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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
04771を求めて…編
263/411

求めよシテロ! かつての友の真意!!

【え、お別れ…なの?】


 ずっとこの夢の中に居たかった。


「私達は」


「僕達は」


 同族じゃないのに、私を「私」として接してくれるこの子達と。ただ「らしからぬ日々」を過ごしたかった。


「「本当は同じ場所には留まらない存在なの」」


 風が吹く。

 この子達の不思議の一つのこの風…私、地の悪魔だけど好きなの。

 清らかで…涼しいのに温かくて。鋭い風はあまり好きじゃないけど、この子達の優しく包むような風は、好きだったの。


「誰かの想いを風に乗せて」


「誰かの願いを風に乗せて」


 …誰かのために? 良く分からない感覚なの。


「「運ぶ存在なの~」」


 だって、今の私が緑のために何かをしようとしても、皆枯れちゃうから。私が、「在る」だけで枯れちゃう。

 こんな残酷なことって、ない。

 でも…もう、涙も流せない。

 流せる涙は…何千年も前から枯れ果て、干上がってしまった。


【じゃあ私も付いて行こうかしら。『アスクレピオス』は速いけど…何とか追随してみせるの。色んな異世界を冒険して、二人の手伝いをする。良いでしょ?】


 流す涙はないから、笑う。空々しく笑う。

 笑って、逃げる。過去のものにする。

 でもそれが出来るのは、今この時だから。


「僕達が旅をするのは、数多の異世界。色んなヒトが居て、色んな生き物が居る。アシュテロが危険に晒されちゃうかもしれないの」


「私達が旅をするのは、無数の可能性。平和な世の中もあれば、戦乱の世の中もある。凄く危険なお仕事なの」


 戦いは好きじゃないけど、出来る。

 私は『萠地の然龍』…悪魔が一柱、地を司りしモノ。命を屠ることなんて、造作もない。


【大丈夫。私、簡単には死ねないから】


 私一悪魔を倒す前に、世界を一つ道連れにする。

 地殻を破壊してしまえば、その世界はおしまい。世界線上から消え去ってしまう。


「「戦っちゃ駄目~」」


【…挑まれなかったら戦わないの。自衛だけに努めるもの】


 邪魔になったら消す。だから、邪魔しなければ消さない。

 世界もヒトも、緑も…消す。

 緑…どうせ私が近くに「在れ」ば枯れちゃうから。関係無い、情けは無駄。

 枯れる姿を見るぐらいなら、見る前に消し飛ばす。それで良いでしょ…?


「それでも、駄目なの」


「アシュテロが傷付く姿を見たくないから駄目なの」


 私は…傷付かない。

 容易く傷付くような身は、心は、遠く、果てしなく遠い昔に失くした。


「「駄目駄目、駄目なの~」」


【私が…悪魔だから?】


 今の私は、悪魔。


【私が悪魔だから、一緒に行けないのっ!?】


 二人みたいに、希望を運ぶような存在じゃない。

 寧ろ、その逆。絶望を運ぶ存在。


「「違うの!」」


 別に希望を運ぶ存在に憧れている訳じゃない。

 ただ二人と一緒なら、深い微睡みの中に居る必要が無いって、そう感じているから付いて行きたかった。


「あぁそうさ。お前は悪魔さ、アシュテロ」


 知ってる。

 私自身が誰よりも…知ってるの。


「「アスクレピオス!?」」


 …そもそもおかしかった。

 悪魔は孤独と共に生きる存在だから。

 そう…おかしかった。


「主達もハッキリ言った方が良い。邪魔だと」


 空から降りて来たアスクレピオスの言葉は、きっと正しい。

 結局、邪魔。二人にとって、私は。


「邪魔じゃないのっ! ね?」


「うん、邪魔な訳ない! アシュテロと居られて本当に楽しい!」


「主達は優し過ぎる! 主達の役割は運び手だ! それは光の運び手であって闇の運び手ではない!」


 そう。二人は絶望の運び手じゃない。

 ヒトに在ることを願われ、光の中に生きる者達ーーー精霊。それも高位の。

 ーーー私とは、共に「在れ」ない存在。


「「でもっ!!」」


「元が如何に高名な存在であろうと、例え元が神であろうと! 今は瘴気を纏いし悪魔が一柱! 命ある者等が最も恐れる負の存在! 何れ大きな災いを招く!!」


「「でもでもっ」」


「私は主達のために提言しているのだ! 何故分からないッ!?」


 …。


【もう、良い】


 耳障り。

 アスクレピオスは頑固。一度言い出したら滅多なことでは認めてくれない。

 私は…もうこの二人と一緒に居てはいけないんだ。


【二人には大事なお仕事がある。そのお仕事は二人にしか出来ない大切な役目。…もう私には、出来ないことなの】


「「……」」


 希望を運ぶお仕事。

 未来を創り出すお仕事。

 私には、どちらも、何も出来ない。

 止められる理由も…無い。


「ごめん…ね……っ」


「アシュテロ…ごめん……」


【良いの! 丁度起きているのも疲れていたところだから。これを機にまた眠りに就くことにする。気にしないで】


 そして次に眼覚めた時にはもう…。


【早く行くの!】


 逃げるように二人の下から離れて行く。


「賢明な判断、深く感謝する」


 擦れ違いざま、アスクレピオスの言葉。気を遣ってくれたのが分かるけど、とても不憫な心地になった。


「では主達。参ろう」


 大きな羽音と共に、アスクレピオスは飛び発った。

 背中に乗る二人からは、その姿が見えなくなる直前まで謝罪の言葉と共に私の名前を呼ばれていた。

 これで、一人。

 次に眼覚めた時にこの身体は、より濃い瘴気を身に纏っている。

 …より多くの緑が、より多くの範囲で、私の所為で枯れる。

 …嗚呼。私の意思とは無関係に起こってしまう悲劇…。

 もう、見飽きた。だから眠りに就こう。深い眠りに就いて、微睡みの中で時を忘れよう。

 …そう、永遠に。












 ーーー風が冷たいの。


* * *


 あれから何千年が経ったのか。

 瞬き一つで国が栄枯盛衰する悪魔にとって、時の流れ程無関心なものはなかった。

 古く焼けた記憶アルバムの中の思い出(ページ)が、風に煽られ捲られていく。

 長きに渡る微睡みの中で見失ってしまった断片は、渦のように混ざり合い、行き先を照らす。

 照らされた先ーーー天に向かって駆け上がる。

 過去への回想に浸っていたシテロは、頭を振ってから加速した。


「(居る…!)」


 背中に、全霊の力を込めて。


「(あの先に!)」


 唸る音と共に、冷たい黒風を凪ぎ、その先へと進めたのは。


「(確かめなきゃ!!)」


 吹き荒れる風の風上を、確かめたかったから。


「ねぇ! 二人なの!?」


 竜巻の中を進み、中心部へと辿り着いた。


ーーーキェェェェッ!!


 そこにダスクレピオスが迫る。


「っ!?」


 唸る風が、刃となりシテロに襲来する。


「(駄目っ、速過ぎるの!!)」


 全方位から飛来する魔法を一撃でも直接受ければ、命は無い。

 しかしそう分かっていても、反応出来る程の万全の状態ではない。


「(ユールっ)」


 夢中のあまり、地上に置いてきた弓弦の名を心の中で叫ぶ。

 彼にもう戦う力が残されていないことは、分かっている。分かっていて、こんな酷い無茶をしているのだ。

 その報いだろうか。


ーーー待て。


 風の刃が、止まった。


ーーー懐かしい顔じゃないか。


「…!」


 懐かしい声が、上から聞こえた。

 弾かれたように顔を上げると、そこには。


【ダスクレピオスが騒がしいと思ったら…成程、道理で】


 ダスクレピオスの倍はある巨大な黒鳥が、翼を広げていた。

 否。黒鳥といっても、それは鳥の姿をしていない。

 胴部から伸びた首は、二つ。二又に別れた首は、片方が紅く、片方が黒く染まっている。

 それぞれが隼に似た双頭は、まるで生物の生き血が形を成したように禍々しかった。最早異形の者と呼ぶ他なく、その全身から発せられる黒く、冷たい。


「あ、なたは…誰?」


 シテロの脳裏に浮かんだ二人の姿からは程遠かった。掛けられた声に至るまで、何もかもが。


【アシュテロ…随分と変わってしまって残念だ】


「…ティア、ニアン?」


【なんて弱々しい…。これが地の、『萠地の然龍』か】


 二人に対して一度も名乗ったことがない二つ名を、どうして知っているのか。

 過去から今に至るまでの長い時の中で、偶然知ったのか。偶然だとしても、異質だ。

 何故二つ名で呼んだのか、そしてこの痛いばかりの禍々しさの理由はーーー


「…そんな」


 ーーーこの異質性を彼女は、知っている。


「そんなっ、どうしてあなた達がっ!!」


 知らぬはずがない。分かってしまうのだ。

 気配で、魔力(マナ)で、どれ程受け入れ難くとも現実のものとして認めなくてはならない。


「ティア、ニアン! 何があったの!? 何があなた達とアスクレピオスを変えてしまったの!?」


 眼の前の存在が何かを指示すると、ダスクレピオスが降下して行った。


【…お前には関係の無い話だ】


「関係あるの、大ありなの!! 私に責任があるかもしれないから!!」


【…話は終わりだ。さて、お前達宛の贈り物だ】


 魔法陣が展開する。

 禍々しい構造だ。生じた風が濁り、黒くなる。


【我が名はティニアン。『死風の誘い手』、ティニアン。冥土への土産としてはもう十分だろう? 主と共に…消えろ】


 命を刈り取る黒風が、一斉に放たれた。


* * *


「ッ!!」


 暴風が、通過した。

 一閃による振動は、瞬時に濃縮され身体を持ち上げようとしてくる。


ーーーキェェェェッ!!


 …速過ぎだろっ。

 カザイとアデウスは、どうしてあんな奴と渡り合えたんだよっ。


「くそっ」


 動きが眼で追い切れない。

 数発撃ってみたが当たるはずもないし…どうやって倒せば…っ!!


「何か手は無いのかッ!?」


『あったら手伝っているのにゃ! 魔力(マニャ)が足りにゃくて顕現も出来にゃいし、完全にお手上げ状態にゃっ』


 旋風が駆け巡る最中、縺れようとする足を懸命に動かす。

 髪が数本もっていかれたか…なんて切れ味だ…っ!! 直接食らいたくはないが…ジリ貧…だよな…ぐっ。


「黙ってやられるしかないと言うのか!?」


 どうしてこうなった…!!


『起こった事を気にしていても仕方が無い。今は然龍に賭けるしかないのだからな……』


 話し合いでの解決か…。

 そりゃあ…賭けてはみたいが。


「…戦闘…起こっているみたいだな」


 上空でも風魔力(マナ)が爆発している。

 『死風の誘い手』…風の悪魔の魔法と見て間違い無いだろう。


『にゃはは。死ぬ時は一緒にゃ』


「お断りだッ!!」


 冗談じゃない! クロなんかと死ぬのは真っ平ごめんだ!!


『にゃあっ!? ひ、酷いのにゃっ』


 どうする?  反撃は当たらない。牽制も無駄。魔法は使えないこの絶体絶命の状況で、逃げる以外に俺に出来ることは…何だ? 何か無いのか?!


『……』


 シテロ…お前に頼るしかないのか…?


『弓弦! “テンペスト”が来るにゃ!!』


 “テンペスト”の範囲は、自分中心型。

 ダスクレピオスの位置は…?


「なっ真上ッ?!」


 最も危険な台風の眼から…逃げ切れるか…ッ!?


* * *


 靴が地面と摩擦を起こす。

 いつしか照明の無くなった舞台の壇上に砂埃が舞う。

 荒れ狂う舞の如き双撃の勢いに、男は押されていた。


「どうしたッ! 貴様の力はこの程度だったかッ!!」


 暗闇の中を二振りの線が照らす。

 男が動き出す直前、線が動いた。


「遅い! それで避けたつもりかッ!?」


「…!」


 男の動きに線が追随する。

 激しく打ち合う金属音。


「ハァッ!!」


 線が伸びる。

 次いで、爆発。


「っ」


 ーーーは、(フェイク)

 硝煙が立ち込める中、線によって男の得物が照らされた。

 銃声。闇を引き裂き線を弾き飛ばす。


「…遊びのつもりか?」


 男の腹部に衝撃が走った。

 足蹴りだ。


「『轟雷放つ剣(カラドボルグ)』ッ!!」


 空いた手に握られた紙に封印された剣が現われる。

 後退りさせられた男の喉元に剣先が向けられ、それが迫る。

 高速の踏み込みが驚異的な爆発力を生み出し、彼女を雷とさせた。


「雷よッ!」


 最高速に達した突きは紫電の如し。

 剣の軌跡に沿って連続で起こる落雷は、さながら神の雷。

 轟雷が暗闇を著しく照らす。

 一度、二度、三度、四度、五度、ーーー計、五回。

 だが実際にその回数を数え切ることは難しいだろう。

 轟音は耳にもダメージを与える。度重なる落雷は、男の聴覚を遮った。


「貰ったぞ! カザイ・アルスィーッ!!」


 踏み込みの音を聞き逃した。

 男にとっての痛恨の一撃が、切先によって作り出される。

 得物を交差させ、重なった部分にピンポイントで防御していた男の守りを、すり抜けた。


「……」


 刃が、男の首へと突き進んだ。

「この章もやっぱり長いねぇ……」


「…コク」


「一章一章掘り下げようとするのは良いんだけどさ。弓弦に色んな冒険があるのも良いんだけどさ。…何か、やだね」


「スポットライトが当たらない。…出番…無い」


「そうそう。出番無いって…ねぇ? 私達のファンにとっては辛いと思うんだけど」


「…安心して。多分…居ない」


「ぐさっ。…って刺さったよ今の言葉っ」


「…慰め」


「慰めじゃなくて止めになってるよ……」


「…優しさ。…場を整えるためには必要」


「いつ場の空気が悪くなったのかな?」


「…最初から」


「ねぇ、それも止めだよ」


「気にしない」


「私は割と気にしてる」


「…海のように広い心…かっこ、笑い」


「…。予告いこうね! あはは♪ 『王者があんにゃ笑い方をするにゃんて…これは嫌にゃ予感しかしにゃいのにゃ。…それは、良いのにゃ。にゃは。…だけど…心にゃしか…嫌~にゃ、予感がするようにゃ気が氏にゃくもにゃかったりするのきにゃーーー次回、立て弓弦! 風を切り裂いて!!』…悪魔にゃ。…だってさ」


「滑舌は意外と良い」


「…泣くよ?」


「子どもに泣かされる…かっこ、笑い」


「…弓弦…ぅ…この子…酷い……っ」

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