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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
女二人湯煙客旅編
291/411

湯煙旅と婚前旅行

 画面越しに雲を眺め、そして今、実際に目の当たりにする。

 雲は薄く、切った際に掻き消えてしまいそうであった。しかし、一度、二度と切ってみたものの搔き消えることはなかった。

 黒天の世界。月夜に照らされながら、神鳥かむどりは空を駆けていた。

 主から暫しの暇を出された彼は、雲の先、彼方の空を目指している。その途中、様々なものを見たりした。

 今は、硫黄の香りが強く香る火山の上空を飛んでいる。

 黒煙が立ち上る火口は、『ユドコロ』よりも遥か東の地にて存在していた。火山灰に当てられたくなかったアスクレピオスは高度を上げ、灰雲の雲海を見下ろした。

 二橋の雲は、雲海の上に掛かっていた。橋雲と同じ高さにまで上昇すると、並走する形を取る。

 彼方の空は、まだ遠い。高速で飛行しているが、このままでは世界一周をしてしまいそうだった。

 続く雲海に眼下の視界が埋め尽くされていたので、身体から魔力(マナ)を発した。

 魔力(マナ)は風となる。風が唸り、刃となる。雲は切り裂かれ、地表が露わになると、見えたのは赤。

 それは灼熱の赤。黄と混じった色は、炎の紅葉か。

 そうか、まだ火山は続いていたのか。遠方から見た時は分からなかったーーーこの火山、東へ東へと続いているようだった。

 一旦火山の全貌を明らかにしてみようと、成層圏付近にまで上昇する。

 アスクレピオスは翼を広げ静止すると、周囲から風の魔力(マナ)を集めた。

 世界を駆け巡る風の一部が、身に集っていく。下方の雲に渦を巻かせ、擬似的な竜巻が起こった。

 風が集うに従い、瞑目し、意識を集中していく。徐に閉じられていく翼はさながら引鉄のようだ。


「ハァッ!」


 裂帛の気合と共に翼が広げられた。

 羽先に集った風は全てが刃。衝撃波。

 縦一閃。雲海に風が、鋭く走った。

 線のように細く走った軌跡は直後、左右に大きく広がり雲を散らした。

 広がった地表の光景は、大きく口を開けた煉獄景色。

 巨大火山と呼称するのが正しいだろう。街一つを飲み込んでしまうような火口に、何かを感じた。

 それは何か。それは、謎だ。ただ判るのは、火口の底に、何か大きなものが眠っていること。強く、途轍も無い存在が、静かに息を潜めている。

 これ以上接近すると刺激する可能性がある。大事を取ってアスクレピオスは迂回ルートを取った。

 この火山には何が眠っているというのだろうか。邪悪なるものであるのか、それさえも窺い知ることが出来ない。

 後で主に伝えるべきであろうか。いや、確信の持てない、信憑性の無い情報で主を惑わせるのはいけない。どうせ伝えるのなら、より確実な情報を伝えなければ。

 判断する材料が足りない。そもそもこの火山の名は何だ。もしかつて耳にしたことがあるのなら、そこから何かが分かるかもしれない。

 アスクレピオスは再び瞑目した。

 身体を撫でる風に耳を傾け、その声を聞く。

 火山一帯に吹く風。火山の熱気に包まれ続けた風が語る、かつての記憶。


「…ふむ」


 風の声を聞いたアスクレピオスは唸った。

 やはり寄るべきではない。そして、やはり語るべきでもない。

 時がいずれ結果を弾き出してくれる。それを今は信じようではないか。彼は火山を通り過ぎ、更に東へと向かった。

 すると、魔力(マナ)の流れに変化が生じた。


「…この火山の中心が、文字通りの境目か」


 肌で感じる風に、先程よりも魔力(マナ)が強く感じられる。魔力(マナ)の流れが良い側へと移動したのだ。

 予想通りだった。火山等の所謂シンボルとなる場所は、魔法の目印として用いられ易い。

 火山は特に、星の地核に近い場所だ。火の|魔力と土の魔力(マナ)が空間を支配し、多くの精霊達が住まうといわれている。魔力(マナ)が集う地点の一つでもあるのだ。目印として使われるのも当然か。

 境目を越え、魔力(マナ)の豊かな空にアスクレピオスは羽ばたく。

 やがて街が見えた。

 看板が見えるーーーが、良く見えない。字が細か過ぎて読むことが出来なかった。

 街の人の生活も見えないが、平和そうだ。風が穏やかだった。

 街の様子をもう少し見てみるのはどうだろう。しかし、雲の先はまだまだ続いている。

 一体どこまで続いているのだろうか。そろそろ気が遠くなってきた。


「く、其方がその気ならば…!」


 だが、一度目指したものを途中で諦めてしまうなど、神鳥かむどりの名が泣いてしまうように思える。

 まだ、諦める訳にはいかないのだ。

 雲の先を目指して、アスクレピオスは夜を切り裂くのだった。


* * *


 時刻が八時になった頃。

 オルレアと風音は、何のことはない世間話に花を咲かせていた。

 風呂のことから始まり、料理のことに続き、セティを始めとした周りの人間のことを経て、これからのことへ。

 何気無い会話の遣り取りだった。しかしそんな会話の遣り取りが、とても楽しくて仕方無かった。

 基本はオルレアが話し、風音が返すというのがスタンスだ。聞き手となることの多い風音であったが、彼女の笑顔が絶えることはなかった。


「もう本当、皆喜んでくれると思うっすよ! 早く完成させたいっすよ」


 今は風呂についての会話が行われていた。

 この旅行から戻り次第直ちに製作に取り掛かる浴槽。風音曰く、基本構造の構想は出来上がっており、完成すれば間違い無く自信作とのことだ。

 だが、『アークドラグノフ』内に新しい部屋自体を作らなければならないため、問題として大きなウェイトを占めるのはそちらの方だった。

 場所が無ければ、作るしかない。弓弦の時に最悪、空間魔法を使うことも考えてはいたが、出来ればしたくはなかった。

 自室にある温室だけでも、魔力(マナ)は相当量消費されている。一程度の休息を摂れば粗方回復する魔力(マナ)だが、空間維持のために常時消費される魔力(マナ)のことを無視する訳にはいかない。

 この期に及んで、もう一箇所分魔力(マナ)による空間を追加しようがものなら、アスクレピオスを身に宿すことによって増えた魔力(マナ)を全量用いることになる。

 形成する空間の規模にもよるが、空間維持のために常時消耗状態というのは避けたい。空間維持のためには自分の魔力(マナ)に、一定の制限を設けなければならないからだ。

 因みにそれは、基本的に待機組に回した悪魔達に渡してある。どうせ一定量の魔力(マナ)を残しておくなんて芸当は、いざという時に難しいのだ。ならばそもそも、最初から持たないようにすれば解決なのである。悪魔達を全員連れ出した時は、フィーナに頼んでおけば問題無い。彼女の中にも弓弦の魔力(マナ)は流れているので、一時的な維持ぐらいは可能なのだ。

 『自ら枷を嵌めている貴様のうつけ振りにはつくづく呆れる』とはバアゼルの言だ。

 確かに馬鹿かもしれない。凄まじい魔力(マナ)消費が無ければ、もっと簡単に終わらせることの出来た戦いも多くあっただろう。それは認める。

 「それで良いんだ。ま、何とかなる」が、弓弦の返答だった。

 変に強過ぎる力を持っているのは性に合わない。死ななければそれで良いのだと、その時弓弦は笑った。

 覚悟の笑み。バアゼルはそれ以上何も言わなかった。


「そうで御座いますね。きっと皆様の御期待に応えることが出来るかと」


「あ〜、楽しみっす♪ でもどれぐらいで完成する感じっすか?」


「そうですね…知影さんやフィーナ様のようには参りませんので…一夜城と言う訳には参りませんね」


 それはそうである。

 一日で小屋を、浴槽を完成させることは普通に考えてあり得ない。しかし、それを可能としてしまったのが知影の天才振りなのだろう。彼女の超人的なスピードには時折、眼を見張るものがあったのだ。

 風音はその時の彼女の手際を知らない。帰って来たら全て終わっていたーーーその日の感想は一言に尽きた。


「ま、弓弦も手伝ってくれるっすよ。二日で何とかしてくれると思うから、そこは大船に乗ったつもりでドーンっす♪」


 大船で乗ったつもりでドーン。謎の表現である。

 得意そうなオルレアに対し、風音は少し苦笑した。

 気分を害してしまうかもしれない。しかし、言わずにはいられないことがあった。


「…僭越ながら、弓弦様に檜加工の心得は御ありなのですか?」


 「ふぇ」と、虚を突かれたようなオルレアの表情を見て、察した。

 可愛い。もとい、駄目だ。

 自分の思考も駄目であったが、この様子では右も左も分かっていないだろう。


「な、何とかするっすよ〜? ほらボク手先器用っすから〜?」


 大船は、氷山待ったなしな豪華客船のようだ。

 加工においては頼るまい。動揺しっ放しなオルレアを見て風音は確信した。


「後、皆に訊くことも出来るからっ。(バアゼル、知ってるよね?)」


『知らん』


 何故に悪魔が風呂の造り方を知っていないといけないのか。

 蝙蝠悪魔は食い気味に否定した。


「(悪魔なのに、知らないっすか?)」


 悪魔だから知らないのだ。

 少女の中で、悪魔とは一体どんな存在になっているのか。

 まさか雑学王とでも認知されていようがものなら、甚だ遺憾だ。

 亀の甲より年の功と人間の諺にあるが、だからといって全てを知っている訳ではない。


『諄い』


「必要なのは技術。知識はそれに伴う形でのみ必要ですので……」


「ぐはっ」


 一人と一悪魔に見放された少女は机に突っ伏した。


「オルレア様はもう十分頑張られましたよ? ですので仕上げは私が…あら?」


 音が聞こえる。


「…ん?」


 襖を叩く音に、オルレアは声を上げ、風音は視線を向けた。

 「どうぞ」と促すと、襖が横に動く。


「「こんばんわ〜」」


 声は二人分。それぞれ男と、女のもの。

 突然の来訪であった。オルレアと風音は眼を丸くする。


「突然お邪魔してすみません。あの、お昼に蜜柑を大量購入していた方々ですよね?」


 女性は自らを「有馬ありま 晴美はるみ」と名乗り出た。

 続いて男も自らを、「草津くさつ 雄一ゆういち」と名乗った。

 婚前旅行でここを訪れたらしい二人は、街で見掛けたオルレア達のことが気になってわざわざ訪ねて来たようだ。


「婚前旅行で…わぁ、素敵っす♪ じゃあお二人は結婚をされたんすねぇ♪素敵っす…♡」


「そんな、オルレアさんもその若さで結婚されているなんて…遊ばなくて大丈夫?」


 晴美はすぐに二人の輪に交じった。

 自己紹介の後に彼女が注目したのは、少女の薬指で輝く物。

 恐る恐ると訊かれた正体に少女は、少し照れ臭そうに答えた。

 眼の前にある象徴に、闖入者が食い付かないはずがない。晴美は眼を輝かせながら少女に詰め寄った。

 年齢から、いつ結婚したのか、子どもは居るのか。質問攻めが続いている。

 雄一は「止めなよ晴美さん」と彼女を諌めているものの、彼の眼も輝いている。結婚という人生の大舞台を前に、緊張と期待とが複雑に入り混じった心境が、先達者による助言を求めているのだ。

 行動で迫る晴美、雰囲気で迫る雄一に押される少女が、先程よりも顔を赤くした。

 バアゼルは少女のサインに気付いていた。照れながら、思考を巡らせているサインで、思考回路がショートしかけている合図だ。


「…好きになっちゃったら、仕方無いじゃないっすか」


 バアゼルが茶を啜る音がオルレアの脳内に響いた。


『(貴様は乙女か)』


 茶と共に言葉を飲み込み、嘆息した。

 それをどうして弓弦の姿の時に言わないのか。

 風音も複雑そうに少女を見てそっと眼を伏せた。演技をするのが悪い訳ではないが、せめてその言葉を弓弦の時に、自分に言ってくれればーーーそんな夢物語が瞼に浮かぶ。


「そりゃー遊びたいっすよ。若いし! ねぇ風音、そうだよね? 若いもん」


 若さが売りな十五歳に突然振られ、「はい」と答えてしまう。

 若い内は遊ぶのも良いかもしれない。その分、いつかは身を固めたりする等して落ち着く必要性が出てくるが。異論はあまりなかった。


「あなたは結婚されているのですか?」


 晴美の興味が向いたのか、話は風音へ。


「いえ、私は。…御恥ずかしながら」


 結婚していないと答えると、それはそれで晴美は眼を輝かせた。

 彼女の口から発されるであろう質問は、恐らく「どうして結婚していないのか」、だ。


「…そう申されましても…。御相手が居ない以上、仕様が御座いませんよ」


 言いながら、オルレアを一瞥する。

 自然に視線が少女を捉えていたので、風音は無意識だった。

 何かに気付いたように、晴美が小さく息を呑んだ。風音の視線の意味を勝手に察した彼女は、理解のありそうな様子で話を切り替えた。


「そうだよねェ。じゃあさ、何か街で良い所見付けなかった? ほら、ここがお勧めって言うお店? 折角来たんだから街を満喫したくって」


「…でしたら、通りを少し街の入口側に歩いた所にある甘味処は如何でしょうか? 蜜柑大福が美味しいですよ」


 少し考える。

 この街に入ってから訪れた店。悪くはない味ばかりであったが、いざ人に勧めるとなると、甲乙を付けなければならない。

 風音は今日訪れたばかりの店の片方を紹介した。

 この街の特産品である「湯処蜜柑」が丸ごと入った大福が目玉の店だ。


「へぇ、それは良い! 蜜柑だってさ晴美さん!」


 食い付いたのは、ガールズトークの外に居た雄一だった。

 その反応通り蜜柑が好きなようで、未知なる蜜柑大福の存在に心を躍らせた。


『此の人間、彼の味の好さが解せるか。中々の切れ者よ』


 案の定バアゼルが反応した。

 蜜柑が絡めば途端に態度が変わることの多い悪魔は、蜜柑に理解ある人間に対し素直に賛辞を贈った。賛辞である。

 堅物悪魔の賛辞が随分と安っぽくなったものだ。苦笑した少女が謎の寒気を感じたのは、地雷を踏み抜いたためか。


「大福かぁ。そう言えば食べてなかったし、明日行ってみようかな。観光地に来て特産品食べないのって、ちょっとした失礼だものね。行こっか、雄一君」


「賛成。『湯処蜜柑』って言ったら、異世界三大蜜柑の一つに数えられているぐらいだから、きっと絶品だ」


 晴美と雄一は話を重ね、翌日の予定を組み立てていく。

 朝起きて、街のどこかに行って、街を出てーーー実に実りのありそうな内容ばかりだった。何より二人の笑顔はこの上ない程の幸福に満ちていた。

 そして一通り話が纏まると、二人して向き直った。


「ごめんね〜、話聞いてもらっちゃって。でもお蔭様で色々参考になったわ」


「女性は甘い物に詳しいって良く聞くけど、本当だった。明日、一番にそのお店に寄らせてもらうよ。ありがとう」


 感謝の言葉と共に、二人は部屋を去って行った。

 お似合いのカップルーーーかどうかは判断が付かないが、二人は恐らく幸せな明日を送るのだろう。

 襖が閉じられてからも、風音は暫く誰も居ない空間を見詰めていた。

 二人が去り際に見せた戸惑いに近い表情。それは何かを逡巡しているようであり、迷いの対象は自分達に向けられていた。

 まるで何かをしようとしていたかのように見えたが、何をしようとしていたのか。

 そこはかとなく不安を覚えるのはどうしてなのだろう。まだ、雲の凶兆を引き摺っているのか。


「そろそろお酒頼んじゃおうっすかねぇ」


 風音は数秒の瞑目の後、オルレアの言葉に同意するのであった。

「せやぁぁぁぁッ!!」


「…っ!! はぁッ!」


「‘はぁ…とうとう戦い始めちゃったよ’」


「っっ! (流石副隊長…全く隙が無い!!) だったらこれで!!」


「…そう直線的にッ!」


「そうかな!?」


「ッ!? フェイント!?」


「もらったよ副隊長!! これでぇぇぇッ!!」


「…その程度の切り返し!!」


「ッ…!」


「…対応してみせる…!」


「‘おおー! フェイントを使った反対側からの逆袈裟に、剣を左手に持ち替えて反応した。間一髪…? いや違う、ディオ君の本命は!?’」


「ッ!!」


「‘蹴った!?’」


「いくよッ!」「くっ!!」


「‘からの、離脱!? ディオ君、いつの間にあんな強くなってたの!? しかもあの腰を落とした、悪を即斬っちゃうような構えは…まさか!?」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


「っ! …この加速…これが狙い!!」


「せぇぇいッ!!」


「ッッッ!!!!」


「‘避けたッ!? 身体を少し逸らすだけで!?!? 擦れ違い樣に斬り付けるまでのおまけ付き!? な、なんてハイレベルな戦いなの…っ!’」


「がっ!?」


「‘これ、予告でやって良いようなレベル!? ディオ君、身体をバッサリやられちゃったけど…セティとあそこまで戦えているなんて…成長しているなぁ’」


「(は、はは…副隊長……強いなぁ……)」


「全体的には良い攻撃だった。…でも、最後の刺突…まだまだ踏み込みが足りなかった」


「‘あぁでも、踏み込みに迷いがあったんだ…。ふーん…言われてみればもう少し速度出せたかもだけど…あれ、セティちゃんの下……?’」


「…? つッ!?」


「‘あぁっ!? セティの腕に地面が刺さった!!’」


「(…でも、終わりじゃなかったんだ……よね)」


「“アースグレイブ”…?」


「‘そっか。本命はあの岩槍。ディオ君、セティにわざと避けさせたんだ…結局自分が避け切れずにやられちゃってるけど…あ、気絶した’」


「ルクセント君…凄い成長してる」


「‘うわぁ…魔法が直撃したのに、ダメージ全然受けてないよ’。…どう見ても刺さってるのに」


「ダメージは受けてる」


「受けてるんだ。…って、わっ。セティ…私のことは無視してても良いのに」


「…そんな冷たいことはしたくない。…それよりも、ルクセント君の戦い…見てた?」


「そりゃ勿論見てたよ。あの走り突き、セティが教えたの?」


「…? …どうして分かったの?」


「いやだって…っぽいもん」


「…何か、恥ずかしい」


「ううん…恥ずかしいかぁ。と、それより、訊きたいことはそんなことじゃないよね。凄かったねぇ、ディオ君の戦い方」


「…気付いていない?」


「うーん?」


「…相手の不意を誘うような戦い方とか…斬り付けからの素早いステップで踏み込んで来るところ……似てた」


「似てたって? ……まさか、弓弦?」


「…コク。…あんな戦い方は教えてない。…だからアレは…ルクセント君が自分で考えてやってる戦い方」


「…弓弦の戦い方かぁ。そう言えば大分前にそんな戦い方をしたね。第六話ぐらい?」


「…第二章第四話。弓弦が初めて模擬戦闘をした時」


「あー!! 懐かしいねぇ♪ …ってセティ、その時艦に居なかったよね?」


「細かいことは気にしない。…やっぱり…弓弦の戦い方をしていたんだ」


「そっかぁ。弓弦の真似かぁ…。ディオ君が何か可愛く見えてくるかも」


「…?」


「何か初々しいと言うか…えっと、弓弦が自分の子どもに真似されてる光景を見ている…みたいな、微笑ましい感じ。…で、そして私は彼の妻!! その子どものマーマ♪ ふふふっ♪」


「……」


「ふふふふふ♪」


「……」


「ふふふ…? セティ? そんな眼をされても私は感じないよ? フィーナじゃないし」


「…知影…変態?」


「変態じゃないよー。ただ弓弦が好きなだけなんですー」


「…。ふーん」


「えぇ…」


「予告…言お」


「えぇぇ…何かサラリと無視されたような気が…」


「『オルレアっす。だぁぁぁっ!! もうどうしてあの男は人を貶すんすかっ。飽きずに何度も同じことばっか! ば~~っか!! デリカシー無さ過ぎっす! 最低っす!! 大嫌いっす!!!! 風音と知り合いか何か知らないっすけど、馬鹿にしないでほしいっすーーー次回、湯煙旅と犬猿仲?』…じゃあ私の出番はここまで。…ルクセント君をよろしく」


「えっ。あっ…ぅぅ、何か終始振り回されっ放しだったなぁ。凄く弄ばれた気分。…セティ、恐ろしい子」

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