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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
04771を求めて…編
254/411

与えろクロ! 副属性の知識!!

「…ふむ、時間か」


 そう言ったバアゼルが腰を上げたのは、あれから暫くしてからの頃であった。

 その頃になると、地獄に片足を突っ込んでいた弓弦達はげっそりと痩けた顔をするようになっていた。


「‘……ぴー’」


 唯一疲れた表情を見せていないのはシテロなのだが、例によって彼女は小さく寝息を立てている。

 羨ましい限りだ。延々と説教をされ、頭が痛くなっている者からすれば、寝ている間に全てが終わっていることは夢のようなことに相違無い。


「…貴様が床に就いてから四刻だ。大概に休息を終わらせ、行動を始めねばな」


「…い、今からか」


 何が休息なものかと反論したいが、下手なことを言っても地獄が延長してしまう。

 探るように、それでいて一縷の希望を込めるように尋ねる弓弦に、眼光鋭い老人の姿を取っているバアゼルは、「何か云いたいのならば耳朶を貸さん事もないが?」と睨む。


「…何も…ありません」


 自然と敬語になる弓弦だ。


「…ほ、ほら弓弦。そうと決まったら早速行動にゃ行動。行動あるのみにゃ」


 クロは早くこの現状から解放されたいのか、弓弦を売り始めた。


「…まぁいつまでも休憩する訳にはいかないもんな。いい加減、動き始めるか」


 寝返りの早い猫に嘆息すると、身体が動くことを確認して立ち上がる。


「誰か付いて来るか?」


「我は些か、休息を摂る必要性を感じている。『凍劔の儘猫』、『空間の断ち手』、汝等の何れかが往くと善い」


 そう言うと、バアゼルは蜜柑が入った段ボールを近くに置いてから、蝙蝠の姿に戻って炬燵で寛ぐ姿勢を見せ始めた。


「…お前達はどうする」


 視線をクロとアデウスに向ける。


「…正座していて足が痺れたから無理にゃ♪」


「…き、キシャ」


 正座といっても、「正面に座る」意味での正座だ。所謂、長時間座り続けていると足の痺れを引き起こすような座り方をしていないので、二悪魔とも嘘を吐いていることになる。

 「疲れているから行きたくない」が正直なところであろうが、それは弓弦も同じだ。どうせならと道連れを増やしたい。


「……」


 視線に凄みを利かせる。


「…向こうに『紅念の賢狼』が居るだろう。彼奴に頼むか、其処で打ち眠る『萠地の然龍』でも連れて行くと善い」


「あ、あー、動けにゃい動けにゃい」


 取り敢えず、クロの尻尾を掴んでやりたい気分になった。


* * *


 眼が覚めた弓弦が身体を起こすと、バアゼルの代わりに見張りをしていたヴェアルが彼の方を見た。


「……」


 思えば、バアゼルに説教された理由はこの狼にある。ヴェアルが教えなければ、あのまま別のオチを付けて意気揚々と外に出られたものを。

 そんな視線を察したのか、ヴェアルは尻尾を振ると「現実は非情さ……」と視線の主の中に帰って行った。


「あ」


 シテロはもう少しミニサイズならばポケットに入れるなり出来たが、中途半端に大きいので連れて来ていない。ヴェアルに帰られ、結局一人になってしまった。


「(仕方無い…か)」


 立ち止まっていてはどうしようもないので、帽子を被ると洞窟の奥へと進んで行く。

 感覚的には実に、二ヶ月振りにこの場所を歩くということになるのだろうか。思えば、長く向こうで過ごしたものだ。

 身体に疲れは感じられない。

 こちらの時間にして八時間程地べたに寝そべっていたことになるのだが、節々の痛みも感じない。


「(頑丈になったもんだなぁ。俺の身体)」


 あまり野宿という野宿を経験したことはないので、もう少し身体に痛みを感じても良かったような気はする。痛みを感じたら感じたで愚痴ることになるのだろうが、それもまた冒険の良さに含まれることだ。


『弓弦』


 腰を手で叩き、肩を回しているとヴェアルの声が聞こえた。


「どうした」


『先を急ぐのは結構なことだが、魔法の解除を忘れている』


「っと、そう言えば」


 あまりに消費されていく魔力マナが少量であったためか、“バリア”の解除を忘れていた。

 腕を一振りして魔法の発動を解除し、他にも魔力マナを消費している要素が無いか確認する。


「(完全に忘れていた…無駄な消耗は避けておかないとな)」


 折角わざわざ休息を摂ってまで体力を回復させたのだ。些細なミスで無駄に消費してしまうのは勿体無かった。

 ヴェアルに感謝の言葉を伝えると、ふと不安になり被っている帽子に触れる。

 些細なミスで失ってはいけない物といえば、まずこの帽子だろう。


「(…まぁ、形見を失くすなんてもっての外、か)」


 “パーマネンティ”が繊維と共に編み込まれたこの帽子に助けられた場面は、多いだろう。魔法効果の効果延長効果が無ければ、ただでさえ苦戦していた相手に対して、命を落としていた可能性も大きく上昇するだろう。犬耳も帽子で隠せなくなるので悪いことづくめだ。


「(そう言えば、戦闘中にこの帽子が取れたことが一度もないな)」


 どうしてなのだろうか。

 この帽子を作ったらしい人物の娘からは、“パーマネンティ”以外の魔法名を聞いたことがない。


「何か思い当たることはないか?」


 悪魔達に問い掛ける。


『座標位置固定の魔法が確か、存在した。しかし何の属性だったか……』


 まず聞こえてきたのはヴェアルの声だ。


「念動属性には無いのか?」


 魔力マナによって対象の動きに作用する念動属性魔法。

  その中にならば、対象の位置を固定化する魔法があってもおかしいことはない。


『念動属性は、その名が示す通り、『動』の魔法。単に対象の動きを止めることは可能だが、別な対象の動きに合わせて止めることまでは出来んよ』


 帽子だけが動かずその場に止まる。そんなことでは攻撃を回避した際に、帽子だけが攻撃を受けることになりかねない。本末転倒である。


『氷属性の魔法にゃ似たようにゃことは出来るのにゃ。要はくっ付けちゃえば良いだけだしにゃ』


 氷でくっ付ける。悪くない案である。


「だが何か、違うような気がするな。氷属性じゃないんだろ?」


『違うな。氷属性ではなかった』


 確かに座標固定の魔法ともなれば、何か特殊な属性に分類されていてもおかしくない。


「…。座標、か。空間属性には無いか?」


『…似たような魔法はある。異なる位相に存在するモノを、“こちら側”に引き摺り出す魔法なら』


 それはまた、別の魔法のように思える。

 異なる位相に位置する存在との戦いーーーかつてアデウスと戦った時がそうだ。擦れた位相を合わせるには、大質量の衝撃を与えるしか基本的にはない。

 時と場合によっては大変便利な魔法だ。が、現状必要とはいえない。


『役に立てず申し訳無い…師匠』


「気にするな。バアゼルはどうだ?」


 支配属性。こちらもこちらで何かと優秀な魔法だ。しかし弓弦が使えるのは、精神を支配下に置くという悪役染みた魔法程度だ。

 だがバアゼルは、空気の流れを変え雲を動かしてみせる等、応用の利く魔法を数多く有しているようだ。その魔法の中になら目的の魔法がーーー


「いや、良い。流石に座標固定までは出来ないだろうぐっ」


 無いと思ったのだが、数個分の蜜柑の皮が頭上より降ってきた。


『間違いではないが癪だ』


 気に障ったようである。不機嫌を隠そうともしない声が聞こえた。


『…地属性魔法にある筈だ。然龍が醒めれば習うと善い』


 しかし教えてくれる辺り、優しい。


「地属性か……」


 地属性と座標固定。微妙に結び付けることが出来ない。

 イメージが違うとするのが一番近い表現なのだろうか。大地に作用する植物的なイメージが強過ぎるためか、釈然としないものがあった。


『地属性だからって言うのは、一種の固定概念に近いものがあるにゃ。地属性の派生系には鋼属性があって、鋼属性魔法の(にゃか)には自分を、鋼のように硬くさせ一切の攻撃を受け付けにゃくさせる魔法があるらしいにゃ。鋼にゃら、座標固定とも結び付け易くにゃるんじゃにゃいかにゃ?』


「あぁ、そうか。石のように…って言う考え方があったか。納得した」


 ようやく結び付いたような気がした。

 地属性の派生属性、鋼属性。

 魔法に上位魔法が存在するように、属性にもまた上位属性がある。そのことを踏まえて考えれば、座標固定の魔法が地属性魔法に存在するのも納得だ。


『魔法の属性分類って正直にゃところ曖昧にゃ。複数属性からにゃる魔法もあるから…うーん、と。そうにゃ、“コキュートス”の魔法とか丁度良い例にゃ』


 “コキュートス”は氷属性であると同時に、時属性の側面も有している。意識を残させたまま、対象の体感時間も含めて氷漬けにしてしまう効果のため副属性に時属性もあるとされているのだ。

 これが上位魔法に相当する“ノーザンクロス”になると、時属性に分類されてしまう。今度は氷属性が副属性になる訳だ。


「…意識まで凍らせるか凍らせないかの違いで属性まで変わるのか。どうしてだろうな?」


『意識があるとにゃいとじゃ、魔法をその身に受けた者の感覚が全然違うのにゃ。…ま、より過酷にゃ地獄とにゃるのは、“コキュートス”の方。意識のあるまま氷の感覚と共に在らねばにゃらにゃいのは、辛いだろうにゃぁ』


 “ノーザンクロス”を受けた者が魔法を解除された時、その者は一瞬にして時を越えた感覚を覚えることになる。

 それは魔法版コールドスリープの表現が近いであろうか。もっとも、魔法の発動を解除すること自体が使用者以外には不可能なのだが。


『にゃは。覚えがあるんじゃにゃいかにゃ? 氷漬けのままにゃがい時を過ごした経験が』


 少し懐かしい記憶だ。


「…あぁ、そんなこともあったな。お蔭様で年齢が限界突破している」


『年齢は限界突破していても威厳がにゃいのにゃ』


「お前が言うな。大体クロ、お前一体何歳なんだ?」


 同意の気配がするのは、悪魔の誰かが頷いたのだろう。クロから威厳は、微塵も感じることが出来ない。


『忘れたのにゃ』


 即答である。

 悪魔達の誰もが口を揃えて「忘れた」と言うのだ。相当年生きているということ以外語るつもりが無いのだろう。本当に忘れているのかもしれないが。


にゃがい時を生きていると、小っぽけにゃことは大概忘れてしまうものにゃのにゃ。ともすれば、己がにゃ…まで、にゃ』


「? お前の名はクロル…じゃ、ないのか?」


『にゃはは。さて、どうだったかにゃぁ?』


 そう言うクロの声音は、遠いどこかを見詰めている猫の姿を思わせた。

 それきりクロは黙ってしまったので、暫くの間弓弦は静かに洞窟の奥へと進んで行く。


『…ふぁ…ぁ…』


 数回程進んでは階段を降りるのを繰り返していると、シテロが起きたのか頭の中に欠伸混じりの声が聞こえてきた。


『あれ…? バアゼルのお話…いつの間にか終わっているの』


 寝ていたからである。

 どうやら自分が寝ていたことにも気付いていない様子に、苦笑させられる。


『…然龍。弓弦がどうやら、物質の座標固定の魔法を習いたいそうだ』


『物質の座標固定…? あ、“ロックコネクティング”のこと? ならお安いご用なの』


 どうやらすぐに教えてくれるようだ。

 また衝突してはアレなので、歩みを止めシテロの顕現に備える。

 上か、背後か正面か。それとも、足下から登場するのか。


「(どこだ…?)」


 注意深く周囲に視線を遣る最中、頭上を見上げてから正面を見ると。


「なの」「おわっ」


 真正面の至近距離に人間体の彼女は立っていた。

 簡単に抱き寄せることが出来そうな距離にある彼女から後退ると、額を手で覆う。

 少々心臓に悪い登場の仕方だった。もう少し普通に出て来てほしいものだ。


「暗い暗い洞窟には、明るいサプライズが必要だと思ったの。…駄目だった?」


 そう言われると、弱い。

 分かって言っているのかと悪意を探りたくなるが、眼前の無垢な二対の光に首を振る。


「…駄目じゃあないが」


 無論横にだ。良かれと思ってやってくれたことを無下にするのは、かなり気が引けた。


「人を選ぶように、な? 誰これ構わずやったら怒るぞ」


ーーー憤懣遣る方無いの……よだ!


 先人は語る。

 恐怖心克服の荒療治の実施に伴い、恐怖心を爆発させてしまった某医療班主任を、「土竜」自覚させてしまったのは記憶に新しい。

 彼女を「土竜」としたのは弓弦自身だが、まさかそれを逆手に取られてしまうとは。大きな被害を被る羽目になった『皇都カズイール』での一件が思い起こされ、遠い眼をした。


「ぅ…怒られたくないの。ユールに怒られると、しゅんとしたくなるから」


「(しゅんっ!? もう少し言い方を…っ)」


 遠い眼のままふと思ってしまう。

 子どものように語彙力の無い表現だが、だからこそ破壊力を伴って耳朶を打ってくる。

 ワザとではなく、本悪魔は至って素で言っているので、次の瞬間には呑気そうに、「じゃあ私が手取り足取り教えてあげるの♪」と弓弦の両手を握った。


「“ロックコネクティング”は中級魔法。きっとすぐに使いこなせるようになるの」


 手を介して彼女から魔力マナが流れ込んでくる。

 弓弦の魔力マナではない。彼女自身の魔力マナだ。ヴェアルの時もそうであったが、吸収された後も悪魔達には個々の魔力マナが一部残っているようだ。


『微妙に違うのにゃ。アシュテロは君の魔力マニャを使っているのにゃ。ただ、自分の魔力回路に介させて魔法を発動させているから、君が使えにゃい魔法を使うことが出来、あまつさえ君にその魔法を覚えさせることが出来るのにゃ』


 クロからの訂正に、自分の思い違いを直す。

 魔法を覚えさせるのにわざわざ手間を掛けさせているので、少し悪い気がするにはする。


「はい、これで使えるようになったはずなの。早速使ってみるの♪」


「あぁ。『止まるは其。其は石像の如く』」


 一旦手に取った帽子を対象に魔法を発動させる。

 接着剤を帽子に塗っている感覚に近いだろうか。帽子の空洞に魔力マナの光が走り、やがて円状に繋がり形を作ると、円の内側に芒星を作った。


「…よし、後は被れば良いんだよな。シテロ」


 今発動した魔法の陣の他に、元々帽子に付加されていた魔法の発動も確認していると。


「……」


 シテロが惚けたような瞳で斜め上を見ていることに気が付いた。

 その視線の先ーーー弓弦の後方には何も無い。精々延々と続くような岩肌だけだ。


「シテロ?」


 もう一度名前を呼ぶ。


「………ぁ、ユール、どうかした?」


 すると、ようやく瞬きした彼女と視線が合った。


「どうかしたも何も…いや。このまま帽子被っても良いのか訊きたくてな」


 一体何を見ていたのか気にはなるが、今まで帽子を被っていた所為か洞窟内の空気が冷たく感じた。

 更に冷感を覚えるのを待っていたのか“ライト”の魔法も、その効果時間を全うしてしまう。

 余計に寒く感じてしまう弓弦だ。被っても良いのなら早く被ってしまいたいので、焦らされる。


「……」


 またシテロの視線が斜め上に戻ってしまい、更に焦らされる。


「おーい」


 頭の上が冷えてきた。

 犬耳が冷えてきたのだろう。風が吹いていないのにこうも冷えるとは、この洞窟に入った当初からは考えられない冷え込みようだ。


「おーい」


 これ以上冷えては堪ったものではない。

 犬耳を、触れるか触れないかの位置に持った帽子で風から守りながらもう一度呼び掛ける。


「…。ぁっ」


 戻ってきたようだ。


「どーぞ被ってほしいの。そうすれば魔法の効果が切れるまで、余程凄い衝撃を受けない限り帽子は取れなくなるの…ぁ」


 弓弦が素早く帽子を被ると、シテロが名残惜しそうに小さな声を上げる。


「お、本当に取れなくなったな」


 被った帽子を動かそうとするも、動かない。

 これならば帽子を被ったまま、激しい戦闘を行っても大丈夫そうである。


「ありがとな、シテロ」


「ふふ~なの♪」


 得意そうに笑った彼女の頭を撫でると、明かりを浮遊させて小休憩を終える。


『“イリュージョン”よりも魔力マニャの消費が少ないから、長期戦には、ジワリジワリと役に立つかもにゃ』


「言われてみれば…そんな気がするような」


 心を乱すことで解除される心配も無いので、心にゆとりを持つことも出来る。中々良いこと尽くめである。


「低燃費なの~♪」


 シテロはどうやら同行してくれるようだ。更に良いことである。


『良かったにゃ? 一人じゃにゃいのにゃ♪ 寂しくにゃくてウキウキにゃぁ~♪』


「アデウス」


『は』


 猫の悲鳴とハリセンの音が脳内に響くのを聞きながら、シテロと二人階段を降りて行く。

 入口からもうかなり降りたはず。そう思っていた矢先に、


「…ッ」


 人の気配がした。

 階段の下、奥の方からだ。


「ユー「‘しっ’」…ル?」


 シテロに沈黙を促し奥へ。

 自然と足が急いでいた。魔力マナを視るまでもなく、その先に居る人物が分かっていたから。

 早足はやがて駆け足になり、そしてーーー


「(着いた!)」


 ーーー初めての広間に辿り着いた。


『…っ!?』『キシャっ!?』


 眼に付くのは、大きな壁だ。見上げるまでの高さに彫られた、十字塚から人間のような形をしたモノが天にーーー太陽の下に昇っていく様が表されたような彫刻を視界に入れた瞬間、クロとアデウスが息を飲む気配がした。


ーーー来たか。


 薄暗闇の中に知っている人物の声が聞こえた。


「どこだ! どこに居る!!」


 見回すと、空間にそれなりの広さがあることが分かる。

 どこかでーーーいや、間違い無く見たことのある空間だ。

 どこで見たかは思い出せないが、確信があった。


『合点いった! 延々のように海底へと続く往復道…おかしいと思う訳にゃ!!』


『今…何と言ったか凍劔の儘猫!? ならばここはーーーッ!?』


 悪魔達にとっても、この場所は何か特別な意味がある場所のようだ。

 それは何となくではあるが、予想が出来ていた。


ーーーここだ。


 「その者」が待つ場所が、ただの場所であるはずがない。

 例えどこにでも見かけるような草原でも、街の中であったとしても、「その者」がわざわざ手の込んだ呼び出しに指定した場所ならば、何らかの意味があってしかるべしなのだから。

 弓弦は「その者」のことを良く理解している訳ではない。ただの場所であるはずがないというのは、彼の単なる予想でしかない。が、「その者」には、彼にそう予想させる程の独特な存在感を有していた。


「…このメッセージの、銃弾の送り主はやっぱりお前だったんだなーーー」


ーーー……。


 足音を立てずして、声の主が姿を表す。

 弓弦はその者の姿を見、濁した言葉の先をーーーその男の名を呼んだ。


「ーーーカザイ!!」

「…どうやら弓弦様が目的地に到着されたようですね」


「そうみたい。それなりに長い間走ってたみたいだけど…ユ~君頑張ってるなぁ…あ、そのお盆隊長君の? 風音ちゃん凄いねぇ。毎日ご飯作ってあげてるんだよね?」


「えぇ、まぁ…頼まれたことですから。それに…あの方には頑張って頂かないと、弓弦様にまで業務が及ぶ恐れがあります」


「そうだね…。帰って来たユ~君、疲れているだろうから休ませてあげないとね」


「クス…はい。料理は二人分作るのも三人分作るのもそこまで変わりはありませんので。それで弓弦様の力になれるのならば、嬉しい限りで御座います♪」


「うんうん。ユ~君のために…かぁ。素敵だね。でも、何か見返りしてもらおうと考えてるでしょ?」


「勿論です。一日程御時間を頂戴しようかと考えています」


「ありゃ、そっか。あまり無理させないようにね」


「はい♪ では、予告で御座います。『どこだここは? どこか知っているようで、分からないような場所…俺は洞窟に居たんだよなーーー次回、耳を澄ませ弓弦! 響く木霊の音!!』…帰る訳にはいかないか。…です」


「木霊…か」


「山彦さんですね」


「う、ん。そうだね。やっほーって! 返してくれるの楽しいよね♪ 後、山のバカヤローっ! って叫ぶ人も居るよね」


「シトラス発散ですね♪」


「それは…柑橘かな?」

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