説明は続くよイツマデモ
軽快なファンファーレは、続く。
暗闇の中を照らすが如く、軽やかに、耳朶に快をもたらす。
聞こえてきた。
何の音ーーー否、それは、声。
聞くものの耳朶を打つのは、玲瓏たる声が紡ぐ、音。
声音は階段を上り、下りる。
流れるように、跳ねるように。時として、立ち止まって。しかし、確実に進んでいく。清流の、止めどない流れのように。
流れの源流にいるのは、女。
湧き出でる水の如く、その喉から音を流して。流れを作っていく。
その様は、夜空に星を流す様。
その様は、流星にして、流声。
流声が、川を流れていた。
「教えて! それは何? 教えて! お姉さん♡ そのお悩みを解いてあげます♪ タヌキさん? 違うよ! 妖精さん? そうだよ! ユリタヌキって言うんだよ♪」
ーーー簡単に述べるとすれば、レイアが上手に歌っているということだ。
「綺麗な、お姉さんと可愛い、ユリタヌキ♪ 二人が楽しく教えてくれる〜♪」
曲名、『説明を楽しく♪』
リィル作詞作曲のテーマ曲だ。
「集まれ〜! 皆〜♪」
歌うのはレイア。
何故か白羽の矢が彼女に立ったのだ、ノリノリだ。
歌うことが好きな彼女としては当然の行動なのだが、ユリタヌキは少し困惑してしまう。
ぶっつけ本番だった。一度メロディを聴いて歌詞カードを渡され、すぐに歌って、この状態。
「皆でおいでよ〜♪ 笑おうよ〜♪」
メロディ終了。
「素晴らしいですわっ! エクセレントですわぁっ♪」
拍手喝采。といっても二人分だが。
歌い終えてスッキリとしたように、「ありがと〜♪」とレイア自身もまた拍手した。
そして沈黙がやってくる。
「…えっと…テーマ曲って書いてあるけど、これって…もしかしてこれか
ら使われたり…なんて…?」
思い出したのだ。
否、恐れるあまりに歌に熱中し、考えないようにしていたことを考えなくてはいけなくなった。
レイアの視線の先にあるのはモニターから変形した、何か。
マイクーーーにしては特徴的な形状をしている。
「…それ…録音用の…マイク?」
そのマイクのことを言うと、リィルは面白そうに高笑いする。
「えぇ、テーマ曲ですもの。このコンデンサーマイク、勿論喜んで使わせてもらいますわぁ♪」
「…ありゃりゃ」
どうやら完璧に録音されてしまったようだ。
そう遠くない日に音源化されてしまうのだろう。いや遠くない日どころか、この説明が終わり次第すぐに取り掛かりそうだ。
それぐらいにリィルは上機嫌である。満足のいったためか今にも歌い出さん勢いだ。
「テーマ曲収録も無事に終わりましたし、このまま続けて説明いきますわよッ!!」
再度の説明が、始まる。
「前回お伝えした通り、今回のお題は、枠組みとして機械工学Iの分野。設計はとある方によるものですが、私説明お姉さんの現状最高傑作であるこちら、銃剣について説明しますわ!!」
マイクが天井に上がっていき、代わりにモニターが降りてくる。
すぐに映像が映し出され、割と見慣れた剣が現れた。
「刃渡り65.5cm、柄10cmの全長75.5cm。総重量は2385g…一般的な剣よりも、若干重めの武器ですわね。ですがここまで軽くしたのを褒めてもらいたいぐらいですわ」
様々な角度から剣を見ていく。
黒のグリップから直接接続するような形で刃が伸び、鋒に続く。
刃は細く長くというより、太く長い形状だーーーいや、もっと正確にいうのならば、中心部分に向かうに従って微かに太くなっているだけで、刃先自体は細くなっている。そのため、少々奇妙な形状だ。
しかし全体的な形としては、美しいとさえ思える直線を描いているのだ。
「……ポン…っ♪」
直線形の美しさは、ユリタヌキでさえも魅入らせる。
妖精さんを魅入らせるのだ。映像に映し出されている武器が、いかにハイテクな物かが理解出来る。
「材質は主に『魔鋼』と呼ばれる鋼の一瞬。玉鋼よりも硬く、展性及び延性の優れた『魔鋼』だからこそ、特異なこの武器が完成出来たのです。…稀少な鉱石でしたが、武器の適正が遠近両用の得物と決まった以上、使わざるを得ませんでしたわ。更に強力な物を作製するには、当然相当量が必要なもので、必死に考えながら惜しみ無く使いましたわ。…でも今となっては、見事な成果のお手伝いとなっていて光栄でしてよ」
『魔鋼』はその有用性に反して、採掘量が少ない。
鋼に比べると加工し難いものの、そう難しいものでもないので、製鉄するのは人の手でなくとも可能だったりする。
「はぁ…思い出しますわ。不眠不休の短時間で二つも機械武器を作るなんて荒技、もうアレっ切りにしてほしいものですわね。…と、それはさておき。主な材質は『魔鋼』と言いましたが、もう一つ主としなければならない物質がありましてよ。後程説明しますわ」
因みに『魔鋼』はその名の如く、魔力との親和性が高い鉱石だ。
そのため、刀身を魔力で覆うといった技も可能とするのだ。
「うんうん、正にユ〜君にお誂え向きの剣だってことかな。私も好きだよ」
「そう言ってもらえて嬉しいですわ。さて、この武器の最大の特徴の説明ですわ」
それだけではない。何故魔鋼という珍しい鉱石を用いたのには、この剣の最大の特徴を実現するためにあった。
「先程も言ったように、この武器のコンセプトは“遠近両用の得物”。近距離戦闘も遠距離戦闘もこなせるようにするためには、武器自体に二つの顔を持たせなければなりませんでしたわ。…そしてこれは、近距離戦闘を行うための、一形態。他の形態もありましてよ! …もうご存知の方が殆どだと思いますが、これですわ!!」
リィルによってリモコンのボタンが押されると、剣の形状に変化が生じた。
刀身の部分が内部に収納され、代わりに出てきたのは、砲身。
無論単純にグルリと回転して砲身が現れた訳ではない。文字通りの変形だ。
一つ一つ、起動した機構が織り成す変容は魔法のよう。それが一瞬にして起きるのだから、製作者の技術力の高さが分かる。
柄の部分には引鉄が現れ、剣から銃への変形が終了した。
「ふっふっふっふっ…おーっほっほ! このスムーズな動き、素晴らしいですわ!!」
剣から銃へ、銃から剣へ。
それが、リモコン操作の下何度も何度も繰り返される。
「…あ、成程成程。あそこがそこでそこが…ここ。へ〜、そうなってるんだ。でも…どうしてこんな綺麗に形が変えられるんだろ?」
「良くぞ訊いてくれましたわ!! ではこの剣の、もう一つの主な材料について説明しますわ!」
モニターに映し出された剣の一部が分離して、もう一つの材料が現れる。
それは、不思議な形状をした部品だ。
形としては丸みを帯びた「凹」に近いだろうか。
これまた不思議な光を放っており、ただの部品でないことが分かった。
「この部品はその名も、『超記憶合金ZZ』…と言う部品ですわ」
ダブルゼーットッ! と謎の叫び声が、何処からか。
「ゼーット…ポン?」
「ダブルゼーット!! ですわ」
リィルもノリノリである。
ゼットもダブルゼットも大して変わらないような気がするが、どうも本人には重要な問題のようだ。
「…何故ゼットではないんだポン? 不思議な気持ちだポン」
ユリタヌキも理解に苦しんでいる。
一体これは誰のネーミングなのだろうか、というと。
「私特製の形状記憶合金ですわ。所謂、オーパーツと呼ばれる元の形状記憶金属、仮称『超記憶金Z』に試行錯誤の末の改良を加え、融合性に富んだ合金にしましたの」
説明お姉さん自身であった。
仮称ということはつまり、彼女が初めて発見したものということになる。
ゼットもダブルゼットも、彼女自身のネーミングセンスより生み出されたものなのだ。
融合性に富んだ形状記憶合金でオーパーツの一種ーーーその響きは、画面に表示されている物質が異質な物質であることの証明だ。
「『魔鋼と『超記憶合金ZZ』の二種の金属が、この銃剣…『ガンエッジ』ともう一つ、『セレイズボウ』を形成しているのです。起動ワード一つで形状を即座に変化させられる遠近両用武器の、要ですわ」
「シフト」や「モードチェンジ」など、起動ワードは多岐に渡る。しかし、どのようにして持ち主の起動ワードを識別して変形するのか。また、剣と銃の二形態でしか変形出来なかったはずの銃剣は、いつしか薙刀になったり、鎌になったり出来るようになっている。まるで、持ち主の意思に武器が応えているかのようにだ。
魔力に反応しているのだろうかとリィルは考えたが、何分オーパーツであるためどこから調べれば良いのか。そもそも、ブラックボックスの塊だからこそのオーパーツなのだから、説明お姉さんの知識でも現在は解明し切れていないのだ。
「…もう少し、私の知識があれば全てを解明出来たのかもしれませんが。オーパーツ…手強くも興味深い物質ですわ」
リィルの手元にある『超記憶合金ZZ』は残り一つ。誰の、どの武器に使うかは決まっていないが、残り一つは「予備」として有事の際までに残しておくことを決めていた。
何があってもおかしくないのが、ブラックボックス。せめて今以上に解析が終了しなければ、次のステップに進むことが出来ない。
何が起こるか分からないーーーそんな危険な要素を内包した試作品をあの時新人隊員に託したのは、「何かが起こるような気がする」という予感がリィルの心を動かしたためでもあった。
「…。オーパーツ…かぁ。じゃあその、ゼット金だっけ。凄い形状記憶性がある金属ってこと以外に何も分かっていないことだよね」
「えぇ、そうですわね…?」
今彼女の心を、別の方向に動かしたのは謎の気配だ。
「おろ、どうしたの?」
二方から全く方向性の異なる気配が発せられていたように思えたが、レイアは不思議そうに見てくるだけだ。
「何でもありませんわ。さて、説明を続けますわ」
「……z」
ーーーユリタヌキが未だゼットの意味について悩んでいる中、説明は続く。
「実力のある隊員ではなく新人隊員に試験兵器を貸与するケースは、別に珍しいことではありませんの。扱い易い武器でもそうでなくても、データが取れればそれで良いと言う風潮がありますから。それに先程も言った通り、可変型の武器に適正が出てしまった以上、言ってしまえば都合が良かったのですわ」
「う〜ん。選ばれちゃった…ってことだもんね。でも、ユ〜君から訊いたんだけど、銃弾装填の原理ってどうなっているのかな。…確か、銃に変形した時に自動装填されるんだっけ?」
「あぁ、それのことですわね。確かに原理が分からなければ困惑してしまう点でしてよ。良い質問ですアプリコット少尉」
銃弾の再装填。
画面に表示されている銃剣を用いた戦いを知る者に、疑問を抱いた者は多いだろう。
どのようにして形態変更時に銃弾が自動装填されるのだろうか。
「…zz……」
ユリタヌキは未だゼットについて悩んでいるようで、カクンと何度も首を傾げている妖精の口からは、文字にすると「z」に該当するものが零れている。
そんなユリタヌキをチラリと見てからリィルはモニターを操作していった。
「ここまでは分かりますわね?」
「そだね。ユ〜君やってるの、見たことあるから」
剣から銃形態となった銃剣のグリップ部分から、飛び出てきたのは弾倉。
「そこに銃弾を込めていくんだよね。どれぐらい入るんだっけ」
「六発ですわ。正確には、六発の銃弾が一発の銃弾の内部に収納されていますので、三十六発分ですわね」
現在、銃剣の最大装填数は六発。
だが、ここで六発を「六発」という意味で捉えてしまうと語弊が生じる。
「おろ、どう言うこと?」
「それは、銃弾の内部構造を見れば分かりましてよ」
レイアにとっても見慣れた銃弾が冠状断にされ、その内部が表示される。
「…えっと、丁度同じくらいの前と後ろに分かれるように、物をバッサリ切った形の断面図。それが冠状断だっけ」
「えぇその通りですわ。良く知っていましたわね。専門用語に該当する言葉ですのに」
ユリタヌキ、未だ熟考中。
リィルとしては、妖精さんに言ってもらいたい用語だった。
大体、解説役はリィルではあるが、おおよその進行役はユリタヌキなのだ。何を悩み込んでいるのだろうか。
「おろ、そっか。医療? の専門用語だったっけ。だけど割と知っている人は知っている言葉…みたいな気がするけど」
「そうなのでして? …まぁ、医療の知識が一般的に浸透していくのは歓迎すべきことだと思いますわ。物騒な世の中ですものね」
「そうだね。本人にとっては正しいことなのかもしれないけど、だからと言って一方的に罪の無い人達に裁きみたいなものを下すのは良くない。命はそんな簡単に奪って良いものじゃないから……」
「…何の話でして?」
思わず訊いてしまう。
心なしか、話している内に焦点があらぬ方向ーーーどころか地平線の果て。どことも知れぬ異世界の彼方にまで飛躍しているような気がしたためだ。
「おろ? 物騒だよねぇって話…かな?私何かおかしなこと言ったかな?」
だがレイアはどうやら普通に話を展開していたつもりのようで、自身の理解度が足らなかったのか暫し悩むリィルだ。
しかしそれでも、彼女の話はどこか荒唐無稽というのだろうか。話の焦点は確かに「物騒」にまつわる類のものなのかもしれないが、妙に解せない。
例えるならば隣の的を射た回答というべきなのか。
本来狙うべきであった的を外れ、隣の的に当たったという事実は分かっても、的のどの位置に当たったのかまでは理解出来ない。そんな、何とも微妙な例えでしか表現出来ない奇妙さだ。
「…説明を続けますわ」
それは置いといて。
冠状断にされた銃弾の内部には、シリンダーが内蔵されている。そしてそのシリンダーの穴には、外の銃弾よりもサイズの小さい銃弾が、六発入れられていた。
「この通り、外側の部分は、内部銃弾を格納するための外装としての意味合いのみのものですわね。装填に関わってくるのは、この銃弾が込められたシリンダーですわ」
銃弾の装填に回答と関わるシリンダーは、実は銃弾内部にのみある訳ではない。
続いて拡大された銃剣内部にも同じ物があった。
「実は銃剣の内部にも同じ物がありますの。このシリンダーと、銃弾内部のシリンダーが接合することによって、装填は完了するのですわ」
形態変更の際、銃剣内のシリンダーに銃弾が装填されていないと、次弾が装填されているシリンダーが空のシリンダーにはまり、銃弾が装填される。
「ですので、先に内部に入っているシリンダーの銃弾を使い切らなければ、銃弾の再装填が出来ませんわ。だから一度の形態変更時に放てる銃弾は六発まで。これは基本的に変えることが出来ませんわ」
「無駄無く弾を撃ち尽くすための“全弾発射”…か。うんうん、良く考えられてるね」
「単純に破壊力も増しますし、一石二鳥ですわ」
「…でも、リィルちゃんの説明だと弾を撃ち尽くしたシリンダーが銃剣内に残っちゃうよね。古くなったシリンダーはどうなるのかな」
「あぁ、それのことですわね」
古くなったシリンダーは新しいシリンダーに押し出される形で銃口側に進み、形態変更時に外に出る剣先と同時に排出される。
「つまり、まず銃剣自体のシリンダーをa、最初に入ってるシリンダーをbとcとします。aを挟むようにしてbとcがあって、cがbの前に銃弾を補充して空になった“元”古いシリンダーです。…この‘元”の訳は後々。さて、bには銃弾が入っています。そこでbの銃弾を撃ち尽くすと、三つの空シリンダーが出来ますわ。ここまでは分かりまして?」
「…何とか、かな。先をどーぞ」
促され、説明を続ける。
「ここで銃から剣形態に変形させます。すると、銃口側に動かされていたcのシリンダーが、刃の展開と共に、外部に排出されます。さて、現在の銃剣内の状態は?」
「何か算数のお勉強みたいだね。…cが外に出ちゃったから、銃弾が込められていないbのシリンダーと、銃剣自体のaのシリンダーだけになるはず…と思う」
「その通りですわ。ここで再び銃形態に変形させると、aの後ろに、新たにdのシリンダーが弾倉内から装填され、aと接合し、銃剣に銃弾を充填しますわ。これで、銃弾を発射出来る状態になりましたわね。それで一方、先にaと接合していたbのシリンダーは、dのシリンダーから外れた補給弾に押し出され、銃口方向に移動しますわ」
補充弾が込められたシリンダーは銃剣内のシリンダーに接合出来るが、それ以外の部分は銃剣内のシリンダーを通過“し切れない”作りとなっている。
「おろ? でもそれって少し辻褄が合わないような気がするけど」
「えぇ、そうですわね」
しかしここで問題となるのは、“どのようにして銃剣内のシリンダーを補充弾が通過出来るのか”だ。
補充用のシリンダーは、補充弾内部にある。古いシリンダーは補充弾の残り部分に弾かれ、銃口部分へ。その原理は、色々と無理がある。
まず、他に隙間の無い銃剣内部を銃弾自体はどう通り抜けるのか。補充弾は銃弾と似たような見た目をしているが、シリンダーの接合時被服部分はどうなるのか。疑問は生じる。
「そこは悩みどころでしたわ。銃剣内部のシリンダーの存在が曲者になっていますから。…ですが、あの内部のシリンダーは絶対に必要だったのですわ。銃剣内部に凸部分を作り、そこに補充弾内部のシリンダーが接合する案もありましたけど、それだと銃口部分への空気の通り道に余分な空気の溜まり場が出来てしまいますので止めたのですわ。…では、続けましょう」
その理由は、銃剣内のシリンダーと補充弾両方にあった。
まず、銃剣内のシリンダー、実はとても鋭利に作られており、大変良く切れるのだ。
「危ないねー。触れたら切れちゃう感じだよね」
「勿論、バッサリですわよ。バッサリ切れた残骸…それが先程の“元”の意味ですわね」
そして、補充弾は全体構造が軟鉄で出来ている。内部のシリンダーもそれは同じだ。銃剣内部のシリンダーと接合出来るように特殊な形状をしているため、切れないだけだ。
そしてシリンダーが切れないために、銃弾の後ろ半分が残される。それを、次弾分の補充弾の被服部が押すことになるのである。
銃弾が無い状態のシリンダーが押されると、接合が外れ、力の効果の及ぼすがまま銃剣内部のシリンダーに切断され、残骸となる。後は前述の通りだ。残骸をcのシリンダーとすれば意味が通るであろう。
「緻密な計算の結果ですわね」とはリィルの言葉だ。銃剣内部のシリンダーはリィルお手製に対し、基本的に銃弾は支給物ーーー所謂、外注している。そのため、寸分の狂いでシリンダーが動かなくなることがないよう、一応極小単位のサイズの融通が効くようにシリンダーは製作されている。あくまで、極小単位ではあるが。
「纏めますわ。刀身の内部構造に銃弾の発射機構が備わったこの銃剣は、起動ワードで剣形態から銃剣形態に相互に移行する、ある方設計私作の遠近両用の武器ですわ。特徴としては、装填数が零になった際は、銃から剣、剣から銃への形態変更時過程に銃弾が自動装填されること。刃渡りは65.5cm、柄は10cmの全長75.5cm。総重量は2385gがデータですわ。使用する銃弾は、内部のシリンダーに六発の銃弾が込められているタイプの物。このシリンダーが、銃剣内部のシリンダーと接合することによって銃弾が補充されます。装填数が零になったシリンダーは、古い物から形態変更時に排出されるのですわ。以上ですわね。分かりまして?」
「…何とか分かったってところ…ね。うんうん…でも、ちょっと難しめの話だったね。…ユリタヌキ、寝ちゃってるよ?」
まさか。Zの意味について悩んでいたのではないのかーーーそう思い、妖精さんを見たリィルは、
「…る………る…。…る…Zzz…」
呆れるしかない。
寝ているとは思わなかったのだ。ひたすらゼットは何かについて考えている姿に好感を持てたので、説明が終わってからどんな結論に至ったのか訊きたかったのだが。何も考えていなかったどころか寝ているとは。
しかも気が付いてみれば、「Z」ではなく、「……る」と寝言を言っている。一体何の夢を見ているのやら。
「寝かしといてあげようよ。気持ち良さそうに寝ているみたいだし」
起こそうとしたリィルをレイアが止める。
「…分かりましたわ。お蔭様で滞り無く今回の説明は終了しましたので」
リィルがリモコンを操作すると、モニターに代わってスピーカーが現れ、先程のレイアの歌声が、空間に流れる。
「えっ、いつの間に……」
「科学に不可能はありません。この程度、どうにかしてしまうのですわ!」
「…あ、ありゃりゃ……」
不意に自分の歌を流されるとは、何という辱めだろうか。
顔を赤らめずには居られないレイアは、思わず固まってしまう。
これからも、このように曲が流れてしまうのか。だったら、だったらいずれ聞かれてしまう可能性があるではないか。
誰にとはいわないが、非常に宜しくない。歌ったレイアもレイアだが、本気で聞かれたくないのが本心だ。
「…ではでは! エンディングと参りましょう! 本日の説明は私説明お姉さんと!」
両足を両手で包むようにして寝ているユリタヌキは放置。
「えっと…レイア・アプリコットがお送りしました〜♪」
こうして、今回の説明は終わりを迎えようとしていた。
リィルが居なくなり、レイアも逃げるようにその場を後にしてしまったので、妖精さんが一人残されることになったのだ。
「……ポン…zzz…」
ーーーそして、妖精さんはまだまだ眠り続けるつもりだ。
何の夢を見ているのか。いや、妖精さんのことだ。きっとお花畑な夢を見ているのであろう。
実におめでたい妖精さん、ユリタヌキ。
眠れる妖精さんが待つのは、王子様か、はたまた姫様なのか。
ユリタヌキは性別不詳だ。何故なら、妖精さんなのだから。人の基準では考えられないような存在なのだ。
そう、考えてはいけない。
「…駄目だぞ……る…今…は……そう言うのなら…後…ポン……」
そう、桃色の何かが見えていても何も気にしては、いけないーーー
「…次回の話…あまり気乗りしないのだけど。どうしようかしら」
「そうか? 俺は楽しみだけどな」
「あなたはねっ。…私はあの辺り実際の記憶は無いけど…でも、酷く嫌な予感がするの」
「ははっ、まぁ良いじゃないか。楽しみ楽しみっと」
「もぅっ、予告言いますよ! …“ご主人様”♪」
「い゛っ!? あのな…その呼び方はあそこの人達の前では止めてほしーーー」
「彦様。この老いぼれめに少し教授してほしいものですなぁ。…“ご主人様”とは一体?」
「俺も訊きたい。…“ご主人様”とは?」
「“ご主人様”とは気になりますよね」
「…‘少し憧れる……? 微妙…な…ううん……’」
ーーーいって言ったよなぁぁぁぁぁっ!!!!
「ふふ…ばーか。コホン…じゃあ予告いくわよ♪ 『…助けて。…誰か…コノクルシミカラ……タスケテ…タスケテ……タスケテーーー次回、妖精の姫、闇にオチテ』…ふふっ、壊してあ・げ・る♡ …ぅ、これ…誰の台詞かしらね…?」