まいったユリタヌキ
その言葉は、鳩が豆鉄砲どうこうとか、青天の霹靂をもってして受け止めた。
何と言うのか…ありそうでない話があった…と言うか、知られざる過去…みたいな、そんな感じの言葉だ。
最初の一言を訊いて思ったのは、唖然とした態度と共の、「マジか」…だな。
うーん…いや、まぁ…うん、うん。…って、訳が分からないよな。
大丈夫、混乱してるんだ。いや大丈夫じゃないか、混乱してるんだから。
…混乱している時点で自分のキャパシティの少なさと言うか、包容力の無さと言うのだろうか。「少な過ぎ?」って悲観的になってしまう…が、ん、取り敢えず受け止めるとしよう。ん。
「…もう一度言ってくれないか? はは」
受け止められていないような気がしなくもないが、気にするな。
それにしても声…震えてるな。
動揺してどうするんだ? 俺……
「彦様が知らなくて当然かもしれない。姫様自身覚えていないだろうから…な。か?」
「そのもう少し前だ」
「話が出たついでなんだが、伝えておきたいことがある」
戻り過ぎだ。
どうしてそこまで戻るんだ。「少し」と言えば、その話の直前だと思うんだが違うのか?
「…その少し後だ」
「姫様は一度、闇堕ちしかけたことがある…か?」
そうだ。その言葉が確認したかった。
姫様…つまり、フィーナ。フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナが一度闇堕ちしかけた事実…これが俺への豆鉄砲と言ったところか。
ガノンフと言う眼の前の男。もののついでとばかりにあっけらかんと言ってくれるが…中々にとんでもない話だぞ、これは。
…まぁだから俺を部屋の外に連れ出したのか。
「あぁ。その話…詳しく訊きたい」
詳細な内容によってはこの話…重要過ぎるあまり、俺自身の命取りになる可能性が大いにある。
事情を知っている人物達が居る内に訊いておかないとな。
「分かった。…少し場所を移すか」
…場所を移さないといけない話が多いな。この街に来てから…と言っても、これで二回目か。
商人達が話してくれた話は、俺達の旅行に支障をきたしてくれる現状のものだった。結果としてイヅナが何やら首どころか全身余すことなく突っ込んでいるみたいだが、直接的に害が及ぶ状況ではなかったな。
…ガノンフと、スートルファ。フィーと共に、かつてこの地で悪魔と戦った同胞か。どうして今現在に在る…いや、“生き返った”のか。
理由はまだ訊けていないが、何とかして訊かないといけない。もしかしたら…。“知影のお蔭で掴むことが出来たあの情報”に繋がるかもしれないから。
「彦様、『闇堕ち』についての話を僭越ながら、私がしましょうか? このままですと、ガノンフのする話が今一つ腑に落ちないものになるかもしれません」
…と。その前に。
『闇堕ち』についてはさっきクロが何か言っていたな。
確か……
* * *
暗闇。
始まりを告げるのはやはり、暗闇と。
「…うーん…と。おろ? ここはどこなのかな。真っ暗だけど……」
犠牲者(?)と。
「『なにそれ? 教えてリィルお姉さん!』の始まり始まりだポーンっ!」
タイトルコールであった。
謎の生物ーーーユリタヌキの登場に謎のファンファーレ。椅子に座らされているレイアは眼を丸くした。
「おろろ? …あ、そっか。え~? 何かな~? 何かな~?」
彼女は夢の存在を肯定する人物だ。そのために、夢を否定するようなことをしない。
今回のユリタヌキは、そんな彼女によって温かく迎えられた。
「……!!!!」
ユリタヌキは妖精。夢のそのもののような存在だ。そんなユリタヌキにも夢一杯な心があったりする。
つまり、歓迎されると感激してしまうのである。
ーーーそう、とても嬉しくなってしまうのです。
「うーん、うーん…分からないなー。ねぇねぇそこのお姉さん! この言葉って知ってるポン?」
今日のユリタヌキは元気一杯♪ 嬉しくて飛び跳ねたくなってしまったみたい。
良かったね、ユリタヌキ♪
「えっと…『悪堕ち』…かな」
「『悪堕ち』って読む…ふむふむ。凄いポン! うーん…でも、『悪堕ち』って何なんだポン?」
難しい言葉にユリタヌキは混乱。
難しい言葉はどうしたら分かるのかな?
そうだ♪ お友達に訊いてみたらどうかしら。
「『悪堕ち』の意味? …おろろ、ごめんね。詳しくは分からないかな」
残念。お友達も分からないみたいね。
どうしたら良いかな?
「…そうだ!」
あら、ユリタヌキ何を閃いたの?
「分からない時はあの人を呼べば良いんだポン! ねぇねぇ、お手伝いしてもらっても良いポン?」
そうだね。分からなくなったらあの人を呼べば良かったよね。
どうすれば呼べたかな?
「えへへ、分かったよ。どうすればお手伝いになる?」
「色んなことを知ってる凄い人が居るんだポン。だから、ユリタヌキと一緒にその人を名前を呼んでほしいんだポン!」
出て来てくれるかな。
さぁ、二人で大きく息を吸って!
「せ~のっ! 「説明お姉~さ~んっ!!」」
わぁ♪ 大きな声が出たーーーでも、まだまだ足りないみたい。
もう一度、今度はもっと大きく息を吸って!
「「説明お姉~さ~んっ!!!!」」
二人共凄い! とっても大きな声が出たね。
これならお姉さん、出て来てくれるかな?
「……」
あ! お姉さんが出て来てくれたよ。
やったねユリタヌキ♪
「……」
おやおや? 何もお話ししてくれないね。お姉さん具合が悪いのかな。
「…ジロリ」
ーーー無言で現れたリィルは虚空を睨み、妙な威圧感を放っていた。
その恐ろしさたるや、視線を向けられていないはずのユリタヌキが固まる程だ。
「ありゃ…。‘ユリタヌキちゃん疑問、疑問をリィルちゃんに振って!’」
「‘む…あ、分かったんだポンっ。’お姉さんお姉さん! 『悪堕ち』について今回は説明ほしいんだポン!!」
機嫌の悪いリィルをいつもの調子に戻すには、説明の話をするしかない。
レイアの提案を即実行したユリタヌキは、スイッチの切り替わったらしいお姉さんを見て安堵した。
「よろしい! では今回はハイエルフ特有の現象である『悪堕ち』について説明しますわッ!!」
人間とは異なる種族、ハイエルフ。
身体能力、魔力の扱いにおいて人間の追随を許さない彼等だが、逆に人間よりも脆い側面を多く有している。
その一つが『悪堕ち』という現象だ。
「ふむふむ…そんなにハイエルフの弱点って多いんだポン?」
「一種の神様の悪戯…と言うものですわね。非科学的ですが。強い反面弱い部分もある。『異種生物学』の分野の話にはなるのですが、人間以外のあらゆる人型種族にこの話は当てはまりますわ」
書物にあるような人型の種族ーーー言語を解すことが出来るが、人とは異なる別の種族。それらは、等しく弱点を有しているというのが『異種生物学』の根本的な定理とされている。
「『異種生物学』はあってないような学問分野。そもそも現在、異種族の確認例が多い訳ではないので、学習するだけ無駄ではないのかと思いますわ」
「『異種生物学』…かぁ。うーんと、言いたいことはつまり、どんな種族でも釣り合いが取れている…と言うことかな。確かに、一つ一つの弱点が致命的過ぎるから……」
「…あんなに強いのに、弱点が……」
レイアのまとめに首を傾げたユリタヌキは、誰を想像したのだろうか。
妖精さんの考えは摩訶不思議なのである。理解してはならない。そう、絶対に察してはならない。
「それはさておき。ハイエルフの弱点の一つである『闇堕ち』…。これがどのようにして起こるのかについて、説明しますわ」
激情に身を任せたハイエルフが至ってしまう一つの境地ーーーそれが、『闇堕ち』である。
「激情…激しい感情のことですわね。ヒトである存在ならば、誰しも駆られる可能性のあるものです」
喜怒哀楽の感情の中で、深い哀惜や激しい憎悪ーーー強い負の感情は、時として人を変えてしまう。
精神が壊れそうになった際に、人間は防衛機制が働くのだ。
無意識下に記憶を封じ込めて忘れたり、起こった事象を否定し続けたりーーーそうやって、徹底的に自分の眼の前から事実を遠去ける。
耐えるのだ。自分の心が壊れてしまわないように、必死に。
しかしそれをも上回る衝撃に襲われたら? その答えが、『闇堕ち』なのだ。
「…心が壊れちゃうと…。そう言うことだポン?」
「そう言うことですわね。…もっともそれさえも、ハイエルフと言う種族特有の防衛機制なのかもしれませんが」
異種族の生態には分からない部分の方が多い。
『闇堕ち』もまた精神を守るための手段であるとするのならば、それもそうなのかもしれない。
心とは、それ程に脆い側面を持ったものでもあるのだ。
「ううん、壊れちゃうんだよ。ボロボロに…取り返しが付かないくらい」
「…そう…ですの?」
「…あ、えへへ。ちょっとそれっぽいことを言ってみただけだよ。ほら、雰囲気出るでしょ?」
楽しそうに笑ってみせるレイアは、リィルの説明を楽しんでいるようだ。
思わせ振りな発言をして、実際に何の意味も無いとは人騒がせなものである。まるでどこかの狼のようだ。
「…でもそうだとしたら、悲しいんだポン。なりたくてなる訳じゃないのに……」
「えぇ、そうですわね。『闇堕ち』なんてきっと、ならない方が良いには決まっているものでしてよ。…続けますわ」
『闇堕ち』してしまったハイエルフは、様々な点において普通のハイエルフとは異なる。
まず、魔力が穢れる。魔力の性質が極めて魔物のそれに近くなり、在るだけで大気中の魔力を汚していってしまうのである。
「…つまり、『崩壊率』の上昇にも関わってくる…とされていますわね。文献では」
「…倒さないといけない…ポン」
「そう言うことですわね。一人のハイエルフのために世界そのものを崩壊させるなんて、決して許されませんわ」
あくまで文献に書いてあることのため、実際には違うのかもしれない。
かもしれないーーーの可能性だ。今は、まだ。
「…助けを求められても見捨てないといけないなんて…辛いポン……」
その可能性をユリタヌキは許せない。
妖精さんは心優しい。同じく「妖精」と呼ばれるハイエルフを見捨てることが出来ないのだろう。
助けを求める手を振り払うことは、例え御伽の国の妖精のような存在にとっても、唾棄すべき行為に違い無いのだ。
ーーーというのは一種の綾。妖精さんは涙流しこそすれ、唾など吐くことはない。そう、決して。
「…まぁそれに、『闇堕ち』したハイエルフに元の人物の人格は残っていないに等しいですわ」
「…それは、どう言うことだポン?」
『闇堕ち』したハイエルフは魔力が穢れるーーーつまり、魔力の性質が反転するだけではなく、性格もまた負に反転するとされる。
「性格が負に反転する…かぁ。困っちゃうね、それ」
「…破壊的になるって…ことか…ポン?」
「そう言うことですわね。もっとも、単に破壊的になると言う訳ではなく、ある特徴があるみたいでしてよ」
負の性格に反転するとしたが、その反転にはある特徴がある。
それは、『闇堕ち』をしたハイエルフ全員に共通することだ。
「何なのだポン?」
「まずは例として、こちらの映像を見せますわ」
リィルがいつの間にか手に持っていたリモコンを操作すると、その頭上の空間から謎の塊が。
塊は駆動音と共にパーツが展開していき、ある形を取るーーーモニターだ。
「おろ? この映像って…?」
映像が流れる。
空だ。足下には破壊された町並みと、海がすぐに眼に入る。
何かが横切り、続いて高速で追い縋る小さな何か。
何かというのは、あまりの小ささと速さにそれが何かとまでは特定出来なかったためだ。
続いて、竜巻が起こる。
荒々しい竜巻だ。触れる全てを切り裂いてしまいそうな。
「あっ、あの黒いグリフォンっ!!」
「…『闇堕ち』したハイエルフの末路…だね」
竜巻の中心で動きを止めたらしく、黒い魔物が映る。
「…とある方のインカムを修復した際に発見した映像ですわ。中々興味深いデータでしてよ」
黒い魔物が拡大される。
そして、インカムの持ち主らしき人物の剣が映ったところでレイアが声を上げる。
「あ、ユ~君の剣」
映像がブレ始める。
どうやら激しい戦闘が起こっているようだ。
「切り替えますわ」
映像は変わり、壊された噴水の上に立つ男のものに。
「この男はどうやら、同胞を殺した人間への怒りの感情がキーとなって『闇堕ち』したようですわね。復讐の感情に突き動かされ、目的達成のためなら手段を厭わない。利用出来るものは利用し、邪魔する者は皆殺しにする。…良い例ですわね」
感情と共に、深層意識が、本能が増幅されることーーーそれもまた、『闇堕ち』の特徴だ。
「…この男はどうやら、フィリアーナへの恋心と、同胞への仲間意識が深層意識にあったようですわね。だから復讐心に塗り潰され壊れてしまっても、フィリアーナや弓弦君への勧誘をしたのですわね」
『闇堕ち』には他にも特徴がある。
全身の色素も反転し、暴走した感情によって増幅された結果、魔力が強大となることだ。
故に、元より大きな魔力を持っているハイエルフが『闇堕ち』すれば、それは恐ろしいことが起こることとなる。
「…こんなところですわね」
映像が終わり、モニターがどこかに収納される。
「あ…もう終わりなのかポン? まだ映像を見たかったのだポン……」
寂しそうに項垂れるユリタヌキ。
断片断片しか見られていない以上、どうしても全部見たいと思ってしまうのは当然である。
「気になるあなたに“それぞれの旅”と“決意と契り”を。…ちょった紹介を挟みましての、説明続行ですわ」
『闇堕ち』の特徴をまとめると、こうだ。
負の感情の暴走に精神が壊れてしまった時、ハイエルフは闇に堕ちてしまう。
『闇堕ち』したハイエルフは、魔力が穢れ、身体の色素が反転するだけでなく、『闇堕ち』以前よりも魔力が強大化、性格も反転し残虐になり、完全なる別人となる。
また、『闇堕ち』以前に抱いていた深層意識ーーーいわば、願いのようなものを何よりも優先して成し遂げようとするようになる。そう、自らの欲望の赴くままにずっと、命果てるまで。
「…もっと端的に言うのならば、簡潔に結論を述べるとするならば、ヤンデレですわね」
「ヤンデレ…あっ」
言われて気付く、とある人物のこと。
成程、確かに、どうして気付かなかったのだろう。分かってみれば納得してしまうが、物寂しい気持ちになる。
「…ある意味例としては完璧な子ですわね。『闇堕ち』…そのままですわ」
「…せ、説明お姉さん。変に話をすると本当にこっちまで出て来るかもしれないんだポン」
ユリタヌキがあせあせと、説明お姉さんであるリィルの口元に罰印が描かれたプラカードを当てる。
所謂、「喋っちゃだ~めっ☆」を意味するプラカードだ。可愛い。
「…そうですわね。まぁ兎に角、『闇堕ち』についての説明はこんなところですわ。少し暗めの説明になってしまったかもしれませんわ」
「ぅぅ…ハイエルフにそんな弱点があるなんて、大丈夫なのだろうか…ポン」
暗い説明はする方も、訊く方も明るい気持ちになるものではない。
説明が終わってから、場の空気はなんとも寂しいものが支配していた。
「ほら、ほら!」
パンパンと手を叩く音。
快音とも呼べる音が場の静けさを打ち消そうと、響き渡った。
音を立てた人物に二人分の視線が集まる。
どうしたのだろうかと、突然手を叩いた意味が分からなかったのだ。
「暗い顔なんかしちゃ駄目だよ。お姉さんなら、妖精さんなら、笑顔を絶やしちゃいけないと思うな」
レイアは優しく笑みを浮かべる。
ニコニコと、暗い空気を笑顔で照らそうとしているかのように。
「さぁ、笑顔。ニコって笑って暗いのはおしまい! 私はそれで良いと思うけど…難しいかなぁ?」
笑うことは別段難しいことではない。
そして一人が笑顔になると、つられて笑顔になり易くなるというもの。次第にリィルとユリタヌキの不安は薄れ、沈んだ気持ちは持ち直してきた。
「…説明のため、折角のコーナーなのに私としたことが。いけませんわね。気を取り直して、別の説明でも追加でしますわ」
正気を疑うような発言が飛び出す。
まだ説明をするのか。それも別事の。
終了しそうな気配を見せていたことだけに、流石のレイアも少し面喰ってしまった。
「そうですわね。ここは一つ、楽しい説明をしましょう」
「…楽しい説明…ポン?」
説明に楽しいもの何も無い。理解出来ない理論の説明の場合地獄の拷問でしかない。
一つの説明で十分なのだ。ユリタヌキは妖精なので、長い時間この空間に留まることは出来ないため、二つ目の説明を訊く時間的余裕は無かった。
胸のランプが点灯したら帰らなけれらならないという訳ではないが、妖精さんは忙しいのだ。
二つ目の説明。「楽しい」と本人が言うのだから、短くはない。それどころか解放されるのはいつになるのか不明で、明日明後日になるかもしれない。
そんな危険性を孕んでいるのだ。当然、乗り気になれるようなものではない。心から願い下げしたいのだ。
例えどのような話であってもーーー
「私の専門分野である機械工学のお話、その一ですわ! 機械工学Iですわね!!」
「…機械の学問…かぁ。ううんと…ちゃんと理解出来ると良いけど」
「…ポン……」
女性と機械は中々結び付き難いもの。機械好きな女性が多かれ少なかれ居るのも事実だが、レイアはそうではない側の人間だ。
因みに妖精さんも然りである。
機械に宿ることで力を貸す妖精さんも居るそうだが、それはまた別の話。
「はい! 今回は私説明お姉さん渾身の力作中の力作が一つ! これについて説明しますわぁッ!!」
再び登場のモニター。
一体何が映るのやら。地獄の門を映し出す予兆が画面を走る。
楽しそうに含み笑いを浮かべるお姉さんに対し、ユリタヌキは頭を抱えたくなるの感覚を覚えーーーてはいない。妖精さんだから。
口を大きく開けかけたのはレイア。咄嗟に手で隠して咳払いで誤魔化すが、眼尻に涙が微かに溜まった。
これから始まるであろう説明はどうやら、完全に歓迎ムードではないようだ。
そして。
「あの人の武器でお馴染み! 銃剣ッ!!」
「ッ」「おろ」
お題の発表と共に二人が立ち上がった。
その態度はもはや一転。長引きそうな説明に嫌気が差していたとしては聞こえが悪いが、覚えていた疲労を吹き飛ばしてしまう威力を持っていた。
「情報盛り沢山…かどうかは別として。装填数の話が以前に出たので、この際説明しようと思いますわぁッ!!」
拍手がどこかから聞こえる。
一体誰がしたのだろうか。少なくとも、ここに居るメンバーではない。
誰によるものかは定かでないが、場を盛り上げるのに一役買ってくれている。
場のテンションが上がる。
たかが武器一つでこうも盛り上がるのかが、それはもう果てしなく謎でしかないが、取り敢えず盛り上がっているのは事実。
誰もが、誰もがその説明を待っていた。
「その説明はーーー次回ッ!!」
だから、先延ばしにされるのである。
所謂、CMの後。夢の間に時間を無理やり挟む企業の思惑。
しかしスポンサー無くして番組が成り立つはずもなく、仕方無しの休息時間。
「これ…次回はまさか、またこれから始まるのかポン…?」
「勿論ですわッ! 次回もまたよろしくお願いしますわねユリタヌキ!」
「なっ…う…ポン」
引き延しにされても、その後に続くのは、夢。
妖精さんにまた会える。
それはそれは可愛らしい妖精さんにまた会えるのだ。
ーーー決して妖精さんを推している訳ではないのだが、妖精さんに二話連続で会えるとは、奇跡のようなものではないと思わないだろうか。
「ありゃりゃ……おろ? この音は何?」
頭上から聞こえるファンファーレの音。
軽快なリズムを刻む音符群が今回は、変化していた。
「覚えてくださいまし」
「…うん…と。覚えるって…?」
困惑するレイアに渡された紙が裏側から透けて見える。
一体どのようなものだろうか。
線に挟まれてオタマジャクシが沢山見えるようだがーーー?
「…またなのか…ポン…?」
「ありゃりゃ…えっと…どうしようかな……」
「よろしくお願いしますわね♪ それではまた!」
その意味が明かされるのはまた今度のことになりそうだ。
「…あれ? これ何だろう」
「…これ、台詞? 本…と言うより、台本……かな。誰ものかな…うん…弓弦の物じゃないってのは確かなんだけど。…あ、あれは…トウガさんだっけ。おーい、トウガさーん」
「…俺を突然呼んでどうした。神ヶ崎」
「今こんな本を拾ったんだけど、これ誰の物か分かります? 弓弦のじゃないから分からなくて」
「……これは、台本だな。タイトルは『まいったユリタヌキ』…?」
「あ、見忘れてた。うっかりユリタヌキ……そんなタイトルだったんだ……」
「正確にはまいった、だがな。それは良い。で、どれ……と、ここに持ち主のヒントがあるな」
「…落書き?」
「みたいだな。…と、すまんな、時間だから行かせてもらうがもう、分かったな?」
「……」
「…さて、仕込み仕込み……」
「……」
「と、そう言えば予告役で来たんだったな。『くくくく……おーほっほっほ!! まだ! まだ終わりではありませんわぁっ! 説明は何度でも、何度でも疑問の中より甦るのですわぁっ!! おーっほっほっほっーーー次回、説明は続くよイツマデモ』…物騒な世の中ですものね。……ふむ、確かに物騒だな。二話連続で説明とは」
「……『ユール』ね。どこの時詠みさんなんだか…ね……ふふ、フフフフフ……」
「じゃ、良い酒用意して、待ってるぜ。…さて仕込み仕込み……」
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ……」