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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
最初の異世界
25/411

商業王都カリエンテ 前編

 空は快晴吹く風追い風。

 そんな冒険にはもってこいの天候は、今にも冒険に行こうと語り掛けてくるようだ。

 これぞ始まりの風。そう、ありがちな物語の始まりの中には、「風」から始まる物語があるように、風は時として始まりを司るのだ。

 そんな心地良い環境の中、レオンは進路を南の方にある王国に向けて西大陸から南大陸にかけての旅をしていた。


「う〜ん、一人旅ってのも中々情緒がありそうなものだけどな…やっぱ寂しいな~」


 彼は知影やユリのように飛ばされた場所に恵まれた訳でも、弓弦のような勇者的な冒険を行っている訳でもなく、ただあてのない旅をしている。正に、風の吹くまま気の向くままだ。

 気の向くままではあるのだが、決して行き当たりばったりという訳ではない。

 こういった世界での冒険経験豊富な彼は、しっかりと情報収集をしてから冒険に臨んでいた。

 目的地までどのくらい掛かるのか。危険はどの程度あるのか。では目的地として定めるに相応しい理由は何なのか──必要な情報を集めてからこうして旅しているので、特別困ることもない。

 王族でいうと諸国漫遊──と、いった風情だ。

 だからといって一人なのは寂しい。

 しかしそんな彼の背中を押すのは、自分以外の隊員が固まって跳ばされているとは限らない予測に対する危機感だ。

 数日間に及ぶ旅の中で、別段危険な世界ではないと把握しているが、それもこの地方に限った話。未知の世界の中では──否、良く知る世界であったとしても、想像を絶するような強敵が出現する可能性を否定出来ない。ならば早々に合流し、無事を確認することこそが隊長の責務であると感じていた。

 しかし隊長であるからこそ、考えなればならないことは多くあり──


「セイシュウの奴…ちゃんとやってるか〜?…」


 レオン自身は大して問題無くとも、隊長である自分が欠けたことで部隊にどこまで影響がでてしまっているのかは大問題だ。

 レオン達が跳ばされる寸前に副隊長が帰還済みなのだから、艦の守りは何とかなりはする。書類業務も(レオンは基本サボってばかりで、期日ギリギリに何とか片付けている)二人──いや、リィルも加わり三人で分担して業務に取り組んでいるはず。

 そんなことは想像に難くないが、やはりそれでも心配してしまうのが一種の隊長心(?)だった。


「ん〜…」


 そんな彼が歩みを進めていると、徐々に視界を占める砂地の割合が増え始めた。

 日も昇り、照り付ける日光が輝きを増すと共に陽炎を作り出している。

 レオンは近場にあるシダの樹木にもたれると、背負ったリュックの中から飛び出している筒状の物を取り出した。

 丸められた羊皮紙だ。広げると、若干褪せたインクで幾つもの模様が描かれており、その所々に文字が書かれている。


「砂漠地帯が増えてきたと言うことは〜…大体この辺りか。ん〜、だと…」


 それはこの世界の地図だ。

 レオンが最初に跳ばされた小さな街で、村の用心棒をしつつ稼いだ金でリュックや食料と共に購入したものだ。

 自身が持ち合わせている通貨がこの世界で使えないという事実を知ってから、時折ひもじい思いもしつつ入手したものなので、妙に思い入れがある。

 レオンは正直なところ、中々に雑な部分の多い男であるが、そんな彼ですら細かくメモ──といっても一日の内で、どこからどこまで移動出来たのかを記入するといった程度のものでしかないものの、兎に角思い入れがあったのだ。


「地図を見ると後一時間程か~、ま~問題は無いだろうな〜」


 目的地を再確認し、再び太陽の下へ。

 生温い風が吹く中で欠伸あくびをすると、砂の味がした。

 この世界は、思った以上に平和な世界だ。

 レオンが収集した情報の中では、争いという争いは二百年前に北の国での内乱と、悪魔と呼ばれる集団が世界中を襲撃したとされる事件だけだ。


「…暑い」


 一国の興亡はよくある話。しかし後者に関して、レオンは気掛かりがあった。

 それが、『悪魔は名無しの光の柱と共に突然消え去った』という話──四日程前に立ち寄った村に伝わる、二百年前の動乱を記した文献の一節だ。

 レオンの目的は、この世界のどこかに跳ばされてしまった三人の隊員を無事に帰艦させること。しかしそれは、この世界が崩壊しないという前提での目的だ。

 ──この世界は、これまでレオン達が属している『組織』のメインコンピューターである『装置』が、観測していなかった世界だ。『組織』は、世界が崩壊へと向かっていないか、常に観測することで滅亡を阻止する活動を行っていた。

 観測していた世界なら、レオンが持つ金銭が自動的にエンコードされていたのだが、実際は使用出来なかった。それがこの世界が観測されていない世界という判断を下した理由であった。

 観測は──していなかったのか、それとも出来なかったのか。

 後者ならば──おおよそ二つの仮定に絞られる。

 曰く、新たに誕生した世界なのか。それとも、既に滅んでしまった(陰に呑まれた)世界なのか。

 これも、ここまで文明や生命が発展している時点で後者でしかない。

 レオンは頭の回転が良い方ではないのだが、部隊長を務める以上必要な知識を習得している。というか友人二人に習得させられた。だから、この世界が何らかの要因によって既に滅んだ世界であるという結論に辿り着いた。

 通常の方法では行くことが出来ない、存在しないはず(・・・・・・・)の世界。しかし悪魔による転移の魔法が、偶然にもこの世界への扉を貫いてしまい、そこにレオン達が放り込まれてしまったのだろう。

 しかし問題なのは、この世界が平和であるということ。

 人も生きていれば、命の息吹がそこかしこに感じられる。

 崩壊した世界というのは、決まって命の息吹が感じられないのだ。時も止まっていれば、動くものは崩壊を加速させる存在──『陰』だけ。

 それが見られないということは──予測されることは一つ。この世界は、まだ崩壊していない(・・・・・・・・・)のだ。少なくとも、レオンが居るこの時間軸に限っては。

 だからここから先──「何か」があって、この平和な世界は崩壊する。

 その「何か」の切っ掛け──百を超えた時点で世界が崩壊するという目安になる、『崩壊率』を確認するために、彼は立ち寄った村の文献を漁っていた。

 そこで幸運が味方した。この世界の言語は、レオン達も日常的に使用しているものと同じだったのだ。そうやって片っ端から調べていくと、『悪魔』という記述に行き当たったのであった。


「(まさか、俺がこんな地道な旅をすることになるとはな〜…)」


 進展という進展があまりない現状。

 南大陸最大の王国を目指すのは、二百年前に関するさらなる情報を求めてのことだ。

 二百年前に現れた、「悪魔」。

 その正体が、レオン達に対しての『悪魔』であることは想像に難くない。 この世界の崩壊に、何らかの関与も疑える。

 だが二百年前ということはどういうことなのか。討たれたのか、封印されているのか、逃げたのか。推論は幾つかあるのだがどれも今一つ確信が持てない。

 こんな時に、よく頭の回る親友が居てくれたら──推論を深く展開するためには、レオンの頭脳は乏し過ぎた。


──ジジ…。


「ん?」


 ふと耳に当てたインカムから、ノイズ混じりに誰かの声が聞こえた気がした。

 インカムに触れて耳を澄ますも、音声どころかノイズすら鳴らない。

 この世界に転移する際の衝撃で壊れてしまったインカム。せめてまともに機能してくれていれば、『アークドラグノフ』に連絡の取りようもあったのだが。壊れている以上、アテには出来ない。

 当然ノイズも、誰かの声も聞こえるはずは無い。

 しかし聞こえたような──そんな気がしたのだ。


「気の所為か~」


 歴史や崩壊に対する考察は、もう少し情報を集めてから再開することにして、水筒の水を口に含む。

 水筒もこの世界での購入品だ。中に入っている冷水は、真夏の世界において癒やし以外の何物でもない。ゆっくり飲み干すと、蓋を閉めた。

 砂漠に入って程無くすると、整備された街道が見えてくる。

 同時に、微かにだが潮の香りが。

 きっと向かい風の先を辿ると、海があるのだろう。


「場合によっては、魚でも釣って食べるか〜」


 昼飯のことを考えながらレオンが街道を進んでいると、大きな羽の付いた蜥蜴が現れた。

 灼熱の環境下で戦うと、それだけ消耗が激しくなってしまう。

 避けられるのなら避けたいため、それを無視しようとしたのだが──。


「ん〜?」


 一瞬視界に入ったものに思わず足を止める。

 蜥蜴に、羽が付いている。

 羽蜥蜴と呼ばれる、とある魔物の名前が脳裏を過った。

 そう──「バジリスク」と。


「…ッ! とおりゃっとッ!!」


 レオンは愛用の大剣を背中の鞘から抜き放ち、バジリスクを斬り裂く。

 鱗を容易く斬り裂いた刃が砂を巻き上げ、砂煙が立ち込める。

 潮風によって視界が鮮明になると、両断された魔物の死骸があらわになった。


「ん〜…。危なかったな〜」


 バジリスク──異世界ではかなり有名な生物の名だ。

 その危険度は、【リスクG】。危険視される理由は、“メドゥーサアイズ”と呼ばれる闇属性魔法を使うからだ。

 バジリスクといえば、石化魔法。それは子どもでも知っている常識であり、おかしな動作をしようがものならただちに撃破しなければならない。一瞬の油断が命取りになりかねない魔物の代表格だ。

 “メドゥーサアイズ”の効果範囲は、バジリスクの視線一直線上。要は正面にさえ立っていなければ回避可能なのだが、しばしば冒険者パーティがあわや全滅の憂き目に遭う。

 レオンも苦い記憶があり、学生の時に文字通り右半身を石化されかけたことがあるのだ。そんな記憶があるために、早々に討伐した。

 石化とは、最早死にも等しい末路の一つ。

 身体を構成する分子が全て石となった者は、二度と動かない。物言わぬまま風雨に当てられ、砕けるのをただ待つだけ。

 完全に石化するまでは光属性上級魔法魔法“パージストム”で何とか解くことが出来るのだが、これが中々高位の魔法でユリですら使うことは出来ない。

 その場合は早急に『組織』の本部に居る優秀な光魔法使いの下へ、こちらから出向かなければならない。

 味方が使えない回復魔法が必要な場合、使える者の下へと赴く。お布施を払い、治療してもらう──俗にいう、協会参りだ。

 大事になる前に対処出来て、何よりであった。


「…お~?」


 周囲にある程度の警戒を払いながらなおも歩みを進めていると、遠方に建造物が見えてきた。

 レオンは眺めるように額に手を当て、彼方を凝視すること数秒。口角をニヤリと吊り上げた。


「やっと、着いたみたいだな〜?」


 歩くこと、実に四日。そのゴールに、足が早足となる。

 若干空腹気味のレオンは、遠くに見えた目的地──南大陸最大の都『カリエンテ』へと向かうのだった。











 カリエンテは南の国らしく、バザーで賑わいを見せる豊かな国だ。

 照り付ける太陽、それを反射して煌めく湖。その周りには、景色に彩りを添えるヤシやシダのような樹木が天を向いており、子どもたちの遊び場となっている。

 石造りの建物には所々黄砂が付着しており、時折微かな風に煽られて砂地が巻き上がっている。その点は眼にも喉にもあまり良い感覚ではないが、それは暑さと並んで仕方の無い欠点か。

 だがレオンの視線を縫い付けたのは、面積の少ない人々の衣服だ。中でも小麦色に焼け、程良く引き締まった女性の腹部がいつでも見られるのが堪らない。


「(あ〜…こんな女の子達を眺められただけでも、もう収穫だな〜)」


 等と本人は考えているが、同時に砂漠地帯の気候が形作る独特アラビアンな文化が漂うこの国こそ、情報収集にうってつけだと断定した。

 そんな街の入口に立っているレオンの、ここでの目的は三つある。

 まずは腹(ごしら)え。次に図書館で二百年前の事件の資料の閲覧。最後はこの国からしか出ていない、世界の中心にあるという伝承の地──『呪いの島』と呼ばれる島に向かうことだ。

 また人も文化も良く集まるこの地ならば、もしかすると探し人に会えるかもしれない。期待を胸に、街の中へと足を踏み入れる。


「美味しいよ〜! そこの兄さん! 寄ってっておくれ!」


「お! 旨そうだな〜」


 偶然耳についた客引きの声につられて入った店は、酒場の様相を呈した食事処だった。

 スパイスの効いた蜥蜴肉の匂いと、仄かに香るアルコールがレオンの腹の虫を騒がせる。

 何せ、四日も食べていなかったのだ。自然と足が動いた。


「らっしゃい! お客さん旅人かい?」


 店先に立っていた恰幅の良い店員が、羊皮紙片手に話し掛けてきた。

 注文を取りに来たようだ。


「ま〜、そんなとこだな~、取り敢えず何か適当につまみになる物を見繕ってくれないか~? 後ビールを」


 名のある店なのだろう。

 昼間から様々な層の客で賑わった店内は年季のある内装をしている。

 人々の様子はとても明るく、平和そのもの。

 人々の笑顔が、レオンを自然と笑顔にした。


「ほいよ、麦酒ビールとツミマメだ」


 程無くして注文品が届けられる。

 黄金色のビールと、一眼見ただけで新鮮と分かる、緑のツミマメ。

 おつまみの豆だから「ツミマメ」。どこかの世界では、「枝豆」と呼ばれているとかいないとか。

 どの世界でも変わらない、ベストマッチだ。


「来たな〜?」


 レオンはグラスを強く握る。

 これが中々冷たい。日差しと暑さで半分落ちていた瞼が、カッと開く。


「(砂漠で…ここまでの冷え具合…ッ!)」


 恐らく氷魔法によって冷やされているのだろう。

 場違いな程溢れ出す冷気は、レオンでなくとも生唾を飲まずにはいられない。

 これは間違い無い──絶品だ。最高の一杯だ。

 期待を胸に、中身を一気に煽った。


「──ッ!?」


 喉を通る際の、この喉越し。

 火照った身体をキリリと冷やす、至高の氷点下。

 見えた。黄金の小麦畑で手を振る、農夫の姿が。

 笑顔だ。誇らし気な様子で手を振っている。

 次いで視界を呑み込む黄金の奔流。

 下から上へ。次々と生じる気泡が、身体を優しくくすぐる。

 昇っていった気泡が頭上で密集し、大きく膨れ上がっていく。

 そして──弾けた。


「ん、ん…ん…ッ!!」


 レオンの喉が、グラスの減りが、止まらない。

 黄金を飲み込み続ける喉は、まるで掃除機。

 エンジン全開。吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機。

 最後の一滴まで飲み込み、呑み込み、飲み干していく。


(美〜味〜い〜ぞ〜〜〜〜ッッッ!!!!)」


 心の中心で、美味を叫んだ。


「ぷは~っ! たまんないな~、おい!」


 数日振りのビールだ。

 最後に飲んだのは──そう、『アークドラグノフ』で弓弦の紹介をした時。

 アデウスとの激闘を終え、部下を求めて流離さすらい続け──苦戦の最中に辿り着いた一杯は、正に「至高」の一言であった。


「もう一杯、頼むわ~」


 オアシスの恵みに等しき一杯をより堪能せんと、レオンはお代わりを注文していた。


「良い飲みっ振りだな。ところでお客さん、この国には何しに来たんだい?」


 店主は流れる動作でジョッキにビールを注いで持って来る。

 どうやらレオンの話に興味があるようだ。


「お~お~。俺はこんな身形みなりだが、一応歴史研究家の端くれでな~。今は二百年前の事件について調べている」


 情報収集の時は、それに適した職業に身分を偽るべし。

 セイシュウからの入れ知恵を用いて、探りを入れてみる。


「何か知らないか~?」


 店員は唸りながら、腕組みをした。

 レオンは次の言葉を待ちながら、耳を澄ましてみる。

 こういった酒屋然といった場所は、井戸端会議と同じだ。思いもよらない時に、良い耳寄りな話を得ることが出来たりする。

 情報収集には欠かせない場所なのだ。

 知らない場所では、まず情報収集。セイシュウやリィルから口酸っぱく言われているので、渋々レオンも他の世界を訪れた時は毎回利用している。

 渋々だ。そう、渋々。決してビールが飲みたい訳ではない、決して。


「二百年前か…。実は俺も子供の頃に聞かされたことがあってな。まぁ…今となっては半ば御伽噺おとぎばなしみたいな代物だ」


「それでも良いさ〜」


 レオンが促すと、店主は軽く頷いて話し始めた。


「…前置きしたように、半ば御伽噺だからな…。事実とどこがどう変わっているのかは、想像も付かん。だが、敢えて特徴らしい特徴と言えるのは…諸説が無いってことだ。つまり、俺が今から言うことは可能性として一つしかない真実か、そもそも真実足り得ない虚偽のどちらかだ。一つしかないからこそ信じるしかないんだが…な──」


 店主が話した話は殆どがレオンが既に文献で読んだ内容と同じ(曰く、事件についての文献もその一種類らしい)だったので割愛するが、話の中のある一点でレオンは奇妙な違和感を覚えた。

 それは言ってみれば諸説無いからこその小さな違和感だ。


「“天を突くような氷の柱”が“エルフの島”…から?」


 違和感が、広がっていく。

 何か、違う。


「そう、氷の柱とエルフの島だ。研究家だろお客さん…。ちょっと酔いが回ってるのかもしれないな」


「あ、あ~…そうみたいだ~。どうも混乱しているみたいだから確認させてくれ~、『悪魔は“エルフの島”から立ち上った、天を突くような氷の柱が砕けると同時に、同じように砕け散った』…よ~し整理出来た」


 光の柱が、氷の柱に。

 呪いの島が、エルフの島に。

 悪魔は消え去ったのではなく、砕け散った。

 伝え方の違いによるものか、それとも──別の何かか。

 調べなければならない。レオンは席を立っていた。


「そうだ〜。さっきの話…何か文献を見られたりしないか〜? 無いなら無いで構わないんだが〜」


「それなら、国が管理する図書館に行ってみると良い。厳しい入館規則があるが、ちゃんと厳守すれば入れるはずだ」


 次の目的地が──決まった。

 場所も確認し、レオンは財布を取り出す。


「お〜。そりゃ良い! すまないな〜、色々と助かった」


「おう、毎度あり〜。気に入ったぜお客さん! 次はあんたの為にとってきおきのつまみを用意してやる。だから絶対来いよ!」


 話を聴いている最中、良くもここまで頭が回るようになったと内心感心しながらも。代金を支払い終えたレオンは、手だけで応えて外へ出た。

 次に目指す場所は、国の図書館。場所は既に通り過ぎて来た街の入口側だ。

 人混みで賑わう道の端を歩こうと、レオンは周りをキョロキョロと見回した。

 露出度の高めな人々に時折眼を奪われながらも、人通りの疎らな空間を探していると──


「って…今のまさか…!?」


 見覚えのある人物が二人、遠くに見えたような気がした。


「そこの二人! 少し待ってくれ~!」


 一瞬で人混みに消えかけたその二人の人物を呼び止めようと、彼は逆方向──王宮の方へと走って行った。

「ぐぅ……」


──弓弦、弓弦。


「ん…?」


──眼覚めるのです、弓弦。


「…知るか。すぅ…」


──弓弦、弓弦。


「ぐぅ…」


──弓弦、弓弦……。


「ぐぅ……」


──何故眼覚めないのですか、弓弦。

 

「…知るか、すぅ……」


──弓弦、弓弦…。


「……Zzz」


──起きなさいッ!


「ッ!?」


──良いですか、私は内なる声。


「…はぁ」


──今はあなたの心に、直接話し掛けているのです。


「…はぁ」


──はぁ。じゃありません。もう少しありがたがりなさい。


「あのな…それ言い出したら、余計にありがたくなくなるんだが」


──捻くれていますね。


「そりゃどーも。こっちは折角の休みを潰されて、少し虫の居所が悪いんだ。頼むからさっさと休ませてくれ……」


──現代を生きる若者が、そんな体たらくではいけませんよ。


「出来ればツッコミを入れたくもないんだ。放っておいてくれ…」


──眼覚めなさいッ!!


「ッッ!?!?」


──まったく…もう少し、しゃんとしてください。


「いやだから…誰なんだよお前……」


──内なる声です。


「で、誰なんだ?」


──内なる声です。


「そう言うの良いから。登場人物の内の、誰なんだ?」


──内なる声です。


「望み通りの答えが得られなければ、エンドレスと言うことか。なんて維持の悪い」


──意地が悪いのは、どっちですか。


「で、何が望みだ?」


──それは。


「予告だな、良し言うぞ」


──いえ、そうじゃなくて。


「『物が集えば、人も集う。しかし願えど暮せど待てど待ち焦がれても、訪ねる声は聞こえない。やがて少女は待ちくたびれ、自ら腰を上げる。人の集いに、見知った背中を追い求めて──次回、商業王都カリエンテ 後編』…じゃおやすみ」


──なんて身勝手なのですか…っ!


「…Zzz」




「なぁ、フィー」


「…はい」


「…と言う夢を見たのさ」


「…どんな夢よ、それ……」

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