心のカギ
お馬鹿な二人が去った後。
二人が消えた方向に眼を遣っていたフィリアーナに対し、レティナは明後日の方向を見ていた。
「…あの二人、なんであんなに急いで村に向かったのよ。…怪しいわ」
もう少しコソコソと行ってほしかったものだ。デイルの隠し方も雑で、茂みから足が片方飛び出しているという珍妙な光景がそこにある。
流石に隠している場面は見られていないはずだが、あの様子では姫様に気付かれるのも時間の問題である。
そこでレティナは、彼女を図書館へと連れて行くことにして場所を移させた。
「相変わらずの本の量。本の都ね、ここは」
見渡す限りの本、本棚、本、本、本。
外から見た限りでは普通の一軒家のように見えるのだが、クンティオ家が管理する図書館は地下へと続く建築構造となっているため、巨大だ。
構造と共に、ひたすらに地下へと続く蔵書の数は、既に正確な数を把握されておらず、一体何冊あるのかレティナでさえも知らない。
館のどこかに目録があるのは伝えられているのだが、その場所が分からない以上知る由が無いのだ。
「で、何のために私をここに連れて来たの? 私、少し村に行きたいのだけど」
行かれては困るから連れて来たのは間違い無い。
しかし連れて来たは良いものの、何か時間を潰すことの出来る用件があっただろうかーーーそう考えると、やはり無い。
「…少しお手伝いを頼みたいのよ。本があるかの確認をね」
無理矢理引き出した用件である。
先の通り、目録自体が無い以上本の確認なんて出来るはずがない。
「この紙に、あそこのA-1の棚からある本の名前全部書いていって。私は向こうのA-9から見て確認していくから」
完全な時間稼ぎだ。
一つの棚にすら何冊あるのか分からないが、見たところ百冊以上はある。到底すぐに終わるような作業ではなかった。
「…正気? 一つ一つの書名を書くなんて、馬鹿みたいな時間が必要よ?」
明らかに困ったような表情のフィリアーナに対し悪いと思ったが、すぐに頷いて作業を促す。
「…書けば良いのね、書けば。その代わり何を要求されても文句言わないでよ」
「私に叶えられるような要求ならばね。さぁ、始めて」
紙とペンを受け取ったフィリアーナは一番最初の棚に向かう。
聞き分けが良くて助かった。面倒極まりない作業であり、頼んだレティナならば絶対にしたくないと切り捨てるが、そこは姫の優しさなのだろう。早速作業に没頭しているようだ。
「じゃあ私も…っと」
レティナも目的の本棚の前に立ち、一冊ずつ書名を見ていく。
「安価な魔法具」、「行宮の花」、「暗号を解いてみよう」、「安全な魔法」、「アルス・マグナ」「暗譜」「アンプルを刺せば」、「アンベネボランステンペストな毎日」、「安保の闇」、「アンポンタンセレナーデ」等、等ーーー
「…相変わらずバリエーション豊か。…こうして見ると、読んだ覚えのない本も結構あるわね…」
中を読もうとはしない。
フィリアーナの様子を見ておかなければならないからだ。
「…はぁ」
当の人物は現在、溜息を吐きながら紙にペンを走らせている。
本人としては、本の内容を読みたいのだろう。その視線は本と紙の往復に対して実に退屈そうだ。
気持ちは分かるので同情するが、変に声を掛けると文句を言われそうだったので放っておくことに。
「…? んん…っ」
ーーー暫くして。
戦闘による疲れからなのか、立ちながら眠るというちょっとした技をやってのけたレティナ。
寝ている間に自分が何をしていたのかド忘れしてしまった彼女は、キョロキョロと辺りを見ている内にそれを思い出した。
フィリアーナは今、どこまで本の確認を行ったのだろうか。
そんなに多くの時間を睡眠に費やしていないはずだがーーー?
「‘…ぇ、そこでそんなこと…? …す、凄いわ…っ♪’」
フィリアーナは、本を読んでいた。
妙に興奮気味に頬を紅潮させている彼女の手には、「や行」の題名の本があった。
以前の読者が元の場所に本を戻していないと、別の行の本が本棚に紛れ込むことが時々ある。今回もそのパターンだろう。
着眼点は良い。書名の確認という目的に十分以上に沿っているから。
だが本の内容に没頭するとは予想外だ。
なので暫く様子を窺うことにした。
まず、一体何の本を読んでいるのだろうか。
魔術書ーーーにしてはページの量が少ないか。
例外として、一つの魔法に対して延々と記述された魔術書も存在するが、冗長過ぎる文章は決して面白いものではない。
まして、あんな恥じらいながら読むような文章ではない。
「‘…ぇ…首輪付けてお散歩…? そんな恥ずかしいこと…。ぁ、でもこの絵…幸せそう…’」
微かに聞こえてくる声の内容も、どこかおかしい。
首輪? お散歩? 何を読んでいるのだフィリアーナよ。
「レティナ、姫様はここに居るか!」
図書館の入口からガノンフの声が聞こえた。
村ですることを終えたのだろう。スートルファとデイルも居た。
「っ!?」
フィリアーナが空かさず本を棚に戻した。
「やっぱりここに居ましたね。場所を変えるのなら事前に言ってほしかったです」
「悪かったわよ」
デイルの隠し方が雑でなければここに来ることもなかったのだが、それを言う訳にはいかない。
フロアの中央にある本の貸出受付の机の下に移動したレティナに従い、他の面々も集まる。
「何をしていたんだ?」
「本の整理よ。時間がある時ぐらい少しでも良いからやっておかないと」
間違い無く殆ど終わっていない。
片や立ち眠り、片や読書。やっていたことは単なる時間潰しに他ならない。
「そうね、レティナがやっていたのは、立ち眠りと言う時間潰しだけど」
突っ込まれた。
「姫様こそ、やっていたのは読書と言う時間潰しでしょ?」
なので突っ込み返す。
本人は気付かれていないと思ったのかその言葉に固まる。
おそらく彼女は、ガノンフ達がここに入って来るまでずっとレティナが寝ていたと考えたのだろう。
「ほぅほぅ…。姫様や、どんな本を読んでいたのですかな? この老いぼれに是非とも「駄目っ」…?」
「駄目、駄目よ。それは駄目。駄目なの」
狼狽振りが見事である。
余程見られたくないのか本人は必死に「駄目」を連呼するがしかし、何の意味も無い。
「…確かA-2の本棚でしたな。ガノンフ、手伝ってくれい」
「はっ」
行動あるのみの二人を止めようと、彼女は本棚に先回りをしに急いだ。
「‘…では、取り敢えず報告をします’」
当然、レティナとスートルファからは離れていく訳で。
「流石ね」と言葉を挟んでから彼女は報告に耳を傾けた。
「‘…それ、本当?’」
「‘えぇ。ガノンフと手分けして捜索に当たりましたが…何も……’」
何もーーー村には何も、無かった。
死体も、戦いの形跡すらも。まるで、戦い自体が無かったかのように。
「‘…つまり、ハイエルフの死体が一つも無かったと言うの? そんな馬鹿なことが’」
「‘村長にも話したんです。そうしたら、『長老様が魂を導いたのじゃろう』と……’」
合点がいく。
生命がその一生を終える時、その身体が時間の経過と共に魔力に還っていくのだが、今回はそれが大きく早められたのだろう。
長老の樹には、ハイエルフの始祖が死に際にその魂を宿したとされる逸話が伝えられている。だからあの樹は「長老の樹」と呼ばれ親しまれているのだ。
「‘長老の樹に宿る始祖の魂の…長老様の仕業…ね。でも、こう言っては何なのだけど。亡骸が無いのならまだ皆がどこかで生きているような…そんな気がしちゃうの’」
「‘夢を見るような歳ではなかったと記憶して…ませんが’」
一つ咳払い。
あのまま言葉を続けていれば、何かが襲来しただろう。本当のことだとしても、言って良いことといけないことはあるのだ。
しかし彼女の言っていることにはスートルファも納得した。
誰の死体も無いのならば、誰もが死んでいないのかもしれないと思った。
だからガノンフと手分けして村中を探した。
図書館に来るまでに時間がかかったのはそのためだ。
デイルに声を掛けられるまで諦め切れずに探し続け、今に至っている。
「‘長老様の加護については半信半疑な反面、私も信じるしかないと言う結論に達しています。…姫様の件もありますし’」
「‘村長は何て?’」
「‘同じです。信じるしかありませんよ。眼の前で起きたこととは言っても他に反証のしようがありませんし’」
謎の現象は長老の樹のみぞ知る。
説明が付かないことの逃げ道にも思えるが、下手に考えても時間の無駄にしかならない。
「これも違うか。姫様が読みそうな本…これか?」
「…知らない」
レティナは視線を本棚の方へと向ける。
楽しそうな光景が向こうで繰り広げられているようだ。
「これかもしれんぞ? どうですかな姫様」
「知らないっ」
「いや、きっとこれだ」
「知らないって言ってるでしょ! いい加減にしないと“アイスバインド”で口塞ぐわよっ!」
言ったそばからデイルとガノンフの口が氷で塞がれた。
その光景に二人は固まらずにはいられなかった。
まさか二人共消耗していたとはいえ、無詠唱の妨害系魔法を成功させるとは。信じられない。
「‘…『闇堕ち』の影響?’」
「‘もしくは長老様の加護…?’」
それが彼女にとって良いことか、悪いことかは分からない。
だが確かなのは、フィリアーナの魔力は以前よりも強大になっているということだ。
「‘…大体のことは分かったわ。三人を呼び戻すわよ’」
このままでは埒が明かないのもあった。
村を襲ったのは、人間。
この図書館に居るハイエルフ以外の住民は、遺体すら残さず魔力に還った。
黒煙が上がっていたはずなのに、いつの間にか元の平穏を取り戻している森、木々。
スートルファとガノンフが語り掛けてみたが、彼等は何も語ってくれなかったため、分からず終い。
一体村で何があったのか。それを直接眼にしたのはデイルだけ。
彼の口から全てを訊かなければ。
「‘いや待って。私達の方から向こう行った方が自然?’」
「‘そうでしょうね。行きますか?’」
頷き、三人の下へ。
「レティナっ! あなたが変なこと言うから二人が変な行動に出ちゃったじゃない! もぅっ」
本棚を背中に庇うようにして吠えるフィリアーナ。その足下ではガノンフが正座状態になっている。
「(…『妖精は夜に舞う』、ね)」
レティナはそれを聞き流しながら、彼女が恐らく隠そうとしている本のタイトルから記憶を手繰る。
何気に酷い態度だが、本のタイトルが記憶の隅で引っ掛かったような気がした彼女は、それだけ集中して思い出していたのだ。悪気は無い。
「あ」
思い出した。
そのタイトルの小説シリーズは以前読んだ記憶があった。
もしかしたら違う本棚に入れたのは自分かもしれないと思いつつ、緩んでいく頬を無理矢理元に戻す。
ーーーそう、あれは小説は小説でも、内容が限りなく官能系に近いジャンルだった。
高貴なる妖精であるハイエルフの女主人公が人間の男と恋に落ちるまではまだ恋愛小説なのだが。その後恋人となり、障害を乗り越えて夫婦となってからはーーーもう、やりたい放題だ。
出会った頃の描写から匂わされていたのだが、人間の男はSっ気があり、少し意地悪をしただけで大袈裟に反応してしまう主人公のことが好き過ぎるあまり、色々なことをしてしまう。
最初は探り探りなのだが、徐々に要領を得てきた彼は、あれやこれやと新しい弄り方を模索し続けた結果、一つ一つの行為がエスカレートしていく。
例えば激しく攻め続けたり、玩具を購入して来て使ってみたり。
愛されているのは分かっているが、少し方向性のズレた彼の感覚がおかしくて、どこか微笑ましく思っていた主人公だが、ある日彼女は気付いてしまう。
ーーーそう、自身もまた、感覚がズレ始めていたのだ。
椅子に身体を投げ出すようにして腰掛けていた時、恥じらいながらもたまたま緩めに付けていた首輪が、偶然椅子の背凭れの端に引っ掛かり、強く首が絞められたその時、彼女の全身に電流が走った。
電流のように駆け巡る快感。偶然とはいえ、ドMの世界に足を踏み入れてしまった彼女もまた、堕ちていくーーーそんな内容だった。
ところで、フィリアーナはまだ子どもだ。
幼女という程幼くはないが、それでも十四という歳は十分に幼い部類に入る。そんな彼女にこの本の内容は如何なものか。
「(…如何なんてものじゃないわ。幼い姫様には刺激が強過ぎるっ!)」
情操教育上大変よろしくない。
大変? 否、とんでもなくよろしくない。
止めなければ。だが、どう読むのを止めさせたものか。
「…じー……」
何かを察したらしいフィリアーナがジト眼で睨み、脅してくる。
「話したらただじゃおかないわよ」と、その瞳は語っていた。
「…そうそう! 本の確認はどこまで進んだの? 見させてほしいのだけど」
無理矢理な話の転換をさせられる羽目になったが、フィリアーナの脅しはそこで終わった。
「あら」
渡された紙には、意外にも本の題名が書かれている。
読書を始めたのは終わりがけだったのだろうか。真面目にやっていたようなので少し悪い気がしてくる。
一応本棚と照らし合わせてみるが、漏れはなかった。
「うん、ちゃんとあるみたい。お手伝いありがとね」
「暇潰しとしては丁度良かったもの。…で、そろそろ村に行っても良いわよね。ガノンフとスートルファのコソコソも終わったようだし」
フィリアーナには、『闇堕ち』する少し前からの記憶は無いようだが、起こった事実はいずれ知る必要が出てくる。
しかし彼女が今それを知る必要があるのか、の問いには答えを出すことが出来ない。
知ることで再び『闇堕ち』してしまうかもしれないという可能性が否定出来ない以上、知らせるべきではないのかもしれないーーーが、先延ばしにするには彼女を引き止めるための理由が無かった。
「…ま、待ってください姫様! 私も付いて行きますっ!!」
結局彼女を止めることは出来ずに、外出を許してしまった。
もう止めることが出来ない彼女を、スートルファが後を追った。
「…姫様、落ち着いているわね」
「…分かっているん…だよな? きっと。…それであんな感じならば、これからも大丈夫だと思うが……」
唯一の救いともいって良い彼女の様子。
あの様子ならば『闇堕ち』をする可能性も低いと、二人は考えたのだ。
だが、
「…はたして、本当にそうなのかのう?」
デイルは胸に去来した不安を感じずにはいられなかった。
* * *
村は静かに在る。
右に見えるも、左に見えるも、見えるは変わらない景色。
ヒトだけが欠けた光景は、ヒトの営みの名残を遥か昔のものに感じさせた。
「……」
ゴーストタウンとなった『妖精の村ブリューテ』に、少女は無言で立っていた。
周りの光景を見、俯いたのは愕然とでもしているのか。
その隣でスートルファは、恐る恐ると彼女の様子を窺っている。
ヒトだけが欠けた村を見て彼女が答えに至らないはずがない。
「(…姫様……)」
長老の樹からの記憶が欠如としていたということは、彼女は今、身内の死、仲間の死を追体験していることになる。
幼き少女が感じる痛みは如何程のものなのだろうか。
よもや、また『闇堕ち』してしまうのではないかーーーと焦りを感じたスートルファだが、予想は意味の無いものとなった。
「皆…皆、もう居ないみたいね」
顔を上げた少女は寂しく呟く。
肯定すべきか、否定すべきか。男の中で二つの選択肢が生じる。
「…えぇ、もう誰も居ません」
選んだのは肯定だった。
変に誤魔化すよりも、真実を捻じ曲げるよりもーーー事実を伝えるべきだと判断したためだ。
それは、賭けに近かったものだ。
『闇堕ち』の可能性を認めながら、フィリアーナに絶望を与えたのだから。
しかし仮に否定したとしても、魔力を視ることが出来るハイエルフにとってはその場凌ぎでしかない。
以前ならまだしも、今のフィリアーナの魔力はおそらく、村の誰よりも強大なものになっている。当然魔力を視る力も強くなっている彼女が、村に起こった異変を直接眼にした時に何も気付かないはずがない。
「…皆、殺されたのね。人間に」
その呟きは、淡々としていた。
親を眼の前で殺された記憶さえ欠けていれば、堕ちる程の激怒に繋がらないのだろうか。
「…人間が憎いですか?」
翡翠色の瞳が冷たい光を放つ。
「…仇を取ってやりたい気分ね。やられて終わりなんて、嫌だから」
瞳を一瞥したスートルファは、違和感を感じた。
少し、冷静過ぎるのではないだろうか。
予感は抱いていたのだろうが、彼女は今、村のハイエルフが殺されたことを知った。
親の死を知り、知り合いの死を知ったーーーにしては、落ち着いている。
もう少し怒りを覚えても良いはずだ。
「姫様は強いですね。私はもう少し怒るものだと思っていましたが」
「さぁ…? 良く分からない。私が気絶している間に起こったことなのでしょ?」
風が吹いた。
「…姫様、本当はいつ気絶されたと記憶しているのですか?」
「長老の樹の近くでケルヴィンと別れた時よ。眼が覚めた時もそこに居たのだから」
フィリアーナを通り抜けて、スートルファの下へと流れてくる風が伝えてくる。
本当にそうなのだろうか。
風が、疑問に濁っているように思えた。
「…ケルヴィンと別れたその場で気絶した。間違い無いですか?」
「…何を突然。だって、そうとしか説明が付かないでしょう? 私、眼が覚めた場所から一歩も動いていないのだから」
「いいえ、そんなことは有り得ません」
一歩も動いていなかったのか。
その疑問の答えはすぐに出た。
ケルヴィンとフィリアーナが別れた場所と、フィリアーナが眼覚めた場所は、違う。影ながらそれを見ていた以上、明らかなものだ。
「…相も変わらず影ながら見守っていたのね。で、だとしてどう変わると言うの? どうせ衝撃波か何かで吹き飛ばされて来た…なら、説明出来るでしょ?」
スートルファ達は基本長老の樹の前に居た。
その場から離れた時は、村の様子を見に行こうとした時ぐらいか。フィリアーナと会敵後すぐに撤退して元の場所に戻ったが、少しでも離れてしまった以上その可能性は否定し難い。
服もそうだ。吹き飛ばされたのなら、多少は地面を転がる。
なのに服には一切の汚れが無い。矛盾点ではあるが、それを追及したところで、大した意味にはならない。
攻めるとすれば、別の部分だ。
「姫様、本はどうされました?」
「本……」
問題は、フィリアーナが気絶中に移動した方法ではなく、「どこで気絶したか」だ。
フィリアーナは本を持っていた。
だったら、本があった場所が彼女が気絶した場所ーーーつまり、記憶が途切れた本当の場所ではないのだろうか。
「確かに持っていたけど、気絶している間にどこかに行ってしまったみたいね」
「その本、実は今私が持っています」
「…え」
スートルファは懐から一冊の本を取り出す。
それはフィリアーナがケルヴィンと話している際持っていた書物だ。持ち主もフィリアーナで間違い無い。何故なら。
「姫様の部屋にありましたよ。姫様の部屋の姫様の机の上に」
「なっ、す、スートルファっ! 私の部屋に入ったのっ!?!?」
村の隅々を調べたということは、当然村の建物も隅々まで調べたということ。つまりその中には、住民の私室も含まれている。住居の二階部分にあるフィリアーナの部屋とて例外ではなかった。
「ケルヴィンと別れてから姫様は自室に戻っている。…間違いありませんね?」
「ぅ…っ、き、記憶に無いわ」
口振りからすると間違い無い。
しかしどうすれば白状させられるのだろうか。
「そうよ。きっと誰かが本を届けてくれたのよ! お父様かお母様か、そのどちらか!」
「それは有り得ません。あの御二方ならばきっとあの本を、地下の書庫にしまわれます。その場合、姫様の部屋にこの本があるはずはありません」
「だ、だとして! 私の気絶した場所、私の記憶が途切れた場所が別の場所だとして、一体何が変わるの?」
「それはーーー」
変わる部分。
フィリアーナの心の端に燻る炎に触れる核心。
「ーーーあなたが最後に見た光景、復習する相手の姿ですッ!!」
「っ!!!!!!!!」
突き付けたスートルファの指から放たれた風魔力が、フィリアーナから吹き付ける風の濁りを消した。
「ふっふっふ……弓弦、見~付けたっ♪」
「おわっ、久し振りだな。…しかしこっちで会わせるとはな。またどうして」
「ふふふっ。そりゃ決まってるじゃん♪ 次回で突然打ち切りエンド♪ 私が弓弦の子どもに囲まれて、弓弦と爛れた毎日を送っている最終話を投稿するからだよ♪」
「うん、それ違う。違うからな」
「えー? だってこれフリじゃん。打ち切りエンドのフリだよ」
「俺にハリセン振れって言うフリなら分かるな。と言うことで」
「あっ♡ 幸せ……♪」
「叩いていないのに変な声上げるなっ」
「えー。でも弓弦に叩かれるとキュンってするし……」
「何か俺が暴力亭主みたいな言い方だな、それを発展させていくと」
「良いじゃん良いじゃん♪ 亭主亭主♪」
「えっ…。私の亭主…嫌……?」
「さて、な? さ、時間だ」
「うぇーっ!? もう終わりかぁ。だって今回、後書きが本編でしょ?」
「…否定は出来ないそうだが、まぁ…後ろがつっかえてるから。トップバッターってことでちょっと贔屓したことにならないか?」
「んん…まぁそうだけど。だって私が最初のヒロインだし…メインヒロインだから中盤のラストでは私が弓弦のかあぐぅっ♡」
「まだ構想の段階だからその先は駄目、な? ま、いつになるか分からんがその時をお楽しみにってことで。…はい、神ヶ崎 知影の出番は終わりだ」
「ぅぅぅぅ……」
「次は誰だ?」
「僕だよ、弓弦」
「あぁ。久し振り」
「ちゃんと男キャラにも出番あるみたいで良かったよ。一応僕の方が向こうで唸っている人より先だから」
「そうか? まぁ改稿ばかりしてるから曖昧だな」
「君がメタ発言してどうするんだい?」
「察してくれ。今回はこんな感じの後書きなんだ」
「…察したよ。じゃあ僕の出番は少ない方が良いんじゃないかな?」
「…長さを考えるとそうなるが……」
「女性に花持たせないとね」
「だからってモテるとは限らないぞ」
「知ってるよっ!! 酷いなぁ弓弦。良いさ、なら僕も、今後あるだろう僕メインの章についての爆弾投下するから! 心して聞いてよ皆! 実は僕が居た世界が二種類あることは理由があって今後の展開では重要な要素を担うあるものかあるんだ! その場所の名は「吹っ飛べ!」名はぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
「…危ない発言だ。あれは駄目だ。…はい次は展開的に…?」
「僕だよ弓弦君」
「ディオと良く間違われ易いセイシュウか」
「キツい一言言ってくれるね。強ち間違ってはいないけど、何とか書き分けられているはずだよ」
「あの作者にそこまで期待しない方が、な」
「…酷いね、言い方」
「文章力が無い作者が悪いさ」
「メタいね。で、この流れだと僕も言うべきかな? 学園編はこの次の次の「吹っ飛べ!」」
「…危ない、油断大敵だな」
「博士の次は私ですわっ!」
「リィルか」
「当初は私もヒロイン候補でしたけど、昔の話ですわね。今ではしっかりカップリングが出来ているので良いですわぁ♪」
「個人コーナーも設けられたしな。大部重用されてるみたいで良かったな」
「救済措置…にしては贔屓が過ぎるように思えますけど。…あ、ここだけの話ですわよ! オフレコでお願いしますわ」
「作者には秘密か」
「えぇ♪」
「…。まぁ良いか。何か言い残すことは?」
「断頭台で処刑されそうな気分になりますわ。…無い方が良くって?」
「そうだな。助かる」
「では、これからも番組を宜しくお願いしますわ~♪」
「…マラソン気分だ。次」
「お~、俺か~」
「そうだな」
「ん~、お前さんの物語が始まってから、早…早いもんだな~!」
「……次」
「っておい! 幾ら何度でも…って、うぉっ!?」
「レオン」「レオン君」「レ~オ~ン♪」
「なっ!? お、お前さ、ど、どわぁぁぁぁっ!?!?」
「ーーーッ!? 気にしたら負けだ。次」
「…うむ」
「…どうした?」
「…ここ…少し暗くないか…弓弦」
「…怖いか?」
「…こっ、怖くなんかないぞ! 怖くなんか…‘怖くなんか…ぁぅ’」
「はは…」
「ぅ…っ」
「こうしてれば怖くないか?」
「…。ゆ、弓弦…随分とサービス精神旺盛だな……」
「そりゃそうだ。サービス、だからな」
「ぅ……ぁぅぅぅぅぅぅっ!!」
「…。やり過ぎたか」
「キシャ」
「…責めてくれるなよ。アデウス」
「キシャシャシャシャ、キシャシャキキキキシャキ」
「これからも…チラリチラリと出番がある感じだな」
「キシャシャシャ?」
「メイン…メイン…か。さぁ…どうだろうな? 悪魔達の括りで言えばあるとは思いたいが何とも、だな」
「キシャ……」
「お前のハリセンには助けられてるんだ。きっと出番もあるさ」
「キシャ!? キシャシャ!!」
「っと抱き付くなよ…ははっ」
「キシャ♪」
「あぁ、じゃあな」
「…あら、私にも出番あったのね」
「まぁ、ヒロインだし今回は特別だからな。本編の状態とはお構い無しだ」
「ふふ、嬉しいわ♡」
「抱き付くなよ。嫉妬されるぞ」
「…結婚してるのに駄目なの?」
「…皆平等に、だ。フィー。ハイエルフで言ったところの結婚しているんだって主張するのなら欲張るな」
「…欲張り…駄目かしら」
「駄目とは言いたくないが…。他のヒロインより何歩もリードしている状態だしな。勘弁してやってくれ」
「…分かったわよ。…ちゅ」
「っ」
「これぐらいは許して」
「…わざわざ擬音入れてまで表現するな。そんなことするからテコ入れだどうの言われるんだが…ってもう居ない」
「あらあら、相変わらずで御座いますね」
「風音、息災だったか!」
「…キャラメルが崩れていますよ? 弓弦様」
「…キャラメルか。キャラクター、だな…って、乗ってくれないのか」
「…はい、貴方様が戻られる日を心待ちにしている風音です」
「…待たせて悪いな。だが確か…一日こっちの世界に来ていたよな」
「はい。馴染みの方の下に伺う用件がありましたので少し帰郷を」
「…まさかとは思うが、せめて同じ世界に居ても良いじゃないか…なんて思っての行動じゃないよな?」
「それは思い違いです、思い違いで御座います、思い違い以外の何者でもありません。ついでの用件としては別のことがありましたので」
「? 何なんだ?」
「いずれ。設置場所の確認も終わりましたので、材料集めに移った際は宜しく御願いしますね♪ 二人切りで深い森に……クスクス」
「…さりげなく言ったな」
「油断大敵で御座います♪ …そして此方も」
「おっと、残念ながら読めていたんだなこれが…って、居ない」
「クス…まさか接吻されると期待していらっしゃったのですか? 残念、只今の気配は残像の気配です♪」
「ぐ」
「…美女回転寿司」
「イヅナ! イヅナ…」
「……?」
「よーしよしよしよしよし♪」
「…気持ち良い」
「我も忘れるな、貴様」
「バアゼルか。そう言えば風音の前に出て来なかったな」
「貴様の所為で蜜柑が落ちた。どうしてくれる」
「肩に乗っていたのか。気付かなかった」
「訊いているのか。どうしてくれる」
「はいはい、蜜柑、段ボールな」
「…三箱だ」
「多いなっ」
「当然の報いと知れ。我の蜜柑を娘の肩より叩き落としたのだからな」
「…お前も大部イロモノになったな」
「…。貴様と邂逅した故だ。弓弦」
「そうかそうか。俺は嬉しく思うぞ」
「フン……」
「…バアゼル…蜜柑欲しくてワザと落とした」
「あぁ、知ってる。茶目っ気あるな」
「…私も蜜柑欲しい」
「あぁ、バアゼルに分けてもらえ。どうやらお前のことを気に入ってるみたいだからな」
「…コク。…後…」
「ん?」
「…少しだけぎゅってして」
「あぁ、良いぞ」
「……」
「……」
「…ありがと」
「…さて、次は?」
「今回は『最初の異世界』編までで終わりだ」
「…げ、アンナ」
「…『げ』?」
「いや、何でもない。そうか、終わりか。なら、予告言わないとな、予告」
「さっさと言え。お前に少し、向こうで話があるからな」
「『姫様…どうして記憶を隠されていたのですか。人間の襲来、惨殺、記憶制御…まさか…まさかーーー次回、支配されたキオク』…我々の目指す場所は、決まりましたね「さぁ行くぞ」ぐっ!?」
ーーーなっ、止めろっ、止めてくれっ、ヤメローっ!?
「…フッ。次回の二周年記念の後書きも楽しみにすることだ…っと、まだ二周年と誰も言ってなかったようだな。あの男め、女と話すことばかりに集中して、忘れていたな? …まぁ、そう言うことだ。今日でこの物語は二周年。どうかこれからもよろしく頼む」
ーーー台詞取らないでくれぇぇぇぇっ!!!! ぁぁぁぁぁあああああああっすぅ!?!?