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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
04771を求めて…編
252/411

採れ採れ弓弦! 大量収穫!!

「一杯採れたの〜っ!!」


 作物が沢山入れられた籠の前で、シテロは汗を拭った。


「あぁ、一杯採れたな…! んんっと」


 弓弦もその隣に並びながら汗を拭う。

 今朝方収穫段階になった作物の収穫に取り掛かり、昼に差し掛かったところで全作物の収穫が終了した。


「お疲れ様なの♪ まずは採れたてホヤホヤを食べてみると良いの〜♪」


 『トゥメイト』も、『キューリ』も、『美味し草』や『リカバリーフ』もその全てに至るまでが最良の状態で収穫されている。これは是非採れたてを齧るべきだと、手渡してくれた『トゥメイト』を齧ってみる。


「…ん、美味い!」


 瑞々しくて、酸っぱいが、甘さとの調和が絶妙に取れており思わず大きな声を出してしまう。


「シテロも食べてみろ! ほらっ」


「ふむうぐっ!?」


 まさかここまでの作物が出来るとは。嬉しさのあまり自分が食べていない部分をシテロの口に、押し込んでしまった。

 驚いた彼女は口内に入った『トゥメイト』を、汁を零さないように食べていき、やがて飲み込んだ。


「美味しいの♪」


 コクンと飲み込む音を小さく立ててからシテロははにかんだ。

 眩しいばかりの笑顔だ。保護欲を掻き立てられてしまうのは男の性か。

 抱きしめたくなる欲求を抑え込んでいると、視界にある様子が映る。


「え…っ!? んうっ」


 透き通るように滑らかな肌を染める、小さな赤い粒。いきなり口に突っ込んでしまったので飛び散ってしまったのだろう。

 捨てるのは勿体無いので、最初は自分の口まで運ぼうとした。だが意識せずにするならば兎も角、わざと自分の口に持って行くのもどうかと思ってしまった。なのでシテロの頰に付いた果肉を指で掬い取りそのまま、彼女の口に運んで食べさせたーーーのだがそれが気に食わなかったらしく、頰を膨らませられた。


「む〜」


「…いけなかったか?」


 「そうではないの」と、否定する彼女だが明らかにむくれている。食べさせるのが嫌ではないとするならば、食べさせ方が悪かったのだろうか。


「何でもないの。気にしないで」


 彼女の顔が髪に隠れ見えなくなる。

 そう言われると気にしてしまうのだが、変に構うと今以上にむくれそうなのでそっとしておくことに。


「そうか」


 代わりに弓弦は『キューリ』を齧った。

 まず分かるのは、水分。パキッと小気味良い音と共に齧ると広がる、独特の味。

 一言で語るならそう、夏の味わいだった。


「美味い。『キューリ』はあまり甘くなさそうだったんだがこの爽やかさ! これはこれで生でも十分イケるな」


 あっという間に完食していた。

 自分達で作ったからというのもあるにはあるが、純粋に美味な作物を食べられるのは幸せなことだ。

 生きているって、素晴らしい。

 生命の素晴らしさを実感していると、隣から小気味良い音が。


「……美味しいの」


 シテロも食べていた。

 ポリポリと、少しずつ食べている姿はまるで、栗鼠のようだ。

 一人食べ進めているシテロの隣で、籠を見詰める。

 これだけあれば、あの長い洞窟でもやっていけそうだ。戻ったら早速少し使って腹拵えをしなければ。


「…外に出る?」


 食べ終えたらしいシテロが声を掛けてきたのに頷く。


「いつまでもここに居る訳にはいかないしな。そのつもりだ」


 ここに来てから二ヶ月程が経過した。外界でおよそ、四時間に相当するだろうか。当初の目的が達成された以上、休憩期間は終了である。


「なら行く前に、新しい作物の種を蒔くのに付き合ってほしいの。…良い?」


 花壇は現在、『美味し草』の部分が空いている状態だ。

 土壌を休ませるつもりなのだろうと考えていたが、どうやら違うようだ。


「分かった。何の種を蒔くんだ?」


「んと…ちょっと待っててほしいの」


 そう言葉を残して彼女はどこかへと走って行った。

 姿が見えなくなった方向から鑑みるに、いつものどこかへ向かったのであろうことは想像に難くない。


「お待ち遠様なの」


 程無くして戻って来た彼女から麻袋を受け取り、中を見てみる。


「これは?」


 小さな種子はどこかで見たような形をしていた。しかし色が赤いものとなると記憶に無い。

 まさか異世界固有の作物なのだろうか。


「『トゥモローコシ』なの」


 聞いたような名前だった。


「(そう言えば夏の野菜だったか、とうもろこし…)」


 一応どんな作物かを訊いたが、やはり知っている野菜と大して変わらないようだ。

 上手く収穫出来れば生でも、醤油をかけて焼き上げても香ばしく、美味しそうである。

 軍手を着けて、土の中に種を埋めていく。

 ある程度間隔を空けなければならないそうで、前後二列ではなく中央の一列のみに絞るのが後のためだそうだ。


「(こんな小さな種があんなに大きなとうもろこしになるんだよな…。凄いもんだ)」


 生命って素晴らしい。

 いよいよ悟りを開いたような心地の弓弦は、水を汲みに行ったシテロの姿を探す。


「(ん…? どうしてあんな遠くに)」


 何故探したのかというと、チラリと泉を見た時に彼女の姿が見えなかったからだ。

 ーーー見えなかったといっても視界に入らなかっただけで、彼女はすぐに見付かった。泉の対岸だ。


「(…何をしているんだ?)」


 桶は隣にあるため水は汲めるはずだ。しかし、シテロはしゃがみ込んだまま泉を見詰めているだけだった。

 惚けていたり、泉の中に面白いものを見付けたような面持ちはしていない。どちらかといえば沈痛そうな面持ちをしている。

 泉の水面を見詰める彼女を見ていると、まるで今にも泉の中に飛び込んでしまいそうであり、落ち着かなくなってしまった。

 眼が離せない。いつでも動けるように、意識を集中させていく。


「(こんな時に心が覗けたら心配事が無くなって、色々と楽になれそうだが…。それは反則行為か。どの道シテロとの『回路パス』は無いし…女の子の心を無闇に覗くのはな、うん。いかんいかん)」


 自分に危害が及ぶ可能性が存在する場合は例外となるが、そのスタンスは大切なものである。

 だからこそもどかしく思えてしまうのも往々にしてあり、弓弦は彼女の姿を視界から外した。


「一体何をやっているんだろうなぁ……」


 妙に居た堪れなくなり、草に話し掛ける。

 くどいようだが返事は返ってくるはずがない。何故か相対時間を訊いた時にだけ返ってきて、それ以外は殆ど返事が無い。向こうから話し掛けてくることはあるが、返事はしないという自己中心的性格植物。それがこの空間の植物達だからだ。


「(シテロは…まだ向こうか)」


 近付いて来るような足音は聞こえないので、こちら側には来ていないようだ。

 取り敢えず、水遣りを終えたら外の世界に戻る準備をしなければと、思い当たり、腰を上げた。


「…水浴びしないと」


 汗を掻いているのだ。幾ら精神世界内での出来事といっても、汗を掻いていることで今感じているような、髪ががベタつく感覚は現実そのもの。意識し始めると、汗の感覚に不快感を覚え始めた。


「(シテロには悪いが、先に身体洗って外に出る用意をしておくか……)」


 着ている衣服を脱いで泉に足を付ける。


「うぉ…冷たっ」


 そのまま身体を下部から浸していく。


「ふぅぅ…気持ち良い……」


 肩まで浸かると一気に頭まで沈んで、水底を蹴る。浮かんだ仰向けになると、暖かな日光に眼を瞑った。


「ぁぁぁぁぁぁ……」


 光に慣れてきたので眼を開け、空を眺める。

 流れる雲に合わせるようにして漂う。四肢を投げ出したまま浮かぶ最中、考えるのは自身が今回の冒険に出る理由となった銃弾のことだ。

 あの洞窟の最深部で目的を達成することは出来るのだろうか。達成出来れば良いのだが、ただひたすら続く道からは何も分からなかった。

 心機一転という訳ではないが、ここで休息を取ったことによりリラックスした状態で、あの道を進んで行けば新たな発見があるかもしれない。

 少なくとも中間地点ぐらいは通過しているはずだ。なので、洞窟の最下層までに要するであろう時間は、良い意味でこれまでの比ではないはず。

 もう少しだーーーきっと。


「うごっ」


 眼の前に星が見えたような気がした。

 どうやらどこかの岸に頭を打つけてしまったらしい。それも勢い良く、だ。

 危うく舌を噛みそうになってしまいヒヤヒヤしていたのだが、何の因果か。


「…ぁ…っ」


 そこはシテロが居る反対側の岸だった。上下が反対になっている彼女は、眼を白黒させているようだ。


「…や、やぁ」


 これは、気不味い。

 何だか良く分からないが、固まってしまった彼女を見ていると妙に気不味かった。

 声を掛けつつ、浮かぶのを止めて水面から肩より上を出した体勢に。下部を見られるのは当然恥ずかしいので体勢を変えると、


「ふ…ぇ…ぅ…っ」


 シテロの眼が何かを追い掛け、素早く逸らされた。その顔が、どんどん赤くなっていく。


「〜〜〜っ」


 そして、既に汲んでいたらしい水が入った桶を持ったまま、擬音が聞こえてきそうな猛ダッシュをして反対側の岸に行ってしまう。

 しかし脇目も振らずの猛ダッシュは危険でしかない。


「おいシテロ! 気を付けないと…!」


 弓弦は、この先に起こるかもしれない光景が見えたような気がした。


「あ」


 否、見えた。起こってしまった。


「きゃぁぁぁっ!?」


 小さな石ころに躓いて体勢を崩してしまった。

 思った矢先に、とはこのこと。前のめりの姿勢のまま、バランスを取り切れることなく両手を突く彼女。だが弓弦の視線は彼女にではなく、彼女の少し上方へと向けられていた。

 時間にしては一秒、二秒の短い時間だろうか。だが、とある結末へと続くその光景は弓弦にとって、スローモーションのように見えていた。

 緩やかに弧を描いて宙を舞うそれは、微妙な遠心力によって内容物を溢していく。


「うっ」


 シテロに少し降り注いだ。

 今にして思えば何故に桶で汲みに行っているのだろうか。そもそも園芸の水遣りに使うのはジョウロが妥当なところだろうに。何故に桶か。

 そんな根本的な、誰かを責めたくなるような謎について考えてしまったのは、その次の瞬間脳裏に焼き付きそうになってしまった光景から眼を逸らすためだ。


「ひゃぅっ」


 桶は、シテロの頭に被さるようにして落下した。

 当然桶内に残った水も全てが彼女に掛かり、ずぶ濡れに。

 髪が、服が肌に張り付き、彼女の豊満な身体のラインを描いているーーーその光景は一瞬ではあるが、しっかりと眼を逸らし切れなかった弓弦の脳裏に焼き付いてしまった。

 考えてはいけない。いけないのだが、考えてしまう。彼女の魅力は凄まじいものがあるのだから。


「…ふっ」


 心を無にするよう努めつつ泉を泳ぐ。

 いつもなら素早く彼女の身体に上着を掛けてやるところなのだが、不幸なことに今の彼は生まれたままの姿だ。今の姿で彼女の下に向かおうがものなら、第三者から見れば事件にしか見えないだろう。


「(…全裸で水泳か)」


 しかしどう考えても、変質者の絵面にしかならないというのは悲しいものである。


「(…そうか、はは)」


 今更ながらシテロが赤面した理由が分かってしまった。

 一人考え事をしている時に、空気の読めない行動をしてしまっていた訳ではなかった。それどころか、とんでもない行動をしてしまっていたことになる。

 絵面どころではない。もうそのものだ。


「(ごめんなシテロ……悪いことをした)」


 自分の所為でずぶ濡れになってしまった彼女のことを考える。


「(…アイツも汗掻いてたし、泉に浸かるよ…な? だったらそろそろ出ておくか)」


 見てはいけない姿を意識して見る訳にはいかないので、泳ぎ始めの場所へと泳いで向かう。


「(意外と距離あるんだよなぁ…。まぁその内着くか)」


 安定したフォームで泳いで行く。

 丁度中間地点を通り抜けた際に、それは起こった。


「い゛っ!?」


 突如として襲う、強烈な痛み。


「(足が…つったっ…!?)」


 動かなくなった足を抱え、動かそうともがく。


「(やば…っ!?)」


 身体が沈んでいく。

 準備体操をしておけば、と後悔しても水面は確実に離れていく。


「(…は、はは)」


 同時に意識も遠退いていく。

 光に向けて手を伸ばすが、目指すものには程遠かった。


「(…ここで意識を失ったら、どうなるんだろうな。…死ぬ…ことはないと思いたいがなぁ……)」


 このまま泉の底で眠る羽目になるかもしれない。それは困るが、どうしようもなかった。


ーーー。


 身体の熱が奪われていく。意識までも奪われようとしたその時、誰かの声が聞こえたような気がした。


ーーー!!


 水が染みる中眼を凝らすと、それが人であることが分かった。


「(…シテロ……)」


 どうやら溺れていることに気付いて助けに来てくれたらしい。

 何とも情けない姿を見られているものだ。こんな姿、色々な意味で他の女性陣には見せられたものじゃない。

 それにしても彼女の姿ーーー豊かな自然を思わせる緑色の髪に、自分の片眼よりも明るい紫色の眼は紫水晶のようだった。喩えるならば彼女の美しさは、まるで散りばめられた宝石のようだ。

 水の中というのもあるのだろう。徐々に鮮明になってくる彼女の美しい姿は、眼を見張る程難しく、そして。


「ぶごぉっ!?」


 その後彼の身に起こったことは定かではない。

 ただ一つ、敢えて述べるとするならば。泉の水の底の極小範囲に少しだけ赤い靄が生じたらしい。

 それが何なのか定かではないが、意識を失う直前の彼の表情は、どこか満たされているようであった。












* * *


 一人単独行動を取るようになってから暫くした頃。 洞窟の中を一匹の狼が通り抜けた。

 階段を下り、分岐の無い一本道を進み、それを繰り返し。


「…これは」


 やがて、ここを訪れてより初めての広間に出た。


「(天空より続く螺旋洞窟の終着点は、ここか)」


 周囲の様子を窺ってから進んで行く。


「(外部に広がる景色。大海原、生命溢れる桃源郷。そして天より地に下る、しるべ無き、一つ道の螺旋…。その意味はーーー)」


 歩みを進めながら、思案を深めていく。

 この世界を訪れてよりの疑問は、彼の中で答えへと、新たな予想へと繋がっていく。

 広間の中央まで進んだところで狼は立ち止まった。


「(ーーー成程。ここはそう言う場所か。頷けるものも多い)」


 自分の中でのみ結論付け、口には出さない。

 秘密主義のきらいが無い訳ではないが、誰かに聞かれては面倒であった。

 不測の存在に備えるためにも、用心はするに越したことがなかった。


「眼を覚ましてから数刻もしない内にここまでは来れるか。さて……」


 踵を返したヴェアルの姿は、程無くして闇に紛れた。

「…たわわな果実の贅沢……日曜なのにたわわだよ」


「……」


「明日も、たわわ…だよ。…くそぅ、レオンめぇ」


「それは隊長とは少し関係無いのではないか?」


「…はぁぁぁぁぁ…うぉぇ…ぇぇっぷ」


「…吐くのならそこのトイレで済ませてくれよ。ここに吐いたら掃除してもらわないといけなくなるからな」


「…ならもっと飲ませろーいっうぉぇっ」


「マスターストップだ。今日はもうこれ以上飲むな」


「楽しいころが無いんらよ!! 無い無い無い無い無い、無ーい!! ふざけんなようぉぇぇえぇっ」


「そんな八嵩はちがさに朗報だ。次回はちょっとした箸休めの話だ」


「は、し、や、す、めー? 要らんわー!! さぁけだぁぁっ」


「『お待たせいたしました。ほにゃらら点の時間がやってまいりましたなの。本日は何とか何ちゃら開局うんちゃら年を記念して、炬燵空間の炬燵空間ホールよりおよそお送りさせていただきます。…何か良く分からないのーーー次回、掴み取れアデウス! 座布団をその手に!!』…な、なんでやね~ん。…が、次回の品書きだからな。楽しめそうだとは思えないか?」


「…zzz」


「チャンチャカチャカチャカ、チャンチャンっと。良い酒用意して待ってるぜ」

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