープスト大佐は何を答えとして求めているんだろう。…ど、どうしよう。オープスト大佐は知的で落ち着いたお姉様な人だから…こっちも大人な雰囲気で……!!)」


「‘大人な雰囲気ぃっ!? 無理だよディオ君じゃ…!! って、意外とやる気になってるっ!? まさか…フィーナを大人な男風に口説こうとしてるぅっ!?’ 「ぐぅぅ」…って、あ」


「あら」


「う…(…って無理だぁっ。お腹鳴ったし……っ)」


「‘おーっとディオ君やってしまったぁぁぁぁっ。いやー、これでは大人な雰囲気とな程遠いですねー’」


「ふふ…そんな気はしていたわ。食べに来る?」


「‘良い風に転んだっ!? まさか、まさかフィーナが部屋にあげるなんてっ!! いやー影さん、これはもしかしたらあるかもしれませんねー’」


「(ここで逃げるのも…変だし、観念するしかない…ね…ぅぅっ)…はい」


「‘ディオ君ナーイスっ♪ 友人の同居人である異性と、二人っきりのシチュエーション! これはラブコメの香りを禁じ得ません! ですよね知さん! いやー、全くですなー。…と、コホン。さてはてはてさて、予告、いっくよー♪’ 『ク…我だ。バアゼルだ。朝陽と較べ、大禍時、宵闇の何と妖しきことか。闇に動き出すのは、生物としての魔物だけに非ず。魔物ざる者の中に巣食う闇も又、魔物と呼ばれる。…同じ魔物でも、より恐ろしきはーーー次回、湯煙旅と宵闇の悲鳴』…ふと思ったんだけど、私これからどうやってディオ君の遣り取りを観察すれば良いんだろう。…うーん、ま、何とかしよっと」

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