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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 後編
223/411

侵入者はコドモ

 「突破されましたッ!?」と報告兵の悲鳴のような声に、街の東の区画を見遣っていたウェンドロは報告兵に指示を出そうと思案する。


「ならもう良い。その者は放置し、今すぐに戦える兵の半数程度を部隊に集め、東部口に向かえ。賊は私自ら相手をする」


 兵は一礼をして慌ただしく出て行った。

 仄かな明かりに照らされる玉座の間に、賊による襲撃が報じられたのは、今より少し前のこと。今と同じように慌ただしく入室した兵によって、彼はそのことを知ったのだ。


「(…センデルケンめ、上手く逃げ果せて舞い戻った…か! いや、別の人物かもしれん……)」


 兵達が城を出て行く様子が眺められた。

 協力者の四人のハイエルフの指揮下に入っていた兵もそこに含まれているので、どうやら協力者が別行動を始めたとの情報は確かなようだ。

 それもそのはず。彼等は恐らく、“騙された”存在なのだから。


「これはこれはまた、大変なことになってまいりましたね。私の予想度通り、東口に魔物が現れましたよ、ウェンドロ」


 嗄れた声が響いた。

 静かな空間の闇から滲み出たかのように、異邦者がそこに立っている。


「折角の英雄様にも不信感を抱かれてしまったようですし、困りましたねぇ」


「…異邦者、お前には足止めとして動いてもらう」


 わざわざ出向く手間が省けたので、賊の足止めを命令する。

 街の東口から魔物が襲って来るという情報は、この異邦者からもたらされたものだったのだ。


「え。私の話、無視しちゃうの? 本当に無視しちゃうんですか?」


「分かったのなら行くが良い。賊が近くまで迫って来ていること、知らぬはずがないとは言わせん」


 魔物の襲来が実際に今起こっているのかは定かではない。

 だが、甥を城から排する際に魔物を手配したのは他でもない異邦者なので、信憑性は皆無ではない。

 異邦者をこの場に留めたのもそれが理由だ。

 思考を始めたと当初は、城に居る人間をウェンドロただ一人にするため彼も、襲来するかもしれない魔物の討伐に向かわせようと考えたが、かの男から眼を放すことは憚られた。

 いや、確かめたかったのだ。

 賊が誰であるのか、一人という情報しか手元に無い以上特定は出来ないが、手練れであることに違い無い。

 ならば、両者を打つけてみることで確かめることが出来ないものか。ウェンドロはそう思案したのだ。


「えぇ知っていますとも。だけど私、戦いは得意じゃありません。見てくださいこの身体…これで戦いが出来ると思ってるんですか?」


 「思わない」ーーー喉元まで出掛かった言葉を既のところで飲み込む。

 骨張った身体、肉が削げ落ちたような身体、ギョロリとした瞳。辛うじて人間に近い姿を見せてはいるが、やはり変な生き物が良く似合う、似合い過ぎる存在だ。

 ふとここで、あらぬ予想が生まれた。

 その予想は考えてみれば成程、中々に納得のいくもの。どうして思い至ることが出来なかったのか、疑問にさえ思えてくる。

 もっと早く気付けたには気付けたのかもしれないが、変な生き物は変な生き物に見えても人間だと思いたかったからーーーのかもしれない。

 しかし良く良く見てもやはり、変な生き物だ。どこまで変な生き物と呼びたいのか、この人物を指して変な生き物と何度呼称したのか。既にもう呼びたいだけの部類に入っているのかもしれない。否、ある側面では入っているのだろう。確実に。


「知識人ならば知識人らしい戦が可能なのだろう? 奇策を期待している」


 押し付けがましいというか。もう丸投げでしかない。

 さらりと言ってのけるウェンドロに対し、その嗄れた癖のある声で何か言い返そうと異邦者は口を開いたが、


「…来たか。…?」


 通路から響いてくる足音がそれを制した。

 ウェンドロが眉を顰めたのは、特徴的な足音に対してだ。

 良く磨かれた城の床は、足音を奏で易い。

 例えば先程の兵。甲冑を鳴らしながら具足で音を立てられると、遠くからでも良く良く分かる。

 聞こえてくる足音が鎧によるものでないことがそこから分かる。兵の足音を重いと表現すれば、その足音は軽い。実に軽やかな音だ。

 風が流れた。行われた戦闘の熱気による城の湿った空気を流し、一人と一変な生き物の間を通り抜けていく。


「見付けた」


 人がそこに、立っていた。

 人を侵入者としないのは、その人物を見た際にウェンドロの中で、合点がいかなかったためだ。

 まず眼に付いたのが不思議な装束だが、それを“まず”とするには少々語弊が生じる。

 実はウェンドロが最初に見たのは、人物の外側の服装ではない。彼はまず、その艶のある長い黒髪を見、続いて腰に帯びられた得物を見た。

 ーーー脳裏に浮かぶ、あの啜り泣く声。

 思い起こされたのは、その者の東国風の出で立ちによるものか。


「何者だ」


 短く誰何する。

 強く剣吞にして声を発したのは、対象を見極めるため。


「…街の旅行者。…旅行の邪魔をする悪者を倒しに来た」


 声は高く良く通る。

 明らかな子どもの声だ。しかし、纏った雰囲気は子どものそれではない。


「…旅行の邪魔? 記憶に無いな」


「閉鎖令」


 得心がいく。

 しかし随分と子ども染みた理由ではないか。

 兵達をどうにかして、やり過ごして来たであろう侵入者の目的に失笑する。


「それは失礼した。だが、こちらにも事情があるのだ。それが済み次第ならば直ちに解除する」


「…そのために、戦うの?」


「必要とあらば」


 即答で返した。

 もっとも大元の目的は逃亡したレガーデスの捜索であるため、戦闘の必要は実際問題として、無い。

 あくまで反乱分子の鎮圧という名分を負わなければ、スムーズにその後を展開することが出来ないのだ。

 今、この国は激動の様相を呈している。王妃が、ついで王が死に。そして代わりに政治を取り仕切った王弟に、王権を主張した新国王が魔物を使い反乱を起こす。

 民の殆どは真実を知らない。故に、幾らでも情報を捻じ曲げて虚偽を真実にする。そのために書かれたシナリオをなぞるためにウェンドロは、手段を選んでいられないのだ。

 侵入者の翡翠色の瞳がまっすぐ彼を捉える。そして、横に動いた。


「…どうして…ここに?」


 困惑の色が見て取れる声音。

 だが同時に、警戒も強めたようで手が得物の柄に触れていた。


「あなたは…あぁ。これはまた、不思議なこともあるものですねぇ。シェロック中佐じゃないですか」


 異邦者の知り合いか。否、どうやら“知っているだけ”が近いニュアンスの言葉。

 「中佐」の意味は、名前でないことは理解出来た。響きから、所謂階級に近いのかとウェンドロは内心感じた。


「…不思議…? …本当に偶然?」


「まぁまぁ、そう気にする必要は無いですよ、シェロック中佐。世界は広いんです。広いんですが、偶然と不思議に満ち溢れてもいるんです。根拠と訊かれたら、そのようなことはないんですけどね」


「…。…何のためにここ居るの」


 面白い。どうやら話の聞き手になれば、異邦者について知れることがあるやもしれない。

 そう考えたウェンドロは静かに様子を窺う姿勢を取った。


「まぁまぁ、そんなことはどうでも良いことですよ、シェロック中佐」


「…答えて。“何の実験でここに居るの”」


 「実験」というあまり耳当たりのよろしくないフレーズに、眉が自然と寄る。

 何らかの目的を持って接近してきたのは分かっていた。向こうがこちらを利用しようと画策しているのは当然として。

 「実験」というフレーズ。気になるものだ。


「実験ですか。仮に実験をしていたとしても、そいつを教える訳にはいきません」


「…サウザー?」


「…ぎくぅっ」


 明らかな蝋梅の姿勢がワザとらしい。

 ワザとらしいと思ってしまうのは、やはり姿勢を取っているのが変な生き物であるためか。

 「サウザー」という人物の名前。その者に命じられて動いているのか、はたまたそうでないのか。そのワザとらしい態度から全てを判断することは出来ない。


「…何のために居るのかは知らない。…けど、帰って。…あなたが居ると、枕を高くして寝られない」


 確かに。変な生き物の存在は子どもにとって幽霊に等しいのかもしれない。

 やはり、異邦者は変な生き物であるーーー異質な程に。


「そんなこと言わないでくださいよ。私の実験成果が、全く役に立ったことがないのならば話は別ですが。それに、実験だったらのたら、れば話はそもそも、前提としておかしなものとは思いませんか?」


「…言い方変える。…あなたが居るとロクなことがない。…消えて。私…そこの人と話したいことあるから」


 辛辣な言葉。これは酷い。

 嫌悪の情を持って吐かれた毒は、主が少女のものであるが故に確かな効果を発揮する。

 ここまで嫌われている異邦者を見ていると、哀れに思えてくるーーー訳ではないが、原因は好奇心の及ぶところにはなった。


「…最後通告。…消えて」


 意外と短気なのか。それとも、何か急がなければならない理由があるのか。

 異邦者の言葉を待つことなく通告した侵入者は、得物の鯉口を切ろうしている。

 緊迫の時間が、流れていく。

 異邦者が気付いているかは定かでないが、現在の彼の立ち位置は、十分間合いに入っている。もし口火が切られた場合、彼は刀の餌食になり易い状況だ。


「…それでは私、研究室に戻りますよ、ウェンドロ。何か用があれば呼んでください」


 口火は切られなかった。

 逃げるようにして空間を出て行こうとする異邦者を、止めるか否か思案すると、離れた所に立っていたはずの侵入者が近くに来ていた。

 油断した。先程まで入っていなかったはずなのに、今はもう相手の間合い圏内ではないか。

 剣の手解きを受けたことがあるため、いざという場合には剣で応戦することも出来る。相手が子どもならば、拙い剣術でも力で押し切れるかもしれない。そんな考えが一瞬過ぎりはした。

 緊張の糸が、張っていく。

 それはこの玉座の間を囲むように円を描き、ウェンドロを潰そうと狭まってくる。

 もしもの場合、自分にやれるのか。そんな考えが糸玉から糸を引き出す。


「…ウェンドロって言うの?」


 翡翠色の瞳。濁りの無い澄み切った瞳。

 それに見詰められると、妙に居た堪れない心持ちになった。

 取り敢えず「あぁ」と頷いて、視線を逸らす。

 居心地の悪い視線だ。向けられている自身の被害妄想でしかないが、眼を合わせるのがどうにも憚られた。


「…ウェンドロは…ここの王様?」


「…そうだ」


「…閉鎖令…解除してくれないの?」


「出来ない相談だ。やらねばならないことがある故に」


 分からない甥の行方。

 レガーデスを見付け出し、あくまで犯罪人として処刑せねば彼の立場は脆いものだ。

 賽は投げた。投げた以上は、目的を完遂しなければ全てを水泡に帰すことになる。それは避けたい。

 魔物襲来の報せが無ければすぐにでも捜索兵を派兵する。それが出来ないことが非常に歯痒い。

 ーーーそういえば、街の東口に向かった兵達はどうなったのであろうか。


「…?」


 窓の外に視線を遣った眼前の人物に、侵入者が首を傾げる。

 方向を追った子どもは、「あ」と何かに気付いたのか声を上げるが、窓の外は吹雪が荒れ狂っているだけ。それ以外に見えるものはなかった。


「…何か見えたのか」


「…戦っている」


 ハッとする。

 東口を見ているーーーつまり、東口で戦闘が起こっているもいうことなのだろうか。

 それが事実だとするのならば、異邦者への疑念が高まっていく。


「……」


 二の句は無かった。

 異邦者への疑念以前に、侵入者への疑問が湧いてくる。


「…何者だ」


 再度の誰何。

 眼の前に立つ人物は、“見たところ”子どもで、少女で、精々剣客であることしか分からない。


「…閉鎖令を解除してもらうためにここに来た旅行者」


 それは分かっている。その上での誰何なのだから。


「…魔物の気配を知覚し、過去から英雄を呼び寄せたかの異邦者を知る…。ただの旅行者の子どもではない」


 きっとこの侵入者の両親である旅行者は、間違い無く只者ではない。

 シェロック「中佐」ーーーいかにも地位にして、中々の人物のように思える。

 ーーーまさか、子どものように見えて実は、子どもではないのだろうか。

 化粧というものの存在は知っている。所謂身繕い技術の一種であり、技術が達人の域に達した者は正に、時を遡ることが出来るのだとか。

 眉唾物の話だ。実際、そう思っていた。

 だが、あの変な生き物の知り合いなのだ。眉唾物の話と思っていたものにしても、僅かに信憑性が生じ始めてくるもの。

 まさか。まさかまさか、この見た目にして既に遠い昔に成人を迎えているとするのならばーーー


「(ーーー何と言うことだ……)」


 「彼女も変な生き物だったと言うことか!」と、ウェンドロの中で謎の結論が出た。


「…白眼ものの考えを思われてる気がする」


「ーーー三度目。これで最後だ。…何者だ」


 侵入者は細めた瞳から視線を向けている。

 考えていることが察せられたのだろうかと不思議に思うも、当初の疑問を優先する。

 考えれば考える程謎が深まる侵入者。先程よりも鞘から覗く、光るものが伸びているのは気の所為か。


「…か弱い女の子」


 真面目に答える気配が窺えない。刀を持っている時点でか弱いとは程遠く思える。

 駄目だこれは。


「…もう良い。帰ると良い。この時間すら惜しいのでな」


 話し合いの意味すら無い。

 駄々ならば一々付き合うのは面倒故にだ。


「…それは困る。…私は閉鎖令をあなたに止めてもらわないといけない。…晩ご飯の前に」


 この言葉ーーー言葉をそのまま受け止めるのなら、子どもの発言だ。が、食べる立場ではなく、作り与える立場ならばーーーそれは大人の発言に近しくなる。

 しかしウェンドロは、既に侵入者への興味を失くしていた。

 「帰れ」と言った彼の視界に、不満に思ったのか眉を顰めた侵入者は、


「やるのか?」


 抜刀した。


「…旅行の邪魔は許さない。…ウェンドロ…あなたがこの国の王様でも…私は斬ることが出来る」


 旅行の邪魔だから言うことを聞かなければ、殺す。

 随分と過激ではないか。堪ったものではない。


「…返答は?」


「戯言に頷くとでも思うのか」


 下らない脅しに屈する程、軽い意志で事に臨んだ訳ではない。

 一度は弛緩しかけた糸が張り始め、室内の温度が低下したように知覚していく。


「…? (いや違う…“本当に低下している”のか?)」


 室内の温度は、本当に低下していた。

 心なしか、外の吹雪も酷くなっているような気さえした。


「ーーー!!!!」


 侵入者の表情が険しくなる。

 勢い良く東を向いた彼女の肩に、いつの間にか蝙蝠が乗っているのが見えた気がしたが、それは瞬きの刹那の出来事。次の瞬間には何も見えなかった。


「…抱かれていく」


「何?」


「…人が…雪に抱かれていく」


 謎の詩的な言葉。

 抽象的な表現だが、察せられない訳ではなかった。

 「抱かれる」即ち、包まれる。

 侵入者は、人の死までも察知出来るのか。

 魔物を察知するだけでなく、人の死ーーー命の灯火までも察知する。そんな芸当、並の人間には出来ない。


「…あなたがしたことは良かれと思ってのことかもしれない。…けど…それが更なる吹雪を呼び込む“みたい”」


「何を……」


「…止めなきゃ。…これ以上“死なれる訳にはいかない”から」


 「誰が」とまで訊く程馬鹿ではない。

 東の方角で消えゆく兵士。即ち、先程派兵した軍であろう。


「何故」


「…困るの。凄く」


 どう困るのだろうか。要領を得ていない。


「…これ以上人の死を抱擁されると…。…兄さんでも消耗した今の状態じゃ倒し切れなくなる“みたい”だから」


 何故伝聞のような形を取って話すのか。そもそも「兄さん」とは一体誰かーーー矢のように放たれた疑問が次々と増えていく。

 その中でも特に疑問点として際立っているのは、「死を抱擁」の単語だった。


「…一人の死が十の数の魔物を呼び寄せてしまう。…あなたは王様。…王様なら、無駄になる死を止められる」


 一人の死が十の魔物を呼び寄せる。

 ならば、一人の兵が十以上の魔物を打ち倒せば良いだけのこと。


「…戯言を言うな。どうしてそんなことが分かる。街を守り死んだ兵を無駄とするのか…!!」


 分かっている。寧ろそうでしかない。

 一人の兵毎に十の魔物を倒すことなど、不可能だ。

 一と十の比率ーーーそれは、正に一騎当千の勇士でなければ釣り合いを保たせられない。

 無駄。幾ら魔物を倒しても、人が一人死ぬ度に十倍もの数の魔物が現れる。

 一人ならば、だ。

 魔物は、人には扱うことの叶わない“魔法”を用いる。もしそれによって複数人が命を落とすようなことがあればーーー冗談ではない事態だ。


「…それは、あなた次第」


 話が見えてきた。

 遠回しな脅迫に近いものだが、人質が人質であるため、頭ごなしに拒否が出来ない。


「(ーーーまさか)」


 東口に兵を派兵したのはウェンドロだ。

 しかし、それを促したのはーーー


「…東口に連れてく。…お願い。…無駄死にを止めさせて」


「(ーーーそう言うことなの…か!?)」


 これは罠か。罠でないのか。

 それに乗るか。乗らないのか。

 ーーーいや、そんな問題ではない。

 東口からの魔物の襲撃には半数の兵を派兵した。

 現在城に居るのは残り半数の兵に負傷兵を足した人数。最低限の守りだ。こちらは良い。仮に魔物による南口からの襲来にも対応出来る。

 問題なのは、東口の兵が全て、魔物に呑み込まれた場合。もしそうなってしまえば、ウェンドロの願いはそこで潰えることになる。

 ここでウェンドロは侵入者の子どもの容姿を視界に入れた。

 この提案をするからには、それをどうにか出来る算段があると見て違い無い。

 乗るか、乗らないのかーーー


「…分かった」


 ーーー否。

 乗るしかなかったのだ。

 異邦者を城に残すのは気が引ける思いだが、既に選ぶしかない道を選ばされるしかなかった。


「衛兵!」


 聞こえるかどうか不安だったが、どうにか聞こえたようで見張りの兵が入って来る。

 恐らく戦いの結末を知ろうとしていたのだろう。侵入者を一瞥した兵を制すと、徐に口を開いた。


「私も東口に出る。協力者が呼んでいるようだ」


「魔物退治に御身ずから……」


「民への良いアピールになるだろう。…異邦者の警戒を命じる」


 慌ただしい音。どうやら他にも兵は居たようで、伝令になったのだろう。


「…急ぐ」


 侵入者の手がウェンドロの身体に触れる。

 こうして、ウェンドロは街の東口に赴くこととなったのだ。

 ーーーそれは、南口での戦闘が起こる直前に起こったことである。

「…ってなことがあったんだ~」


「…それは中々、良かったな。役得の場面ばかりだ」


「そうだろそうだろ~っく。隊長も悪くはないもんだ~」


「おいおい…そんなこと言ってると、まるでそのために隊長業務をやっているように受け取られるぞ? 俺はそう受け取った」


「はっは~! そいつは面白い冗談だな~!」


「冗談も何も、本気のつもりだったんだが……」


「……。く~っ!! 酒が染みるぅ~っ!!」


「…『一人旅』か。そう言えば、橘が最初に来た時に飲んだ酒だな。珍しい」


「…そんなことあったか~?」


「…三人揃ってへべれけ気味だったからな。無理もない」


「…く~っ!! 俺はずっと一人旅さ~っ!! か~っ!!」


「…本格的に酒が回り始めたか。そろそろ止めといた方が「うるせ~っ!」っておい、原液のままそんなに煽ったら」




「……」


「ぐこ~っ!! ぐぐ~っ!!」


「…めでたい奴だ」


「ガガーゴゴ!! グゥグゥ……」


「さて読むか。『私自らがこうすることになるとは…。もう少し剣術を学んでおけば良かった…は、弱気な発言…か! …来るが良い。このウェンドロ…退きも隠れもせんーーー次回、戦うウェンドロ』…姉、ミレーヌよ。…私も……。だとさ。じゃあ次回も良い酒用意して、待ってるぜ」

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